魔入りました!入間くん if Episode of ポケットモンスター   作:MTHR

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今回は改編する所があまりなかったので、殆んど原作通りです。


20話 ロイの新しい仲間

「よし、これでタマゴの持ち歩きは大丈夫…っと」

「もっふ」

 

 ピクニックが偶然見つけたタマゴをなんやかんやで保護することとなったイルマ。現在、彼は自室にてタマゴを持ち歩くため、タマゴをバッグに積める策を探していた。

 結果、イルマは少し大きめのショルダーバッグにタマゴを入れるスタイルとなった。前までは出歩く時の荷物はベルトポーチに入れるもので済ましていたのだが、流石にポケモンのタマゴは入らない。普段着の上着は袖を通さずに肩掛けするスタイルなので、リュックは選べなかったのだ。

 

「にしても、まさか船が動かなくなるなんてね…スマホロトムもまた圏外になっちゃったし…」

 

 手に持ったスマホロトムの画面を見ながらそう呟く。パルデアに到着した時は確かに電波が繋がっていた筈なのだが、ピクニックから帰ってきた辺りから、何故か電波が通じなくなっているらしく、その影響でブレイブアサギ号もこのまま飛ぶと非常に危険らしい。

 

「まぁロイくんもまだ帰ってきてないし、暇を潰すのもありかなぁ…」

「もふもふ」

 

 サンドイッチを奪い取ったカイデンが気になっているらしく走っていったロイとホゲータ。リコもマードックと一緒に買い出しに行っているらしいので、ここで一人船の中にいるのは流石に暇なので、食後の運動を兼ねて近くを歩いていく事にする。

 

「ドットに何か言った方が良いかな…いや、止めとくか」

 

 ドットはこの船のシステム復旧に集中しているらしく、今はかなり機嫌が悪い。気を紛らわせるわけにもいかないだろう。

 

 上着を肩掛して羽織って帽子を被ると、何時ものごとくモクローを肩に乗せて、イルマはバチコに「少し外を歩いてきます」と言うと、バチコが珍しく真剣な顔で「気を付けろ」と言われ、その表情に疑問を持ちながらも、イルマとモクローはブレイブアサギ号の外とへ向かっていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「まー、そんな感じでタマゴを預かる事になったんだ」

「もー…ふぅー…」

 

 ハッコウシティとブレイブアサギ号の中間辺りにはえた大木の下で、木陰で涼んでいるイルマは、スマホロトムを浮かせて通話をしていた。足元にいるモクローは、大の字になって眠っている。

 

『まぁ、いいんじゃないか?』

 

 通話の相手、それは現在はカロス地方でトレーナーとして活動しているイルマのルームメイトでもあったアリス(通称:アズ)であった。あてもなく近くを歩いていたイルマは、涼むのに丁度良さそうな木を見つけてその木陰で持ってきた軽食を食べている時に、スマホロトムにアリスからの通話が入り、「最近どうしている」と言われたイルマは久々の(本当は2~3日程度なのだが、最近の出来事のせいで懐かしく感じた)アリスとの会話に笑顔を浮かべて、パルデアに帰省して先程タマゴを預かる事にした事を話した。

 

 すると、アリスと一緒に映っていたヒトカゲともう一体、若干目付きの鋭いオレンジ色の鳥の姿をしたポケモン【ヒノヤコマ】が画面を覗き込んできた。

 

「そのヒノヤコマって、アズくんの新しいポケモン?」

『あぁ、少し前にゲットしたヤヤコマが進化したんだ』

 

 アリスはリモートで授業を受け、カロス地方でトレーナーとしてポケモンジムを巡っている。その過程でポケモンをゲットしたり、強くなって進化したりする事はポケモントレーナーの醍醐味だ。

 

『それで?君はそのタマゴを孵してゲットするのか?』

「それは……まだ考えてないんだよね……」

 

 アリスの言葉に、イルマは腕を組む。

 ロイの質問の時もそうだったが、イルマはこのタマゴが孵った後の事は何も考えていない。そのタマゴが孵化したポケモンを手持ちにするのか、それともパモ達のようにブレイブアサギ号に住まわせるのか、それとも完全にイルマの手持ちとするのか。イルマはまだ、答えが出せないでいた。

 

