魔入りました!入間くん if Episode of ポケットモンスター   作:MTHR

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タイトルの元ネタは映画『ドラゴンボールZ 復活の「F」』です。
今回もまたゲームの通りの内容です。


26話 復活の「T」

 イルマがオーガポンの真実を知り、ゼイユと共にてらす池と楽土の荒地に行った翌日。

 

(イルマが昨日何してたか気になる……)

 

 窓から差し込む光に目を覚ましたリコは、ニャオハを抱き抱えて朝食のためにミーティングルームに向かいながら、悶々としていた。

 

 昨日、朝食を食べる途中でスマホロトムからメールを受け取ったイルマは、手品のような早さで朝食を平らげ、そのまま何処かへ行ってしまったのだ。

 キタカミの里でイルマと連絡が取れて会うことが出来る相手といったら、一昨日オモテ祭りで連絡先を交換し会った相手、ゼイユしかいない。

 その後、リザードンに乗ってフリードとロイと共に、イルマはブレイブアサギ号に戻ってきた。

 その際に、イルマは観光をしに行ってて、ゼイユに案内を頼んで楽土の荒地に来ただけと言っていて、フリードとロイもそう言っていたが、リコはそうではないと思っていた。

 別にフリードとロイを信じていないというわけではなく、観光に行くためなら態々朝食の最中にゼイユがイルマを呼び出す理由がないし、リコの同行を断る理由もないからだ。

 

(もしかして……デートッ!?)

 

 男女が二人で町を歩く理由を考えているうちに、リコの脳内にそんな可能性が過り、リコは顔を青くする。

 

(い、いやいやいや…流石にそれはないよね。イルマは素敵だけど、会って1日しか経ってない相手と恋人になるなんてないよね……)

 

 そこで一度冷静になる。イルマはとても性格が良くて超がつく程のお金持ちというかなりの有料物件だが、会って間もない相手といきなり恋人になるなんてありえない。小説やアニメじゃあるまいし。

 昨日スイリョクタウンに買い出しに行った際にイルマとゼイユを見た時、刑事ドラマのように尾行しに行こうとするのをバチコに止められた今、リコが真相を知るにはイルマに聞くしかないのだが……

 

(何て言って聞けば良いのか分からない……)

 

 元々、イルマとはハッコウシティでキスしてしまってから、恥ずかしさのあまりマトモに会話が出来なかった。仲間と会話している時ならば問題ないが、対面していると話すことが出来なくなってしまう。

 

(そもそも、何て聞けば良いの?『昨日ゼイユと一緒に本当は何してたの』って聞く?ただでさえ気まずいのに、そんな疑うようなこと言ったらイルマに嫌われちゃうんじゃ……)

 

 そこで、リコの思考は後ろ向きになり、まだ聞いてもいないのに落ち込む。

 もしもイルマに嫌われでもしたら、明日には部屋に閉じ籠って数ヵ月は部屋から出てこられないだろう。

 

 そうして悩んでいるリコに、腕の中で抱きしめられているニャオハが身を乗りだし、ペロリとリコの頬を舐めた。

 

「ニャオハ…?」

「ニャオハッ!」

 

 リコの顔を見ながら笑顔を浮かべるニャオハ。その笑顔に、リコも自然と笑みを浮かべた。

 

「…そうだよね。こんな風に悩んでも何も変わらないよね!ありがとうニャオハ!」

「ニャア!」

 

 リコはニャオハを抱えたまま、今までのすれ違いを終わらせて話を聞くために、まだ部屋にいるであろうイルマのところへ足を運ぶ。

 五分もしないうちに、リコはイルマの部屋の前にたどり着き、深呼吸をした後、覚悟を決めて扉をノックしようとして……

 

「ええっ!?お面がなくなった!?」

「「ッ!?」」

 

 扉の向こうから、悲鳴にも聞こえるほどの音量で、イルマが叫んだ声が聞こえてきた。突然の事に、リコとニャオハはビクッと肩を震わせる。

 

「分かりました!すぐに行きます!」

 

 そんな声が聞こえてくるや否や、イルマの部屋の扉が乱暴に開かれ、スマホロトムを手にしたイルマが飛び出してきた。

 部屋の前にいたリコと衝突してしまいそうになったところで、イルマは咄嗟に足を止める。

 

「えっ、リコ…?」

「イ、イルマ…何かあったの…?」

 

 明らかにただ事ではない様子のイルマに、リコはここに来た目的を後にして心配する。

 

「あーっと……な、何でもないから!僕、これから行くところあるから!」

「えっ!?まだ朝ごはんも食べてないのに!?」

「ええっと…朝ごはん抜きで良いって伝えといて!」

「あっ、ちょっ…イルマ!?」

 

 そう言って、イルマはリコの横を通りすぎてブレイブアサギ号を出ていった。

 

 

 

 

 

 

 

「ゼイユさーん!」

「イルマ、遅いじゃない!」

「すみません……」

 

 20分後。ブレイブアサギ号から走ってスイリョクタウンのゼイユとスグリの実家までにやって来たイルマは、家の前にいたゼイユとユキノシタに声をかける。

 

「それで、お面がなくなったって言うのは…?」

「すまない。鬼さまのお面を…スグリが持っていってしもうた」

「ええっ!?」

 

 予想外の回答に、イルマは大きく目を見開いた。

 

「お面の修理は昨日の晩のうちに終わらせておいたのだが………ついそのまま机の上に置いてしまってな。少し目を離した隙に……」

「じーちゃんのせいじゃないわよ……」

 

 申し訳なさそうにするユキノシタに、流石のゼイユも慰めの言葉を掛ける。

 

「ゼイユさん。やっぱり、スグリ君はオーガポンの秘密を知ってたんでしょうか…?」

「でも、じーちゃんは話してないって言うし、私とあんた以外それを知らない筈よ?」

 

 イルマとゼイユは頭を捻って考えるが、やはり答えが浮かばない。

 そこで、ユキノシタが声をかけた。

 

「スグリはお面を持ってともっこプラザへ向かった。きっと……お前達が追いかけてあげるのが良いだろうな」

「よし、早く行くわよ!」

「はい!」

 

 そう言うと、イルマとゼイユは踵を返してともっこプラザに向かおうとすると……

 

「イルマ!!」

「リコ!?それに皆さんも!?」

 

 家を出て直ぐのところに、リコ・ロイ・フリード・バチコの四人がいたのだ。

 

「どうしてここ…に?」

「どうしててって……朝食にもこないでいきなり大声だして船から飛び出したからに決まってんだろうが。お前が飯を投げ出すなんて、余程の事があったんだろうなってな」

 

