魔入りました!入間くん if Episode of ポケットモンスター 作:MTHR
今回のタイトルの元ネタは暴太郎戦隊ドンブラザーズのドン31話「かおバレわんわん」です。そして話の内容はタイトルで分かる通り、今章のメインポケモンが本格的に登場します。碧の仮面と殆ど大差ない内容になっていると思いますが、ご了承下さい。
真夜中。
スイリョクタウンの北にあるキタカミセンターでは、この時期には毎年『オモテ祭り』という祭りが開催される。
提灯の明かりが夜のキタカミセンターを照らし、太鼓や人々の声で賑わっている。
「……ぽに」
『鬼が山』と呼ばれる、遠くから見ると鬼の顔をしているような山の上で、祭りで賑わうキタカミセンターを眺めている緑色のポケモンの姿があった。
そのポケモンは何処からか緑色の宝石が埋め込まれた仮面を取り出し、それをつけて顔を隠すと、キタカミセンターに向けて歩き出そうとする。
「…ぽ?」
その時、そのポケモンの目の前に、風に乗って何かが落ちてきて、そのポケモンはそれを拾い上げる。
落ちてきたのは、二本の角があるようにも見える、黒いリボンがつけられた白い中折れ帽だった。
「ぽにぃ?」
鬼が山の『鬼歯空洞』と呼ばれる場所にある、滝と草木、そして洞窟がある空き地。
イルマ達を抱えてフリードとロイを乗せたリザードンと、バチコとパイモンを乗せたチルタリス、そしてジュナイパーは、その空き地に着地した。
「一先ずここで休憩にしよう。リザードン、よくやった」
「ジュナイパー、お前は先に戻って休んでろ」
「アブリボン、煙幕ご苦労だべ」
「た、助かったァ…」
「帽子どっかに行っちゃった……」
フリードはリザードンの肩に手を置いて彼を労り、バチコも同じようにチルタリスを労りながらジュナイパーをボールに戻し、パイモンは後から追ってきたアブリボンを指に止める。
リザードンから下ろされたリコ達は極度の緊張から解放された事でそその場で膝を着く。イルマは、リザードンで飛んでいる最中に帽子を落としてしまったらしく、青いアホ毛が露になった頭を擦る。
「にしても、この洞窟は…?」
「恐れ穴。鬼さまが住んでるって言われてる……何度来ても会えた事ねぇけど」
『恐れ穴』と呼ばれる人間が入れる程の大きさの洞窟を説明するスグリ。
一息着いた一同は、とこしえの森で遭遇した赫月と呼ばれる熊のポケモンについて話し合う。
「……にしても、あれが赫月…」
「うん。初めて見るポケモンだけど、一体……」
「ガチグマだな」
「え?」
フリードの言葉に、一同はフリードに視線を向ける。
「フリード、あのポケモンの事知ってるの?」
「あぁ。と言っても、特徴が似てるからそう思うだけで、確証は無いんだがな……」
そう言ってフリードは、スマホロトムを操作して、画面に映ったポケモンをイルマ達に見せ、イルマ達はスマホロトムの画面を覗き込む。
そこには、赫月と酷似した、しかし四足歩行で、体は赫月の体と同じで灰色のもので覆われているが顔までは侵食されておらず、その灰色は額の模様に付いていて眉毛のようになり、月を隠す雲のようになっており、朧月を思わせる中々オシャレなデザインをしたポケモンだ。昔のものなのか、写真に色は着いていない。
「ホントだ。似てる……」
「フリードさん、ガチグマって?」
「ガチグマは、しろすじのバスラオと同じ、ヒスイと呼ばれた地方にいたポケモンだ。今じゃ姿を見られないと思っていたんだが……」
「生き残りがいたってこと!?」
ゼイユが驚いたような声でそう言う。それが本当なら、これは大発見と言っても過言ではない。何せ、絶滅していたポケモンの生き残りがいたのだから。
しかし、フリードは腕を組んで、難しい表情で考え込んでいた。
