魔入りました!入間くん if Episode of ポケットモンスター 作:MTHR
スグリとライジングボルテッカーズはほぼ空気ですのでご了承ください。
ともっこの最後の一体、【イイネイヌ】が持っていったオーガポンのお面を取り戻すために、楽土の荒地を目指して歩くイルマとゼイユ、そしてオーガポン。
楽土の荒地に辿り着き、そこそこ広い荒地をキョロキョロと見渡していると、イルマとゼイユとオーガポンは、黒い二足歩行の犬ポケモンの影を見つけ、その影に向かって走り出した。
「ぽにぽに!」
「パワフルなやついた!悪そうな筋肉、イイネイヌ!!」
「そのフレーズなんですか…?」
パワフルなやつはともかく、悪そうな筋肉なんていうよく分からない呼び方に若干困惑するイルマ。
そうしている内に、イルマとゼイユとオーガポンは、イイネイヌの前にたどり着いた。
「ねぇ、なんか……前より大きくなってない!?」
「なんで!?」
「ぽに~…」
「……ヌ?」
目の前に立つイイネイヌは、身体が五倍はありそうな巨体に変化していたのだ。流石にこれには驚きを隠せず、イルマとゼイユとオーガポンは大きく目を見開き、イイネイヌは首をかしげる。
しかし、相手が大きくなって強そうになったから逃げるなんて選択肢は、イルマとゼイユの中には存在しない。二人は頭を振って思考を切り替えると、モンスターボールを取り出したゼイユがイルマに声をかけた。
「イルマ!アイツにギャフンといわせるよ!」
「はい!モクロー!」
「もっふぅ!」
「ヤバソチャ、出番よ!」
「ソチャ!」
イルマとゼイユは、それぞれのパートナーを出し、二人の前に並び立ったモクローとヤバソチャはイイネイヌと対峙する。
「ヌンダ、ヌンダ!ヌンダッフル!」
戦闘の気配を感じ取ったのか、イイネイヌも臨戦態勢をとり、モクローとヤバソチャを見下ろしながら、雄叫びを上げた。
「おしゃれマフラー腹立つ!えげつないお座りさせてやる!!」
「そ、そうですね……(えげつないお座りってどんなだろう…?)。オーガポンは下がってて」
「ぽに…!」
またしてもゼイユの謎の言葉に、イルマは疑問をもちながらも、今度は口に出さずにオーガポンに声をかけておく。それを聞いたオーガポンは、心配そうにイルマとゼイユの後ろ姿を眺めながらも、素直に自分を守るように立つイルマとゼイユの後ろに下がった。
「ヌンダァアア!!」
その時、オーガポンの姿を捉えたイイネイヌが、雄叫びを上げて突撃してきた。オーガポンの復讐の念が消えていないのか、それとも唯一オーガポンが持っている碧の仮面を狙っているのか、理由は分からないが、兎に角イイネイヌがオーガポンが狙っていることは分かった。
だが、それを二人が許すはずがなかった。
「モクロー、“このは”!」
「ヤバソチャ、“シャドーボール”!」
「もっふ!」
「ヌッ!?」
「ソチャチャ!」
「ヌンダァッ!?」
モクローが放った葉が数枚顔に直撃し、怯んだイイネイヌにヤバソチャの黒いエネルギー弾が炸裂し、イイネイヌは思わずその場で尻餅をついた。
「あたし達を無視するなんて良い度胸じゃない」
「オーガポンに手は出させません!」
「ヌゥンッ!」
イルマとゼイユの啖呵に、イイネイヌは怒りに顔を歪ませて、右手に紫色の毒々しいエネルギーを纏って突撃する。恐れ穴でオーガポンに食らわせようとした“どくづき”だ。くさタイプを持つモクローとヤバソチャ、そしてオーガポンには効果抜群の技だ。
「モクロー、“おどろかす”!」
「もっふ!」