 そこまで言われて、イルマは自分がまだ朝食を食べていなかった事を思い出す。食いしん坊で知られているイルマが朝食に顔を出さないなんて今まで一度もなかったので、より心配させてしまったのだろう。

 

「し、心配させてすみません!でも、僕たち今からともっこプラザに行かなくちゃならないんです!お話はその後で!」

「あっ、イルマ!?」

 

 そう言って、イルマはゼイユと共にともっこプラザに向かって走り出す。

 それを見て、明らかにただ事ではないと悟ったリコ達は顔を見合わせた後、慌ててイルマとゼイユの後を追った。

 

 

 

 

 

 

「いた!あそこ!」

「スグ!あんた、何してんの!?」

 

 ともっこプラザに辿り着いたイルマとゼイユは、ともっこの墓の前に立っているスグリを発見する。彼の手の中には、修理を終えた碧のお面がある。

 イルマ達の声を聞いたのか、スグリは振り替える。

 

「……二人は知ってるよな?鬼さまが本当は悪くないってこと……」

「っ!それは……」

「悪いのはともっこ達なのに、皆鬼さまを除け者にした!!」

「知って…たんだ」

 

 ともっこ像に向けて怒りを露にするように声を荒げるスグリ。

 彼の言いたいことが理解できたイルマとゼイユは思わず彼から目をそらしてしまう。

 

 そんな彼等の方を振り返り、スグリはハイライトが消えた瞳でイルマとゼイユの方を見た。

 

「…ねーちゃんとイルマも同じだよな?」

 

 予想外の言葉に、イルマとゼイユは大きく目を見開いた。

 

「おれを除け者にして!内緒で鬼さまと会ってた!!」

「ご、ごめん!でもそれは…」

「スグリ君、ゼイユさんは君の事を思って…」

「昔の村の人達と同じだよ……。おれが鬼さまの事、どんだけ好きか知ってるくせに!表では知らんぷりして、裏ではおれの事笑ってたんだ!!」

「違うって!」

「嘘つき!嘘つき!!」

 

 イルマとゼイユの言葉にも耳を貸さず、スグリは髪をかき乱す。

 

「スグ……あんたどうしたの?今日、なんか今日変だよ?」

 

 いつものスグリと明らかに様子が違うことに、流石のゼイユも心配そうに彼を見ている。

 やがて叫ぶのを終えたスグリは、ゼイユと共に心配そうに自分を見るイルマに向けて顔を上げた。

 

「イルマ…おれと勝負してよ。イルマが勝ったら、お面は返す。だから……勝負してよ!!」

「スグリ君……わかったよ」

「イルマ!?」

 

 イルマが勝負を受けたことに、ゼイユは驚く。

 だが、イルマは何となく、お面の事は抜きにしても、ここでスグリの申し出を断るのはダメだと、何となく感じたからだ。

 

「じゃ……やろう」

 

ポンッ!

 

「ミッチュ!」

 

 そう言ってスグリがボールから出したのは、カジッチュと殆ど見た目が変わらない、しかしりんご飴のような蜜で覆われ、頭には串のようなトサカが生えたポケモンだった。

 

「あのポケモンは……」

 

『カミッチュ。りんごあめポケモン。くさ・ドラゴンタイプ。カジッチュの進化系。頭を出しているそとッチュと尻尾を出しているなかッチュが助け合いりんごの中で暮らす』

 

「カジッチュの進化系……いつの間に」

「カミッチュの進化するには“みついりんご”を使うだけだから…そのリンゴを使ったのね」

 

 昨日までカジッチュだったのが突然カミッチュになったことに驚愕を露にするイルマだが、ゼイユの解説を聞いて成る程と頷く。進化している分、未進化のモクローには不利なバトルになりそうだが、やるしかなさそうだ。

 

「モクロー!」

「もふぅ!!」

 

 イルマの肩から飛び出し、カミッチュと向かい合うように降り立ったモクロー。

 それと同時に、バトルが開始した。

 

「悪いとは思ってる……でも、譲れないんだ!カミッチュ、“みずあめボム”!」

「モクロー、“エアカッター”!」

 

 カミッチュは水飴をモクローに向けて吐き出すが、モクローはその直前で飛び上がって水飴を避けると、風の刃を放ってそれを相殺する。

 

「“りゅうのいぶき”!!」

「ミッチューーッ!」

「モクロー、そのままカミッチュに突撃!」

「もふーー!」

 

 顔を出したカミッチュが口から紫色のエネルギーを吹き、それがモクローに迫るが、モクローは羽を閉じた状態で急降下し、“りゅうのいぶき”をかわしながらカミッチュとの距離を縮める。

 

「“エアカッター”!」

「ッ!“まるくなる”!!」

「もふ!」

「チュ…ッ!!」

 

 モクローが放った風の刃に対し、カミッチュは防御力を高めて受け身の体制を取るが、やはり効果抜群の技は厳しいのか、カミッチュは土煙を巻き上げながら後退した。

 

「今だよ!カミッチュの目に“このは”!」

「もふ…もふぅ!」

「カミッ!?」

「カミッチュ!?」

 

 モクローが打ち出した“このは”が目に張り付き、最早モクローの十八番となった戦法で、そとッチュの視界が封じられる。

 

「“たいあたり”!」

「もふぅ!」

「ミッ!?」

 

 モクローの全力の体当たりが炸裂し、視界が封じられて慌てていたカミッチュは地面を転がる。

 

「カミッチュ!?」

「カ、カミ……」

 

 スグリの呼び掛けに、カミッチュは体に傷を作りながらも立ち上がる。

 そしてスグリとカミッチュはモクローに視線を向けようとしたが、そこには既にモクローの姿はなかった。

 

「ど、何処に…!?」

「上ですよ!」

「「ッ!?」」

 

 イルマの言葉に、スグリとカミッチュは同時に空を見上げるが、それは罠であった。

 天空に燦々と輝く太陽を背に滞空するモクローが影となり、逆行を浴びたカミッチュとスグリの目が眩む。その隙を、イルマとモクローは見逃さなかった。

 

「モクロー、全力で“エアカッター”!!」

「もふぅーー!!」

 

 モクローは三度目の“エアカッター”を放ち、急所に直撃したカミッチュが爆発を起こした。

 

「カミッチュ!!」

「ミッチュ……」

 

 スグリの悲痛な叫びが響き、煙が晴れてくると、そこには目を回して倒れているカミッチュの姿があった。

 

「…フゥ、何とか勝てた。ありがとねモクロー」

「もふぅ」

 

