魔入りました!入間くん if Episode of ポケットモンスター 作:MTHR
最近、リコさんのヤンデレ具合が激しくなってる気がしてます。作者がノリと勢いで面白がって書いてるせいなんですけどね。何処かで軌道修正しないとキャラが完全に壊れる気がします(今更ですけど)。
オモテ祭りの翌日。
赫月という異名を持つガチグマの生体を調査するためにキタカミの里にやって来たライジングボルテッカーズは、ミーティングルームで朝食を取りながら話をしていた。
「で、そのガチグマ、どうやって調査するの?昼間に見た人はいないんでしょう?」
「あぁ。霧の濃い夜にしか現れないって話だからな……だが、いなくなる訳じゃあない。とこしえの森を中心にガチグマの住み処を探してみるつもりだ」
「僕も行きたい!」
「よし、じゃあ俺とロイでガチグマの調査。皆は、船の整備や買い出しやらをすませておいてくれ」
ガチグマの目撃証言に共通しているのは、霧の濃い夜にとこしえの森で現れたというものであり、昼間にガチグマを見たという証言は一つもない。しかし、その場から消えていなくなるなんて事はゴーストタイプでもない限りあり得ない。なのでフリードは、早速調査に向かうことにすると、ガチグマの事に興味津々なロイも同行を申し出た。フリードはそれを許可すると、他のメンバーに船の安全点検やら買い出しやらを頼む。
その時、イルマのスマホロトムが鳴った。メールが着たらしく、イルマはそれを取り出してメールを確認競る。
『公民館で待ってるわよ ゼイユ』
要件だけのそっけない文面だったが、話す内容を理解していたイルマは、まるで手品のような速度で朝食を食べ終え、席を立った。
「ごちそうさま」
「おかわりしないのか?」
「あっ、はい。僕これから少し用事があるので」
普段は必ずするおかわりをしない事にマードックがイルマに訪ねるが、イルマは理由を話してミーティングルームを退室しようとすると、すかさずリコが身を乗り出した。
「ね、ねぇイルマ!私も行って良い?」
「ごっ、ごめん。一人で行かないとダメな用事なんだ!直ぐに戻るから!」
昨晩ゼイユに秘密だと言われているので、例えリコであっても同行を許すわけにはいかない。
モクローを肩に乗せたイルマはリコにそう言ってから、自室に戻って例のお面を風呂敷に包んで、そそくさとブレイブアサギ号を出た。
「すみません、ゼイユさん。遅れました」
「もーふぅ!」
「イルマ!待ったわよ!」
「ソチャチャ」
スイリョクタウンの中心にある公民館の前に佇んでいたブルーベリー学園の制服を着たゼイユと相棒であるヤバソチャ元に、イルマとモクローが小走りに駆け寄ってくる。服装は何時もの白スーツだが、帽子は昨日落としてしまった為、青い髪を一つに束ねているだけだ。
「それで、昨日のあれ。誰にも言ってないでしょうね!?」
「勿論、誰にも言ってませんよ」
「本当でしょうねー!?あんた、嘘ついてたらドガース丸呑みだかんね!!」
「死刑宣告!?」
ゼイユの物騒な脅し文句にイルマは若干引いた。
因みに【ドガース】とは、代表的などくタイプポケモンの一体で、大量の毒ガスが体に詰まったポケモンだ。毒ガスを吸い込むと鼻水や涙、咳が止まらなくなる刺激作用があり、断じて口に詰め込んで良いものではない。
「階段で拾ったやつ、持ってるでしょ?うちのじーちゃん、村の歴史に詳しいから、昨日の事色々相談しようよ」
「えっと…鬼のお面なんて見せても大丈夫なんでしょうかね?」
「じーちゃんは鬼が実在してるって事を知ったとしても、何かするような人じゃないわ。あたしが保証するから」
「分かりました」
そうして、イルマとゼイユは公民館から北西にあるゼイユとスグリの実家にやって来た。
「ゼイユ。戻ってきたか……おや、おはよう、イルマさん」
「イルマ!おはよー!」
「ジッチュ!」
「チッ、起きてきちゃったか…」
そこには、縁側に座っていたゼイユとスグリの祖父【ユキノシタ】と、家から出てきたスグリとカジッチュの姿があった。
鬼の事をスグリに知られたくなかったゼイユは彼が寝ているであろう朝早くからイルマを呼び出したのだが、どうやら少し遅かったらしい。イルマはサッと、鬼のお面を包んである風呂敷を後ろに隠した。
とにかく、スグリをここから離れさせなければと判断したゼイユは、ツカツカとスグリ名前まで歩み寄り、拳を震わせた。
「スグ、あんたどっか行ってな!イルマはあたしに用があんの!」
「何それ……ズルイ、ねーちゃんばっかり……バカ」
「なんだってー!?」
「ちょっ、ゼイユさん落ち着いて…」
拳を更に震わせるゼイユだが、彼女の言い方にも問題があるため、イルマはアワアワして宥めようとする。
「…フンだ!!」
そう言って、スグリは家から走り出してしまった。
「何あれ!スグの癖に反抗的ね!!」
「こらゼイユ。スグリに優しくしなさい!」
「別に優しいでしょ。手ェ出してないもん」
ユキノシタは困ったように視線を下に向けてしまう。
ゼイユはそんな事知ったことではないと言わんばかりに、困ったような表情でスグリが走っていってしまった場所を眺めているイルマに話し掛けた。
「そんなことよりイルマ!あれ!じーちゃんにあれを見せるのよ!」
「あ、は、はい…」
ゼイユに促され、イルマは風呂敷から昨日鬼が落としていった緑色のお面をユキノシタに見せる。
イルマの手に乗せられたお面を見て、ユキノシタは大きく目を見開いた。
「こ、これはまさか…鬼さまのお面!?これをどこで!?」
「あたし達、会っちゃったの!鬼に!昨日、オモテ祭りで!優しく声をかけたんだけど、そのお面落としちゃって…ねぇ?」
「はい。拾ってはおいたんですが、結局どうすれば良いのかも分からず……」
ゼイユとイルマの説明に、ユキノシタは考え込むような表情でその場から数歩歩き、ポツリと呟いた。
「まさか、今も鬼さまが祭りに来てくださったとは……」
「?えっ?そんな話しあったっけ?鬼って村を襲う悪いやつでしょ?」
ゼイユの疑問に、イルマも頷く。
看板の内容に疑問を抱いたのは事実だが、『怒り狂って山を降りてきた』という文章を除けば、鬼は村の人々を驚かしている悪者という事になっているのだ。なのに、その鬼が祭りに来ているとは…?
