魔入りました!入間くん if Episode of ポケットモンスター 作:MTHR
本当は2月辺りに始めようかと思ったのですが、これからリアルが色々と忙しくなり、2月は更新が遅れると思うので、早めに始めることにしました。
といっても、内容としては殆んど『碧の仮面』と同じ無いようになると思うのですが、所々で魔入間側のキャラクターも登場させます(そうしないとクロスオーバーになる気がしませんし)。稚拙な駄文になっていると思いますが、どうかよろしくお願いいたします。
ロイとホゲータとカイデンの特訓や、フリードとキャップの思い出の話は省いております。ご了承ください。
キビキビパニック攻略して『モモワロウ物語』見た結果、モモワロウが100%の悪意でオーガポンのお面を奪ったわけでないのは分かりましたが、同情出来ない部分も多々ありますし、オーガポンが2体目の手持ちになるのが確定しているので、必然的にキビキビパニック編も投稿することになるのですが、その時にモモワロウをどんな風に扱うかに悩んでいます。
取り合えず、今は保留にしてオーガポンGETの方に専念することにします。
23話 キタカミの
岩に囲まれた山々にある、小さくて真っ暗な洞窟の中。その洞窟の中に、一人で座るポケモンの姿があった。
緑色の体に大きな角を生やしているそのポケモンは、食事であろうリンゴを両手に持って、シャクシャクと音を立てて頬張っている。
「…ぽに?」
その時、その碧色のポケモンは洞窟の向こうから何かを感じて、リンゴを食べるのを止めて、星のような模様が入った目を洞窟の出入り口に向ける。
そのポケモンは立ち上がって洞窟から出てくると、空を見上げた。
そこには、翼のような装飾を持った大きな飛行船が、キタカミの里に向けてゆっくりと高度を下ろしている光景だった。
時は遡り、ライジングボルテッカーズがパルデア地方を旅立った翌日。
不思議なペンダントの本来の持ち主であるリコの祖母【ダイアナ】に会うためにガラル地方を目指すリコ達ライジングボルテッカーズは、フリードの集合でミーティングルームに集まっていた。
「仕事の依頼?」
「あぁ、オレとバチコの友人からの依頼があったんだ。ある地方にいるポケモンの生体を調査してほしいらしい」
「ライジングボルテッカーズの仕事って、冒険することじゃないの?」
イルマとリコをパルデアに送り届けることが仕事であったように、ライジングボルテッカーズは様々な仕事をこなして活動資金を稼いでいる。多くの冒険家はスポンサーをつけて資金出資をしてもらい、活動を続けているが、ライジングボルテッカーズにはそれはない。なので、ルッカとサリバンから高額の報酬を貰ったとはいえ、出来る限り仕事はしなければいずれ貯金がなくなるのは明白だ。
「リコ、どうする?受けるとなると、ガラル地方への到着が遅れてしまうんだが……」
「私は大丈夫。お婆ちゃんがガラル地方にいるのは分かってるし」
「…よし、決まりだな」
フリードの質問にリコは笑顔で答えたことで、ライジングボルテッカーズは一時的にガラル地方から行き先を変える事が決まった。
「それで、その仕事で行く場所は何て言うんですか?」
「ここから東に向かった先にある、【キタカミの里】だ」
「キタカミの里?」
聞き慣れない地名に、イルマ達は首をかしげる。
「キタカミの里は、本来パルデア地方特有のテラスタル現象が度々確認されている。他にも、その土地にしかいないポケモンや、今はすっかり姿を見なくなったポケモンの姿を見ることも出来るらしい」
「そんなところがあるんだ…!」
「僕、行ってみたい!」
見知らぬ土地の情報に、リコ達は瞳を輝かせる。
その様子を見て笑みを浮かべたフリードは宣言するように声をあげた。
「よし、ブレイブアサギ号、キタカミの里に向けて出航だ!」
「ピーカァッ!」
キャップの掛け声を合図に、ブレイブアサギ号は東にある山里【キタカミの里】に向けて進路を取った。
それから2日。
ロイが新たにゲットしたカイデンとホゲータと共に秘密の特訓をしてキャップに挑んで敗北し、その際に空を飛んだキャップの秘密を知ろうとフリードとキャップの出会いを聞いたりという出来事がありながら、ブレイブアサギ号はキタカミの里に到着した。
「ここがキタカミの里…!」
「ニャ~!」
上陸した船から降りたリコは、目の前に広がる光景に目を輝かせた。
田んぼやりんご園など日本の田舎を思わせるのどかな自然が広がり、水田には【ウパー】や【ヤンヤンマ】といったポケモンの姿が見える。周囲は野山に囲まれ、特に中央にそびえる鬼の頭のような印象的だ。
「この道を進んだ先が、依頼人の住んでいる『スイリョクタウン』だ」
そう言ってバチコが指を指した先には、緑豊かな田園風景が広がっている町がある。
因みに依頼人の元へ向かうメンバーはイルマ、リコ、ロイ、フリード、そしてバチコの五人であり、残りのメンバーはブレイブアサギ号で留守番だ。
「…あれ?」
「?どうしたのか?」
「いや、何か気配がしたような……」
しばらく道を進んでいくと、イルマは誰かに見られたような気がして、辺りをキョロキョロと見渡した。しかし、辺りにポケモンは沢山いるが、此方に視線を向けているポケモンはいない。近くに町やバス停があるので、この辺りのポケモン達は人に慣れているのだろう。
結局、気のせいだと思うことにしたイルマは再び歩きだし、リコ達とならんでスイリョクタウンを目指す。
