魔入りました!入間くん if Episode of ポケットモンスター   作:MTHR

42 / 72
今回はイルマくん達の過去編を投稿しました。
if魔フィアをお話のベースとしているため、幼少期のリコのキャラが違ってたり、無理のある展開になっているかもしれませんが、ご了承下さい。

※少し文章を変えました。


閑話 パルデア地方のイルマくん

 五年前。

 パルデア地方の森の中に、小さな人間の影とポケモンの姿があった。

 

「……はい、どうぞ」

「パチッ!」

 

 3本の触覚を持つ外ハネした青い髪に、薄汚れたヨレヨレの服を着た、年端もいかない少年は、腹を空かせているパチリス達に自身が集めた木の実を差し出すと、パチリス達はそれを口に咥え、何処かへと走り去っていく。少年は、その後ろ姿にヒラヒラと手を振って見送った。

 

 イルマ(5歳)。

 彼に両親はおらず、1人で生きている。

 何事も受け入れて断ることをせず、人であろうとポケモンであろうと皆助けてしまう生粋のお人好し、それがイルマという少年であった。

 

「ヤコヤコ」

「あっ、ヤヤコマ」

「ヤコッ」

「くれるの!?ありがとうっ!!」

 

 そんなイルマの気質は、自然と人を惹き付けるのか、イルマはポケモンと仲良くなるのが上手い。今も自身の持つ食料全てを差し出した事でお腹を鳴らしていたイルマに、知り合いのヤヤコマがオボンの実を渡してくれる。

 イルマはヤヤコマに礼を言いつつ、自身の住みかとしている場所に帰っていく。

 

 孤児のイルマに家はない。所望ストリートチルドレンの類いだ。『チャンプルタウン』から東へ進んだ『プルピケ山道』の洞窟入口の上の崖を登った先の『ナッペ山』の崩れた遺跡北の木の近くに立てたボロ布のテント(イルマの家)まで帰ってきたイルマは、目の前の光景に目を剥いた。

 

(僕の家の前で人とポケモンが死んでる!!?)

 

 そう、テントの前には、背の高い禿げ頭の男性と、黄色い竜の姿をしたポケモン【カイリュー】が、共にうつ伏せになって倒れていたのだ。一人と一匹の腹と接触している地面には、赤黒い液体が水溜まりを作っている。

 

「誰……?血、いっぱい出てる。どうしよう……」

 

 どうすれば良いのか分からずに混乱するイルマ。イルマがあたふたしている間にもドクドクと男性とカイリューの血の水溜まりが広がっているのを見て、イルマは慌てて男性とカイリューに駆け寄った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 腹部の激痛に顔を歪めながら、壮年の男性は目を覚ます。

 目を開けて最初に視界に入ってきたのは、心配そうに此方を見ている小さな少年であり、その男性──サリバンは、ガバッと仰向けに倒された身体を起こした。

 

「てっ……天使……ゴフッ」

 

 突然起き上がったサリバンにイルマがビクッと肩を震わせると、サリバンは吐血しながら腹を鳴らす。

 

「腹が減ってるわ痛いわ……」

「カイリュ~?」

「カイリュー、無事だったのか……」

「リュ~」

 

 お腹を抑えて呻くサリバンに、彼のパートナーであるカイリューが心配そうに眺めている。

 彼の身体には包帯のようなものが巻かれており、自分も上着を脱がされてシャツの下に包帯が巻かれていることに気付いたサリバンは、恐らく手当てを施してくれたであろうイルマに視線を向けると……オレンの実を差し出すイルマの姿。

 

「あ、あのっ、大丈夫…ですか?どうぞ!」

「……君が、助けてくれたのかい?名前は?」

「イルマ!あっ、お水もあるよ!」

 

 それから、イルマはサリバンとカイリューの手当てを進めていく。

 友達の【イエッサン】達に協力してもらいながら、サリバン達に木の実を分け与えたり、サリバン達に巻いていた包帯を交換する。

 そうしている間に日は沈み、布団と言う呼び名のボロ布の上で穏やかに眠るイルマの寝顔を、サリバンとカイリューは見つめ続けていた。

 

 翌朝、イルマが目を覚ますと、サリバンとカイリューの姿は何処にもなかった。サリバンとカイリューの為に敷いた布に触れてみると、既に布は冷たくなっていた。

 

「元気になったのかな……よかった……」

 

 何も言わずに去っていったサリバンとカイリューに、イルマは彼らの安否を考えていた。

 

 

 

 

 数日後。

 今日も森の中で木の実を探していたイルマの前に、炎の身体に宿した【ギャロップ】と、神秘的な美しい毛並みを持つ【ギャロップ(ガラルのすがた)】が引いている豪華絢爛な馬車が止まっていた。

 突然の事にイルマがポカーンと硬直していると、馬車のドアが開き、中から一人の男と、ドラゴン型のポケモンが出てきた。

 

「あ、あの時の…!?」

「よし。行こうか、イルマくん♡」

「カーイリュッ!」

 