「どーすれば良いんだろう……」

『私に言われても困る…』

「アハハ、そうだよね……」

 

 思わず呟いてしまった言葉にアリスが難色を示し、思わずイルマは苦笑する。

 やがて通話を終えると、イルマは木の幹に背中を預け、フゥ~と息を吐いたあと、自身の隣で鼻提灯を膨らませて眠るモクローを見ながら呟いた。

 

「モクロー以外のポケモンかぁ…」

 

 こうして選択肢が目の前に出てくるまで、考えたことも無かった。エクスプローラーズや六英雄の件で考える暇もなかったのもあるが。

 それはまぁ、自分も何時かはアメリみたいに相棒以外のポケモンをゲットし、パーティーを組んでいる未来を考えたことが無いわけではない。それに、仲間が増えるなら嬉しいとも思う。

 イルマが悩んでいる理由は一言で言えば不安だからだ。

 このタマゴが置いていかれたタマゴだから保護するという事には異論はないが、自分がそのポケモンのトレーナーとしてやっていけるのかどうかという不安。イルマは以前のリコのように自分に自信が無いわけではないが、かといって自意識過剰でもないので、やる前から「出来ない」と決めつける事はしないが、かといって軽々とゲットする決断が出来ない。

 

「……ってあれ!?」

 

 そこで直ぐ傍らに置いておいたタマゴを入れたバッグに目を向けてみると、そこに置いてあった筈のタマゴが影も形もなく消えてしまっていたのだ。

 

「もふ~?」

「一体何処に…あっ!!」

 

 イルマの声に反応してモクローが目を擦りながら起き上がり、辺りを見回してみると、イルマ達が休んでいる木から少し離れた位置で、赤黒いヤモリのようなポケモンが、タマゴが入っているバッグを抱えて歩いている姿が見えた。

 

「あのポケモンが…ちょっと、そのバッグ返して!」

「もふもふぅ~!」

「!?ヤトッ!」

 

 イルマとモクローがそのポケモンを追いかけて走り出すと、それに気づいたヤモリ型のポケモンは慌てて走り出す。

 

「モクロー、“このは”!!」

「もふもふ…もふぅー!」

 

バシバシバシィッ!

 

「ヤトォッ!?」

 

 空高く飛び上がったモクローが翼を振るい、打ち出された光る葉っぱがヤモリ型のポケモンの目前で着弾、小さな爆発が起こり、ヤモリ型のポケモンは足を止めた。

 ヤマト型のポケモンが驚いた隙に、イルマはそのポケモンの目前までたどり着き、イルマの前にモクローが降り立った。

 

「やっと追い付いた…!あのポケモンは……」

 

『ヤトウモリ。どくトカゲポケモン。どく・ほのおタイプ。獲物を挑発して岩場に誘い込み、フラフラになる毒ガスを吹き掛ける。メスのみがフェロモンを発するガスを作り、骨抜きにされたオスはメスの言いなりになる』

 

「ヤトォ…!」

 

 スマホロトムのポケモン図鑑の説明が終わると同時に、【ヤトウモリ】は姿勢を低くして臨戦態勢を取った。バッグを返してほしくば俺を倒せということだろう。

 

「相手は毒と炎タイプ…。こっちが不利…!けど、やるしかないよモクロー!」

「もふっ!」

 

 モクローは翼を広げてヤトウモリと向かい合う。

 それと同時に、ヤトウモリは口から炎の球を吐き出し、火球が一直線にモクローに迫る。

 

「モクロー、飛んで避けて!」

「もっふ!」

 

 イルマの指示を聞き、モクローは羽を羽ばたかせて空を飛び、ヤトウモリの“ひのこ”を回避する。

 空中のモクローを追うように、ヤトウモリは“ひのこ”を乱射していく。

 

「モクロー、炎を避けながら“たいあたり”!」

 

 モクローは右や左に体を反らしながら火球を避けながら、ヤトウモリに接近していく。

 あと数メートルと言ったところで、ヤトウモリの手の爪が発光し、ヤトウモリはその爪を振りかぶる。

 

「!モクロー、かわして“エアカッター”!」

 

 モクローは“たいあたり”を中断し、ヤトウモリの“ひっかく”攻撃をかわすと、地面着地したヤトウモリのバックを取り、翼を交差させて振り抜いた。

 

