魔入りました!入間くん if Episode of ポケットモンスター 作:MTHR
ガラル鉱山は、エンジンシティとターフタウンの間にある内陸部の鉱山であり、ガラル地方で見られるポケモンのパワーアップ現象“ダイマックス”を引き起こすデバイス“ダイマックスバンド”に必要な鉱石“ねがいぼし”も採掘されている。
エンジンシティのジムリーダーカブから黒いレックウザがガラル鉱山に向かっていったという情報を手に入れたリコ達は、道中に独りぼっちだったミブリムがリコの新しい仲間になったという事がありつつも、ガラル鉱山の入り口に辿り着いた。
「ここがガラル鉱山…!」
「おっきぃ……」
「壮観だな。探し甲斐がありそうだ」
「レックウザ……いるよね」
「それはまだ分かんないけど……行ってみる価値はあると思うよ」
古のモンスターボールを見つめながら呟くロイに、腕を組みながらイルマが曖昧な事を言う。黒いレックウザがガラル鉱山に向かっていったという情報は聞いても、まだここに滞在しているかまでは分からない。もしかしたら既に何処か別の場所に行った可能性も否めないが、探してみる価値は十分にあると。
その時、リコのフードの中にいたミブリムが突然身震いし出した。
「ミッ、ミーッ」
「どうしたの?」
「も、もしかして、僕の強い反応しちゃった?」
「いや、それならここに来るまでに、幾らでも反応した筈だ」
「じゃあ、ミブリムが反応したのって……」
「レックウザの気持ち……」
ガラル鉱山経の入り口を見つめながら、リコ達は自然と呟いた。
リコ達はガラル鉱山のトンネルの中を進んでいく。
トンネルの中に眼を輝かせつつも奥へ進んでいくと、トンネルの奥からトロッゴンが現れ、リコ達の横を通りすぎてトンネルの入り口に向かって行った。更にもぐらポケモンの【モグリュー】や【ディグダ】といったガラル鉱山に済むポケモン達が、次々と出入り口に向かって地面を掘り進んでいく。
「皆慌ててる……」
「驚かしちゃったのかな…?」
「作業員もいて、人慣れしてても良さそうだが……」
「もしかして、この先にいるレックウザに怯えて…?」
「その可能性は高そうだな……」
イルマの推測にフリードがもしかしたらそうかもしれないと考えつつ、彼等はそのまま先に進んでいくと、やがて壁一面に色とりどりの光を放つ鉱石が埋まっている広い空間に辿り着いた。
「うはぁっ!何このキラキラ!」
「宝石みたい!」
「“ねがいぼし”だね。ガラル鉱山で発掘されるみたい」
リコとロイは目を輝かせ、イルマはスマホロトムで壁に埋まっている鉱山を調べる。
そんな中、フリードはねがいぼしが埋まっている壁を見上げながら、納得したように呟いた。
「成る程……レックウザがここに来たのは、その生態に関係があるのかもしれないぞ」
「レックウザの生態?」
「ああ。レックウザは空に飛ぶチリや、地球に落ちてきた隕石を食べると言われている」
ポケモン博士のフリードがレックウザの生態を説明する中、彼等の後ろにいたニャオハとホゲータは地面を掘り進むモグリューとディグダ、オーガポンは洞窟を飛び回るこうもりポケモンの【コロモリ】を発見し、洞窟内の整備された3つのトンネルのうち、左側のトンネルの奥へと逃げ出した彼等を追い、3体は左のトンネルに入っていってしまい、それに気付いたリコ達も慌ててトンネルの中に入っていく。
「特別な力を持つガラルの鉱石にも興味を持ったと考えれば、ここに来た理由にも繋がるかもしれない……あれ?」
解説を終えたフリードが振り替えると、そこにリコ達の姿は何処にもなかった。
ガラル鉱山の内部に続くトンネルの地中を逃げ回るディグダとモグリューをニャオハとホゲータが、空中を飛び回るコロモリをオーガポンが追いかける。
「待って!」
「ホゲータ!!」
「オーガポン!無闇やたらと走り回らないで!」