 そう、出てきたのは、数日前にイルマが介抱していたサリバンとカイリューだった。

 イルマはカイリューに抱き上げられて馬車に乗せられ、ドアが閉じると同時に、2体のギャロップは歩きだし、馬車はガラガラと揺られながら進んでいく。

 

 そうして辿り着いたのは、湖が多い草原に建てられた、普通の一軒家の6~7倍はありそうな豪邸だった。

 

「自己紹介が遅れたね。わしはオレンジアカデミーで教師をしている、サリバンである。そして君は今、わしの家にいるんだよ」

 

 物珍しさにキョロキョロとしているイルマに、サリバンは自己紹介をすると、使用人の【オペラ】に耳打ちし、イルマはヒョイッとカイリューに抱き上げられ、ポスンとあるものの上に乗せられた。

 

「よしっ、準備はいいかな~?」

「カイリュ~♪」

(!!?)

 

 イルマが馬車の次に乗せられたのは、ヒラヒラのリボンやの飾りやニャオハのぬいぐるみが置かれている乳母車。

 乳母車を押して屋敷へ歩き出すノリノリのサリバンとカイリューに、真顔になるイルマ。それを見てため息をつきつつ、オペラと2体のニャオニクスは、サリバンを追って屋敷の中へと歩き出していった。

 

「ここがわしの部屋。隣は隠し部屋。こっちが金庫室で、こっちが会議室……あれ?楽しくなかった?」

「たっ、楽しいよ……」

「それはよかった!」

 

 無邪気な様子で屋敷を案内するサリバンに、イルマは不安を抱えながらもなんとか笑顔を作る。

 

「あっ、そうだ!わしの事はおじいちゃんって呼んでいいからね」

「?」

 

 疑問符を浮かべるイルマだったが、サリバンは気付く様子もなく、ウィンクをしながらイルマにとんでもない事を告げた。

 

「なんたって、今日から君は、わしのだからっ!」

 

「……え?」

 

 一瞬宇宙猫状態になったイルマだったが、すぐに言葉の意味を理解すると、途端に慌て始める。

 

「えっ、あの……」

「憧れだったんだぁ!孫をでろっでろ甘やかすの。ダイアナちゃんやレヴィにベリアールの孫自慢も羨ましかったし!それにさ……」

 

 呼び止めようとするイルマだが、サリバンは独り言のような言葉を止めず、ある出来事を思い返す。

 

 それは、サリバンとカイリューがイルマや知り合いのポケモン達から介抱されている間の出来事。テントの中で包帯を付け替えてもらい、最初より元気を取り戻したサリバンは、上半身を起こしてイルマと話をしていた。

 そんな中、サリバンはイルマにある質問をする。

 

『イルマくん、君は幾つ?』

『カイリュ?』

『5歳』

『ママとパパは?』

『えっと……わかんない。エヘヘ……』

 

 

 

 

 

「あんなの……保護しちゃうに決まってるじゃあんっ!!」

「ハイハイ、水分なくなりますよ」

 

 その時の出来事を思い返し、両目から滝のような涙を流すサリバンとカイリュー。オペラはニャオニクス達に“サイコキネシス”でバケツを浮かせて涙を廊下のカーペットにかからないように受け止めさせながらサリバンを宥める。

 

「まぁそれでも、君の意思は尊重するよ。だから、もちろん君に拒否権はある」

「え……?」

 

 拒否権はある。それはつまり、断ってもいいと言うこと。イルマは少しだけ迷うように俯くが、すぐに頭の触覚をピコピコと揺らしながら決意する。

 

(どっ、どうしよう!今までいろんなお願いされてきたけど、こんなお願いされたの始めてだな……でも、断ってい言ってたし、断ろう!)

 

 断ろう……断る……断……と、イルマの決意は小さくなって行き、根本的な問題に気付く。

 

(……あれ?そもそも“断る”ってどうすればいいんだっけ?)

 

 ポケモンと共存していたとは言え、劣悪な環境で育ってきていたイルマは、なぜかとてもお人好しな性格であった。

 そんなイルマは、生まれてこのかた頼み事を事わっ事なんて一度もない。こんな異常な頼みは断るべきだと言うことはわかるが、どうやって断ればいいのか、イルマにはそれが分からない。

 

「しか~~しッ!だからこそわしは全力でお願いするッ!!孫欲しい!!ど~~~~~~しても、孫欲しいっ!!」

「えっ」

「頼むッ!老い先短い老人を助けると思って、()()()だよッ、イルマくんッ!!」

 

 もう一度言う。イルマは生まれてから一度も頼み事を断ったことがないお人好しである。

 

「孫に……なり……たい…です……」

 

 イルマに、選択の余地はなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そうして、イルマは流されるままにサリバンの孫となって一週間が経った。

 お人好しな性分ゆえに断ることが出来ずに孫になったイルマだが、意外にも生活は充実していた。食べ物には困らないし、部屋は寝心地がいい。中庭に遊びに来るポケモン達が遊び相手になってくれる。気が付けば、イルマはサリバンの孫としての生活にそこまで苦を感じないようになっていた。

