魔入りました!入間くん if Episode of ポケットモンスター   作:MTHR

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今回から新章突入となります。
最初はサブタイトルの通りマードックとマホイップの話なので、殆んど原作通りです。


怒りのガラルファイヤーとペンダントの秘密
33話 パティシエ達とマホイップ


 ガラル地方。

 全体的に落ち着いた雰囲気を持つ一つの大きな列島。

 南部は森と田園穀倉地帯、北部には雪山が連なる山脈に近代都市もある、上空から眺めれば「盾に剣が差し込まれる」と例えられる。

 人間とポケモンが力を合わせて産業を発展させてきたらしく、中央部は旧王家の時代より丘陵地帯から石を積み上げた橋を掛け、街と街を繋いでいる。

 またこの地方のみ、ポケモン勝負の最中ポケモンが超巨大化する“ダイマックス”と呼ばれる現象が確認されており、現地のポケモンリーグではそれを利用した仕組みも取り入れられている。

 

 ガチグマというポケモンの調査の為に立ち寄ったキタカミの里から、本来の目的であるリコの祖母がいる古城を目指してガラル地方にやって来たライジングボルテッカーズの船ブレイブアサギ号は、ガラル地方の中部に位置する大きな町、【エンジンシティ】にやって来ていた。

 

「う~わぁ!見て、でっかい機械と歯車カッコいい!」

「シューって出てる白いの、蒸気かな?」

「ホゲー!」

「あぁ。それこそが、ここエンジンシティの一番の特徴だ」

「ピーカ」

「ぽにお~~っ!!」

 

 ブレイブアサギ号の上から、蒸気を吹き出している町を見て、ロイとリコが各々のパートナーと共に声を弾ませると、マードックと共にやって来たフリードがコーヒーカップを片手に軽く説明をする。

 新たに旅の仲間に加わったオーガポンも、エンジンシティを見て、星の形のハイライトが入っている目をキラキラと輝かせていた。何百年間もキタカミの里から出たことが無かった彼女にとって、近代化が進んでいる大きな町は初めて見たものなのだろう。

 そんなリコ達の様子に笑みを浮かべながら、マードックが3つのカップにコーヒーを入れながら、トレイを差し出した。

 

「お前らも飲むか?」

「あっ、ありがとう……」

「飲みたいけど、コーヒーって苦いんだよなぁ」

「そう言うと思って……」

「イップー!」

 

 リコとロイがコーヒーは苦くて飲めないと言ったところで、マードックの肩の上に乗るお菓子の妖精のようなポケモン【マホイップ・ルビーミックスのいちごアメ】が、手からクリームを放出し、コーヒーの上にホイップクリームを盛り付ける。

 

「マードック特性、ホイップコーヒーだ」

「激甘じゃん」

「甘過ぎたか?」

「…別に」

 

 いつの間にか部屋から出ていたドットもホイップコーヒーを飲んでおり、リコとロイもカップを手にとってコーヒーを飲む。

 

「ホントだ!甘くて美味しい!」

「そうか!マホイップのクリームは最高だからなぁ。イルマもどうだ?」

「マホ!」

「………」

 

 声をかけられたイルマは、それに答えることはなく、ボーッと青空を見上げていた。エンジンシティにも、マードックのコーヒーに見向きもしない。彼が被っている帽子の上にはモクローが座っている。

 ここ最近、イルマはずっとこんな感じだ。食事やバトルの特訓、船の仕事の時は真面目にやっているのだが、何もない時だとこの様に物思いに耽っている時があった。こんな事、前まではなかったのに。

 リコはコーヒーカップを手にしたまま、イルマに声をかける。

 

「イルマ……イルマ!」

「ハッ!……ご、ごめん。キタカミの里で色々あったからつい……」

 

 リコの呼び掛けにようやく気付いたイルマは申し訳なさそうに頭を掻いた。

 

「…イルマ、何か悩みがあるなら、相談に乗るよ?」

「ありがとう。でも、大丈夫だから心配しないでね!」

 

