ライスシャワーお姉ちゃん【完結+おまけ不定期】 作:稗田之蛙
神様、私はいい加減ライスの姉さんから主導権を取り戻す事を決めた。
「……ど、どうしたの?」
いつものように休日に私の部屋で二人っきりになった折、小柄な彼女に頭部を抱きしめられながら「よしよし……ママですよ……一週間がんばりましたね……♡」などと囁かれて、羞恥心が有頂天に達して爆発してしまった。
私はゆっくりと立ち上がり、体格差を見せつけるような形で憮然とした表情で目の前に立つ。
私だって、ウマ娘だ。力は強い。腕力だけなら姉さんよりも強いかもしれない。ただ、傷つけるのはイヤだから、力比べなんてした事がないだけで。それは相手も同じかもしれないが……それはさておき。
「ライスの姉さん」
「お、お姉ちゃん呼びがいいな……」
「……姉さん」
私の反抗に驚いているのか、ライスの姉さんは体を縮こまらせて私を見上げている。
黒兎のような、彼女の微かに震える大きな耳が庇護欲をそそるが、今日ばかりは心を鬼にしなければならない。
「私は、ライスの姉さんを甘やかしたい」
「………………」
前のように「ライスがお姉ちゃんの役割なんて……」と言われる事を想定して、何度もシミュレーションしてきた。その気持ちを慰撫する為に、歯が浮くようなカッコイイセリフを、幼稚園児から付き合いがあるクロウサちゃん(80cm)に言いまくって練習もした。
……偶然その場面を目撃してしまった小学生の弟が「ぬいぐるみになんで愛の告白を繰り返してるのお姉ちゃん……?」って青褪めた顔であんぐり口を開けていたけど……まぁ、些細な事だ……。
そんな事を考えてると、ライスシャワー姉さんは、腕をキュッと引いてますます縮こまる仕草を取った。
「その……やさしく、おねがいね……?」
思ってた反応とちゃうんやけど。ちょっとねぇ、神様。私この流れ想定しとらへんよ? 甘やかすのが受け入れられたルートのイメトレ経験値0よ?
そんなこんなで私は、ベッドに腰掛けてライス姉さんを膝枕している。
…………えっと、こっからどうすればいい? 神様? 神様? ねぇ具体的な天啓飛んできてねぇんだけど???? 私が逆襲企てて弱腰になるオチ最初から見えてたんでしょ?? くっそ無様でございますね。正体見たりって感じダナ。まんじりともせず結果を受け入れますよエェ、ハイハイ。
「……えへへ、ライス、いつも膝枕してあげてる側だけど……される側って、なんだか不思議な気分……」
体重を預けないような形で私の太ももに頭を乗せているライスシャワー姉さんは、柔らかい笑みを浮かべながら下からジッとこちらの顔を見つめてくる。
……ひどく緊張する。触れてもないのに、顎の辺りがチリチリする。おい、膝枕って難易度高すぎひん?
「……やっぱり、緊張してる?」
ライスの姉さんの言葉に、しきりに頷く。
こんな小さな彼女相手に膝枕一つ恥ずかしがるとは。よもやよもやだ。体格の大きい女として、不甲斐なし。穴があったら入りた――
……きゅっと、右手の人差し指を握られる感覚がした。
「そうだよね、ヒトに自分の体を触れさせるのって、慣れてないと緊張するよね……」
そんな事を言いつつも、ライスの姉さんは指を離さない。それどころか、指と指を絡めるように握り直してきた。
「え、う、あ」
くすぐったさに、情けない声が漏れ出た。彼女は私の隣へ座るようにベッドの上で姿勢を正す。
「……最初は、手をつなぐ事から練習しよっか」
彼女と見つめ合いながら、繭を解きほぐすような弱い声音でそう囁いてきた。
だけれども、私の馬耳にその音が入ってきた途端、ゾクリと甘い感覚が走った。主導権を相手に譲ってはならぬという焦りか、それとも彼女のそういう声が好きになってしまったせいか。それは分からないが……。
「……汗ばんでる」
私の右手を両手で握りながら、ライスの姉さんはそう言った。……彼女の柔らかな掌で撫でられている指先は、確かに湿っている気がする。
「う……」
私はますます顔と手が熱くなるように感じた。
私は……正直、すごく緊張している。こんな小さな女の子と、手をつなぐ事さえ恥ずかしがってしまっている自分に非力さを感じながらも、彼女はそんな私を嘲笑わないでいてくれるし、そればかりか、汗で湿っているはずの手を握ってくれている。
「ライスもね、お姉ちゃんぶる最初の頃は、これ以上に汗ばんでたんだと思う。だって、自分からでも、すっごく、恥ずかしくって……」
……イヤ、ウン。たぶんその頃ワタシもスゴイハズカシカッタ記憶アルカラ自分の汗トカデワカンナクナッテタヨ。安心シテクダサイ。
「でもね、安心して? その時に貴女は嫌がらずにライスの“甘やかしてあげたい"って気持ちを貴女は受け止めてくれたんだから……貴女の"甘やかしたい"って気持ちも、ライスは全部受け止めてあげるね……?」
