魔入りました!入間くん if Episode of ポケットモンスター 作:MTHR
今回はなんと、GREEN GREENSさんが執筆をしている『彼方楽園のマルスプミラ』とコラボとなります!
不思議な空間に迷い混んだイルマくんとリコが、同じく迷い混んだ彼方楽園のマルスプミラの主人公リン君と、マルスプミラに登場するリコと邂逅するお話です。
前後編二つで分けており、後編は彼方楽園のマルスプミラに掲載されます。
尚、この話の時系列はお互いに古城での再開の直前の事になっている為、彼方楽園のマルスプミラのネタバレにもなるかもしれないので、ネタバレが嫌だと言う方はご注意ください。
コラボしている作品を知らないと言う方は、こちらから先に是非読んでみてください。とても面白く、私も日々の楽しみとして読ませていただいているのでオススメです。
https://syosetu.org/novel/327100/
※2024年6月30日 彼方楽園のマルスプミラのキルリアの性格が変更になった為、口調が変わっております。
「んッ……う~ん……」
「もふもふ!」
「ぽにっ!」
「ぶいっ!」
「あっ、皆おはよ……って、んっ!?」
瞼の奥から眼球に届く光で、イルマは目を覚ます。仰向けになっていた身体を起こし、自身のポケモンであるモクローとオーガポン、そしてイルマが保護をしているイーブイが自身に駆け寄ってくる。
そんな彼等に挨拶をしようとしたイルマは周りの景色を見て、パチクリと目を瞬かせる。
「ここ……何処おっ!?」
イルマがいたのは、何もない空間だったのだ。
空には雲が漂う青空が広がり、足元には鏡のように青空を映すことで空と同じ色になっている地面が何処までも地平線のように続いている。
顔を強張らせてブンブンと首を振りながら混乱していると、「ニャーニャー」という聞き馴染みのある鳴き声が聞こえてきてその声がした方を見てみると、自分の直ぐ隣で倒れている幼馴染みと、彼女のポケモン達の姿があった。
「リコッ!?」
イルマは血相を変えて横になっているリコの上半身を抱き上げ、呼び掛ける。
「リコ!起きて!」
「んっ……んんっ……って、イルマ!?」
イルマの呼び掛けに、リコは目を覚ます。そして、至近距離にある幼馴染みの顔が目に入り、続いて自分の背中に彼の腕が回されていることに気付き、途端に顔を真っ赤に沸騰させると、反発する磁石のようにイルマから離れる。
「ニャオハッ!」
「ミッ、ミーッ!」
「パーゴ!」
「ニャオハ、それにミブリム……って、何ここっ!?」
ニャオハとミブリムが目を覚ましたリコに飛び付き、リコのペンダントから変身した宝石のような甲羅に藍色の身体をした亀ポケモンが嬉しそうに鳴き声を上げる。
リコは2体を抱き止めながらも、イルマと同様に周りの景色に気付き、目を見開いて辺りを見渡す。
「イ、イルマ……私達、確かお婆ちゃんのいる古城を目指しているところだったよね…?」
「うん。その筈だけど……」
ガラル鉱山でガラルファイヤーとひと悶着あった翌日、リコとイルマはロイとフリードと共にガラルに来た本来の目的であるリコの祖母がいる古城を目指して、エンジンシティ駅から電車に乗ってナックルシティ駅に向かっている座席に座っていた筈だったのに、自分達が今いるのは青空と足元の浅く張った水以外何もない青と白で彩られた不思議な空間。不思議なことは色々体験してきたが、その中でも上位に来る驚きだ。
何か知っているかとニャオハ達に尋ねてみるも、彼女達も何故自分達がこんなところに来たのか分からないのか、困ったような表情で首を振る。
「……夢でも見てるのかなぁ?」
「夢なら痛みで覚めるかも……リコ、僕の頬をつねって!」
「わ、わかった……えいっ!」
「イタッ!痛い痛い痛いッ!!もういい、もういいからっ!」
言われた通りつねってみても、イルマが頬を赤くして涙目になっただけである。頬を擦るイルマに謝りつつ、リコは晴天の青空を見上げて不安そうに呟いた。
「夢じゃないとしたら……これって、エクスプローラーズの仕業?」
「いや、それはないと思う。もしもペンダントを狙うなら、こんな場所に連れてくる必要はないし、何より僕まで連れ去ったのはおかしいし……」
「確かに……」
一瞬エクスプローラーズが自分を誘拐したのかという可能性を考えるリコだったが、イルマがそれはないと切り捨てた。連れ去るなら何故こんな広くてよく分からない空間に連れてくるのか、そして、ペンダントから変化した亀のポケモンとは無関係のイルマも一緒に連れ去った事の説明がつかない。リコもそれは薄々感じていたのでイルマの言葉に頷くが、結局謎が深まっただけとなり、流石に不安を感じてしまう。
「……これからどうしよう……」
「……スマホロトムも圏外だし、少し歩いてみよう。何もないけど、もしかしたら何か手掛かりがあるかもしれないよ?」
「そうだね……」
試しにスマホロトムで仲間達に連絡しようとするも電波が通っていないようで圏外になっており、イルマは手掛かりを探すために少し歩いてみようと提案する。リコも、ここでジーッとしててもどうにもならないのは理解しているので、その提案に頷いた。
イルマはモクローを右肩に乗せ、イーブイをお気に入りの肩掛けの鞄の中にいれてやり、二本角がある様な城の帽子を被る。リコのフードの中にミブリムが入り込み、亀のポケモンがリコが背負うリュックの中に入り込み、リコはニャオハを抱き上げる。
「……で、手掛かりを探すにしても何処に行けばいいんだろう?」
「うーん……」
リコの疑問に、イルマは腕を組んで考える。見渡す限り、景色は上下共に青一色。建物らしい影もなければ、人影のようなものも見当たらない。こんなだだっ広いかつ何もない空間で何を目印に進めばいいというのか……
「よし、オーガポン」
「ぽにっ!」
オーガポンは「任せて!」と言うように蔦を巻いたような棍棒を取り出すと、持ち手を下にして地面に立て掛ける。そこからオーガポンがバッと手を離すと、当然ながら棍棒は数回揺れた後に、イルマ達から見て右方向に倒れた。
「ぽにぽにっ!」
「あっちに行ってみよう」
「いや適当すぎない!?」
何をするのかと思えばただの棒倒しだった事にリコがガクッと体勢を崩すも、直ぐにそれを整えてツッコミを入れる。アテがないとは言え適当すぎるだろうと。
イルマも適当すぎたことは自覚しているのか、苦笑いをしながらもリコを説得する。
「まぁ、少し適当だけど……ここからじゃ何も見えないんだし、ここで何もしないよりは良いんじゃない?向かった先に何もなければ別のルートを探してみればいいよ」
「うっ、それは確かに……」
些か楽観的だが、何処へ向かえばいいのかも分からない現状自分達に出来るのはそれくらいな事も事実な為、リコも反論しづらくなり、大人しくイルマと共に棍棒が倒れた方向へ歩き始めようとすると、背後から小さなポケモンの声が聞こえてきた。
「ラル……」