 リコが心配そうにイルマを見るが、イルマは大丈夫だと言うと、マードックからコーヒーを受け取って飲み始め、オーガポンが興味をもってカップをマジマジと眺めていると、「飲む?」と聞きながらカップを差し出すと、オーガポンは嬉しそうにコーヒーを飲み始める。

 

(…やっぱり、イルマはあの時の事まだ気にしてるんだ……)

 

 今もイルマとじゃれているオーガポンを見て、リコは心配そうにイルマを見る。

 数日前、キタカミの里で、イルマはキタカミ生まれの少年スグリとオーガポンを賭けた決闘をして、勝ったことでオーガポンをゲットした。その際、小さい頃から大好きだったスグリの目の前でオーガポンを他のトレーナーにゲットされてしまい、スグリとイルマに溝のようなものが出来てしまい、気まずい雰囲気のままお別れすした。

 恐らく、イルマはまだその時の事を気にしているのだろう。キタカミの里を発った翌日から上の空が続いているのがいい証拠だ。

 そんな中、フリードがカップを手にしたまま口を開いた。

 

「さーて、それを飲んだら準備だ」

「準備って…何の?」

「エンジンシティからは地上ルートで進む。……って、言ってなかったか?」

「「「「聞いてないよ!!」」」」

 

 相変わらず説明不足なフリードに、リコ達のツッコミが飛んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 巨大なブレイブアサギ号は目立つため、万が一にもエクスプローラーズに見つかって、リコの祖母がいる場所を特定させれるわけにはいかないため、エンジンシティ付近にブレイブアサギ号を停め、フリード、リコ、ロイ、イルマのメンバーで、エンジンシティ駅から、古城が多いナックルシティ駅に向かう電車に乗る予定だ。

 

「そのつもりだったんだが……どうやら今日は車両整備で運休しているらしい」

「だったら!船の部品探しに行ってくるね!エンジンシティはそう言う品が充実してるんだ!」

 

 フリードにそう言って、オリオはメタグロスに乗って「いってきま~す」と言いながらエンジンシティに向けて飛んでいった。

 

「行っちゃった……」

「よっぽど楽しみなんだね……」

「3人も、今日は好きに過ごしていいぞ」

 

 フリードがそう言うが、ガラル地方に関しての知識は皆無な為、何をして過ごせば良いのか分からずイルマ達が首を傾げていると、マホイップを型に乗せたマードックが船から降りてきた。

 

「三人とも。時間があるなら、買い出しに付き合ってくれないか?ガラルにしかない食材を買いに行きたいんだ」

「うん。勿論!」

「いいよ!」

「僕も、構いません」

「皆がうまい飯を食って喜んでくれる顔を思うと、今から楽しみだ」

 

 マードックの言葉にマホイップも笑顔を浮かべ、ロイがエンジンシティで黒いレックウザの情報を集めると言うと、スマホロトムが飛び出して通話状態となる。電話をかけてきたのは、ドットだった。

 

『ねぇ、ついでにバトルカフェ寄ってきてよ』

「バトルカフェ?」

『そう、そこで作ってるペロフワコットンキャンディが流行ってる』

「ペロフワコットンキャンディって、綿あめ?」

「ペロッパフを模した綿あめだよ。この前もネットで少し話題になってた」

『そう。動画の小道具に使いたい』

「えっ!?わぁっ…ぐるみんと綿あめ…絶対かわいい!」

『それに、カフェなら人も沢山いるし、レックウザの事なにか聞けるんじゃない?』

「確かに!」

 

 こうして、イルマ達はマードックの買い出しのためにエンジンシティに向かう事となった。

 

 

 

 

 

 

 マードックの相棒であるイワンコはモリーのスペシャルブラッシングタイムの為、バチコはチルタリスの羽のお手入れの為に船に残り、イルマ達は工場や倉庫が立ち並ぶ町を歩く。

 

「ぽにお~!!」

「オーガポン、楽しそうだね」

「ずっとキタカミにいたからね。始めてみる町が珍しいんだよ」

「ロイ君が初めて上陸した時と同じだね」

 