「もふぅっ!!」

「ヤトォォォッ!!?」

 

 風の刃が×字に飛び、ヤトウモリの背中に命中する。

 ヤトウモリは悲鳴上げながらうつ伏せに倒れ込むと、ヨロヨロと起き上がる。そこでモクローがギロリとヤトウモリを睨み付けると、ヤトウモリは脱兎の如く逃げ出した。

 

「ハァ、なんとか追い払えたね……」

「もーふぅ」

 

 相性の悪い相手だったが、ヤトウモリのレベルがそれほど高くなかったお陰で何とか撃退できた事に安堵のため息を吐きながら、イルマはヤトウモリが盗んだバックを拾い上げる。中身を確認してみるが、タマゴやそれ以外の持ち物は何も盗られていない。

 

「……帰ろっか」

「もふ」

 

 予定していた時間より少し早いが、何気に初めて野生のポケモンとバトルをした事で何だか少し疲れてしまったので、イルマとモクローはこのままブレイブアサギ号に帰ることを決め、踵を返して歩き出す。

 

「行くぞ!…ホイッ!」

 

「ん?」

「もふ?」

 

 その時、ふと聞き覚えのある声が遠くから聞こえてくる。

 何となく気になったイルマはモクローを肩に乗せてその声がした方まで足を運び、そこに視線を向けた。

 そこには、岩の上にいるカイデンとホゲータ、そしてそこに集まるリコ、ロイ、マードック、ニャオハ、イワンコの姿があった。ロイの足元には、何故か鳥の巣のように組まれた物が置いてある。

 

 イルマは彼らのいる場所に足を動かしながら、三人と四匹に声をかけた。

 

「皆~、そんなところで何してるの~?」

「あれ、イルマ?船で留守番してたんじゃなかったの?」

「えーっと…ちょっとした気分転換にね。それより、皆はここで何を?」

「カイデンの特訓だよ」

「?」

 

 ロイの説明を要約するとこうだ。

 ピクニックでロイのサンドイッチを奪ったカイデンは、実は鳥ポケモンでありながら高所怖症で飛ぶのが苦手らしい。群れと一緒にいなかったのも、一匹狼なのではなくそれが理由だったのだそうだ。なので、ロイはこうして段差から落下することで少しでも飛ぶことへの苦手意識を和らげる為にこうして少し高いところからジャンプしようと言うことだ。

 ロイが説明を終えたと同時に、カイデンは地面をジッと見始める。

 

「おっ!行くのか!」

「大丈夫、行けるよ!」

「しっかり!」

「思いっきり行けば大丈夫!」

 

「…!カーーイッ!」

 

 イルマ達の応援を受けたカイデンは翼を広げて段差から飛び出した。

 がむしゃらに翼を動かして飛ぼうとするが、やはり滅茶苦茶に翼を振っていては上手く飛ぶことは出来ずにカイデンは落下するが、真下にあったクッションによりトランポリンのように跳ねたかと思うと、カイデンは翼を上に広げた状態で、二本足で着地したのだ。

 

「カッコイイ!」

「決まった!凄いね!」

「やったー!飛べたねー!」

 

 飛べたと言うより着地したと言うべきだとは思うが、心底嬉しそうにロイの言葉に答えるカイデンの笑顔に、口を挟まずに笑顔を浮かべるイルマ。

 すると、何かを思い付いた様子のロイが、ズイッとイルマに顔を寄せた。

 

「そうだ!ねぇイルマ、モクローにも手伝ってもらっていいかな?」

「モクローに?」

「うん。モクローって、飛ぶの凄く上手だし、カイデンに飛びかたを教えてほしいんだ!」

「あー、成る程…」

 

 モクローはカイデンと同じ鳥ポケモンだ。梟と燕の飛び方は同じ羽ばたき飛行と滑空飛行なので、モクローの飛び方をカイデンに伝授するのには何の問題もない。

 

「モクロー、お願いできる?」

「もっふ!」

 

 「任せろ」と言わんばかりに胸を張ったモクローはイルマの肩から降りて段差の上に乗ると、躊躇無く飛び出した。モクローは空中で翼を規則的にはばたかせてフワリと中に浮いてからカイデンの隣に着地する。

