魔入りました!入間くん if Episode of ポケットモンスター   作:MTHR

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第19話に登場したタマゴから孵化したポケモンと、主人公のイルマ君のオリジナルストーリーとなります。

ネタバレになるかもしれませんが、時系列は『カブさんのバトル修行』の時になっており、イルマ君はバトル修行には参加しません。


34話 白銀のイーブイ

 リコの祖母に会うためにガラル地方にやってきたライジングボルテッカーズ。ナックルシティに向かうための電車が運休したことで自由に過ごして良い時間を利用して、黒いレックウザの伝承があるホウエン地方出身のジムリーダー【カブ】に会うためにエンジンシティにやってきていたリコ達。

 その前に立ち寄ったバトルカフェでバッタリと出くわしたカブを追ってエンジンスタジアムにやってきたリコ達だったが、なんとスタジアムに辿り着いた所で、なんとイルマがパルデア地方で拾ったタマゴが孵化したのだ。

 

 リコ達は、タマゴから孵った白銀のポケモンを呆然と眺めていたが、少ししてからリコが口を開いた。

 

「こ、これって……タマゴが孵ったって事だよね……?」

「そうみたい……」

「このポケモンは、確か……」

 

『イーブイ。しんかポケモン。ノーマルタイプ。不規則な遺伝子を持つ。石から出る放射線によって体が突然変異を起こす』

 

 スマホロトムで調べながら、イルマはタマゴから孵ったポケモン──イーブイを見る。

 基本的なイーブイは茶色の体毛をしているが、このイーブイは美しい白銀の毛並みをしている。バチコのジュナイパーや黒いレックウザ、そしてパルデアで出会ったラルトスと同じ様に、色違いと呼ばれる個体なのだろう。

 

「これ、どうすれば……」

「孵ったなら、ゲットした方がいいんじゃない?」

「そ、そうだね!よし……」

 

 ロイに促され、イルマはポケットから空のモンスターボールを取り出した。

 以前はモクロー以外のポケモンをゲットするなど考えていなかったのでモンスターボールを持ち合わせることは無かったが、キタカミの里でオーガポンをゲットしてから、もしかしたら仲間が増えることがあるかもしれないと常備していたものだ。

 

 イルマがモンスターボールを投げると、ボールがイーブイの額に当たり、白銀のイーブイは開いたモンスターボールの中に吸い込まれていく。

 

キュインキュインキュイン…ポンッ!

 

「……ぶいっ!」

「出てきちゃった!」

「失敗……って、あぁっ!?」

 

 地面に落ちたモンスターボールが三回揺れるが、独りでに開くと同時にイーブイが外に出てきてしまった。ボールからて出てきた白銀のイーブイはビクッと体を震わせ、右を向いて走り出してしまった。

 イルマは走り去っていくイーブイとエンジンスタジアムを交互に見ながら慌てていたが、やがてモンスターボールをしまってイーブイを追いかけた。

 

「ゴメン二人とも!僕はあの子を追うから、2人はエンジンスタジアムの方に行ってて!」

「あっ、イルマ!?」

「もふぅ!」

「ぽにおー!?」

 

 モクローとオーガポンは、イーブイを追って疾走するイルマを追いかけて走り出した。リコとロイはその後ろ姿を眺め、自分達も追いかけるべきかと迷っていると、エンジンスタジアムの方から声をかけられた。

 

「──カブさんに何か用っすか?」

 

 二人が反射的に声をかけられた方を向くと、いつの間にか赤いユニフォームを着た黒髪ショートカットの女性が立っていた。

 そしてリコとロイの二人は、ジムトレーナー見習いの【ワカバ】に案内され、エンジンスタジアムでバトルの力を向上させる為に、カブからのトレーニングを受ける事になるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 イルマ、モクロー、オーガポンは、逃げたイーブイを追って、エンジンシティの外れまで来ていた。

 イーブイはエンジンシティと第二鉱山を繋ぐ大きな橋の欄干に飛び乗り、ピョンピョンと進んでいく。時折チラリチラリと後ろを見て、自分を追って来ているイルマ達の姿を確認する。

 

「…ぶいっ!?」

 

 しかし、細い一本道を走っている中で後ろをチラチラ見るのが良くなかった。イーブイは踏み出した足を欄干から踏み外し、そのままグラリとバランスを崩してしまった。

 

「ッ!危ないッ!!!」

 

