魔入りました!入間くん if Episode of ポケットモンスター   作:MTHR

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今回のサブタイトルの元ネタは、暴太郎戦隊ドンブラザーズのドン10話『オニがみたにじ』をオマージュしております。


39話 オニがでるよる

 ガラル地方に隠れ住んでいるリコの祖母ダイアナから、ガラルファイヤーの一件でペンダントから変化した亀のポケモンが【テラパゴス】という名前で、昔古の冒険者ルシアスと共に旅をしていたポケモンである事や、ダイアナなペンダントの秘密を知るために旅に出たと言う話を聞いたリコ達の前に現れたのは、アメジオ達エクスプローラーズであった。

 

 アメジオはリコ達の前で自身を見つめて鳴き続けるテラパゴスを見て、口を開いた。

 

「ペンダントだったポケモンだな……ソイツを渡してもらおう」

「パゴォッ!」

「ダメ、テラパゴス!」

「テラパゴス……」

「パゴ!パゴォーッ!!」

 

 テラパゴスがアメジオに向けて鳴き続けていると、アメジオは廊下から何かが走り抜けていくことに気付く。

 次の瞬間、扉を勢い良く開け放ち、ダイアナのウインディが勢い良く客室に飛び込んできた。

 

「ウィーッ!!」

「ウインディ!?」

「ゴルダック、“みずのはどう”」

「ゴル、ゴダーーッ!」

 

 コニアの指示を聞いたゴルダックが口から猛烈な水流を吐き出すが、空中のウインディは軽々とそれを避ける。

 

「ソウブレイズ、“サイコカッター”!」

「オーガポン、“ツタこんぼう”を投げて!」

 

 ソウブレイズが撃ち放ったサイコパワーを纏わせた斬撃を、井戸の面にチェンジしていたオーガポンがエネルギーを纏わせた棍棒を投げ放って迎撃する。

 すると、客室にダイアナとイキリンコが飛び込んできた。

 

「無事かい!?」

「お婆ちゃん!!」

「ウインディ、“かえんほうしゃ”!」

 

 ウインディが強力な炎を吐き出すと、特性が“もらいび”でないソウブレイズが両腕の剣をクロスさせて炎を防ぐ。

 ソウブレイズの動きが封じられたのを見て、ダイアナはリコ達に声を投げ掛けた。

 

「逃げなさい!イキリンコ、頼むよ!」

「リコーーッ!」

 

 イキリンコが壁に掛けられた風景画の上に止まり、イキリンコの体重でガコンという音と共に風景画が下に下がると、何と風景画の真下の床の一部が開き、隠し階段が現れた。ここから逃げろと言うことだろう。

 

「お婆ちゃんは!?」

「忘れ物があるのさ、後でね」

「皆、急げ!」

 

 フリードがリザードンをモンスターボールに戻してリコ達を促し、四人はイキリンコと共に隠し階段を下っていく。

 コニア達が妨害しようとするもウインディの“かえんほうしゃ”がそれを邪魔し、リコ達全員が階段を降りると、隠し階段の入り口がシャッターのように閉まる。

 

「……随分と派手にやってくれるね!」

「何者か知らんが、我等エクスプローラーズの邪魔をするな!!」

「エクスプローラーズ……!?それは思ってもみなかった展開だね……」

 

 ジルが明かした組織の名に、ダイアナは驚きながらも目付きを鋭くする。

 アメジオがソウブレイズに指示を出そうとした瞬間、ダイアナはウインディの背中に飛び乗り、ウインディはダイアナを乗せながら駆け出して、窓ガラスを突き破って外へと退避する。

 

「無茶苦茶だ……」

「ヤツは良い。テラパゴスを追うぞ」

 

 ダイアナの大胆な行動に驚くジルを促し、アメジオはテラスの外を見ながら呟いた。

 

 

 

 

 

 

 

 階段を駆け降りた先の地下通路で、リコはテラパゴスをリュックの中に入れ、ミブリムをモンスターボールの中に戻すと、フリードがスマホロトムを手にしながら口を開く。

 

「一先ずここから逃げるぞ」

「分かった」

 

ドガァアアアンッ!