「ヌッ!?」
イイネイヌが目前まで迫ったところで、モクローは飛び上がり、イイネイヌの顔の前で翼を叩き、発生した大きな音に、イイネイヌは怯む。
「今よヤバソチャ!“ねっとう”!」
「ソチャチャ!」
「ヌンダッ!?」
その隙を見逃さず、ゼイユが指示を出し、ヤバソチャは沸騰した水鉄砲をイイネイヌの顔面に浴びせる。怯んだところで熱湯をかけられたイイネイヌは溜まらず顔を手で覆う。
「畳み掛けるよ!“エアカッター”!」
「もっふぅっ!!!」
「ヌンダフッ!!」
そこへ追い討ちをかけるように、モクローが射ち放った風の刃がイイネイヌの身体を切り裂き、顔にかけられた熱湯に悶えていたイイネイヌは無防備に効果抜群となるひこうタイプの技を急所に受け、仰向けに倒れた。
「やるじゃない!流石あたしの舎弟……友達ね!」
「!……はい!」
自慢気に髪をかき上げながらイルマにそう言って、手を前に出すゼイユ。イルマはゼイユの言葉に少しおどろきながらも、直ぐに嬉しそうな笑みを浮かべ、ゼイユとハイタッチをする。
「そんじゃあ、アイツからお面を取り返すわよ」
「いや……まだイイネイヌ倒れてませんよ?」
「えっ?」
イルマにそう言われ、ゼイユは仰向けに倒れているイイネイヌに視線を向ける。
そこでは、“エアカッター”が直撃した箇所を抑えながら、ゆっくりと立ち上がるイイネイヌの姿があった。
「嘘ッ!まだ倒れてなかったの!?」
「多分、モクローの技がまだ未熟だったからだと……」
「もふ…」
ゼイユは驚愕するが、イルマにはその原因が分かっている。モクローの未熟さだ。
モクローはこれまでのバトルの経験を経て、大きくレベルアップしているのは、スグリとのバトルで実証されている。しかし、モクローのレベルアップは進化するに至ってはいない。どんな強力な技でも、使い手によっては強くもなるし弱くもなる。要するに、イイネイヌを倒すには、モクローの“エアカッター”はほんの少しだけ威力が足りなかった。
「そう言うこと……なら、倒れるまで繰り返すだけよ!ヤバソチャ、“シャドーボ…」
「ヌンダァアアアアアッ!!!」
「「「ッ!?」」」
ゼイユがヤバソチャに指示を出そうとした瞬間、イイネイヌは首に巻かれている鎖を振り回し、イルマ達に向かって走り出す。突然の事にイルマ達が一瞬だけ硬直している隙に、イイネイヌはモクロー達の前に辿り着き、振り回している鎖を振り上げた。
「ッ!!二人とも危ない!モクローとヤバソチャも離れて!」
「ぽにッ!?」
「きゃあっ!?」
「もふっ!!」
「ソチャ!」
その光景に、いち早く動き出したのはイルマだった。
イルマはモクローとヤバソチャに指示を出しながら、オーガポンとゼイユを抱き抱えてその場から飛び退く。同時に、モクローとヤバソチャがその場から飛び上がる。
そこへ、イイネイヌの鎖が振り下ろされた。
「うわぁっ!?」
「キャッ!!」
「ぽにぃ!?」
その瞬間、まるで地雷が爆発したかのような凄まじい衝撃波が広まり、イルマ達は思わず怯む。
少しして、ゼイユが顔を上げると、イイネイヌが振り下ろした鎖が、大きなクレーターを作っている光景を見て、ゼイユは冷や汗を流した。
「…アイツの攻撃…絶対に受けちゃダメね……」
ゼイユは、自分が少しばかり相手を舐めていた事を実感する。
イイネイヌはキチキギスやマシマシラのように特殊な能力を持たない代わりに、並みのポケモンを圧倒する腕力が自慢のポケモンだ。単純であるが、それゆえにその攻撃は一撃でも食らってしまえば、それだけKOされかねない程の凶悪さを持っていた。
