ライスシャワーお姉ちゃん【完結+おまけ不定期】   作:稗田之蛙

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ライスシャワーお姉ちゃんを甘やかしたかった件について。

 

 神様。最近はライスの姉さんが「むちっ♡むち♡」とかお腹出して私に触らせてくれるだとか、とにかく、まぁ、最近はライスの姉さんの、妙に危なっかしい場面に遭遇せずに済んでいるのは、幸いといっていいのだろうか。

 私はそういうのより言葉の掛け合いで親愛を確かめ合うのが好きだ。とても。……だから、ボディタッチによるスキンシップは、得意ではない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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 …………得意じゃ、ない。

 

 

 

 ………………以前やった通り、過去を振り返って……この状況を整理しよう。

 

 

「でゅふふ…………ゴールドシップさんがマックイーンさんにほっぺたつんつんして構ってほしそうにしてる光景……そしてつい構ってしまうマックイーンさん……はかどる…………」

 アグネスデジタルとかいう、私より数段ちっさいウマ娘がなんだかウチのゴルシちゃんとマックイーンさんのやり取りを眺めて悦に入ってた。

「あぁいうやり取り出来るっつーのは羨ましいねぇ、まったく」

 デジタルの横に立ちながら、つい言葉にしてしまった。彼女は「い、いつから!?」とビクリと肩を震わせたものの、たった「今来たところだ」と返して。先の呟きは聞いてない素振りで接した。

 デジたん。一つ咳払い。それから私は思った事を呟く。

「でも甘えるならあぁいう風にちょっかい出さない方がいいんじゃねーかって毎回思う」

 私がそう言うとデジたんやや斜め上に顔を反らしながら、頬を掻くような仕草を見せると、少し間を置いてから私に言葉を返す。

「ゴールドシップさんが素直に甘えると、マックイーンさんは逆に警戒してしまうかもしれません」

「……あぁ、そっか。そう言われてみれば」

 長身美人(奇人)スタイル抜群のゴルシちゃんが素直に甘える。猫撫で声でマックイーンさんにすり寄る。何か絶対企み事をしているのが思い浮かんでしまう。

「それに、素直に甘えられないからこその、イジらしさというか、そこに一種の尊さというか……」

「…………なんか作家さんみたいな事言うな」

 またビクッと肩を震わせるデジタル。

「あ、あはは。そ、そんな。あたしが作家だなんて……そんな、勉強とトレーニングを並行しながら出来るはずが……」

 そりゃそうだ、とも思った。まぁ、私にとっても他人事じゃない事なので話を戻そう。

「私もさ。ゴルシちゃんと同じで背高ぇし甘えるのなんてガラじゃないから。素直に甘えられたらどんだけ楽か、なんて考えた事はあるよ」

 

「ラブかね?」

「久々に聞いたなその台詞」

「ハッ!! げふんっ……い、いえ、しかし、あなたの場合は、案外素直に甘えてもよいのではないかと」

 脚を組んで椅子に座るアグネスデジタル。相も変わらず、この子は腕も足も細いから小学生と見間違う。

「やだよ、ガラじゃねーし。それにさ」

 私はそこまで言って、一度言葉を区切る。デジタルは椅子に腰かけたまま私を見上げるようにして、言葉の続きを待っている。

「例え話としてよ。お前さん相手に頭一つ分もデケーウマ娘が『甘えさせてくれ』あるいは『甘えてくれ』って詰め寄ってきたらどーよ?」

 と、私なりの例え話をして、デジタルに話を振る。すると彼女は腕を組んだ姿勢のまま、真剣に考え始めた。

「ルドルフさんやクリスエスさんがあたしにダンスのお誘い…VR……解釈違い……」

 何か頭から煙を噴きかけ、熱暴走を起したデジタル。頭からシューッと湯気が出ているような幻覚が見えるような気がする。

 私はちょっと心配になって、目の前で手をひらひらと動かしてみる。すると正気を取り戻した彼女はあわあわと顔を左右に振りながら、私に謝罪をしてきた。

「あ、あはは。い、いえ。デジたんは、……えぇっと、ほ、ほら、ヒシアケボノさんとか、タイキシャトルさんとか~? そ、そういう方々なら、そういうやり取りも、きっと微笑ましいものに、なる、かと!!」

 ……なんかデジたんから的を逸らされた気がするが、まぁ、なんとなく言いたい事は理解出来た。

 

 

 デジたんの言う通り、ボーノやタイキ先輩みたいな例もあるのだから、私の穿った考えなのかもしれない。

 私は、以前にライスシャワーの姉さんに『ライスシャワーお姉ちゃんを甘やかしたい』と真剣に話した事を忘れたわけではなかった。

 それに心の奥底に秘めていた事も取り払われていた今、改めてその話をしてみてもいいのではないかと思った。

「今日は、ライスの姉さんが『甘える側』をやってみますか?」

 また休日にて私の自室で二人っきりになった折、気さくな感じで切り出してみた。するとライスシャワーの姉さんは少し驚いた様子で、また少し間をおいてから小さくコクリと頷く。

「でも、だいじょうぶ? この前みたいに、困らせちゃうんじゃないかって……」

 私が羞恥心や何やらで顔を真っ赤にして涙を流してた事を言っているのであろう。思い返して少し情けなくなる。

 しかし「問題ない」とばかりに、私は自らベッドの上で仰向けに寝転んで腕を広げた。

「ほら、どーぞ?」

 初対面の時のように、少しお姉さんぶって私がそういうとライスシャワーの姉さんは少し遠慮がちに私の真横に寝転んだ。

 

「……」

「……」

 

 ………………『甘やかす』ってどうやるんだっけ?