 

「ひゃあっ!?」

 

 その時、地下通路の天井が音を立てながら破壊され、その衝撃で出来た穴から右手と顔を出したサイドンが姿を現すのを見て、リコ達は慌てて地下通路を走り抜けていく。

 サイドンはリコ達を追おうとするが、穴が小さかったのか、サイドンは詰まってしまい、地下通路に降り立つことが出来なかった。

 

 そして地下通路を走り抜けていったリコ達がやって来たのは、古城から離れた場所にある塔の中であった。イキリンコが「リコ」と叫びながら、塔の上へと飛び上がっていく。

 

「行けるか、皆」

「「「うん!」」」

「よし!」

 

 フリードを先頭に、イルマ達は直ぐ側の階段を駆け上がる。

 数分してから、塔の中にリコ達を残し、「ダイアナー!」と飛び去っていくイキリンコと共に屋上へたどり着いたフリードは、スマホロトムを取り出してブレイブアサギ号と連絡を取ろうとする。

 

「聞こえるか!?オイ、マードック!」

 

 フリードがスマホロトムに呼び掛けていると、アメジオを背中に乗せたアーマーガアが、翼を羽ばたかせながら塔の屋上までやって来た。

 

「逃がすと思ったか!?」

「悪りーな!今取り込み中だ!」

「…ッ!ふざけるなッ!!アーマーガア、“ぼうふう”!!」

 

 飄々とした態度のフリードに苛立ちを見せたアメジオはアーマーガアに指示を出し、アーマーガアは翼を大きく動かして強力な風を起こす。その風に、フリードは少しだけ風に身体を浮かされながらも屋上に着地する。

 フリードはアメジオに電源が入らないスマホロトムを見せながら、ニヒルな笑みを浮かべて声をかける。

 

「……ったく、ちょっとくらい待てないのかよ?」

「……ッ!!」

「いいぜ。相手になってやる……だがここは場所が悪いな!」

「何っ!?」

 

 何とフリードは数十メートルはあるであろう塔の上から飛び出したのだ。

 驚くアメジオに、フリードは落下しながらモンスターボールを開いてリザードンを出してその背中に飛び乗ると、窓から此方を見るリコ達にウインクしながら高度を下げ、リザードンは古城の上に降り立った。

 

「さあここまで来いよ!相手になってやるぜぇ!」

 

 フリードの言葉に、アメジオを乗せたアーマーガアはリザードンの前に降り立ち、アーマーガアの背中から降りたアメジオはモンスターボールを投げ、ソウブレイズを繰り出した。

 

「二対一か?」

 

 キャップをブレイブアサギ号に残しているためリザードンしかいないフリードがそう尋ねると、アメジオはアーマーガアをモンスターボールに戻した。

 

「これで勝負だ」

「……相変わらず真面目だこと」

 

 2対1の方が勝率が高いというのに、態々サシの勝負をしようとするアメジオにそう言いながら、フリードとリザードンは戦闘態勢を取った。

 

「ソウブレイズ、“サイコカッター”!」

 

 アメジオの指示と共にソウブレイズが斬撃を放ち、バトルの幕が切って落とされた。

 

 

 

 

 

 激戦を繰り広げるフリードとアメジオを、塔の中から心配そうにフリードを見つめるリコ達。フリードとアメジオは何回かバトルを繰り広げているが、2人の勝負に決着がつい事は一度もない。2人の隔絶した実力を知るリコ達は、フリードの勝利を信じながらその背中を見守り続ける。

 そんな彼女達の後ろ姿を、闇夜の影に潜みながら忍び寄る、蜘蛛のようなポケモンがいた。

 

「ワナ……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 フリードとアメジオのバトルは、激戦となりながらもフリードが勝利を収めた。

 ガラル鉱山でその驚異を味わったイルマから聞いていたソウブレイズの“くだけるよろい”を発動させないように敢えて特殊技で戦っていたフリードとリザードンだったが、ソウブレイズは“サイコカッター”で塔の壁を破壊し、瓦礫をリザードンに向けて落とさせる事で“ドラゴンクロー”を誘発させ、“ゴーストダイブ”でリザードンの前に回り込んでリザードンの爪による一撃をわざと受けることで、特性“くだけるよろい”を発動。その圧倒的なスピードでリザードンを追い詰めていった。