「確かに、赫月がガチグマである事は間違いないだろう。だが、赫月は記録に残ってるガチグマと違う部分も幾つかある。最後に使おうとした技も、俺の知識にはない。それに、どうしてガチグマがバラバラに人を襲うのかも分かっていないからな……」
そこまで言ったところで、フリードは顔を上げて笑みを浮かべた。
それは、カントー離島で古のモンスターボールからレックウザが出てきた後に、レックウザとペンダントの謎を暴くと決意した時と同じ表情だった。
「面白い…!ポケモン博士の血が騒ぐ!早速、ガチグマの調査開s──」
「調査開始だ」と言おうとしたところで、間の抜けた音が響き渡った。
その場にいた全音は、その音がした方向の先にいた──お腹を抑えて苦笑いするイルマに視線を向けた。
「おいおい、そこで腹空かせるか普通?タイミング悪ぃな」
「イルマ、空気読もうよ……」
「い、いやぁ~…アハハ、気が抜けたらなんだかお腹空いちゃって…」
「そう言えば僕も…」
「ホゲ~」
空気を読まないイルマの腹の虫にジト目を向けるバチコとリコに、イルマは後頭部をかいて苦笑いする。そんなイルマの言葉に、ロイとホゲータも空腹を覚えたのかお腹を手で抑える。
そこで、スマホロトムで時間を確認したフリードが口を開く。
「そういや、まだ飯を食わずに森に向かっていたんだからな……ガチグマの調査は明日から始めよう」
『腹が減っては戦は出来ない』という諺もある。なのでここは一度戻り、明日から本格的な調査を始めようと提案するフリード。
その時、スグリが弾んだ声を上げた。
「そうだ!今日からキタカミセンターでオモテ祭りさ始まんだ!」
「あぁ、そう言えば今日だったべな」
「オモテ祭り?」
「皆でお面被って参加する祭りよ。出店もたくさんあるから、晩御飯にも丁度良いわね」
「お祭り…!」
「出店…!」
それを聞いて、リコ達は目を輝かせる。
パルデアやカントーには祭りといった文化は無いので、祭りに言ってみたいという気持ちが出てきたのだろう。イルマの方は完全に出店の食べ物しか考えていなさそうだが。
そんな彼らの様子を見て、フリードは笑顔で言った。
「そうだな!その土地の文化に触れるのも冒険の醍醐味だ!」
「よーし!オモテ祭りに行きましょう!」
「「オー!」」
「うん!行こ……っか!」
こうして一同は、キタカミセンターのオモテ祭りに参加しに行くこととなった。
「お面色々~!」
「かき氷どうぞ~!」
「りんご飴いかがです~?」
「どれがいいんだい?」
「えっと、えっとね!」
「らっしぁあせーい!!」
キタカミセンターの入り口付近にある出店で焼きそばを作っている男が、轟くような声で呼び掛けをする。
香ばしい臭いがする焼きそば屋の前に五人の男女がやってきて、緑色の吾平を来た黒髪の少女が注文する。
「えっと…焼きそば十二人前ください」
「まいどありぃっ!」
店員はテキパキと十二人前の焼きそばを用意すると、それを6つずつ袋に詰めて黒髪の少女に手渡す。黒髪の少女──リコはその袋を両手で受け取る。やはり十二個はキツいのか、持った際に少しだけ落としそうになってしまう。
すると、彼女のとなりにいた青い髪をした碧の吾平の少年が前に出てくる。
「それから、それもください」
青い髪の少年──イルマが指差した先にあったのは、高さ50cmは越えていそうなほどの山盛りの焼きそばだった。二郎系ラーメンが米粒に見えるほどのスケールだ。
「兄ちゃん!あれは目玉商品の鬼盛りだ!食べきったらタダ!ただし残したら罰金一万円だ!それでも挑戦するかい!?」
「はい!」
「良い返事だ!それなら食えるものなら食ってみろ!」
「「「「ハーッハッハッハッハ!!」」」」
「ごちそうさまでした」
「「「「ハァアアアアアアアア!!?」」」」