 大きな歯車型のエレベーターや、スイリョクタウンとは比べ物にならない程大きな建物、英国紳士のような姿をしたガラルのマタドガス等を見て、オーガポンは船にいた時よりも更に目をキラキラさせてキョロキョロと辺りを見渡しており、そんな様子にイルマ達も自然と笑みを浮かべる。

 そして、初めて来たガラル地方の文化やポケモンのリージョンフォーム等にリコ達もテンションが上がりながらも、ガラル地方特有の食材の購入や、町の住人にレックウザの情報の聞き込みを行っていた。

 一通りの食材を買い終えた一行は、ドットが注文した品が売っているバトルカフェに向かう。

 

「ロイ、黒いレックウザの情報は?」

「……その様子だと、また空振りだった?」

「うん、見たって人はいなかったよ。でも、ジムリーダーのカブさんなら名にか知ってるかもって!レックウザはホウエン地方の伝承に出てくるでしょ。その人、ホウエン地方の出身なんだって」

「よし、それなら、バトルカフェに行ってから、ジムのあるエンジンスタジアムにも行ってみよう」

「ホント!?やったぁ!」

「ホゲー!」

 

 マードックの提案にロイとホゲータが嬉しそうな声をあげる。その時、イルマの肩に乗っていたモクローがあることに気付き、翼でイルマの頭を叩いた。

 

「もふ!もふもふ」

「イタッ!?ちょっとモクローなにを…って、オーガポンがいない!?」

「「「えぇっ!?」」」

 

 モクローが指した方を見ると、一緒に歩いていた筈のオーガポンの姿が影も形も無くなっていた。

 リコ達も慌てて辺りを見渡すと、オーガポンはイルマ達がいる場所から数十メートル離れた飲食店の前で、並べられた食品サンプルの数々を眺めていた。少し涎が出ている辺り、お腹が空いてきたのかもしれない。

 

「オーガポン!離れすぎたら迷子になっちゃうよ!」

「ぽ?」

 

 イルマが慌てて駆け寄り、オーガポンの肩を掴んだ。

 

「ホラ、これからバトルカフェに行くから、そこでなにか食べよう」

「ム~…ぽに」

「……もふもふ」

 

 オーガポンは少し不服そうにしながらも、大人しくイルマと手を繋いで共にリコ達の所まで戻ってくる。そんな様子に、イルマの相棒であるモクローは苦笑した。

 

「…フフッ」

 

 その光景を遠目で見ていたリコは、思わず笑みを浮かべる。

 

(……あれ?)

 

 その時、リコはオーガポンの手を引いて此方に戻ってくるイルマが下げているカバンが薄い光を放ち、微かに動いたように見えた。しかし、それを持っているイルマはオーガポンの方を向いておりそれに気付いておらず、カバンの発光と振動も直ぐに収まった為、自分の見間違いかと思うことにした。

 

 

 

 

 

 そうして、イルマ達はバトルカフェにやってきて、テラス席に座っていた。

 

「う~ん……ランチはカレービュッフェ。コットンキャンディーはメニューに乗ってないな…」

 

 マードックがメニューに目を通すも、ドットに依頼されたペロフワコットンキャンディは書いていないようだ。

 その時、テラスのすぐ隣にあるバトルコートから歓声が聞こえてきて、リコ達はそちらに目を向けてみると、オレンジ色の像の姿をしたポケモン【ゾウドウ】が、白いアイスのような姿のポケモン【バニプッチ】に向かって“アイアンヘッド”を繰り出し、バニプッチをKOさせている光景だった。

 

「う~ん、これは私の敗けだな」

 

 目を回したバニプッチを抱き上げてモンスターボールに戻したのは、長く伸ばした髪をしたコックコートの男性だった。その男を見て、マードックがメニューを手にしたまま目を見開く。

 

「美味しさトレビア~ンなバトルだった。買ったお客様には、ミッチェル特性。ペロフワコットンキャンディーを贈りましょう!」

「ねぇ、あれがドットの言ってた……」

「絶対そうだよ!」

 

 【ミッチェル】と名乗ったパティシエのもとに、ペロッパフの進化系である【ペロリーム】が持ってくる綿あめを見て、リコとロイがドットの欲しがっていた綿あめだと気付く。

 

