ライスシャワーお姉ちゃん【完結+おまけ不定期】   作:稗田之蛙

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お姉ちゃんは。もう泣かないよ。

 

 ライスシャワーは、ウマ娘としての活動の一環として、『ぱかちゅーぶ』において活動する事がある。

 

『ライス、怖がりだから迷惑かけちゃわないかなぁ……?』

『だいじょーぶだよ、ライス! せっかくのゲーム企画だし迷惑とか考えずに楽しんじゃおうよ!』

 

 スマホから、実況動画の音声が流れ続ける。そのスマホを手にしているのもまたライスシャワーであり、彼女の隣でそれを聞いているのはいつもの妹分である。

「ホラーかぁ、私けっこう苦手なんですよねぇ……」

「あはは、ライスもプレイしてる時は怖くって……」

 

『どっか何かあるかなー? ……あるかなぁ~?』

 

 ゲーム開始直後、ライスシャワーは、好奇心旺盛にどんどんと恐怖へと踏み込んでいく様子が映っている。

 

「……ゲームプレイするとなると性格ちょっと変わる人いますよね……」

「え、えへへへ……」

 

どうしてマヤを一人にするのぉ!!?

堕ちろォッッ!!!!!

 

 静かな部屋には、シュールな光景のぱかちゅーぶの実況動画から流れる音声だけが響き渡っていた。思わず二人は笑う。

「キングヘイローさんとも一緒にやってみたいなぁ。あのお化けのお姉さんも、やっつけてくれそう!」

「あれは殴り倒す系のヤツじゃなかったような……」

 

 

【挿絵表示】

 

 

 親戚と、ゲームの実況動画を閲覧してすごす何気ない日常。ライスシャワーの休日は、そんな穏やかな時間に包まれている。

 友人や、トレーナーや、親戚、とにかく誰かと過ごす日常。そんなありふれたものがキセキを乗り越えた上で掴み取ったらこそなのだと噛みしめて、それがたまらなく、ライスシャワーにとっては幸福な時間に感じた。

 

 隣から感じる確かな存在を感じながら、ライスシャワーはふにゃりと頬を緩ませて笑う。

「そうだ。ディオスさんも、このぱかちゅーぶみたいに実況や配信とか、やってみたりしない?」

「えぇ? でも私はどっかの一流みたいにゲーム上手くないし……」

 突然の提案に、ディオスは指で頬を掻く。ライスシャワーは、じっとディオスの横顔を見つめた。

 

「じゃあ、ライブの練習の動画、とか?」

「……私そこらへん詳しくないけど権利的に大丈夫なんですか?」

「楽曲コード載せてれば大丈夫、らしいよ! ライス、ディオスさんのお歌聞いてみたいなっ」

 そんな他愛もない話。ライスシャワーは笑顔を見せて笑い合う。

「ああ、じゃあ、本当に練習。アップロードもしない録音を、空(ソラ)で……歌う形で」

 楽曲はどれにしようかと、ディオスは考え込む。そしてすぐさま、ライスシャワーが提案を発した。

 

「『ささやかな祈り』なんてどうかな?」

 

 ディオスは、少し気恥ずかしそうな。怪訝そうな顔をする。

「ライスの姉さん……じゃなくて、ライスお姉ちゃんの持ち歌で、ソロ曲なのに? 当人の前で……?」

「うん。……ライスお姉ちゃんのワガママ、聞いてくれるかな? ライスも、一緒に歌うからっ!」

 ソロ曲なのにそれはありなのだろうかと考えつつも、ライスシャワーが純粋に期待する顔を見せるので、ディオスは何も言えなくなってしまう。その純粋な想いには敵わなかった。

 彼女は手元のスマホで歌詞を見ながら、喉の調子を整えるように咳払いを一つ。

 

「――ねえ、三日月あなたも 迷う時があるの? 手かざせば今夜も たおやかな光」

 

 ディオスは、なんだかんだ卑屈にいっても。中央トレセンに通うウマ娘の一人である。上手く歌い上げるために、はっきりとした声と呼吸を意識して、唇から歌詞を紡ぐ。

 その歌声は透き通るような力強さと気高さを併せ持ち、ディオス自身が内に秘めている魅力の一端を示す。

 しかし――本来の曲調も、歌詞の内容も、どこか儚くも優しすぎるせいか。ディオスが紡げばエレジー(哀歌)よりもアリア(詠唱)の趣が強くなる。今回は彼女の独唱だから、なおさらだ。

 気恥ずかしさのあまりやめてしまおうか、とディオスは迷うが。

「朧(おぼろ)げにただ 浮かぶ明かりを追いかけて駆けだすの」

 ……隣から、ライスシャワーの歌声が響き始めた。

 息継ぎ、リズムの取り方や呼吸の深さ。何よりも、オブリガード(助奏)の為に多少のアレンジが加えられていて。耳に馴染みながらも力強くて心地が良い。

 隣で歌うライスシャワーはどこか楽しそうで。この歌を通じて、何かを分かち合おうとしてくれているのかもしれない。そう感じたからなのか、ディオスは最後まで歌いきる事にした。