あっという間に、イルマは焼きそばの山を平らげた。しかも、食事時間は僅か3秒。
「すみません、おかわりください」
さらにおかわりまで要求するイルマに、一瞬で燃え尽きた焼きそば屋の店員達は一斉にぶっ倒れ、店がグシャァッ!と音を立てながら崩れた。
「わ、わやじゃ……一瞬で……」
「あの鬼盛り……誰も完食できた事無いのに……」
「イ、イルマならあれの三倍くらいはいけるよ…」
「僕も食べたかったなぁ~」
スグリとゼイユは唖然とし、リコは苦笑い、ロイは何処か羨ましそうに、ナプキンで口元を拭くイルマの姿を見ながらも、購入した焼きそばを食べる。
「うん、美味しい!」
「ニャオハ!」
「本当だ!」
「そうでしょ。パルデアではこーんな大きなお祭りやってないんじゃない?」
「うん。こんなに賑やかなお祭り初めて……」
「ウフフ、意外とキタカミ、都会にも負けてないのね」
「……リ、リコ、ロイ…気ぃ使わなくていいからな」
「え?いやいや、気を遣ってなんていないよ!本当の事だから」
焼きそばを食べながら、仲良さそうに話すイルマ、リコ、ロイ、ゼイユ、スグリ。
リコとロイとイルマの三人は緑色の吾平に身を包んでおり、スグリは白の吾平に鬼のお面、ゼイユは青色の吾平にマシマシラと呼ばれるポケモンのお面を着けている。
イルマ達の吾平は、リザードンとチルタリスに乗ってオモテ祭りに向かう際に立ちよったスグリとゼイユの実家に住んでいる祖父母から貰ったものだ。流石に人数分のお面は無かったようだが、それは後で買えるからと着けずに行くことにしている。フリードは、調べたいことがあるからとお土産を頼んで先に船に帰っていっている。
そしてゼイユとスグリの案内でキタカミセンターにやってきたイルマ達は、まずは腹ごしらえをするために焼きそばを購入していたのだ。まぁ、イルマが潰してしまったのだが。
「けど、まだまだ店はたくさんあるわよ」
「よし、行こう!」
「ホーゲー!」
そうして、一同はオモテ祭りで賑わうキタカミセンターを進んでいく。
道中、かき氷を購入してシロップの色に染まった舌を見せあったり、水ヨーヨー掬いをしたりしながら、一同はキタカミセンターの神社の前までやってきた。
「それにしても…本当に皆お面を被ってるんだね」
「えぇ。オモテ祭りは、ともっこさまの雄姿を称えるお祭りなのよ。ともっこさまはかつてキタカミを悪い鬼から守ったポケモン!あたしとか村の子のお面も、ありがた~いともっこさまの顔なんだよ」
「……ふふふ」
「ああん?なに笑ってんのよ?」
「べ、別に!鬼さまの事なんも分かってないなー…って思って」
「はー!?キタカミ伝説はあたしの方が詳しいっての!弟の癖に生意気!」
「……うぅ」
「まぁまぁ、ゼイユも落ち着いて……」
そこで、リコが苦笑いしながら宥める。
その時、両手にりんご飴を持っていたイルマはふと、神社の左手側に見覚えのある看板が立て掛けられているのを発見した。
「?あれ、あの看板、ともっこプラザにもあったやつだ……」
「あぁアレね。ともっこ伝説を記した看板は3つ設置されてるのよ」
「行ってみよう!」
「ホゲゲ!」
「あっ、ロイ!」
内容が気になったロイはホゲータと共に看板に向けて走りだし、リコ達も続いて追いかける。
看板の前にたどり着き、一同はその看板に書かれている内容を読み上げる。
「えーっと、こう書いてあるね……」
鬼は 不思議な 四つの 輝く面を 持っておった
被る面に よって 鬼が振るう 棒の力が 変わったそうな
碧の面を 被れば 枯れた植物を 生き返らせ
赤の面を 被れば 蝋燭の火を ごうごうと 燃やし
青の面を 被れば 川の流れを せき止め
灰の面を 被れば 硬い岩も やすやすと砕いた
