魔入りました!入間くん if Episode of ポケットモンスター   作:MTHR

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今回もまたほぼ原作通りです。


37話 鎮まれ、燃え上がる怒り

 黒いレックウザを探してガラル鉱山へとやって来たリコ、ロイ、イルマ、フリード。

 洞窟内でちょっとしたアクシデントが起きたことで、リコとロイ、イルマ、フリードは洞窟内ではぐれてしまい、リコとロイを探して洞窟をさ迷った末にイルマが発見したのは、レックウザのものとは違う、巨大な鳥ポケモンの爪痕であった。

 続いてやって来たエクスプローラーズの幹部アメジオとイルマがバトルをして、劣性に追い込まれたオーガポンとイルマをフリード達が助けてくれた直後、洞窟から現れたのは、リコとロイを追いかける、レックウザと同じ六英雄と呼ばれるポケモン──【ファイヤー(ガラルのすがた)】だった。

 

 フリードはイルマ達を逃がすためにファイヤーと対峙し、イルマ達が乗るトロッコが外へと走るなか、フリードを残して、外へと続くトンネルが破壊されてしまったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ガラル鉱山を出たイルマ達が真っ先に向かったのは、エンジンシティのポケモンセンターだった。

 オスとメスの【イエッサン】が運んでくるカートの上には、ファイヤーとの戦いで傷を負ったニャオハとホゲータ、そしてファイヤーに襲われたリコ達を守るためにファイヤーに立ち向かい負傷していたキャップが乗っている。イエッサン達の後ろで歩いているジョーイさんの隣では、アメジオのソウブレイズに傷を負わされたオーガポンもいる。

 

「お預かりしたポケモン達は、すっかり元気になりましたよ」

「ニャオハッ!」

「ニャオハ!」

「ホゲー!」

「ホゲータ!」

「ぽにおーっ!」

「オーガポン、よかった元気になって……」

 

 リコ達は全快した自身のポケモン達のよう素に笑顔を浮かべ、適切な治療を施してくれたジョーイさんに揃って「ありがとう」とお礼を言う。

 

「キャップもよかった」

「ピカチュー……ピカ」

 

 安堵の表情を浮かべるリコに普段のように威風堂々と腕を組みながら「もう大丈夫だ」と言うように鳴いたキャップは、次いでポケモンセンターの入り口に顔を向ける。リコ達もつられて入り口に顔を向けた。

 

「フリード!無事だったんだね!」

「三人とも、怪我はないか!?」

「うん!」

「私たちは大丈夫!」

「オーガポン達もこの通り!」

 

 入り口から入ってきたのは、フリードと傷だらけのリザードンだった。崩れ落ちた壁の向こうに消えた仲間が無事たったと知り、リコ達は心の底から安堵し、キャップは嬉しそうにフリードの肩に飛び乗った。

 

「キャップもナイスガッツだった!」

「ピーカチュウ!」

「ガウゥッ!」

「ピカピーカ!」

「リザードンもありがとう!」

「ガウッ!……ガウッ」

 

 キャップやロイにサムズアップを送るリザードンだったが、勢いよく腕を上げた途端、肩に走る痛みにより肩を抑えて呻き声を上げる。

 

「次はコイツの手当て、お願いします」

「はい。お任せください」

 

 ジョーイさんの快諾と共に、リザードンはイエッサン達に支えられながら治療室へと向かっていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 数時間後、リザードンの治療も終わり、リコ達はエンジンシティの広場のベンチに腰を下ろしていた。直ぐ側では、ニャオハやリザードン達が美味しそうに木の実を頬張っている。

 

「いやぁ~、とんでもない奴だったなぁ」

「リザードンでも敵わなかったんだ……」

「僕はその時アメジオと戦ったから相手の強さが良く分からないんだよね……ファイヤーはどうだったの?」

「マジ強い」

「半端なかったな」

「全然説明になってない……」

 

 余りにもざっくりしすぎているロイとフリードの説明にイルマが頬をひきつらせる中、リコはフリードの顔をジーッと見つめている。

 

「…?どうした、リコ?」

「……なんだか楽しそう」

「へへッ、自分より強い奴がいるってのは、ワクワクするもんだ。こっちがまだまだ成長できる証だからな!」

「成長……」

「カブさんも言ってたね!失敗から学ぶ事もあるって!」

 

 そこまで話し合ったところで、フリードは話の内容を、ガラル鉱山に潜んでいたポケモン──ファイヤーの話に切り替える。

 