 着地したモクローは、片方の翼を広げてもう片方の翼で広げた翼を指差しながらカイデンに話し掛け、時折その場で羽ばたいて飛んで見せる。カイデンは真面目な顔でその話を聞いている。

 イルマ達人間にはポケモンの言葉を訳することが出来ないが、真面目な表情でモクローによる飛行指導を眺めていた。

 

 それから、再び段差で飛び降り練習を何度か繰り返しているうちに夕方になり、ロイ達は川の前に立ち並んでいた。

 

「カイデン、大丈夫!勇気出せば行けるって!」

「もっふもふもふ!」

「カイカイカイ…!」

「これはまだ怖いみたいだね」

「こりゃ、一筋縄では行かないな…」

 

 ロイとモクローの応援を受けても、カイデンは高速で首を横に振る。

 高さはさっきと殆ど変わらないし、何度かジャンプ特訓を繰り返してはいるが、今回は落ちれば川にドボンである。怖さはさっきの倍以上だろう。

 無理強いは出来ないとマードックが苦笑するのと同時に、彼らの後ろから声がかけられた。

 

「何してるんだ?」

「おぉ、フリード!」

 

 振り替えると、そこにいたのはリザードンの背中に乗ったフリードだった。

 

 そこで一同はカイデンと別れ、ブレイブアサギ号に帰っていく。ミーティングルームに集まったロイとランドウとドットを除いた面々は、今日の出来事を話していく。

 

「成る程な、そんな事が……」

「で?フリードはどこ行ってたの?」

「ん?あー…まぁ、ちょっとな」

 

 システムがダウンしていた元凶と思われるレアコイルを追っていたらオーベムが待ち伏せしていてかなり追い詰められ、切り札であるテラスタルを使ったという出来事があったが、それを指示していたトレーナーすら分からない現状でそれを話す事は出来ず、フリードは適当にはぐらかす。

 

「それより、システムの再起動は?」

『今晩一杯はかかるかな。再起動は出来ても磁気嵐の影響が何処にあるか分からないから、入念にチェックしてる…!』

「わかった。明日、ドットのチェックが終わり次第、出発する」

「遂に出発だって…!」

「ニャオハ!」

 

 ガラル地方にいる祖母と会う事が出来ると、リコとニャオハは笑い合う。

 そうして一同は、明日の出発に備えて眠りにつく事になった。そんな中、未だにカイデンの事が気になっていたロイは、ランドウの釣竿をみて、何かを思い付いた様だった。

 

 

 

 

 

 

 翌日、朝食になってもミーティングルームに来なかったロイを探していたリコは、段ボールでカイデンの人形をつくってそれを釣竿で吊るしているロイについていき、昨日の川の前で集まった。

 自分をもした紙人形が吊るされているのを見て、カイデンは飛ぶことに興味を持ったらしく、人形の代わりに自分を縛って吊るされた。

 

「成る程、命綱ってことね!」

「うん!こうやって、少しずつ慣らして、カイデンの勇気が出れば、いつか仲間のところまで飛べると思うんだ!」

「そうだね……」

 

 そうして特訓が開始される。ロイがゆっくりと釣竿を動かし、カイデンが命綱に吊るされながら川の真ん中辺りにくると、カイデンは顔を青くしてあたふためくが、直ぐに目をギュッと閉じて滑空飛行の体制を取る。

 ロイ達がカイデンを応援していると、リコのスマホロトムから着信音が鳴った。

 

「店からのお知らせ……本日入荷ってコレ、マードックが探していた秘伝辛スパイス!しかも、本日限定って!」

「ニャーオ!」

「うん。マードック喜ぶね!私、ちょっと買い出しに行ってくる!直ぐ戻るから!」

「あぁ、わかった!」

 

 リコとニャオハがハッコウシティに向かって走り出し、ロイとカイデンは特訓を続ける。

 ロイが釣竿を動かすと、命綱はブランコのように揺れ、カイデンは目を瞑って翼をバタバタと動かす。すると、カイデンの翼がバチバチと電気を帯びたかと思うと、その電気が命綱を焼き切ってしまい、カイデンは宙に投げ出されてしまった。

 重力に従って落下するカイデンを見て、慌ててロイとホゲータが川を覗き込むが、そこにはカイデンの姿はなかった。

 