 イルマの肩の上に戻ってきたモクローに労りの言葉を掛ける。

 ポケモン自体のスペックは進化しているカミッチュの方が上だったが、イルマとモクローはこれまでサイドン、ソウブレイズ、巨大オリーヴァ、ヤトウモリ、キリキザン、ミロカロスといった強敵を数多く相手にしたことで、互いに大きくレベルアップをしており、その差が勝敗を決めた。カミッチュが先日進化したのも要因だったかもしれない。進化前のカジッチュは殆ど技を覚えられないポケモンだが、進化することで沢山の技を覚えられるようになったが、進化したてで、まだそのパワーをコントロールするだけの力がなかったのだろう。

 

「やっと着いた」

「イルマ、ゼイユ。大丈夫……って、これどういう状況?」

「あんた達ついてきたの!?」

 

 そこへ、イルマとゼイユを追ってきたリコ、ロイ、フリード、バチコの四人がともっこプラザにやって来た。それを見たゼイユが驚く。

 今朝からイルマの様子がおかしくて、心配して来てみたら、何故かスグリのカジッチュがカミッチュに進化してて倒れていると言う状況に、流石の四人も困惑する。

 

「イルマ、一体何があったんだ?」

「いやなんと言うか…説明がしにくい……ともかく、スグリくんとバトルして勝ちました」

 

 こうなった理由は言うのに躊躇いがあるため、兎に角何が起きたかだけを説明するイルマ。

 すると、カミッチュをモンスターボールに戻したスグリが、髪を掻き乱しながら絶叫した。

 

「ううぅ……うわぁぁぁっ!!!」

「スグ!?」

「スグリ君!」

「ス、スグリ!?」

 

 イルマ達は揃って目を丸くする。特に、事情を知らないリコ達は何が何だか分からず困惑するばかり。

 そして、スグリは踵を返して駆け出すと、ともっこ像が建てられた墓の柱を、思いっきり殴った。

 

「痛っ……」

 

 しかし、ポケモンでもない普通の人間が素手でコンクリートを殴っても壊れる筈もなく、スグリは痛む右手を左手で押さえる。

 

「スグ……大丈夫?」

 

 普段は弟に対して乱暴な態度を取っているゼイユでさえ、その様子に心配そうな表情で、おずおずとスグリに声をかける。

 しかしスグリはその問いかけに答えず、スグリはイルマの前までやって来ると、碧のお面を差し出し、イルマはそのお面を戸惑いながらも受け取った。

 

「…約束だから」

「う、うん……」

「……鬼さまによろしくな」

「スグ、あのね。あたし、あんたに謝…」

「…帰る」

「あっ、スグリ君!」

 

 ゼイユとイルマの言葉が終わるよりも早く、スグリは走り出してともっこプラザから出ていってしまった。

 彼の後ろ姿を眺めていたイルマとゼイユの重苦しい雰囲気に戸惑いながらも、流石に放っておく事が出来なかったリコが、気まずそうにイルマに話し掛けた。

 

「ね、ねぇ、イルマ。スグリと何かあったの?それにそのお面とか鬼さまによろしくって…?」

 

 当然と言えば当然の質問に、イルマは「どうします?」と問うようにゼイユに視線を向ける。その視線の意図を性格に読み取ったゼイユは少し悩んだ後、仕方ないと言うように溜め息を吐いた。

 

「いいわよ、話しても。スグは知ってたんだし、ここまで来ると誤魔化す方が難しいしね」

「…分かりました。少し長いし複雑なんだけど……」

 

 ゼイユの了承を貰い、イルマは全てを話した。

 一昨日のオモテ祭りで昔話に出てくる鬼、オーガポンに出会い、オーガポンが落としたお面を拾い、スグリに嫌な気持ちをさせないために皆に隠していたこと。その翌日にユキノシタから、本当の悪者はともっこと呼ばれるポケモン達で、オーガポンは悪くなかったこと。その後少し壊れているお面を直すための材料を調達するためにてらす池と呼ばれる池に行ったこと。そして既にスグリがオーガポンの真実を知っていて、お面を持っていってきてしまったのを追ってここまで来たこと。

 全てを聞き終えると、リコ達は愕然とした様子で、ともっこ像に視線を向けた。

 

「そんな…ともっこがそんな悪いポケモン達だったなんて…!」

「酷い!!」

「それで、それがその鬼…オーガポンが持ってたお面なのか?」

 

 リコとロイはともっこ達への怒りを露にし、フリードも不愉快そうな表情になりながらもイルマの持っている碧のお面を見つめる。

 そこで、バチコがスグリが走り去っていった方角を眺めながら口を開いた。

 

「…で、スグリはそれを知ってて、バトルを挑まれたと……」

「はい…多分、オーガポンの事を秘密にしてて、嫌な気持ちにさせちゃったんだと思いますが……」

「男の子の思春期って怖いわねー。思春期でグレるとか経験ないし、まいっちゃうわー」

「いや、ゼイユさん。これグレるとかいう問題じゃない気が……」

 

 何処か楽観的なゼイユの意見に、複雑そうな表情でイルマが意見しようとすると…

 

カタ……ガタガタガタ!!!

 

「?…何か聞こえませんか?」

「……ともっこ像から?」

 

 何かを揺らしたような音が聞こえてきて、イルマ達はその音源……ともっこ像に視線を向ける。

 

 すると、ともっこを模した石像が小刻みに震え、地面から紫色の光が溢れ出す。その光はどんどん大きくなっていき……

 

ドォオオオオンッ!!

 

 紫色の光の柱が石像と墓を破壊し、天に向かって光の柱が登る。

 その際に発生した衝撃波にイルマ達は思わず顔を腕で覆い隠し、足に力を入れてその場に踏み留まる。

 

「な、何なの…!?」

 

 衝撃波が収まってくると、イルマ達は恐る恐る腕を下げて、ともっこ像があった場所に目を向ける。ともっこの墓は見るも無惨に破壊され、モクモクと立ち上る煙。そしてその中にある…三匹のポケモンの影。

 

「何、あのポケモン達……!?」

 

 リコが驚愕した声を漏らすと同時に土煙が晴れていき、そのポケモン達の姿が露になった。

 

「ヌンダフル!!」

 

 真ん中にいたのは、抹茶色の模様が映える黒主体の大柄な体躯に、どことなく山賊っぽくも見え、赤紫色のしめ縄のようなものを首輪として巻いている二足歩行の犬のポケモン。

 

「マシャキャ?」

 

 左側にいるのは、根暗そうにも気難しそうにも見える顔立ちの青い顔が印象的で、黒い法被を着込んでいるようにも見える容姿。桃の形をした赤紫のお尻に、同じく赤紫色のしめ縄のようなものを鉢巻として巻いている猿の姿をしたポケモン。

