魔入りました!入間くん if Episode of ポケットモンスター   作:MTHR

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今回はイルマくんががスピネルとバトルしませんが、代わりの相手とバトルします。

今回でパルデア編は修了となります。
後書きにノリで書いた次章予告を載せてみましたが、もしかしたら予告編の通りにならない事もあるかもしれませんが、どうかご了承下さい。


22話 反撃と出航

 オーベムによって記憶を消されながらも、ニャオハと共に全てを思い出したが、とある事故によってイルマと共に仲良く気絶したリコは、後からやって来たロイとドットに起こされた。

 今まで一度も顔を見たことがなかった為、始めて対面したドットにはイルマとリコも戸惑ったような顔をしていたが、ドットが自分達を探すために尽力してくれていた事を知り、二人とも笑顔でドットに礼を言った。

 その後、ナンジャモがイルマとロイを街角ガールを捕まえたとしてインタビューされてたりしながらも、無事にリコは戻ってきて一件落着と行きたかったが、そうは行かなかった。

 

 ふと気がつくと、リコは宝物であるペンダントが失くなっていたことに気付き、後からやって来たフリードはそれがオーベムを連れていたトレーナーの仕業であり、犯人はまだこの近くにいると推理し、ペンダントを取り返すために行動を開始する。

 

「ライジングボルテッカーズ、反撃開始だ!!」

「「「「オーッ!」」」」

 

 イルマ達がハンドサインを行い、反撃開始を決意する。

 そして、ドットの肩にクワッスがピョンッと飛び付いた。

 

「クワッ!」

「うん、頑張ろうクワッス」

「クワッ、クワッス!」

 

 その様子を見ていたフリードはフライトジャケットからあるものを取り出し、それをドットに投げ渡した。

 

「ドット」

「!モンスターボール…」

「初ゲットだな」

「え?そのクワッス、ドットさんはゲットしてなかったんですか?」

「トレーナーはやる気無かったし……」

「なんでまたやる気に!?」

「ど、どうでも良いだろ…」

 

 意外なことに、クワッスはドットにゲットされているわけではなかったらしく、ぐるみんの配信では毎回クワッスか出てきていたし、それ以外でもドットの部屋に出入りすることが多かった為にイルマが問いかけるが、ドット曰くトレーナーはやる気が無かったらしい。

 

 クワッスはドットの肩から降りると、1~2mほど離れて、ドットと向かい合うように立つ。

 

「クワッス!」

「……今更照れ臭いけど、ずっと一緒にいてくれたもんな。始めてはクワッスで決まりだ!」

 

 ドットの決意に、イルマ達は笑顔を浮かべ、ドットはフリードから手渡されたモンスターボールを振りかぶった。

 

「行くぞ……てい!」

 

 そしてドットは勢いよくボールを投げる!

 …しかし、ドットが投げた勢いとは裏腹に、モンスターボールはヘロヘロと可笑しな起動を描き、中々クワッスに届かない。

 

「クワーーッス!!」

 

 すると、クワッスが飛び上がって、モンスターボールに頭で触れる。

 ボールが開き、クワッスが赤い光となってモンスターボールに吸い込まれていくと、ボールが閉じて床に転がった。

 

キュインキュインキュイン…カチッ!

 

 ゲット完了の合図がして、ドットはボールを拾い上げると、リコが口を開いた。

 

「…クワッスは、よっぽどドットの相棒になりたかったんだね」

「…え?」

「だって、自分からボールに入ったんだよ!」

 

 リコの言葉に、イルマとロイも頷く。

 

「…クワッス!」

 

ポンッ!