「「!?」」
イルマとリコがバッと振り返ると、戸惑っているように辺りを見渡している、白い身体に目元を隠した青い頭部とオレンジの角を持ったポケモンだった。そのポケモンもイルマとリコに視線を向けられたことに気付いたのかビクッと肩を震わせ、イルマとリコは見覚えのあるポケモンに目を見開く。
「ラルトス……しかも色違い……」
「なんでこんな所に…!?」
「もっふぅ!」
「ニャオハッ!」
「……!ラルッ」
「……ニャオハ達、何だかラルトスと仲良さそう……!ねぇ、もしかしてこの子って……」
「ああっ!オリーヴァの森のラルトス!!」
「ッ!ラルッ!」
イルマに名前を呼ばれたそのポケモン──【ラルトス】は、嬉しそうに笑顔を見せる。
そう、このラルトスは、六英雄の一体であるオリーヴァがいた森の中で倒れていたところをイルマとアメリが介護し、その後山火事によって荒れた森の復興に助力してくれたラルトスなのだ。オリーヴァが共に来てくれるようになったあの日から、密かにブレイブアサギ号に潜り込み、ずっとイルマを追いかけていたのだ。
「久し振りだね~。元気そうで良かった!」
「ラル……///」
「いやいや、イルマ!気持ちは分かるけど、今はなんでここにラルトスがいるのかが重要じゃない!?」
「ああっ、そうだね……ラルトス、どうして君はここに来たの?」
笑顔で再会を喜ぶイルマと、恥ずかしそうにモジモジしているラルトス。そんなイルマ達に、今は再会を喜ぶより先にラルトスに尋ねなければならないことがあるだろうとリコのツッコミが飛ぶ。
それを聞き、確かに何故ここにラルトスがいるのかは聞いておかねばならないため、ラルトスと目線を合わせて質問する。
「……ラル」
「分かんないみたいだね……」
「僕達だけじゃなくて、パルデア地方にいたはずのラルトスまでいつの間にかここに来ていたなんて……」
実際にはラルトスがここに来る前にいた場所はブレイブアサギ号の船内だったのだが、それを知らないイルマとリコは、パルデア地方にいる筈のラルトスまでここに連れてこられた事に、一種の不安を感じる。しばらく考え込んだあと、イルマはラルトスに声をかける。
「……ラルトス、もしも良かったら僕達と一緒に来てくれないかな?」
「ッ、ラルッ!」
未だに何故自分達がこんな所にいるのか訳が分からないが、もしもこれが誰かの差し金であったとしたら、別行動するのはラルトスに危険が及ぶかもしれないと、イルマはラルトスに自分達と共にここを出る為に協力してくれないかと尋ねる。イルマの提案に、ラルトスは頬を赤くして嬉しそうに頷いた。
そうしてイルマ達は、ラルトスという同行者を加えて、青空の世界を歩き出した。
それから10分間、イルマとリコ、そして彼等のポケモン達は道無き道を進んでいく。足を地面に接触させる度に地面に浅く張られた水がパシャパシャと音を立て、鏡のように水面に反射するイルマ達の姿が踏み込んだ時に広がった波紋によって歪む。
水の音をBGMに青の世界を進み続けるイルマ達は、足の動きを止めずに歩き続けながら、ラルトスを抱き上げているイルマはリコに話し掛けるように呟いた。
「……おかしいね、この空間」
「うん。こんなに水が張ってるところを歩き続けてるのに、靴が濡れない……」
イルマの呟きに、リコもポケモン達も頷いた。
辺りに何もないだけではない。浅いとは言え水が張ってある地面を10分も歩き続けているのに、靴が全く濡れないのだ。
試しにイルマが手袋を着けた手で足元の水を掬い上げる。冷たいし、水をさわっている感触もある。指の隙間から掬い上げた水が溢れ落ちるが、布で出来た手袋に湿った感触がない。乾いたのではない、濡れていないのだ。
水に触れても濡れないという矛盾した現象。突然こんな空間に来てしまったという不思議体験をしていなければ、この現象にも大声を上げて混乱していたかもしれない。
「それに、太陽もないのに青空があるって言うのも変だしね……」
「もっふぅ」
雲以外何もない青空を見上げ、イルマは呟いた。モクローが同意するように頷いた。その空には、青空が存在するにはなくてはならない天体……太陽が存在しなかったのだ。
空が青いのは、大気中の微粒子によって太陽光が散乱され、その時に波長の短い青い光が散乱される事で人間に青く見えているのが原理だ。
イルマとリコにはそこまで専門的な知識は存在しないが、太陽がなければ青空が見えないことくらいは知っているため、改めてこの不可思議な空間が異常であるということを実感させられる。
これが冒険だったら、イルマ達もこの不思議空間にもう少しワクワクしていたかもしれないが、今の状況はここに『突然迷い込んだ』ということになっているのだ。まだ未熟なところが多いイルマ達でも警戒をするには十分である。
その時、リコは見上げた青空の中に、雲とは違う白い『何か』が飛び回っているのを捉えた。
「ねぇ、イルマ。あれって……」
「……ポケモンだ!」
リコに促され、イルマもリコが指差した方向に目を向ける。
目に入ってくるのは、全翼機のようなフォルムに三本の角を持つ白いポケモンが、大きな翼を広げて空を飛び回る姿だった。
「あのポケモンって……」
『トゲキッス。しゅくふくポケモン。フェアリー・ひこうタイプ。揉め事の起こる場所には決して現れない。近頃は滅多に姿を見かけなくなった』
リコがスマホロトムでそのポケモン──【トゲキッス】を検索する。
空を飛び回っていたトゲキッスは空中に滞空して、歩いているイルマとリコを見つけたのかこちらに顔を向けると、直ぐ様クルリと顔をそらし、イルマ達の進行方向へ飛び去っていった。
「行っちゃった……」
「トゲキッスが飛び去った方に行ってみよう。何かあるかもしれない」
「う、うん!」
自分達の姿を見た途端に逃げたということは、トゲキッスは自分達を怖がって逃げたのかもしれない。だが、この何もない空間でポケモンを発見したのだ。もしかしたらトゲキッスが逃げた先に何かあるかもしれないと、イルマ達はゴマ粒みたいに小さなトゲキッスの後ろ姿を小走りに追いかける。
しかし、トゲキッスの飛行速度はモクローとは比べ物にならない程速く、トゲキッスを追いかけるうちに息切れとなりその場に立ち止まって呼吸を整えていると、顔を上げたリコは視界の先にあるものを見つけた。
「……!イルマ、あれ!」
「……人影だね!」
リコの言う通り、イルマ達のいる地点からかなり離れた場所に、二人の人影と複数のポケモンの影があり、トゲキッスがその影の元に降り立つ光景だった。
イルマとリコは互いに顔を見合わせ、人影のある方を目指す。その人影達も、トゲキッスから何かを教えられたのか、豆粒みたいな大きさだったそれが、だんだん大きくなってきている。
うっすらとだが相手の全容が見えるようになってくる。同年代くらいの男女のようだ。それを見て、イルマはある違和感を抱いた。
(……なんか、女の子の方、何処かで見たことあるような……?)