首を傾げるイルマとゼイユに、ユキノシタは決然とした表情で振り返り、重々しく口を開いた。
「……ゼイユにも伝える時が来たようだな。……本当の歴史は…逆なんだ」
「本当の歴史…ですか?」
「逆…?どういう事!?」
意味が分からずに肩眉を上げるイルマと、ユキノシタに問い詰めるゼイユ。
ユキノシタは、顎に手を当てて、イルマの方を見た。
「鬼様…いや、【オーガポン】様に会いなさったイルマさんにも聞いてもらおう。我が家に代々語り継がれてきた、本当の歴史を……。少し長い話しになるが、よろしいか?」
その問いかけにイルマとゼイユが頷くと、ユキノシタは家の縁側に腰を掛け、ゆっくりと口を開いた。
「わしも父から教わった……一族だけで口伝えてきた話だ。他の村の者に教えてはならない真実の話。決して口外してはいけないよ」
「…はい」
「うん、わかった……」
ユキノシタの真剣な表情に、イルマとゼイユも頷いた。
そして彼の口から語られたのは、歴史の看板に書かれていた内容とはまるで違う、とても悲しいお話だった……
はむか昔 キタカミの里に 異国の地より 男と鬼が 迷い込んできた
村の人々は 自分達とは 違う 彼等の姿を 恐れ……
男と鬼を 自分達の村に 近付かせないように したそうだ
男と鬼は 村人達に 歓迎されず 悲しんだが……
お互いが いれば 幸せだったので 裏山の洞窟で 慎ましく 暮らし始めた
ただ一人 彼等を 不敏に思った 村の お面職人は……
男と鬼のため いくつも お面を 作ってあげた
男が 異国より 持ち込んだ 宝石をあしらった 光輝く 見事なお面
お面を 被れば 素顔を 隠し 村人と 仲良く出来る
男と鬼は お面職人の 優しさに 大層 喜び 感謝したそうだ
それから お面を被った 男と鬼は 村の祭りに こっそり 来るようになった
不思議な二人組の お面の見事さは たちまち評判になり
その噂は あっという間に 遠くの国々まで 知れ渡った
世にも 珍しい 輝くお面の 噂を 聞き付けたのであろうか……
数匹の 欲深いポケモンが キタカミの里に やってきた
ポケモン達は 男と鬼の 住みかへと 忍び込み……
大事に しまわれていた お面を 奪い取ろうとした
偶然 居合わせた 男が 何とか 一つだけ お面を 守りきったが……
力及ばず 残り三つの お面は ポケモン達に 奪われてしまった
数刻後 鬼が 洞窟へと 戻ると……
そこには 争った跡と 碧のお面だけが あった
鬼は 男を 探すためだろうか 碧のお面を 被って 村に下りた
そして…… 輝くお面を 掲げて 喜んでいる ポケモン達を やっつけた
事情を 知らない 村人達は 何が 起こったか分からず
ただただ 怒り狂う 鬼を 見て その姿を とても 恐れた
村人達は 3匹のポケモン達が 鬼から 村を 守ってくれたと 考え
親しみを 込めて 彼等を ともっこと 呼び 丁寧に埋葬した
傷付き 悲しみに 暮れた 鬼は 一人 裏山の洞窟へと 帰っていった……
話が終わると、イルマは自然と目から溢れていた涙を右手で拭う。そして、自身の手の中にある緑色のお面を見下ろした。
すると、隣で話を聞いていたゼイユが振るえた声で組を開く。
「何、それ……オーガポンかわいそう!ともっこ最悪!!」
手を振るわせ、そう叫んだゼイユは、突然踵を返してスイリョクタウンの方へ走り出そうとする。
「伝わってる話と逆じゃん!出るとこ出てやるわ!」
「ソチャチャー!」
「こら待ちなさい!口外したらダメって言うとろうに!!」
「だって!!」
「あの…いくらなんでも、このままじゃあオーガポンがあまりにもかわいそすぎます……」
村の人達に真実を話そうとするゼイユとヤバソチャをひき止めるユキノシタに、ゼイユは真っ向から反抗し、イルマも消極的にゼイユに賛同する。
何せ、オーガポンは悪者どころか被害者以外の何者でもなかったのだ。大切な人やお面を奪われたのに、奪った張本人であるともっこが英雄と祀られ、被害者のオーガポンは悪者扱いなんて、あんまりだ。
そんな彼らにたいし、ユキノシタは悲痛そうな表情で口を開いた。
「村の者は自分達の歴史を信じておる。ともっこさまを大事に思っているのに、突然それを嘘呼ばわりされたら…?」
「……………ムカつく?」
「……そうだ」
ここでイルマとゼイユも気付いた。
真実が伝えられているのに、何故それが公表されなかったのか。
「当時、わしらのご先祖さま……お面職人も、必死に真実を訴えたが……相手にされず、異端者だと迫害されたそうだ」
「いよいよトサカに来るわね!」
実際にはイルマの予想より酷かったことが判明し、ゼイユの言葉に同意するように、イルマも不愉快そうに顔をしかめる。
「だからご先祖さまは子孫を…わしらを守るために口をつぐみ、秘密裏に真実を伝えていくことにしたのだ」
「そんな秘密があったなんて…」
「成る程ね……もしかして、この話、スグは知ってるの?」