「さぁ、次はどなたが挑戦するかな?ここはバトルカフェ。ペロフワコットンキャンディが欲しければ、このミッチェルに挑み、そして勝つのが条件ですよ!」

 

「バトルしたらあの綿あめがもらえるんだ…」

「あっ、しかも、チャレンジ出来るのは1日に一度だけなんだって」

「チャンスは一回か……でも、面白そう!」

「うん!ねっ、マードック!」

 

 リコが笑顔でマードックに声をかけるも、マードックはメニューを手にしたままミッチェルというパティシエの姿をジッと見つめているだけで、返事をしない。

 その様子にイルマ達は訝しげな表情になり、代表してリコが声をかける。

 

「……マードック?」

「え?あぁ、なんだって?」

「どうかした?」

「いやぁ、別になんでも……」

 

 マードックが何でもないと返す。

 そんな中、マードック達が座るテラス席に、一人の男がやって来て、マードックの後ろから声をかけた。

 

「お~やおやおや。そこにいるのはマードックじゃないか」

「ミッチェル……」

「えっ?二人って知り合いなの?」

 

 そう、マードックに声をかけてきたのは、先程バトルをしていたミッチェルというパティシエだった。マードックもミッチェルも互いを彼を知っている風であり、若干険悪な様子に見えるが、2人が知り合いであるということを察したリコ達は驚く。

 すると、テーブルの上にいたマホイップが、ミッチェルを見て笑顔を浮かべ、マードックの腕を登ってマードックの肩の上に乗る。

 

「マホ!」

「!マホイップ……」

「マホイップとも面識あるんですか?」

「マホ!」

 

 マホイップは掌にクリームを出して、それをミッチェルに指す出す。ミッチェルはしばらくの間ジッとマホイップとそのクリームを見つめていたが、何も言わずにクルリと背を向けた。

 

「イップ……」

 

 マホイップは悲しそうな表情でミッチェルの背中を見る。

 状況は分からないが、場の空気が重くなったことを感じてリコ達が戸惑う中、ミッチェルが口を開いた。

 

「…こんなところで何してるんだい?マードック」

「……姪っ子に、ここの綿あめを頼まれてな」

「成る程ね……でも、私は君とバトルするつもりはないよ」

「ええっ!?」

 

 まさかのバトル拒否宣言にリコ達が驚くなか、ミッチェルは店の中へと戻っていった。

 予想外の展開に困惑していたリコ達だったが、意を決したイルマが、マードックに声をかけた。

 

「マードックさん…あの……あの人とマホイップの間に、何かあったんですか?」

「あぁ…そうだ。俺達とミッチェルは、パティシエ仲間だったんだ……」

「じゃあ、もっとちゃんと頼んだら、バトルして貰えるんじゃ…」

「嫌だ!」

 

 マードックは大きな声でロイの提案を拒絶する。

 普段のマードックからは想像も出来ない様子にリコ達が困惑している中、マードックは苦虫を噛み潰したような表情で声を絞り出した。

 

「俺達は仲間だった…だがそれは昔の話だ。今はもう、アイツと関わる気は、無い!」

 

 マードックの強い拒絶にリコ達は三度目の驚愕をするが、暫くしてからリコがマードックに声をかけた。

 

「マードック。あの、良かったら、話して欲しい。ミッチェルさんと何があったのか…」

「えっ?あぁ、すまん。大人気ない言い方をした……。フッ、どうもアイツの事になると取り乱しちまってな……」

 

 年下に気を遣わせてしまったことに申し訳なさそうにしながら、マードックは自分とミッチェル、そしてマホイップの過去を話した。

 

 マホイップは進化前の【マホミル】だった頃、当時パティシエ仲間でもありライバルでもあったマードックとミッチェルが一緒に営んでいたカフェの看板ポケモンであり、マードックの作るルビーケーキと、ミッチェルの作る抹茶ケーキのためのクリームを与えていた。

 だがある時、マホミルがマホイップに進化したらしい。

 マホイップは7種類のアメざいくを手にして回転すると進化するいう特殊な進化条件を持つポケモンで、回転する方向・回転にかけた時間の長さ・回転をした時間帯によって、色違いも含めれば全70種類にも及ぶバリエーションを持ち、体から出すクリームの味も変わるポケモンである。