遠目から見える男女のうち、左側にいる女性を、イルマは何処かで見たことがあるような気がする。物凄く身近で見たことあるような気がするのだが……
その疑問も、人影との距離が5m程のところまで来たことで解消された。
「「「「……え?」」」」
2組は歩く足を止め、互いの姿を見る。
一人は、黒いシャツに黄色や白が差し色として入ったフード付きの青いローブを羽織り、紺色のズボンと黄色のスニーカーを履いた少年。
彼の肩には、イルマのバッグに入っているのと同じ白銀のイーブイが乗っており、少年の直ぐ傍には、先程見かけたトゲキッスに、蝋燭のような姿をしたポケモン【ヒトモシ】、バレリーナのようなポケモン【キルリア】がいる。彼のポケモンなのかもしれない。
そして、少年の隣に立っているのは、水色の瞳とセミロングの青いインナーカラーの黒髪に「L」を模したような緑色の髪飾りを付け、肘までの水色のジャケットを白いシャツの上に羽織り、黒の短パンに上の縁が水色のハイソックスを履いている同年代の少女であった。彼女が着ているジャケットのフードにはミブリムが入っており、背負っているリュックには藍色の亀型のポケモンが顔を出し、腕の中にニャオハを抱えている。
その服装、髪型、連れているポケモン、そして顔立ちの全ては、イルマの隣に立っている少女──リコとどうしようもない程そっくりだった。
イルマは目を丸々にして、目を擦りながら自分の隣にいるリコとリコと瓜二つの少女を交互に見比べ、青いローブの少年も驚いたようにイルマの隣にいるリコを見ている。
「「わ、私っ!?」」
驚愕する少女達の声も表情も、驚く程そっくりだった。
決して出会う筈の無かった者達が、邂逅した瞬間だった。
「改めまして……リコです」
「私もリコです……」
「「ニャオハッ!」」
「うわぁー……世界には同じ顔をした人が三人いるって本当なんだね……」
「一応聞いておくけど、君達って親戚とか、生き別れた双子とかじゃないよね?」
「私、一人っ子です……」
「リンは私が一人っ子なの知ってるよね?」
混乱していた二人をイルマと青いローブの少年が落ち着かせたあと、一同は自己紹介をすることとなった。
紛らわしいので胸元に各々『イルマ』『リン』という名札をつけたリコ達は、目の前にいる自分と瓜二つな人物に戸惑い、ニャオハ達は顔を見合わせ、イルマは未だに驚いているのか二人を交互に見比べ、青いローブの少年が2人を親戚か生き別れの姉妹か何かと疑うが、当然ながらそんな事実はない。
「そう言えば、僕達は名乗っていなかったね。はじめまして、僕はリン」
「あっ、そうでしたね。僕はイルマです。よろしくお願いします、リンさん」
【リン】と名乗る少年が自己紹介をすることでイルマも思い出したように自己紹介する。
「……軽い挨拶はここまでにして、そろそろ本題に入ろう。イルマ君、そしてもう一人のリコさん。今ある様々な疑問を解くためにも、君達がどうしてここに来たのか、そして君達は何者なのか、お互いに情報共有しないか?」
「そ、そうですね。それじゃあ、僕達も出来る限りのことは話しますね」
「う、うん」
「……二人とも、別に敬語を使う必要はないよ。僕は君達と同い年くらいだし、敬語使われるのはあんまり好きじゃないしね」
「それじゃあリン君、僕もイルマで大丈夫だよ」
「ではイルマ、先ず君達に聞きたいのは──」
同年代にしてはやけに大人びてるように感じるリンに生来の性格も合わさって思わず敬語を使うイルマだったが、リンはイルマに敬語を使う必要はないと言いつつ、イルマ達の事や、どうやってこの空間に来たのかを尋ね、イルマとリコ(魔入間)は一つ一つ答えつつ、リンとリコ(マルスプミラ)の事についても質問し、二人も相手の事を聞いたならこちらも答えるのが当然だと素直に答えていく。
30分ほど質疑応答をしあっていく中で、イルマ達は互いから話を一通り聞き終えると、共有された情報に揃って首を傾げた。
「セキエイ学園の理事長はサリバンなんて名前じゃない。それにお孫さんが学生として入学したなんて話聞いたこともない……」
「私も、聞いたことないよ」
イルマとリコ(魔入間)が話した事は、イルマはセキエイ学園理事長サリバンの孫で、リコの幼馴染みであるという。リンとリコ(マルスプミラ)が在籍しているセキエイ学園には確かに理事長はいるが、サリバンという名前ではなく、学園には孫も通っていない筈である。
「お爺ちゃんや師匠がいないなんて……俄には信じられないな……」
「それに、アルテミスやセプテムなんて組織聞いたこともないし、そんな大事件があったなんて知らないよ?」
一方、リンはリコ(マルスプミラ)の家に居候しており、リコ(マルスプミラ)と共にセキエイ学園に入学していたそうだ。パルデア地方にいた頃は【アルテミス】という名前の犯罪組織と戦ったり、テーブルシティを襲った謎の鳥達を撃退したことを聞いたが、イルマとリコ(魔入間)はアルテミスなんて組織が壊滅したなんて話は聞いたことないし、テーブルシティでそんな事件があったなんて知らない。
そして何よりも驚きなのは、イルマとリコ(魔入間)も、リンとリコ(マルスプミラ)も、ライジングボルテッカーズのメンバーだと言っている事だ。
イルマとリコ(魔入間)は2人がふざけているのかと思ったが、リンとリコ(マルスプミラ)の表情から嘘をついていないと判断する。だが、彼らが所属するメンバーの中にはフリード達はいるのに、イルマの師でもありライジングボルテッカーズの主力であるバチコがいないと言っている。おまけに、リコ(マルスプミラ)はエクスプローラーズ以外にも【セプテム】という組織にも、リンの持っている『果実のカケラ』という宝石を狙われているらしい。
ここまで来るとおかしいと、リコ(魔入間)がリコ(マルスプミラ)に男共に聞こえないように自分の好きなものや個人情報(主にスリーサイズなど)を聞いていくと、リコ(マルスプミラ)はピタリとそれを言い当てている。
ここまで来ればもう認めるしかない。目の前にいるリコ達は、完全なる同一人物であると。
突然知らない世界に連れてこられた、リコが2人いる。滅茶苦茶すぎる展開に、イルマと2人のリコはもう訳が分からないと言うように頭を抱える中、顎に手を当てて思案顔になっていたリンがポツリと口を開いた。
「……恐らく、僕達と君達は違う世界の人間なのかもしれない」
「「「え?」」」
イルマと二人のリコが一斉にリンに視線を向ける。
「最初にリコさんが2人いる時点でその可能性は考えていたけど、この会話で確信したよ。僕達がいた世界と君達がいた世界は似ているようで完全な別物……所謂【パラレルワールド】だ」
「パラレルワールドって、確か自分達がいる世界とは同じ様で違う並行世界っていうやつだよね?」
「そう、お互いの世界にはポケモンやパルデア地方が存在していることは共通してるけど、違う部分がある。君達の世界にはイルマやバチコっていう人達が存在しているけど、【セプテム】は存在しない。逆に僕達が来た世界には【セプテム】は存在している代わりに、イルマ君達が存在しない。こう言った違いがある世界の事だ」
恋愛系は楽しむがSFはあまり触れたことがないイルマでも、パラレルワールドに関しての知識はある。過去のある時点で分岐して併存するとされる世界の事で、同一の次元を持ちながら、異なる歴史、法則、物理現象を持つとされている。
たとえば、恋愛ゲームをはじめとするマルチエンディング方式のゲームでは、パッピーエンドやバッドエンド、存在する複数の結末全てがパラレルワールドの関係にあると言える。
「……そして、何らかの不思議な力が働いたことで、僕達はこの空間に呼び込まれた。そして本来出会う筈の無い僕達が出会ってしまったんだ」
「……じゃあ、リコは別の世界の私なんだね」
「そうみたい。自分じゃない自分が目の前にいるのってなんか変な感じだけど……」
「「ニャー……」」
「……シュールな光景だね」