 辺りを探してみると、そこには目を瞑りながらも、羽をバサバサと動かしてしっかりと空を飛ぶカイデンの姿があった。

 

 カイデンはようやく自分が空を飛んでいることを自覚して目を開けると、突然上向きに風が吹き、カイデンは凧のように空へ持ち上げられる。風を受け特性“ふうりょくでんき”により羽をバチバチと光らせながら、カイデンは偶然そこの近くを飛んでいた仲間の元まで辿り着いた。

 

「やったーー!!」

「ホゲーー!」

 

 ロイとホゲータが弾んだ声をあげ、カイデン達は物見塔の上に止まった。

 物見塔の上に辿り着いたカイデンは翼を大きく広げて声をあげ、仲間のカイデン達も喜んでいる。

 

「おーい!ロイー!」

「二人ともー!」

「マードック!それにイルマ!」

 

 そんな彼等の様子を眺めていたロイとホゲータの元に、マードックとイルマが小走りに駆け寄ってきた。

 

「見えたぞ、あっちからも!アイツ凄いじゃないか!」

「そうなんだ!羽がビカビカしてさ!あんな所まで飛べたんだ!」

「そっか。モクローとの特訓のお陰だね!」

「さて、そろそろ出航だ。船に戻るぞ!」

「あっ…うん」

 

 どうやら特訓の間にドットのチェックが終わったらしく、出航が間近に迫っているらしい。踵を返して歩くマードック達に続いて歩き出そうとしたロイは、最後にカイデン達が留まっている物見塔に向けて大声で叫んだ。

 

「おーーい!カイデーーン!元気でなーー!」

「ホゲーー!!」

 

 そう言い終えると、ロイは釣竿を肩に乗せながらマードックとイルマの後ろに続くが、何処か元気がなさそうだ。心配になってマードックが振り向いて声をかけると、後ろからポケモンの鳴き声が聞こえてきて、ロイは後ろを振り返った。

 

「カーーイッ!!」

「カイデン…!?」

 

 そこには、仲間達と一緒にいたはずのカイデンが、未だに上手く飛べていないのか羽をバサバサと動かし、時にふらつきながらも真っ直ぐに此方に向かってくる姿だった。

 困惑するロイに、マードックは空のモンスターボールを差し出した。

 

「ロイ、コイツの出番だな」

「えっ、でも……仲間と一緒に飛びたいって頑張ったのに……」

「その仲間と一緒に飛べたから、今度はロイくんの仲間になりたいんだよ、きっと」

 

 そこへ再び強風が吹き、必死に此方に向かって飛んでくるカイデンはバランスを崩して落下してしまう。

 

「落ちる!」

「!危ない!カイデーン!」

 

 慌ててカイデンの元に向かって走り出すロイ。

 しかしとても間に合わず、ロイはマードックから手渡されたモンスターボールを構えた。

 

「届けーーッ!!」

 

 そしてモンスターボールを投げた。

 長年ボールを投げる練習をした成果により、モンスターボールはカーブをしながらカイデンの元に向かっていき、落下するカイデンの足に接触した。

 すると空中でモンスターボールが開き、カイデンはボールの中に吸い込まれると同時に、ボールが真下にあった川に落ちそうになる。

 そこへ、全力疾走していたロイが滑り込んで、川に落ちる前にボールをキャッチした。

 

キュインキュインキュイン…カチッ!

 

「カイデンゲット…!」

 

 ロイの両手のなかでボールが数回揺れ、ゲットの合図がする。

 立ち上がったロイにマードックとイルマが歩み寄り「よくやった」と声をかけ、ロイが「ありがとう」と言うのと同時に、カイデンは独りでにボールから飛び出すと、ロイの胸に飛び込んで頬擦りをする。

 

「カイデン、これから宜しく!」

「カーイッ!」

「ホゲ、ホゲホゲー!」

 

 ホゲータがロイの背中に飛び乗り、ロイ達は揃って笑顔を浮かべる。

 そんな光景をマードックと共に微笑ましげに眺めていたイルマは、ふとあることに気付いて、良い雰囲気を邪魔してしまうと自覚しながらもロイに声をかけた。

 