ともっこ達は 倒れ際 三つの面を 奪い 鬼の力を 殆んど 封じたと される
「この看板は、鬼について書かれてるんだね……」
ともっこプラザの看板とは少し内容が違い、この看板には物語に出てくる鬼の力の源であるお面について書かれていた。
「ともっこ達が奪ったって言われるお面は、キタカミセンターに保管されてるわ」
「あの神社に?」
「そうよ」
「そにしても、お面で力が変わるポケモンか~…会ってみたいねホゲータ」
「ホゲ!」
ロマンを感じるのか、ロイとホゲータは看板に書かれた内容をキラキラとした目で見る。イルマとリコもなくとなく興味が湧いたのか看板を眺めていると、スグリがおずおずと口を開いた。
「村の皆は怖がってっけど……おれ、鬼さまの事…好きだ。強いし、カッコいいし……人間から仲間外れにされてもへっちゃらーって感じで、小さい頃から憧れてて…」
そう言って、スグリは再び看板に目を向ける。
「おれも、鬼さまみたいにカッコよくなりたい。それで…ちゃんと一人前になって、鬼さまと……友達になれたらいいなって…」
恥ずかしそうにそう語るスグリ。
ゼイユは何もいわずにスグリを見て、イルマがそんなスグリに声をかけようとした時……
「あッチの方が早く風船を割っていたな!」
「わたすの方が早く木の実を重ねてたべ!」
聞き覚えのある声同士が言い争っているのが聞こえてきて、一同は一斉にそちらの方を向く。
そこには、神社の右手側にある大きめの出店の前で言い争っているバチコとパイモン、そしてそれを宥めようとするジュナイパーとアブリボンと、店の従業員らしき鬼のお面を被った女がいた。
「パイモンさん……」
「し、師匠お祭りに来てたんだ……でも何を言い争ってるの?」
「あぁ、あれは鬼退治フェスね」
「鬼退治フェス?」
そこでゼイユが説明する。鬼退治フェスはオモテ祭りの行われているキタカミセンターにて遊ぶことができる催し物の一つで、ポケモンにライドしてオーガポンのお面が描かれた風船・オニバルーンを割ってきのみを集め、きのみ台まで運んでスコアを稼ぐゲームだ。因みに、ライドポケモンがいなくても【オドシシ】がスタンバっているので問題ない。
「面白そう…僕もやりたい!」
「ロイ!…イルマは行かないの?」
「あー、先に行って遊んでてよ。僕このりんご飴食べ終わったらすぐに行くから」
「わ、わかった」
「私たちも行きましょうスグ」
「えっ、ちょっと、ねーちゃん!?」
モクローを指定席である右肩に乗せたイルマは右手に持ったりんご飴を齧りながら、鬼退治フェスの屋台に行ってバチコとパイモンに話し掛けるリコ達の姿を見て、もう一回りんご飴を齧ろうとする。
その時、イルマの前を、緑色の何かが横切った。
「……ん?」
「もふ?」
イルマとモクローは、緑色の何かが向かった先に顔を向ける。
鬼が山に続く階段の前にある三角の形をした鳥居のようなものの数メートル手前に、誰かがいるのが見えた。
緑色の半纏を羽織っているような姿で、顔は厳つい形相の緑色の「鬼」のお面で隠されているので、顔を見ることは出来ず、身長は目算でもイルマの胸元辺りまでしかなくかなり低い。
その緑色の子は、辺りをキョロキョロと見渡してから何かに喜ぶようにその場で跳び跳ねたかと思うと、イルマの視線に気づいたらしく、ハッとしてこちらに視線を向けてきた。
イルマは両手にりんご飴を持ったまま、その緑色の子の前に歩み寄ると、その碧の子と視線を合わせて口を開いた。
「君、そんなところで何をしてるの?迷子?」
「もっふもふ?」
「……ぽに?」
イルマとモクローの言葉に、碧の子はお面越しにイルマを見つめる。
なんとなくイルマも見つめかえすと、その子が着けている緑色のお面を間近で見た。