「……ぽにぃ」
遠くから草影に隠れて自分達を眺めている緑色のポケモンに気づかぬまま歩き続け、10分もしないうちにリコ達はスイリョクタウンにたどり着いた。
中央に公民館らしき建物があり、その右手側には玩具や雑貨が置いてある売店がある。村の辺りには、緑豊かな田園風景が広がっていた。
「わぁ~!綺麗な町!」
「うん!ロイくんの故郷に少し似てるよね、リコ」
始めてみる町の風景に、ロイとイルマは目を輝かせ、緑に囲まれた町の雰囲気にロイの故郷であるカントー離島の村を思い出したイルマは隣に立っているリコに笑顔で話しかけた。
「そ、そう…だね……」
話しかけられたリコは、苦笑いを浮かべてそう答えると、直ぐにイルマから顔を反らしてしまった。その反応にイルマは何と言えばいいのか分からないというような表情をする。
そんな二人の様子に、バチコは心底面倒そうにため息を吐き、フリードがある家を指差した。
「依頼人との待ち合わせ場所は、ここから少し離れた先にある『ともっこプラザ』の入り口辺りだ」
「じゃあ行こう!」
「あの…すみません、僕少し喉が渇いたので。皆さんは先に行っててください。僕そこの売店で飲み物勝ってから行くので」
「そうか。じゃああッチ等の分の飲み物も買ってきとけ」
「分かりました」
そう言ってイルマは『桃沢商店』と呼ばれる店の前まで行くと、売店のお婆さんにおいしい水を3本と、甘党のバチコの為にミックスオレを1本頼み、金を払って四本の水を購入し、自分用の一本の蓋を開けてそれを口に含み、一気に喉を潤す。
「……はぁ~~~~~~~…」
イルマは深~いため息を吐いて、その場に踞る。
原因は、先程のリコの態度だ。別に不快に思ったからとかじゃなくて、今まで仲が良かった幼馴染みであるリコが、最近よそよそしくなっているのだ。自分が何かしてしまったのではないのかと思うが、その原因が分からない。
「もふもふ」
「……はぁ、そうだねモクロー。いつまでも落ち込んでもいられないよね。仕事もあるんだし、気持ち切り替えなきゃ」
「…もーふぅ」
肩に乗ったモクローの鳴き声を聞いて、そろそろフリード達の元へ行った方がいい気がしてくるので、イルマは全員分の飲み物を持って歩き出そうとすると、ふと視界の端に入ったものが気になって、足を止めてそれに目を向けた。
毒々しい桃の実のような置物が、桃沢商店の商品棚の上に置かれていた。かなり古いのか、埃を被ってやや汚れている。名前は「
「この置物……」
「ねーちゃん!あれ、あれ!」
「え?」
気を取られてその置物を眺めていると、後ろから聞き覚えのない少年の声が聞こえてきて、直ぐに二人分の足音が自分に近付いてくるのが聞こえてきて、イルマは置物から視線を外して振り替える。
そこにいたのは、インナーカラーが入った黒髪の男女だった。
緋色のインナーカラーが入った長い黒髪で、切れ長な金色の目。睫毛と唇が特徴的で、左目の下には泣き黒子があり、凛々しく整った顔立ち。身長はかなり高く、目算でも175cm以上の長身でスレンダーな体格で、紺色を基調とした服を身に付けている。
彼女の頭の近くには、茶碗に入った抹茶のような体に、穂がいくつか欠けてかつらの様になった茶筅を被っているポケモンが浮かんでいる。
赤紫のインナーカラーが入った黒髪で女性とお揃いのヘアバンドを着けており、瞳はその女性と同じ金色。首にほくろがある。見たところイルマと同年代くらいで、やや大柄な体格に服装は白を基調としており、ウエストポーチを肩に掛けている。
彼の肩の上には、リンゴと青虫が合体して尻尾が生えたようなポケモンが乗っている。
「あんた、ここじゃあ見かけない顔だけど…何処から来たの?」
「えーっと…パルデア地方から……」
「パルデア地方……もしかしてアンタ、オレンジアカデミーの生徒?」
「いえ、僕はカントー地方のセキエイ学園の生徒です。
イルマの答えに、長身の女性は「そう」と軽く返す。なんだが少し素っ気ない態度だが、向こうから話しかけてきたとはいえ初対面だしこんなものかと頭の隅で思いながらも、今度はイルマが質問する。
「それで……貴方達は?」
「いいわ、教えてあげる。あたしはゼイユ。残念だけど、余所者はスイリョクタウンに入れてあげないの」
「ソチャ!」
「ええっ!?」
イルマは思わず声をあげる。キタカミの里に住んでいる人から依頼されて来たのに、まさかの現地人らしき人からの拒否。理不尽だと思うが、同時に先にともっこプラザに行ったフリード達のことが心配になる。
「どうしても入りたいなら、あたしと勝負しなきゃダメ」
「もう村に入って飲み物買ってるんですけどね…って言うか、そのバトル僕に拒否権無いんですか?」
「無いわよ」
「ね、ねーちゃん戦いたいだけ…意地悪…」
「スグうるさい!」
(この気の強い感じ、ちょっと師匠と似てるなぁ…)
おずおずと口を挟む少年に拳をわなわなと震わせる女性──【ゼイユ】。その様子に、イルマはバチコを思い浮かべる。
「弟は無視していいから」
「ううぅ……」
(弟なんだ…)
何処か似ていると思ったが、どうやら姉弟だったらしい。気が強い
「それじゃあ、位置について。たっぷり遊んであげる…ヤバソチャ!」
「ソチャ!」
ゼイユの呼び声に、彼女の顔の横で浮かんでいた【ヤバソチャ】と呼ばれたポケモンが前に出る。
初めて見るポケモンに、イルマはスマホロトムを取り出して目の前のポケモンを検索する。
