前世は戦車乗りだった。
戦車に乗って死んだ。
今世でも戦車に乗ってやろうと思ったらまさかの1920年代に生を受けていた。しかも女で。
生まれた国は扶桑なる戦前の日本のような国。何故か一部の女子はパンツ丸出しで街を闊歩していた。
程無くして私もこの露出集団に仲間入りした。ウィッチ、魔女と呼ばれる存在らしい。
取り敢えず、陸軍の騎兵科で戦車に乗ってやろうと思ったら、周りから高い魔力の素養がどうのと言われ航空科に半ば無理やり入れられた。
日本軍の戦車は歩兵科ではなく騎兵科なのだ。だから、自衛隊の機甲科徽章はペガサスだし、偵察隊も機甲科なんだ。
そこで化け物相手に扶桑海事変を経験した。扶桑海事変とは、前世では日本海と呼ばれていた場所から化け物共が扶桑本国への強襲侵攻を仕掛けてきた事件だ。そこでは巴御前とあだ名される新進気鋭の上官の僚機として彼女の尻を文字通り守って戦った。
巴御前たる穴吹智子少尉は勿論殆どの人間は格闘戦至上主義であり、私の様に一撃離脱で我が身大事にな人間は軽蔑の対象になっていた。余談だが、我々の活躍した扶桑海事変を映画化した扶桑の閃光では私の様に遠距離からの見越し射撃に特化した加東圭子少尉や一撃離脱戦法と仲間との共闘が多い加藤武子少尉は敢え無く主人公に選ばれなかった。
また、私が大っぴらに軽蔑されないのは格闘戦で文句を言ってきた相手を格闘戦で叩き潰した事もあるからだろう。
上官たる穴吹少尉も格闘戦で殴ってやったこともある。タンクマン舐めんな。殴り合いなら負ける気はせんぞ。
それに私は戦車で死にたいのであって、空で死ぬなぞまっぴら御免なのだ。陸軍の戦車部隊が発足するまでの足掛かりが航空隊なのだ。
そして、そんなある日、加藤少尉と言う穴吹少尉の陸士―陸軍士官学校であって決して二等陸士から始まり陸士長までの下っ端の事ではない―からの親友に呼ばれた。
「岩崎曹長」
「なんでしょうか加藤少尉殿」
「貴女は欧州の情勢を知っているか?」
時代は1930年代後半。
前世では丁度フランスがドイツとやり合ってた頃で、今は化け物相手にフランス、ガリアが壊滅した。ドイツたるカールスラントとイギリスたるブリタニアが踏ん張っている。
そんな感じの話をすると加藤少尉はウムと頷いた。
「内示が降りた。私と智子、そして貴女の3人はカールスラントに派遣される」
カールスラント。大激戦の真っ只中。まっぴら御免だ。そんな所に行ったら命が幾つあっても足らない。戦車に乗りたいのであってパンツ丸出しで大空で死にたいとは思っていない。
「私は智子と貴女の派遣を断った」
それは有り難い。戦車に乗らずに死ぬとかまっぴら御免だ。旧軍の雑魚戦車でも良いからそれに乗って死ぬのが今世の希望の死に方だ。
「そして、貴女達にはスオムス派遣を推しておいた」
「スオムス?」
「ああ、極北の地にある。
えっと……ここだ」
加藤少尉が拡げた世界地図は前世とほぼ変わらない。ただ中国大陸は化け物共のせいで人の住めぬ不毛な大地となっていた。ザマァ見ろボケ。
「ああ、フィンランド」
「ふぃん?」
「いえ、失礼致しました」
どうやら其処にも化け物、ネウロイが現れるんじゃないのか?と言う話になったらしい。
その為に各国軍が少ないながらも兵器と軍を差し出すらしい。成程。
「加藤少尉殿、お尋ねしてもよろしいでしょうか?」
「あぁ、許可する」
「加藤少尉殿は私に何をして欲しいのでありますか?」
「ああ。どうか、智子を守って欲しい。扶桑海の時の様に。智子の戦い方は今後、ネウロイ共には通用し無くなる」
格闘戦は最早時代遅れなのだ。
と、言うか、それに気が付くのはどうやったんだろうか?アメリカ軍がゼロ戦に勝ち始めたのは確かどっかの島に無傷で墜落したゼロ戦を手に入れて徹底的に研究したそうだ。ネウロイ共も我々を研究しているのだろうか?