 

「えっと……おじいちゃん、今日は何処に行くの?」

「僕の古馴染みの娘さんとお孫さんの家だよ♪元々カントー出身なんだけど結婚してパルデアに来ていたらしくてね。イルマ君にお友達が出来るといいなぁと思ってさ!」

「今朝いきなり『孫が出来たから遊びに行く』なんて、向こうからしたら突然すぎて迷惑極まりないと思いますがね」

 

 原種とガラルのギャロップが引く馬車の中で、イルマがサリバンに質問すると、オペラがツッコミを入れる。

 そう話している間に、ギャロップの馬車は一見の大きな家の前に辿り着いた。馬車から降りたイルマ達は、扉の前に来て、サリバンが扉をノックする。

 

「はい……あっ、サリバン先生。お久し振りです」

「サリバーン!」

 

 ドアが開かれて家の中から出てきたのは、やや吊り気味の目に黒く長い髪をポニーテールにし、肩の上にイエローフェザーのイキリンコを乗せた女性。リコの母であり、サリバンの元教え子でもある【ルッカ】であった。

 

「いや~久し振りだねルッカちゃん。でも君も今は教師で母親なんだし、『先生』なんて呼び方しなくてもいいんだよ。そういえば、アレックスくんは?」

「夫は今、コルサさんに会いにボウルタウンの方にいますよ」

「カイリュ~」

「フフッ、カイリューもお久し振り」

「ヒサシブリー!」

「……この度は、突然の来訪お詫び申し上げます。これ、つまらない物ですが」

「いいえ、気にしないでくださいオペラさん」

 

 オペラが差し出した土産の品を受け取りつつ、ルッカはサリバンの足元にいるイルマに気が付いた。

 

「あら、もしかしてこの子が?」

「そう!僕の愛しの孫イルマくんだよ~!!」

「よ、宜しくおねがい、します……」

「あら、礼儀正しい子ね。私はルッカ。よろしくね、イルマくん」

 

 ルッカはイルマと目線を合わせて挨拶をすると、イルマはどぎまぎしながらもそれに応える。その時、家の中から幼い少女の声が聞こえてきた。

 

「……おかーさん。その人達、誰?」

 

 イルマやルッカ達が目を向けてみると、そこには青のインナーカラーの黒髪をした5歳ほどの少女が、ルッカの足元に歩み寄りながらイルマ達を見ていた。

 

「あら、リコ。彼等は、私の先生と、そのお孫さんよ」

「君がリコちゃんだね。わしはサリバン、ルッカちゃんの元先生かな」

「……」

 

 サリバンが穏やかな笑顔でルッカの娘──リコに挨拶をするが、リコはルッカのズボンをギュッと掴み、不安そうな目を向けるだけ。初めて会った見知らぬ大人に少し緊張しているのだろう。

 

「フフッ、ルッカちゃんやダイアナちゃんに似てるね~。あっ、この子は僕の孫のイルマくんだよ。ほら、イルマくんも挨拶しよ♡」

「は、始めまして…イルマ、です……」

「え、えっと……その……」

 

 今度はサリバンに促されたイルマが戸惑いながら挨拶すると、リコは何て言っていいのか分からないというように言い淀む。

 その時、ルッカのポケットに入っていたスマホが鳴り出し、ルッカはそれに応じる。

 

「はいもしもし。はい…はい…え!?今からですか!?」

「?」

「いえ、特に用事はありませんが…………わかりました。直ぐに行きます」

 

 通話を切ったルッカは、申し訳なさそうな表情をしながら、サリバンに話し掛ける。

 

「……すみません、サリバン先生。少しの間だけ、リコを預かっていただけませんか?」

「何かあったのかい?」

「はい。私、本当は今日は休みだったんですが、学校の職員が食中毒で倒れてしまったようでして。他に頼める先生もいなくて、私が代わりに授業を担当して欲しいと……」

「そっか、勿論構わないよ。イルマくんとリコちゃんの親睦を深める良い機会だしね♪」

「助かります」

 

 イルマとリコには、まだ幼いためルッカとサリバンが話していることを理解することは出来ないが、リコは何となく不安を感じてルッカを見上げる。

 

「おかーさん、どこ行くの……?」

「大丈夫よリコ。2~3時間で帰ってくるわ」

 

 ルッカがリコに優しく言うと、サリバンはリコとイルマを促して馬車に乗せ、ギャロップ達がサリバン邸を目指して歩き出す。

 ギャロップ馬車が30分程道を進み続けていると、馬車はサリバン邸に辿り着いた。

 

「さっ、ゆっくりしていってね」

「わぁ……」

 

 自分の家も一般家庭と比べれば大きい方だが、それ以上に大きく広くゴージャスな造りの家や庭に、リコはおもわず感嘆の声を漏らす。

 