それを追いかけ、リコ達もトンネルの奥へと進んでいき、トンネルを抜けると、先程の場所よりもやや広い場所に出てきた。
ディグダを追いかけるホゲータは勢い余って壁に激突し、ニャオハはポコポコと地面から顔を出すモグリューに飛びかかろうとすると、リコに抱き上げられて止められる。
「オーガポン!あまりあちこち行ったらダメだよ」
「ぽ?」
「もーふぅ」
「ぶい……」
“つるのムチ”でコロモリを捕まえようとしていたオーガポンの肩を掴んだイルマが注意すると、オーガポンは首をかしげ、モクローとイーブイは揃って溜め息を吐いた。
「フリードのところに戻ろう……ってあれ、何処から来たっけ…?」
リコがニャオハを抱えて元の道を辿ろうと振り替えると、そこには先程の場所とにたように3つのトンネルがあり、何処から入れば戻れるのか分からなくなってしまった。
その時、リコの懐のスマホロトムが飛び出して着信音が鳴る。それに応答すると、電話を掛けてきたのはフリードだった。
『お前達今何処にいる?』
「ごめん!迷っちゃった……」
『えぇっ!?周りに何か目印は?』
「えっと……こんな感じ。似た入り口ばっかり」
『うーん……分からんなぁ』
『ピカ、ピカチュー。ピピーカ、ピッカ』
『そうだな……。探しに行くからそこを動くなよ!』
「分かった!」
通話を切ってリコの懐にスマホロトムが収まると、リコを見上げて鳴き声を上げるニャオハに「大丈夫」と声をかける。
「ごめんね、コロモリ。ほら、オーガポンも」
「ぽにお~」
「モリ!……モリッ!」
一方、イルマはオーガポンが追いかけ回したコロモリに謝罪をしていた。オーガポンも反省しているのか申し訳なさそうな表情でコロモリに頭を下げ、コロモリは許してくれたようで笑顔で頷くと、トンネルの奥に向かって飛び去っていき、そんなコロモリの姿をイルマ達は手を振って見送っていると……
「今の……レックウザ!?」
「ロイ!待って!」
「え?」
レックウザの名前を叫ぶロイと、ロイを引き留めようとするリコの声を聞き、イルマ達は反射的に振り替える。
……そこには、先程までいたはずのリコ達の姿が影も形もなくなっていた。
「えぇッ!?リコ!ロイ君!?フリードさんが待ってろって行ってたのに何処行ったの!?」
「ぽにぽにっ!」
「ぶいぃ……」
「……もふぅ」
一応リコとフリードの通話内容は聞いていたイルマはここで待機していろと言われた矢先に何処かへ行ってしまったリコとロイに慌て、オーガポンも同様に何処に行ったのかとキョロキョロ辺りを見渡し、イーブイは不安そうな表情をする。そんな中、モクローは直前まで聞こえてきたロイとリコの声の内容から、恐らくレックウザの手掛かりか何かを見付けたロイが突っ走り、それをリコが追いかけてるんだろうなと推測し、小さく溜め息を吐いた。
少し遅れてからイルマもモクローと同じ推理をしたのか、少しの間頭を抱えて悩んだ後、決然とした表情を浮かべた。
「仕方ない、探しに行こう!これが聞こえてきた方からして……此方だ。皆、行こう!」
「もふっ!」
「ぽにっ!」
「ぶいっ!」
聞こえてきた声の咆哮から位置を割り出したイルマは、人一人が入れそうな壁の亀裂のとなりにあるトンネルを指差し、ポケモン達に呼び掛けて、彼等と共にトンネルの中に入っていってしまった。
本当はロイ達が入っていったのは隣の道になっている亀裂の方なのだが、中が暗すぎて、イルマはそこが道になっている事に気付くことが出来なかった。
「……いない」
「ピピーカ!」
「そっちもダメか……ったく、何処行ったんだ?」
そして、イルマ達がトンネルの奥に入った直後に、フリードとキャップがやって来た。
リコとロイを探してトンネルの中を走り抜けていくイルマ達。しかし、走っても走っても、リコの姿もロイの姿も見付けることが出来ず、とうとうトンネルを抜けて先程と似たような場所に飛び出した。しかし、やはりと言うべきかリコとロイの姿は何処にもなかった。