「貴女は扶桑海の頃より一撃離脱、遠距離からの攻撃に徹して来ていた」
「ええ、私は空で死にたくないので」
「ああ、君は騎兵科志望だったらしいからな」
「はい」
頷くと苦笑された。
「君には智子に一撃離脱戦法と味方との共同撃墜をする飛び方を薫陶して欲しい」
「……なら、少尉殿が試験中の新型機で穴吹少尉と戦いその鼻っ柱を殴り折ってやればよろしいかと」
中島の所の新型機の試験をしていた。なんだっけ?97式空戦を超える戦闘機だっけ?それの模擬戦闘をすれば良い。
私がしたように。
「貴女がしたようにか?」
「それが一番手っ取り早いですよ?」
拳を固めると、加藤少尉は今度こそ呆れた様に笑った。
「それで言うことを聞くなら既にやっている。
それに、私は彼女に勝てる程の技量は無い。私の撃墜数は共同撃墜より下なのを知ってるだろう?」
そう。加藤少尉は仲間と協力して敵を仕留める戦い方をする。私の理想でもある。まぁ、それでも接近戦に近いので私はあまり好きではない。
「成程。
私がスオミに行って、穴吹少尉に一撃離脱戦法と仲間との共闘を出来るようにして来るのが命令ですね?」
「ああ。スオムスがネウロイに襲われる確率は非常に低い。智子は怒り狂うだろうが、そこも宥めてどうにかやってくれ」
ざっくばらんな命令でござい。
こうして私は懐かしき北海道に良く似た大地、スオムスに舞い降りたのだった。
「寒い所ですね」
そう告げたのは同じくスオムス行きに成った海軍さんのウィッチ。名前を迫水はるかと言う。
どうやら極度の近視らしく、新聞を読んだり雑誌を読んだりする際に顔が近いか目を顰めていた。
「こう寒いと暖気を1時間程にしないと十全に機能しないでしょうね」
タバコを取り出して火を点ける。前世からの癖だ。喫煙は許されている。
「そうね」
穴吹少尉は実に不機嫌であった。そりゃそうだ。加藤少尉に殴り掛かり、私が間に入って何とか押し留めた程だ。
相当に悔しかったらしく、洋上での鍛錬の為の剣道や柔道も全て荒かった。まぁ、八つ当たり相手にされるのも腹が立つのでボコボコにしてやったら少し収まったが。
「貴女方が扶桑からの増援ですか?」
三人してパンツ丸出しで立っていたら雪の女王ですというか感じの美人さんがやって来た。
「スオムスには雪女がいるようですなぁ」
扶桑語で迫水一飛曹に話し掛けると、迫水一飛曹はブッと吹き出した。
穴吹少尉は氷の女王に挨拶を済ませる。氷の女王はハッキネンと言うらしく階級は大尉らしい。
ハッキネン大尉はそのまま踵を返して歩き出した。私もその後に続こうとしたが二人とも動かない。
「行きましょう。こんなところに居ても氷像に成るだけですよ」
「え、ええ」
「そうですね」
二人もさぶさぶと体を揺すりながらハッキネン大尉の後に続いた。出来る限りの防寒グッツ揃えてよかった。本場北海道から持って来たのだ。
「しかし、迎えの車もないのね」
「ええ、貧乏ですので」
聞いた事がある、フィンランド軍はソ連軍と戦争をしていた頃は満足に武器兵器もなく、敵であるソ連軍から何でもかんでもかっぱらいながら戦っていたそうだ。
そんな馬鹿なと思ったが普通、ウィッチを擁する部隊にはそういう必要そうなものは何でも最優先で支給される各国軍の実情を見ていればハッキネン大尉の言葉には実に切が籠っている。
「足らん足らんは知恵が足らん、ですなぁ」
「何ですかそれ?」
「私の格言みたいなもんですよ。
偶に撃つ、弾が無いのが偶に瑕ってなもんでしてね」
そんな下らん話をしていると飛行場脇のぼろい建物に案内された。余りのボロさに穴吹少尉は絶句している。迫水一飛曹はずっと穴吹少尉を見ている。
多分、元々は学校だったのだろう。入り口には空軍の第82戦隊司令部と現地語で表記がされていた。ふむ。何とか船で勉強した言語は読めるようだな。あとは会話か?
「ブリーティングルームを案内します」
ハッキネン大尉は我々の動揺に構う事なく歩いていく。
案内された部屋には黒板が掛かっている。そこにはスオムス義勇独立飛行中隊指揮所と英語、こっちではブリタニア語か?それで表記されていた。長ったらしいね、全く。
中を見回せば外人が大量にいた。当たり前か。此処は異国だ。全員を見回し、階級等を確認すれば最高階級は少尉だけだった。少尉が2人、曹長が1人。最低階級は曹長か。と、言うか少尉が穴吹少尉を含めれば3人も居る。
もう一人の曹長はついさっき魔女に成りましたと言わんばかりに幼い。まぁ、小難しそうな本を読んでいるみたいだが。
少尉のうち革ジャケットを着ている少尉は煙草をぷかぷか吹かしている。何やら話しかけてくれるなと言う感じだ。残る一人はコーラを飲んでいた。
「取り敢えず、空いている席にでも座りましょう」
椅子を一つ引いて穴吹少尉を座らせる。取り敢えず、どうするかね?