 

「キチチチチ……」

 

 右側にいたのは、赤と黒主体の着物を着た風貌の花魁を思わせる姿に、如何にも女性的な立ち振る舞いを取り、他の2体と同じく赤紫色のしめ縄のようなものを帯として巻いている雉のような姿をしたポケモンだった。

 

「「「「えええええーーっ!?!?」」」」

 

 それを見たゼイユ、イルマ、リコ、ロイの四人は絶叫した。元々、ここに来るまでかなり衝撃的な出来事の連続だったのに、突然ともっこの墓が破壊されたと思ったらそこからポケモンが出てきたのだ。怒涛の展開にも程がある。フリードとバチコも、声は出さなかったが驚いており、ポカンと口を開けていた。

 

 三匹は、イルマ達に背を向け、ヒソヒソヒソと何かを話し合うと、突然バラバラになってともっこプラザから飛び出していった。雉のようなポケモンは空を飛び、犬と猿のようなポケモンは塀を越えて、キタカミセンターの方に走っていく。

 

 その場に残されたイルマ達は、呆然と彼らの後ろ姿を眺めていた後、ようやく正気を取り戻したゼイユが一番に口を開いた。

 

「あれ、何だったのよ……」

「ポケモン、だったよね…?」

「う、うん…でも、あんなの始めてみた…」

「…ん?イヌ、サル、キジ……もしかしてあのポケモン達って!」

「【イイネイヌ】【マシマシラ】【キチキギス】…あいつらが『ともっこ』だな」

 

 イルマの言葉を、フリードが続ける。

 

「確かに…ともっこかも!3匹揃ってたし!悪~い顔してたし!」

「像の下で眠ってたってこと…?」

「で、でも!ともっこって死んだ筈なんじゃ…」

「そうだった筈だよね。何で突然生き返ったんだろう…?」

 

 全員頭を捻って考えるが、やはり答えが導き出される筈もない。そこで、バチコが声をかけた。

 

「その疑問も尤もだけどよ。今はアイツ等がどうするのかが重要なんじゃねーか?アイツ等が向かった先、キタカミセンターの方だぞ」

「た、確かに!」

「追いかけるよ!」

「わかった…リザードン!」

「出番だチルタリス!」

 

 フリードとバチコがリザードンとチルタリスをボールから出すと、フリード、イルマ、ロイの三人はリザードンに、バチコ、リコ、ゼイユはチルタリスの背中に乗ると、2体は翼を羽ばたかせ、キタカミセンターに向かって飛び出した。

 

 

 

 

 

 

 

 イルマ達がキタカミセンターの神社の前に辿り着くと、周囲では人々で賑わっていた。オモテ祭りはまだ続いてるが、昨日の同じ時間帯にはここまで賑わっていなかった。

 その事に疑問を持ちつつも、イルマ達は神社の前で町の人々と駄弁っている剥げた頭のメガネの男にゼイユが話し掛けた。

 

「おやゼイユ!それに…ライジングボルテッカーズの皆さん!来るのが少し遅かったですぞ!」

「おっちゃん!ともっこ来なかった!?」

「ともっこ『さま』!」

「そう言うのいいから!」

「この子は全く…」

 

 この辺りの建物を管理する管理人にそう訂正されるが、ゼイユは無視した。それに呆れるように首を振りながら、管理人は笑顔で口を開いた。

 

「そうそう!そうなんです!何と、さっきまでともっこさまがセンターにいらっしゃいましてね!キタカミセンターで保管していた輝くお面を持っていこうとされていましたので……センター職員一同、どうぞどうぞとお返ししたんです!」

「あげちゃったの!?」

 

 ゼイユが驚愕して声を上げる。

 

「お腹を空かれていたようで、スパイスたっぷりのキタカミもちを一瞬で平らげてくださった!」

「もてなしたんですか!?」

 

 今度はリコが驚愕した。

 

「キタカミもちは栄養満点!もっと大きく強くなられますな!」

 

 町の人々は喜んでいるが、真相を知っているイルマ達からすれば笑い事ではない。

 

「ともっこは悪い奴で、お面はオーガポンの物なのに!本当の事言えないのしんどい!」

「…それで、ともっこ達は何処に?」

 

 ゼイユの言葉に心の底から同意しながら、イルマは管理人にともっこ達の居所を聞く。

 

「鬼が山に登っていかれたよ。恐れ穴に潜んでいる鬼をやっつけに行かれたのかもな」

「流石我らのともっこさまじゃ!頼もしいですなぁ!ハッハッハ!」

「ハッハッハじゃないんですけど!」

「お、落ち着いて…」

 

 怒りを露にして拳を震わせるゼイユをイルマは宥める。

 やがてゼイユの怒りが収まると、一同は神社から少し離れた場所で話を始める。

 

「…本当の歴史が正しいなら、きっとともっこ達、オーガポンに復讐しに行ったんだ!」

「オーガポンはお面の力で戦うって言われてる。お面を持たない今、オーガポンが危ないぞ!」

「早く助けに行かないと!」

「分かってるよ。早く恐れ穴に行くぞ」

「「うん!」」

 

 ゼイユとフリードの言葉に、イルマは一気に顔を青くする。そしてバチコの言葉に頷いた一同は、直ぐに恐れ穴に向かって走り出そうとする。

 

「イルマ!あんた達は先に行ってて!」

「ゼイユさん?」

 

 鬼が山に続く道に背を向けて走り出そうとするゼイユに、訝しげな視線を向けるイルマ。それに対し、ゼイユは振り返って心底面倒そうにしながらも答えた。

 

「引っ張って行かなきゃ行けない奴がいんのよ!ソイツを連れて直ぐに恐れ穴に行くから、オーガポンの事頼んだよ!」

「ッ!……分かりました!」

 

 その言葉だけで、ゼイユの意図を察したイルマはそう答え、イルマ、リコ、ロイ、フリード、バチコの5人は、恐れ穴に向かって走り出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぽにいッ!?」

 

 頬を殴られたオーガポンは、吹っ飛ばされて地面に倒れた。

 身体中の痛みに顔をしかめながら顔を上げると、そこには犬、猿、雉に似た姿で、注連縄のようなものをつけている【ともっこ】と呼ばれ奉られているポケモンが、ジリジリと迫ってくる。

 

「ヌンダフル!」

「マシッキャー!」

「キチチチチ!」

「が、がお…!!」

 