「それじゃあ、わしは少し()()があるから。カイリュー、ニャオニクス、イルマくんとリコちゃんの遊び相手をしてあげててね♪」

「任せましたよ、ニャオニクス」

「カーイリュー!」

「「ニャオ」」

 

 カイリューと2体のニャオニクスが頷くと、サリバンとオペラは部屋の奥へと歩いていき、リコとイルマはカイリューに抱き上げられ、二人を抱えたカイリューはニャオニクス達と共に長い長い廊下を歩いていく。

 サリバン邸は廊下も豪華絢爛であり、壁にかけられた豪華な額縁に納められた絵画や、あちこちから見えるポケモンの姿にリコは目を奪われる。イルマもこの1週間で何回か見ているが、気持ちは分かると苦笑い。

 

「……?」

「あっ、ちょっと……」

「カイッ!?」

 

 その時、イルマは廊下の曲がり角で何かの影が通り過ぎるのを見て、イルマはカイリューの腕から飛び出してその影を追いかけ、リコも慌ててそれについてか行く。

 

 カイリューとニャオニクス達がそれに驚くなか、イルマはその影を追いかけていくと、そこには廊下の突き当たりに辿り着いた。

 

「ここかな……」

「あのっ、何処に……」

 

 イルマは廊下の突き当たりの奥にある、僅かに開いた扉を開けて中に入っていくと、リコもそれを追いかけて中に入り、パタンと扉を閉めた。

 

「リュ?」

「「ニャ?」」

 

 カイリューとニャオニクス2体は、キョロキョロとリコ達を探し回っていた。

 

 

 

 

 

 

「まっ、まっくらだよ……」

「と、とどかない……」

 

 イルマとリコが入った扉のなかは、様々な荷物を積めた箱が置かれた、しかし電気がついていないため殆んど視界が効かない部屋だった。恐らく物置かなにかだろう。リコは真っ暗な部屋の中に怯えてドアを空けようとするが、部屋の中だと引戸になっている為にドアノブに手が届かない。イルマは扉の横にあるスイッチに手を伸ばすが、5歳のイルマに届く筈もない。

 

──グルルルル……

 

「ひぅっ!?」

「な、なにいまの……」

 

 その時、物置の暗闇の中から、凄まじい殺気が籠っている唸り声が聞こえてきた。

 リコが目に涙を浮かべてイルマにしがみつき、イルマはビクッと身体を震わせる。だが、その唸り声に怯えながらも、ポケットの中にしまっていたマッチの箱を取りだし、その中からマッチを1本取り出して火を付ける。ホームレス時代に愛用していた生活必需品で、今もこうして持っていることが多いのだ。

 マッチの火が明かりとなって、暗闇から姿を見せたのは……

 

「ガァブゥッ!!」

「きゃあっ!!?」

「わぁっ!?」

 

 マッチの明かりに照らされたその生き物は、イルマとリコに向かって吠え、それを聞いた2人は怯えて尻餅をつきながらも、そのポケモンの姿を確認する。

 それは、撞木鮫とテリジノサウルスを合わせたような雄々しく、力強くもシャープな容姿を持ったポケモン──【ガブリアス】だった。背中のヒレに切れ込みが入っていないため、メスなのだろう。

 そのガブリアスは、鋭い目でこちらを睨んでくる。

 

「ガブキラァ……!!」

「ひっ……イ、イルマ、ここにいたらあぶないよ……はやく出よう!」

 

 鋭くこちらを睨み付けながらも、何故か動く気配のないガブリアス。

 リコはその殺気に怯え、はやくここから逃げようとイルマに言うが、イルマはガブリアスの……いや、性格にはガブリアスの背後をジーっと見つめ、手にしていたマッチを動かして、ガブリアスの後ろを照らす。すると、ガブリアスの足元に、小さなポケモンの姿が露になった。

 

「フカ……」

「!あの子、怪我してる……」

 

 そこにいたのは、鮫の頭部だけの体に、手足が付けられたような極端なデフォルメがされており、頭部には撞木鮫のような突起が左右対称に付いている、ガブリアスの進化前でもあるポケモン──【フカマル】。背鰭に切れ込みが入っているのでオスであることが伺える。

 そのフカマルの身体は見るからに傷だらけで、頭から血を流して苦しそうにしている。

 

「ね、ねぇ、だいじょう……」

「ガァブッ!!」

「うわぁっ!?」

 

 イルマがフカマルとガブリアスに声をかけようとしたが、その瞬間ガブリアスが大きく吠え、イルマは驚いて尻餅をついた。マッチは手放さなかったが。

 

「イ、イルマ……やめよう。ここははやくにげて……」

「でもっ、あの子けがしてるから、手当てしてあげないと…きっと、手当てさせてってお願いすれば……」

「むっ、無理だよ……あのポケモンあんなに怒ってるし、言うこときいてくれないし、助けるなんてできないよ……」

 

 度を越したお人好しのイルマがフカマルの手当てをしようと主張するが、恐らくフカマルの母親かなにかだと思われるガブリアスが我が子に触れさせるものかと行く手を阻むため、助けることなんて不可能、襲われる前に逃げようと言う。