「防寒対策はそれなりにして来たつもりでしたが、中々に寒いですな少尉殿。
迫水一飛曹はどの程度して来たかな?」
「毛糸のパンツいっぱい持ってきました」
「私もその程度よ。
貴女は阿呆みたいに大量に服を持ってきていたわね」
かばん3つだ。
「ええ、北海道よりも緯度が高いので本気で防寒対策はして来ましたよ。
八甲田山を参考に重装致しました。鷹の爪、一杯持ってきましたし」
「そ、そう言うのは私にも教えなさいよ!」
少尉がガタンと椅子を倒して立ち上がる。
「教えなさいよって……
何も聞きにこなかったのでてっきり冬季戦技の心得があるのとばかり。迫水一飛曹はどうですか?」
「わ、私もすっごく寒いところだって聞いて鷹の爪をいっぱい買ってきましたよ!
少尉にも私の鷹の爪分けてあげますね!」
やれやれ。イギリスの士官は煙草を咥えていたので少尉に断って煙草に火を付ける。
「しかし、此処は寒いですが、暇そうで良さそうですな」
「良くないわよ!
武子の奴はカールスラントで戦果を挙げてこっちではただただ暇を持て余しているのよ!?」
「ええ、こんな世界が忙しい時期に国が北欧旅行を紹介してくれたと思えばよいではありませんか。
加藤少尉がカールスラントでケガをしたり、二階級特進でもした場合は我々が本国に居る連中よりも早く駆け付けれるんですよ?
つまり、我々が真打ですな。真打は遅れて登場する訳ですよ」
灰を落とし、笑う。
そんな事は絶対に起こらんだろう。何故なら、我々と加藤少尉では命令指揮系統が一切違う。一旦本国に情報が戻り、本国から部隊が編成されて補充部隊が回されるだけだ。
「そんなわけ無いでしょう!?」
成程。流石にバカにし過ぎか。
「なら、軍を抜けなさい」
フーッと紫煙を吐き、それから周囲を見回す。
「我々がこの国に来たのは国の命令だ。
少尉がそれに背くのであれば、軍を辞めてカールスラントでも何処へでも行きなさい。私はそれを止める事はしない。どうぞ、お好きに行きなさい」
煙草の灰を落とすと、前方に座っているウィッチが振り返った。手にはコーラを持っており、腰にはリボルバーを提げて居る。あれは、シングルアクションアーミーだな。アメリカ兵か。
「ハロー!
ユー達は何処から来たネー?」
「我々は扶桑からであります少尉殿」
「Non!ミーはキャサリン。キャサリン・オヘア少尉ねー気軽にキャサリンって呼んで」
キャサリンと言うらしい。オヘア少尉ね。
「よろしくお願いします、オヘア少尉。
自分は岩崎です。岩崎貴子。階級は曹長です」
「オー!タカコね!Nice to meet you!」
「Nice to meet you too、Ensign Catherine」
それから少尉と迫水一飛曹が自己紹介をした。それから周りのウィッチたちに話しかけてみるも余り良い印象を持たなかった。全体的に使えん奴等を提出しました、という感じが凄い。
まぁ、そうだろうな。穴吹少尉からして阿呆だからな。まぁ、年頃の女の子だしな。しょうがないよな。
暫くすると中尉が現れた。大量の紙束を抱え、入り口に入った瞬間ズッコケた。ズッコケて、紙を飛ばす。おいおい。
立ち上がって紙を拾い集めるのを手助けしてやる。
「大丈夫ですか、中尉殿」
「す、すいません!
有難う御座います!」
多分、この中尉が小隊長だろうな。
ハッキネン大尉が独立飛行中隊の中隊長として地上から指揮をして目の前の中尉が現地指揮官として中隊の実働指揮をするのだろう。
鈍臭いそうだが……まぁ、良いか。
すみませんすみませんと目の前でペコペコしている中尉は自分から書類を受け取ると着席を促した。
「第28戦隊第2中隊中隊長のエルマ・レイヴォネン中尉です」
やっぱりね。
それから何やらペンギンだの虫だの言い始めたがよく分からなかった。
「彼女は何の話をしているんですか?」
「中隊の名前を付けようとか言ってるわ」
穴吹少尉に尋ねるとくだらんと言う顔で答えられた。
「平和で良いですね。
素晴らしい」
ハッハッハと笑いながら手を叩いてやった。