スグリも鬼のお面をつけていたが、このお面は木彫りのお面であり、そのお面の出来栄えは、そこら辺の市販のお面よりも遥かに精巧な造りである事が分かる、見事なお面であった。
「……ぽ?」
「凄い…素敵なお面だね!」
「…ぽにおっ!」
「ぽに?」
思わずマジマジとお面を眺めていたイルマにその子が首を傾げたのを見て、イルマが心からの言葉を送ると、その子供は誉められたことが嬉しかったのか、ピョンピョンと跳び跳ねて喜びを露にして、よく分からない言葉を喋る。
その不思議な言葉にイルマが首を傾げていると、その子のお腹から「ぐうぅ~」という音が聞こえてきて、イルマは思わず苦笑した。
「君、お腹空いてるの?」
「ぽにぃ……」
「それじゃあ、これ一本上げるよ」
イルマは手に持っていたりんご飴をその子に差し出す。
緑色の子供は差し出されたりんご飴をマジマジと眺めた後、顔を近づけてクンクンと匂いを嗅ぐような音がしたかと思うと、羽織で隠れた手でりんご飴を受け取ると、イルマに背中を向け、お面を上にずらしてりんご飴を頬張った。
シャクシャクという音が聞こえてきて、少ししてその音が聞こえなくなってきたかと思うと、再びお面で顔を隠したその子がお礼を言うように、イルマを仮面越しで見ながら不思議な言葉で喋る。
「がお、ぽにおーっ!」
「フフフッ、そのりんご飴美味しいよね」
嬉しそうに跳び跳ねるその子に、イルマも自然と笑顔になる。
そんなイルマ達に、後ろから声がかけられた。
「聞いてよ、イルマ!」
「あっ、ゼイユさん」
振り返ってみると、そこには鬼退治フェスに行っていたゼイユが駆け寄ってきていた。ゼイユはイルマの前までたどり着くと、スグリが鬼退治フェスで好成績を出せなかったとか、ロイリコが風船を割って集めた木の実をヨクバリスやゴンベに食べられただのと話す。
「…!」
その時、ゼイユを見た碧のお面を被った子が、突然踵を返して走り出した。
鳥居を潜り抜け、鬼が山に続く階段を駆け上がる様子を、イルマとゼイユは立ち止まって眺める。
「誰、あれ?」
「分かりませんけど……ちょっと行ってきます」
「あっ、ちょっと!」
ゼイユの返事を聞かずにイルマは駆け出し、鳥居の前までたどり着いた。
階段を見上げると、一つ目の階段の上まで登りきったお面の子が、お面越しにこちらを見つめていた。
互いに、無言でお互いの顔を見つめ合う。
「イルマ!ねぇ、勝手に行かないでよ……さっきの子も、おーい!」
「ッ!!」
その時、イルマを追いかけてきたゼイユが声をかけ、階段の上にいるお面の子にもこっちに来るように呼び掛ける。
声をかけられたお面の子は、その場から一歩二歩後退ると、一気に後ろにジャンプした。着地した際にバランスを取り損ねたのか、その子がよろけた拍子に、その子の顔を隠していたお面が外れた。
外れたお面が階段の上を転がって仰向けに倒れると、お面は滑り台のように、階段の前にいたイルマの足下まで滑り落ちる。
お面の子の素顔が露になり、それを見たイルマは目を見開いた。
「!ぽに…!」
橙色の肌に前髪のように垂れている葉っぱ、上顎から伸びた2本のキバ、さらに目には星のような模様が入っている。
それは明らかに人間ではないと見抜いたイルマは、半纏で隠れたような腕で顔を隠そうとするその生き物に、声をかけた。
「…君、ポケモンなの?」
イルマはスマホロトムを取り出し、目の前のポケモンらしき生き物を検索しようとするが……
『データ無し』
「図鑑に無い……」
『⚠』のマークが表示され、一切のデータが表示されなかった。
スマホロトムをしまったイルマは、足元まで滑り落ちた緑色の大きめのお面を拾い上げ、再びそのポケモンを見上げる。
「……これ、君のお面でしょ?」
「……ぽに…」