リンの推理に「成る程」と頷き、リコ(マルスプミラ)はリコ(魔入間)を見ながら呟く。目の前にいるのは紛れもなく自分なのに、経歴や交友関係等は自分とは全く違うのだ。自分なのに自分ではない別の自分を目の前にしたという違和感は、常人に味わうことは出来ないだろう。ニャオハやミブリム達も同じ様になのか、二つの世界のリコのポケモン達はマジマジと並行世界の自分を見つめていた。
「……それにしても、リコが二人いるとは言え、よく並行世界なんて発想にたどり着いたよね……」
そこでイルマは、リンが自分達が並行世界からこの空間に迷い込んだ存在である事を看破したリンの柔軟な発想に関心を示す。
空間を司る神と呼ばれしポケモン【パルキア】や、アローラと呼ばれる地方で出現した“ウルトラホール”からやってくる【ウルトラビースト】の存在があるとは言え、普通の人間なら並行世界なんて発想にたどり着くことはない。
「……別の世界に来るっていう経験ならしているからね。異世界から来た僕にとって、もうこれくらいじゃ驚くに値しないね」
「「えっ?」」
「リ、リン!?話しちゃっていいの!?」
「良いよ。今、この二人とリコさんはある意味僕と似たような状況に陥ってるわけだしね」
リンの衝撃なカミングアウト──リンが異世界からの迷い人である事を聞いて目を瞬かせるイルマとリコ(魔入間)。
リンや彼が連れてるイーブイ達が異世界から来た存在だという事を隠しておきたがっている事を知っているリコ(マルスプミラ)がアッサリ情報開示した事に驚きを露にするが、リンは彼女もイルマ達も広義の意味では自分と同じ異世界からの迷い人であるから大丈夫だろうと返す。
そして、そのカミングアウトを聞いたイルマとリコ(魔入間)の反応は……
「へぇ~!パラレルワールドだけじゃなくて異世界まであるんですね~!リン君が住んでいた世界ってどんな世界なんですか!?」
「いやイルマ!今の話アッサリ信じすぎじゃない!?」
(……自分から情報開示しておいてなんだけど、アッチのリコさんの言う通り随分アッサリ信じたな。彼等も並行世界の存在である僕達に会ったとは言え。イルマはロイ並に素直な性格みたいだね。アッチのリコさんの性格その他は僕の知ってるリコさんと大差ないみたい。普通異世界なんてアッサリ信じられるものじゃないし、リコさんも最初の頃は僕が異世界から来たってことあんまり信じてなかったし)
目を輝かせてリンの故郷である世界に興味を示すイルマにツッコミを入れるリコ(魔入間)を見て、並行世界から来た二人の人柄を何となく把握する。
因みに、パラレルワールドは『同一の次元』であるのに対し、異世界は主に『魔界』『四次元世界』と言った根本から異なる世界を指している。
一方、イルマのポケモン達と、リンのポケモン達は、リンの推理や会話を聞きつつ、リンが木の実ボックスから出した木の実とイルマが持っていたお菓子を食べながら話をしていた。
「もふもふ、もふもっふぅ(異世界からきたのか、オメー等中々苦労してんだなぁ)」
「トッゲ、トゲトゲ。トゲトゲトゲ、トゲキッス(確かに、大変なこともあるよ。そして今は僕達は元の世界に帰るために、同じ異世界から来たリンのポケモンになってるんだ)」
「もふっふぅ、もふもふ。もふふふもふぅ(成る程、確かにリンは賢そうだなぁ。まぁその分かなり腹黒そうだけど)」
「トゲ……(アハハ……)」
「もふ、もふもふもふぅ(まっ、イル坊も違う意味では面倒な奴なんだけどな)」
各々のチームの纏め役的な存在であるモクローとトゲキッスが、モモンの実を食べながら自身のトレーナーについて語り合う。
リンの本性を何となく見抜いていたモクローの言葉に、トゲキッスは否定することが出来ない。
何せ冷静で頼りになるとはいえ、『卑怯、汚いは敗者の戯言』という最低な座右の銘を掲げ、時々奇行に走ったりポンコツになったりブラックな発言も多い人物なのだ。
「ぽにぽに、ぽにおっ!(そんなことがあったんだな、リンはわや頭良いんだな!)」
「モシ、モシモッシ(イルマさんも、とても優しい人なんですね)」
「……キル、キルキルリア、キルル?(……ふむ、ぬしはわし等と違いイルマ殿のポケモンではないのでのか、なら、何故イルマと一緒にいたのでござるか?)」
「ラル、ラルゥ……(それは、色々あって……)」
すぐそこでは、オーガポンとヒトモシ、キルリアとラルトスがお互いにイルマとリンの事をついて話をしている。
そんな中、二つの白銀のポケモンが話をしていた。
「……ブイ、ブイブイ(……お前は、我と同じ体色をしているのだな)」
「ぶい。ぶい、ぶぶい(そうですね。私も、自分と同じイーブイは初めて見ました)」
「イブ?(初めて?)」
「ぶいっ、ぶぶぶぶい、ぶぶぶい(はい、私はつい先日、タマゴから孵ったんです)」
自分と同じ色違いに出会うのは初めてなリンのイーブイと、自分と同種のイーブイそのものと出会うのが初めてなイルマのイーブイは、興味深そうに互いを見つめながら、話し合う。
そんな中、イルマのイーブイの言葉に引っ掛かりを覚えたリンのイーブイが尋ねると、イルマのイーブイは自分が先日までタマゴだったこと、タマゴが置かれてあったパルデア地方の両親の元に帰るためにイルマと同行していることを話す。
「……ブイ、ブブブイ(……成る程、故郷に帰るために旅をしているのか)」
「ぶいっ、ぶぶいぶい?(はい、イーブイさんも元の世界に帰ろうとしてるんですよね?)」
「ブイッ。ブブブイ(そうだ。リンが元の世界に帰れるようになるまでは力を貸すつもりだがな)」
「ぶぶい。ぶいぶい、ぶい(そうなんですか。なんだか似てますね、私達)」
「……ブイ(……そうだな)」
自身の両親の元へ帰ろうとしているイルマのイーブイに、リンのイーブイは彼女のタマゴが放置されたことに思うところがあった。
リンのイーブイはトゲキッス達に出会う前、親も兄弟もいない一人ぼっちの状態で孵化し、それから当てのない旅をするなかで出会ってきた原色のイーブイ達からコミュニティに入れてもらえなかった過去がある。イルマのイーブイの来歴を聞けば、彼女のタマゴが放置されていたことや、またもしも彼女が仲間や家族に遭遇できたとしても、彼女がどうなるのか、リンのイーブイは何となく想像が出来てしまう。
(……まだ幼い彼女に言うべき事ではないな。それに、我が生まれた世界と彼女が産まれた世界は違うのだ。我のようにならないかもしれんしな)
だが、リンのイーブイはそれを口にすることはなかった。彼が産まれた世界と彼女が産まれた世界は全く異なる世界。全ての世界で色違いのポケモンがコミュニティから外されるとは限らないのだ。
「……ブイブイ、ブイ(……会えると良いな、お前の家族に)」
「ぶいっ、ぶぶぶぶい(はいっ、イーブイさんも元の世界に帰れると良いですね)」
「…どうやら、イーブイ達も親睦を深めてるようだね」
「イーブイ、リン君のイーブイと仲良くなれたみたいだね」
「イルマのイーブイって割と人見知りな所あるのに意外だね」
「同じイーブイで色違いだから気が合うのかな?」
互いに自分達が居るべき場所に帰れると良いと言い合う二匹のイーブイ達を興味深そうに眺めるリン達。
「えっと……確かリンのイーブイはオスなんだよね?」
「そうだよ。イーブイは尻尾の色が白くなる模様がギザギザしているのがオス、丸みがあるのがメスって区別されてるらしい」
「イルマの連れてるイーブイはメスなんだね。でも、イーブイとラルトスはイルマがゲットしてるわけじゃないんだよね」
「イーブイは保護してるって感じだよ。ラルトスは前に少し会ったことがあるけど、それ以来会ってなかったし。僕の手持ちはモクローとオーガポンだよ」
「もふぅ!」
「ぽにっ!」
イルマに呼ばれたのに気付いたのか、モクローとオーガポンがこちらに顔を向けて、挨拶をするように鳴き声を上げる。
初めて見るポケモンに、リンとリコ(マルスプミラ)はスマホロトムを取り出してモクローとオーガポンを検索する。
『モクロー、草・飛行タイプのくさばねポケモン。一切音を立てず滑空し敵に急接近。気付かぬ間に強烈な蹴りを浴びせる』