「あのー、ロイくん。そう言えばリコはどうしたの?てっきり一緒に特訓してると思ってたんだけど…」

「あぁ、リコならさっき買い物に行ったよ」

「買い物?昨日終わらせたんじゃなかったの?」

「えーと…確か秘伝辛スパイスっていうのが入荷したんだって」

「おっ、それは嬉しいな!」

 

 ロイからの情報に、マードックが喜色を浮かべるなか、イルマはスマホロトムを取り出して少し操作して画面に目を通した後、顔を上げてロイとマードック菜話し掛けた。

 

「ゴメン、二人とも。僕ちょっとリコを追いかけてくる」

「心配しなくても、買い終わったら戻ってくるんじゃないのか?」

「いや、それは分かってますよ。何と言うかちょっと引っ掛かってると言いますか……まぁ、途中で合流したら直ぐ戻ります」

 

 そう言って、イルマはモクローを肩に乗せてハッコウシティに向けて歩き出す。マードックとロイの姿の小さくなっていくと、イルマは歩きながら手に持ったスマホロトムの画面に目を向けた。

 

「……やっぱり無いよね。秘伝スパイスの入荷なんて」

「もふ?」

 

 検索してみても、この近くで秘伝辛スパイスが入荷したなんて広告は何処にもない。

 

「ここから近いのは…ボウルタウンかハッコウシティだね……よし、ハッコウシティに行ってみよう」

 

 秘伝スパイスの販売なら、品揃えの良いハッコウシティの可能性が高い。なのでイルマはハッコウシティに向かう事にする。

 調べてみても、やはりボウルタウンにもハッコウシティにも秘伝辛スパイスの入荷なんて情報はない。

 何故リコのスマホロトムに秘伝スパイスの入荷なんて情報が入ったのか、何だかイルマには嫌な予感がする。とはいえ、自分の杞憂かもしれないので、マードックとロイには報告しなかった。

 

「もしも秘伝スパイスがなかったら、ウチの厨房から貰えば良いしね……」

 

 そう呟きながら、イルマはハッコウシティに向けて歩く足の速度を上げていった。

 

 

 

 

 

 

 スマホロトムに入ってきた本日入荷の秘伝辛スパイスを買う為にハッコウシティに足を運んだリコとニャオハ。広告の地図を頼りに、リコはニャオハを抱き抱えながら曲がり角を曲がって進む。

 しかし、その先には地図ではその先にあると書かれていた店など無く、薄暗い路地裏であった。

 

「あれ?行き止まり?地図ではここのはずなんだけど…」

 

 スマホロトムの地図を確認してみるも、やはり場所はここで間違いはない。しかし店がない以上この場所にいても仕方がないと、リコは踵を返して表通りに戻ろうとする。

 

「わっ」

 

 すると、振り向いた瞬間に誰かとぶつかってしまい、リコは手に持っていたスマホロトムを落としてしまう。

 

「失礼、大丈夫でしたか?」

「あっ、はい。大丈夫です」

 

 傍らに【ブラッキー】を連れた、メガネをかけたスーツを着た男性の言葉にそう答えながら、リコはしゃがみこんで落としたスマホロトムを拾いあげる。彼女の首にかけられたペンダントがキラリと光る。

 

「ッ!?」

 

 リコが顔を上げると、そこにはいつの間にか埴輪のような見た目をしたポケモン──【オーベム】が宙に浮かんでいた。

 

 リコとニャオハが目を見開いた瞬間、オーベムは両手の三色の指を点滅させる。すると、リコとニャオハは無表情でオーベムの指を見つめ、二人の瞳がオーベムの指と同じ色に点滅する。

 そして、彼女の視界が暗転した。

 

「ッ!……あれ?」

 

 そこでリコは意識を取り戻した。

 目を白黒させるリコとニャオハに、メガネの男性が声をかける。

 

「大事なものは失くしてませんか?」

「大事な物…?」

「ニャー?」

「では…」

 

 そう言って、メガネの男性とブラッキーは呆然としたリコとニャオハから踵を返して歩き出す。

 

「とても簡単な任務でした…!」

 

 誰にも聞こえない様に呟く男の手の中には、リコの宝物であるペンダントがあった……。

 

 

 

 




フリードのバトルは丸々省きました。改編する所が思い付かなかったので。
来週から学校が再開するため、更新が遅れる可能性があります。

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