「だったら……モクロー、“このは”!」
「ヤバソチャ、“ねっとう”!」
攻撃が当たってはいけないなら、空を飛べないイイネイヌが攻撃を当てられない空から攻撃すれば良いと指示し、モクローとヤバソチャは空に滞空したまま、イイネイヌ目掛けて葉っぱと熱湯を放つ。
「ヌゥッ!」
しかし、イイネイヌは首の鎖を振り回し、まるでプロペラのように回転させてそれを前に出し、高速回転する鎖はモクローとヤバソチャが放った攻撃を弾いた。
「モクロー、イイネイヌの後ろに回って“エアカッター”!」
「それならヤバソチャ、あんたは“シャドーボール”よ!」
モクローは空中に飛んだまま、モクローはイイネイヌの背後から風の刃を、ヤバソチャはイイネイヌの正面からその場に滞空したまま黒く禍々しいエネルギー弾を、ほぼ同時に放つ。
イイネイヌは先程と同じように鎖を振り回して最後から迫っていた“エアカッター”を弾いたが、ほぼ同時に放たれた“シャドーボール”が背中に直撃し、イイネイヌは「ヌンダ!?」という声を上げがら片膝をついた。
「やった!」
「パワーはスゴいけど、短調な奴ね」
イルマが拳を握り、ゼイユが得意気に笑う。
ゼイユの言う通り、イイネイヌは直ぐに頭に血が登ってしまう荒くれ者。パワーは凄まじいが、攻撃の仕方は直情的なものが多い。そう言う相手ほど、隙をついて攻撃がしやすい。
更に言えば、モクローとヤバソチャは空を飛べる。飛ぶことのできないイイネイヌにとって、これは大きなアドバンテージとなる事だろう。実際、イイネイヌはその場でジャンプしてモクロー達を攻撃しようとしているが、届いていないのだから。
「ヌウゥ…ヌ?」
思わず唸り声を上げたイイネイヌは、ふと足元に転がっている瓦礫に目を付けた。これは、先程イイネイヌが鎖を振り回してクレーターを作った時に出来た瓦礫だ。
それを見たイイネイヌはニヤリと口許を歪め、行動に移る。
「?鎖を回して……一体何を?」
「何でも良いわ。ヤバソチャ、“シャドーボール”で解らせてやりなさい!」
突然首に巻いている鎖を振り回し始めたイイネイヌ。その行動にイルマが首をかしげ、ゼイユが何が来ようと大丈夫と言いながらヤバソチャに“シャドーボール”を出すように指示する、その瞬間だった。
「ヌンダフル!!」
「ヤバッ!?」
「ヤバソチャ!?」
イイネイヌが、振り回していた鎖で、足元の岩をゴルファーのように打ち上げ、その岩が技を放とうとしたヤバソチャの顔面に直撃した。まさかの攻撃にヤバソチャは反応が遅れてしまい、顔面に激突した岩に怯み、フラフラと高度を下げていく。
ゼイユが思わずヤバソチャの名前を叫ぶと同時に、イイネイヌは右手に紫色のエネルギーを纏わせ、高度を下げていくヤバソチャに、右ストレートをお見舞いした。
「ヌゥンッ!」
「ソチャチャ!?」
イイネイヌの巨体から繰り出された効果抜群の“どくづき”により、ヤバソチャは勢いよく地面に落下する。
「ソチャチャ……チャッ!?」
「ヤバソチャ!?大丈夫!?」
立ち上がろうとしたヤバソチャは、身体を蝕む痛みに悶え、再び倒れる。それを見たゼイユは心配そうにヤバソチャに声をかける。“どくづき”の追加効果、どく状態だ。
そのヤバソチャの状態にニヤリと笑うイイネイヌは、今度は翼を羽ばたかせて滞空するモクローに向け、足元の岩を連続で投げつけた。行動こそ悪ガキのイタズラのようだが、岩はどれもサッカーボール程の大きさがあり、巨大化したイイネイヌの腕力から繰り出される岩の速度は銃弾にも匹敵する。