 

「クワッス!」

 

 ドットが投げたボールからクワッスが飛び出すと、クワッスの周りにニャオハ達が集まり、ポケモン達と談笑する様子を眺めながら、ドットはクワッスに優しく語りかけた。

 

「クワッス。…改めてよろしく。…僕の相棒」

「……クワッスー」

 

 相棒(ドット)の言葉に、クワッスは自身の髪をかき上げながら笑顔で答える。

 そんな光景をしばらく笑顔で眺めていたイルマは、先ほどからずっと気になっていた、しかし全員が空気を読んでツッコまなかった事に触れることにした。

 

「所でさ……リコ、遠くない?」

「うぇっ!?そ、そそそそんなことないよ!!」

 

 必死に否定するリコは、イルマさら五メートル程はなれた場所の、手摺の角て背中をつけている。ドットのクワッスゲットの流れであえて気にしないフリをしていたが、やはりロイ達も気になっていたようで、自然とリコに顔を向けた。

 

(うぅ~…イルマの顔が見れない。あ、あ、あんな事があったあとだから仕方ないんだけど……)

 

 リコがこうして前に出れない…というよりイルマに近付けない理由は、リコとイルマが気絶する直前の出来事が原因だった。

 ビルからビルへ跳び移ろうとジャンプしたさい、上手く着地できずにバランスを崩してしまったリコは……イルマとキスをしてしまったのだ。しかも口に。

 イルマが他の女といれば暗殺者みたいな目を向ける程独占欲が強い(しかも無自覚)リコだが、流石に告白や交際という過程をすっ飛ばして口同士のキスは許容範囲を越えていた。

 ペンダントが奪われている今、そんな場合でないのはよく分かっているのだが、それでもキスした際の唇の感触がまだ残っている今、2割の嬉しさと8割の恥ずかしさで、リコはイルマが直視できなかった。

 

 そんなリコの様子に首を傾げながらも、イルマ達はフリードの案内で待ち合わせ場所としていたハッコウシティの中央に移動する。

 

「よっ、来たか」

「師匠…戻ってたんですね」

 

 そこには、ジュナイパーとチルタリスと共に佇んでいるバチコの姿があった。

 

「バチコ、この辺りで怪しい奴を見かけなかったか?」

「あちこち聞き込みをしてみたが、それっぽい奴はいなかった……で、リコはなんで顔隠してんだよ?」

「き、気にしないでください……」

「…あー、分かったよ」

 

 ニャオハを抱き上げて顔を隠しているリコに、当然ながらバチコが訝しげな表情で尋ね、リコがモジモジと答える。それを見て、何となく事情を察したバチコは、ジュナイパーをボールに戻してイルマの襟首を掴むと、リコ達に話し掛ける。

 

「それじゃあ、あッチとイルマはこの近くに怪しい奴がいねーか空から探してみる」

「え?ぼ、僕もですか…?」

「リコ、ペンダントが取られた時、オーベムを連れてい奴の情報、出きるだけ詳しく説明できるか?」

「えっ、えっと……確かスーツにメガネをかけてて、隣にはブラッキーを連れてた、と思う……」

「成る程な…それじゃあ、俺もリザードンと一緒に空から探してみる。リコ達は、皆と合流したら、手分けして探してくれ」

「分かった~!」

 

 そう言って、チルタリスの背に乗ったイルマとバチコ、リザードンの背仲に乗ったフリードとキャップは空を飛んで行き、距離が離れるに連れて小さくなっていく背中に、リコは大きく手を振った。

 

 イルマはチルタリスの背中の上でブラッキーかオーベムを連れているトレーナーをキョロキョロと探していると、前に座っているバチコに話し掛けられた。

 

「で?お前リコに何したんだよ?」

「?何って…何ですか?」

「何がって、確実に何かあっただろーが。リコの様子が明らかにおかしかったし、どう考えてもオメーが何かしたとしか思えねーよ」

 

 どこか面白がっているようなバチコの声色にイルマは首を傾げながらも、確かにリコがどうも自分を避けているようだなと思い出し、必死に考える。

 ビルの屋上で目を覚ましてからリコの様子が変だったのはイルマも確認している。ドットやロイとは普通に話せていたので、恐らく自分が何かしてしまったのだろうが…原因が全く分からない。リコの癇に障るようなことはしていない筈だし、強いて言えばリコが屋上から飛び降りたときに激突してしまった程度だが、それしきのことでリコが怒ったりするはずがないことは、イルマが一番よく分かっている。

 