 そんなリコに、イルマはこう返した。

 

「助けちゃダメなの?」

「……え?」

「あのポケモン、あの子が心配なだけなんじゃないかな?きっと、僕たちのことを怖がってるだけだよ。お願いすれば、きっと分かってくれると思うんだ。そうすれば、あの子達ともお友達になれるよ」

「……」

 

 イルマの真っ直ぐな表情から出てくる言葉に、リコは黙り込んでイルマを見つめ続ける。

 そんなリコに、キョロキョロと辺りを見回していたイルマは「これ持っててくれる?」と明かり代わりのマッチをリコに手渡すと、近くの中の箱を漁り、あるものを手にとってガブリアスとフカマルに近付いた。

 

 大怪我をしたフカマル(息子)を連れてこの屋敷の中に潜り込んでいたガブリアスは、目の前まで歩み寄ってくる人間の手にナイフが握られていることに気付くと、目を血走らせ、イルマに襲い掛かろうとする。

 

ザシュッ!

 

 しかし、ガブリアスが襲い掛かろうとした直前に、イルマは手にしていたナイフで自身の掌を軽く切りつけたのだ。

 予想外の行動にガブリアスとフカマルは目を丸くし、リコは突然のイルマの奇行に目を見開く。

 そんな周囲を他所に、イルマは掌の痛みに涙目になりながらも、手に持ったままのナイフで自身の服の一部を切り裂き、それを手にグルグルと巻いて、擬似的な包帯が巻かれた手をガブリアスに見せる。

 

「あのねっ、僕は、その子に手当て(これ)をしてあげたいんだけど……ダメ、かな?」

「………」

 

 真っ直ぐにこちらを見てくるイルマに、ガブリアスとフカマルは黙りこんでイルマを見つめ返す。

 しばらくそうしてイルマを見つめていると、フカマルはガブリアスの足元からフラつきながらも歩きだし、イルマの目の前に立った。

 

「……カマ」

「ありがとう!まっててね。今この服を破くから……」

 

 怪我の手当てをさせてくれる意思を見せたフカマルに礼を言いながら、イルマはナイフで自分の着ている服を裂き、それを包帯の代わりとしてフカマルの怪我をしている部位に巻き付けてやる。

 イルマから明かり代わりのマッチを手渡されたリコは、何も言葉を発さずにフカマルの治療を進めるイルマの背中を見ていた。

 

「……熱いッ!?」

「リ、リコちゃん!?」

 

 その時、リコが手に持ち続けていたマッチが火で短くなり、棒が短くなってきた事で下がっていた火がリコの手に辺り、突然の熱さにリコは短い悲鳴を上げながらマッチを放り投げ、イルマが慌ててリコの元に駆け寄った。

 その時、足元から光と共にシューッという音が聞こえてきて、イルマとリコ、そしてフカマルとガブリアスは足元を覗き込むと、そこには、アホみたいな形状にムカつく顔のイラストが施された、天辺に導火線がある丸い鉄の物体──爆弾があった。しかもリコが落としたマッチの火が引火したのか、導火線が火花を散らしながらみじかくなっていく。

 

 一瞬で、イルマ達の顔が青く染まる。

 その瞬間、ガブリアスが爆弾を蹴り跳ばして部屋の墨に爆弾を遠ざけると、フカマルとイルマ、リコの三人を抱き締める。

 

 

ドォオオオオンッ!!!

 

 

 次の瞬間、物置の隅の爆弾が爆発を起こす。

 イルマ達はその爆音に身を縮こまらせ、ガブリアスが爆風と衝撃からイルマ達を守るように、爆発に背中を向けながらイルマ達を抱き締める。

 やがて爆発が収まり、ガブリアスがゆっくりとイルマ達を下ろすと、2人と一匹はそ~っと、爆発で出来た大穴を覗き込む。その先に広がっていた光景は……

 

「え?」

 

 トリコーンを被ったサリバンとオペラ、何故か学校に言っている筈のルッカと、ボウルタウンにいる筈のアレックス。そして見知らぬピンクの髪をした小柄な女性がいた。

 大穴の奥にあるその部屋には20mはありそうな大きなテーブルがあり、その上に数々の料理と、中央にはウェディングケーキと見間違えそうなほど大きなケーキがあった。

 

 訳が分からず、イルマ達は目を点にしていると、サリバンがまるでムンクの『叫び』のようなポーズをしながら絶叫した。

 

「イヤァァァァッ!!とっておきのサプライズがあぁっ!!!」

「サ、サプライズ……?」

「めでたい日だからドンと祝いたかったのに……君達の方からドーンとなってどうするの!?こっちに来なさい!」

「ごめんなさい……」

「お、おかーさん…おとーさんも、どうしてここにいるの……?」

 

 プンスコと怒っているサリバンに困惑するイルマ。リコも未だに事態が飲み込めないなか、きらびやかに飾り付けされた部屋を見渡しながらルッカとアレックスに何故ここにいるのかと尋ねる。