「あれぇ~?トンネル間違えたかな…?」
「もふぅ」
「ぽ?」
「ぶぃっ」
まさかこの迷路みたいな場所でリコ達が入っていったのとは別のトンネルに入ってしまったのかと顔を青くするイルマにポンと肩を翼を置くモクローと、「ここさっきも来なかった?」と疑問符を浮かべるオーガポン。イーブイはこの近くでリコ達を見たポケモンがいないかとバックから出てきて、歩きながら辺りを見渡していると、あるものが目に入った。
「ッ!ぶぶぶいっ!!」
「?イーブイ、何か見付けたの?」
「ぶいっ!」
「……これは…!?」
イーブイの元に駆け寄ったイルマ達は、イーブイが前足で指し示したものを見て、目を見開いた。
「これ……爪痕、だよね?」
「もふぅ」
「ぽに」
イーブイが指した洞窟内の壁には、4本で一つの爪痕が大きく刻まれていた。その大きさは、ここに来るまでガラル鉱山で見かけてきたどのポケモンとも釣り合わない。
一瞬レックウザの爪痕かと思ったイルマだったが、直ぐにその爪痕に違和感を感じ、イルマはスマホロトムを操作した。
「おかしいなぁ……レックウザの指は三本しかないはず。なのにこの爪痕の数と形は……」
スマホロトムに表示されたレックウザの画像を確認してみると、レックウザの指は三本しかない。それに、爪痕の形はドラゴン型のポケモンではなく
(……ん?鳥?レックウザ……なんか引っ掛かるなぁ……)
レックウザを探しに来たのに、ガラル鉱山に巨大な鳥ポケモンがいるかもしれないと考えたところで、イルマは『巨大鳥ポケモン』という単語に違和感を抱く。レックウザと関係のある鳥形のポケモンを、何処かで聞いたことがある気がする。
(……まてよ。パルデア地方でコルサさんが黒いレックウザが目撃したって言う森に行ったら、レックウザの仲間だったオリーヴァがいた。それで、レックウザが目撃されたガラル鉱山に、何か別のポケモンがいるんだとしたら……)
あれこれ考えてみるが、この爪痕の持ち主が分からない以上何も解決しないため、イルマは取り敢えず爪痕の写真を撮り、これをフリードに見せてから皆と合流しようとスマホロトムを操作する。
その時、イルマが出てきたものとは別のトンネルから、足音と共に聞き覚えのある声が聞こえてきた。
「……黒いレックウザを探してきてみれば……やはりいたか、ライジングボルテッカーズ」
「……ッ!?貴方は……!」
トンネルの奥から現れたのは、白黒のツートンカラーの髪をした男性──アメジオであった。
「どうしてここに……!?」
「お前に用はない。ペンダントとあの娘は何処だ?」
「(それは僕も知らないんですけど……)教えるわけないでしょう……」
本来の目的は黒いレックウザであったが、元々の標的であったペンダントを持つリコの居場所を尋ねてくるアメジオに、はぐれているために自分も居場所を知らないとは言え話す気のないイルマは素っ気なく返す。
「ならば……ソウブレイズ!」
「ソウッ!」
アメジオがモンスターボールを投げると、開いたボールの中から彼のパートナーであるソウブレイズが現れる。
まだ未熟だったとは言え、モクロー・ニャオハ・ホゲータの3体を単独で圧倒した相手を前にしてイルマは一歩後退るが、直ぐに気を取り直し、現時点での手持ちの中で一番強いポケモンの名前を呼んだ。
「頼んだよ、オーガポン!」
「ぽにおーっ!!」
イルマの呼び掛けに答えて飛び出したのは、キタカミの里で新たにイルマの手持ちとなったオーガポンだ。エクスプローラーズと対面するのは初めてのオーガポンだが、彼女もアメジオとソウブレイズが危険な奴であると察していたのか、碧の面を被って臨戦態勢を取っている。