「それで、あのポケモン……ファイヤーの事だが……」

「ポケモンセンターでイルマから聞いた。六英雄の一体で、ファイヤーのリージョンフォームだって」

「ガラルのファイヤー……ガラルファイヤーか!」

「六英雄の一体である以上、放っておけないよな……」

「でも、あのガラルファイヤー、相当怒ってたよ。ガラルファイヤーの“もえあがるいかり”を浴びると無気力状態にされるらしいし、ガラルファイヤーは怒ると手がつけられないって言われてる。無策で戦っても結果は目に見えてると思う」

「あんなに強い上に、怒ると手がつけられないなんて……、どうやって勝てばいいんだ!?」

「……何で怒ってるんだろう?」

「え?」

 

 リコが呟いた言葉に、ロイだけでなくフリードとイルマもどういう事だと問う様にリコを見る。リコは、フードの中のミブリムを見ながらその言葉の理由を話す。

 

「……ガラルファイヤーに襲われた時、ミブリムが…、ガラルファイヤーを見て泣いてた。ただ怒ってるだけじゃないのかも」

「そっか。ミブリムは生き物の気持ちをキャッチするポケモンだもんね」

「怒りの奥に、何かを感じ取ったのか……とはいえ、どうしたものか……」

 

 ガラルファイヤーが暴れているのには何か訳があるかもしれないと分かっても、フリードのリザードンですら手も足も出ない相手を抑えるのには、やはり何か考えが必要である。

 

「ホゲータが、アイツに負けないくらいの“かえんほうしゃ”を出せば……」

「ホッゲー!」

「……勝てるかな…?」

「カブさんが言ってた。『戦うだけが、トレーナーの道とは限らない』って」

「なる程、倒すんじゃなくて落ち着かせるのか……」

「でも、どうすれば……」

「うーん……師匠のジュナイパーなら、“かげぬい”でガラルファイヤーを止められるんじゃないですか?」

「確かに動きは止められるかもしれないが……動きを止めただけじゃあ、ガラルファイヤーの怒りは収まらないだろう。余計に怒らせるかもしれない」

 

 そこまで話し合っていた時、カイデンがホゲータが食べようとした木の実を横取りしようとして、ホゲータは慌ててそれを奪い返す。しかしカイデンはなおも木の実を奪い取ろうとしてホゲータの頭をつつき始める。モクローとオーガポンが二人を無理矢理2体を引き剥がし、騒ぎを聞いたロイも喧嘩をするなと呼び掛けるか、2体とも聞き入れずに木の実を取り合って喧嘩を始める。

 その時、二人の間から飛び出した木の実が昼寝をしていたニャオハの前に転がり落ち、ホゲータが木の実に飛び付こうとすると、目を醒ましたニャオハが前足でそれを止めた。そのままホゲータの頭を肉球で軽く叩いていると、ニャオハの肉球から甘い香りが発せられる。

 その時、リコ達はニャオハのアロマを嗅いだホゲータとカイデンの表情が柔らかくなって荒ぶっていた気持ちが安らいでいるのを見て、頭の電球がピカッと光った。

 

「「「「これだ!!」」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そうして、ガラルファイヤーを落ち着かせる策を得たリコ達は、再びガラル鉱山の入り口にやって来た。

 ガラルファイヤーが潜む入り口を見て緊張するリコ達に「リラックスしていこう」と安心させるフリードの隣に立つ小柄な女性はキャンディーを加えながらガラル鉱山に目を向ける。

 

「……そんで、この先にいんのか?そのガラルファイヤーってのは」

「ジュナ」

「あぁ、ガラルファイヤーを落ち着けるためには、ジュナイパーにも一役買ってもらわないといけないからな」

 

 スマホロトムでフリードから連絡を受けて駆けつけたバチコとジュナイパー。落ち着かせるのが目的とはいえ、フリードでさえ手も足も出せなかったポケモンの相手をするのだ。戦力は多いに越した事はないし、ジュナイパーはこう言った場面に向いている。

 

 リコ達は決意を固めて、再びガラル鉱山に突入する。

 しばらく歩いていると、リコ達の前に、大量の爪痕が刻まれた錯乱した瓦礫の山が目に入る。その爪痕はイルマにとっては見覚えがあるものだ。

 

「これは……後を辿るぞ」

 