「いいや?まだ教えていないが……何故だ?」
「いや、あいつの鬼好き異常だし……たまにオーガポンの事知った風な顔でマウントとってくるからさ」
どうやらゼイユは、弟の異常なまでの鬼好きはここから来ているのかと予想していたらしい。
「よく分からんが……あの子は繊細な子だから、何かを察していてもおかしくない。スグリにもいずれ、わしからしかるべき時にキチンと話す。今の話、くれぐれも誰にも言ってはいけないよ」
「…分かりました」
「はぁい」
イルマもゼイユも、ユキノシタの念押しに頷いた。
イルマは正直、ライジングボルテッカーズには話しておこうかと頭の隅で思っていたが、自分達がここに来た理由はガチグマの方だし、それが終わればガラル地方に向かわなければならない。言い方は悪いが、イルマ達にこの村の真実と事情は関係がないのだ。偶然オーガポンと出会ったイルマの事情に、皆を巻き込めない。
すると、ユキノシタがイルマの方を向いて、手元にある碧のお面に視線を向けた。
「そのお面だが……額の宝石部分が少し欠けているようだ。もしかしたら直せるかもしれん。しばらくわしに預けてもらえんか?」
「階段から落ちたときに欠けちゃったのかな?せっかくだから、綺麗にしてオーガポンに返して上げようよ!」
「それは明暗ですね!それじゃあ…お願いします」
「大切に扱うからね」
ゼイユの言葉にイルマも笑顔で頷くと、イルマは碧のお面をユキノシタに差し出した。それを受け取ったユキノシタは、何かを思い出したようにイルマ達に話し掛ける。
「そうだ。二人とも、出来ればあるものを採ってきてくれないかい?」
「あるもの?」
「オーガポンさまのお面を完全に修復するには、てらす池に沈んでいる“けっしょうのかけら”が必要なんだが…生憎、今はそれを切らしているんだ」
「てらす池?」
「てらす池は鬼が山の頂上にある池の事よ」
知らない地名に説明をいれると、ゼイユはユキノシタが持つオーガポンの仮面に目を向ける。
「お面、今のまま返しに行っても良いけど…綺麗にして返したらオーガポンもきっと喜ぶわよね!」
「そうですね!」
「その気持ちに、きっとオーガポンさまも喜んでくれる筈だ」
「でしょー!」
「そう言うことなら、善は急げと言いますし、早速てらす池に向かいますか?」
「それもそうね。余所者が山に入るのはゲゲーッ!って感じだけど……ま!あんたならいいわ。けっしょうのかけら求めて、山登りにレッツゴーよ!」
「オーっ!」
ゼイユの言葉を合図に、イルマとゼイユはけっしょうのかけらを手に入れるために鬼が山に向かうこととなった。
「少し買いすぎたね…」
「これからも旅は続くんだ。食料は多めに買っておいても問題はねーだろ」
スイリョクタウンの町並みを、買い出しに来ていたリコとバチコ、そしてニャオハとジュナイパーが、沢山の食料を抱えて歩いていた。
フリードとロイはガチグマの調査でとこしえの森に行ったのにリコがついていかなかったのは、調査対象であるガチグマの機嫌を損ねない為だった。昨晩、イルマとリコは何もしていないのに関わらず、ガチグマは二人に襲いかかってきた。
理由は分からないが、ガチグマがイルマとリコの何かに対して怒ったのなら、ガチグマを刺激しないためにも同行しないことにしたリコは、バチコと共にスイリョクタウンでの買い出しに来ていたのだ。
ブレイブアサギ号を目指して歩き、公民館を通りすぎたところで、リコ達の目に見覚えのある少年の姿が映った。
「あ!スグリ!」
「…!リコ…」
そこにいたのは、ブルーベリー学園の制服を着たスグリだった。
リコの呼び掛けにスグリはリコ達の方を振り向く。
「「…?」」
そこで、リコとバチコの二人は、スグリに違和感を覚えた。
なんと言うか、表情に影がさしているように見えるのだ。その事が気になりながらも、リコはスグリに訪ねる。
「その…スグリはこんなところで何してるの?」
「………何でもない」
リコの質問に、スグリはしばしの間を置いてから、俯いて答える。
すると、スグリが歩いてきた方向から話し声のようなものが聞こえてくると、スグリはそちらの方を向いたあと、再びリコとバチコに視線を戻した。
「……おれ…行くとこあっから」
「あっ、スグリ?」
リコ達が呼び止める暇もなく、スグリはスイリョクタウンの外へ歩き出していった。
「どうしたんだろう…」
「何か見てから行ったけどな……あ」
「バチコ?どうしたの…えっ?」
バチコがスグリが一瞬だけ視線を向けた方角を見たバチコが小さく声を漏らしたのを見て、リコもそちらに視線を向ける。するそとこにあったのは……
「あれ、イルマとゼイユ…?」
イルマとゼイユはキタカミセンターから続く山道を歩き、鬼が山の山頂を目指していた。
「へぇ~、それでライジングボルテッカーズに入ったのね」
「まぁ、そんな感じです。色々大変ですけど、凄く楽しいんです」