リンのスマホロトムにモクローのデータが表示され、説明文が読み上げられる。そして、オーガポンを検索しようとしたリコ(マルスプミラ)のスマホロトムには……
『……解析不可能。データに存在しません』
「検索できない……この子と同じ…?」
「パーゴ?」
「あー、ゴメン。先に言うべきだったね。オーガポンは少し特殊なポケモンで、図鑑には載っていないんだ」
「そんなポケモンをゲットしているなんて……凄いね」
「いやぁ…アハハ……」
データが表示されず、未知のポケモンだと言われ、イルマはリン達にオーガポンが図鑑に載っていない非常に珍しいポケモンだと説明すると、リコ(マルスプミラ)はそんな希少なポケモンをゲットしたイルマを凄いと言う。オーガポンのゲットが重いなと思っているイルマは苦笑い。
「……っと、挨拶はここまでにして、話を進めよう。次に話し合わなければならないのは、ここが何処で、何故僕達がここに迷い込み出会ったのかだ。イルマ、そっちの世界のリコさん、君達がどうやってここに来たのか、教えてくれないか?」
「……ごめん。私達もよく分からないんだ。ガラル鉱山でガラルファイヤーを落ち着かせてから、お婆ちゃんのいる古城に行くための電車に乗ったんだけど、気付いたらこんな所にいたの。そっちは?」
「私達も同じ。エンジンシティ駅の電車に乗って座席に座った辺りから、記憶が朧気で……」
「……共通点は、お互いリコのお婆ちゃんのいる古城を目指して、電車に乗っていた事だね。謎なのはラルトスだけか……」
「ラル……」
全員に視線を向けられたラルトスはビクッと肩を震わせる。驚かせてしまった彼女に「ビックリさせてゴメンね」とイルマが頭を撫でて落ち着かせる。
顔を赤くしながらラルトスが安心したように口元を緩めると、イルマ達は再びこの空間の謎について話し合おうとした、その時だった。
「「「「!?」」」」
突如、イルマ達の視界を黄金の光が照らす。
あまりの眩しさに全員驚きながら腕で目を覆い、光が収まっていくと、イルマ達はゆっくりと腕を下げ、光が発生した方向に目を向ける。
「これって、石板?」
「こんなのさっきまで無かったよね?」
「だとすると、あの光と一緒に出現したんだろうね」
「でも、この文字は……!?」
イルマ達の目の前に会ったのは、豪華な装飾が施された成人男性並の大きさを持つ石板だった。
その中央に彫られてある文字が黄金の光を放つと同時に、リン達の脳内に知らない声が響いた。
──それぞれの世界に住む二人の少年よ。
──互いの力を示せ。
「今のは……この石板の文章?」
「それぞれの世界に住む2人の少年って、もしかして……」
「間違いなく僕とイルマの事だね。力を示せって言うのは恐らく……」
「僕とリン君が、ポケモンバトルをしろってこと?」
リンの言葉をイルマが続ける。
それを聞いたリンは石板を見つめ、空を見上げながら、イルマに声をかける。
「……やってみる価値はあるかもしれない。イルマ、僕とバトルしないか?」
「リン?」
イルマにバトルの提案をするリンに、リコ(マルスプミラ)が驚く。
リンはトレーニングの一環や、彼女達の世界でボウルタウンで起きたシャンデラ達の起こした大量殺人未遂事件の時のような何かを守るための戦いでしか、ポケモンを戦わせるのを良しとしないことを知っているリコ(マルスプミラ)としては、リンが授業やトレーニングでもない、何の意味もなさそうなバトルをしようと言い出すことが意外に思うのだろう。
「確かに僕はあまりポケモンバトルを好いてないけど、それが指示なら仕方ない。この空間の事や相手の素性を知る手掛かりがない以上、言う通りにするしかないだろうね」
「?指示……それに相手?」
リンの言葉に「どういう事?」と問うような視線を向けるイルマ達。
リンは石板の文字を指差しながら、自分の推理を口にする。
「……並行世界にいる僕達がこの不思議な空間で出会ってしまったとしても、自然現象だとみなすなら、こんな石板が出てくる筈がない。それに『それぞれの世界に住む2人の少年』なんて、ピッタリと僕とイルマを指している物だ。偶然にしてはできすぎている」
「僕達がここに来て出会ったのは、人為的な物だってこと?」
「確証はないけどね」
リンに言われてみて、確かに一連の現象は誰かによって行われたものだと考えれば辻褄が合うかもしれないと考えるイルマ達。
「僕達がバトルをするのを眺めて楽しむつもりかのかは分からないけど、◯◯しないと出られない部屋みたいにこの条件を達成すれば元の世界に帰れるかもしれないしね」
「そういうことなら、僕もバトルするよ!」
途中よく分からない言葉があったが、バトルをしてみれば何か分かるかもしれないというので、イルマもリンとバトルする事を決める。
二人がバトルをする事を決めたと同時に、石板の文字が光を放ち、地面に金色の光が波紋のように広がり、足元に張っていた水を押し出して地面が露になると、そこにはバトルコート特有のモンスターボールを模した白線が引かれた地面が姿を現した。
「場は整えてくれるみたいだね……」
「そうみたいだね……それじゃあ始めるけど、僕の手持ちはモクローとオーガポンの2体だけだから、2対2のバトルで良いかな?」
「構わないよ。それじゃあ僕は……イーブイ、トゲキッス。君達で行くよ」
「ブイッ!」
「キッス」
イルマとリンはバトルコートに立ち、二人のリコはバトルコートの外側で、イルマのイーブイやヒトモシといったバトルに参加しないポケモン達と共にバトルを見守る。
「モクロー、頼んだよ!」
「もーふぅ!」
「行くよ、イーブイ!」
「ブイブイッ!」
二人が繰り出したのは、最初にゲットしたポケモンであるモクローとイーブイ。
ヤル気満々といった様子の2体がバトルコートに降り立つと同時に、バトルが開始された。
「イーブイ、“スピードスター”!」
「モクロー、“このは”!」
リンとイルマの指示が同時に響き、イーブイは星の弾幕を、モクローは光る葉を放ち、互いの中間地点でぶつかり合った技同士が爆発を起こす。
「上から“エアカッター”!」
「左に避けて!」
上空へ飛び上がったモクローが風の刃を放つが、イーブイは左にジャンプして直撃を回避。空振りになった風が地面に亀裂を入れる。
「旋回しながら“エアカッター”を撃ち続けて!」
「“まもる”!」
モクローはイーブイが手出しできない上空から“エアカッター”を撃ち込み続けるが、イーブイはバリアを展開してそれを防ぐ。
「“まもる”の終わり際に“エアカッター”!」
「頂戴する!イーブイ、“まねっこ”!」
モクローが攻撃を止め、イーブイがバリアを解除したと同時に再び風の刃を放つ。それに対し、イーブイはモクローの技をコピーし、同じ風の刃を放って相殺する。
(“まねっこ”…!これじゃあ“エアカッター”は無闇に打てない。でも、それだと連発できる技は“このは”だけ。相性が悪すぎる……)
最後に見た技をコピー出来る“まねっこ”という技自体は問題ないが、“エアカッター”をコピーされれば、草タイプのモクローに効果は抜群。ノーマルタイプのイーブイに“シャドークロー”は意味を成さないし、ゴーストテラスタルしてノーマル技を無効にしても“シャドークロー”をコピーされればこちらが不利だ。
つまりモクローが連発できるのは“このは”だけだが、ニャオハと違って一般的な威力しか出せない“このは”でリンのイーブイと渡り合うのは無理がある。
「イーブイ、コピーして“まねっこ”!」
「モクロー避けて!」
“まねっこ”で効果抜群の“エアカッター”を放つように指示するリンの声を聞いたイルマは、モクローに避けるように指示を出すが……
「──“スピードスター”!!」
「はっ!?」
「ブイッ!」
「もふぅっ!?」
イーブイが放ったのは風の刃ではなく、必中の星の弾幕。回避をしようとしていたモクローは対応が遅れ、必中の弾幕を受けて打ち落とされる。
「イーブイ、“まねっこ”で“エアカッター”!」
「今度は普通に“まねっこ”…!?モクロー、“シャドークロー”で防いで!」