 下卑た表情で近づいてくるともっこ達に、オーガポンは怯えて身を強張らせる。

 大昔に自身に力を与えてくれるお面を三つ奪われ、そして残った最後のお面も失くしてしまった今、オーガポンにともっこ達を倒すだけの力は無く、それを好機と見たともっこ達は、遠慮容赦なくオーガポンを痛め付ける。

 

「ヌンダァアアアッ!!」

「ッ!!」

 

 その時、二足歩行の犬の姿をしたポケモン【イイネイヌ】が、紫色のオーラを纏わせた拳を振りかぶった。“どくづき”だ。どくタイプの技を弱体化したくさタイプの自分が受けてしまえばどうなるのかを想像し、顔を青くしたオーガポンが、怯えて頭を両手で抑える。

 その時だった。

 

「ッ!?」

 

 突如、オーガポンは誰かに抱き締められたような感触がしたかと思うと、その誰かに引っ張られる。

 空振りになったイイネイヌの“どくづき”が、オーガポンが倒れていた地面を破壊する。

 

「モクロー、“エアカッター”!」

「もふぅー!!」

 

ズバァアアンッ!!

 

「ヌゥッ!?」

 

 その瞬間、中性的な男の声とポケモンの声が響いたかと思うと、何処からか飛来した風の刃がイイネイヌに直撃し、不意打ち気味にそれを食らったイイネイヌは悲鳴を上げて吹っ飛ばされた。

 

「オーガポン!大丈夫!?」

「ぽに…!」

 

 声をかけられながら優しく地面に下ろされたオーガポンは、思わず顔を上げてその声の主の姿を見た。

 そこには、真っ白な服を着ていて、海のように綺麗な青色の髪と瞳をした小柄な人間と、梟のような小さなポケモンの背中があった。

 その少年にはオーガポンも見覚えがあった。お面で顔を隠して密かに祭りに来ていた時、大事なお面を落とす直前に自分にりんご飴をくれた人間だ。

 その人間は、相棒(パートナー)と思われるモクローと共に、まるで自分を庇うかのように、前に立っていた。

 

「貴方達、一人に対して三人がかりなんて卑怯です!!」

「もふもふ!」

「…ッシラァッ!!」

 

 その少年──イルマが厳しい声を上げ、モクローと共にともっこ達を睨み付ける。

 それが癪に触ったのか、猿の姿をしたポケモン【マシマシラ】が怒声のような声を上げながらイルマとモクローに飛びかかる。

 だが……

 

「キャップ、“かみなりパンチ”!!」

「ピッカァッ!!」

「マシシャッ!?」

 

 男性の声が響くと同時に、突如現れたキャップの雷を纏った右ストレートがマシマシラの顔面に炸裂し、無防備にそれを食らったマシマシラは目玉が飛び出るような勢いで吹っ飛ばされた。

 

「ピカァッ!!」

「キャップ!」

「イルマ!!」

「皆!」

 

 キャップに続いて、フリードやリコ達も駆けつけてくる。

 オーガポンを守るように立つイルマとモクロー。そしてともっこ達を挟むように立つフリード、リコ、ロイ、そして少し遅れてゼイユとスグリ、そして彼らのポケモン達。イルマとゼイユからオーガポンの真実を聞かされている彼等は、キタカミの英雄として祀られているともっこ達を睨み付け、ポケモン達は臨戦態勢を取る。

 

 流石に分が悪いと思ったのか、ともっこ達は戸惑ったように互いの顔を見合わせると、踵を返して一目散に逃げていった。

 

「あっ、逃げた!」

「ハンッ、私の強さにビビったようね!」

「ゼイユはなにもしてないような…?」

「うるさい!」

 

 イルマのツッコミに反論するゼイユ。

 すると、家に帰った筈のスグリが、おずおずとイルマに話し掛けた。

 

「イルマ……あと、えっと……」

「ちゃんと言いな!」

「お、お面の事…おれ、カッとなっちまって……本当に、バカなことさした…だから、ごめん」

「別に気にしてないよ。僕もオーガポンのこと内緒にしてたんだから、お互い様だよ」

「……ありがと」

「ゼイユは、このためにスグリを連れてきたんだ…!」

「しょぼくれてたから首根っこ掴んで連れてきたのよ!まぁ、オーガポンが危ないって言ったら寧ろあたしより早く鬼が山に向かったんだけどね!」

「ぽ、ぽに……」

 

 そこで、弱々しいポケモンの声が聞こえてきて、一同は思わずそちらに目を向ける。

 そこには、身体のあちこちに傷を負い、顔色の悪いオーガポンが、怯えるように此方を見ていた。

 

「ほ、本当に鬼さまじゃ……」

「あれが、伝説に出てた鬼?」

「なんか可愛い……」

「言ってる場合?怪我してるんだから、早く治療しないと!」

 

 見るからにオーガポンは重傷だ。急いでモリーの所に連れていって治療させてあげないとと考えたイルマがオーガポンに歩み寄ろうとすると、横から割って入る者が現れた。

 

「下がって。私が治療する」

「ラッキー」

「!モリーさんにラッキー…どうしてここに」

アイツ等(ともっこ)がオーガポンを狙ってるって聞いたから、念のため連絡して連れてきたんだよ」

「師匠!」

 

 そこで声をかけたバチコが指差した先にはチルタリスの姿がある。どうやらバチコからの連絡を貰ったモリーは、ブレイブアサギ号まで迎えに来たチルタリスに乗ってやってきたらしい。

 

「……どくタイプの攻撃を受けて、どく状態にもなってる…まずは毒を消さないと……」

「!ぽ、ぽにッ!」

 

 バッグから取り出したどくけしをオーガポンに吹き掛けようとすると、オーガポンは怯えたようにモリーから距離を取って縮こまる。

 

「怖がらないで。私達は貴方になにもしない。傷の手当てをするだけだから」

「ぽにぃ……!!」

「……人を怖がってるみたい。傷の治療をさせてくれない…」

 

 モリーが安心させようと声をかけてみるも、オーガポンは更に怯えて縮こまってしまい、モリーが苦々しい表情で呟いた。

 

「どうすれば……あっ!」

 

 どうすれば治療を受けてくれるんだろうと、何となくキョロキョロと辺りを見回したイルマは、直ぐ近くに尖った石が転がっていることに気付いた。

 イルマは左手の手袋を外して右手でその石を拾い上げると、オーガポンに歩み寄り、その石をオーガポンに見せる。

 

「ぽに…っ!」

「ちょっと、イルマ何を……」

 

 オーガポンは怯えて目に涙を浮かべ、モリーが余計にオーガポンを怯えさせたイルマを叱ろうとする、その瞬間だった。

 

ザシュッ!