 トドメの一撃に“サイコカッター”を放とうとするのを見たフリードは、切り札であるテラスタルを発動。あくテラスタイプになったリザードンはエスパータイプの“サイコカッター”を無効化し、逆にあくテラスタルをしたことでタイプが変化して、ゴーストタイプに効果抜群となるリザードンの“テラバースト”が炸裂し、ソウブレイズは限界を向かえて倒れ付したのだ。

 

「うおぉ~!リザードンの“テラバースト”……やっぱりすげぇ~!!」

「ホーゲー!!」

「リザードンのテラスタル……凄い……」

「これがフリードさんの本気……」

 

 キタカミの里でマシマシラと戦った際に一度見ているが、やはり圧倒的なまでのリザードンの力にロイとホゲータはキラキラと目を輝かせ、リザードンのテラスタルを始めて見たリコとイルマはその光景に目を奪われていた。

 

「ラルルッ!」

「──ッ!?」

 

 その時、イルマが抱き抱えていたラルトスが声を上げると同時に、イルマの背筋に冷たいものが走る。それは、全身が痺れるような警告。

 その悪寒の正体も分からないまま、イルマは本能に従って声を響かせた。

 

「オーガポンッ!!」

「ぽにぃっ!!」

 

 イルマに指示され、オーガポンは緑のエネルギーを纏わせた棍棒を振るい、リコの背後に迫っていたポケモンをぶん殴る。そのポケモンは、腕を交差させて棍棒の一撃を受け、棍棒の勢いで後ろに飛び、階段に着地した。

 

 リコを襲おうとしていたのは、凧糸巻きのような姿の蜘蛛のポケモンだった。

 目は前面1対がスコープのように大きくなりキリッとした白目になった他、顔の左右にも2対の目が張り出している。スリムな体格も相まって虫というよりはロボットのような雰囲気。腹部がボビンのように糸が巻いて、脚先とお尻の先端に糸を繰り出す点がある。

 下から顔を覗かないと分からないが、クモの口元(鋏角と触肢)のようなパーツの裏には小さな口が隠れている。8本脚ではあるが、普段は脚を2本ずつ束ねているため一見すると4本脚に見える。

 

「ロトム、あのポケモンは!?」

 

『ワナイダー。トラップポケモン。むしタイプ。木の枝や天井に糸で張り付き、音も無く行動する。獲物に気付かれる前に倒す』

 

 イルマがそのポケモン──【ワナイダー】をスマホロトムで検索する。

 同時に、リコ達の真上から、不気味な声が掛けられた。

 

「ハァ~~……不意打ち失敗かぁ~~~」

 

 その声を聞いたリコ達が反射的に上を向くと、その光景に顔を青くする。

 視線の先には、ワナイダーが射出したものと思われる糸が、塔の内部に張り巡らされ、その糸に足を粘着させて逆さ釣りになっている、目元に三本の線と長い黒髪を三つ編みにしている長身の男が、にやけた表情を浮かべて、見上げるように首を上に上げ自分達を見下ろしていた。

 

 その男の不気味さにリコ達が怯えて一歩下がると同時に、その男はニヤリと口角を吊り上げ、独り言にも思える声量で喋る。

 

「──やれ、ワナイダー」

「ッ、オーガポン、“ツタこんぼう”!!」

 

 その小さな声量の指示を聞き入れたワナイダーが地を蹴り、8本中6本の腕をリコに向かって突き出そうとし、スマホロトムでワナイダーが虫タイプという情報を聞いてからお面を着け変えて竈の面にチェンジしていたオーガポンが、炎の棍棒をワナイダーに叩き付ける。

 流石に効果抜群の炎技は効いたのか、ワナイダーは痛みと熱さに顔を歪めて後退する。

 階段に降り立ったワナイダーの元に、天井に逆さ釣りになっていた男が降り立った。男は、リコとロイを守るように前に立っているイルマとオーガポンとモクローを見て、歯を見せながら笑う。