 

「内緒にしててごめんなさいね、リコ。本当は非常勤の連絡なんてなかったし、お父さんもボウルタウンに用事はなかったのよ」

「え?」

「今朝サリバンさんから連絡が来てね。リコとイルマくんが仲良くなるためのサプライズパーティーを開こうって。それで私達も協力していたんだ」

「……本当に唐突すぎるんですがね。案の定、ニャオニクスや屋敷のポケモン達だけでは間に合わなくて秘密裏にルッカさん達に応援を頼むことになりましたから」

 

 オペラが無表情ながら呆れたようにサリバンに目を向ける。流石に唐突すぎた自覚はあるのか、サリバンは苦笑いしながら、ピンチヒッターとして呼び出したピンクの髪の女性に声をかける。

 

「いや~、本当にごめんねバチコちゃん。デザイナーの君を突然呼び出しちゃって。子供が喜ぶような飾り付けにはうってつけと思ってさ……」

「い、いえ!あッチは今日は非番でしたし、サリバン先生とルッカ先生のお役に立てるなら……」

 

 サリバンの謝罪に恥ずかしそうに顔を赤くしながらも気にしていないと答えるのは、サリバンとルッカのもと教え子にして、後にライジングボルテッカーズの一員となりイルマの師匠となるバチコ。

 

「……ガブキラ」

「フカマ……」

「おや、この子達は……」

 

 その時、ガブリアス達の親子が飾り付けられた部屋を見て困惑したような声をだし、その親子を見たオペラが、フカマルが怪我を負っている事に気付いた。

 

「あのっ、オペラさん……あの子、怪我してて……」

「なる程ね~。オペラ、イエッサン達にフカマルくんの手当てをしてあげて」

「分かりました」

 

 オペラがスッと顔を向けると、パーティーの飾りつけの手伝いをしていたオスメス両方のイエッサン2体がガブリアスとフカマルに歩み寄る。

 

「ガブッ…!」

「大丈夫大丈夫、君の息子さんはイエッサン達がすぐに元気にしてあげるからさ。心配なら君もついてきていいよ」

「………ガブ」

 

 息子を守ろうとするガブリアスに、サリバンは心配しなくても言いと宥め、敵意のないサリバンの笑顔に毒気を抜かれたのか、ガブリアスはイエッサンに連れていかれるフカマルの後を追って部屋を後にする。

 

 治療を受けに行ったフカマルの後ろ姿を見送っていたイルマとリコだったが、サリバンとルッカに促されたことで、イルマとリコのサプライズパーティーが開催される。

 皿の上に並べられた料理を手品のように胃袋に納めていくイルマに、追加でおかわりをオペラに運ばせるサリバン。リコは、幸せそうな表情で料理を口に運ぶイルマに歩み寄る。

 

「あ、あのっ!わたしの名前は、リコ……」

「?しってるよ……」

 

 サリバンとルッカ経由で既に名前を知っているのに、何故自分から名乗る必要があるのかと首をかしげるイルマ。

 

「……フフッ、予想外ではあったけど、リコにとっては良い経験になったみたいね」

「良かったね~イルマくん。良いお友達ができて!」

 

 保護者であり教師であるルッカとサリバンは、そんな2人の姿を見て笑みを浮かべていた。

 パーティーのために飾り付けられた部屋の窓ガラスに、楽しそうにパーティーではしゃぐイルマ達の姿が映る。

 その時、その窓ガラスの一つの鏡面が、突然紫色の波紋のようなものが広がり、その鏡面に、()()()()が映りこんだ。

 窓ガラスに映るその世界に、巨大な影が現れた。

 

『………』

 

 その影は、ある人物──イルマをジッと見つめたあと、クルリと振り替えってどこかへと去っていく。

 不可思議な世界を映していた窓ガラスは、もとの状態に戻っていた。

 

 

 

 

 

 

 それから、イルマ達とリコは友達となった。

 イルマはギャロップの馬車に乗って遊びに行くこともあれば、仕事で忙しいリコの面倒を見てほしいと言うルッカとアレックスの頼みでリコがサリバン邸に遊びに行ったりと、今まで友達の一人もいなかったイルマとリコにとって、新鮮で楽しい日々であった。

 リコとイルマの邂逅とサプライズパーティーから2週間が経った頃、イルマはギャロップの馬車に揺られてテーブルシティを目指していた。

 目的は、サリバン邸の書庫で偶然見つけてハマった恋愛小説『初恋メモリー』の最新巻が本日発売するためだ。

 

 カントーとガラルのギャロップがテーブルシティに辿り着き、馬車の扉が開く。やはり馬車、しかとパルデアには生息していないギャロップがリージョンフォームを含めて引いているのが珍しいのか、テーブルシティの人々はチラチラとこちらを見ている。

 それにイルマが居心地の悪さを感じていると……

 

「イルマ様のおなーーーりーーー!!」

 