 フリードに促され、リコ達は瓦礫の合間を通りながら更に奥へと進んでいく。

 

「いいか、皆。ガラルファイヤーの“もえあがるいかり”が来たら、迷わず逃げろ」

「浴びると動けなくなる技だもんね。浴びたらそれで僕達ゲームオーバーだよ」

「……ッ、思い出しただけで……いや、気持ちで負けるもんか!気合いだホゲータ!」

「ホンゲッ!」

 

 ロイとホゲータは自分達を鼓舞するように歌い、その歌をBGMに奥へと進んでいく。しばらく進んでいると、トンネルの暗闇の向こうから、禍々しい方向が轟いた。

 

『ギャオオオオオオッ!!』

 

「……ッ、怒りはまだ収まっていないようだな……」

「ピーカ」

 

 フリードがそう呟きながら、メンバーは洞窟を進み、大きく広がった場所にたどり着く。

 そして目前に現れたのは、ギロリと鋭い目でリコ達を睨むガラルファイヤーだった。

 

「リザードン、出番だ!行けッ!」

「ピカチューッ!」

「リザァッ!」

「モクロー、オーガポン、お願い!」

「もふぅ!」

「ぽにぃっ!」

「チルタリス、行け!」

「チルーッ!」

 

 フリードがモンスターボールからリザードンを繰り出し、キャップも船長帽を脱いで前に出る。イルマもモクローとオーガポンを前にだし、バチコはチルタリスを繰り出す。

 

「先ずはジュナイパーの“かげぬい”で動きを止める!ロイ、俺達で隙を作るぞ!」

「わかった!ホゲータ!」

「ホンゲッ!」

「「“かえんほうしゃ”!」」

 

 リザードンとホゲータが、同時に強力な炎を吐き、二つの炎がガラルファイヤーを狙う。しかし、ガラルファイヤーはスッと横に逸れるだけでその炎をかわし、空振りになった炎が壁にぶつかり爆発を起こす。

 

「チルタリス、オーガポンを乗せて飛べ!」

「チルッ!」

「オーガポン、礎の面を被ってチルタリスに乗って!」

「ぽにぃっ!」

「リザードン、お前もホゲータを乗せて飛べ!」

「リザッ!」

「ホゲッ!」

 

 トレーナーの指示通り、チルタリスはいしずえのめんにチェンジしたオーガポンを、リザードンはホゲータを乗せ、ガラルファイヤーに突撃する。

 

「チルタリス、“チャームボイス”!」

「オーガポン、“ツタこんぼう”を投げて!」

「「“かえんほうしゃ”」」

 

 チルタリスは美しい音波を、リザードンとホゲータは再び強烈な炎を放ち、オーガポンは岩石を纏わせた棍棒をハンマー投げのように投げ放つ。

 

『ギャオオオオオオッ!!』

 

 それに対し、ガラルファイヤーは翼を羽ばたかせて“ぼうふつ”を放つ。

 並のポケモンが放つものとは比べ物にならない風の暴力を前に、音波と炎と棍棒はアッサリと吹き飛ばされる。リザードンとチルタリスはその機動力を活かして風を避け、オーガポンは吹き飛ばされた棍棒を“つるのムチ”で回収する。

 

「今だ、バチコ!」

「わーってるよ!ジュナイパー、“かげぬい”!」

「ジュナッ!」

 

 技を放つことでガラルファイヤーの動きが止まった事を察知したフリードが叫び、バチコがジュナイパーに指示を出すと、ジュナイパーは矢羽をセットし、それをガラルファイヤーの影に向けてうち放つ。

 

『ギャオッ!?』

 

 ガラルファイヤーの影を矢羽が縫い付けると、ガラルファイヤーはその場で縫い止められ、移動がくなってしまう。それを見たリコはニャオハの名を呼び、ニャオハがガラルファイヤーの前に立った。

 

「ニャオハ!」

「ニャアッ!」

 

 ニャオハが地面で肉球をフミフミすると、甘い香りのアロマが放出される。

 

「“このは”!!」

「ニャーーーーッ!!」

 

 直ぐ様ニャオハは膨大な葉にアロマを乗せ、それをガラルファイヤーに向けて一気に発射する。

 ガラルファイヤーを落ち着かせる為の策。それはニャオハの“このは”にアロマを乗せ、それを嗅がせる事でガラルファイヤーの怒りを鎮めようというものだった。だが、荒れ狂うガラルファイヤーが暴れては溜まらないため、こうしてガラルファイヤーの動きを止められるバチコを呼び寄せたのだ。