イルマは階段の手前で、両手で持ったお面をそのポケモンに差し出すように前に突き出して声をかけると、両手で顔を隠そうとしているそのポケモンは、お面を受け取ろうとおずおずと前に歩きだそうとする。
そこで、隣にいたゼイユが再びそのポケモンに呼び掛ける。
「戻ってきなよ!夜の山は危ないからさ!」
「!……ぽにっ!」
どうやらゼイユはあのポケモンを人間と思っているらしく、山から戻るように呼び掛けるが、そのポケモンはゼイユの言葉に怯えたように踵を返すと、鬼が山に向かって走り出していってしまった。
数秒もしないうちに完全に姿が見えなくなると、イルマとゼイユの空間を謎の沈黙が支配する。
「何あれ、何処の子よ……」
碧のポケモンが走り去っていった場所を見続けていたゼイユが呟く。
「いや、多分人間じゃないです。ポケモン、だと思います…」
「そんなこと……えっ?じゃあさっきの山に入って行ったのって……」
イルマの言葉を否定しようとするが、ゼイユは確かにあの子の姿が明らかに人間のものではなかったことを思い出すと、頭の中にある可能性が思い浮かび、次の瞬間には思わず大声で叫んでいた。
「もしかして鬼!?歴史の看板に出てくる!?えーっ!?あれってマジ話だったの!?」
「信じてなかったんですか!?」
「ずっと村おこしの為の作り話だと思ってたのよ!……でも」
ゼイユは再び、碧の子──鬼がいた階段に目を向ける。
「お面落としていったし、そう言うことだよね……」
次に視線が向けられたのは、イルマの手の中にある、鬼が被っていた碧のお面。
あれが本当に鬼だとするなら、このお面はあの看板にあった『枯れた植物を生き返らせる』という、鬼の力の源だ。しかしそんなものが突然手に入ってもどうすれば良いのかなど分かるはずもなく、イルマとゼイユは困ったように階段の上を見上げる。
「イルマ~!」
「ねーちゃん!」
「「ッ!!」」
その時、不意に後ろから声をかけられて、イルマとゼイユは同時にバッと後ろを振り向いた。
そこには、鬼退治フェスを終えたリコ、ロイ、スグリが、イルマ達の方に歩み寄ってきた。その後ろにはバチコとパイモンの姿もある。
「何時までも来ないから心配したよ…こんなところで何してたの?」
「実はさっき、そこで昔話のおnムグッ!?」
リコの質問にイルマが先ほどの出来事を伝えようとした瞬間、イルマはゼイユに口を塞がれた。
「何?ねーちゃんどうしたの?」
「何でもない!何でもないから!」
「ふーん……どうせおれの悪口さ言ってたんだべ。……お祭りさ戻ってるよ」
「あっ、スグリ!」
「ホゲゲ!」
訝しげな表情のスグリに、ゼイユは両手をブンブンと振って誤魔化す。それを見て、スグリはいじけるようにそう言って、踵を返して祭りに戻っていき、ロイとホゲータがそれを追いかける。
それを見たイルマは、ゼイユと共にその場に残っているリコ達に背を向けると、互いに顔を寄せてヒソヒソと話し合う。
「ちょっ、どうしたんですかゼイユさん!何で誤魔化したんですか!?」
「それはこっちの台詞よ!急にぶっ込むんだもん。ビビったじゃない!」
「もふ…」
後ろにいるリコ達には聞こえないように、イルマとゼイユは顔を寄せて小声で話す。だが会話に参加していなかったモクローは、背後から感じた不穏な空気にビクッと体を振るわせた。
しかし二人はそれに気づいた様子もなく、小声で会話を続ける。
「スグって鬼の事、本当に、すっごくすっごく好きなの!だから……あたし達だけ鬼に会ったって知ったらあの子、ヤな気持ちになるかもって……考えすぎ?」
「い、いえいえ!すっごく素敵な考え方です!」
予想に反して弟思いのゼイユの考えに、イルマは小さく首を振った。
「それに、今から鬼を追っかけて山に入りても困るしね…」
「それは確かに…」