 イーブイが橋の欄干から落ちる様子を見て、イルマは血相を変えて飛び出し、橋の柵から身を乗り出し、両手を突きだしてイーブイを捕まえた。

 

「良かっ……たっ!!?」

「もふっ!?」

「ぽにっ!!?」

 

 イーブイをキャッチしながら安堵の息を吐くイルマだったが、気が揺るんでしてまったせいで、イルマはつま先立ちになっている足を滑られてしまった。『勝って兜の緒を締めよ』という言葉の大事さをイルマが実感したと同時に、イルマはイーブイを抱えたまま橋から真っ逆さまに墜落した。

 

「あぁああああああっ!!」

「ぶぃいいいいいっ!!?」

 

 イルマとイーブイは互いに涙を流して悲鳴を上げながら、地面との距離が近くなっていく。

 もうダメとイルマとイーブイがギュッと目をつぶる。

 

ぼよよ~~~ん!!

 

「ぶへッ!?」

「ぶいっ!?」

 

 偶然イルマ達の落下地点で昼寝をしていたいねむりポケモンの【カビゴン】のお腹がクッションになり、イルマとイーブイはトランポリンのようにカビゴンのお腹の上を跳ね、べシャリと地面に倒れた。

 

「いたたた……一体ここh「ぽにおーーっ!!!」ぐへっ!!?」

 

 地面に打ち付けた顔を抑えながら立ち上がろうとするイルマだが、次の瞬間、イルマの背中に何かがのし掛かり、襲い掛かかった衝撃で、そのまま意識がブラックアウトした。

 

「ぽに!?ぽにーーーっ!!」

「もふもふっ!」

 

 のし掛かってきた物の正体──イルマを追って橋から飛び降りたオーガポンは、気絶したイルマを抱き上げて「誰がこんなことを!?しっかりして!!」と言わんばかりに涙を流しながらイルマをガクガクと揺さぶる。そんなオーガポンに、モクローは「オメーのせいだろーが!!」とツッコむようにオーガポンの頭を叩いた。

 

「……ぶい……」

 

 イーブイはコントのようにも見えるイルマ達の様子を暫く眺めていたが、やがて視線をそらして何処か歩き始める。モクローとオーガポンは、気絶しているイルマの介抱に夢中で、イーブイがどこかへ行こうとしている事に気付いていなかった。

 

 白銀のイーブイはそのまま当てもなく歩き続けていると、イーブイのお腹から「ぐぅ~」という音がした。

 つい先ほど生まれたばかりで、生理現象など一切体験した事がないイーブイは、お腹が鳴る理由がわからずに困惑するが、直ぐに身体に力が入らなくなり、歩く速度がトボトボと落ちていく。

 

「バジィ!」

「バルチャッ!」

 

 そのまま歩き続けていると、二匹のポケモンの声が聞こえてきて、その声がした方に顔を向けたイーブイは自分がいる地点から少し離れた場所で、大きなハゲワシの姿をしたポケモン【バルジーナ】が、自身の巣の中にいるタマゴをオムツのように履いた【バルチャイ】に、咥えていた木の実を差し出している光景があった。

 

「……」

 

 バルジーナとバルチャイのやり取りを暫く眺めていたイーブイは、やがてプイッと視線を外して歩き出す。こころなしか、先程よりも足取りが重くなっている。

 

 そうして10分程歩いていると、イーブイの目線から見ればそれなりに大きな岩を発見し、ひとまずここで休もうとピョンッとそこに飛び乗った。

 イーブイは固い岩の上で丸まって昼寝でもしようとすると、突然イーブイが飛び乗った岩場がゴゴゴッという音を立てながら揺れ始めた。

 何事かとイーブイが慌てていると、目の前に巨大な顔が現れた。

 

「……ガネェ?」

「ぶぃいいっ!!?」

 

 巨大な顔のギラリと光る目に、イーブイは悲鳴を上げて逃げ出した。

 

 

 

 

 

 

「どこ行っちゃったんだろう?イーブイ……」

「もっふぅ」

「ぽにお」

 

 目を覚ましたイルマは、モクローとオーガポンと共にエンジンシティ外れの橋の真下──ワイルドエリアを歩いていた。

 気絶している間にイーブイが何処かに行ってしまったようで、1人と2匹はイーブイを探していた。

 

(……イーブイを見付けたら、僕はどうしたらいいんだろう?)