 

『ッ!?』

 

 なんと、イルマはその尖った石で、何のため躊躇いもなく自分の左手の甲を切りつけたのだ。石が皮膚を切り、傷口からポタポタと血が滴り落ちる。

 イルマのまさかの行動に、ライジングボルテッカーズの面々やゼイユにスグリ、オーガポンさえも目を見開いて硬直した。

 

 そんな周囲を余所に、イルマはポケットから取り出したハンカチをビリビリッと破り、それを血が流れる手に巻き付けて、擬似的な包帯を巻いた左手をオーガポンに見せた。

 

「えっと……モリーさんは()()をね、()()、やって上げたいだけなんだけど…ダメ?」

「……ぽに」

 

 オーガポンはキョトンとして、心配そうに自分を見ているイルマの顔をジッと見つめている。

 10秒…20秒と、時間が経過していく。オーガポンはイルマを観察するように見つめ、イルマは一瞬たりともオーガポンから目を離さない。

 

 やがてオーガポンは、スッと怪我をしている腕をイルマに突きだした。

 

「ありがとう!…モリーさん!」

「分かってる」

「ぽにっ!?」

 

 モリーが出てきて治療を始めようとするが、オーガポンはモリーを見た瞬間に怯えて後退る。

 

「私じゃダメみたい……」

「どうしたら…」

「……仕方ない。イルマ、私が教えるから、オーガポンの治療をお願い」

「えっ?で、出来ますかね…?」

「見た感じ、致命的な怪我はしていない。どくけしやキズぐすりかけて、包帯巻いて湿布貼れば何とか出来る程度だから」

「わ、分かりました……」

 

 モリーから薬を受けとると、イルマはオーガポンにどくけしを吹き掛ける。薬が染みるのか、オーガポンは小さく声を上げるが、それを振り払うことはせずに大人しく治療を受けている。

 イルマは隣にいるモリーの言葉通りにオーガポンに傷ぐすりを吹き掛け、包帯を巻いたり湿布を貼っていく。

 

 10分後、治療を受けたオーガポンは、包帯や湿布が体に施されながらも、身体の痛みがなくなった事に喜びを露にし、笑顔を浮かべてピョンピョンと跳び跳ねた。

 

「ぽにっ、ぽにっ!」

「元気になったみたい…!」

「良かったねぇ!」

 

 リコとイルマはホッと胸を撫で下ろし、一同は自然と笑顔になる。

 オーガポンはじいい~…とイルマの顔を見つめていたかと思うと、オーガポンは何処からか白尾中折れ帽を取り出し、その帽子をイルマに差し出した。

 

「ぽにっ!」

「あっ!これ一昨日なくした僕の帽子!拾ってくれてたの!?」

「ぽにっ!」

「ありがとう!」

 

 オーガポンから帽子を受け取ってそれを頭に被り、オーガポンに視線を合わせて、オーガポンに笑顔でお礼を言う。

 そんなイルマの顔をしばらく見ていたオーガポンは、やがて笑顔を浮かべてグリグリとイルマに頬擦りをした。

 

「わっ、どうしたの…?」

「ぽにっ、ぽにおー!」

 

 オーガポンは子犬のようにイルマに甘え、イルマはそれにくすぐったそうにしながらも、オーガポンの頭を優しく撫でる。

 

「……オーガポンが、イルマに心を開いたみたいだな」

「……」

 

 フリードの言葉に、リコ達は笑みを浮かべるが、ただ一人、スグリだけは、悲痛そうな表情で俯いた。

 すると、彼のとなりにいたゼイユが、あるものをスグリに差し出した。

 

「スグ、これ」

「これは…」

 

 それは、オーガポンの碧のお面だった。

 イイネイヌの“どくづき”からオーガポンを守る際、イルマはお面をその場においてからオーガポンを救出し、それをゼイユが拾っていたのだ。勿論、優しく置いているので破損はない。

 

「あんたからお面を返したかったんでしょ?あたしもイルマも、別にオーガポンを独占したいわけじゃないから」

「……うん」

 

 ゼイユの言葉に頷いたスグリは、オーガポンの前までやって来て、オーガポンに碧のお面を差し出した。

 

「鬼さま……これ」

「が、がお……」

「受け取らないよ?」

「会ったばかりだからスグの事が怖いのかも……」

 

 スグリがお面を差し出しても、オーガポンは怯えたように縮こまり、お面を受け取ろうとしない。それを見たロイが疑問符を浮かべ、リコが顎に手を当てて呟いた。

 実際、オーガポンは何百年も人間に嫌われてきた過去をもっているため、人間を怖がっている傾向にある。先程モリーの声掛けも聞かずに怯えていたのが良い例だ。

 リコの言葉を聞いて、スグリはお面をもったまま、イルマに向かい合った。

 

「おれじゃダメみたい。イルマの方から返して上げて」

「…良いの?ちゃんと話せば、分かってくれるかも……」

「……大丈夫」

 

 スグリの回答に、イルマは気まずそうにしながらも、差し出された碧のお面を受け取り、オーガポンの前に立って碧のお面をオーガポンに見せた。

 

「オーガポン、これ」

「!ぽに、ぽにおー!!」

「ウフフ、喜んでる」

 

 オーガポンは今度は怯えることなく、イルマの手から碧のお面を受け取ると、それを顔に被り、嬉しそうに飛び跳ねる。その様子を見て、ゼイユ達も自然と笑みを浮かべる。

 すると笑いを消し、真面目な表情となったゼイユが、イルマ達に提案する。

 

「……やっぱりさ、残りの3つのお面も、オーガポンに返して上げたいよね」

「センターにあったやつ……あの三匹が持っていったんだっけ?」

「うん。元々はオーガポンのお面なのに……」

「それに、またアイツ等が襲ってくるか分かんないしね」

「そっか。ともっこってオーガポンのお面を狙ってるもんね……」

 

 互いに意見を出しあっていると、考え込んでいる様子のフリードが口を開いた。

 

「よし、それなら、スイリョクタウンで聞き込みをしよう。ともっこ達が何処に行ったのかを知る必要がある」

「え?良いんですか?フリードさん達にはガチグマの調査が…」

 

 フリードは元々、ガチグマの生体調査がある。言い方は悪いが、オーガポンの事情とは何の関係もないのだ。なのに仕事を一時放棄させてしまうことに、イルマは難色を示す。勿論、ともっこが復活した以上そんな場合でないのも事実なのだが。

 そんなイルマの言葉に対し、フリードは何でもないように言った。

 