(…いや、もしかしたら僕が気付いてないだけで、何かリコが不快に思うことしちゃったのかも!?師匠からもよく『女心を勉強しろ』って言われてるし……)

 

 そんな風に地上を見渡すことを忘れてシュンと落ち込むイルマに、スマホロトムを片手にもったバチコが背中越しに話し掛けてきた。

 

「おい、考え込んでないで、例のペンダントを盗んだ奴を探すぞ」

「!す、すみません……あれ?そもそもこの話を始めたのは師匠だったような…?」

「細かいことは気にすんな。それより、リコから連絡があった。犯人はフェリーに乗って逃げた可能性があるってな。あッチ等二人でそのフェリーを追うぞ」

「は、はい!」

「振り落とされんなよ…チルタリス!」

「チルー!」

 

 考え事に集中するあまり周りが見えなくなっていた事を注意されるが、そもそも話を振ってきたのはバチコだった為に少し反論したくなったが、バチコから告げられた情報に、『後でリコに理由を聞いてから謝ろう』と結論を出すと、直ぐに思考を切り替えた。

 

 そして、チルタリスは進路を変えて港を目指す。途中、同じ様にリコから連絡を貰ったフリードと遭遇して共に港が見える場所までやって来ると、既にフェリーが出港してしまっていた。

 

 チルタリスとリザードンは全速力で船を追い、船の上に降り立ち、フリード、バチコ、イルマの三人はリザードンとチルタリスの背中から降りた。やってることは無断乗船以外の何物でもないが、今は緊急事態なのだから仕方がない。

 

 乗船客達から注目されているのを感じながら、リコから教えて貰った特徴の男を探すイルマ達三人の前に、一人の男が立った。

 

「…お前達がライジングボルテッカーズだな?」

 

 イルマ達の前に立ったのは、コートを羽織った痩せた男性だ。その男はモンスターボールを取り出し、それを投げて中のポケモンを出した。

 

「行け、キリキザン!」

 

ポンッ!

 

「ザーキィ!」

 

 現れたのは、日本の鎧のような全身スーツ風のポケモン【キリキザン】だ。

 キリキザンの姿を見たバチコが肩眉を上げ、隣に立つフリードに話し掛ける。

 

「フリード」

「あぁ。リコから聞いていた話と違う……コイツじゃない」

 

 フリードの経験談とリコの話では、敵が連れているポケモンはブラッキー、オーベム、レアコイルだ。それ以外にもキリキザンを持っている可能性は十分にあるが、今まで姿を現さずに暗躍していた相手がこうしてアッサリと姿を見せるのも、フリードが奥の手であるテラスタルを使わざるをえなかった相手と同一人物とは思えない。

 

「ということは、アイツは時間稼ぎ役か…!」

「フリード、ここはあッチとイルマが相手するから、お前はハッコウシティの方に戻れ。この船に他に怪しい奴が乗ってたら連絡する」

「そうか…すまない!」

 

 そう言いながらフリードとキャップはリザードンの背中に飛び乗り、リザードンは船から離れ、ハッコウシティに戻っていく。

 キリキザンに技を出させてリザードンを止めようとさせる男の前に、バチコとイルマが立ち塞がった。

 

「おっと、フリードの邪魔はさせねーぞ。オメーにも、雇い主について聞きたいことがあるんだ。ボコボコにして吐いて貰うぜ……イルマ(コイツ)がな」

「はい!…って、えぇっ!?」

 

 いきなり白羽の矢を立てられ、イルマは思わず声を上げてバチコの顔を見た。

 

「な、何で僕が?師匠なら簡単に倒せるんじゃ……」

「お前の修行の一環だ。これくらいの開いては倒せねーと、この先やっていけねーぞ?」

「た、確かに…。分かりました。モクロー、やろう!」

「もふ!」

 

 言いたいことは分かるので、イルマが男とキリキザンに向かい合うように立つと、モクローがイルマの肩から飛び降りてキリキザンの前に立つ。

 

「…モクローで、キリキザンに勝てると思うのか?」

(そーなんですよねー…モクローの技じゃあキリキザンに効き目が薄いし…)