 その時、オペラが声を張り上げると同時に、プップップー!と賑やかなラッパ音がなり、シャンシャンシャンッ!と鈴の音が鳴り響く。

 オペラは地面に上質な赤絨毯をクルクルと広げ、イルマに一言。

 

 

「どうぞ」

「どうぞでなくっ!!」

 

 イルマはツッコミを入れた。

 小説を買いに来ただけなのに、これではまるで大名行列だ。オペラは「何か間違いでも?」と首をかしげた。因みに彼が同行しているのは、イルマの護衛と夕食の買い出しのためだ。

 

 周りの視線を気にしながらも、イルマはオペラと共に書店に赴き、「ここで待っていてください」と言われて、イルマは店の前でちょこんと佇んでいると……

 

「──コレッ!」

「あっ!ちょっと待って!」

 

 暇潰しを兼ねてお小遣いの確認をのためにイルマが財布の中から取り出した貨幣の一枚が落ちてしまい、それをたからさがしポケモンの【コレクレー(とほフィルム)】が拾い上げ、そのまま走り去ってしまい、イルマは慌ててそれを追いかける。

 コレクレーを追いかけて、イルマが曲がり角で差し掛かったところで、向こうからやって来た誰かとぶつかってしまった。

 

ドーンッ!

 

「わっ」「ッ」

 

 イルマとぶつかってしまった誰かは、互いに尻餅を着いてしまう。

 

「すっ、すみません!大丈夫ですか?」

 

 イルマは慌てて立ち上がり、ぶつかってしまった誰かの前にかがみこんで手を差し出した。

 目の前にいたのは、ネコミミのような尖りを持つ赤い髪に、やや吊り上がった赤い目をした同年代くらいの女の子だった。傍らには、騎士の姿をした子供のようなポケモン【カルボウ】がいる。

 

 カルボウを連れた少女は、何故か顔を赤く染めながらこちらの顔をジッと見つめており、イルマの手をとる様子も立ち上がる様子も見せず、疑問に思ったイルマは首をかしげる。

 

「どうかしたの…?」

「……!なっ、なんでもない!次はきをつけろ!」

「カルボー!?」

 

 イルマの言葉に女の子はハッと我を取り戻し、ガバッと立ち上がってそう言い放つと、踵を返して走り出してしまった。カルボウがそんな女の子の後を慌てて追いかける。

 訳が分からないイルマに、買い物を終えたオペラが駆け寄ってきた。

 

「……イルマ様、勝手に動きまわらないでください」

「ご、ごめんなさい……」

 

 オペラに謝り、「今度から勝手に何処かに行かないように」というお叱りを受けたあと、イルマはオペラと共に書店に足を運ぶ。

 

「えっと……あっ、これだ!」

 

 店内の本を探しまわっていると、イルマは探し求めていた『初恋メモリー』の最新刊を発見した。運が良いことに、最後の一冊だ。

 イルマは初恋メモリーを購入しようと小説を手に取ろうとすると、イルマの手が本を取ろうとした誰かの手と重なりあった。

 

「あっ、ごめんなさ……あっ、貴方は……」

「お前……さっきの……」

 

 イルマが同時に本を取ろうとした相手に顔を向けると、その相手は、先程曲がり角でぶつかってしまった赤い髪の女の子──アメリであった。

 

 これが、後にリコにとってある意味においてのライバルとなる女とイルマの出会いであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それから5年の月日が流れた。

 イルマはリコの他に、書店で出会ったアメリとも友達となり、ホームレス時代とは比べ物にならないほど充実した時を過ごしていた。

 そして、イルマが10歳の誕生日の夜。

 

「セキエイ学園に?」

「そうなんだ!来年から入学してくれれば、ずっとお爺ちゃんと一緒にいられるし、わしも寂しくなるなるし、一石二鳥だ思うんだ~!!」

 

 2年前からカントー地方のセキエイ学園の理事長として就任した為家にいないことが多くなったサリバンが、10歳になったイルマのためにパーティーを開き、リコ達と共に盛大に誕生日を祝い、夜遅くなったことでパーティーの片付けをしている中で、そんな提案をして来た。

 

 サリバンの提案に、イルマはわずかに考える素振りを見せる。

 というのも、いずれ学校に通うことは考えていたが、まさか生まれ故郷のパルデア地方の学校に通うかもしれないと思っていたからだ。実際、幼馴染みの一人であるアメリはカルボウと共に今年からオレンジアカデミーに入学して、物凄い勢いでジム戦を突破していると噂になっている。

 

「……うん、いいよ」

「いやった~!!これでイルマくんと一緒にいられるよ~!!」

 

 イルマが入学の意を示すと、サリバンは泣きながらイルマに抱き付いた。

 

「イルマくん、入学おめでとう!これはお祝いだよ!」

「サリバン様、イルマ様はまだ入学していません。手続きや何やらと必要ですし、気が早いです」

 

 山のようなプレゼント箱を差し出してくるサリバンを宥めるオペラ。既に誕生日パーティーで大量にリプレゼントをもらっているのに、何時から用意していたのだろうか?