 

「……オーガポン。キタカミの里に伝承されている伝説のポケモン……まさか、そーんなレア物を連れたトレーナーがいるとはァ……」

 

 つらつらと言葉を並べる度に、男はその瞳に狂喜を宿し、浮かべる笑みが更に不気味な物になる。

 その笑みにリコ達が本能的に恐怖を抱いていると、リコ達を追って階段を駆け上がってきたコニアとジルが、ワナイダーを連れた男を見て驚愕する。

 

「アイツは……アトリ!?」

「なんでお前がここにいる!!」

(やっぱり、この人もエクスプローラーズ!)

 

 アメジオの部下二人の様子から、【アトリ】と呼ばれたこの男もエクスプローラーズの仲間だと察したイルマ達。だがアメジオ達と違い、とても常人とは思えない程の狂気に、リコ達はこの男がある意味においてはアメジオ以上に危険だと理解させられる。

 そんなイルマ達を他所に、アトリはチラリとコニアとジルに目を向け、飄々とした態度でジルの質問に答える

 

「俺の()()からの命令さ。お前らじゃあ目的地達成は無理そうだからなァ~」

「何だと……!?」

 

 明らかにコニアとジル、そしてアメジオすらも見下した様に喋るアトリに、二人の目が鋭くなり、ターゲットの事を忘れてアトリを睨み付ける。

 

「……リコ、ロイ君。あのアトリって人は僕が相手する。二人は先に行って」

「そんな……それじゃあイルマが危ないよ!」

「でも、あの人達はテラパゴスと、リコを狙ってるんだ」

 

 会話の内容から、アトリがアメジオとは別のエクスプローラーズの幹部の手先だと理解したイルマは、リコとロイに自分を残して先に逃げろと告げると、アトリとワナイダーに向かい合う。リコがそんなことは出来ないと言うが、そもそもエクスプローラーズはリコとテラパゴスを狙っているため、あの危険と思われる男の前にリコを置いておくことは出来ないと彼女を諭す。

 

「…大丈夫、僕達は負けないよ。直ぐに追い付くから」

「………イルマ、無茶しないでね」

「勿論。ロイ君、リコの護衛を任せたよ」

「……うん」

 

 リコとロイは窓から外に出て、梯子を下っていくと、コニアとジルが踵を返して塔の階段を降りていく。

 

「ん成る程ォ。お前が俺の足止めって事かぁ?」

「えぇ、貴方はかなり危なそうですからね。リコを追わせない」

 

 アトリの狂気に怯んでいたとは思えない、強い瞳でアトリを見据えるイルマを見て、アトリは更に凶悪な笑みを見せる。

 ワナイダーは多彩な技を覚えられるが、全体的な能力値は虫タイプの進化系ポケモンの中でもかなり低いスペックのポケモンであり、ポテンシャルはオーガポンが圧倒的に上だ。野生の個体ならモクローでも倒せそうだが、何故かイルマの本能が、コイツを相手に出し惜しみをするなと告げていた。そして、この直感に逆らうなとも。

 

 数秒の間沈黙が続くなか、アトリの呟きのように小さな声が、バトル開始の合図だった。

 

「ワナイダー、“じごくづき”」

「ワナッ!」

「オーガポン、“ツタこんぼう”!」

「ぽにっ!」

 

 ワナイダーが6本の腕を重ね合わせ、まるで一本の槍のようにしてそれを突き出し、オーガポンは棍棒に炎を宿し、それを突き出す。

 やはりと言うべきか、パワーは圧倒的にオーガポンが上であり、ワナイダーはやや押され気味になるが、驚いたことにワナイダーは吹き飛ばされず、真正面からオーガポンの“ツタこんぼう”を受け止めていた。アトリとワナイダーの雰囲気から何となく察していたが、このワナイダーは相当鍛えられている。

 

「オーガポン、もう一度“ツタこんぼう”!」

「“ふいうち”」

「ワァッ!」

「ぽにっ!?」

 