「う……うぅ……」
私は情けなく呻く事しかできなかった。なんか、甘やかす側のはずなのに、主導権があっちにある。むしろ、今なおモッテシテ私がライスシャワー姉さんに甘やかされてる。
それと自覚すると、また一段と顔が熱くなり、心臓が破裂しそうになる程に高鳴り出す。この動悸が彼女にも繋いだ手から伝わってるんじゃないカト……。
「…………♪」
その様子が愉快なのか滑稽なのか知らないが、ワタシの顔を見つめながらやたらニコニコと笑むライス姉さん。エット、なんか、いつも以上に、やさシい笑みに感じゆ。なんで……ナンデ……ドシテ……。
「……ライスね、貴女が"あの時"の事、覚えてなくても……貴女の事『幸せにしてあげたい』って思うんだ」
知らぬ存ぜぬ。だから本気で、ブルボンさんとかマックイーンさんとか差し置いてそんな事言われる立場にないんだけどエットあの二人相手ならきっとモット需要アルヨマックイーンさん相手とかは小柄同士で見ててカワイイし私みたいな巨女が小柄なライス姉さんに甘やかされるの需要ドコヨ。
そんな事を頭の中で滑車のようにサイクルさせていると、手がゆっくり引っ張られた。
私は流されるままに、ライス姉さんの頬に手をあてられる。柔らかな感触と熱くなっている手のひらに負けず劣らず暖かい体温が私の汗ばんだ手のひらに伝わって来る。
私の手のひらの上に、自分の手のひらを重ねるようにして、ライス姉さんは目を細めた。
「……ライスが天皇賞春の二回目勝ち取れたのも、何故かわからないけど、とっても不安だった宝塚記念も……全部、全部超えられてきたのはきっとライスを見守ってきてくれた"みんな"のおかげ……」
そう言って、彼女は私の手の甲を優しく撫でた。
「――だったら、その人達にも向ければいいじゃないですか」
なんで自分なんかが愛されるのか本当にわけがわからなくて、恥ずかしくて涙が出てきて、私はそう返す。
けれど、彼女は柔らかく笑んでから首を振る。
「……ちゃんと、向けてるよ。表現の形が違うだけ。マックイーンさんにはね、練習の後でこっそり一緒にスイーツ食べにいったり、ブルボンさんとは……」
そこで、彼女は言葉を区切ってから、今日一番のニコニコとした顔を見せてくれた。
「あはは、やっぱりだ。……こういう話をすると、ちょっとムッとした顔してる」
ひとしきり笑いながら、彼女はそう言った。
……彼女の言う通りだ。マックイーンさんやブルボンさん達が彼女の事を救ってくれたと思えど、あらんかぎりの感謝の陰で、ほんの僅かな嫉妬が芽吹く。
「妬いちゃう?」
私の胸中を見透かしたのか、彼女はニコニコと笑ったまま囁いてきた。
「……少しばかり」
私はここぞとばかりに主導権を取り戻そうと、気丈に返した。見栄えだけなら、コワモテの女だと自負はある。ゆえに、相手が怯んだ勢いのまま迫れば、当初の目論見通り押し切れる自信がった。
私の返答を聞いた彼女は、珍しく体重を預けるような仕草で寄りかかってきて、私はそのままベッドに押し倒された。
「……だからね、貴女にはこうやって表現してる」
怯むどころか逆に仕掛けてきたその不意打ちに、私はひどく動揺して。心臓が高鳴り過ぎて。胸や顔がカッと熱くなるのを感じ。
相手は――歴とした『高校生』で――自分は――まだ『中学生』で―――――体格差のせいで、そんな立場であった事を、今更、思い出し。
気づいた時に、反射的、両腕で、顔隠す。きっと、赤面と、涙で、見せられたものではない。
ひどく怯えてる私に、彼女は笑みをこぼす音が聞こえた気がした。
「……はい、ライスが甘える番おしまい♪」
腕を少しズラしてライスの姉さんの方を見てみると、いつものように"膝枕をする側の姿勢"を取ってくれていた。
「……それとも『甘やかしたい』って気持ち、まだ残ってる……?」
……それは、降伏勧告だと悟った。彼女は耳のキュートなクロウサちゃんのように、ただ黙って愛でられる存在ではなく……私の方が、『小動物』なのだと思い知らされた……。
「お姉ちゃんに、甘える、側がいいです……」
そんな私には、全面降伏するしか道がなく。欲望という名の蛇に誑かされた企み事は、そこで潰えた。
「……でもライスの事を『甘やかしたい』って思ってくれたのなら。お姉ちゃん、いつでも受け止めてあげるね……?」
企みを打ち砕かれてから数拍置いて耳元でそう囁かれて、背中にぞくりとした甘い感触が走った。心臓がドキドキして、とても切ないけど、少し気持ちよくなるあの時の感触に似ていた。
……そのままいたたまれない様子で彼女の膝の上で縮こまろうとする私が、小動物であるという事実も、たぶん最初から変わってなかったらしい……。
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妹を甘やかしてる時の様子(ライス視点)