「モクロー、岩を避けて!!」
「もふ!?もふ!もふ!」
イルマの指示に、モクローは上昇したり、高度を下げながら連続で岩を避けていくが、元々モクローはそれほど速く飛べないポケモンでたり、高速で迫る岩をいつまでも避け続けることは不可能だった。
「もぶっ!!」
「モクロー!!」
遂に岩石の内の一つが、モクローに直撃した。
流石にこれは耐えきれず、モクローはヤバソチャと同じ様にフラフラと高度を下げていくが、それはイイネイヌ相手にとって致命的な隙だった。
「ヌンダフッ!!」
「もぶぅううううっ!?」
「モクロー!?」
その瞬間、ジャンプしてモクローの目前まで迫ってきたイイネイヌが、モクローに拳のラッシュをお見舞いした。
かくとうタイプの中でも高い威力を誇る“インファイト”が炸裂し、無防備にそれを食らったモクローは真っ直ぐに、イルマ達から数十m離れた地面に墜落した。
「もふ…もふ!?」
「!モクローまでどく状態…!でも、“インファイト”はかくとうタイプの技なのに…!?」
ひこうタイプを持つゆえに、ダメージが半減しているとは言え、それでも相当なダメージを負ったモクローがなんとか立ち上がろうとした瞬間、モクローは片膝をついた。
モクローの顔色が遠目で見ても悪いことから、モクローもヤバソチャと同じどく状態になってしまった事が分かったが、イイネイヌがモクローに放った技はかくとうタイプの“インファイト”であるのにどく状態になったことが分からず、困惑する。
その正体はイイネイヌの“どくのくさり”という特性によるものであり、この特性は、ダメージを与えた相手をまれ“もうどく”を浴びた状態にする凶悪な特性だ。故に、イイネイヌの攻撃をモロに受けてしまったモクローは猛毒を浴びてしまったのだ。
しかし、イイネイヌに知識など無いイルマに、そのカラクリを見抜くことができる筈無かった。
苦しむモクローを見て、イイネイヌは嘲笑うような表情をモクローに向けたあと、クルリとイルマ達に向き直り、ズシンズシンと足音を鳴らしながら歩み寄る。その視線の先にいたのは、イイネイヌに怯えるオーガポンだった。
「ヌンダァアアアッ!!」
「が、がお…!」
「!まだオーガポンを狙って…!」
「ヤバソチャ、まだやれる!?」
「ソチャ!」
「ヌンダァ!!」
イイネイヌの標的がオーガポンだということに気付いたイルマはオーガポンを守るように抱き締め、ゼイユがヤバソチャに声をかける。ヤバソチャは、毒に身体を蝕まれながらも、二人を守るように二人と一匹の前に出る。
ヤバソチャを捉えたイイネイヌは、再び右手に紫色のエネルギーを纏わせて拳を振り上げる。
「ヤバソチャ、かわして“ねっとう”!」
「ソチャーー!!」
「ヌッ!?」
ヤバソチャは飛び上がってイイネイヌの“どくづき”を回避して、イイネイヌの顔に熱湯を吹き掛ける。突然顔に熱湯をかけられたイイネイヌは数歩後退する。
「ヌンダ……ヌゥッ!」
ギロリとヤバソチャを睨み付けたイイネイヌは、突如身体に熱による痛みに襲われ、片膝をついた。“ねっとう”の追加効果、やけど状態だ。
しかし、イイネイヌの動きが止まったのは一瞬だった。熱の痛みを我慢したイイネイヌは、鋭い犬歯を剥き出しにし、ヤバソチャに噛みついた。
「ガウゥッ!!」
「ソチャ!!」
「ヤバソチャ!」
イイネイヌの“かみくだく”が炸裂し、再び効果抜群の技を食らったヤバソチャは地面に叩き付けられる。