 

 甘い香りを纏った木の葉の嵐が、“かげぬい”で避けられなくなったガラルファイヤーを包み込み、ガラルファイヤーの視界が一瞬だけ緑色に染められる。しかし、次の瞬間、洞窟にガラルファイヤーの咆哮が轟いた。

 

『ギャオオオオオオッ!!』

 

 ガラルファイヤーが翼を広げると、凄まじい突風が巻き起こり、ガラルファイヤーの影を縫い止めていた矢羽が吹き飛ばされる。同時に、ニャオハの“このは”が風に吹き飛ばされ、地面にヒラヒラと舞い落ちて消失する。

 

「えっ、届かない……」

「パワーが足りないか…!」

「しかも、力業で“かげぬい”を吹き飛ばしやがった。マジで桁外れだな……」

「それなら……モクロー、ニャオハを乗せてガラルファイヤーに近付ける?」

「もふぅ!」

 

 「任せろ!」というように頷いたモクローは、ニャオハの前に立つ。イルマとモクローの意図を察したリコはニャオハを指示を出し、ニャオハはモクローの背中におぶさるように乗る。

 

「モクロー、飛んで!」

「バチコ、ロイ、俺達でガラルファイヤーの注意を引き付けるぞ!リザードン、“かえんほうしゃ”!」

「ジュナイパー、“リーフブレード”!チルタリスは“りゅうのはどう”だ!」

「ホゲータ、“かえんほうしゃ”!」

 

 自身の三倍近い体重を持つニャオハを乗せながら飛翔するモクローに、フリード達がガラルファイヤーの注意をモクローとニャオハからこちらに向けるために指示を出し、ホゲータとリザードンは炎を、チルタリスは紫の波動を吐き出す。

 次々と襲い掛かる強力な攻撃を前に、ガラルファイヤーはモクローとニャオハを意識から外し、飛び回りながらそれを避け続ける。その間にも、ニャオハを乗せたモクローは一切の音を立てず、確実にガラルファイヤーの距離を積めていく。

 

 そんな中、ガラルファイヤーが攻撃を避ける方向に回り込んでいたジュナイパーが緑の刃でガラルファイヤーを切り裂く。飛行タイプを持つゆえに威力は半減しているが、その刃はガラルファイヤーに痛みを与えて動きを止めるには十分な威力を持っていた。

 

「リコ、今だよ!」

「ニャオハ、“このは”!!」

「ニャオハーーーーッ!!」

 

 ニャオハはモクローの頭で前足をフミフミし、再びアロマを乗せた“このは”の嵐を放つ。

 

『ギャオオオオオオッ!!』

「ニャーッ!?」

「もふぅーー!?」

「ニャオハ!?」

「モクロー!!」

 

 しかし、今度は“このは”が到達するより前にガラルファイヤーが“ぼうふう”を放ち、竜巻で木の葉を掻き消した。更にその竜巻はニャオハとモクローも巻き込み、2体を吹き飛ばす。地面に叩きつけられそうになった2体をチルタリスが背中でキャッチする。

 

『ギャオオオオオオッ!!』

「……お願い!落ち着いて!」

 

 再び怒りの籠った咆哮を上げるガラルファイヤーに、リコは歩み寄り、オリーヴァが入っている古のモンスターボールを見せながら呼び掛ける。

 

「私達は貴方の敵じゃない!あなたと同じ、このモンスターボールを持ってるの!」

「僕達も、レックウザと会ったんだ!」

「害を加えるつもりはない!話がしたいんだ!」

『ギャオオオオオオッ!!』

 

 ロイとイルマも並んでガラルファイヤーに呼び掛けるが、ガラルファイヤーは聞く耳を持たない。煩わしいと言わんばかりに翼を羽ばたかせ、風を起こす。風により土煙や小石の欠片が巻き上げられる。

 

「どうして怒ってるの!?」

 

 それでも、リコはガラルファイヤーに語り掛けることを止めない。

 ガラルファイヤーはそれすら聞く気はないのか、咆哮を上げ、身体から赤黒い炎のようなオーラが噴き出した。

 

「ッ!!」

「“もえあがるいかり”が来る!逃げろ!」

 

 それを受けたことのあるリコ、ロイ、フリードが顔を強張らせ、無気力状態にされれば一巻の終わりだと一目散に逃げていき、近くの岩影に隠れる

 