 

 まるで格下扱いするようなバチコの物言いに、男が苛立ったように言うと、イルマは心の中でその言葉を認める。

 モクローの持つ技はノーマル・ゴースト・くさ・ひこうの四つのタイプ技を持っているが、どれもあく・はがねタイプのキリキザンに効果が今一つなのだ。

 更に言えば、キリキザンはかなりレベルを上げなければ進化しないポケモンだ。色々とバトルは経験しているが、それでもまだレベルが低いモクローでは少し相手が悪い。

 だがその反面、あのキリキザンはアメジオのソウブレイズほど強くないのはイルマでも分かる。ならば、キリキザンくらい倒せるようになっておかなければこの先の旅も起こるであろうエクスプローラーズとの戦いも切り抜けられない。相性だの何だの言い訳は出来ないと、イルマは一度両手で頬を叩いて気合いを入れる。

 

「確かに相性は悪いですが……勝ってみせます!」

「良いだろう…キリキザン、“きりさく”!」

 

 キリキザンは腕の刃を発光させ、モクローに突撃する。

 

「モクロー、ギリギリまで引き付けて“おどろかす”!」

「もふぅ……もっふぅ!!」

「キリッ!?」

 

 目前までキリキザンが迫ってきたところで、モクローはキリキザンの目の前で思いっきり羽を叩き、発生した大きな音に驚いたキリキザンはビクッと動きを止めてしまう。

 

「“エアカッター”!」

「もふっ!」

 

 イルマはその隙を見逃さずに指示を出し、モクローは×字の放たれた風の刃をキリキザンの鳩尾に叩き込む。急所に直撃したキリキザンは、摩擦で煙を巻き上げながら後退する。

 

「少しはやるようだが…その程度で俺のキリキザンは倒せん。キリキザン、“つじぎり”!」

「ザー…キィ!」

「ッ!モクロー、かわして!」

「もふ!」

 

 キリキザンは猛スピードで走り出し、そのまま腕の刃でモクローを切り裂こうとし、モクローは咄嗟に横に転がってその一撃を避ける。

 

「“このは”!」

「もー…ふぅ!」

 

 モクローは両羽を振るい、光る葉っぱをキリキザンに放つ。

 

「キリキザン、“てっぺき”!」

「キザァッ!」

「ッ!?」

 

 その時、キリキザンの前に鋼鉄の盾のようなものが現れてキリキザンに吸い込まれるように消えたかと思うと、両腕を交差してモクローの“このは”を正面から受ける。

 

「ッ!?無傷…!」

 

 “このは”が直撃したキリキザンは、まるでなにも起こっていなかったかのように平然とした様子でモクローを睨み付ける。くさタイプの“このは”ははがねタイプには通りが悪いということもあるが、“てっぺき”により防御力が上がったことで、ただでさえ効果が二分の一にされる攻撃の威力がさらに半減されてしまったのだ。

 最初から“このは”で倒せるとは思っていなかったが、流石に無傷は予想外であり、イルマは驚愕して動きを止めてしまう。

 

「隙を見せたな…キリキザン、“アイアンヘッド”!」

「ッ、不味い…モクロー!!」

「ザァッ!」

「もふぅ!?」

 

 イルマが慌てた声を出すが、反応が一瞬だけ遅かった。

 キリキザンの硬質化した頭部の刃がモクローを切り裂き、モクローは大きく吹き飛ばされる。

 

「モクロー、大丈夫!?」

「もふ…もふぅ!!」

 

 モクローは地面をゴロゴロとイルマの前で転がるが、イルマの呼び掛けに答えるように立ち上がる。しかし、流石にレベル差がキツいようで、荒い呼吸をしている。

 

「どうした?勝つんじゃなかったのか?」

「……ッ!」

 

 嘲笑するような男の言葉に、イルマは苦々しい表情を浮かべる。

 “てっぺき”により防御力が上がったことで、モクローの物理攻撃は更にキリキザンに効きにくくなってしまった。特殊技である“エアカッター”は例外だが、ひこうタイプの技である攻撃ではがねタイプのキリキザンを倒せるほどのダメージを与えるならば、相当に上手くやる必要がある。