再びリンが指示を出すと、今度は素直に“まねっこ”で風の刃を撃ち放ってくる。イルマはそれに戸惑いながらも“まねっこ”で“エアカッター”を出さないようにする意味も込めて指示を出し、モクローは影の爪で風の刃を切り裂いた。
「ど、どういう事なの、リンの指示…?」
「リンのバトルはこんな感じだよ。偽の指示を織り混ぜた心理戦」
「…イーブイは偽の指示を分かってるの?」
「ニャ~?」
嘘と真実を使い分けてイルマを翻弄するリンのバトルに、彼と行動を共にしてきたリコ(マルスプミラ)と違い出会ってから数分しか経っていないリコ(魔入間)とニャオハ(魔入間)は困惑する。
そんな中、リンとイルマのバトルは白熱していく。
「イーブイ、“まねっこ”!」
「“シャドークロー”!」
“まねっこ”でモクローの技をコピーしたイーブイと、モクローの影の爪がぶつかり合い、発生した衝撃波で二体は弾かれるように距離を取る。
(やっぱり、あのイーブイ強い……技の構成はシンプルだけど、あの偽の指示も相まって隙がない)
ほぼ全ての攻撃を防ぐ“まもる”と、どれだけ離れていようと確実に命中させられる“スピードスター”のバランスは非常に良く、イルマはリンとイーブイの実力に相手の強さを再認識する。だが、それを分かったからといって降参するつもりはなかった。
「…モクロー、飛び上がって“かげぶんしん”!」
「もふぅ!」
『もふぅ!』『もふぅ!』『もふぅ!』『もふぅ!』『もふぅ!』『もふぅ!』『もふぅ!』
ガラルファイヤーとの一件で会得した技を行使し、空中へと羽ばたいたモクローは空中に無数の分身を発生させ、縦横無尽に飛び回る。
「分身か……(確か、モクローは音を立てずに飛び回れるポケモンだったよね。それじゃあ本物を見分けるのは難しいな…)」
かつて、元いた世界でキャップの“かげぶんしん”をある違いから見破ったことのあるリンだが、隠密に優れたモクローの音を立てない飛行の中で本物を見破るのは至難の技であり、イーブイは無数の分身を前に翻弄される。
「“エアカッター”!!」
「イーブイ、“まもる”!」
本体を含め無数のモクローが一斉に風の刃を放ち、本物を見分けられないリンは防御を指示し、イーブイが展開したバリアが風の刃を防ぎ、バリアの表面で爆発を起こす。
「“シャドークロー”!フィールドを使って!」
「もっふぅ!」
イルマは矢継ぎ早に指示を出し、本体のモクローは先程“エアカッター”が空振りになった事で地面に入れられた亀裂のもとに降り立ち、影で作られた爪を突き刺し、一気に翼を持ち上げると、モクロー同じくらいの瓦礫が浮き上がる。モクローはその瓦礫に、強烈な回し蹴りを御見舞いした。
「もふ!」
「ッ!?避けて!」
「ブイッ!」
イーブイ目掛けて飛んでくる瓦礫に驚きつつも、リンは回避するように指示をすると、イーブイはジャンプして瓦礫を避け、瓦礫の上に飛び乗る。
「“スピードスター”!」
「ブイィッ!」
そのままイーブイは必中の星の弾幕を放つ。それに対し、何とモクローは前に飛び出した。
「モクロー、投げ返して!」
「もふぅ!」
「何ッ!?」
「ブイッ!?」
だが、モクローは“シャドークロー”を展開し、星の弾幕を爪と爪の間で受け止め、走りながら一回転、掴み取った星をそのままイーブイに投げ返し、直撃してイーブイは吹き飛ばされた。
「“スピードスター”を投げ返した!?」
「モクローがよく使う戦法だよ。相手の力を利用して回避を攻撃に繋げる」
今度はリコ(魔入間)がリコ(マルスプミラ)に解説をする。
「まさか“スピードスター”をそのまま返してくるなんてね。合気道の応用かな?」
「そのアイキドウっていうのはよく分からないけど、誉めてくれてありがとう。けど、そろそろ決めるよ!モクロー、“エアカッター”!」
「もふぅ!!」
モクローは先程よりも一際大きい“エアカッター”を放つ。イーブイは姿勢を低くしたまま、何もせずにモクローの放った風の刃を見据えている。
イルマが勝利を確信した、その時だった。
「──イーブイ、“とっておき”!」
「ブイッ!」
次の瞬間、イーブイが身体に電光を纏い、一気に跳躍する。迫り来る風の刃が電光を纏うイーブイと激突して一瞬で破壊されたかと思うと、既にイーブイは空中にいるモクローの目の前まで迫っていた。
「ブイィッ!!」
「もふーーっ!?」
イーブイの光を纏うパンチが炸裂し、モクローは一直線に地面に叩き付けられる。墜落の衝撃で、フィールドにクレーターを入れられ、土煙が巻き上げられる。
「モクロー!?」
「も……ふ……」
仰向けに倒れたモクローは、目を回して気絶しており、これ以上の戦闘は不可能な状態であった。
イルマはフィールド内のモクローを抱き上げ、元の位置に戻っていく。
「ぶいぃ……」
リコ達と共にバトルを観戦していたイルマのイーブイは、目の前で繰り広げられるバトルに、感嘆の声を漏らした。
ミブリムがブレイブアサギ号に保護された時、イーブイはイルマから自身の進化系であるブイズと呼ばれるポケモン達の姿やブイズを連れているトレーナーのバトルを見せてもらった事があり、未だに技がマトモに使えない自分もいつか進化したからこんな風になれるのかと思ったことがある。
しかし、リンのイーブイは自分と違い、四つの技を使いこなし、あの偽の指示と本物の指示を聞き分けて、イルマのモクローを圧倒した。
(私も……あんな風になれるのかな……)
自身と同じ普通のイーブイとは違う体毛をした異世界からの迷い子を見つめ、イルマのイーブイはそんなことを考える。
イーブイがそう考えている間にも、イルマはモクローに代わる新たなポケモンを繰り出した。
「オーガポン、ここから覆すよ!」
「がおっ、ぽにおーーっ!」
「イーブイ、まだやれる?」
「ブイッ!」
イルマが繰り出したのは、最高戦力のオーガポン。既に碧の面を被り、戦闘態勢は万全だ。リンはイーブイにまだ戦えるかと尋ねると、イーブイは問題ないというように頷いた。
(しかし…あのポケモンは図鑑に載っていないからな。見た感じ草タイプっぽいけど、慎重にやらないといけないな)
相手が知らないポケモンだった場合、図鑑でタイプや特性等を調べる事を鉄則としているリンだが、オーガポンは図鑑にも載っていない希少なポケモン。図鑑にデータが一切登録されておらず、リンとイーブイはほぼ無知な状態でオーガポンと戦わなければならなくなった。
見た感じ草タイプに近いが、見た目とタイプが一致しないポケモンがいることも知っているため、警戒して戦う必要があるだろう。
「オーガポン、“しねんのずつき”!」
「イーブイ、鋭く“とっておき”!」
お面の額部分にサイコパワーを纏わせてオーガポンが走り出すと、リンの指示を聞いたイーブイは走り出す。だが、やはりというべきか速いのはオーガポンの方であり、素早く距離を積めたオーガポンはサイコパワーを纏わせた頭突きを御見舞いしようとする。
「“まもる”!」
しかし、リンが飛ばしたのは偽物の指示であり、目前まで迫っていたイーブイはバリアを展開して頭突きを防ぐ。
「“バリアクラッカー”!」
「ブイッ!」
「ぽにっ!?」
次の瞬間、オーガポンの額とぶつかり合っていたバリアがクラッカーのように爆発を起こし、バリアと接触していたオーガポンは吹き飛ばされる。
「オーガポン、大丈夫!?」
「ぽ!」
「良かった……にしても、まさかオリジナル技なんて……」
イルマが心配すると、オーガポンは平気だというように答え、イルマは思案する。バリアを展開させて爆発させるなんて技、イルマの知識には存在しないし、調べていたイーブイの技にそんな技はない。つまり、あの“バリアクラッカー”というのはリンとイーブイが独自に編み出したオリジナルということなのだろう。
(バリアを張られるとこっちが不利、だとするとバリアが張られるより早く攻撃することが最適解。“まもる”は連発できないから今がチャンス……けど、リン君のあの偽物の指示のトリックが見抜けない……)