 

 イーブイをゲットしようとしていたモンスターボールを見ながら、イルマは冷静になった頭で考える。

 先程は突然の孵化に慌てていたところでロイに促されたことで勢いのままにゲットしようとしてしまったが、よくよく思い返してみると、イルマはパルデアで拾ったイーブイのタマゴを孵すことは決めても、孵ったポケモンをゲットするまでは決めていなかった。その後色々大変なことが続いていた事もあり、今までずっと保留にしていたのだが、孵化した以上、イーブイの扱いを考えなければいけないだろう。

 

(もしも僕と一緒に行くのが嫌なら…逃がすことも考えないとだよね……)

 

 だが、まず第一に考えるなければいけないのはイーブイの気持ちだ。ゲットするのかしないのか、それとも逃がすのかを考えるのはその後だ。その為にも先ずはイーブイを探さねばならないのだ。

 その時、後ろの方から巨大な何かが近付いてくる地響きと、聞き覚えのある鳴き声が聞こえてきて、イルマ達は訝しげな表情で振り替えると、その表情が驚愕のものに変わった。

 

「ガネェエエエッ!!」

「ぶぃいいいいいっ!!」

「えぇええっ!!?」

 

 イルマ達の視線の先にいたのは、此方に向かって爆走してくる白銀のイーブイ……そして、そのイーブイを追いかける、厳つい人相にしゃくれた顎をした超巨大なてつへびポケモンの【ハガネール】だった。

 予想だにしない展開にイルマは目玉が飛び出そうな程驚くが、ハガネールから逃げるイーブイが目前までやって来ると、イルマは慌ててイーブイを抱き上げ、踵を返して一目散に走り出す。モクローとオーガポンも、慌ててイルマの背中を追いかける。

 

「ガネェエエエルッ!!」

 

 しかし、ハガネールは尚もイルマ達を追い、大口を開けてイーブイを抱えるイルマに襲い掛かろうとする。

 その時、イルマとハガネールの間に、かまどのめんにフォルムチェンジして炎を纏わせた棍棒を手にしたオーガポンが立ち塞がった。

 

「ぽにおっ!!」

 

バゴォオオオオンッ!!

 

「ガネッ!?」

 

 オーガポンは炎を纏わせた棍棒を振り上げ、ハガネールの下顎を棍棒でぶん殴る。竈の面を被ったことで効果抜群のほのおタイプの技に変化していた“ツタこんぼう”を食らったハガネールは、その巨大で長い身体を大きく仰け反らせ、そのまま轟音を響かせながら仰向けに倒れ込んだ。

 倒れたハガネールは目を回して完全に気絶しており、数あるポケモンの中でも屈指の巨体を誇るハガネールを一発でKOしたオーガポンは、碧の面の姿に戻って良い仕事をしたというように汗を拭う仕草をした後、立ち止まって呆然としているイルマ達に眩しい笑顔を向ける。

 

「ぽにおっ!」

「……僕、今始めてオーガポンが凄いポケモンだって実感したよ」

「もふ…」

「ぶい……」

 

 可愛い笑顔を浮かべるオーガポンに、イルマは改めて自身がゲットしたオーガポンの規格外さを実感して苦笑いを浮かべ、モクローはイルマの言葉に同意するように頷いた。オーガポンの事を知らないイーブイは、ポカーンとオーガポンを見ていた。

 取り敢えず、ハガネールが気絶している今のうちにハガネールが見えなくなる場所まで逃げ去ったイルマ達。肩を上下させて息を整えながら、イルマは抱き抱えていたイーブイを下ろし、視線を合わせた。

 

「イーブイ、怪我はない?」

「…ぶいっ」

 

 イルマの問いかけに、イーブイは暫く彼の目を見つめていたが、怪我はないと素直に頷いた。その途端、イーブイの腹から大きな音が鳴り、イーブイはペタンた座り込んだ。

 

「フフッ、お腹空いたんだね」

「……ぶい」

 

 思わず笑みを浮かべながら、イルマは何か食べ物はないかと辺りを見渡し始める。すると、イルマ達がいる場所からそれなりに離れた場所で木の実が生っている木々を見付けた。

 

「あそこで休憩にしよっか」

「もふ」

「ぽに!」

「…ぶい」

 

 イルマの提案にモクローとオーガポンが頷き、イーブイもそれに頷くと、一同はその木々を目指して歩き出す。

 数十分ほど歩いていくなかで、イルマは足元のイーブイに視線を落とし、声をかける。

 

「イーブイ。君は、これからどうしたい?」

「……ぶぃ?」

「……って、いきなり言われても分かんないよね」

「ぶいっ!」

 