効果抜群のどくタイプとあくタイプの技を食らい、ヤバソチャはかなりのダメージを負い、直ぐに立ち上がることが出来ない。
その隙に、イイネイヌはイルマ達のもとに歩み寄った。
「ヌォオオオッ!!」
「「ッ!!」」
「ぽにッ!」
雄叫びを上げて、拳を振り上げるイイネイヌ。
イルマとゼイユはオーガポンを守るように抱き締め、オーガポンは怯えて手で頭を覆う。
「もふ……もふっ!!」
イイネイヌの“インファイト”を食らって倒れていたモクローはそれに気付くと、身体を蝕む猛毒を我慢し、イルマ達のところに向かって飛び出した。
その瞬間、モクローの翼に、まるで影のような黒い光で出来た爪が生成され、拳を振り下ろそうとするイイネイヌの元まで辿り着いたモクローは、その爪でイイネイヌを切り裂いた。
「もっふうぅっ!!」
「ヌンダァッ!!?」
不意を突かれたイイネイヌは、悲鳴を上げながら吹き飛ばされ、仰向けに倒れる。
イルマ達の前に着地したモクローは、身体を蝕む猛毒に苦しみながらも、しっかりと二本足で立った。
「今の技は……」
モクローが使った始めて見る技に、イルマはスマホロトムを取り出して、今の技を検索する。
『“シャドークロー”です。影からつくった鋭いツメで相手を切り裂くゴーストタイプの物理技です』
「モクロー、新しい技を覚えたんだ!」
「モクローやるじゃない!」
「もふ!……もふ!」
イルマとゼイユの言葉に自信満々に答えるモクローだが、直ぐに猛毒に体力を削られて苦しげに呻く。猛毒は普通のどく状態と違い、時間が経てば経つほど削られる体力が大きくなっていく。
(直ぐに決めるしかないよね…)
このままではモクローが倒れるのも時間の問題だと察したイルマは、直ぐにイイネイヌを倒すしかないと考える。
イイネイヌはヤバソチャから受けたやけど状態の効果で体力を少しずつ削られている。そして、モクローの“シャドークロー”で切り裂かれた箇所を抑えていた。
イイネイヌは先程、モクローに“インファイト”を使っていた。“インファイト”は命中力と威力が高いが、使った後は防御力が下がってしまう技だ。その影響で防御力が下がっていたところて、“シャドークロー”が急所に当たった事で、イイネイヌはそれなりにダメージを負っているのだろう。
そこまで考えたイルマは、ふとポケットの中にある丸い物体に気付いた。
(…テラスタルなら、イイネイヌを倒せるかも…)
テラスタイプと一致する技の威力を上げるテラスタルなら、防御力が落ちているイイネイヌを倒す確率はグッと上がるだろう。
だが、これには一つ問題があった。
(モクローのテラスタイプがわからない……)
パルデア上陸した翌日に
基本的なモクローなら、元のタイプに反映されて、くさテラスタイプかひこうテラスタイプの二種類が一般的だが、全てのモクローがそうな訳ではない。まれにそうでないテラスタイプを持つポケモンもいるのだ。例を挙げるなら、いわタイプからくさテラスタイプになったコルサのウソッキーとか。
モクローがひこうテラスタイプだったなら、効果抜群の“エアカッター”で倒せる確率が上がるのだが、くさテラスタイプだったら、どくタイプを持つであろうイイネイヌには効果が薄くなる。それ以外のテラスタイプだったとしたら、モクローの持つ技と一致しなければテラスタルした意味がなくなる。
だが、イイネイヌが立ち上がってこちらを睨み付けているのを見て、イルマはこれまでの思考を全て放棄した。
(ごちゃごちゃ考えるな。ここぞで決めろ!)