 そして、マホミルはいちごアメざいくを手にして、偶然ルビーミックスの進化条件である昼間に左向きに長く回転したことで、マホミルはルビーミックスのマホイップに進化したらしい。

 ルビーミックスに進化した事により、マホイップのクリームと相性抜群となったマードックのルビーケーキは飛ぶように売れ、ミッチェルの抹茶ケーキは売れ残ることが多くなっていった。

 そして、マホイップが差し出したクリームを乗せたクッキーを払い除けてしまい、マードックとミッチェルの間に溝が出来てしまい、そのままマードックはマホイップと共に店を出ていってしまったのだ。

 

「そんな事が……」

「あぁ…きっとミッチェルは、ミルキィ抹茶に進化して欲しかったんだろうなぁ……今なら分かるよ。けど、だからってアイツになんて言ったら良いのか分からない。どうしたらアイツと……なんて、何時までも悩み続けてる。ハハハッ」

 

 マードックは笑顔を見せるが、どうみても無理をしているように見えて、リコ達は何と声をかけて良いのか分からず、眉を下げる。

 

(……これは、ある意味僕と似たような状況だなぁ)

 

 そんなマードックの様子を見ながらイルマは考える。イルマは先日オーガポンをゲットした際に、オーガポンをゲットしたがっていたスグリと溝が出来たまま別れてしまった。ミルキィ抹茶に進化して欲しかったマホイップがルビーミックスに進化した結果、仲違いしてしまったマードックとミッチェルの関係には何となく既視感を覚えてしまう。

 

「悪いな。こんな話し聞かせて……」

「いや、あの……ううん。話してくれてありがとう」

 

 すると、リコは店内の方から視線を感じて振り替える。

 そこには、マードックとマホイップの背中を見つめるミッチェルの姿があり、リコと目があった瞬間、ミッチェルは直ぐ様厨房の方に姿を消してしまった。

 

(今、こっち見てた?もしかして……それに!)

 

 マードックの手の上に座り込み、沈んだ表情をするマホイップを見て、リコは意を決してマードックに声をかけた。

 

「マードック!あの…ミッチェルさんとバトルしよう!」

「え!?」

「私も一緒に戦うから!」

「って、リコ?今の俺の話し聞いてたか…?」

「大丈夫!リコにはきっと考えがあるんだよ!」

「バトルしましょう、マードックさん!」

「……」

 

 仲間達からの後押しに、マードックは葛藤するように眉間に皺を寄せる。

 

(い、言っちゃった…!でもでもでも、このままじゃ、このままじゃダメな気がしたから!!)

 

 そして、ミッチェルとのバトルを提案した張本人であるリコは、つい勢いで言ってしまったことに少しだけ慌てていた。

 

 

 

 

 

 その後、リコがミッチェルに懇願したことで、リコ&マードック対ミッチェルのダブルバトルが開始された。

 リコとマードックが繰り出したのはニャオハとマホイップ。そしてミッチェルが繰り出したのは、先程ペロフワコットンキャンディを持ってきていたペロリームと、アップルパイを背負ったようなドラゴンポケモンの【タルップル】だ。

 

「トレビア~ンで行きなさい!ペロリーム、“わたほうし”!」

「ペロォッ!」

「ニャオハ避けて!」

「マホイップ、気を付けろ!」

「ニャ!?」

 

 ペロリームがフワフワの胞子を投げつけ、リコが避けるように指示するも間に合わず、ニャオハの体は胞子に纏わりつかれ、身動きが取れなくなってしまう。

 

「次は、タルップル!ニャオハに“りんごさん”!」

 

 そこへ、タルップルが専用技である酸性の液体を吐き出し、胞子によって動けなくなっていたニャオハはそれをモロに浴びてしまう。

 

「マホイップにもだ!」

「マホイップ、“とける”だ!!」

「イップ~」

「プーーーッ!!」

 