 イーブイは首をかしげ、よく分かっていなさそうな表情をしている。しかし、自身に向けている目には嫌悪や疑いの色は見当たらない為、多分嫌われている訳ではないんだろうと思う。

 そうしていると、イルマ達は木の実が生っている木々に辿り着いた。

 

「モクローは“このは”、オーガポンは“つるのムチ”」

「もふ!」

「ぽにっ!」

 

 モクローが数枚の葉っぱを飛ばして木の実を落とし、オーガポンが身体から出した蔓が次々と木の実をもぎ取っていく。

 

「…ぶい……」

 

 その光景を見ていたイーブイは、「自分もやる!」と言うようにモクローとオーガポンの間に並び立ち、目を閉じて力を込めると、イーブイの周囲に、小さな星の形をしたエネルギー体が複数現れる。

 

「これは…」

 

『“スピードスター”。ノーマルタイプの必中技』

 

 イルマがスマホロトムでイーブイが使おうとする技を調べている間にも、イーブイは発生させた星の弾幕を放とうと目を開ける。

 

「…ぶいっ!?」

 

 しかし、放とうとした弾幕は目を開けた途端に弾け、その際の衝撃波でイーブイは尻餅をついた。

 

「ぶいぃ……」

「い、イーブイは生まれたばかりだからね!上手く行かなくて当然だよ!」

 

 技が上手く出せないことに耳をシュンと垂れさせて落ち込み、イルマが慌ててフォローを入れる。そうしている間にも、もぎ取った木の実が軽い山を作っていた。

 

「沢山採れたね。はい、モクローにはモモンの実、オーガポンにはフィラの実」

「もふぅ」

「ぽにっ!」

 

 イルマは山積みになった木の実を探り、甘い味が好きなモクローにモモンの実、辛い味が好きなオーガポンにはフィラの実を差し出し、2体は嬉しそうにそれを頬張った。そして、味の好みが分からないイーブイの前には多種多様な木の実を置いた。

 

「君がどんな味が好きなのかはまだ分かんないから…好きなの選んでね」

「…ぶぃ」

 

 イーブイは目の前に差し出された大量の木の実に顔を近付け、クンクンと匂いを嗅ぐ。やがて山積みの木の実の中からイーブイが咥えたのは、渋い味をした固いカゴの実だ。外側も内側も固い味だが、イーブイは牙を使って噛み砕いて果肉を胃に納めていくと、笑顔を見せた。

 

「カゴの実……渋い味が好きなの?」

「ぶいっ!」

 

 イルマの問いかけに笑顔で答えながら、イーブイはガツガツとカゴの実を頬張った。実は固いが、実に美味しそうに木の実を食べるイーブイの様子を微笑ましく思って笑みを浮かべながら、イルマもオレンの実を齧った。

 

 大食漢のイルマがあっという間に5個目の木の実を口にしようとしたところで、イーブイはカゴの実を食べ終えた。口元についた食べかすを舌で舐め取り、一息つく。

 

「……!ぶぃ」

「イーブイ?」

 

 その時、俯かせていた顔を上に上げたイーブイが、何かを見付けたようで、身震いしながらそれを凝視する。その様子に疑問を持ち、イルマ達がイーブイの視線を辿った先にあったのは……

 

「キー…」

「ヌーヌー」

「キ、キテルグマ!?」

 

 2mはある着ぐるみのような姿をした【キテルグマ】が、真っ直ぐに此方に歩いてくる姿があった。 

 キテルグマは愛らしい見た目に反してかなり凶暴なポケモンで、育成する中でも怪力によって背骨を折られて死亡するトレーナーも後を絶たない危険なポケモンだ。何年か前にネットでそれを見たことがあるイルマは顔を青くし、イーブイは本能的にキテルグマに勝てないと後退り、モクローとオーガポンがイルマを守るように立ち塞がる中、キテルグマはイルマ達の目前までやって来ると……

 

「……キー」

「…へっ?」

「もふ?」

「ぽ?」

「…ぶぃ?」

 

 なんと、キテルグマが頭を下げてきた。

 突然の事態に困惑するイルマ達だったが、一番最初にモクローがキテルグマに敵意も何も感じないことを悟ると、キテルグマの前に立って話し掛けた。

 

「もふ、もふもふもふ?」

「キー」

「もふもふ」

「がお、ぽにぽにっ!」

「キッ!?キー!」

「ヌー!」

 