 どうすれば良いのか考える内に思考がグチャグチャになっていくイルマに、ハスキーな女性の声が響いた。

 

「イルマ、コチャゴチャ考えるな!」

「!」

 

 その声の持ち主、バチコの声に、イルマはハッと我にかえってバチコの方に視線を向けた。

 

「あッチの弟子なら、ここぞで決めろ!」

「……はい!」

 

 イルマは再び頬を叩いて気合いを入れ直す。モクローも同じなようで、傷が痛むからだに叱咤を打ちながらキリキザンに向かい合う。

 

「キリキザン、“アイアンヘッド”!」

 

 キリキザンは再び頭の刃を硬質化させ、真っ直ぐにモクローに突進する。

 直撃したらモクローも今度こそ倒れてしまう攻撃が迫ってくる光景を見て、イルマは咄嗟に頭に思い浮かんだ指示を叫んだ。

 

「モクロー、キリキザンの目に“このは”!」

「もふ!!」

「キ、キザッ!?」

 

 モクローが放った葉っぱが、キリキザンの目に張り付いて、突然視界を奪われたキリキザンは標的であるモクローが見えなくなり、その場で立ち止まって両手で葉っぱが張り付いた目を抑える。

 

「モクロー、空から“たいあたり”!!」

「もー…ふぅっ!!」

「キザァッ!?」

 

 その隙を見逃さず、翼を羽ばたかせて飛び上がったモクローが一気に急降下し、未だに目に張り付いた葉っぱを剥がそうとするキリキザンの後頭部に体当たりをする。

 不意打ち気味にそれを喰らったキリキザンは、モクローの体当たりの勢いにより、フェリーの甲板に頭から勢いよく倒れる。

 

「キ、キザ…キザッ!?」

「キリキザン!?」

 

 キリキザンは立ち上がろうとするが、何とキリキザンの頭部の刃が、モクローの体当たりの勢いで顔面から倒れた際にフェリーの甲板に突き刺さってしまったのだ。キリキザンは両手を甲板につけて立ち上がろうとするが、かなり深く刺さってしまっているのか、刺さってしまった刃は中々抜くことが出来ない。

 その隙を見逃さなかったイルマが、声を張り上げた。

 

「モクロー、全力で“エアカッター”!!」

「もーふぅ!!」

「キザァアアッ!?」

 

 キリキザンの前にモクローが羽を交差させるように振るうと、飛び出した風の刃がキリキザンに直撃した。効果はいまひとつの“エアカッター”だが、頭の刃が刺さって身動きが取れなかった事で、風の刃は見事にキリキザンの急所に命中し、キリキザンは刃が甲板から抜け、勢いよく男の前まで吹っ飛ばされる。

 

「キリキザン!?」

「ザァ~…」

「クッ…敗けだ……」

 

 仰向けに倒れたキリキザン。これ以上のバトルは不可能だと判断した男は、悔しげに顔を歪めながらキリキザンをボールに戻した。

 

「何とか勝てた……モクロー、お疲れ様」

「もふ~」

「よくやった。げどよ、ヤバイんだったらテラスタルを使えばよかったんじゃねーのか?モクローのテラスタイプは知らねーけど、もってる技と一致してたらもっとキリキザンに効きやすかったかもしんねーだろ?」

「……あっ」

「忘れてたのかよ……。まぁ今は良い。それよりも……」

 

 傷付いたモクローを抱き上げて労るイルマに歩み寄ったバチコがテラスタルを使わなかった事を聞くと、イルマはテラスタルオーブを完全に忘れていたらしく、間の抜けた表情になる。そんなイルマに呆れながら、バチコはツカツカと靴音を鳴らしながら男の前に歩み寄ると、彼の着ている服の胸ぐらを掴んで引っ張ると、自身の顔に男の顔を近付けた。

 