道中、互いに無言でいるのは何なので、イルマとゼイユは互いの事を話ながら山道を歩いていく。
イルマは自分達がライジングボルテッカーズに入団した経緯を話す(六英雄やエクスプローラーズの事は省いて)と、ゼイユはブルーベリー学園の教務主任を勤めている【ブライア】という教師と共に各地方を調査しているらしく、近々行われる林間学校の引率でそのブライアという教師もキタカミの里に来るらしい。
「それにしても、スグリくんはどこに行っちゃったんでしょうか?スイリョクタウンやキタカミセンターにも居なかったし…」
「さぁね。多分、リコ達に会いに行ったか、それとも歴史の看板を見に行ってるかじゃないの?」
「ともっこプラザの?」
「いいえ、『楽土の荒地』って場所にもうひとつあるのよ」
「へぇ…内容は嘘だって分かってますけど、気になりますね……」
「なら、あとで行ってみる?少し遠回りになるけど」
「是非!」
そうして会話をしていると、ゼイユは突然拳を振るわせた。
「それにしても…今思い出してもムカつくわ!本当にともっこって最悪ね!」
「ゼイユさん……いや、まぁ、気持ちは分かりますけどね?今ここで怒っても仕方ないでしょう…」
ともっこの所業に怒りを覚えるのは激しく同意するが、既に死んだポケモンに何時までも怒りを露にしても仕方ないと、イルマはやんわりとゼイユを宥める。
ゼイユの怒りが治まると、イルマはクスッと微笑んだ。
「何よ突然?」
「いえ、今更ですけど、ゼイユさんって言い人なんだなって」
「どういう意味よ!」
イルマの言葉に、額に青筋を浮かばせて手を震わせるゼイユ。
「別に貶した訳じゃありませんよ。ただ、最初は余所者だからって理由で突然バトル吹っ掛けてきて皆の前では猫被ってて、実は少し苦手に思ってたので……」
「事実ではあるけど失礼ね。手ェ出るわよ?」
確かに冷たい態度とってフリード達の前ではガラリと態度を変えていたのは事実だが、面と言われるとイラッとくる。ゼイユは自然と、一発殴ってやろうかと拳を震わせる。
「でも、接してみたら、ゼイユさんはすごく面倒見が良いってことが分かりましたし、何やかんやでスグリくんの事を大事に思ってるし、オーガポンのためにそんなに怒って上げられる優しくて素敵な人だって事が分かりましたから」
柔らかい笑身を浮かべてそう語るイルマ。
それが嘘でもお世辞でもない、本心からの言葉である事を察すると、ゼイユは途端に顔を真っ赤にする。
「ばっ、バッカじゃないの!?貶したと思ったら持ち上げてうやむやにすると思った!?というか、何突然そんなこと言ってきてんのよ!」
「アダッ!?」
思いっきり背中を叩かれ、イルマは思わず叩かれた背中に手を当てる。ゼイユは「フン」と鼻をならして先を歩く。
「もーふもふもふぅ」
「イタッ!?イタタタッ!?モクロー、どうしたの!?」
「もふもふ」
肩の上にいるモクローも、嘴でイルマの頭をつついた。
それ程痛くはないが、何故つつかれるのかが分からないイルマの困惑気味の事何、モクローは「自分の胸に手を当ててみろ」というような鳴き声を返した。
「全く……あんた、女心が分かってないって言われない?普通女にそんな事を言うのは──」
「イシッ!?」
「うわっ!?」
その時、ゼイユが踏み込んだ場所にいた地面が突然隆起した。というのも、ゼイユが足を置いたのは地面ではなく、そこで眠っていた【イシツブテ】だったからだ。頭を踏みつけられて驚いて飛び起きたイシツブテにバランスを崩したゼイユは、そのまま尻餅をつきそうになるが、その瞬間、イルマがゼイユの腰に腕を回してそれを止めた。
「おっと!……大丈夫ですか?ゼイユさん」
「えっ?あ、うん。…ありがと……///」
「良かった…。イシツブテも、驚かせてごめんね」
「イッシー!」
イシツブテは「気にするな」と言うように答えると、どこかに飛び去っていき、ゼイユを立ち上がらせたイルマはイシツブテの後ろ姿を見送りながら「バイバ~イ」と手を振る。
「よく見ると、この辺ってイシツブテ多いんですね。気を付けないと……って、ゼイユさん?顔赤いですけど大丈夫ですか?」
「なっ、何でもないわよ!てらす池までもうすぐなんだなら、ぐずぐずしないでさっさと行くわよ!」
「あっ、ハイ!」
何故か顔を赤くして早足で歩き出すゼイユに、イルマは戸惑いながらも慌てて彼女の後を追いかけた。
同時刻。
「……ん?」
「リコ、どうした?」
「ニャ~?」
「なんか、イルマが他の女の人と良い雰囲気になってる気がする……」
「は?」
「……ニャア」
イルマとゼイユを追いかけようとしてバチコに必死に止められ、ブレイブアサギ号に向かって歩いていたリコは、突然謎の苛立ちを感じたという。
「わぁ~…凄い!」
「ここがてらす池よ。綺麗で驚いたでしょ?」
鬼が山の山頂。
大きな池の中に沈んでいる結晶のようなものが不思議な光を放つことで、池全体が淡く光っているような神秘的な池の前に、イルマとゼイユはいた。