考えれば考える程、リンとイーブイの隙のなさにイルマは厳しい表情を浮かべる。先程の“スピードスター”の投げ返しはある意味においてイルマとモクローのオリジナルの戦法だからこそ不意を突けたのであって、ゲットしてからまだ日が浅いオーガポンにモクローのような返し技が使えるか分からないし、相手もそれを警戒しているかもしれない。
「イーブイ、“まねっこ”で“しねんのずつき”!」
「ッ!オーガポン、“つるのムチ”で捕まえて!」
オーガポンの技をコピーしたイーブイが頭にサイコパワーを纏わせた頭突きを食らわせようとするが、オーガポンは身体から蔓を出し、それをイーブイの身体に巻き付けて拘束した。
「ブ、ブイッ!?」
「イーブイッ!?」
助走の勢いを止められて空に持ち上げられるイーブイ。オーガポンはそのまま蔓を引き、イーブイを自身がいる方へ引き寄せる。
「今だオーガポン!“ツタこんぼう”!!」
「ぽにっ!!」
「(ッ!あれを受けるのは不味いッ!)イーブイ、“まもる”!」
「ブイッ!」
オーガポンは取り出した棍棒に緑色のエネルギーを纏わせて振りかぶる。それを見たリンはオーガポンの技を防ぐように指示を出し、イーブイは蔓に身体を縛られながらもバリアを展開する。
「ぽにぃっ!!!」
「ブイッ!?」
しかし、オーガポンはバリア等関係ないと言わんばかりに棍棒を振り抜き、イーブイをバリアごと吹き飛ばした。
吹き飛ばされながらも、何とかイーブイは空中で体勢を立て直し、着地する。しかし、顔を上げた瞬間には、オーガポンが目前まで迫っていた。
「オーガポン、“かたきうち”!!」
「ッ!イーブイ、“とっておき”!」
回避も防御も間に合わないと察したリンは、イーブイの持つ最強の技で迎え撃つ指示を出す。
その直後、やられたモクローの仇を取ろうとするオーガポンの蹴りと、イーブイの電光の如し突進がぶつかり合う。数秒間の間、オーガポンとイーブイの攻撃が拮抗し……
「……ぽにッ!」
「ブィイッ!?」
……オーガポンが打ち勝った。
オーガポンがイーブイの背後に着地すると、イーブイは桜の花弁が舞うようなエフェクトと共に倒れる。
「イーブイ!」
「ブ……」
イーブイは目を回し、起き上がる気配がない。
リンはイルマと同じように気絶したイーブイを抱き上げて元の位置に戻ると、目の前に立つオーガポンを分析する。
「(……凄いな、あのポケモン。“かたきうち”は味方が倒されると威力が上がる技だけど、直ぐに撃たないと威力はそのままなのに、他の技を幾つか使った後でもイーブイの“とっておき”を正面から破るなんて。空中とはいえバリアを張ったイーブイを吹き飛ばす辺り、実力で言えばリザードンやキャップ
「トゲッ!」
「今度はトゲキッスか……」
オーガポンが油断ならない相手だと再認識したリンが繰り出したのは、彼の最高戦力であるトゲキッス。
イルマは実物を見るのは始めてだが、シンオウ地方のチャンピオンが手持ちにいれているポケモンとして、イルマも何となくだが知識は頭に入っている。
「トゲキッス、“はどうだん”!」
「オーガポン、“ツタこんぼう”で吹っ飛ばして!」
バトルが開始され、トゲキッスが青いエネルギー弾を撃ち放つと、オーガポンはエネルギーを纏わせた棍棒でエネルギー弾をぶっ飛ばす。その隙に、トゲキッスは素早くオーガポンとの距離を詰めていた。
「“でんじは”!」
「ジャンプで避けて!」
相手を痺れさせ、動けなくさせる上に素早さを下げる麻痺状態を引き起こす電気の波動を、オーガポンは飛び上がって回避する。
「“エアスラッシュ”!」
「ッ!オーガポン、“ツタこんぼう”で弾いて!」
トゲキッスは翼を羽ばたかせて風の刃を連続で放ち、オーガポンはエネルギーを纏わせた棍棒でそれを弾き飛ばすことで直撃を避けた。トゲキッスが上空に飛翔し、滞空する。
(“エアスラッシュ”か。確かトゲキッスの特性は“てんのめぐみ”……直撃を避けないと、怯まされて此方が不利だ……)
(あの棍棒、厄介だな……オーガポン自身も弱くはない。隙をついて“でんじは”を浴びせなきゃ……)
イルマとリンは互いに考える。
トゲキッスの特性は“エアスラッシュ”の怯みといった状態等の追加効果を出しやすくする“てんのめぐみ”。シンオウ地方のチャンピオンも使っていた、相手を怯ませて動けなくさせて敵にダメージを与えられると言う凶悪なものだ。更に先程トゲキッスが見せた“でんじは”を考えると、下手に突撃してトゲキッスの攻撃を受けて怯まされてしまえば、オーガポンは成す術もなく蹂躙されてしまうだろう。
オーガポンは物理主体のポケモン故に、そのパワーは並外れている。故に、遠距離から放たれる“エアスラッシュ”を簡単に弾き返せる。何とかして“でんじは”を浴びせて麻痺状態にしなければならない。
互いにそこまで考えをまとめた瞬間、イルマとリンの指示が飛んだ。
「オーガポン、“つるのムチ”でトゲキッスを捕まえて!」
「トゲキッス、“マジカルシャイン”!」
オーガポンが蔓を射出して上空のトゲキッスを捕らえようとするが、トゲキッスは身体から虹色の光を放ち、オーガポンの目を眩ませると同時にトゲキッスは素早くオーガポンに突撃する。
そのまま、リンがトゲキッスに“でんじは”を指示するよりも早く、イルマの指示が響いた。
「オーガポン、竈の面に変えて発火!」
「ぽにっ!!」
「はぁっ!?」
「トゲ!?」
オーガポンが被っていたお面を“竈の面”に変えて赤い姿にチェンジすると、オーガポンは灼熱の炎を発生させ、近くに迫っていたトゲキッスは炎を浴びそうになり、慌てて距離を取るが、その直後オーガポンが投げ放った炎の棍棒がぶち当たり、確かなダメージを受けながらトゲキッスは一旦空中に退避する。
「炎…!?オーガポンは炎技なんか覚えてないはずじゃ……」
「オーガポンは、被っているお面を変えることで、くさの単タイプにもう一つ別のタイプを追加できるポケモンなんだよ。この姿は“かまどのめん”。今、オーガポンはくさ・ほのおタイプになったんだ!」
「成る程ね……(お面でタイプと姿が変わるとか、ロトムとかもそうだけど割とポケモンってなんでもアリだよね。それにしても、自由にお面を切り替えられて、そのお面の数を知らないのは痛いな、どんなお面があってどう切り替えてくるのか予測できない)」
姿を変え、今までで見せた四つの技と結び付かない攻撃をしたオーガポンに困惑するリンへ、イルマが解説をいれると、リンはオーガポンの厄介さに内心舌打ちをする。
もしもトゲキッスの苦手なタイプや、麻痺状態を無効にする電気タイプに変化するのであれば、トゲキッスがどんどん不利になっていくと言うことなのだ。
「(真正面で戦うのは不利、ならスピードと搦め手で勝負だ)トゲキッス、鋭く“エアスラッシュ”!」
「怯み状態にはさせないよ!オーガポン、“ツタこんぼう”!」
トゲキッスが特性“てんのめぐみ”による怯みを狙って風の刃を放つように指示を出すと、イルマはほのお技に変化した棍棒で凪払うように指示を出す。
「……“エアスラッシュ”が来ない?」
「ぽに?」
しかし、いつまで待っても風の刃が来ないことに、イルマとオーガポンは警戒を解かないまま疑問に思っていると、オーガポンの背後に白い巨大な影が降ってくる。
「“でんじは”!!」
「トゲッ!」
「ぽにぃッ!?」
「オーガポン!?」
イルマが避ける指示を出そうとするも間に合わず、トゲキッスは偽の指示により来もしない“エアスラッシュ”を警戒していたオーガポンに電気の波動を送り込む。
反射的に振り抜いた棍棒をトゲキッスが飛翔して避けると、オーガポンの身体を激しい痺れが襲い、思わず膝をつく。
「“エアスラッシュ”!」
「キッス!」
「オーガポン、“ツタこんぼう”!」
「ぽにッ……ぽ!?」
今度は指示通り“エアスラッシュ”を撃ち放ってくるトゲキッスを見て、イルマが防ぐために“ツタこんぼう”を放つように指示するも、オーガポンは身体の痺れで動けなくなってしまい、効果抜群の風の刃をモロに受けてしまう。
「ぽにっ……!!」
「今度は怯み状態…!?」
(出た!リンの“てんめぐまひるみ”戦法!)