「ホゲ!」

「ホゲータ!!」

 

 しかし、途中でホゲータが転んでしまい、ロイが慌ててホゲータを起こす。その合間に、“もえあがるいかり”の炎がロイを包み込もうとする。

 

「ピカチュー!ピカピカピカピカ……ピッカーーッ!」

『ギャオッ!?』

 

 それを見たキャップが岩影から飛び出し、走りながら身体に電気を纏わせ、必殺の“ボルテッカー”をガラルファイヤーに御見舞いする。技を放つ途中で効果抜群の技を受けたガラルファイヤーは強制的に技を中断させられる。

 

「大丈夫か!?」

「ピカチュー……」

 

 爆発の中から、地面を滑りながらリコ達の目前に着地するキャップ。しかし“ボルテッカー”の反動と爆発の影響で、キャップは少なくないダメージを負っている。対して、ガラルファイヤーは平然とした様子で滞空したままだ。

 それを見たリコは、決然とした表情でガラルファイヤーの前に走り出す。

 

「教えてガラルファイヤー!!」

「リコ!今は退くんだ!!」

 

 フリードが後ろから呼び掛けるも、リコは一歩も退かない。

 

「私は知りたい!貴方の気持ちを!!」

「ニャッ!」

『ギャオオオオオオッ!!』

「ッ!!」

「リコッ!!」

 

 ガラルファイヤーが咆哮を上げ、“エアスラッシュ”を放とうと羽を発光させる。リコが前に立っていたニャオハを庇うように覆い被さる姿を見たイルマは顔を青くして飛び出そうとする。

 その時、リコが持っていた古のモンスターボールが浮遊し、独りでに開く。中から飛び出した黄金の光が、リコ達とガラルファイヤーの間で降り立ち、巨大なポケモンが姿を現した。

 

『キーーヴァッ!』

「オリーヴァ……ペンダントまで……どういう事なの!?」

 

 パルデア地方で同行するようになってくれた六英雄の1体──【オリーヴァ】は、対峙するガラルファイヤーに語り掛けるように鳴き声を上げる。オリーヴァの出陣に共鳴するように、リコのペンダントが淡い光を放つ。

 

『キーヴァ……』

『ギャオ……』

「同じ六英雄……話し合ってるの…!?」

「オリーヴァ!」

 

 オリーヴァの姿を見たガラルファイヤーが、先程のような荒ぶりが少しだけ大人しくなり、オリーヴァの鳴き声に返答するような唸り声を上げるのを見てイルマが呟き、ロイがオリーヴァにガラルファイヤーの説得を任せる。

 

『……ギャオォオオオオッッ!!』

 

 しかし、次の瞬間ガラルファイヤーは咆哮を上げ、オリーヴァに“エアスラッシュ”を撃ち放つ。オリーヴァは交差した腕でそれを防ぐが、効果抜群の技にして同じ六英雄の破格の攻撃により数歩後退する。

 

「聞く耳持たずか…!」

「こんなの…、どうやって戦えば…!!」

 

 仲間である筈のオリーヴァの言葉すら聞き入れない、常識を逸したポケモンを前に、ロイもホゲータも戦意を失い掛ける。

 そんな彼に、リコは語り掛けた。

 

「……落ち着いて、ロイ!」

 

 ロイに語り掛けるリコの脳裏に浮かぶのは、雨に濡れながらも疲労したミブリムを船までは運ぼうと走り続けた時の記憶。

 

「……戦うだけじゃない。戦うだけがトレーナーじゃない。ポケモンの気持ちを知って…、思いやれる。それが、私の……、」

 

 リコはガラルファイヤーを見上げ、決然とした表情で、己の思いを口にする。

 

「私の目指す、ポケモントレーナー!」

 

 リコの言葉に応えるように、リコを見下ろしていたオリーヴァが大きな鳴き声を上げる。同時に、オリーヴァの身体から緑色の光が溢れだし、その光が地面を伝う。

 同時に、ニャオハ・モクロー・オーガポン・ジュナイパーが、その光に力を与えられたように緑色に発光し、キャップや傷を負っていたポケモン達の傷がみるみると消えていく。

 

「“グラスフィールド”か……くさタイプの力が上がってる!」

「ホゲータが元気になった!」

「行けるよね、ニャオハ!」

「ニャオハッ!」

 