「この池に沈んでるのは……宝石…でしょうか?」
「さぁね、何でか光ってんのよ。この辺りで、死んだ人に会えるとか変な噂もあるくらい」
ゼイユの説明に、池の中を興味深そうに観察するイルマ。
「それじゃあ、お面を直すため!水中に沈んでる結晶、ちょっとだけ採ってこないとね……というわけで、イルマ!やったれ!思いっきり池に飛び込むのよ!!」
「僕が潜るんですか!?」
「だって、あたし泳げないし、服が濡れちゃうでしょ?」
「た、確かに……」
そう言われて納得してしまう。
恐らくこの結晶は池に沈んでいるものだ。カナヅチのゼイユが飛び込むのは、ましてや脱いで潜るなんて論外だ。ならば、消去法でイルマが行くしかなくなる。
イルマはゼイユ、モクロー、ヤバソチャの応援のもと、池に飛び込もうと服に手を掛けようとして……
「「「「ッ!?」」」」
突如、イルマ達がいる場所の反対側の岸辺で爆発が起きた。爆心地で煙が立ち上り、近くにいた【マグマッグ】や【リーシャン】【チリーン】といったポケモン達が、爆発に怯えたように逃げていく。
イルマ達は顔を見合わせると、その爆心地に向かって走り出す。爆心地に近づいた辺りで、聞き覚えのある声が聞こえてきた。
「けほっ、けほっ!あ~、失敗やー。ケホケホ」
「貴方は…!」
「キリヲ!」
そこにいたのは、昨日見かけた銀縁メガネの緑髪の少年──キリヲが、また口端から地を垂らしている姿だった。
「あぁ~、君達かぁ。堪忍なぁ、機械の調整に失敗して、爆発してもうたんや…」
「オルブ」
「はぁ……」
血を垂らしながら笑顔でそう言うキリヲと、彼の隣に浮かぶイオルブ。
「それよりキリヲ、ここは地元の人以外に入ってほしくないんだけど?」
「あぁ~、神聖な場所なんやってなぁ。一応スイリョクタウンの管理人さかんから許可は貰ってるけど、爆発させるのは良くなかったわ。堪忍なぁ」
「因みに、さっき爆発したのは…」
「あっ、知りたい!?僕の試作品!シンクロマシン改良や!」
「シンクロ…?」
キリヲが示したのは、アンテナのあるシンプルなデザインをした、箱形の機械だった。
「シンクロマシンっていうのは……」
「科学部が最近開発したっていう機械ね。詳しくは知らないけど」
「シンクロマシンはなぁ、文字通り、自分の手持ちポケモンと意識をシンクロさせられる道具なんや。けどまだ試作段階で、基本ブルーベリー学園のなかでしか使えないんけど、これはそれを他の地方でも使えるように改良したやつなんやけど、扱いが難しゅうてなぁ…」
「それで、どうしててらす池に?」
「ブルーベリー学園では、『テラリウムコア』っていうシステムでテラスタルを再現しているんや。だからテラスタル現象が起こるキタカミの里で使えないかと思ってきたんや」
「なる程、そうなんですか」
「だからって神聖な場所で実験しないでよ……」
「すまんなぁ。ここの水にはテラスタルエネルギーと同じ波長が流れてるから、行けると思ったんやけど……」
そこまで説明されたところで、イルマはシンクロマシンの側に、紫色のガラス片のようなものが転がっているのを見つけた。
「この部品は?」
「それは
「未完成なのに実験しないでよ…」
「それはホントにすまんなぁ。やっぱりバッテリーが未完成なうちは話しにならんみたいや。僕はこの辺で…ウソやーん」
イルマの方を振り向くと、バラバラだったガラス片を掌サイズのハート形に組み立てられた部品を持っているイルマの姿があった。
「えらい綺麗に出来てるわぁ。わぁ~、凄いなぁ。君、こういう機械とか作ったことあるんか……ゴフェ」
「キリヲさん!!」
ズイッとイルマにつめよったキリヲは突然、口から血を吐いた。
「大丈夫よ。こいつの吐血は日常茶飯事だから」
「ゼ、ゼイユさんの言う通り……興奮して反動が来ただけや……しかし器用やなぁ」
「昔、物を作ったりとかしたことあるので…」
イルマはオリオのような船の修理などといった専門的な事は出来ないが、ジグソーパズルのような物ならば難なく出来る。イルマは手先が器用なのだ。
「これならいけそうや…イオルブ、頼めるか?」
「オル」
イオルブはイルマの組み立てたバッテリーを装置にセットするキリヲの言葉に頷くと、キリヲから数メートル離れたところで地面に降り立った。
キリヲはシンクロマシンを操作し、それを両手で握りしめてから目をつぶる。
「ちょっと、また爆発するなら止めてくれな…」
「ゼイユさん、あれ」
また失敗して爆発してはたまらないとゼイユが止めようとするが、その直前でイルマが止めてある方向を指したことで、ゼイユはそちらに視線を向ける。
「イオルブが…光ってます…!」
そう、キリヲの前にたつイオルブの身体が、緑色に発光しているのだ。イルマの知識に有る限り、イオルブにこんな能力はなかった筈だ。
そのままイオルブは発光し……光が弾けた。
「……失敗やなぁ~」
「え?今のが失敗?」