「…で?お前は何であッチ等の邪魔をした?大方誰かに雇われてたんだろうが…ソイツの事、話して貰おうか?」

「……ッ!」

「その様子じゃあ、話さないんじゃなくて知らないって所か。顔も知らない奴に雇われて、あッチ等の邪魔しろって言われただけか…」

「そんな!じゃあ僕のバトルは何のために……」

 

 バチコの推測が図星だったらしく黙り込む男に、イルマは何の為にバトルしたのだと思わず愚痴るような言葉を出してしまう。

 その時、バチコの服からスマホロトムが飛び出して着信音が入り、バチコがその通話に応答すると、画面にモリーとフリードの顔が映し出された。

 

「モリー、何かあったのか?」

『港で働いている人たちに聞いてみたら、フェリーの他にも港を離れた船があった。貨物船なんだけど…その近くで、リコ達らしい子供を見たって人がいる』

『貨物船か…』

「成る程。フェリーはハナから囮だったってわけか…」

『船の場所が分かり次第、連絡する』

「わかった」

 

 そういって通話を切ると、バチコは男の胸ぐらから手を離し、踵を返してチルタリスの元へ歩き出す。

 

「聞いてた通りだ。ここに敵はいねー、貨物船を探すぞ」

「は、はい!」

 

 バチコがチルタリスの背中に乗ると、イルマは自分達に注目する乗船客達に「お騒がせしてすみません!」と謝ってからバチコの後ろに乗る。

 イルマが乗り込んだと同時にチルタリスはフェリーから飛び立ち、貨物船を探して空を飛ぶ。

 

「!師匠、アレ!」

「あの光は……」

 

 暫くハッコウシティ周辺の空を飛び回っていると少し離れた場所から緑色の光が天に昇る光景が見えてくる。目を凝らしてみると、その根本には貨物船らしき船の影がある。

 

「行きましょう!」

「わーってるよ!チルタリス!」

「チルー!」

 

 チルタリスが速度を上げて貨物船を目指して飛んでいくと、貨物船から少し離れた海上で、仰向けになって浮き輪のように浮かぶ巨大オリーヴァと、その上に乗っているリコ、ロイ、ドット、そしてニャオハ達。そして、そんな彼らに近付いていくフリードとキャップを乗せたリザードンの姿が見えた。

 

 リコ達もリザードンとチルタリスに気付いたようで、笑顔を向けて手を振ってくるので、チルタリスに乗るイルマとリザードンに乗るフリードは手を振り返し、リコ達と合流する。

 どうやらリコ達はペンダントと反応した古のモンスターボールを頼りに貨物船に乗り込み、激闘の末にペンダントを取り返していたらしい。ニャオハ達は多少の怪我を負っているが、無事で何よりだったとイルマ達は心底安堵した。

 

 ハッコウシティの港に辿り着くと、巨大オリーヴァは独りでに古のモンスターボールの中に戻っていき、その後仲間達と合流したイルマ達はブレイブアサギ号に戻り、ブレイブアサギ号はガラル地方に向けて出発した。

 

 

 

 

 

(……全然落ち着かない…)

 

 夕食を食べ終えて風呂から上がり、ニャオハを抱えて自室に戻ろうと廊下を歩くリコは、ついさっき発覚した新事実に、ソワソワしていた。

 エクスプローラーズの幹部【スピネル】からペンダントを取り返し、展望室でペンダントを眺めていると、後からやってきたドットに、ぐるみんの正体が自分だと言う衝撃のカミングアウトを聞き、リコは思わず絶叫してしまった。しかも、ロイを除いたライジングボルテッカーズの面々(イルマを含めて)は全員その事を知っていたと言うのだ。ハッコウシティでぐるみん自分を『友達』と呼んでいた理由に納得した反面、まだ信じられないと頭がその事実を受け止められないでいた。

 

(何か…今日は朝から色々な事があったなぁ…)

 

 今日1日の出来事を振り返る。

 ロイがカイデンの空を飛ぶ特訓を手伝っていたかと思えば、偽の広告で誘導されて記憶を失ってペンダントを奪われ、その後自分を追いかけてきてくれたイルマと町を練り歩き、ナンジャモとぐるみんのコラボ配信で自分が鬼にされて……