相棒であるモクローは参戦することが出来ないことに不満そうな表情をするが、一度ソウブレイズと退治したことがある故に今の自分では逆立ちしても勝てないことを理解していた為、大人しくイルマの肩の上に待機する。イーブイは、ソウブレイズとオーガポンの放つ強者の風格に気圧され、イルマのバックに身を隠しながら様子を伺っていた。
「何だ、そのポケモンは…?」
一方で、アメジオは初めて見るオーガポンを見て呟く。フリード程ではないとはいえ、アメジオも人並みにはポケモンに関しての知識はあるが、目の前の緑色のポケモンは見たことがなかった。だが、どちらにしろ倒すことに変わりはないと、アメジオはソウブレイズに指示を出した。
「ソウブレイズ、“つじぎり”!」
ソウブレイズは物凄いスピードで走りだし、オーガポンを両腕の剣で切り裂こうと、走りながら剣を構える。
「オーガポン、井戸の面で“ツタこんぼう!”」
「ぽにぽに…がおぉっ!!」
「ブレ…ッ!?」
対するオーガポンは、被っているお面を碧の面から井戸の面に付け替えて“いどのめん”にチェンジし、取り出した棍棒に水流を纏わせ、その棍棒を勢い良く振るってソウブレイズの剣を迎え撃つ。
自身の技を止められた事にアメジオとソウブレイズは驚くが、直ぐにソウブレイズの方が僅かにパワーが上だと気付くと、ソウブレイズはそのまま力を込めて押しきろうとする。しかし、オーガポンは根性でソウブレイズを押し返し、相殺に終わらせる。
衝撃によって、ソウブレイズはアメジオの前まで後退する
「……成る程、そのポケモンはモクローとは格が違うようだな」
それを見たアメジオは、オーガポンの評価を改める。
かつてカントーの離島でリコのニャオハ達と共に自分が圧倒したモクローは、タイプの相性を差し引いてもレベルが低く雑魚同然だった。しかし、彼が新たにゲットしたというオーガポンと呼ばれるポケモンは確かに強い。実際、ソウブレイズの“つじぎり”を相殺に終わらせられたのだから。そして、同時に警戒する。顔を隠しているお面を付け替えたら、姿が変わった。恐らくフォルムチェンジの類だろう。自分も知らない未知の力を秘めた強力なポケモンを前に、アメジオは先程よりも本気を出すことにする。
「オーガポン、“しねんのずつき”!」
「“サイコカッター”」
今度はイルマの指示が先になり、オーガポンはお面の額にサイコパワーを纏わせてソウブレイズに突撃、そのまま頭突きを御見舞いしようとするが、その直前でソウブレイズはサイコパワーで出来た斬撃を飛ばす。
サイコパワーによる斬撃と頭突きがぶつかり合い、爆発を起こす。
爆煙の中から飛び出したオーガポンは、空中でクルクルと回転し、体勢を整えてイルマの前に着地する。更にもう片方の剣による二発目のサイコカッターが飛んでくるが、オーガポンは棍棒でそれを弾いた。
「“ゴーストダイブ”!」
「ぽ、ぽに!?」
次の瞬間、ソウブレイズは地面に現れた闇の中に沈むように姿を消し、オーガポンはそれに驚き、どこから出てくるのかと警戒しながらキョロキョロと辺りを見渡していると、オーガポンの頭上からソウブレイズが姿を見せる。
「オーガポン!上ッ!!」
「ブレイッ!」
「ぽにおっ!?」
それを察知したイルマが叫ぶと、オーガポンは上から殺気を感じて横に跳ぶと同時に、闇から飛び出してきたソウブレイズが剣を振り下ろす。空振りになった剣がオーガポンが立っていた地面を切り裂いた。
「ゴーストダイブを使わせないで!“ツタこんぼう”!!」
「“むねんのつるぎ”!」
カントー離島の時のように連続で“ゴーストダイブ”を使われないためにイルマが指示を出すと、オーガポンは着地した瞬間に地を蹴って、水流を纏わせた棍棒を振るう。ソウブレイズは炎の剣で対抗する。そのまま何度も互いの獲物をぶつけ合う。