 オーガポンも会話に混ざり、キテルグマの言葉にモクローとオーガポンが何かを伝えると、キテルグマはお礼を言うように鳴いて、脇に抱えていた物をイルマ達に見せる。

 キテルグマが出してきたのは、キテルグマの進化前でもあるクマの縫いぐるみのような姿をしたじたばたポケモンの【ヌイコグマ】だった。キテルグマはヌイコグマを肩に乗せ、イルマ達が集めた木の実を拾い上げていく。

 

「……もしかして、子供のご飯を探してたの?」

「もふ!」

「ぽにっ!」

 

 モクローとオーガポンが、イルマの推測が合っていると言うように頷いた。

 イルマの推測通り、このキテルグマとヌイコグマは正真正銘の親子であり、キテルグマは腹を空かせたヌイコグマの為に木の実を探している途中だったのだが、食べ物を探すなかでイルマ達が木の実を集めている光景を見て、お零れに預かりたいと頼んでいたのだ。本来は凶暴な生態をしているキテルグマだが、この個体は比較的に穏やかな性格な事と、食料を探している最中にイルマが連れているオーガポンがこの辺りのエリアでも五指に入る程の強者であるハガネールを一撃で倒したことを見ていた為、素直にお願いをすることにしていたのだ。

 

「………」

「?」

 

 嬉しそうに持っていく木の実を選んでいるキテルグマとヌイコグマの親子を、イーブイはジッと見つめていた。その様子に気付いたイルマはイーブイの方に視線を向ける。イーブイのキテルグマ親子を見るその視線には、何処ととなくヌイコグマの方に向いて、羨望のようなものが混じっているように見えた。

 

(もしかして、イーブイは…)

 

 何となくイーブイの心情を察したイルマが心の中で呟くと、山積みになった木の実の半分を抱えたキテルグマが、ヌイコグマを肩に乗せ、踵を返して歩き出した為、一旦意識をイーブイからキテルグマ親子に向ける。

 時折此方を振り向いて感謝を込めた鳴き声を上げながら去っていくキテルグマを見送ると、イルマは未だにキテルグマ親子を眺めているイーブイの隣に座り込み、ポツリと問い掛けた。

 

「イーブイ……君ってもしかして、家族のところに行きたいの?」

「……ぶい」

 

 ポケモンは余程特殊なものでない限り人語を話す事は出来ないが、それでも人間並みに高い知能を有している。人間の言葉を理解して、バトルでも指示された通りに動いて技を出す。タマゴから孵ったポケモンには、産まれて最初に見た者を自分の親だと思い込む刷り込みや、タマゴの時に何らかの理由で親のもとから引き離されて酷い目にあった事で生きる気力のない状態で生まれる事例が存在する。

 イーブイの場合は後者に近いだろう。事情は分からないがイルマの知る限りイーブイの生息地ではないハッコウシティ付近でタマゴのまま残され、見知らぬ人間(イルマ)によって船に運び出され、パルデア地方から遠く離れたガラル地方という未知の場所に生まれたばかりでモンスターボールに入れられてゲットされそうになる。

 ボールからら出てきて逃げ出したのも当然かもしれないと、イルマは今更ながらタマゴを持っていった事を後悔した。

 

「……ごめんね。勝手に君を連れ出したりして」

 

 親が何時になっても現れず、何時かのヤトウモリのように盗まれる可溶性もあり、フリードやバチコから助言されたとはいえ、イルマが勝手にタマゴを持ち出したのは事実だ。考えてみれば、暗くなったら親が戻ってくる、あるいは親がタマゴを探している可能性もあるかもしれなかったのだ。これではイルマの方こそタマゴ泥棒である。

 イルマは顎に手を当てて考え込むと、イーブイに向かい合うと、静かに手を差し出した。

 

「イーブイ、僕達と来てくれないかな?」

「ぶい?」

「君をゲットしようなんて考えてないよ。でも、君をパルデアから連れ出しちゃったからさ。僕達には僕達の冒険があるから何時になるか分からないけど……君をパルデアに送り返すことは、約束できるよ」

 

 旅はこれからも続く。リコの祖母からペンダントの秘密を聞いた後、ライジングボルテッカーズが何処に進路を取るのかは分からない。だが、2度とパルデア地方に行けないという事はない。だから、イーブイをパルデア地方の親のもとに送り返してあげるために、自分達と共に来てほしいと頼む。