「取り合えず、さっきのは私達だけの秘密。拾ったお面のことも、何とか誤魔化して」
「分かりました」
ゼイユの提案にイルマは頷いた。
隠し事をするようで気が引けるが、ゼイユの考えも理解できる。だかそうなると必然的に
その時、二人の背後から再び声が投げ掛けられた。
「……ねぇ、二人で顔を寄せて何を話してるの?」
「へェ……イルマ、お前いつの間にソイツとそんなに仲良くなったんだ?」
「ゼイユが男に興味持つ日が来るなんてな…」
ハイライトが消えた真っ黒な目で二人に笑顔を向けるリコと、ニヤニヤと面白がるような表情のバチコに、無表情ながらもどこか楽しんでいるようなパイモン。
そんな三人に、イルマは碧のお面を背中に隠して、片手をブンブンを振るう。
「い、いや…別になんでもありませんよ。ただ世間話してただけですから」
何でもないという事はないだろうと自分でも少し無理があることは自覚しているが、言い訳が思い浮かばないのでそれで押し通すことにする。
そんなイルマの様子に、リコは訝しげな表情をし、バチコとパイモンは何処か面白そうにイルマを見る。
「えーっと…僕、そろそろ船に戻りますね。リコ達はお祭り楽しんでて良いから」
ここは先に船まで帰ってやりすごそうと、イルマはリコ達の間を潜り抜けてブレイブアサギ号を目指す。
「おい、イルマ。まだ祭りが終わる時間じゃねーのにもう帰んのか?」
「は、はい。十分楽しんだので…」
「ん?おめえが持ってるそのデケェ面はなんだべ?」
「いや、これは…気にしないでください」
バチコとパイモンの質問に曖昧な返事をしながら歩いていくと、突然肩をガシッと捕まれた。
「ちょっと待ちなさい」
「え?ゼイユさん?」
イルマを呼び止めたのは、ゼイユだった。
その際に、リコの体から紫色の炎のようなオーラが吹き出した。ニャオハとモクローは少し恐怖した。
「あんたのスマホロトム貸しなさい」
「え?何でですか?」
「良いから貸しなさい」
イルマがおずおずと取り出したスマホロトムを奪ったゼイユはポチポチと画面を操作すると、スマホロトムをイルマに返した。
「あたしの番号、登録しといて上げたから」
「え?」
パチクリと目を瞬かせるイルマに、ゼイユは顔を寄せて小声で話す。
「鬼やお面の事、このまま放置するわけにはいかないじゃない。あんた達の乗ってる船の場所なんて知らないんだし、明日あたしが呼び出したら一人で直ぐに来なさいよ!」
「は、はい」
ゼイユの言葉に頷いたイルマは、再びブレイブアサギ号を目指して歩き出──
「よし、じゃあ今度こそ──」
「……待って」
──そうとした瞬間、イルマはチャームポイントの三本のアホ毛をガシッと捕まれ、足が止まる。
背後から感じるイヤーな気配に、イルマは壊れた玩具のような動きで振り向くと…
「イルマ…何でいきなりゼイユと連絡先交換してるの…?ゼイユと話してたのって絶対に世間話じゃないよね……どんな話してたのか、教えてくれない…?」
夜空よりも真っ黒な瞳で、体から禍々しいオーラを放つリコが、顔は笑っているのに全く笑っていない目でこちらを見ていた。この時のリコには、先程まで自分達が気まずい雰囲気だった事すら忘れ、ゼイユと近い距離で話しているイルマに詰め寄る。
その圧倒的な迫力に、ニャオハやモクローは勿論、バチコやパイモンやゼイユまでもリコから少し距離を取った。
(あ、これしばらく帰れないやつだ……)
結局、正座させられてリコからの質問責めをなんとか誤魔化しきったイルマがキタカミセンターから出られたのは、それから30分後の事だった……。
次回、オーガポンの真実が明らかになります。
ゲームの通りにのけ者にされたスグリがどうなるのかは……作者にも分かりません。
感想、評価お待ちしております。