「水臭い事を言うな。俺達は仲間だ。それに、そんな事を知って、放っておけるわけないしな」

「ピーカァ」

「…まっ、弟子の面倒は見てやるよ」

「僕もやるよ!」

「ホゲ!」

「うん!私も、オーガポンの力になりたい!」

「ニャアッ!」

 

 仲間達の言葉に、イルマは自然と笑みを浮かべる。

 そして、フリードは拳を前に突き出すと、イルマ達もそれに合わせるように拳を突き出す。それを見て、何となくではあったが、ゼイユとスグリも拳を前に出す。

 

「よし!ライジングボルテッカーズ!オーガポンのお面を取り戻すぞ!」

「「「「オーッ!」」」」

「「オ、オー!」」

「ぽにおーっ!」

 

 仲間の証であるハンドサインを行って気合いをいれるイルマ達に、ゼイユとスグリも少し戸惑いながらも続き、それを見ていたオーガポンは嬉しそうに飛び跳ねた。

 

 

 

 

 

 

 

 そして、イルマ達はリザードンとチルタリスに乗って、スイリョクタウンの前までやって来た。ともっこが何処に行ったのか分からず、野山に囲まれた人里であることでネット上で探すのは難しい以上、キタカミセンターやスイリョクタウンといった人が集まるところで聞き込みをするしかないのだ。

 

「が…がお……」

「オーガポン、どうしたの?」

 

 イルマと共にリザードンの背中から降りたオーガポンは、スイリョクタウンを見るなり怯えたように身を縮こまらせ、それを見たゼイユがオーガポンに問いかける。

 

「きっと、村に入りたくねぇんだ」

「そっか、オーガポン。ずっと村人達から誤解されてきたんだよね……」

「確かに……」

 

 スグリの言葉に、リコ達も複雑そうに頷いた。

 そんな空気を振り払うように、ゼイユが明るい声で提案をした。

 

「それじゃあ、オーガポンにはここで待っててもらって、あたし達で情報収集しに行こっか」

「でも、僕達がスイリョクタウンに行っている間に、オーガポンが襲われる可能性もありますよ?」

「確かにな…なら、イルマ、お前はオーガポンと一緒にここで待機してろ。その方がオーガポンも安心するだろうし、何かあったらあッチ等に救援を呼べるしな」

「それは確かにそうですね…じゃあ、そうしますか」

 

 バチコの提案にリコ達も異論はないようで、笑顔で頷く。ただ、スグリだけは、その提案に複雑そうな表情を浮かべて俯いていたが、それに気付くものはいなかった。

 すると、ゼイユがオーガポンに視線を合わせて、笑顔で話し掛けた。

 

「オーガポンちゃん、いーい?あたし達!村、行く!オーガポン!イルマと!ここで!ステイ!……OK?」

(何、そのしゃべり方…?)

「……ぽ?」

 

 何故か片言で話すゼイユにリコは頬をひきつらせ、オーガポンは首をかしげる。

 

「うーん…やっぱダメか~…」

(言うこと聞かない訳じゃないような……)

 

 苦笑いしているリコの思っていることは、ゼイユ以外の全員が考えていることだったが、可哀想なので言わないことにする。

 すると、今度はイルマがオーガポンに視線を合わせた。

 

「オーガポン。皆が情報を集めて帰ってくるまで、僕とここで待っててくれる?」

「ぽにおーん!」

「分かったみたい」

「何でよ!!」

 

 拳を震わせて叫ぶゼイユ。理由は明白である。

 その光景に思わず吹き出しそうになるのを必死に堪えながら、イルマが話を切り替えた。

 

「それじゃあ、僕はオーガポンとここで待ってますので、皆さんはスイリョクタウンで情報収集頑張ってください」

「分かったわ。それじゃあ、それまでこれ食べてなさい」

「?」

 

 そう言って、ゼイユは何かが入ったビニール袋をイルマに差し出す。それを受け取ったイルマが袋の中を覗いてみると、そこにはプラスチックの容器にはいった焼きそばが二つ入っていた。

 

「これは…?」

「朝御飯、食べてなかったんでしょう?一応あたしが呼び出したわけだし、これでも食べてなさい。勿論、オーガポンの分もあるから」

「ありがとうございます!ゼイユさん!」

「ッ、別に、偶々目に止まったから買っただけよ!」

 

 笑顔で礼を言うイルマに、ゼイユは若干顔を顔を赤くしてそっぽを向く。

 

「……」

「リコ、落ち着け。今は嫉妬するより情報収集が先だろ。…そんじゃあ、あッチ等は言ってくるぜ」

「じゃあ、僕達も行ってくる!」

「あぁ。イルマ、オーガポンの事を頼んだぜ」

「オーガポンの傷は殆ど治ってるみたいだから、このまま休んでれば直ぐに元気になるよ」

「ほら、あたし達も行くよスグ」

「……うん」

「行ってらっしゃ~い」

「もふぅ~」

「ぽ~」

 

 スイリョクタウンに向かって歩き出すバチコ達7人に手を振るイルマ、モクロー、オーガポン。

 しばらくしてその姿が見えなくなると、イルマとオーガポンは近くに生えている木の根本に座ると、ゼイユから貰った焼きそばを取り出した。

 

「はい、これはオーガポンの分」

「ぽ?……ぽに!」

 

 焼きそばを物珍しそうに眺めているオーガポンだったが、焼きそばの匂いを嗅いでみると笑顔を浮かべ、それを受け取って食べ始める。

 その様子に笑みを浮かべながら、イルマはモクローと自分の分の焼きそばを分け合いながら、少し遅めの朝食を取った。

 

 

 

 

 

 

 30分後、焼きそばを食べ終え、オーガポンとモクローとじゃれ合っている光景を眺めていたイルマの元へ、スマホロトムで情報収集を終えたという連絡を受けると、五分もしない内にリコ達が帰ってきた。

 集まった一同は、各々が村人から聞いた情報を共有し、ともっこ達が何処に逃げたのかを絞り混む。

 

「おかえりなさい。どうでした?情報集まりましたか?」

「うん。私達は、キチキギスが鬼が山に飛んでいったって聞いた」

「地獄谷から梯を降りた先の洞窟に入っていったとも聞いたぜ」

「…地獄谷って事は……ひやみず洞の事ね」

 

 リコとバチコとモリーが持ってきた情報から、キタカミの里が地元であるゼイユが場所を割り当てる。

 

「僕達は、池の周りでマシマシラが昼寝してるって!」

「池……てらす池の事?」

「それもあるが……キタカミにはもう一つ、フジが原って場所の南西にフジの池って言う池がある。マシマシラが向かったのはそっちだろう」

「確かに、あそこはお昼寝には向かないからね」

 