 イーブイは暫く無言でイルマの言葉を聞いていた。そしてイルマの勧誘が終わった後、ジッとイルマの目を見ていた。

 10秒、20秒と時間が過ぎていき、座り込むような姿勢を解いたイーブイはイルマに向かって歩きだし……

 

「……ぶいぃ~」

 

 差し出されたイルマの掌に自身の頬を当て、スリスリと頬擦りをした。

 イーブイ自身、イルマを嫌ってなどいなかった。最初に逃げたのは、生まれたばかりに突然モンスターボールに入れられてビックリしていただけなのだ。

 

「もふぅ~」

「ぽにおーっ!」

「ありがとう。これからよろしくね」

「ぶいっ!!」

 

 モクローが「相変わらずお人好しだねぇ」と呆れるように溜め息を吐き、オーガポンは同行者が増えたことに喜びながらピョンピョンと飛び跳ね、イルマが礼を言いながらイーブイの頭を撫でると、イーブイは気持ち良さそうに目を細めた。

 

「……さて、そろそろ戻ろっか。カブさんに話を聴きに行ってるリコ達の事もあるし」

 

 一通りイーブイを撫で終えたイルマは、気持ちを切り替えて立ち上がる。エンジンシティを後にしてから相当時間が経っているし、孵化したイーブイについてライジングボルテッカーズのメンバーにも話をしておく必要があるため、イルマはスマホロトムをしまっている鞄を探ろうとするが……

 

「……あれ?鞄がない!?」

「もふ!?」

「ぽに?」

 

 先程までそこに置いていた筈の、今までイーブイのタマゴを入れていた鞄がなくなっており、イルマとモクローは首を傾げるオーガポンとイーブイを他所に慌ててキョロキョロと見渡すと、イルマ達がいる地点から数十メートル離れた場所で、独りでに動く鞄を発見した。目を凝らしてみると、それを引きずっているポケモンの姿もある。

 

「…ベロッ!」

「あっ!僕の鞄!」

 

 どぎつい配色の小悪魔のような姿をしたポケモン【ベロバー】は、自身の存在に気付かれたことを悟ると、ベロバーは得意気な顔でフンと鼻を鳴らし、ダッと走り出した。

 

「あっ!ちょっと、僕の鞄返してーー!!」

「もふーー!」

「ぽにおーー!?」

「ぶいっ!?」

 

 イルマは慌ててベロバーを追いかけ、モクローとオーガポン、そしてイーブイもイルマに続いてベロバーを追いかける。

 

 イルマ達とベロバーの鬼ごっこは30分程続き、ようやく鞄を取り返したイルマだったが、その際に放ったモクローの“エアカッター”が飛び火したギャラドスが怒り狂ってイルマ達に襲いかかったり、それを一撃で沈めたオーガポンがカイリキーといった好戦的なポケモン達に勝負を挑まれたり、オーガポンとイーブイの容姿に一目惚れしたポケモン達が2匹に求愛してきたりと様々な場面でポケモン達による足止めをくらい、結局イルマ達がボロボロになってブレイブアサギ号に帰ってきたのは夕方になってからだった。

 

 

 

 

 

 

 その夜、エンジンスタジアムでカブからの特訓を受けた末にホゲータ“かえんほうしゃ”を習得し、黒いレックウザはエンジンシティから西に向かっていった先のガラル鉱山に向かっていったという情報を得たライジングボルテッカーズは、リコの祖母が住む古城より先にガラル鉱山を調べることにした。

 

 太陽が完全に沈んで夜行性のポケモン達以外は全員寝静まっている中、リコは展望室の前で座り、満点の星空を見上げていた。傍らにはニャオハが丸まって眠っている。

 

 イーブイを追いかけたイルマと分かれた後、レックウザに挑むためのカブからの特訓で、リコは相手の事を気遣って手加減をした後、カブに「バトルにおいては優しさが正解とは限らない」「君だけの道を見つけて見ると良いよ」と諭された。

 カブの言葉を思い返しながら夜空を見上げているリコに、後ろから声が掛けられた。

 

「……リコ?何してるの、こんなところで?」

「イルマ……」

 

 それは、ラフな格好をしているイルマだった。モクローとオーガポンの姿はないが、何故か今までタマゴをしまっていたバッグを肩に掛け、その中にイーブイが入っている。

 イルマがやってきたことを察したニャオハが目を覚まし、イーブイは鞄から飛び出してニャオハと会話をする。

 