これ以上時間をかければ、不利なのは此方だ。ならばやるしかないと、イルマはポケットからテラスタルオーブを取り出した。
「モクロー!ぶっつけ本番でいくよ!」
「!……もふぅ!!」
イルマの呼び掛けに視線を向けたモクローは、イルマの手に握られたテラスタルオーブを見て、彼の意図を察したのか、イイネイヌに向かい合った。
「ここからが…ハイライトだ!」
その言葉と共に、イルマが前に構えたテラスタルオーブに光が集まり、そのエネルギーの勢いに少しだけ腕がブレながらも、エネルギーが収束したテラスタルオーブが光り輝いているのを確認すると、モクローの頭上にテラスタルオーブを投げた。
その瞬間、モクローの身体は巨大な宝石に覆われ、それがひび割れて弾け飛ぶと、テラスタルしたモクローの姿が露になった。
紫色の光を帯びたカットした宝石のような煌めきを放つ身体に、足元には青い炎の鬼火が漂い、頭の上には不気味な笑みを浮かべた幽霊を模した
その姿を見たイルマは、スマホロトムでモクローのテラスタイプを検索する。
「このテラスタイプは……ゴーストタイプ!」
「ヤッバい…綺麗……!」
「ぽにぃ……!」
「ヌ、ヌンダ……」
モクローの変身に、ゼイユもオーガポンも、イイネイヌまでもが、驚いたように声を漏らす。
「ヌンダフルッ!!」
すると、気を取り直したイイネイヌが、素早くモクローに迫り、再び拳のラッシュを放った。イイネイヌの放つ技は“インファイト”。更に防御力が下がってしまうというデメリットこそあるが、やけど状態の効果で攻撃力が半減されているイイネイヌにとって、特性の効果もプラスしてこの技は必殺技といっても過言ではない。その必殺技で、イイネイヌは今度こそモクローを戦闘不能にしようとするが……
「……もふ!」
「ヌッ!?」
イイネイヌの強力な技を受けたモクローは、全くのダメージを負わず、それこそ、技が効いていないかのように平然としていた。その光景に、思わず目を見開いて硬直するイイネイヌ。
イイネイヌは出す技を間違えたのだ。今のモクローはくさ・ひこうタイプから、ゴーストテラスタイプに変わっていた。つまり、今のモクローはゴーストタイプ。かくとうタイプのである“インファイト”がどれだけの威力を秘めていようと、モクローには一切効かないのだ。もしも、イイネイヌが放つ技が“かみくだく”や“ぶんまわす”だったのなら、寧ろゴーストテラスタイプになったモクローにあくタイプの技が効果抜群となって、モクローはやられていただろう。だが、テラスタルを知らなかったイイネイヌは、モクローのタイプがゴーストタイプに変わっていた事に気付かなかったのだ。
「ヤバソチャ、“たたりめ”!!」
「ソッチャーーッ!」
「ヌンダフルッ!!?」
その時、イイネイヌの周りに発生した紫の炎がイイネイヌを襲い、イイネイヌは悲鳴を上げて、モクローから距離を取られるように後退する。
ヤバソチャの放った“たたりめ”は、状態異常になっている相手に大きなダメージを与える技だ。“ねっとう”の追加効果でやけどを負っていた今のイイネイヌにとって、この技は彼に大ダメージを与えるには十分すぎる程の威力を持っていた。
「イルマ!トドメはあんたに譲ってあげるから、一気に決めちゃいなさい!!」
「はい!モクロー、“シャドークロー”!!」
ゼイユの言葉に頷いたイルマは、モクローにさきほどおぼえた、テラスタイプと一致する技を指示する。
それを聞き入れたモクローの頭のテラスタルジュエルから禍々しい光が溢れだし、モクローは翼を羽ばたかせて高く飛び上がる。
巨大のイイネイヌの10mほどの地点まで飛んだモクローは、翼に影で作られた禍々しい爪を纏わせると、彼は真下にいるイイネイヌに向かって急降下し、影で出来た爪を振り下ろした。
「もふぅうーーっ!!」
「ヌンダフルゥアアッ!!?」