 ロイが聞いた情報にイルマが唯一行ったことのあるてらす池を思い浮かべるが、フリードが補足をいれる。

 

「おれが聞いたのは、イイネイヌが荒地でお散歩してたって話……」

「荒地……楽土の荒地ね。イイネイヌの居場所はそこで間違いなさそうね」

 

 荒地と聞いて、イルマとゼイユは真っ先に楽土の荒地を思い浮かべた。というより、この辺りで荒地と言われて思い浮かぶのはそこしかない。

 

「これ、ともっこ達の居場所、全部分かったんじゃない!?」

「多分な。けど、早く行かないとともっこ達が何処かに行く可能性もあるぞ?相手は生き物だ。いつまでもそこに留まってる筈がねーしな」

 

 ゼイユが表情を明るくするが、バチコは腕を組んで考え込む。相手(ともっこ)はポケモン。生き物だ。今こうしている間にも移動している可能性だって十分にあるのだ。三匹の内どれかを相手している内に、他の2体がその場から移動して行方が分からなくなったりでもしたら、洒落にならない。

 

「確かにな…よし、ならともっこ達がその場所からいなくなる前に、三組に分かれてともっこからお面を奪い返そう。モリーとラッキーは、スイリョクタウンで待っていてくれ」

「分かってる」

 

 医療班であるモリーとラッキーはあまり戦闘に向いていない。なので、激闘が起こるであろう場所に連れていくわけにはいかない。モリーもそれが分かっているので、フリードの言葉に素直に頷いて、スイリョクタウンの方に向かって歩いていった。

 

「それじゃあ、ともっこ達を探しに行くメンバーだが…」

「おれ……行かね」

 

 フリードがメンバーを分けようとすると、スグリがか細い声でそう言った。小さな声だったが、その場に来た全員にその声は聞こえており、一同はスグリに顔を向けた。

 

「えっ、来なよ!あんたもオーガポンのお面取り戻したいんでしょ?」

「イルマがいれば鬼さまも安心だろうし……やることあっから……ごめん!」

 

 そう言ってスグリはキタカミセンターの方へ走り出してしまう。イルマ達はしばらくその後ろ姿を眺め、スグリの姿が見えなくなってくると、ゼイユが声を上げた。

 

「まだスネてんのかな?…ま!強制はよくないし、後はあたしらでやろう!」

「そうですね……」

 

 ゼイユの口から『強制はよくない』なんて台詞が出てきたこと内心驚きつつも、言っていることは正論なので、イルマ達はゼイユの言葉に頷いた。

 

「それじゃあ、三組に分かれてともっこからお面を取り返すわけだけど…どうやって分けるの?」

「まぁ……ともっこの強さが分からない以上、あッチとフリードは分かれてペアを組んだ方が良いけど…そうするとあと一組はどうするか…」

「あっ!それならあたしがイルマとペアでやるわよ!」

「なっ、なんで!?」

 

 ゼイユの提案にリコが焦燥感を募らせて声を荒げる。

 

「あたしはブルーベリー学園でも四強を余裕で越えてるからね。昨日のミロカロスとのバトルで、イルマともコンビネーションバッチリだったしね、ともっこだろうが何だろうが、ぶっ飛ばしてやるわよ」

「…?ゼイユさん、初日に僕とのバトルで引き分けましたよね?」

「あ、あれは…そう!あんたが初心者トレーナーだから手加減して上げただけよ!」

「そ、そうですか…でも、よろしくお願いいたしますね」

 

 イルマの指摘にゼイユは拳を震わせてそう反論する。イルマはそれに苦笑いするが、ゼイユと組むこと自体は嫌ではないので、笑顔でイルマとゼイユとペアを組むことを決め、ゼイユも自然と笑みを浮かべる。

 

「……」

「おい、リコ。嫉妬して膨れてないでともっこのところに行くぞ。フリード、あッチはリコと一緒にキチキギスのいるひやみず洞に行くから、オメーはロイと組んでくれ。チルタリス、行くぞ」

「お、おう…気を付けてな?」

 

 頬を膨らませて不満げな表情を浮かべるリコを引きずり、バチコはモンスターボールから出したチルタリスの背中にリコと乗せてから自分を飛び乗り、そそくさとひやみず洞に向かって飛び立っていった。フリードはリコの様子に少し戸惑いつつもバチコにそう声をかけ、その後ろ姿を見送った。

 

「それじゃあ、俺とロイはマシマシラからお面を取り返すか」

「ピカッ!」

「うん!絶対にお面を取り返そう!やるぞ、ホゲータ!」

「ホゲー!」

 

 フリードの提案にキャップが頷き、ロイとホゲータはお互いに声をかけて気合いを入れた。

 

 そうして、フリードとロイはマシマシラが昼寝をしていると言うひやみず洞に向けて歩き出す。しばらくその後ろ姿に手を振っていたイルマは、二人の後ろ姿が小さくなっていくと、ゼイユとオーガポンに声をかけた。

 

「それじゃあ、僕達はイイネイヌですね」

「そうね。楽土の荒地にいるらしいけど、散歩してるって話なら他の場所に行ってる可能性もあるし、急いだ方がいいわね」

「ですね。……それはそれとして、オーガポンはどうしますか?」

「ぽ?」

 

 視線を向けられたオーガポンは首を傾げる。イイネイヌ達の狙いはオーガポンの復讐、そしてオーガポンのお面だ。態々相手の前に標的を連れていくのは、少し危ない気がする。モリーはスイリョクタウンの方に戻り、スグリは何処かに行ってしまった。そもそも、それ以前にオーガポンは未だにイルマ以外の人間を怖がっているので、オーガポンが大人しくしてくれるのか…。

 そんなイルマの懸念に、ゼイユは笑みを浮かべて軽く返した。

 

「連れてきてもいいんじゃない?オーガポンを一人にするのも不安だし、あんたと一緒にいた方がオーガポンも安心するみたいだしね」

「…まぁ、それもそうですね。…オーガポン、僕達と一緒にイイネイヌのところに行く?」

「ぽにっ!」

 

 イルマの問いかけに、オーガポンは笑顔で頷く。

 そうして、イルマとゼイユはオーガポンと共に、お面を持ち去ったイイネイヌがいるという楽土の荒地に向かって歩き出した。

 

 




次回、ともっこ戦です。
ゲームの通りに書きすぎてスグリが闇堕ちしそうな雰囲気なのが悩みです。というか、オーガポンが仲間入り確定している以上、キタカミで闇堕ち回避がかなり難しいんですよね。

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