「…何でもない、少し考え事してただけ。イルマはどうしてイーブイと?」

「イーブイに船内を案内してたんだよ。この鞄の中が気に入ってるみたいでね」

 

 どちらかと言えば大人しい方のイーブイだが、やはり生まれたばかりな為か始めてみる大型の飛行船に興味津々なようで、イルマは船を軽く案内していた中で、展望室に来てリコを見付けたということだ。

 ニャオハと笑顔で話し合うイーブイの姿を一瞥すると、リコは再び星空に目を向け、隣で柵にもたれかかるイルマに話し掛けた。

 

「……ねぇ、イルマはどんなトレーナーになりたいと思ってるの?」

「え?」

「あっ、ごめん。私ってどんなトレーナーになりたいのかなって考えてたら、気になって……」

 

 イルマはエンジンスタジアムにいなかった為、リコに何があったのかは知らない。だが、何となくリコが何かを考えている事は理解できたので、リコの質問内容を考えてみて、口を開いた。

 

「うーん…まだ明確に決まってる訳じゃないんだけど……今は上を目指してみたいなって思ってる」

「上?」

「うん。ロイくんみたいにレックウザをゲットするとか、チャンピオン目指してるとかじゃないんだけど、今は強くなってみたいと思ってる」

 

 リコは少し意外に思った。イルマにはバトルの才能があるが、ロイの様に高みを目指しているとは。ここ最近ではボーッとしている時間が多かった為、強くないたいと言う気概も感じなかったので尚更だった。

 

「知らなかった……イルマが強くなりたいと思ってたなんて」

「まぁ、そう考えるようになったのは本当に最近だよ……この子が仲間になってからかな」

 

 そう言いながらイルマが取り出したのは、オーガポンが入っているモンスターボールだった。モンスターボールを透視する事は出来ないが、『仲間になってから』という言葉から、リコはイルマが取り出して眺めているボールに入っているポケモンを察する。

 

「オーガポンが仲間になってから?」

「うん。キタカミの里でオーガポンと出会って、ともっこやモモワロウと戦って、その後にスグリ君とオーガポンを賭けてバトルをして、オーガポンをゲットした。その時からずっと思ってたんだ……」

 

 イルマはオーガポンのボールを持つ手の力を強める。リコは彼が一体どんな思いを抱えているのかと、続きを待っていると……

 

オーガポン(これ)……重いなぁって……」

「へ?」

 

 予想だにしない回答に、リコの目が点になる。

 意味が分からずに、リコは首を90度に傾け、ややシリアスな空気をぶち壊したイルマを凝視する。

 

「重?」

「いやっ、嬉しいよ!オーガポンが仲間になってくれたこと事態はスッゴく嬉しいんだよ!不満なんて無いし、逃がすつもりとか全く無いんだよ!」

 

 手をバタつかせて、オーガポンをゲットしたくなかったわけではないと主張するイルマ。リコ自身それは分かっているのでその主張を疑うもりはないが、それなら『重い』とはどういう意味なのか、と尋ねるような目を向けると、イルマは大きく溜め息を吐きながら答えた。

 

「……だけど、やっぱり2体目でこんなに強いポケモンをゲットするのはまだ僕には早いよなぁって思うんだよ。それに、キタカミの一件だって、リコ達が手伝ってくれなきゃ絶対に解決できなかったし…。だって、オーガポンって凄く強い上に、自由にフォルムチェンジまで出来るポケモンだよ!?序盤でゲットするにはチート過ぎると思うでしょ!?」

「そ、それは確かに……」

「その上スグリ君とベタな少女漫画みたいな決闘するし、オーガポンのためにと思ってバトルに勝ったらスグリ君と溝が出来ちゃうし…本当に急すぎるんだよ」

 

 愚痴を吐き出すように話しまくるイルマに、リコは苦笑いだ。イルマはロイと違い、伝説のポケモンをゲットしたいという目標を持たなかった為、突然手に入れた伝説クラスのポケモンに戸惑うのも仕方がないと思うが、あれだけ達観した様子でスグリとバトルをしたイルマが実はこんな風に思っていたとは。

 

「正直ね。最初にオーガポンが自分を選んでくれたって時は内心『僕って凄いな』って高揚(ハイ)になってたよ。でもなんかスグリ君が決闘に勝った後になると『ちょっと凄すぎるのでは?』って消沈(ロー)になるし……もー最近はずっとハイになったりローになったりを繰り返してて……」