「あのポケモンは……ロトム」
『ヤバソチャ。まっちゃポケモン。くさ・ゴーストタイプ。民家の床下や棚の奥など冷暗所を好む。日没後獲物を探して徘徊する』
「ヤバソチャ…師匠のジュナイパーと同じくさとゴーストの複合か……モクロー!」
「もっふぅー!!」
イルマの肩から飛び出したモクローが、ヤバソチャと向かい合うように立ったのが、バトル開始の合図だった。
「ヤバソチャ、“シャカシャカほう”!」
「ソチャチャチャ……ソチャ!!」
ゼイユの指示を受けたヤバソチャは、茶碗のなかで体をかき混ぜ、体を構成する熱いお茶が辺りに飛び散り、モクローに迫る。
「モクロー、“このは”で弾いて!」
「もふぅ!」
対するモクローは光輝く葉っぱを放ち、迫り来るお茶を弾き飛ばす。
「“エアカッター”!」
「ヤバソチャ、“シャドーボール”で弾きなさい!」
お茶とお茶の間を狙ってモクローが放った風の刃を、ヤバソチャは黒い球状のエネルギー弾を放って迎え撃ち、両者の中間点でぶつかり合った技が爆発を起こす。
「今よ!“ねっとう”!」
「ソチャ!」
「もふっ!?」
「モクロー!?」
そこへ、煙の中から飛び出したヤバソチャが熱湯を発射し、それを振りかけられたモクローの体に熱による痛みが襲い、モクローは片膝をついた。
「フフン、油断したわね!ヤバソチャ、“シャドーボール”!」
「モクロー、避けて!」
「ソチャ!」
「も、もふ…もふぅっ!?」
モクローは羽ばたいて避けようとするが間に合わず、ヤバソチャが放った“シャドーボール”が直撃してしまい、モクローは大きく吹き飛ばされる。
「モクロー、大丈夫!?」
「もふ…もふぅ!」
イルマの呼び掛けに、モクローは未だ熱に痛みに蝕まれる身体を動かしながら応える。まだ戦闘不能にはなっていないようだ。
「なら少し強引にやるよ…モクロー、ヤバソチャに突撃!」
「もふぅーー!」
「無策に突撃?笑わせるわね。ヤバソチャ、トドメの“シャドーボール”!」
「ソーチャー!」
痺れを我慢してヤバソチャに向かって走り出すモクローに、ヤバソチャは再び黒いエネルギー弾を投げ放つ。
しかし、それがイルマの狙いだった。
「モクロー、“シャドーボール”を投げ返して!」
「もふ!もふもふもふ…もふぅ!」
「ヤバチャ!?」
「ヤバソチャ!?」
モクローは僅かに体を反らしてシャドーボールの軌道から外れると、それを片羽で包むように持つと、コマのように回転し、なんと“シャドーボール”をヤバソチャに向かって投げ返したのだ。
完全に予想外の攻撃にヤバソチャは避けることが出来ず、自分が放った効果抜群のゴーストタイプ技が自分自身に直撃して大きく吹き飛ばされる。
「“エアカッター”!」
「もふ…もーふぅ!」
「ソチャ!!」
その隙を狙い、身体に残る痺れに顔を歪めながらも、モクローは翼を振るい×字になった風の刃を飛ばし、その刃がヤバソチャに直撃する。
いくらレベルに差があろうと、効果抜群の技を2回も食らっていて平気な筈はない。技を受けて地面を転がったヤバソチャは、傷だらけの体をヨロヨロと浮かび上がらる。
「わやじゃ!」
「ムカつく!何よ今の!?技をそのまま投げ返すなんてありえないでしょ!!」
スグと呼ばれた弟が驚き、ゼイユが拳を震わせる。
モクローが行った戦法は、カントー離島でサイドン相手に行った戦いの応用だ。受け止めてから投げ返すという行程を手で掴んでから投げ返すという方法にすることで、より相手の不意を突きやすい利点がある。だがこの場合、“ロックブラスト”のような巨大な攻撃は返せない欠点があるが、小柄なヤバソチャから繰り出される“シャドーボール”の大きさはモクローと同レベル。“シャドーボール”を投げ返すのに大した問題はなかった。
だが、状態異常を受けていながら無茶をした為か、モクローはその場に手をついて荒い息を吐く。どうやら、やけど状態のダメージを受けているようだ。
モクローはレベル差による強力な技を受けて大ダメージを負っておりやけど状態で体力を消耗し、ヤバソチャは効果抜群の技を二回受けたことで大きく体力を消耗しており、戦況は五分五分。
次で決める!と、イルマとゼイユは勢い良く指示を飛ばした。
「モクロー、“エアカッター”!」
「ヤバソチャ、“シャドーボール”!」
モクローの風の刃と、ヤバソチャのエネルギー弾が同時に、相手に炸裂し、爆発を起こす。
「もふぅ~…」
「チャ~…」
煙が晴れると、そこには仰向けになって倒れて目を回しているモクローとヤバソチャの姿があった。モクローは強力な技を受けたことによる大ダメージ、ヤバソチャは体力を消耗している所で効果抜群の技を急所に受けてしまった事によるダメージから、互いに限界を向かえてしまったのだ。
「モクロー、お疲れ様…」
「もふもふぅ…」
イルマはモクローを抱き上げて声をかけると、モクローは目を覚まして弱々しく答える。
「戻って、ヤバソチャ……。ま、ギリギリ合格って所かな。仕方ないね、アンタならあたしの舎弟として村に入ってもいいって事にしてあげる。アンタ、名前は?」
「イ、イルマです……」
倒れたヤバソチャをモンスターボールに戻したゼイユが上から目線でそう言いながら名前を訪ねるので、イルマは戸惑いがちに名前を名乗る。
「何をしてんだおめだずは?」
「「ッ!?」」
突如、二人の後ろに影が現れ、そこから訛りの強い女性の声がしたかと思うと、その声を聞いたゼイユと弟は、同時にバッと後ろを振り向く。
