ライスシャワーお姉ちゃん【完結+おまけ不定期】   作:稗田之蛙

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ライスシャワーママ概念。

 神様。

 

 

「ライスママですよー……

 

【挿絵表示】

 

 

 

 ふざけたシチュにするのもいい加減にしてくれ。

 

 

 

 

 過去を振り返り、状況を整理しよう。

 ここは私の実家の部屋。休日、私は家に帰省していた。寮から家に顔を見せるのは私の週1の習慣だ。ライスシャワーの姉さんも例によって一緒にいる。

「えっと、食器洗い終わりました……」

「ライスちゃん、いつもありがとうね~♪」

 母親が、食器洗いをライスの姉さんへお礼の言葉を述べている。何故かは知らないが、ウチに来た時は彼女は自発的に家事を手伝う。

 一応の親戚だから、まぁ遊びに来た時に手伝うっていうのも変な話ではないんだが。

「ウチの子もライスちゃんみたいにしょっちゅう家事を手伝ってくれるといいんだけどね~」

 母親からの視線が痛い。未だ家事全般が上手ではないのは、私のウィークポイントだ。

「そんなんだと大人になっても、ライスのお姉さんに甘えっぱなしになるわよ? この前だって料理を真っ黒焦げになるし、将来は誰かの母親になるかもしれないのにーー」

「母さん、休みの日にそんな話はしたくない……」

 私は大げさに疲れたフリをして、自分の部屋に逃げ込んだ。ライスの姉さんの前で家事が出来ないだのなんだの説教されるのは癪だ。

 

 不貞腐れて布団で寝転がっていると、しばらくして。ライスの姉さんが私の部屋に入ってきた。

「お、お邪魔します……」

 ぺこりと頭を下げてから、ライスシャワーの姉さんは私の部屋に踏み入る。……正直ライスの姉さんなら邪魔でもなんでもないが、いちいち口にする事ではない。

 布団の上で寝転がっていた私は身体を起こして座りながら、彼女に話しかけた。

「ライスの姉さんは、家事が出来て偉いですよね。私はいつも母に怒られてばかりです……」

「そうなの? でもライスは、貴女も学園で練習頑張ってて十分偉いと思うけどなぁ……」

 彼女はいつも通りに柔和な笑みを浮かべてから、私の隣にぺたんと座り込む。

「それにね、貴女のお母さんも。たぶんそれは分かっているの。だから、貴女が家に帰ってくる度にとっても嬉しそうに料理をしててーー」

 私はライスの姉さんの言葉を手仕草で遮る。彼女は少し驚いたような顔を浮かべたが、すぐにくすくすと笑みを零した。

「……母さんがライスの姉さんみたいな性格だったら、私は少しは素直になれたでしょうに」

 照れ隠しにそんな事を言う。いつもみたいに「二人の時はライスお姉ちゃん」という言葉が飛んでくるのを心の何処かで期待していたのかもしれないが、今日に限っては違っていた。

 ライスの姉さんは口に指を当てる仕草で考え込むような沈黙を経てから、私の目の前で両腕を精一杯広げる。

 

「ライスママですよー……

 

 いつもとは違う、甘ったるい猫なで声でそう囁くライスシャワーの姉さん。

 

 

 

 ライスの姉さんがママになるのはともかく、どこのウマの骨とも分からない巨女の私が甘やかされるのにどこに需要があんだよ。オォン?

 ……そんな意味不明な事を考えながら、どうにかして心の平穏を保つ。

 ようやく冷静さを取り戻しかけたが、非現実的な状況が私に襲い掛かる。

「おいでー……おいでー……♡」

 両手を広げたまま、彼女は甘ったるい声で優しく私に向けてそう呟く。

 まるで匍匐前進……もとい、『ハイハイ』が出来るようになった赤ん坊を目の前にするかのような態度と声色が私の心臓を刺激する。

 皆の前だったら絶対にやらないような仕草は、その甘やかしを受け入れてしまいたくなる欲求に支配される……。

「……スーパークリークさんのマネですか……?」

 だが精一杯、冷静さを取り繕う。

「ううん……クリークさんのマネじゃなくて、ライスが自分でやりたいと思った事だよ。ほら『母さんがライスの姉さんみたいな性格だったら、私は少しは素直になれた』って……」

「そ、それは……例え話で……」

 私は少し呼吸を落ち着かせてからそう口にした。彼女は「わかってるよ」とでも言いたげに微笑んでから、もう一度両手を広げて私を誘う。

「おいでー……ライスママですよー……」

 

 私は、何故か、意思に反して、体が、そのまま、彼女にそっと身を寄せると、ライスシャワーの姉さんは私を優しく抱きしめる。

 いつも頭を撫でてくれる時の優しい抱擁ではなく、ぎゅっと身体を胸に搔き抱いてくる力強さには心地良さよりも『離さない』あるいは『落っことさない』という意思を強く感じる。