「ホントなら僕の意識がイオルブと同化する筈なんやけど、同化しそうになったところで弾かれてしもうたわ。やっぱりバッテリーだけじゃあ安定せんなぁ」
シンクロと言うものがどんなものか少しワクワクしていたが、どうやら見ることは出来ないらしく、イルマは苦笑いした。
「けど、爆発しないでシンクロしかけたって言うのは大きな進歩やわ。ありがとなぁ……えぇと…」
「あっ、イルマです」
「イルマくん、おおきに」
そうしていると、突如キリヲの懐からスマホロトムが飛び出し、着信音が鳴る。
「おっ、兄さんからや」
「兄さん?」
「僕の……保護者代わりみたいなお人でな。今でも良くアドバイスを貰っとるんや。ちょっと失礼。はい、もしも──」
『てめぇ、さっさとワンコールで出ろ!このクソメガネ!!』
キリヲが電話に応答した瞬間、スマホロトムから轟くような怒声が響いた。耳がキーンと来るほどの大音量に、思わずイルマとゼイユは耳を塞いだ。
キリヲは電話超しにペコペコ謝りながら、シンクロマシンをバッグにしまう。
「君達とはもう少し話してみたかったけど……そろそろ行かなあかんわ。ここらでおいとまさせてもらうわ。迷惑掛けて堪忍なぁ」
「い、いえ!こちらこそ楽しかったです!」
「……次からは爆発しないモン持ってきなさいよ」
「それは勿論」
そう言うと、キリヲはイオルブと共に兄さんと呼ばれる人物と話をしながらてらす池から離れていった。
しばらくその後ろ姿を眺めていたイルマ達だったが、ゼイユが腕を伸ばして口を開いた。
「さーて!キリヲもいなくなったし、イルマ!一潜りしてきなさい!」
「……あっ」
「なによその反応。もしかして忘れてたわけ?」
元々、自分達はこの池に沈んでいる結晶を求めてきたのだが、キリヲの事があり、すっかり忘れてしまっていたイルマにゼイユが拳を震わせる。
そんな彼女の様子に苦笑いしながら、イルマは池に潜るために服を脱ごうとした瞬間……地鳴りが起きた。
「わわっ!?何ですか!?」
「えっ!?地震…!?」
「ソチャチャ…」
「!もふもふ!」
何事かと、イルマ達が辺りを見回し、モクローが何かに気付いたようにてらす池を指差したことで、イルマ達もてらす池に視線を向ける。
てらす池の中心から、泡がブクブクと沸き上がっている光景が見えるのと同時に、池から巨大な何かが飛び出した!
「みろろろろろ!!!」
水飛沫を上げて池から飛び出し、イルマとゼイユの前に降り立ったのは、美しいポケモンだった。
リュウグウノツカイをベースに、アロワナやデンキウナギを掛け合わせたようなもので、下半身のみ鱗が目立つ長魚のような体形。見る角度によって配色が変わる七色の鱗に、扇のように展開した尾ビレ。
頭部からは太さの異なる2対のピンク色のヒレが伸びており、それぞれ触角ともみあげのようになっている。
「このポケモンは……」
イルマはスマホロトムを取り出し、目の前に現れたポケモンを検索する。
『ミロカロス。いつくしみポケモン。みずタイプ。澄んだ湖の底に棲む。戦争が起こる時現れ、人々の心を癒す』
「みろろろろ!!」
「なんか、やる気みたいですよこのミロカロス!」
「上等じゃない!ヤバソチャ!」
「モクロー!」
ゼイユとイルマの声に、モクローとヤバソチャはミロカロスと向かい合うように前に立つ。
それと同時に、ミロカロスは口から竜の形をした紫色の光線を吐き出した。
「モクロー、飛んで避けて!」
「ヤバソチャも避けなさい!」
モクローとヤバソチャは同時に高く飛び上がり、ミロカロスの“りゅうのはどう”を避ける。
「“このは”!」
「“シャカシャカほう”!」
「もー…ふぅ!」
「チャチャチャチャ…ソチャ!!」
モクローは輝く葉っぱを、ヤバソチャは熱々の抹茶をミロカロスに向けて放つ。
効果抜群の草タイプの技が二つ迫ってくるのに対し、ミロカロスは地面に接触しているからだの部分から津波が発生させて身体を浮き上がらせ、その津波でモクローとヤバソチャの技を弾いた瞬間、津波がモクロー達に襲いかかった。
「もふぅ!?」
「ソチャ!!」
「わぶっ!?」
「きゃあっ!?」
モクローとヤバソチャは津波に巻き込まれ、イルマとゼイユにもそれが襲いかかり、一同は体制を崩す。
イルマは口の中に入った水をピュ~と吹き出し、ゼイユは“なみのり”によってびしょ濡れになりながら、ミロカロスに向けて怒鳴った。
「もう!びしょ濡れになったじゃない!」
濡れたくなかったのにびしょ濡れにされてしまい怒りを露にするゼイユに対し、ミロカロスは口から水色のビームを放つ。
「ヤバい!“れいとうビーム”……!ヤバソチャ、“シャドーボール”で防ぎなさい!」
「ソチャ!!」
ヤバソチャは禍々しい黒いエネルギー弾を放ち、ミロカロスのビームを迎え撃つ。ぶつかり合った技が、爆発を起こし、互いの姿を煙で隠す。
「モクロー、ミロカロスの目に“このは”!」
「もふぅ!」
「みろっ!?」