パワーはほぼ互角。しかし炎タイプの“むねんのつるぎ”に対し、“ツタこんぼう”は井戸の面を被った事で炎タイプに有利な水タイプに変化しており、オーガポンが優勢だった。
『ギャォオオオオオオオッ!!』
「「「「「「ッ!?」」」」」」
その時、アメジオが姿を現したものとは別のトンネルから、禍々しい咆哮が響き渡る。恐らくポケモンの咆哮だが、以前聞いたレックウザの物とは何処か違う様な気がする。
その咆哮に、獲物をぶつけ合って鍔迫り合いの姿勢になっていたオーガポンとソウブレイズだけでなく、モクローとイーブイ、そしてイルマとアメジオも何事かと咆哮が響いてきたトンネルの方に顔を向ける。
だが、それも一瞬の事であり、アメジオは直ぐ様気を取り直してソウブレイズに指示を出す。
「“ゴーストダイブ”!」
「ソウッ!」
「ッ、しまった!!」
「ぽにっ!?」
バックステップでオーガポンから距離を取ったソウブレイズが、地面に沈むように姿を消した。咆哮に気を取られていたイルマは顔を強張らせ、オーガポンは棍棒を構えながら周囲を警戒する。
「ブレィッ!」
「ぽにぃっ!!」
「オーガポン!」
「もふぅ!」
「ぶいっ!」
「ぽに……ぽにおっ!」
オーガポンの足元の影から飛び出したソウブレイズがオーガポンを切り裂き、堪らずオーガポンは吹き飛ばされる。イルマ達が心配の声を上げると、オーガポンは多少のダメージを負いながらもしっかりと立ち上がる。
「礎の面に変えて!」
「がおっ!」
「続けて“ゴーストダイブ”だ!」
「ソウ!」
イルマの指示でオーガポンが灰色のお面を被り防御に長けたいしずえのめんにフォルムチェンジすると同時に、姿を変えたオーガポンに警戒しながらアメジオは指示を出し、ソウブレイズは再び闇の中に消える。
「(だったら…)オーガポン!落ち着いて棍棒を構えて!」
「ぽにっ!!」
オーガポンは周囲を警戒しながらも、棍棒を構える。
その時、オーガポンの背後に闇の渦が現れ、そこからソウブレイズが顔を見せた瞬間、イルマは声を張り上げた。
「オーガポン、地面に“ツタこんぼう”!!」
「がおぉっ!!」
「ブレッ!?」
「何ッ!?」
オーガポンが振り下ろした棍棒が地面を叩き割り、瓦礫と砂塵を巻き上げる。予想外の行動にアメジオとソウブレイズが驚愕した瞬間、“ツタこんぼう”の衝撃によって四散した瓦礫がソウブレイズの顔にぶち当たり、ソウブレイズは闇の中から地面に転がり落ちた。
「ブレ……ソウ…」
更に、ソウブレイズは瓦礫がぶち当たると同時に土煙が目に入ってしまったらしく、剣の形をした両手で眼を抑えている。
「今だよ、“ツタこんぼう”!」
「させるか!バックステップで“ゴーストダイブ”だ!」
視力が効かなくなった絶好の隙を見逃すものかと、効果抜群の岩タイプに変化した技を食らわせようとイルマが指示を出し、流石に厳しい表情になったアメジオがソウブレイズの目となり指示を出すと、未だに視界が効かないソウブレイズはオーガポンの振り下ろす棍棒を、アメジオの指示通りバックステップで回避してから、背後に闇のゲートを出現させる。
この中に入ってしまえば、もうオーガポンは何も出来ない。闇の中で視力が回復してから不意打ちを仕掛ければ良い。
「それくらいは読めてましたよ!“つるのムチ”!」
「ぽにおっ!!」
「ソウッ!?」
しかし、回避されることくらいは予想していたイルマは銃の形にした手でソウブレイズを指差しながら指示を出し、オーガポンは体から射出した蔓を、闇の中に潜り込もうとしたソウブレイズの右足に巻き付けた。
「何ッ!?」
「“ゴーストダイブ”を避けられないなら、闇に隠れる前に捕まえる。それがソウブレイズ攻略の糸口です!」
驚くアメジオに向けて得意気に宣言するイルマ。ついさっき思い付いた即興の戦法だが、奇襲に優れた“ゴーストダイブ”を発動する前に捕らえるというのは非常に正しい判断であった。