 

 

【挿絵表示】

 

 

 歌い終わった後、ライスシャワーは嬉しそうに「ぱちぱち」と拍手をしていた。

 ディオスは照れたようにまた頬を搔きながら、彼女から視線を逸らすように顔を背ける。その頬は僅かに紅潮していた。

「こう、もっと……その……」

 ごにょごにょと何かを呟くディオス。レースに出た経験があるからには、ディオスにも当然大勢の前で歌った経験はあるのだが、ただ一人の為に歌うのがこうも恥ずかしいとは想像もつかなかったらしい。

 背の高い彼女がもじもじと、五指を合わせながら太腿を擦り合わせるその様子はなんともいじらしい。

 ライスシャワーは微笑むと、ディオスの腕に自分の腕を絡めて体重をかけるようにして寄り掛かる。柔らかくも温かな感触が二の腕を包んだ。

 そこで初めて、自分が恥ずかしいと思うばかりで全く意識をしていなかった事に気付いてしまい、思わず赤面するディオス。

 そんな様子を微笑ましく思いながら、ライスシャワーは彼女の肩に頭を預ける。

「えへへ……嬉しいな、一緒に歌えて」

 ライスシャワーは本当に嬉しそうに笑っていた。二人は主戦場が違う都合上。公のライブで一緒に歌う事は、まず無い。

「……こー、トレセン音頭とかなら結構ノリノリでやれますよ?」

 冗談を言うように、ディオスは苦し紛れの軽口を叩く。それに対してライスシャワーはふるふると首を振った。

 ライスシャワーはそのまま優しく手を重ねて、お礼を述べる。

「ライスお姉ちゃんのワガママ……聞いてくれてありがとう、ディオスさん」

「いえ……」

 

 二人はそのまましばらく無言になる。

 しかしそれは気まずい沈黙ではなく、どこか心地よい時間だった。

 

 そんなまどろみにお互い呆けるように、しばらくしてアプリの録音限界時間を知らせる通知音が鳴る。

「……あー、データ整理しとかないと」

 無駄録りしてしまった、と。今録音したデータをそそくさと消そうとすると、小さな手がディオスの手をそっと掴んだ。

「今のデータ、ライス。ほしいな。……だめかな?」

 ライスシャワーがおずおずとした声色と上目遣いに、ディオスの胸の奥に甘い痺れのようなものを感じさせた。

「ど、え、えーっと……なんでです?」

 もう少しそのやり取りを続けたくなったからか、ディオスは、ただそのまま問いかけてしまう。

「……うう~ん。ディオスさんの歌声が『好き』、だからかな?」

 ライスシャワーの返しにディオスはドキリとする。浅ましい内心を見透かされていたような恥ずかしさを感じて、ただ反論もせずこくこくと頷くしかなかった。

「ほ、ほんと。アップロードとか。しないと思いますけど……他の子に共有しないでくださいね……?」

「えへへ、ありがとうっ。ちゃんと、ライスだけのモノにするね!」

 誤解を生む表現はよしてほしい、とディオスはヒヤヒヤしていたが。ライスシャワーがニコニコしていたので、何も言えなくなった。

 アプリの共有機能でデータを保存した後、ライスシャワーが喜んでいる様子に……ディオスは満更でもない表情で姿勢を正してソファに座るのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 休日を堪能した夜の時間。ライスシャワーは寮に帰ってきて、同室のゼンノロブロイは、共同風呂に入浴中。

 部屋に独り。ディオスとの御約束を守るように、こっそりとスマートフォンから録音データを開く。

 

「――ねえ、三日月あなたも 迷う時があるの? 手かざせば今夜も たおやかな光」

「朧(おぼろ)げにただ 浮かぶ明かりを追いかけて駆けだすの」

 

 メロディをなぞりながら、ゆっくりと再生される音声。

 携帯で録ったから音質はライブ機材よりも悪いけれど。それは確かに、ディオスとライスシャワーの声だった。

 親友の一人であり親戚である彼女の声や息遣いが、自分だけに向いている事に心地良さを感じつつ。

 自分の為だけに紡がれるそれを延々と耳の中で反響させ続けた。

 ……そうしている内に、ライスシャワーは自然と二番の歌詞を、録音に重ねるように、過去の想い出に今の自分を重ねるように口ずさむ。

 初めて出会った時の、自分よりも頭一つ分も背の高い、年下の彼女へ向けて。

 

 

 

――声にならずに 消えた想い詰め込んで 私のささやかな祈り今大空に放り投げた。

 

【挿絵表示】

 

「……あともう少しだけ スピード上げて 私もっと強くなるから 待っていてね」

 

 

――いつかあなたのように 誰かのことを 照らせる人になりたいだけ。

 

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「……このしあわせ分け合えたから」

――もう泣かないよ。

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