急降下で勢いを増したモクローの爪による幹竹割りが、イイネイヌの身体を切り裂いた。
強力な技を連続して食らったイイネイヌは遂に限界を迎え、白目を向いて仰向けにた倒れ込む。ズゥウウン…!と音をたてながら倒れたイイネイヌは目を回しており、どう見ても戦闘を続けることは出来ないだろう。
「か、勝った……」
「もふ…」
「ざまーみやがれってのよ!」
「ソチャ!」
イルマが疲労から大きく息を吐き、テラスタルから元の状態に戻ったモクローもペタリと地面に座り込み、ゼイユとヤバソチャは得意気に胸を張る。
すると、倒れているイイネイヌの身体がみるみる縮んでいき、カランコロンと音をたてながら、灰色の何かが転がり落ちた。
「これは……」
「オーガポンのお面じゃない!?」
イルマが帽子を被り治し、それを両手で拾い上げる。
それは、青髭が特徴的な厳しい鬼瓦のような灰色のお面だった。
イルマはそれを、オーガポンに差し出した。
「まずは一つ取り戻したね!」
「ぽに!ぽにおー!」
オーガポンがその灰色のお面を受けとり、そのお面を掲げて喜びを露にし、ピョンピョンと飛び跳ねる。
「ふふ……喜んでる。てらす池でも思ったけど、あたしとあんたって、意外と相性良いかもね」
「……そうですね」
オーガポンの様子に微笑んでいたゼイユが、同じ様に微笑んでいたイルマにそう言った。その言葉に、イルマは顔をオーガポンからゼイユに向けると、ふにゃりとした笑みを浮かれべながらそう答えた。
「二人とも、なにしてるの?」
「「うわっ!?」」
その時、二人の間に割り込むように、妙に威圧感のある声が投げ掛けられ、イルマとゼイユは反発した磁石のように弾かれた。
イルマとゼイユがその声の持ち主に視線を向けると、そこにはハイライトが消えた目で二人の姿を見るリコの姿があった。彼女の後ろには、相棒であるニャオハと、バチコとチルタリスの姿がある。
チルタリスから降りたバチコは身体から禍々しいオーラを放つリコを宥めながら、イルマに声をかける。
「おい、リコ落ち着け。イルマ、ゼイユ、オメー等もお面を取り返したらしいな」
「あっ、はい。師匠もですか?」
「あぁ。ついでに言えばフリードの方も終わってるらしいぜ。ここに来んのも時間の問題だろうな」
バチコが腕を組みながらそう言った所で、「お~い!」という声が聞こえてくる。一同がその声がした方向に顔を向けてみると、そこにはロイとホゲータ、そしてフリードの姿が見える。
「ロイくん!」
「イルマ、こっちもマシマシラをやっつけてきたよ!お面もこの通り!」
「そうなんだ!僕も今終わらせたところだよ」
「…!ぽに……」
ロイはマシマシラから取り返した青いお面を見せる。
灰色のお面を取り返した事に喜んでいたオーガポンは、ロイの手の中にある青いお面を見て、ジ~っとそのお面を見る。
それを見て、嫉妬で体からオーラを放っていたリコもハッと我に返り、キチキギスから取り返した赤いお面を取り出した。
「オーガポン、これ」
「マシマシラ達から、取り返してきたんだ」
「……ぽ?」
オーガポンは灰色のお面を持ったまま、差し出されたお面を戸惑ったように眺めている。共に過ごした時間が長いゼイユは兎も角、そこまで接点が多いわけではないリコとロイは、まだ信用しきれていないのだろう。
「…俺達はまだは信用されてないんだな」
「そんなぁ~」
「ずっと人から嫌われてきたんならしょうがねーよ。トラウマはそう簡単に消えるもんじゃねーからな」
「そっか……イルマ、オーガポンにお面を返して上げて。イルマなら受け取ってくれるみたいだし」
「でも、2人が取り返してきたんだし……」
「大丈夫」
リコとロイからそう言われ、イルマは2つのお面を受け取ると、それをオーガポンに差し出した。
「オーガポン、これ」
「!ぽにっ!ぽにおーっ!」
「本当に……ほんっと良かったね!」