 哲学的な思考に耽ていると、ライスシャワーの姉さんは顔同士を寄せるように私の体の上に体を重ねてきた。

「…………」

 何故か真剣な顔で、まじまじと顔を見つめてくる。少し気恥ずかしい。だがこの程度では、私も降伏する事はない。その意志を示すように彼女の頭を撫でるように、彼女の後頭部へ手を乗せた。

 すると、彼女は意外にも私の左胸に指を添え――――もっと正確にいえば、心窩部に指を少しだけ押し込むようにしてくる。

「え、あ。え……ね、ねえさん?」

 胸を触ってくるとは思わなかったので、少し困惑する。だが信頼が強いせいか、その行為にちゃんとした意図があるように思えた。

「……脈、打ってる」

「あ、ま、まぁ心臓の辺りですから……」

 何故そんな所を触るのか、ちょっと疑問に思いながらも私は彼女の行為を拒絶する事はなかった。

 ――とはいえ……やはり胸を触られるのは、少し恥ずかしい。こういうボディタッチは、やはり慣れない……。

 

 

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 ……過去を思い返して、状況を整理し終える。

 未だ彼女の真剣な顔と、指が視界の端にある。漠然と「前から思ってたけど、やっぱり姉さんの指……綺麗だな……」とも思った。

「ウララちゃんがね、『ディオスちゃんのお母さんになってあげたの!』って、ライスに話してくれたの」

 そう言われた瞬間、心臓が跳ね上がった。

「なっ……」

 私は、視線を逸らしたまま思わず硬直した。……え、あれ……『ハルウララお母さん』の事はライスの姉さんとは別で……え、なんで寄りにも寄って姉さん相手に、ウララ………………。

 ライスシャワーの姉さんは、真剣な表情から少し穏やかな笑みを浮かべる。そんな表情のまま、彼女は言葉を紡ぎ続ける。

「ぎゅー、って抱きしめたり、抱きしめられたりしたんだって。『ウララお母さん』って呼んでもらったって、ライスに嬉しそうに話してくれたんだ」

 柔らかい口調で。彼女が私の胸に添えた指の力が、少しだけ強まる。それはまるで、「言い訳は無駄だ」と検察官に突き付けられたようだった。

 そして、私の心音を確かめるように。ライスの姉さんは数秒黙り込む。

「……さっきよりドキドキしてるね?」

 そう言ったところで、顔を私の首筋に近づけるようにする。それは肌が吐息を感じる距離だ。

 そして更に言葉を重ねる。囁き声だが、それでも発する時の息を微かに感じ取れて、くすぐったい。

「……誰かとぎゅーって、ハグするの。やっぱり好き?」

 そんな事を質問されて、顔の温度が急上昇する感覚。私は姉さんから顔を逸らし続ける。体を重ねてきている彼女の視線から逃れられない。

 黙りこくる私に、彼女は言葉を続けた。

「ウララちゃんみたいにね。ライスの事もね、『ライスママ』って呼びながらぎゅーっ……てしていいんだよ?」

 甘い言葉が、甘い吐息が、首筋に掛かる。

 くすぐったさのあまり、ぞくぞくする。だが、何故か嫌悪感はなかった。むしろ、もっと味わいたいと思ってしまってさえいる。

「…………しません……」

 

 ――とくん、とくん……。

 

 緊張しているせいなのか。心臓の音が、自覚出来る。相手に自分の心意が悟られてないか、不安だった。

 私は、喉を振り絞ってそれだけ返す。ライスシャワーの姉さんは「くすくす」と鈴が鳴るような音を立てて、言葉を続けた。

 先ほどより少し大きくした声で、更に私を追い詰める。

「じゃあね、ライスがぎゅーってしてあげる……」

 甘ったるく、私の心を溶かすように囁いたその言葉を、繰り返す。

「ライスが本当にママになったみたいにね……背中まで腕を回して、ぽんぽんって。してあげたり。頭を、よしよしってしてあげたり……」

 顔の熱が、耳にまで伝染する感覚があった。恥ずかしくて逃げ出したくなるような感覚だった。恥ずかしすぎて、思わず涙が出てきた。

 以前なら、私が泣き始めるとライスの姉さんが「はい、ライスが甘やかされる番はおしまい」と切り上げてくれた記憶があるのだが、今回はそうしてくれなかった。

 言葉選びも、何故だろうか優しい声音なのにイジワルに感じる。だけど、もっと欲しくなってしまう。

 