そこにいたのは、黒のゴスロリの服を身に纏った白髪の小柄な美少女と、ピンク色の小さな妖精のようなポケモンの姿があった。
再び知らない人が現れた事にどうすれば良いのか分からずオロオロするイルマに、聞き覚えのある声が掛けられた。
「おーい、イルマー!」
「!皆…」
声をかけられた方を見ると、依頼人との待ち合わせ場所に向かっていたバチコ達が、こちらに向かって来ていた。因みに、イルマに声をかけて手を振っているのはロイだ。
「先にともっこプラザに向かったんじゃないの?」
「アホ、オメーが遅いから、何かあったのかもしれないって来たんだよ」
「あっ、そうだったんですか。スミマセン……」
どうやら予想していたよりも時間がかかっていたらしい。バトルなので当然だが。
すると、弟を連れて逃げようとしたゼイユが白髪の少女が連れているピンクのポケモンに“しびれごな”を浴びせられ、痺れて動けなくなったゼイユの服を掴んで引きずりながらイルマ達の前までやってきた白髪の少女は、表情を変えずにイルマ達ライジングボルテッカーズに話しかけた。
「うちの村のもんが失礼しただな。話の前に、まずはそのモクローとヤバソチャを治療させんべ」
その後、バトルをしたモクローとヤバソチャをポケモンセンターで回復させ、ライジングボルテッカーズと白髪の少女は、待ち合わせ場所である『ともっこプラザ』と呼ばれる公園に集まっていた。何故か、ゼイユと弟も一緒に。
「改めて、わたすが依頼人のパイモン。こっちが相棒のアブリボンだ」
「ぶりぃ~♪」
イルマはスマホロトムを取り出し、嬉しそうに飛び回る【アブリボン】の情報を検索する。
『アブリボン。ツリアブポケモン。むし・フェアリータイプ。落ちこんでいる人や ポケモンの気持ちを 感じ取っては手作りの花粉団子で元気づけたりする。』
「アブリボン…しかも色違いだ……」
図鑑に表記されているアブリボンの体は黄色だが、パイモンが連れているアブリボンはピンクだ。ジュナイパーやラルトスといった色違いはそれなりに見ているが、やはり珍しいのでイルマ達はまじまじとアブリボンを観察する。
「んで、こっちの二人は…」
「初めまして、ゼイユです!この子はヤバソチャ!よそも……ライジングボルテッカーズの皆さん、仲良くしてくださいね!ウフフ!」
「よろしく、僕はロイ」
「リコです。この子はニャオハ」
「ニャオハ!」
「……チョロネコ被り」
「何か言いました?イルマくん?」
「いえ、何も……」
イルマを含めたライジングボルテッカーズに自己紹介をする【パイモン】とアブリボン、そして先程イルマとバトルした時とは違いすぎる態度に、それを知らないリコとロイは素直に返事をし、イルマは小さく呟くが、聞こえていたらしいゼイユに顔を寄せられ、ひきつった笑みで誤魔化した。
「スグリ……こっちはカジッチュ……」
「チュ!」
ゼイユに続いておずおずと自己紹介する弟──【スグリ】とは対照的に、スグリの肩の上で笑顔を浮かべて挨拶をする【カジッチュ】。
そんなカジッチュの姿を見て、ロイはスマホロトムを取り出した。
『カジッチュ。りんごぐらしポケモン。くさ・ドラゴンタイプ。リンゴのなかで暮らしている。リンゴがなくなると体の水分が抜けて弱ってしまう』
「へぇ~、リンゴが家なんだ…」
「ホゲー…」
ホゲータがカジュッチュを見て涎を垂らすと、カジッチュは怯えたように身を縮こまらせる。
一通りの自己紹介が終わり、イルマ達がこれから話の本題にはいるのかと、今まで黙っていたバチコがツカツカと靴音を鳴らしながらパイモンとの距離を積める。一体何事かとイルマ達が目を瞬かせた瞬間、バチコとパイモンは、ガシッとお互いの胸ぐらを掴み合った。
「そんでぇ?フリードしか呼んでねぇはずなのに…品の無いアリンコが何でついてきているだべや…」
「はあ゛ん?てめぇが旅の途中でウチに依頼してきたんだろうが。タイミングと服の趣味のわりぃエセお姫様が」
「んだとコラァッ!!」
「あ゛あ゛ん!?やんのかオラァッ!」
互いの胸ぐらを掴み合いながら、ヤンキーの如くメンチを切り合うバチコとパイモン。
イルマ、リコ、ロイ、ゼイユ、スグリは二人の剣幕に怯えるようにビクッと肩を振るわせると、リコは慣れているのか平然としているフリードにおずおずと質問する。
「フ、フリード…あの二人って…仲悪いの?」
「ん?あぁ、パイモンは俺とバチコがポケモンスクールに通っていた頃に出会ってな。その頃から二人はライバルだったんだ」
「ライバル、なんだ…!」
「あんなパイモンさん始めてみた…」
「う、うん…」
「あぁ。ポケモンバトルは勿論、ディスコで倒れるまで踊ったり、カラオケで喉が渇れるまで歌ったり、いろんな勝負をしていたもんだ」
「……本当は仲良いんじゃないですか?」
「「良くねぇっ!!」」
イルマの呟きが聞こえていたのか、バチコとパイモンは同時にイルマの方を向いて叫ぶ。息ピッタリである。
スグリが怯えたようにゼイユの後ろに隠れ、イルマ達も二人の剣幕に気圧されているのを見て、そろそろ止めた方がいいと判断したフリードは、苦笑しながらパイモンに話しかけた。
「それで、パイモン。俺達への依頼ってのはなんだ?お前程のトレーナーが俺達に依頼するって事は、余程の事があったんだろう?」
「あん?あぁ…まぁ、それもそだな」
フリードに聞かれると、パイモンもバチコも互いの胸ぐらから手を離す。未だに、互いをキッと睨みながらだが。