 もう一度棍棒を御見舞いしようと棍棒を振り上げるオーガポンだが、その隙をついたワナイダーがオーガポンの顔面に糸を吐きかけ、それに怯んだオーガポンの鳩尾に強烈なパンチを炸裂させ、オーガポンは数歩後退する。

 

「“ふいうち”……それなら、オーガポン、壁に“ツタこんぼう”!」

「ぽにぃっ!」

 

 オーガポンは棍棒を塔の壁に叩き付け、壁を破壊する事で瓦礫が散乱する。オーガポンは炎を纏わせた棍棒を一閃し、空中の瓦礫が炎に包まれる。

 

「“つるのムチ”!」

「ぽにおーっ!」

 

 オーガポンは身体から蔓を出し、それを振るって空中の炎の瓦礫を叩き、ワナイダーに投擲する。

 

「…確かにこれは技じゃねぇから“ふいうち”は発動できねぇが……」

「ワナッ!」

 

 迫り来る炎の岩石を前に、ワナイダーは高く飛び、天井に張り巡らせていた糸に張り付き、岩石の直撃を回避する。

 

「オーガポン、“ツタこんぼう”で糸を燃やして!」

「ぽっ!」

 

 足場を奪うため、オーガポンは炎を纏わせた棍棒を糸に当て、棍棒の炎を糸に着火させる。

 炎は導火線のように天井に張り巡らせていた糸に広がっていき、瞬く間に全体をもやしつくす。迫り来る糸を前に、ワナイダーは素早く糸を蹴って階段の上に降り立ち、炎を回避する。

 

 焼き焦げた糸の残骸が降り注ぐなか、オーガポンは床を蹴って真っ直ぐにワナイダーとの距離を積める。

 

「“ツタこんぼう”!」

「ぽにおーっ!」

 

 指示を受けたオーガポンは棍棒に炎を宿し、ワナイダーに向けて振り下ろそうとするが、その棍棒が直撃するよりも早く、アトリの口が動いた。

 

「引き寄せろ、ワナイダー」

「ぽにっ!?」

 

 その瞬間、オーガポンが破壊して、飛ばせずに転がっていた瓦礫の数々が、磁石のようにオーガポンに引き寄せられる。目を見開くイルマとオーガポンだったが、その瞬間に気付いた。ワナイダーの手から射出されている糸が、オーガポンに接近する瓦礫に巻き付いているのを。

 オーガポンは咄嗟に“いしずえのめん”にチェンジし、ワナイダーに振り下ろす筈だった棍棒を振るって迫り来る瓦礫を一掃すると、バックステップでイルマの前に下がる。

 

「やっぱり強い……それなら、出し惜しみはなしでいく!」

「!テラスタルオーブ……」

 

 イルマが取り出したのは、先程フリードが使っていた物と同一のモンスターボール型の宝石、テラスタルオーブ。

 

「オーガポン、ジョーズに輝いて!」

 

 その言葉と共に、イルマの手の中のテラスタルオーブに光が集まり、淡い光を放つそれを、再びかまどのめんに変わったオーガポンの頭上に投げ放つ。

 

「ぽにおっーーっ!」

 

 包まれた宝石が砕けて姿を表したオーガポンの前には、鬼の形相を浮かべ、額から立派な角を生やし、炎のように揺らめく黄色の髪を持った赤い宝石の仮面がうかんでいた。

 

「炎タイプの、テラスタル……!」

「ワナッ……」

 

 虫タイプのワナイダーと相性の悪いテラスタルを前に、ワナイダーとアトリの表情が僅かに厳しくなるが、その隙をついてイルマはオーガポンに指示を出す。

 

「“ツタこんぼう”!」

「ぽにーーーっ!!!」

 

 オーガポンが掲げた棍棒が巨大化し、灼熱の炎に包まれる。圧倒的なエネルギーを宿したそれを掲げ、その炎が最大限にまで高まった瞬間、オーガポンは愛用の棍棒を振り抜いた。

 

ドッガァアアアアアアアアアアアアアアアンッ!!!