 タルップルがマホイップに狙いを定めた直後、マホイップは体をゲル状に変化させ、タルップルの吐き出した酸を回転しながら受け流し、更にニャオハの体を包んでいた胞子を絡めとり、ニャオハを胞子の拘束から解放した。

 

「凄いぞマホイップ!」

「ホンゲーッ!」

「ぽにおーっ!」

 

 観戦していたロイとホゲータが弾んだ声をあげ、オーガポンはマホイップとニャオハを応援するように声をあげる。

 

「ありがとうマードック!」

「今度は此方の番だ…!マホイップ、“デコレーション”!」

「マーホーッ!」

「ニャオハッ!」

 

 マホイップは両手から大量のクリームを放出し、それがニャオハの頭の上で盛り付けられ、数秒後にはまるでテラスタルジュエルのように大きく渦を巻くクリームを乗せたニャオハが完成した。

 

「うおぉっ!テラスタルみたい!」

「ロトム、あの技は?」

 

『“デコレーション”。マホイップの専用技。相手を飾り付けることで攻撃力を上げる』

 

 ロイとホゲータが目を輝かせ、イルマがスマホロトムで“デコレーション”を検索する。ダブルバトルではこの技はとても役に立つだろう。

 

「今だ、リコ!」

「うん!ニャオハ、“アクロバット”!」

 

 リコが指示を出し、ニャオハは頭にクリームを乗せたまま目にも止まらぬ速さで走り出し、ペロリームとタルップルにあらゆる角度から攻撃を加える。“デコレーション”で強化された技を受け、ペロリームとタルップルはミッチェルの目前まで吹き飛ばされる。特に、くさタイプを持つタルップルは相当なダメージを負わされる。

 それに対し、ミッチェルは不適な笑みを浮かべる。

 

「なかなかやりますね……ですが、負けません!美味しさトレビア~ン!!」

 

 ミッチェルの言葉に答えるように、起き上がったペロリームとタルップルは上空に向けて“わたほうし”と“りんごさん”を放った。

 ここから反撃に出るのかとリコが表情を引き締め、イルマとロイがこれからどうなるのかと目を見張る。しかし、次の瞬間には三人とも唖然とした表情を浮かべた。

 

 “わたほうし”と“りんごさん”は、ニャオハでもマホイップでもなく、ミッチェルが左手に持っているボウルの中に入っていったのだ。右手にはホイッパーが握られている。

 

「やりやがったなミッチェル……!だったらこっちも…俺達の味とくと味わえ!!」

「マホーーーッ!!」

「味わう???」

 

 何故かマードックも何処からかボウルを取りだし、マホイップが大量のクリームを放出し、クリームがボウルの中に溜まっていく。バトルはどうしたのかと、リコの頭はクエスチョンマークで一杯だ。

 

「もっともっと…トレビア~~ン!!」

「遠慮するな!マホイップ!!」

「マホマホーー!」

「ポケモンバトルが……」

「スイーツバトルになっちゃった……」

「何で!?」

「ニャオハッ!!」

 

 何処からか屋外用のテーブルが出てきて本格的に調理を始めるマードックとミッチェルに、リコ達は困惑するしかない。ニャオハはスイーツが作られる様子に目を輝かせた。

 二人のスイーツが出来上がってくると、マードックがリコに呼び掛けた。

 

「リコもデコレーションよろしく!」

「え?デコレーションって……あっ!ニャオハ、ケーキに“このは”!」

「ニャオハッ!ニャーーッ!」

 

 ニャオハがお得意の“このは”を放ち、テーブルの上に乗せられた大量のケーキが煌めきを放つ。

 二人のケーキが出来上がると、観客席から歓声が沸き上がり、マードックとミッチェルは大量の汗をかきながらその場に座り込む。

 

「綿あめを賭けたバトルは何処行ったんだ…?」

「さぁね……」

 

 互いに悪態をつくが、何処と無くその表情は晴れやかに見える。

 観客状態だったロイとイルマ、ホゲータとモクローとオーガポンは、二人が作ったケーキを口に運ぶと、その美味しさに顔を緩める。大量に作られたケーキはバトルカフェにいた人達にも配られ、それを食べた人々やポケモン達の顔は笑顔で満ちていた。