「まだだ!“むねんのつるぎ”でムチを燃やせ!」
「させない!オーガポン、引っ張り上げて!」
「ぽにーーっ!」
「ソッ!?」
炎の剣で足に絡み付く蔦を燃やそうとするソウブレイズだったが、それよりも早くオーガポンが一本釣りのように蔦を引くと、ソウブレイズは技を中断させられ、無理矢理オーガポンのもとに引き寄せられる。それを見て、イルマの次の指示を予測したオーガポンは棍棒を野球バットのように構える。
「“ツタこんぼう”!!」
「ぽにおぉっ!!」
右足に巻き付けた蔓を解いた瞬間、オーガポンはメジャーリーガーも顔負けのフルスイングで、此方に向かってくるソウブレイズに岩石を纏わせた棍棒を叩き付ける。効果抜群の岩タイプの技をモロに食らったソウブレイズは、アメジオの目前まで吹き飛ばされる。
「ソウブレイズ!?」
「ソ、ソウ……」
アメジオの呼び掛けに、ソウブレイズは立ち上がる。しかし流石にダメージが大きかったのか、あちこちに傷が目立ち、立ち上がった今でも肩を上下させ、荒い呼吸を繰り返している。
「オーガポン!このまま一気に決めるよ!」
「ぽにおっ!……ぽにっ!?」
イルマとオーガポンが更に気合いを入れたその時、ソウブレイズの体がひび割れるような亀裂が入り、体の表面から見えない何かが砕け散ったように四散すると、ソウブレイズの体から赤いオーラが沸き上がる。あの光は、ポケモンの能力が上昇した時に見えるものだ。
驚くイルマ達に対して、アメジオは口を開く。
「ソウブレイズの特性、“くだけるよろい”だ」
「ッ、隠れ特性…!」
特性とは、ポケモンごとに持っている特殊な能力で、いわゆるパッシブスキルの事だ。そして、極少数のポケモンが持つ、通常とは違う特性を持つ事を隠れ特性、または夢特性と呼ばれている。
一般的なソウブレイズの特性は相手の炎技を吸収する“もらいび”だが、少数のソウブレイズが持つ隠れ特性“くだけるよろい”は、物理技を受けると素早さが上がる特性だ。この特性の恩恵により、元々高いスピードを誇るソウブレイズは効果抜群の大ダメージを受けた代わりに更に速度を上げることとなってしまった。
ソウブレイズに唯一対抗できるオーガポンが物理技しか持たないとは言え、ソウブレイズの情報を調べることを怠ってしまった事を悔やむイルマ。ソウブレイズを拘束した時点で出し惜しみせずに弱点のタイプでテラスタルをすれば一撃で終わったかもしれないのに、オーガポンなら素の状態でも大丈夫だろうと使わなかったイルマの落ち度だ。
「…でも、“くだけるよろい”は、スピードが上昇する代わりに防御力が下がる特性、つまりソウブレイズは今はもう裸……物理耐久が低いなら、今度再びオーガポンの“ツタこんぼう”を食らえば、もう立つことは出来ないでしょうね」
「……確かに、今の防御力が下がっているソウブレイズがもう一度あの攻撃を食らえばタダでは済まないだろう。だがそれは無理な話だ」
しかし、“くだけるよろい”は単にスピードを上げる特性ではなく、防御力を下げる代わりに速さを得る特性であることは知識に入っていたイルマは、もう一度ソウブレイズの苦手なタイプでの“ツタこんぼう”を食らわせれば勝てると断言する。
それに対しアメジオは、負けるとまでは言わないものの、“ツタこんぼう”をもう一度受ければソウブレイズでも無事では済まないであろう事を認めるが、それは不可能だと返す。
「ソウブレイズ、“つじぎり”!」
「ソウッ!!」
「ぽにっ!?」
アメジオが指示を下した瞬間、剣を構えたソウブレイズの姿が消え、一瞬でオーガポンの懐に潜り込み、両腕の剣でオーガポンを切り裂いた。あまりのスピードにオーガポンは避けることが出来ず、イルマ達のもとまで吹き飛ばされる。
「オーガポン!?」
「ぽにぃっ!!」
イルマの呼び掛けにオーガポンは立ち上がりながら声を上げる。
(想像以上に速い…!)