「も、もしかして最近ボーッとしてたのって、スグリとの件で悩んでたんじゃなくてソッチだったの?」

「いや、スグリ君のことでも悩んでたよ。……でもそっちの方も理由のひとつではあった」

「そ、そうなんだ……」

 

 ここ最近のイルマの様子を心配していたリコは、予想だにしない理由に苦笑いする。

 

「でもね……ライジングボルテッカーズの船で沢山の経験をして、色んな出会い経て強くなっていく内に…自分でも知らない自分を見つけていっている気がするんだ。だから今は、もっと上を目指してみたいと思ってる」

「そうなんだ……」

「まぁ、リコの聞いていた『どんなトレーナーになりたいのか』って質問とは少し違うと思うんだけどね」

 

 そこで、イルマは話が『イルマがどんなトレーナーになりたいのか』ではなく『今イルマがどうしたいのか』という話に変わっていたことを自覚し、苦笑しながら続きを口にした。

 

「でも、こんな風に今自分がやりたい事をしていく内に、どんなトレーナーになりたいのかっていう答えは見つかる気がするよ」

「……そっか、ありがとう」

 

 イルマに礼を言いながら、リコは再び自分がどんなポケモントレーナーにないたいのかを考え、カブの言葉を思い出していた。

 その様子を見ながら、イルマはそろそろ部屋で就寝しようとニャオハと話をしているイーブイを呼び掛けると、イーブイは素直に応え、イルマの肩掛けしたバッグの中に入り込んだ。

 

「フフッ、もうすっかりイーブイと仲良しだね」

「あくまでイーブイがこの船にいるのはパルデアで家族の所に送り返すまでだから、少しはここに馴染んでもらって欲しいと思ってるんだ…」

「ぶい?」

「ニャア」

 

 鞄の中に入り込んだイーブイの頭を撫でながら笑みを浮かべるイルマと、首をかしげつつもイルマに撫でられて気持ち良さそうにするイーブイの姿はまるでパートナーの様に見えて、リコは微笑ましく思って笑顔を見せる。

 

(……なんか久し振りだな。こうしてイルマと二人きりで話すの)

 

 そこで、リコはここ最近気まずい雰囲気になっていたイルマと二人きりになっても自然に話せるようになっていたことに気付いた。

 …だが、同時に気まずくなっていた原因も思い出してしまい、リコは反射的に顔を赤くし、口元を手で抑える。

 

「…リコ、なんか顔赤くなってない?」

「きっ、気のせいじゃないかな!?」

「そう…?」

 

 一方、オーガポンの事等の濃い思い出のせいでリコと気まずい雰囲気になっていることを完全に忘れてしまったイルマは、突然リコが赤面した理由が分からず、首を傾げる。

 

 やがて、夜遅く冷えてきた為、リコも自室に戻る事にし、ニャオハを促してイルマと共に船内に戻っていった。

 

「……ラル」

 

 顔を赤くしているリコにどうしたのかと訊ねるもはぐらかされてしまうイルマの背中を、物陰に隠れながら眺める青い影。

 彼女がイルマの前に姿を現して彼の仲間になる時は、少しづつ近付いていた。

 

 




初めは、SM編のシロン(リーリエのアローラロコン)のような話にしようと思っていたのですが、タマゴが孵化したのならサトシのヨーギラスや、映画ドラえもん『のび太の恐竜』のように、親や仲間の元に送り返す話の方が面白いなかぁと思い、ゲットは保留する事にしました。勿論、ヨーギラスやピー助と違って、最終的にはゲットする予定です。



イーブイ✨(♀) イメージCV.悠木碧

テラスタイプ:不明
性格:ひかえめ
特性:きけんよち
技:未使用

解説:イルマがパルデア地方で偶然見付けたタマゴが孵化して生まれたポケモン。孵化するまでタマゴを大事にしてくれたイルマに対し、刷り込みはしていないがかなり懐いている。自身の親を恋しがっている傾向があり、イルマの提案でパルデアで自身の親を見付けるまでイルマに同行することにする。生まれてからいきなりモンスターボールに入れられた為、モンスターボールが苦手。タマゴ時代の名残かイルマが肩掛けしているバッグの中が気に入っているらしく、大体そこにいることが多い。生まれたての為か上手く技が使えない。ポケモン視点から見るとかなりの美少女らしい。
イメージCVを悠木碧さんにした理由としては、ピカブイで相棒イーブイを務めた声優であり、作者がLet's Go!イーブイをプレイしていたから。


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