 リコはニャオハを抱きながら、マードックとミッチェルのもとに歩み寄る。

 

「マードック、ミッチェルさん」

「リコ、すまんな。なんかこんな事になって……」

「ううん、スッゴい楽しかった。それに、マホイップはずっと、こうしたかったんだと思う」

「「え?」」

 

 マードックとミッチェルは、マードックの肩の上に乗っているマホイップに目を向ける。マホイップは、心の底から嬉しそうに「マホー」と鳴いている。

 

「マホイップは、昔みたいに皆でスイーツを作りたかったんだよ。……なんて、そんな気がしてます…」

 

 リコの言葉を聞いたマホイップは、マードックにクリームを差し出す。それを指で舐めたマードックは、ミッチェルに顔を向ける。

 

「……あの時は悪かった。ごめん、ミッチェル……ミッチェル!?」

 

 マードックの謝罪を聞いたミッチェルは、立ち上がってバトルカフェの店内に戻っていく。そして1分もしないうちに、ミッチェルは何かを乗せた皿を手にして戻ってきた。

 

「…お前、それ……」

「このバトルカフェの裏メニュー、抹茶ケーキさ。……でもまだ完成じゃない……マホイップ、ここにクリームをくれるかい?」

「マホ!イップ~!」

 

 ミッチェルの頼みにマホイップは快く頷き、抹茶ケーキにクリームを乗せる。

 緑色のケーキにミルク色とピンクのクリームが盛り付けられたケーキを見ながら、ミッチェルは声を出した。

 

「これで完成だ。……あの時、マホイップのクリームがケーキに合わなかったのは、私の腕が未熟だったからだよ。なのに勝手に拗ねて妬んで…君達を傷付けた……私の方こそごめん!喧嘩は止めよう!仲直りして欲しい!頼む!」

「……勿論だ!」

 

 目尻に涙を溜めながらマホイップのクリームを乗せた抹茶ケーキを差し出すミッチェル。マードックも同じ様に目尻に涙を溜めながらケーキを口に運んだ。

 それを見た抹茶味が好きなニャオハと、食いしん坊のホゲータが目を輝かせ、ペロリームがトレイに乗せた追加の抹茶ケーキにニャオハとホゲータ、更にオーガポンも飛び付き、三匹は抹茶ケーキを頬張った。

 

「……美味い!」

「本当かい!?」

「あぁ。スイーツを愛している者が作る味だ!」

 

 マードックがそう言った直後、2人は滝のような涙を流しながら、お互いを強く抱き締め合った。

 

「凄く泣いてる、大人なのに……」

「うん。大人でも泣いていいんだよ。私と…私達とおんなじだから」

「そうだね……」

 

 リコの言葉に、ロイとイルマも頷く。

 

「──どうもありがとう」

 

 その時、後ろから低音の渋いナイスミドル風の声が聞こえた。

 リコ達が振り替えると、そこには東洋人らしい顔立ちに白髪交じりの髪や皴の入った顔、肩にタオルをかけ、『187』という背番号が書かれた赤いのユニフォームを着た男性が、ティーカップを手にして席に座っていた。

 

「!いらしてたんですか、カブさん!」

「えっ!もしかして、ジムリーダーのカブさん!?」

「いかにも」

 

 ミッチェルが呼んだ名前に、ロイは目を輝かせる。

 ユニフォームの男性──【カブ】はロイの言葉に頷きながら席を立つと、その途端バトルカフェでスイーツを楽しんでいた客達が一斉にカブのもとに集まった。女性から「ウチの店にも来てください」、子供から「スタジアムに遊びにいっても良いか」と言われ、カブはそれに答えている。

 

「あの人がカブさん……」

「やったー、会えた!」

「スタジアムに行く手間が省けたね……」

 

 このバトルカフェに寄った後、エンジンスタジアムにいるカブを訪ねる予定だったが、まさかカブがバトルカフェに立ち寄っていたタイミングで会えるとは思わなかったが、イルマの言う通りスタジアムに行く手間が省けたと言えるだろう。

 そしてカブは、先程までミッチェルとダブルバトルをしていたリコに顔を向けて話しかける。

 