 

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 ――どくん、どくん……。

 私の脳は、混乱状態に陥っていた。心臓もそれに呼応して、強く脈打つ。ライスの姉さん相手に動揺している事を悟られまいとするも、何故か悟ってくれと言わんばかりに心臓が大きく波打つ。

 ライスの姉さんは、口をにこりと笑みながら、私へと言葉を投げ掛ける。

「だから、言ってみて? ライスに『ママ』って……」

 ……私はもうだいぶおかしかったと思う。自分の心臓の鼓動がうるさかったし、彼女の言葉も上手く聞き取れなかった。

 だけどその感覚を、私は嫌とは感じていなかった。それどころかもっと強く感じたいとさえ思ったのだ。

「……ま」

「ま?」

「…………ママ…………」

 私は、ママと。確かにそう口にした。

 するとライスシャワーの姉さんは嬉しそうに、私の頭を優しく撫でてくれたのだ。そして、こう囁くのだ。

「よしよし、よくできましたねー……♪」

 私は、体が大きいというのにまるで幼子みたいな気分になって。情けなくなる。

 それを自覚するのまた同時に心臓が強く跳ねるものだから、その反動でぎゅっと目を瞑り、涙の粒がぽろりと落ちた。

 きっと私の表情はひどく情けない事になっているだろう。だけどライスシャワーの姉さんはそんな事などお構いなしに私の頭を撫で続けてくれたのだ。

「だいじょうぶですよー……よしよし……いいこ、いいこ……」

 まるで、子供をあやすように。彼女は私を、甘やかす。

「これじゃ、いつもみたいに私が甘やかされる側……!!」

 つい、私の口からそんな言葉が漏れる。すると彼女はクスリと笑みを浮かべた後に言った。

 

「……じゃあ、ライスのおかあさんになってみる?」

 

 そう言われて、私は思わず固まる。今度は心臓が跳ねるのとは違った意味で、ドクリと波打ったのだ。

 ドキドキして、上手く言葉が出てこない。さっきまでは心臓の音を抑えようと必死だったのに、今はそれ以上に彼女の言葉に聞き入っている自分がいる事に気付く。

「…………え?」

 困惑の言葉を漏らした後、思わずごくりと喉を鳴らしてしまった。それを合図に私は彼女の言葉の真意を探ろうと、ぐるぐると脳に酸素を送り続ける。すると不意に彼女の言葉が飛び込んでくるのだ。

「……どうする?」

 また心臓の鼓動が跳ね上がる。心臓が口から飛び出してきそうだ。ドクンドクンと激しい音を立てているそれがバレないよう、深呼吸する。

 ……でもそれは意味のない抵抗でしかなかった。全て見透かしたようにライスシャワーの姉さんはクスクスと笑うものだから、私の顔には余計に熱が溜まっていく気がしたのだ。

 そして彼女はゆっくりと私の首から頭を離し、その顔を私の顔へと近づけてくる。

 そして彼女はじっと私の瞳を見つめながら囁くのだ。

 私を駄目にするような、甘えるような、蕩けるような声色で、私に言うのだ。

 

「おかあさん」

 

 自分より年上の、先輩の、小さくて可愛い彼女の、母親役。甘美な響きが、私の耳と脳に突き刺さった。心臓の鼓動も強いもので、彼女に聞こえてるんじゃないかとすら思った。

 それからライスシャワーの姉さんは、私が口を開こうとするよりも早く彼女の人差し指を唇に当ててきて ──私は口を閉じる。それは暗黙の了解であるかのように感じられたからだ。

 

「今度ライスが甘える機会があったら、貴女がお母さん役ね……?」

 

 にこりと笑って、そんな事を言うのだ。私は、コクリと静かに頷くしかなかった。

 その後しばらく見つめ合った後、ライスシャワーの姉さんは優しく私の頭を撫で続けてくれた。それを受け入れながら、私は思考を巡らせる。

 

 ――次、ライスの姉さんが甘えてくれるの、いつ、かな……。

 ライスの姉さんが、私を母と慕い……幼子のように、甘えてくる。抱きついてくる。その光景を想像すると、心臓がドキドキ高鳴って、嬉しくなる。

 高揚した気分になっていると、彼女の指をそっと握った時、その人差し指は私の口元から遠ざけられる。彼女はにっこりと笑ったまま、私の目をじっと見つめるのだ。

「ウララちゃんとおかあさんごっこする時は、恥ずかしがらずにやってあげてね?」

 先ほどまで気持ちよい鼓動を打ち続けていた心臓が、何故かヒヤリとした脈動を打って。彼女の言葉に、私は何の返事も返せなかった。

 

 ……えっと、神様、なんか、ウララとのお母さんごっこ、ライスの姉さんには全部お見通しになる気配がするんだけど……キノセイだよね……?

  • ライスシャワーと純粋な交流を楽しむ
  • 一時的な主従逆転
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