その瞬間、モクローが放った葉っぱがミロカロスの目に張り付き、視界を塞がれたミロカロスは慌てるように顔をメチャクチャに動かす。手がないので、葉っぱを剥がせないのだ。
「そのまま“エアカッター”!」
「もふぅー!」
「みろっ!?」
畳み掛けるように、モクローは4つの技の中で一番高い威力を持つ“エアカッター”を視界が効かないミロカロス放ち、それが急所に直撃したミロカロスは悲鳴を上げて後退る。
「ナイスよイルマ!一気に畳み掛けるわよ!ヤバソチャ、“シャカシャカほう”!」
「モクロー、思いっきり“このは”!!」
「ソチャ!!」
「もーふぅ!!」
モクローは大量の葉っぱを、ヤバソチャは一際大きな抹茶の塊を同時に発射する。
「みろろろろ!!?」
効果抜群の技が、葉っぱ出目を塞がれていたミロカロスに直撃する。ミロカロスは悲鳴を上げながら吹き飛ばされ、てらす池の中に逃げるように飛び込んだ。
敵を撃退したことを確認したイルマ達は、揃って安堵の息を吐いた。
「あー、ビックリした!」
「はい。でも、大人しい筈のミロカロスか何で…?」
「ここ、さっきみたいなのがたまに出てくんの」
「……神聖な割に物騒すぎませんか?」
イルマが疲れたようにそう言う。一般的に争いを嫌うと言われているミロカロスが凶暴で襲いかかるなんて、神聖な場所とされている割にかなり物騒な場所だなと。
その言葉に、ゼイユは苦笑した。
「にしても、“このは”で目を塞いで攻撃なんてやるじゃない。あんたって、味方だと頼もしいのね」
「…ありがとうございます」
ゼイユの言葉に、イルマは照れ臭そうに笑いながら答える。
その時、イルマは先程までミロカロスがいた場所に、キラリと輝く何かが落ちていることに気付くと、それを拾い上げる。
それは、てらす池に沈んでいる結晶とよく似た虹色に輝く宝石だった。
「これは…?」
「それ、“けっしょうのかけら”じゃない!」
「えっ、これがですか!?」
「えぇ、間違いないわ。あのミロカロスにひっついてたのかも…」
「まぁ、何はともあれ材料は手に入りましたね!」
予想外のことはあったが、無事にけっしょうのかけらは手に入ったので、イルマはそれをポケットの中にしまう。それを見たゼイユはスマホロトムで時間を確認すると、イルマに向けて口を開いた。
「まだ時間に余裕はあるわね。どうする?楽土の荒地の看板見に行く?」
「大丈夫なんですか?急がなくて」
「まぁ、どのみち直すのに時間はかかりそうだしね。見に行って帰るくらい大した問題じゃないわ」
「そうですね……少し寄り道して行きましょうか」
看板に内容は全くのウソだと分かっているが、オーガポンの真実を知る前から興味はあったし、お面の修理やフリード達がガチグマの生体調査にどれだけ掛かるのか分からない以上、見れる機会があるなら見に行くに超したことはないので、イルマは楽土の荒地に向かうことにした。
楽土の荒地は、キタカミの里の北側、スイリョクタウンの反対側にある荒れ地の名前である。草木は少なく、その周辺には【ドロバンコ】や【ノズパズ】といったじめんタイプやいわタイプのポケモンの姿が多く見られる。
そんな人里離れた場所に設置された歴史の看板にやってきたイルマとゼイユは、看板の前に佇んでいる人影を見つけた。
「スグリくん!?」
「スグ!」
「……ねーちゃん…イルマ……」
そこにいたのは、スグリだった。
思わず声を上げた二人の声に反応したのか、こちらを振り向いたスグリ。肩の上にはカジッチュもいる。
「スグ、あんたこんな所で何してんのよ?」
「…看板さ、見に来ただけ。……ねーちゃんこそ、イルマと二人で…何、してた…の?」
スグリは上目使いでゼイユに尋ねる。
確かに、朝からろくな説明もなしにスグリを追い出したので、スグリが自分達が何をしに行ったのかを知る筈がない。しかし馬鹿正直にてらす池に結晶を取りに行ってた何て言ったら、芋づる式でオーガポンの秘密が明らかになってしまうので、ゼイユは誤魔化すことにした。
「えーっと、あれよ。ガチグマの調査はフリードさん達がやるみたいで暇になったイルマに観光案内を頼まれたのよ。それでここまで案内したって訳。そうよねイルマ?」
「えっ?あー……うん。そ、そうだよ。ちょっと観光を頼んだだけだから……」
「……そうなんだ」
イルマとゼイユの言葉に、スグリは納得したのか、俯いてそっぽを向きながらそう言った。
しかし、イルマは何故か、そんなスグリに違和感を感じた。
「……伝承では、この辺りで鬼さまがよく見かけられたって。看板、読もっか」
「う、うん」
スグリに促され、イルマは戸惑いながらも看板の内容を読み上げた。
黄昏時 村の外で 向こうから 歩いてくる影が あったなら 気を付けよ
直ぐ様 お面を 被って 自らの
さすれば 影が 人であれ 鬼であれ お面同士 会釈して 通りすぎるのみ
もし お面を 持たざる時 あれば 影が 人であることを 願いなされ
その影 人であれば よし 二度と お面 忘れるべからず