 

 その瞬間、塔の壁を突き破り、そこから怪獣が吹くかのような炎が噴き出した。

 あまりの轟音と熱量と光に、アメジオとフリード、中庭にいたリコとロイとアメジオの部下達。更には廊下にいたダイアナと、エクスプローラーズのボスの側近にしてダイアナの古い友人【ハンベル】も、塔の方に目を向けた。

 

 一方、その光景を作り出すように指示を出したイルマ(張本人)は、塔に開けられた半径五メートルはありそうな大穴を見上げながら、ピクピクとひきつった笑みを浮かべていた。

 

(──えげつない)

「……もふふ、もふぅ(どう考えてもやりすぎだろ、これ)」

「ぶいぃ……(跡形もなくなりました……)」

「(゚д゚)」

 

 アクション映画顔負けの迫力にイルマは口端を引き吊らせ、モクローとイーブイは率直な感想を述べ、ラルトスは目玉が飛び出さんばかりに驚愕していた。

 分かっていたことだが、ただでさえ破格のスペックを持つオーガポンにテラスタルの組み合わせは、もはや一種の兵器レベルのようだ。攻撃に特化した竈の面だったことも一員だろうが、出し惜しみなしとはいえ、オーガポンをテラスタルさせるのはもっと考えて使わなければとんでもない事になるかもしれないとイルマは教訓として頭に強く覚えさせる。

 やがてテラスタルが解除されたオーガポンがイルマ達の方を向いて無邪気な笑みを見せながら手を振るのに苦笑い気味に応えていると、イルマ達の耳は古城の方で何かの地響きが聞こえてくるのを捉えた。

 

「今のは……!?」

「ぽにっ!?」

 

 その時、オーガポンが空けた大穴の手前で、黒焦げになった瓦礫の山が動き、そこから一人の人間と一体のポケモンの姿が現れた。言うまでもなく、アトリとワナイダーだ。

 

「……そんな、ほぼ軽症…!?」

 

 そのつもりがなかったとは言え、普通なら致命傷レベルのオーガポンの技を受けておきながら、アトリもワナイダーも殆んど軽症だ。流石に無傷とはいかなかったようで、アトリの服はあちこちが焦げ、ワナイダーも火傷を負って荒い呼吸を繰り返しているが、戦闘を続ける分には全く問題なさそうであった。

 その時、イルマはワナイダー達の身体に蜘蛛の糸のようなものが微かに巻き付き、地面には消し炭にされた何かがあることに気付き、その答えを導き出した。

 

「ワナイダーの糸でガードして、熱と衝撃を防いだのか……」

「んその通り~~。まぁ、結構ダメージはもらったけどな~」

 

 イルマの予想にアトリは間延びした口調で答える。

 普通なら逆上するのが当たり前の筈なのに、まるでこの状況を愉しんでいるようなアトリの姿に、イルマ達はより一行この男の異常性を感じとる。

 ……その時、外から入り込んできた冷気に、イルマはゾクッと身震いした。

 

「寒っ!なにこの寒さ!?」

 

 何事かと身構えるイルマに、モクロー達はまたエクスプローラーズの刺客かと周囲を警戒するなか、同じくその冷気を感じ取ったアトリが不気味に笑い出す。

 

「フ、フフ…時間切れかぁ~~。巻き添えはゴメンだし、ここで退散するかぁ~」

「ワナッ!」

「あっ、ちょっと!」

 

 イルマが引き留めるよりも早く、アトリはワナイダーと共にオーガポンが空けた大穴から外に飛び出した。イルマが慌てて大穴の前に駆け寄って外を見てみると、アトリをのせたワナイダーが、まるで某赤い蜘蛛のヒーローように糸を使って古城を飛び回っていた。

 その瞬間、リザードンとのバトルでソウブレイズが大きな傷跡をいれた向かい側の塔が、音を立てて崩れ始めた。フリードがリザードンに乗り、アメジオはアーマーガアをボールから出して背中に飛び乗り、瓦礫の下敷きになることを回避する。

 

 イルマがそれに驚いたと同時に、イルマ達がいた塔も、大穴を起点に全体に日々が広がっていき、少しずつ崩れ始める。

 