「…うん!」
「そうだな…」
受け取った3つのお面を掲げて喜びを露にするオーガポンに、ゼイユは目を潤ませ、フリードやリコ達も自然と笑みを浮かべ、イルマは同じく笑顔を浮かべながらオーガポンな頭を撫でた。
「イルマ!ねーちゃん!皆!」
「えっ、スグ?どうしたの?」
その時、不意に後ろから声をかけられたことで、一同は後ろを振り替えると、そこにはキタカミセンターの方に向かっていた事でともっこ戦に参加していなかったスグリが、大慌てで走ってくる姿が見えた。
スグリはイルマ達が集まっているところまで辿り着くと、肩を大きく上下させて息を整えながら、不安に満ちた表情で、大声で叫ぶように口を開いた。
「み、皆!キタカミセンターと、スイリョクタウンが大変なことになってんだ!!」
「ッ、どういう事?あたし達の町に何があったの!?」
「ゼイユさん落ち着いてください!そんな掴みかかってたらスグリ君も離せませんから!」
スグリの言葉を聞いて、ゼイユが掴みかからんばかりの勢いでスグリに顔を寄せる。性格には問題があるが、地元愛は強いゼイユだ。自分が生まれ育った故郷が一大事と聞かされては、彼女が落ち着いていられる筈はなく、それをイルマが慌てて宥めた。
するとスグリは、先程の表情から一転し、複雑そうな、もしくは言いにくそうな表情を浮かべ、頭をかきながら口を開いた。
「えっと……何て言うか、皆大きな声で叫びながら踊ってんだべ……」
「「「……は?」」」
スグリの説明に、ゼイユ、イルマ、バチコの3人は声を漏らし、リコ達も意味が分からないと言うように首をかしげる。しかし、スグリ自身はこれでも精一杯説明してるつもりなのか、困ったような表情を浮かべるが、キタカミセンターがある方向を指差した。
「と、兎に角!言ってみればわかる!」
「わ、わかったわよ……」
「僕達も行くよ!オーガポンは……」
「ぽ、ぽに……」
オーガポンは戸惑うようにイルマの服の袖を掴む。
「何か緊急事態みたいだし、連れていった方がいいかもしれないわ。いざとなったらあたしの美貌で何とかするし!」
「…………そうですね」
「その間は何よ!?手ぇ出るよ!」
「二人とも、何してるの…?」
「ぽに…ぽに!」
イルマとゼイユの下らないやり取りに、リコは面白くなさそうに半目で二人を見ながらそう呟き、オーガポンは人里まで降りていくに行く決意をしたのか、羽織で隠れたような手を広げて声を上げた。
そして一同は、スグリの案内でキタカミセンターに向けて走り出した。
太陽は、西に沈もうとしていた。
イルマくんがモクローをテラスタルさせる際の台詞は、仮面ライダーギーツのオマージュです。ゲームでもアニメでもテラスタルの際は台詞があったので本作でもテラスタルの際に台詞があった方がいいと思ったのですが、魔入間でいい台詞が見つけられなかったので、作者がた作品で好きな台詞を引用しました。今後テラスタルをする際には別の台詞を使いたいと思います。
シャドークローを収得して初テラスタルをしたモクローの情報を乗せておきます。
モクロー(♂)
特性:えんかく
テラスタイプ:ゴースト
技:このは・たいあたり→シャドークロー・おどろかす・エアカッター
キタカミ編はもうちょっと続きます。次回予告的なものを書いてみたので載せておきます。
次回予告
イルマ「無事にオーガポンのお面を全部取り返して一件落着と思ったら、今度は人里で何が起きたみたい……って、ホントに皆踊ってる!?しかも、桃が割れて出てきたあのポケモンは何っ!?何かお餅投げてくるし、食べた人が踊り出すし、オーガポンは凄く怒ってるし、何が起こってるんですか~!?
次回「おもちのとりこ」
イルマ「このお餅、ほのかな甘味がイケるんだって。一口だけなら食べてもいいかな……ダメ?そんなぁ……」
感想、評価お待ちしております。