「依頼の内容ってのはな、『とこしえの森』にいる【赫月】っつーポケモンの事なんだべ」
「赫月?」
「赫月ってのは…まぁ異名だべ。これが、赫月に遭遇したトレーナーが撮った写真だ」
パイモンから手渡された写真を覗き込むと、その写真には霧に隠れて姿が見えないが、霧の奥に大きなシルエットと、怪しく光る赤い光が見えていた。
それを見て、キタカミの出身であるゼイユが発言する。
「私も聞いたことあるわ。霧の濃い夜に現れて、額には月みたいに丸くて血みたいに赤い光を放っている…だから赫月」
「成る程…興味深いな。だが、このポケモンがどうしたんだ?」
「赫月は、とこしえの森にずいぶん昔から住んどるポケモンらしいんだ。ゲットしようと何人ものトレーナーが赫月に挑んだんだけんども、相当強ぇらしくて皆返り討ちにされてんだ。中には違法にポケモンを捕まえる奴らもいるんだが、皆同じだったべ。けども、そのせいで近くにいる希少なポケモンが狙われる事もあんだけどなぁ…」
「あぁ…しろすじのバスラオか」
「しろすじのバスラオ?」
新たに出てきたポケモンの名前に、リコはスマホロトムを起動させてそのポケモンを検索する。
『バスラオ・しろすじのすがた。おんこうポケモン。みずタイプ。生体があまりにも異なるためバスラオとは別種と言う説が近年は有力視されている』
「バスラオって、赤と青だけじゃなかったんだ…」
「あぁ、しろすじのバスラオは、かつてヒスイと呼ばれていた地方に生息していたバスラオの姿なんだ。少し前まで絶滅していたと思われていたんだが、何年か前にとこしえの森で野生の個体が存在することが判明したんだ」
「そうなんだ!」
「けど、それの何が問題なんですか?まだ絶滅してなかったって事でしょ?」
「…確かに絶滅はしてねーけど、絶滅していたと思われていたって事は、それだけ他の地方では見られねーって事だよ。それに、とこしえの森にいる奴も、両手で数える程度しかいねーんだ。しろすじのバスラオはレッドリストにも載っている希少なポケモンだ」
「そう、そのしろすじのバスラオを無闇に捕まえたら、今度こそ絶滅する可能性があるから、捕まえるのは基本的に禁止されているんだ。パイモンは、そんなバスラオ達の保護をしているんだ」
へぇ~と声を漏らすイルマ達と、不服そうに鼻を鳴らすバチコ。
そこで、パイモンがわざとらしく咳き込んだことで、彼らはバスラオの話しに脱線していた事に気付き、あわててパイモンの方を見る。
「んで、問題はバスラオの方じゃなぐて、赫月の方なんだべ」
「赫月の方?」
「んだ。最近、赫月の噂が他の地方にも噂が広がって、赫月をゲットしようとしたり、単に興味本意で観に行こうとする奴らが増えてんだ。それだけならわたすも依頼はしなかったんだがな」
ハァ、と息を吐くパイモンは、どこか苦々しい表情で、フリーだ達を呼んだ理由を離す。
「赫月に近付いたトレーナー達は、赫月に襲われてポケモンもトレーナーも病院送りにされてんだ」
「病院送り!?」
「大変じゃないですか!」
イルマ達は思わず声を上げる。ポケモンをゲットする際に野生のバトルをするのはトレーナーの常識だが、ポケモンどころかトレーナーまで病院送りにされるなんて聞いたことがない。
余所者を歓迎しないゼイユも、この時ばかりは何も言わず、真剣な表情をしていた。
「無事だった奴はいねーのか?」
「いるべ。無事っていうより無傷だべ」
「無傷?」
パイモンの予想外の返答に、質問をしたバチコやフリード達も首をかしげる。
「赫月は、森に入ってきた人間を無差別に襲ってる訳じゃねぇんだ。何もせずに素通りしたり、威嚇してビビらせるだけだったり、ポケモンを倒すだけで帰っていく奴が何人もいんだ」
「病院送りにされた奴等に、特徴とかはないのか?ゲットしに来たトレーナーやハンターだからとか」
パイモンは首を横に振る。被害者のなかには、ゲット目的ではなく物珍しさに赫月を見に行こうとした者も大勢おり、他にも性別や服装、連れているポケモンなどの観点で調べてみたが、共通点は何もなかったらしい。
「正直、何を基準にして人を襲うのか全く分かんねえんだ」
「成る程な。だから俺に赫月の調査を依頼したのか……分かった。俺達に任せてくれ!なっ、キャップ」
「ピカピカ!」
フリードとキャップがそれを快諾し、リコ達も頷く。
こうして一同は、赫月と呼ばれるポケモンが住まう『とこしえの森』に向かうこととなった。
「あれ?ゼイユさんもスグリ君も来るんですか?」
「当然でしょ。パイモンさんにはお世話になってるし、私の地元でそんな危ない奴がいるんだから」
「ね、ねーちゃん…面白そうなだけ…」
「スグ、うっさい!」
兎に角、このメンバーでとこしえの森に向かうことにした一同はともっこプラザから出ようとすると、イルマは設置されている看板が目に映った。
「この看板は?」
「あぁ、ともっこさまの看板だな」
「ともっこさま?」
「もふぅ?」
イルマ、リコ、ロイは看板に目を向ける。
看板の端には、鬼のような生き物と、それを追いかける三匹のポケモンと人間らしき絵が書かれている。
それに解説をするのはフリードだ。
「キタカミの里の昔話が書かれてる看板だな。なんでも、【ともっこ】と呼ばれている里の英雄として祀られているポケモン達の墓がこのともっこプラザに埋葬されているらしい」
「里の英雄……」
「えーと、何々……」