 

「…ッ!」

「ニャ~?」

 

 そこで、スピネルとのバトルで頭から抜け落ちていた記憶が蘇り、リコはその場で立ち止まり、顔を真っ赤にして口元を手で抑える。

 腕の中にいるニャオハが、突然立ち止まったリコに「どうしたの?」と心配するような視線を送るが、気付いていない。

 

(うぅ~…せっかく忘れてかけたのに……)

 

 イルマとのキスはもう何時間も前の出来事だが、こうして記憶が甦ると、唇の感触が鮮明に思い出されてくる。

 今思い出しても、顔から湯気を吹き出して気絶しそうなほど恥ずかしくて……何故か、嬉しいと思った。

 

(…あれ?何で私、今嬉しいって思ったの?)

 

 恥ずかしという感情は当たり前の事だが、嬉しいとい思うのはどういうことなのか。

 何とかその疑問やキスの記憶を振り払おうと頭をブンブンと振りながら歩き出したリコは、廊下の曲がり角に差し掛かったところで、リコはある人物と鉢合わせた。

 

「あっ、リコ」

「うぇっ!?イ、イルマ!?」

 

 そう、そこにいたのはさっきからぐるみん(ドット)に代わってリコの頭の中で思い浮かべていた人物、イルマだった。肩には何時ものごとくモクローが乗っている。

 

 これが先程までのイルマとのキスを忘れた状態だったなら、リコも特に気負うこともなく普通に話せていただろうが、タイミングが悪かった。

 

(な、何でよりにもよってこのタイミングで~!…っていうか、何だかイルマがいつもより輝いて見える…!?)

 

 室内なので帽子は外しているが、服装も普段着ている白のスーツだし、メイクをしているわけでもないのに、リコの目には、目の前に立っているイルマがいつもの三倍増しで煌めいて見える。

 そこでリコは、「このままではダメだ」と思った。何がどうダメなのかは分からないが、兎に角この場にいるのが耐えきれず、リコは自分でも驚く程に早口で喋りだした。

 

「イ、イルマ!きょ、今日も色々あったね!そ、それじゃあお休み!!」

 

 自分でも意味不明な事を言っている自覚はあるが、それを気にする余裕はない。言うべき事を言い終えたリコは、早足でイルマの横を通りすぎて自室に戻ろうとする。

 

「ま、待って!」

「ひぃっ!?」

 

 だがそこで、イルマに肩を掴まれて呼び止められたことで、強制的にその場に引き留められてしまい、リコは思わず悲鳴に似た声を出す。

 その様子を見て、モクローとニャオハは気を遣うかのようにパートナーの元から降りた。

 

「な、ななな何…?」

「えっと……リコ、ロイくんとドットさんが僕達を見つけて起こしてくれた辺りから、ずっと僕を避けてるよね?僕も僕なりに理由を考えてみたんだけど、なにも思い浮かばなくて……」

 

 悔しそうにそう言ったイルマは、ズイッとリコに顔を寄せる。

 リコの顔は、もうオクタンよりも真っ赤になっており、イルマの言葉が一言も耳に入っていない。

 

(か、かかか顔!イルマの顔が近い…!!)

「だから、理由を教えてくれないかな?僕がリコに何か嫌なことをしちゃったなら、謝りたいんだ!」

 

 更に顔を寄せるイルマ。

 彼としては、単にリコと仲直りするために避けられている理由を知って謝る事に必死になっているだけなのだが、今のリコにはそれがまるでキスしようとしているように見えてしまう。勿論、ただのリコの被害妄想なのだが。

 

「…ダメぇーーーッ!!」

「わっ!?」

 

バァアンッ!