先程よりも速くなっていることは予測していたが、そのスピードは想像以上だ。ソウブレイズの動きが全く見えなかった。アメジオが攻撃を当てることが不可能だといったのは、オーガポンとイルマがこのスピードに追い付くことが出来ないからということだ。
「“サイコカッター”!」
「避けて!」
「“むねんのつるぎ”!」
「ソウッ!」
「ぽにぃっ!?」
ソウブレイズが放った飛ぶ斬撃をオーガポンが避けた瞬間、上昇したスピードで回り込んだソウブレイズが炎を纏わせた両腕の剣をクロスさせ、オーガポンを✕字に切り裂いた。
「オーガポン、“ツタこんぼう”!」
「避けながら“むねんのつるぎ”!」
オーガポンは体勢を立て直して岩石を纏わせた棍棒を振るうが、ソウブレイズの超スピードを捉えることが出来ず、逆にソウブレイズが呪いの炎を纏わせた剣でオーガポンに斬撃を浴びせていく。オーガポンは岩タイプが追加されているため効果抜群にはなっていないが、剣で切られる度に生命エネルギーを吸い取られ、徐々に体力を削られる。一方で、オーガポンの体力を呪いの炎で吸収していくソウブレイズの体力が回復していく。
「とどめだ!“つじぎり”!!」
大きく後ろにとんでオーガポンの攻撃を避けたソウブレイズは、再び眼にも止まらぬ速さでオーガポンの目前に迫り、発光する剣でオーガポンを切り裂こうとしたその時……
「リザードン、“かえんほうしゃ”!」
「グォオオオッ!!」
「ブレッ!?」
真横から強力な炎がソウブレイズを襲い、効果は今一つとはいえ不意を突かれたソウブレイズは強制的にオーガポンから離される。
「イルマ、大丈夫か!?」
「フリードさん!」
声が聞こえてきた方を振り向くと、そこにはフリードとリザードンが立っていた。
「選手交代だ。俺達が相手をしようじゃないか」
「……いいだろう」
オーガポンをモンスターボールに戻したイルマ達の前に立ち、アメジオとソウブレイズに向かい合うフリードとリザードン。
第2ラウンドが開始されようとした、その時だった。
『ギャォオオオオオオオッ!!』
イルマとアメジオのバトル中にも聞こえてきた、あの禍々しい咆哮が響いた。一同は再び咆哮が聞こえてくるトンネルに視線を向けると、トンネルの奥から幾つかの影が飛び出してきた
「リコ!ロイ!」
最初に出てきたのは、トロッコに乗っているリコとロイ達。そして傷だらけのキャップが、レールの上を進んでいく。
同時にリコ達のトロッコを追うように巨大な影が飛び出した。
赤黒く燃え盛る炎のようなものに身を包んだ体に、鋭く睨んだ青い瞳に邪悪な笑みをたたえたようにひん曲がった大きな嘴を持った、非常に禍々しい姿をした鳥型のポケモンだった。
見たこともない禍々しいポケモンを目にして、人間もポケモンも関係なく、全員が驚いた表情でそのポケモンを見上げている。
そんな中、イルマは壁の爪痕と一致する造形のポケモンの右足に、スチームパンクチックな形状の球体──古のモンスターボールを挟まれている事に気付くと、まさかと思ってパルデア地方でサリバンから貰った手帳を取り出し、ページをパラパラと捲っていく。
「えっとえっと……ありました!あれは空を駆けるポケモン、ファイヤー(ガラルのすがた)!」
イルマがそのポケモン──【ファイヤー】を指差しながらその名を呼ぶ。
ファイヤーとは、【サンダー】【フリーザー】と並ぶ“三鳥”と呼ばれる伝説のポケモンの1体であり、赤黒いファイヤーはファイヤーがガラル地方の環境に応じて姿を変えたと言われているポケモンだ。
「六英雄の一体か……リザードン、“かえんほうしゃ”!!」
イルマの解説を聞きつつ、フリードはリザードンに指示を出し、リザードンはリコとロイを狙うファイヤーに向けて強力な炎を放つ。不意打ちを受けたファイヤーは炎の勢いで後退する。
「リザードン!!」
「グォッ!」
「えっ?うわぁっ!」
「もぶっ!?」
「ぶいっ!!」
「イ、イルマ!?」
炎を吐くのを止めた瞬間、リザードンはイルマを抱えて飛び、レールの上を走るトロッコの上にイルマ達を投げ、トロッコに打ち付けた部位の痛みに顔をしかめながらも立ち上がったイルマとポケモン達。
そしてトロッコに乗る面々は、ファイヤーと対峙するフリードとリザードンに眼を向ける。
「フリードッ!」
「先に行け!キャップを頼む!」
リコがフリードの名を呼ぶと、フリードは真剣な表情で答える。そうしている間にも、リコ達が乗るトロッコはレールの上を走り、ガラル鉱山の出口へと向かっていく。
リコ達の背中を外の光が照らした瞬間、トンネルの奥からファイヤーの咆哮が響き、天井が轟音を立てながら崩れ始めていった。
「フリード…!フリードォッ!!」
瓦礫に塞がれたトンネルの向こう側にいるフリードの名を叫びながら、リコ達の乗るトロッコはガラル鉱山の外に走り抜けていった。
ガラル鉱山でアメジオとバトルすることは決めていましたが、この時点で勝つのはやり過ぎてるかなと思い、劣性に追いやられた末にフリードと交代、ガラルファイヤー乱入という流れにしました。
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