「いつも練習頑張っててえらいね……よしよし……」

 ライスシャワーの姉さんは、私を胸の中に抱いたまま、私の頭を撫でまわしてくれる。

 私は羞恥から身体を強張らせながら、耳までピンと張り詰めてしまい、彼女の腕の中で震えている事しか出来ない。

「ぅ、ぁ……」

 尻尾にハグされた時の事を思い出して、情けない声が出る。ライスシャワーの姉さんは、私の反応を楽しむかのように「いい子いい子……」と呟きながら、抱擁を強めたり緩めたりして、えぇっと、そう、意地悪をしてくる。

「だ、ダメです……私、こんな体大きいのに、甘えるだなんて……」

「そんな事ないよ。年下だから、もっと甘えていいんだよ? ほら、ぎゅーってしてあげるから……うん、いい子だね」

 ライスシャワーの姉さんは、まるで赤子をあやすように私の背中をポンポンと優しく叩く。私は恥ずかしさで顔が熱いし、少し涙が出てくる。

 これは羞恥なのか、それとも嬉しさから来るものなのか自分でもわからない。

 

「……前々から気になってたのですが、なんで、こんなによくしてくれるのか、分かりません……」

 チームメンバーとして仲良くする事は変でなくとも、二人っきりでこんな事をされる原因となった事は本当に覚えがない。

 私の言葉に対して、彼女は少し間を置いてから、ゆっくりと言葉を紡ぎ始めた。

「……ライス、『レースに出る』って事がとても怖かった時期があるの……」

 その言葉を聞いて、私はすぐにライスシャワーの姉さんが無敗のミホノブルボンを打倒した時期から春の天皇賞三連覇を狙うマックイーンを阻んだ時期を思い返す。

「でも、それはブルボンさんやマックイーンさんとか、私以外の人達が力を貸してくれたから、ライスの姉さんは立ち直ってーー」

「ううん、それよりずっとずっと前。ブルボンさんやマックイーンさんと出会う、"もっと前のお話"」

 ……はて、そうなると私はデビュー前とかいう話になりそうだが。ますます私がレースと関わりのある話でなくなるぞ。スピカに入る前は、他の皆と比べたらライスの姉さんと接点薄いし……。

「あの時の私は……"菊花賞のレースを観戦していて、私は、その時に、走る事がとっても怖くなって……それで、貴女が"……」

 彼女はそこで、私の反応をうかがうように口を噤んだ。

 

「……本当に覚えてない?」

 

 ライスシャワーの姉さんが私の顔を覗き込み、困ったような笑顔を浮かべながらそんな事を問いかけてきた。

 私は思い返すが……やはり思い当たる節は、ない。先輩後輩の友人付き合いはいくらかした事はあるが、ブルボンさんやマックイーンさんくらいカッコいい教訓を彼女に説いた記憶なぞ、本当に無い。

「えっと、その……」

 申し訳なく思いながら謝罪の言葉を口にしようするが、それより先に彼女が私を抱き寄せる。

「ごめんね、変な話しちゃって。でもライスはね、貴女にすごく感謝しているの……ブルボンさん達もそうだけど、貴女にも……」

「……えっと、過去の私は、どういう話をしたんですか……?」

「ふふっ、内緒ー……」

 悪戯っぽく笑うと、彼女は私の髪を優しく撫でる。この年上相手に頭を撫でられるのはとても恥ずかしかったが……何故か悪い気はしなかった。

 そしてライスシャワーの姉さんはもう一度私を強く抱きしめ直してから、嬉しそうに鼻歌を歌い始める。

 私は黙って彼女の抱擁に身を包まれていたが……彼女の上機嫌な心が伝わってくるようで、何故だかすごく幸せな気持ちになった。

 

 母親から、お風呂が沸いた事を伝えられる。寮の共用風呂と違ってライスの姉さんと一緒に買った入浴剤を好き勝手使えるので、家のお風呂は実はかなりの楽しみだ。

「そうだ。今日は一緒にお風呂入ろっか」

「は?」

 私は思わず耳を疑った。この人は何を言っているんだろう。

 

 

 

 

 

「かゆいところはないかなっ? 『ライスママ』が綺麗に洗ってあげるからね♪」

 私はそそくさと髪を水で洗い流し、それからライスの姉さんの方を遠慮がちに見る。

「……どうしたの?」

 

 

 

 

 

 神様。

 

 

【挿絵表示】

 

 

 マジふざけんな。

次回

  • 妹が仕返しにお姉ちゃんを甘やかそうとする
  • お姉ちゃんと一緒に夏お祭りに行く
  • 甘やかす理由(ライス視点)
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