今度は“エアスラッシュ”の追加効果で動けなくなってしまったオーガポンを見て、イルマが厳しい表情を浮かべ、リコ(マルスプミラ)がリンとトゲキッスの黄金パターンが入ったことを察する。
リンとトゲキッスの必勝パターンとは、トゲキッスの特性“てんのめぐみ”による“エアスラッシュ”の怯みと、麻痺状態を引き起こす“でんじは”を組み合わせたことによる“てんめぐまひるみ戦法”と呼ばれる最恐コンボ。動けない相手を一方的に蹂躙する鬼畜の所業だが、戦闘においてはこれ以上ない程有効であり、これを突破できたのはそれこそ圧倒的な火力で押しきったフリードのリザードンくらいだ。それこそ、リンの世界でアメジオとソウブレイズを圧倒した程に。
しかし、イルマもそのオーガポンも、これで蹂躙されてしまう程甘くはない。物理主体故に“くだけるよろい”のスピードに追い付けずアメジオとソウブレイズに苦戦を強いられたが、オーガポンのスペックとポテンシャルはソウブレイズを凌ぐのだから。
「トゲキッス、そのまま“エアスラッシュ”を打ち込み続けて!」
「トゲッ!!」
リンの指示を聞き、トゲキッスは大量の風の刃を撃ち放つ。
「オーガポン、井戸の面に変えて、地面に“ツタこんぼう”!」
「ぽに……ぽっ!!」
「キッス!?」
その瞬間、オーガポンは痺れを我慢しながら片手でお面を付け替えて青い姿の“いどのめん”にチェンジすると、もう片方の手に持った棍棒に水流を纏わせ、それを地面に叩きつける。すると、棍棒が叩き付けられたフィールドに蜘蛛の巣状の亀裂が入り、その隙間から水が噴水のごとく噴き出し、“エアスラッシュ”の直撃を妨害した。
「“つるのムチ”!」
「ぽにっ!」
「トゲッ!?」
「トゲキッス!!」
次の瞬間、水の中から飛び出した蔓が、真っ直ぐにトゲキッスの脚に絡み付く。トゲキッスとリンの目が見開かれるが、既に遅く、オーガポンは蔓でトゲキッスを引き寄せながら、お面の額部にサイコパワーを纏わせる。
「“しねんのずつき”!!」
「“はどうだん”で迎え撃って!」
サイコパワーを纏った頭突きと、波動を込めたエネルギー弾がぶつかり合い、爆発を起こす。
「ラルル……(凄い……)」
「イルマ、イルマとオーガポンならきっと勝てるよ!」
「リン、トゲキッス、頑張って!」
リンとイルマのバトルを間近で見ていたラルトスは感嘆の鳴き声を漏らし、二人のリコは各々イルマとリンを大きな声で応援する。
「オーガポン、大丈夫?」
「ぽに……」
「麻痺状態が治ってる……どうやら、自力で治したみたいだね」
効果抜群の“エアスラッシュ”を受けたことであちこちに傷を負いながらも、痺れていない様子のオーガポンを見て、リンはオーガポンが気合いで痺れを取ったようだと察する。
「ぽにぃ……ぽにぃ……」
「トゲ……」
(……でも、痺れが取れたとしてもお互いに体力はほぼ残っていない……次の一手で勝負が決まる!)
(これ以上、“エアスラッシュ”を食らうのは二重の意味で不味い……。逆転するには、飛行タイプの弱点を消して一気に決めること!)
オーガポンもトゲキッスも限界が近いことを察した2人。イルマはこれ以上は危険なオーガポンに効果抜群の飛行技を克服させるために指示を飛ばす。
「オーガポン、“礎の面”に変えて!」
「ぽにっ!」
(また姿が変わった……“竈の面”で炎タイプ、“井戸の面”で水タイプに変化していた、礎は建物をその上に立てる土台石の事。だとすればあのオーガポンは……岩タイプ!)
オーガポンがお面を付け替えて灰色の姿に変身すると、リンはイルマが呼んだお面の名前からオーガポンに追加されたタイプを割り出した。
同時に、このバトルを終わらせるための一手を指示する声が、同時に響いた。
「オーガポン、“ツタこんぼう”!!」
「トゲキッス、“はどうだん”!!」
「ぽにおーーーっ!!」
「キッスッ!!!」
オーガポンの岩石を纏わせた棍棒と、トゲキッスの波動の蒼弾が衝突した瞬間、2体を中心に凄まじい爆発が起こり、爆風が吹き荒れ、爆煙が2体の姿を包み隠す。
あまりの爆発の勢いにリコ達が怯み、イルマとリンは一瞬たりとも目を逸らさずにオーガポンとトゲキッスがぶつかり合った地点を凝視する。やがて爆煙が晴れてきて、そこから見えてきたのは……
「ぽ、ぽに……」
「キッス……」
「オーガポン!」
「トゲキッス!」
互いに大の字になって仰向けで倒れ、目を回しているオーガポンとトゲキッスの姿だった。
リンとイルマは小走りにトゲキッスとオーガポンのもとに駆け寄り、彼等を抱き起こす。
「……結果は引き分け」
「みたいだね……」
各々のポケモンを支えながら立ち上がった二人は、バトルの結果を確認し合うように話し合う。
その時、リンとイルマにバトルを指示した石板の文字が光を放つとあら不思議、リンとイルマのバトルで荒れに荒れたバトルフィールドが何事もなかったように元の状態に戻り、先程までずっとイルマ達を避けていた足元の水が再び地面に浅く張りめぐらされ、イルマ達の足に水に触れた心地良い感触と、水に触れているのに足も靴も全く濡れないと言う気味の悪い感触がやってくる。
「…何はともあれ、凄く良いバトルだったよ。リンくん」
「こちらこそ、君のバトルメイクやポケモン達には色々と学ぶべき所があったよ、イルマ」
他人から指示されて行ったバトルだが、結果的には今まで自分が戦ってきた相手とは違った持ち味の戦い方をする並行世界に存在する少年達によるバトルは、互いに良い経験となった為、イルマとリンは互いに礼を言いながら握手を交わす。
そんな2人の様子を見て、並行世界の同一人物である2人のリコは、互いに顔を見合わせて笑みを浮かべると、ニャオハを抱き抱え、ポケモン達と共に二人の元に歩み寄っていった。
後編はこちらから!
↓
https://syosetu.org/novel/327100/39.html
・今回の見所
~リンVSイルマ~
前半は主人公対決でした。イルマ君はイーブイとラルトスをゲットしていない為モクローとオーガポンの2対2のバトルになりました。
~ポケモン達の会話~
彼方楽園のマルスプミラで行われているポケモン同士の会話。マルスプミラとコラボをするならと本作でもやってみたくなり、本作でも会話の描写を取り入れました。もしかしたら今後のお話でもポケモンの会話を書くかもしれません。
尚、イルマのポケモン達のキャラや口調はこのようになっております。
モクロー イメージCV:三木眞一郎
一人称は『俺ちん』、イルマの事を『イル坊』と呼び、それ以外はほとんど呼び捨て。面識の少ない相手は『アメリ→副会長ちゃん』『ドット→引きこもり娘』とあだ名で呼ぶ傾向にある。
元ネタは魔入りました入間くんで入間の相棒アリクレッド。
オーガポン イメージCV:鬼頭明里
一人称は『おら』の訛り口調イルマや他の人間やポケモン達の事は基本的に呼び捨てで呼ぶ。
声優を鬼頭さんに選んだ理由は『鬼滅の刃』で鬼の妹を勤めていたから。実は作者はイメージCVを考える際に鬼頭さん以外に早見沙織さんや上坂すみれさんか悩んでいた。
イーブイ✨ イメージCV:悠木碧
一人称は『私』で、人間達やポケモン達の事をさん付けて呼ぶが、イルマだけは呼び捨てで呼ぶ。慎ましやかで人と関わるのがやや苦手だが、同じ色違いのリンのイーブイには興味津々。
このコラボが提案された理由は、マルスプミラでも主人公の手持ちとして白銀のイーブイが登場するからであり、謂わばイルマとリンが邂逅した不思議な力の源。
ラルトス✨ イメージCV:水樹奈々
一人称は『私』、イルマに限らず人間もポケモンもさん付けで呼ぶ。臆病な性格。
イメージCVを水樹奈々さんにした理由は、作者が個人的に好きな声優だった事と、何となく似合う気がしたから。イメージとしてはNARUTOの日向ヒナタを連想させると分かりやすいかもしれない。
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