 

 だが恥ずかしすぎるあまり、リコは思わず平手打ちをしようと腕を横に振るい、イルマは咄嗟に体を仰け反らせてその平手打ちをかわす。

 空振りになったリコの手が真横の壁を叩き大きな音を鳴らすと、リコは顔を両手で覆いながら自分の部屋に逃げるように走り出し、ニャオハも慌ててリコを追いかける。

 

 廊下に残されたイルマは暫くその光景を呆然と眺めていたが、やがて顔を青くして頭を抱えた。

 

「…また、やっちゃったのかな……もしかして、無意識にリコが不愉快になることを……!?」

「……もーふぅ」

 

 明らかに落ち込んでいるイルマに、傍観していたモクローはイルマの元に歩み寄り、彼の片足にポンッと羽を置いた。

 しかし、いつまでも廊下に突っ立っていてもなにも解決しないので、イルマは沈んだ気持ちで自室へと戻っていく。

 

「……」

 

 トボトボと自分の部屋の前まで辿り着き、扉を開けて部屋に入っていったイルマとモクローを、尾行しているように影から眺める小さなポケモンの影があった。

 イルマがドアを閉めたと同時に、そのポケモンは影から姿を現し、服の裾を引きずるように歩き出した、イルマの部屋の扉の前に立つと、どこか心配そうな様子で扉を眺める。

 

「…ラル!?」

 

 すると、廊下の向こうから足音が聞こえ、人の気配が近付いてきたのを感じ取ったそのポケモンは慌てて足音とは反対の方向を向き、服の裾を引きずりながら、逃げるように走り出す。

 

 人の気配の正体、フリードは、自分から逃げるように走るポケモンに気付いたのか、一度立ち止まってどんどん小さくなっていくポケモンの後ろ姿を見つめる。

 船に見知らぬポケモンが乗って逃げていく姿を見ながらも、フリードはそのポケモンを追うことも呼び止めることもせずにその後ろ姿を眺めていると、先程までその場に留まっていたであろうイルマの自室の扉をチラリと見た後、軽い笑みを浮かべて再び歩き出した。

 

 このポケモンの存在をイルマが知るのは、もう少し先のお話である。

 

 

 

 

 

 




「ぽにっ!!」

イルマ「…君、ポケモンなの?」

 新章開幕!

リコ「ここがキタカミの里…!」

ニャオハ「ニャ~!」

フリード「キタカミの里では、本来パルデア地方特有のテラスタル現象が度々確認されているんだ」

 リコ達の冒険の舞台はキタカミの里へ!

ゼイユ「残念だけど、余所者は『スイリョクタウン』に入れて上げないの!」

ヤバソチャ「ソチャ!」

リコ「えぇっ!?」

ロイ「何で何で!?」


イルマ「ともっこさま?」

モクロー「もふぅ?」

スグリ「この伝説…鬼さまがかっこいいべ」

カジッチュ「ジッチュ!」


ロイ「おおーっ!ここがオモテ祭り!!」

ホゲータ「ホゲホゲー!!」

ゼイユ「お祭り感満載で良い感じね」

 そこでイルマが出会ったのは……

イルマ「素敵なお面だね!」

「がおっ、ぽにおっ!」

 昔話の()()──オーガポン

イルマ「本当の歴史…ですか?」

ユキノシタ「鬼様…いや、オーガポン様に会いなさった君にも聞いてもらおう。我が家に代々語り継がれてきた、本当の歴史を……」

 そして──

リコ「何、あのポケモン達…!?」

「ヌンダフル!」
「マシッキャー!」
「キチチチチ!」

イメージ主題歌「ギリギリ Ride it out」

バチコ「アイツ等を放っておいたら、キタカミの里が滅茶苦茶にされちまうぞ」

ロイ「やろう、ホゲータ!」

ホゲータ「ホゲー!」

フリード「やってやろうぜ!キャップ!」

キャップ「ピッカァッ!」


イルマ「行くよ、オーガポン!テラスタル!!」

オーガポン「ぽにおーーっ!!」


次章 碧の鬼と輝く仮面


イルマ「おっと!…大丈夫ですか?」ガシッ

ゼイユ「えっ?あ、うん。…ありがと……///」

リコ「………」ゴゴゴゴゴゴ

オーガポン「ぽにっ!?」ビクッ

近日公開!


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