「ラルッ!」

 

 それを見たラルトスが、力を集中させ、イルマ達と一緒に“テレポート”で別の場所へと転移した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 アトリの相手をイルマに任せ、追いかけてきたジルとコニアが繰り出してきたゴルダックとサイドンをニャオハとホゲータで相手をしていたリコとロイ。

 効果抜群の技でコニアのゴルダックを倒し、“じだんだ”を食らってダメージを受けたサイドンにジルが“すなあらし”を起こさせようとした瞬間、地響きが起きて、古城から結晶の様なものに身体を蝕まれたサッチムシとギモーが現れ、粉雪が枚落ちると同時に、塔が崩れる。

 

「塔が………」

「何が起こってるの……!?」

「巻き込まれる前に……」

「脱出だ!!」

 

 呆然と崩れた塔を見上げるロイとリコ。そんな隙だらけの二人を前にしても、コニアとジルは二人を攻撃することなく、飛行要員であるエアームドをボールから呼び出し、背中に乗って空へと飛び去っていった。

 同時に、謎の火柱により大穴が空いていた塔がひび割れ崩れ落ちるのを見て、リコの顔が蒼褪める。

 

「あの塔は……イルマッ!!」

「!見て、あれ!」

 

 ロイが指差した先には、大きな顔に立派な黒い角を持つ鬼のような、しかしオーガポンと違い胴体が存在せず厳つい形相をしたポケモン、【オニゴーリ】。

 そして、オニゴーリの頭の上に、一人の少女が立っていた。

 

 ピンクのツインテールで、目尻だけピンクのアイラインを濃く塗っている。

 黒と黄色を基調とした服装に加え、両袖、腰、左膝に絆創膏の装飾、頭に十字形絆創膏、足首とツインテールの結び目に包帯が巻かれている。

 

「見ぃーつけた!オニ楽勝じゃん♪」

 

 物凄く身近な誰かとそっくりな声をしているその少女──サンゴは、余裕綽々とした態度で話す。

 同時に、リコ達の背後の壁が音を立てて破壊され、そこからピラミッドじみた岩の巨人のような姿をしたポケモン【キョジオーン】と、そのキョジオーンの巨体に並び立っても遜色ないほどの寡黙な雰囲気の巨漢が姿を現した。

 

「そこを動くな、子供達」

 

 大男──【オニキス】が二人に告げ、サンゴが頭の上から降りたオニゴーリとキョジオーンがジリジリと迫ってくる。

 明らかにジルとコニアと格が違う相手を前に、リコとロイが背中合わせになって後退っていくと……

 

ピシャアアアアアンッ!!!

 

 雷鳴と電光と共に、リコ達の前に船長帽を被った小さな黄色い影が降り立った。そう、キャップだ。

 

「えっ!?」

「ピカチュウだと!?」

「ピッカァッ!!」

 

 サンゴとオニキスが予想外の乱入者に注目した瞬間、船長帽を脱ぎ捨てたキャップは右手に雷撃を纏い、オニゴーリに“かみなりパンチ”を御見舞いする。

 不意打ちを受けたオニゴーリは溜まらず吹っ飛ばされる。

 

「オニゴーリ!!」

「キョジオーン!」

 

 吹き飛ばされたオニゴーリをキョジオーンが受け止める。しかし、オニゴーリはキョジオーンの腕の中から飛び出し、リコ達に襲い掛かろうとする。

 

「オーガポン、“ツタこんぼう”!モクロー、“シャドークロー”!」

「ぽにいっ!」

「オニッ!?」

「もふぅ!」

「ゴゴッ!」

 

 しかし、その瞬間高い声がその場に割り込み、オニゴーリに炎の棍棒、キョジオーンに暗黒の爪が迫り、二体はそれを受け止め、後退する。

 予想外の事にリコ達やサンゴとオニキスも驚いていると、二人の前、キャップの離隣にオーガポンとモクローが降り立ち、リコとロイの背後から先ほどの高い声が掛けられた。

 

「皆、大丈夫!?」

「イルマ!無事だったんだ!」

「うん。ラルトスのお陰でね」

 