 光を纏うニャオハは、岩の上に立ち、ガラルファイヤーを見据える。

 

「“このは”!!」

「ニャオハーーッ!!」

 

 前足を高速でフミフミして発生させたアロマを乗せた木の葉の嵐が、ガラルファイヤーを包み込む。その莫大な量に、流石のガラルファイヤーも僅かに怯むが、翼を羽ばたかせる事で突風を起こし、木の葉を押し返す。

 

「諦めない!もっと“このは”!」

「ニャーーーーッ!!」

 

 ニャオハが追加で“このは”を放つ。だがガラルファイヤーは再び翼を羽ばたかせ、巻き起こした風で木の葉を吹き飛ばす。その時、舞い落ちる“このは”を見たフリードが、ハッと目を見開いた。

 

「そうか!ロイ、イルマ、バチコ!ニャオハの“このは”を無駄にはさせるな!鳥ポケモン達の翼で、落ちた木の葉に向かって風を起こすんだ」

「分かった!カイデン!」

「デカッ!カイカイカイカーイ!」

「リザードン!俺達も行くぞ!」

「リザァッ!」

「ジュナイパー、チルタリス。行け!」

「ジュナッ!」

「チルッ!」

「“このは”がよみがえった!」

 

 ロイがボールから出したカイデン、リザードン、ジュナイパー、チルタリスが、各々の持つ翼を大きく羽ばたかせて風を起こすと、地面に落とされた“このは”が風に乗り、ガラルファイヤーを包み込む。

 

「よし、僕達も……ッ!?」

 

 そこへイルマもモクローに“このは”の復活に参加するよう指示を出そうとした瞬間、ガラルファイヤーは交差した翼を一気に開いて“エアスラッシュ”を放つのを捉え、直ぐ様ポケモン達に指示を出す。

 

「オーガポン、“ツタこんぼう”でニャオハを守って!」

「キャップも“かみなりパンチ”だ!」

 

 岩石を棍棒に纏わせたオーガポンと、拳に雷を纏うキャップが、ニャオハに迫り来る。風の刃郡を打ち落とす。

 

「モクロー、ガラルファイヤーに近付いて!」

「はぁっ!?」

 

 モクローは“このは”に身を隠しながらまだ怒りが収まっていないガラルファイヤーの周りを旋回し、距離を積めていく。

 

(ギリギリまで近付いて、“おどろかす”で隙を作る!)

 

 イルマの狙いは、“おどろかす”による追加効果、怯み状態。この規格外の大きさの相手に状態異常が見込めるかどうかは正直賭けだが、やるしかない。

 だがその瞬間、ガラルファイヤーが“このは”に身を隠していたモクローを睨み付ける。

 

「気付かれた!」

「モクロー逃げて!」

 

 イルマが指示を飛ばすも、ガラルファイヤーは翼を発光させ、“エアスラッシュ”を放とうとしている。モクロー絶体絶命と思われる、その時だった。

 

「もーふぅ……もふぅ!」

『もふぅ!』『もふぅ!』『もふぅ!』『もふぅ!』『もふぅ!』『もふぅ!』『もふぅ!』『もふぅ!』

 

「モクローが増えた!?」

「“かげぶんしん”だ……」

 

 ガラルファイヤーの周囲に、無数のモクローが現れる。

 同時に、モクロー達はガラルファイヤーの周囲を飛び回る。“このは”郡が視界を邪魔していることも重なり、ガラルファイヤーはどれが本物か分からなくなり、翻弄される。

 

「今だニャオハ!仕上げの……“このは”いっぱい!!!

「ニャオハーーーーッ!!」

 

 モクローの分身達に翻弄されていたガラルファイヤーに、木の葉の嵐が直撃する。飛行タイプを持つゆえにダメージにはならないが、その量と勢いにガラルファイヤーも押され気味になり、洞窟内にニャオハのアロマが充満する。その香りに、ロイやイルマ達は思わず顔を綻ばせる。

 

『……ギャオ…』

 

 そして、しばらくの間“このは”に包まれていたガラルファイヤーは、自身を包み込む甘い匂いを嗅いでいる内に、鋭く殺意すら籠っているような目元を和らげていき、ゆっくりとリコの前に降り立った。

 リコがガラルファイヤーを見上げながらゆっくりと歩み寄ると、首元のペンダントが淡い光を放ち、ガラルファイヤーは優しい声色で鳴き声を上げる。

 