その影 鬼であれば 最期 真の
その者 魂を 抜き取られ 二度と 村へは 帰れぬだろう
「…ともっこプラザにある看板では、鬼って村人を脅かしてただけですよね?オーガポ…鬼に魂を抜き取るなんて力あるんですか?」
「さぁ……」
イルマとゼイユは何とも言えない表情だ。オーガポンの真実を知った以上、オーガポンがこの看板に書かれているような悪さをするわけがないと分かっているのだが、流石にこの内容には顔をしかめてしまう。
すると、スグリが口を開く。
「……当時、皆お面持ってて。それ全部作ったの…おれ達のじーちゃんのじーちゃんのずーっとじいちゃんなんだって。勿論、鬼さまが魂抜くなんて嘘だと思うけど…お面作ってたのは本当」
「ウチは先祖代々お面職人の家系だそうよ。オモテ祭りも、元々はあたし達の先祖がやろうって言い始めたらしいわよ」
「へぇ~、そうなんですか」
ゼイユとスグリがお面職人の子孫であることは既に知っているが、オモテ祭りの話しは初耳であるため、イルマは思わず声をあげる。
そして、スグリは歴史の看板を見ながら、暗い表情で呟いた。
「……おれ、ここの看板に書かれてること好きじゃない。鬼さまが怖いからって、必要以上に怖がって、村の外に追いやって……鬼さまだって、寂しかった筈だ。一人だけ…除け者にれたから……」
「スグリくん…」
「スグ……」
イルマとゼイユは思わずスグリを見た。
スグリが話しているのはオーガポンの事だが、『除け者にされた』という部分には、今のスグリと同じだった。
仲間達にオーガポンの秘密にすることを提案したゼイユも、弟の事を思っての提案だったが、スグリの言葉を聞いて、僅かに罪悪感を感じた。
「……おれ、帰るね」
「あっ、ちょっとスグ!」
「スグリくん!?」
踵を返してスタスタと歩き出すスグリに、ゼイユとイルマは彼を追いかけるように慌てて歩き出す。
「おーい!イルマー!」
「!ロイくん…フリードさん」
その時、背後から声をかけられたイルマが振り向いて上を見上げると、リザードンの背中に乗ったフリードとロイの姿があった。リザードンの背中から、ロイとホゲータが笑顔で手を振っている。
ゼイユとスグリもリザードンの方を振り向いたと同時に、リザードンは三人の前に降り立った。
「二人とも、ガチグマの住みかを探しに行ってたんだよね?ガチグマは見つかった?」
「それが全然見つからなくてさ~」
「ホゲ~」
リザードンの背中から降りて、イルマの質問に肩を落とすロイとホゲータ。フリードにロイ、ホゲータは勿論、カイデンやリザードンが上空から探しても見たのだが、ガチグマのガの字も見つけられなかったらしい。
「やっぱり夜にしか現れないんですかね……」
「そうみたいだ。これから一度船に戻って夕食を取った後、また夜に調査に行くつもりだ」
「そうなんですね」
「イルマはどうしてここに?」
「あー、えーっと……ゼイユさんの案内で観光してたんだ。それでここに設置されてる看板を見に来たんだ」
ロイの質問に、イルマは咄嗟に思い付いたエピソードを話す。歴史の看板を見に来たのは事実なので、ゼイユも意図を察したのかコクンと頷く。
「そうか。それじゃあ、一緒に船に帰るか。二人もどうだ?スイリョクタウンまで送っていくぞ?」
「……大丈夫、です」
フリードの言葉に、スグリは俯きながら断りをいれ、再び歩き出す。
「あっ、スグ!……すみません、私も大丈夫です」
「…そうか」
フリードはスグリの後ろ姿を眺めた後、ゼイユの言葉に頷いた。
そして、ゼイユはイルマに視線で「ちょっと来い」と伝え、それを応じてゼイユの元に歩みよったイルマは、肩を捕まれてゼイユと顔を寄せられた。
「イルマ、けっしょうのかけらを渡してくれない?私がじーちゃんに渡しとくから」
「あっ、はい」
スグリがいる手前、イルマがユキノシタにけっしょうのかけらを渡すのは些か不自然だったので、代わりにゼイユが渡してくれるのだと理解し、イルマはけっしょうのかけらをゼイユに手渡した。
それを受け取ったゼイユは、けっしょうのかけらをウエストポーチにしまう。
「ありがと。修理が終わったら連絡するわ」
ゼイユの言葉に頷くと、イルマはリザードンに抱えられ、ロイとフリードと共にブレイブアサギ号に戻っていく。
リザードンの上で下にいるゼイユとスグリに向けて手を振るイルマとロイに対し、小さく手を振り返すゼイユと、何もせずに俯いているスグリ。
そんなスグリの様子に違和感を感じながら、イルマはリザードンに抱えられ、ブレイブアサギ号へと帰っていった。
碧の仮面では『オーガポンの真実を知る→楽土の荒地の看板→てらす池』の順序でしたが、この作品では『オーガポンの真実を知る→てらす池→楽土の荒地の看板』という順番になっております。ライジングボルテッカーズは林間学校で来てるわけではありませんし、オリエンテーリングもないので。
感想、評価お待ちしております。