公園の奥の方を見てみると、犬・猿・鳥の姿をした石像が置かれているのが見える。何となく興味を持ったイルマは、看板に書かれている物語を読む。
むかしむかし キタカミの里に 恐ろしい鬼が おったそうな
鬼は 村の裏山を 根城にし 山へ 入った人を 驚かしておった
ある日 怒り狂った鬼が 山より 下りて 村の者は恐れたが
偶然 そこに居合わせた イイネイヌさま マシマシラさま そして キチキギスさま
3匹の ポケモン達が 命を掛けて 鬼を 山へと 追い返したそうな
勇気ある 彼等を 村人は親しみを 込めて ともっこと 呼び
亡骸を 丁寧に 埋葬し その上にともっこの像を建てた
「で、あれがそのともっこの墓……」
「鬼を追い返した勇気あるポケモン…カッコいい!」
看板の向こうにある像を見るリコと、ともっこの歴史に目を輝かせるロイ。イルマは何かを考えているように、看板の文字を見ている。
すると、スグリがおずおずとイルマの隣に来てイルマ達三人に話し掛ける。
「この伝説…鬼さまがカッコいいべ?」
「ジッチュ!」
「そ、そうかな…」
スグリの言葉に同意を示すように笑顔を浮かべるカジッチュだが、リコとロイは微妙な表情だ。
この物語だと、鬼は言わば悪役だ。村人を驚かしているというエピソードからも、少し共感しにくい。
「えー!だって鬼さまは仲間もいないのに一人で複数の相手したの、わやカッコいいべ!」
「そ、そうなんだ……」
だが、先程までオドオドしていたスグリが急にすごい勢いで喋りだしたことで、リコとロイはひきつった笑みを浮かべながら答える。
その様子にゼイユが「また始まったわね…」と呟きながら、クスクスと笑ってリコとロイに向けて口を開く。
「スグは昔から鬼が大好きなのよ。小さい頃は鬼に会おうとして山の中に入って行ってたけど、結局会えなかったらしいわよ。帰ってきたら大人に怒られてたっけ」
「ね、ねーちゃん!止めてよ…」
「アハハ……あれ?イルマ、どうしたの?」
恥ずかしいエピソードを暴露されて顔を赤くするスグリと、それを面白がるゼイユ。
その様子に苦笑いしていたリコは、先程からイルマが看板から目を離していなかったことに気付いて声をかける。すると、イルマは顎に手を当てた状態で振り向き、リコ達に向けて口を開いた。
「ねぇ、鬼は何で怒ってたのかな?」
「「「「え?」」」」
予想外の質問に目を丸くする面々。
そこで、説明不足だったことに気付いたイルマは、看板に表記されている文字を指差しながら質問の理由を説明する。
「ほらここ、『ある日、怒り狂った鬼が山から下りて』って書いてあるけど、つまりこれって、その鬼は凄く怒ってたから山を下りてきたって事だよね」
「た、確かに……」
「村に下りてきたって事は、鬼は村の人達に対して怒ってたって事だよね?もしかしたら、鬼は何か酷いことをされて、それで怒って我を忘れちゃったんじゃないかなって……」
「鬼は、本当は悪者じゃなかったってこと?」
「まさか、そんなわけないじゃない」
「あぁ、あともう一つだけ。この看板に…」
リコ達が考え込むように看板を凝視し、ゼイユがイルマの推測を鼻で笑い、イルマは看板を指差してもう一つの疑問を口に出そうとする。
「歴史に興味を持つのは好きにすりゃいいけどよ。あッチ等には仕事があることを忘れんなよ?」
後ろからバチコに声をかけられ、イルマ達はこれから赫月が住まうとこしえの森に向かわなければならないことを思い出し、踵を返して歩きだすバチコの背中を慌てて追いかけ、ともっこプラザの入口に向かう。
一番後ろにいたイルマは、最後にもう一度ともっこの歴史が書かれた看板に目を向ける。
(ともっこの絵…多分あれ、人間だよね?)
鬼を追いかける絵は、二足歩行の動物に猿のような動物、そして鳥のような動物だが、その中に一人、人間のシルエットが描かれている。【イイネイヌ】【マシマシラ】【キチキギス】というともっこのトレーナーなのだろうか?
仮にそうだったとしたら、何故トレーナーに関しての表記は何もないのだろう?
(……まぁ、いいか)
しかし、これは例の赫月とはなんの関係もないことなので、イルマは即座に考えるのを止めた。考えても分かるはず無いのもあるが。
そうしてイルマは小走りに駆け出してフリード達に追い付き、パイモンの案内でとこしえの森を目指そうとする。
その時、
『ッ!?』
「な、何ッ!?」
突如、イルマ達がいる場所から少し離れた場所から大きな音がして、一同が目を見開いて音がした方向に顔を向けると、大きな煙がモクモクと立ち上ぼり、その爆心地らしき場所の近くに倒れている人間とポケモン影がいるのを見て、イルマは慌ててその人影の元に向かって走り出す。
「だ、大丈夫ですか……って死んでる!?」
イルマが駆け寄って呼び掛けるも、その人物は口の端から血を流して青白い顔でピクリとも動かない。
イルマがどうしようとアワアワしていると、その人物は口から血を垂らしたままムクッと起き上がった。
「や~、また失敗してしもうたわぁ。大丈夫か?」
「オル」
「大丈夫そうなやぁ。あぁ~、ぐちゃぐちゃやぁ~」
緑色の髪に銀縁の眼鏡を掛けた細面の男性は、UFOとテントウムシが合体したようなポケモン【イオルブ】に呼び掛けると口から血を垂らしながらも笑顔でそう言って、爆心地の近くにある道具を集め始める。
「あの…血が…」
「あ~、僕身体弱いんよ。大丈夫、吐血なんてしょっちゅうやから」
(そ、それはそれで大丈夫なのだろうか…?)