「リコに喋ってる……?」

「いや、たぶん違うと思う……」

「もしかして……この子に?」

 

 リコがペンダントを手に乗せた瞬間、ペンダントから発せられていた光がより一層強くなり、紐が外れてリコの首から離れると、そのペンダントが巨大化し、手足や頭が生えてくる。

 

「パーゴ!」

 

 そうして現れたのは、セキエイ学園やオリーヴァの森でも見た、藍色の亀のようなポケモンだった。

 亀のポケモンとガラルファイヤーは、互いに鳴き声を交わし、何かを話している。しばらくのその会話が続いていたかと思うと、ガラルファイヤーは天井に顔を向けながら大きく鳴き、悲しそうに目を閉じると、辺りが霧に包まれる。更に、ガラルファイヤーの悲しみを表したかのように、洞窟内に雨が降り出した。

 

「これって、確か……」

「オリーヴァの時と同じ…!」

 

 リコ達のその状況に困惑していると、霧の奥に何かを見つけ、一同はそれに注目する。

 

 一つは、最早見慣れたガラルファイヤー。しかし、4m近くあった巨体はリザードンより一回り大きい程まで縮んでいる。

 もう一つは、黒いローブを着込み、フードを被った人物だった。その人物に、リコ・イルマ・ロイの三人は見覚えがあった。オリーヴァが見せてくれた幻覚に出てきた人物だ。

 

「あれは…!?」

「古の冒険者、ルシアス……!?」

 

 ガラルファイヤーはフードの人物──【ルシアス】に顔を寄せると、ルシアスはガラルファイヤーの頭を優しく撫でる。

 ルシアスとガラルファイヤーは互いに額を当て、ルシアスはガラルファイヤーに優しく語り掛ける。

 

 ……ファイヤー

 

 このラクアは必ず……、俺達が…

 

「……ラクア?」

「パゴォォッ!!」

 

 ルシアスが呟いた単語をリコが復唱した瞬間、亀のポケモンが大きく鳴き声を上げ、辺りを包んでいた霧がそのポケモンに吸い込まれていく。光が完全に吸い込まれたと同時に、霧も雨も、ルシアスの姿も完全に消え去っていった。

 

「何だったんだ…!?」

「ラクアって言ってたけど……」

「……フリード、何か知ってるか?」

「分からない。俺にも見当がつかない……」

「『必ず俺達が』とも言ってたけど……」

 

 その時、ガラルファイヤーが大きく鳴き、バサバサと翼を羽ばたかせてリコ達の前で滞空する。

 まだ怒っているのかとロイが身構えた時、ガラルファイヤーは足の指で挟んでいた古のモンスターボールを離して地面に落とすと、赤い光と共にガラルファイヤーはボールに吸い込まれていく。

 

『……キーーヴァッ!』

 

 同時に、オリーヴァも一際大きな声を上げると、目の前に浮遊する古のモンスターボールに吸い込まれ、ガラルファイヤーのボールの隣に落下した。リコは、2つの古のモンスターボールを拾い上げる。

 

「……一緒に、来てくれるのかな……?」

「そういうことだな!」

「これで、ルシアスのポケモンは二体目か……」

「結局、何であんなに怒ってたのかな?」

 

 ロイの呟いた疑問に、リコはガラルファイヤーのボールを見つめながら、自分が思い浮かんだその答えを口にする。

 

「この子には、強い願いがあるんだと思う。……いつか、いつかそれも分かって上げたい。それにね、心優しい所もあるのかも」

「ええ?ガラルファイヤーが?」

「何となく私はそう感じた。そうだと言いなと思って!」

 

 リコの言葉を聞き、フリードとキャップ、そしてバチコは互いの顔を見合わせ、笑みを浮かべる。

 

「(本当の事は分からない。けど、少しでも、ポケモンの気持ちに寄り添えたら……)ニャオハ、頑張ってくれてありがとう!」

「ニャ~!」

「ホゲータとカイデンもカッコ良かったぞ~!」

「ホゲゲ!」

「デカ!」

「二人もありがとう。オーガポンもよくやってくれたし、モクローも新しい技を覚えられるなんて凄いよ!」

「もふっ!」

「ぽに~♪」

「あぁ、皆のお陰だ!」

イルマ(バカ弟子)は無茶しすぎだけどな。ガラルファイヤーに突っ込むなんて。万が一やられてたらどーすんだか……」

「ウグッ、すみません……」

 