 そう、それは先程まで崩れた塔の中にいると思われていたイルマだった。彼の腕の中にはラルトスがおり、彼女の“テレポート”によって古城の中に避難することが出来たのだ。

 

「ピカピカッ!」

 

 更に空からブレイブアサギ号の姿が見えてくると、そこからメタグロスとチルタリスが飛び出し、リコ達の前に降り立った。

 

「メタッ!」

「チルッ!」

「ありがとう、メタグロス、チルタリス!ニャオハ」

「ホゲータも」

「オーガポン、後はここで休んでて」

 

 言葉は通じないが、「我らに乗って脱出するぞ」という事を察したリコがメタグロスとチルタリスに礼を言いながら、相棒を肩に乗せたリコとロイはメタグロスの頭の上に、オーガポンをモンスターボールに戻したイルマはチルタリスの背中に飛び乗ると、二体のポケモンは宙へと浮遊する。

 

 空に浮かぶブレイブアサギ号を一瞥した後、オニキスは冷静にキャップに視線を下ろす。

 

「……そうか、奴らの仲間か」

「ピーカッ!」

「ハッ、ちっこい奴が何様!?オニギレだっつーの!オニゴーリ、“ふぶき”!」

「キョジオーン、“ワイドガード”!」

 

 オニゴーリが吐き出した極寒の息吹を避けるキャップ。その背後にいたキョジオーンは、バリアを張って味方からの攻撃を防ぐ。

 

「狙い撃てキョジオーン!“しおづけ”だ!」

「キョー……」

 

 キョジオーンの指から大量の塩を空中にいるキャップに向けて放とうとするが、キャップは直前で割り込んできたリザードンの背中に乗る。

 

「行けぇ!“ボルテッカー”!!」

「ピカアッ!ピッカピカピカピカ……ピカピッカーーッ!!」

 

 キョジオーンの塩が放たれると同時にリザードンの背中から飛び出したキャップは、その身体に電気を纏い、壁を走り、塩を避け、キョジオーンに突撃する。

 キョジオーンはそれを受け止めようとし、数秒間の間キャップとキョジオーンの力が拮抗するが、キョジオーンは吹き飛ばされ、壁に激突。地面に崩れ落ちる。

 

 地面に着地したキャップと、オニゴーリの頭の上に乗るサンゴの視線がぶつかり合う。

 その瞬間、サンゴは嫌悪と憎悪が入り交じった凄まじい形相を浮かべる。

 

「ハァ〜〜あ?オニダルー!オニゴーリやっちゃえ!!」

「オニッ!!」

「!やめろ、サンゴ!!」

 

 サンゴが何をする気なのか察したのか、オニキスが中断するように呼び掛けるが、サンゴもオニゴーリも止まらず、サンゴが頭の上から飛び降りた瞬間、オニゴーリは凄まじい形相でキャップに接近する。

 

「オニゴーリ、“じばく”!!」

 

 サンゴの指示が轟き、オニゴーリの身体は凄まじい大爆発を起こし、中庭を爆炎と爆煙で包み、凄まじい轟音が鳴り響く。

 

 キャップと、キャップを助けにいこうとしていたリザードンとフリードの身を、ライドポケモンの上から心配するリコ達であったが、その瞬間にキャップを確保したリザードンが、無傷で爆煙の中から飛び出した。

 そしてリコがダイアナは大丈夫なのかと心配した時、古城から荷物を抱えたダイアナを乗せたウインディが勢いよく飛びだし、上空のブレイブアサギ号の、展開されたウイングデッキの上に降り立った。凄まじい跳躍力である。

 

 夜が空け、朝日が登ると共に古城から飛び去っていくブレイブアサギ号を、エクスプローラーズの面々は半壊した古城から眺め続けていた。

 




~イルマくんのテラスタル時の台詞~
元ネタはリコのテラスタル時の「満開に輝いて」と、暴太郎戦隊ドンブラザーズで村瀬歩さんが勤めたドンムラサメの名乗り「ジョーズに目覚めた、ドンムラサメ!!」を混合したもの。

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