呑気に笑っている緑髪の男性にの言葉にイルマがリアクションに困ってしまう。
すると、フリード達が遅れてやってきて、緑の髪の少年を見たゼイユが、呆れたような声で口を開いた。
「キリヲ、あんたまた変な物作ってたの?どうせ失敗して爆発するんだからいい加減止めたらいいのに」
「あぁ、ゼイユさん。毎度毎度堪忍なぁ」
「ゼイユの知り合い?」
「まぁね、彼はキリヲ、あたしとスグと同じブルーベリー学園に通ってるのよ。科学部に所属していて学園で発明してんだけど、今みたいによく爆発してるわ」
「ブルーベリー学園?」
「イッシュ地方で最近設立されたオレンジアカデミーの姉妹校だ」
ロイの質問に、フリードが答える。
「あれ?じゃあ何でゼイユ達はキタカミの里にいるの?」
「近い内に、オレンジアカデミーの生徒が林間学校でキタカミの里に来るのよ。ここはあたしとスグの地元だから、先にここに来てたのよ」
「じゃあ、キリヲさんも?」
「いいえ、パイモンさんやキリヲはキタカミ出身じゃないわ。パイモンさんはバスラオの保護、キリヲは研究のためとかで勝手に入ってきたのよ」
「酷い言われようやな~」
「笑うところですかね……」
ゼイユの辛辣な言葉に未だに血を垂らしながら笑い飛ばす【キリヲ】。ゼイユは何処か冷たい態度ではあるが、彼等を見る目には嫌悪は見られない。
「あの、拾うの手伝いましょうか?」
「あぁ、気にしないでや。イオルブ達がおるし」
見てみると、イオルブがサイコパワーで機材を浮かして一ヶ所に纏めている光景が見える。確かにこれなら片付けを手伝う必要はないだろう。
「じゃ、僕はこれで」
そう言って、キリヲは機材をバッグにしまって歩き出す。爆発に怯えていたポケモン達に「すんません」と謝りながら、その後ろ姿が小さくなっていく。
その姿をしばらく眺めていたイルマ達は、再びとこしえの森を目指して歩き出した。
とこしえの森は、鬼角峡谷から北に進んだ先にある森だ。
森の中には【ブリムオン】や【キリキザン】、【カビゴン】といった野生のポケモン達が生息している。
「よし、それじゃあメンバーを決めるぞ」
陽が沈み、大きな月が上る夜。
ともっこプラザから徒歩でとこしえの森に辿り着いたフリード、バチコ、パイモン、リコ、イルマ、ロイ、ゼイユ、スグリの八人は、霧の濃い夜に現れるという『赫月』探すため、広い森を散策できるように二人四組にメンバーを分けることにした。
といっても無駄に議論して時間を無駄にするわけにも行かないため、即席で作ったくじ引きで決めることになり、イルマ達は順番にくじを引いていく。
「でぇ?何でわたすがおめぇみてえなアリンコと組むんだべや?」
「あ゛ぁ?此方だってテメェみてぇな青臭ェ奴と組むなんて願い下げなんだよ」
「あの2人がペアで大丈夫かな…?」
「気にするなロイ。直に慣れる」
「残念だったわね、スグリ。イルマと一緒じゃなくて」
「ねーちゃん!バカ!何で言うの!」
「バカとはなんだ!手ぇ出るよ!」
「「アハハ……」」
メンチを切り合うバチコとパイモンのペア。その二人の様子にひきつった笑みを浮かべるロイと平然としているフリードペア。ゼイユはスグリにからかいの言葉を掛けると、スグリは顔を赤くして反論する。そしてその様子に苦笑いするイルマとリコのペア。
「よし、それじゃあこれから赫月を探しに行くが、誰かのペアが見つけたら、直ぐ皆に連絡をしてくれ。くれぐれもバトルをしようとするな。俺達の目的はあくまで赫月の調査だ。戦うことじゃない」
「ピーカァッ!」
気持ちを切り替えたフリードとキャップの号令に、一同は別々の方向に歩き出した。
「「……」」
「もふぅ~」
「ニャ~」
そうして、必然的に二人になったイルマとリコの間に、ドヨ~ンと重い空気が漂い始める。お互い、気まずそうな表情で目を反らしており、その光景を見たモクローとニャオハが「またか…」というようなため息を吐く。
(うぅ…気まずい……こうして二人きりになると、どうしてもあの時の事を思い出しちゃう…)
(さっきも自然に話しかけても少し引かれたし……あの日一度理由を聞こうとしてビンタされそうになったし。『しつこい男は嫌われる』って前に何かで読んだ気がするし、今は様子を見ておこう……)
二人がこう気まずくなっている原因は、ハッコウシティで失くした記憶を取り戻したリコがイルマと事故でキスをしてしまったのが原因だ。とはいえ、イルマはキスと同時に後頭部を強く打った為にその記憶はない。
だが、イルマと違って記憶がバッチリと残っているリコにはたまったもんじゃない。イルマに他の女の影があれば殺人鬼みたいになるヤンデレ気質なリコだが、そうでなければリコは乙女だ。生まれて初めて、しかも気になっている男とキスしてしまったのだ。イルマの顔を見るだけでその時の記憶がフラッシュバックされ、平常心ぇいられなくなるリコは会話が出来ずにいた。
一方、キスの記憶がないイルマは、そんなリコの様子に「自分が知らないうちにリコに何か嫌なことをしてしまったのではないか」と思い、落ち込んでいた。考えても理由が分からず、パルデアから出航した際に思いきって訪ねてみたのだが、ビンタ(空振り)で返されてしまった上に、さっき何気なく話しかけても少し引かれた為、イルマは『しつこい男は嫌われる』という言葉を思い出し、これ以上嫌われてはならならいと話すタイミングを見失いかけているのだ。