 バチコの厳しい言葉に、イルマは反論できずにガッカリと肩を落とす。その時、リコがあることに気付いて慌て始める。

 

「あ、あれ?ペンダントの子がいない!?さっきまでそこに……」

 

 慌てるリコにフリードが「落ち着け」と宥めた瞬間、イーブイの耳がピクッと動き、リコのフードにいたミブリムと共に鞄から飛び出すと、2体は近くの岩場に向かって走り出す。岩の天辺にたどり着いたところで、ミブリムは気絶するように身体を仰向けに倒れさせ、イーブイが慌てて帽子のような部分を咥えて転がり落ちるのを阻止する。

 リコ達がミブリム達の元まで駆け寄り、強い感情をキャッチしすぎて疲れてしまった様子のミブリムをリコがモンスターボールに戻した瞬間、岩の影から、無邪気な笑みを浮かべながら例の亀ポケモンがヒョッコリと顔を出した。

 

 その笑顔にリコやイルマ達が安堵のため息を吐くと同時に視線を下にやっていたイルマはあることに気付く。

 

「リコ!その脚、血が……」

「えっ?」

 

 そう言われたリコがしゃがんで脚を確認してみると、確かに左足が軽く切れて、血が滲んでいた。ロイ達もそれに気付いたようで、心配そうき覗き込む。

 

「ホントだ!血が出てる!」

「ガラルファイヤーとの戦いで切っちまったのか?」

「急いで船に戻って治療を……立てる?」

「いや、これくらい……」

 

 『平気だ』と言おうとしたところで、リコは言葉が止まる。確かに傷はイルマに言われるまで気付かなかった程浅く、放っておけばバイ菌が入るかもしれないが、動くのには何の支障もない。

 ……でも。

 

「あの、イルマ……」

「?」

「……動けないって言ったら、運んでくれる?」

 

 思わず、そんな言葉が出てきてしまった。

 だが、すぐに自分がとんでもない事を口走った事に気付き、途端に顔を赤くして俯いた。こんな状況で何を言っているんだと自分を殴りたくなる。

 

「いやッ、今のは忘れ……」

「わかった!」

「……へっ?」

 

 咄嗟にその言葉を取り消そうとした瞬間、イルマは手で胸を叩きながらハッキリと答える

 

「これでも、船での仕事や師匠のパシリで、腕力には自身があるから!」

「おい」

 

 サラッとディスられたバチコのツッコミを無視して、イルマはリコの背中と膝の裏に手を回し、彼女をお姫様のように抱き上げた。

 

「ちょっと恥ずかしいけど、しっかり支えるから!」

「~~~ッ!!」

 

 頬を赤く染め、緊張しているようで、頼もしい顔でそう言う。背中から伝わるイルマの手の体温とその顔に、リコは思わず顔を手で覆う。

 鏡を見なくても、自分の顔がガラルファイヤーの炎よりも赤くなっている事を自覚し、イルマの顔を直視できない。しかし、同時に感じる喜びの感情に、自然と顔がにやけてしまう。こんな顔、イルマに見せられない。

 

「……な、なんか、見てるこっちが恥ずかしい……」

「ホンゲッ」

「さっきまで普通の空気だったのに、一瞬で桃色に変わったな……」

「天然って恐ろしいなー……」

「ピーカ……」

「……ジュナ」

「……もっふ」

「ニャー」

 

 和やかな空気から一瞬でピンクに染まった空気に当てられたロイは此方が恥ずかしくなり、フリードとバチコ、そして2人のポケモン達は揃って苦笑い。

 桃色空間の創造者である2人のパートナーは、「一歩前進だな」「そうだね」というように鳴き、翼と肉球でハイタッチ。

 

 そうしている間にも、リコをお姫様抱っこしたイルマはトンネルの前まで進んでいる事に気付き、フリードは亀のポケモンを自身のフライトジャケットで包み込み、仲間達を促して、ガラルファイヤーの爪痕があちこちに刻まれた洞窟を後にした。

 

 道中、入り口付近で出くわしたカブさんにお姫様抱っこを見られたリコが大慌てでイルマに下ろしてと言うがイルマが心配だから下ろさないと反論し、バチコが溜め息を吐きながらチルタリスにリコを乗せてやると言う出来事がありながらも、リコ達はブレイブアサギ号へと戻っていくのだった。




お姫様抱っこのシーンは魔入間94話『夢見るデート』のオマージュです。

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