「バトル見せて貰ったよ。なかなか良い“このは”だったね」

「えっ?本当ですか!?」

「あぁ。ニャオハくんとの絆が、伝わってきた」

「良かったな、リコ!」

「…って、黒いレックウザの事聞くんじゃなかったの?」

「あっ!そうだ!あの──」

「それでは、僕はランニングに戻るよ。皆、また」

 

 ロイが黒いレックウザの事を聞くよりも早く、カブは走り出していってしまった。

 

「あぁっ!ちょっと待ってーー!」

「あっ、私も!いってきます!」

「僕も!」

「えっ、おい!三人ともー!」

 

 真っ先に走り出したロイに続き、リコとイルマもカブのあとを追いかける。

 しばらくの間走っていると、ロイはランニングに続けるカブに追い付き、呼び掛けた。

 

「カブさーーん!」

「やぁ!君達もランニングかい?いいね。お互い頑張ろう!」

「ええっ!?」

 

 そう言って、カブは走るスピードを上げていき、あっという間にその後ろ姿が小さくなっていった。

 年配の人とは思えない速度とスタミナに、ロイ達は口橋をひきつらせた。

 

 

 

 

 

「はぁ、はぁ…これがエンジンスタジアム…!」

 

 そのままゴマ粒みたいに小さくなっていったカブの後ろ姿を追いかけ続けたロイ達が辿り着いたのは、エンジンシティのジムである【エンジンスタジアム】だった。

 蒸気を吹き出しているスタジアムの後ろには巨大な時計塔が建てられた施設を見上げながら、リコ達は息を整える。

 

「ゼェー…ゼェー……」

「イルマ…大丈夫?」

「ご、ごめん……この服だと、暑くて……」

「もふぅ~」

「ぽにお……」

 

 そんな中でも、イルマの息切れが一番凄かった。

 四つん這いで荒い呼吸を繰り返しているイルマにリコが心配して声をかける。モクローは「暑いなら着なきゃいいのに」というような目を向け、オーガポンはイルマに大丈夫かと心配するように寄りそう。

 イルマも人並みに体力はあるのだが、何せ着ているのはスーツである。ジャケットは肩に羽織っているが、ワイシャツには吸湿性がないので、走って汗をかけば暑くなるのは当然の事であった。

 

 取りあえず、今は少し休憩して息を整える為に、肩掛けしている鞄を下ろそうとイルマが鞄に手をかけると……

 

ピカッ!!

 

「えっ!?」

「な、なにっ!?」

「何だ!?」

 

 突如、地面に置いたイルマの鞄の中から眩い光が放たれた。

 リコとロイはその光に驚き、イルマは眩しさに目を細目ながら慌てて鞄の中を探ると、光っているものの正体を見付けた。

 

 それは、かつてパルデア地方でピクニックをした時に、モクローが見付けた白銀色のポケモンのタマゴであった。見付けて以来、キタカミでともっこやモモワロウと戦う時以外は何時も持ち歩いていたそのタマゴが、眩い光を放っていた。

 

「も、もしかして生まれるの!?」

「このタイミングで!?」

 

カッ!!!

 

 ロイの推測にイルマが思わず叫ぶと同時に、タマゴはより一層強い光を放ち、あまりの眩しさにイルマ達は腕で目元を隠す。

 数秒ほどしてから、ようやく光が収まってくると、イルマ達は恐る恐る鞄に目を向けた。

 

 そこにいたのは、タマゴではなく、ポケモンだった。

 美しい白銀の体毛に、ウサギのように長い耳。首の周りは真っ白な毛が襟巻きのように覆い、フサフサで丸みのある白銀の尻尾は色が純白に切り替わる部分の形状が丸みを帯びている。

 

「…ぶい?」

 

 白銀のポケモンは、イルマを見上げて、首を傾げた。

 




前回にオーガポンをゲットしたばかりで孵化が早すぎるとは思いますが、ブルーベリー学園編をやる前に6体揃えたいので、主人公はリコ達よりも早いペースでポケモンを揃えます。
次回は孵化したポケモンとイルマのオリジナルストーリーとなる予定です。

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