しばらく会話もなく森の中を歩いていくと、イルマの周囲が白い霧に包まれる。
「!これって……」
「ニャー!」
「霧が……じゃあこの近くに」
「もふ!」
慌ててイルマとリコが辺りを見渡すと、背後から「ズシン…ズシン」と、何かが大地を踏みしめる音が聞こえてきて、イルマ達はバッと後ろを振り替えると、そこには巨大なポケモンがいた。
そのポケモンは、熊に似た姿をしていた。
二足歩行で、かなりの猫背でありながら2m以上はありそうな身体に薄茶色の体毛。身体には灰色の物で覆われており、その灰色は顔の左半分まで覆う形になっており、その禍々しい姿はまるで常世をさまよう亡霊のよう。
左目は眼帯をしているかのごとく黒く変色し、らんらんと不気味に輝く緑の黒目。
そして最大の特徴は、額にある血が重なったようににじんだ真っ赤な満月の模様。
「も、もしかしてこれが……」
「赫月…!」
まさか、こんなにも早く見つかるとは思わなかった。
イルマは慌ててフリード達に連絡しようとスマホロトムを取り出した瞬間、その熊のようなポケモン…赫月は、ギロリとイルマとリコを睨み付けると、右腕の鋭い爪が発光し、右腕を振り上げた。
「ワギヤアアアアアアッ!!」
「えぇえええっ!?」
「急に怒り出した!?」
イルマとリコがとっさに逃げ出した瞬間、赫月は右腕を勢いよく振り下ろす。
右腕が振り下ろされた地面から轟音がなり、爆発したような衝撃が発生する。
その衝撃波にバランスを崩しそうになるものの、イルマとリコはなんとか体制を崩さずに、全速力で赫月から距離を取ろうと走り続ける。
「ワギャアアアアッ!!」
「?……ッ!リコ!危ない!」
「えっ?きゃあっ!?」
その時、赫月は天に向かって大きく吠える。
その瞬間、イルマは第六感が働いて、リコに抱き付くようにリコを巻き込んでその場から飛び退いた。それを見て、空を飛んでいたモクローはニャオハを掴んで飛び上がる。
その瞬間、リコ達が踏み込もうとした地面から、火柱のようなエネルギーが吹き出した。地面から地殻変動の起こすエネルギーを放出する“だいちのちから”だ。
「きゃああっ!?」
「わぁっ!?」
「ニャ!?」
「もふ!?」
そのエネルギーの勢いに、イルマとリコは思わずその場で倒れてしまう。ニャオハとモクローは逃げるのを止めて自身のパートナーの元に駆け寄る。
痛みに顔をしかめながら起き上がると、そこには赫月が目前まで迫ってきており、発光させた爪を振り上げている姿を見て、2人の顔が青ざめる。
赫月が爪を振り下ろそうとした瞬間、ハスキーな声が響き渡った。
「ジュナイパー、“リーフブレード”!」
「ジュナッ!!」
イルマ達と赫月の間に割り込んだジュナイパーが、緑色の刃で赫月の爪を迎え撃つ。
金属がぶつかり合う音が響き、ジュナイパーは赫月から弾かれるように離れ、イルマとリコを守るように2人の前に着地する。
「リコ!イルマ!」
「師匠!パイモンさん!」
「ロイ!フリード達も!」
「凄い音がして来てきてみたら…コイツが赫月なの!?」
「わ、わやじゃ…」
チルタリスの背中に乗ってきたバチコとパイモンに続くように、ロイとフリードと、ゼイユとスグリも走りながらやってくる。どうやら、先程の“きりさく”の際に発生した轟音を聞き付けてやってきたらしい。
「ワギアアアアアアアアアアアアッ!!」
すると、目の前にいる人間の数が増えたことを確認した赫月が一際大きな方向をあげたかと思うと、赫月の額の赤い満月が光り輝くと、凄まじいエネルギーが集まっていく。
「ッ!!不味い…リザードン!」
「ジュナイパー!チルタリス!飛べ!」
「アブリボン、“マジカルシャイン”だ!!」
その光景を見た手練れのトレーナーであるフリード、バチコ、パイモンの顔が強張り、三人は一斉に指示を出す。
フリードのモンスターボールから飛び出したリザードンが背中にフリードとロイを乗せ、両腕でリコとイルマとゼイユとスグリの四人をぬいぐるみのように抱えあげる。
チルタリスはバチコとパイモンを乗せたまま飛び上がり、ジュナイパーもそれを追うように翼を羽ばたかせて飛び上がる。
そして、パイモンの指示を浮けたアブリボンが、今にも技を放とうとしている赫月の数メートル手前で身体を発光させ、虹色の光の束が赫月の回りの地面にぶち当たり、小規模の爆発が起きた。
その爆発に怯んだのか、赫月は技を放つのを止め、キョロキョロと辺りを確かめる。
“マジカルシャイン”は自身に直撃しなかった代わりに、地面から発生した爆発によって爆煙が擬似的な煙幕になっていて、先程の人間達の姿を見ることが出来なくなっていた。
暫くして煙が晴れてくると、そこには先程の8人の人間とポケモン達の姿は何処にも見当たらなかった。
「ワギ……」
それを見た赫月は、もう興味がなくなったように踵を返し、ズシンズシンと足音を鳴らしながら、霧の向こうへと姿を消していった。
方言にはあまり詳しくないんですよね……キャラの口調に違和感があれば、遠慮無く指摘してください。直ぐに直します。
碧の仮面の隠しボスであるガチグマ(赫月)を登場させた理由としては、ライジングボルテッカーズがガラル地方から進路を変更してキタカミに向かう理由が、仕事の依頼しか思い付かなくて、キタカミのポケモンで真っ先に思い付いたのがガチグマだったからです。
感想、評価お待ちしております。