 イルマはグラグラと揺れるプレゼントの山を支えながら、困り顔でサリバンに声をかける。

 

「もう既に一杯もらってるのに!」

「えっ、わし何かあげた?」

「サリバン様、誕生日パーティーの時の事を思い出してください。イルマ様の部屋では収まりきれなくなっているんですよ」

「え~?本当はあの6倍は用意したかったのに、時間が足りなくてあれだけしか持って来れなかったのに……」

「そ、そうじゃなくて!」

 

 オペラが言っていることは事実だが、イルマが言いたいのはそうではないと告げると、ずっと前から思っていたことを口にする。

 

「僕、生まれてからお父さんもお母さんもいなくて、ずっと一人だったけど…お爺ちゃんとカイリューに出会ってから、色んな物を貰ったんだ。リコと出会えて、アメリと出会えて、家族が出来たから……僕は昔から、お爺ちゃんから沢山の物を貰ってるよ」

 

 イルマがずっと抱いてきた本心。

 サリバンと出会ったお陰で、今の自分があるから、何かを貰う必要はない。サリバンが喜ぶことをしてあげたいと、イルマの表情が物語っていた。

 しばらく孫の顔を見つめていたサリバンは、ショボンとやや落ち込みながら、ある小箱を取り出した。

 

「……じゃあ、ラストこれだけ」

(それでもくれるんだ……)

「今から渡すのは、一番大切な物だから」

「?」

 

 オペラとニャオニクス達とカイリューがサリバンの入学祝(先取り)を片付ける中、イルマとサリバンはお互いにソファーに座り込み、サリバンはテーブルの上に豪華な装飾が施された小箱を置き、蝶番型のそれを開いた。

 それは、一本の切れ込みのような線が彫られた、黄金の指輪だった。

 

「これは……?」

「僕の家に伝わる宝の1つだよ」

 

 それを覗き込んでみると、箱のカバーの内側に、やや掠れているが文字が彫られていることに気付き、イルマはそれを読み上げる。 

 

 ──あまねく魔獣を配下に収め

   血の契約を結び

   万物を望み

   万物を満たす

   ()は預かりし魔獣の魂を

   黄金(ソロモン)の指輪に宿す

 

「これって、どういう意味なの…?」

「この指輪は40年以上昔、わしが旅仲間と一緒に冒険をしていた時に着けていた物だよ。内側に書かれていることの意味はわしも良く分からなかったけど、ずっと大切にしていたものなんだ。だから、君にこれを受け取ってほしい」

 

 普段のおちゃらけた様子が微塵も感じられない、穏やかな表情のサリバンを前にして、イルマも姿勢を正すと、深呼吸をしてから、その指輪を手に取った。

 

「……ありがとう、お爺ちゃん」

 

 箱から取り出した指輪を右中指に嵌め、笑顔を浮かべるイルマ。

 サリバンは孫の様子にニッコリと笑顔を見せると、普段の調子に戻ってイルマを抱き締めた。

 

「いや~!今からでもイルマくんが入学しに来るのが待ちきれないよぉっ!どうせなら今からカントーに来る?飛び級で入学する?」

「ちゃ、ちゃんと新入生として入学するから、今はまだパルデアにいても良いかな!?」

「はいはい、イルマ様の進路も決まったところで、パーティーの片付けをしますよ」

 

 オペラに襟を捕まれ、サリバンはパーティーの後片付けに連行される。

 イルマはオペラのその主従関係とは思えないサリバンの雑な扱い方に様子に苦笑いしながら、自分も後片付けの手伝いをするために席を立った。

 

 

 

 

 

 

 

 ──数日後。

 

『よっ~す、ポケモントレーナーのみんな!ぐる〜びんしてる〜?』

『クワーッス!』

 

「やっぱりぐるみんは可愛い~!」

「そうなの…?」

 

 リコの家に遊びに来ていたイルマは、リコのスマホロトムで再生している動画に出てくるニドリーナの着ぐるみを着た動画配信者【ぐるみん】の動画を共に視聴していた。と言っても、単純にイルマが遊びに来た日がぐるみんのライブ配信の日で、そもそもぐるみんと言うもの事態を知らないイルマにリコが「ぐるみんを知らないなんて、人生半分くらい損してるよ!」と無理矢理一緒に見させられているのだが。

 リコは自分が好きなものが絡むと割と押しが強い限界オタクのような一面がある事をイルマが知ったのは割と最近の事。ピクニックでカレー作りをしていた時であるのだが、今は割愛する。

 そして、リコは最近になって人気が急上昇している動画配信者ぐるみんにドハマりしているらしく、唯一の友達である自分にもぐるみんの良さを布教しているのだが……イルマにはあまり受けなかった。いや、面白いとは思うし、動画のネタも興味深いのだが、リコの熱中度と薦めてくる押しが強すぎてたじたじになっている感じなのだ。

 

「はぁ~。今日も最高だったなぁ~!」

「にしても、本当に色々あるね、ぐるみんのネタ。どっから仕入れてるんだろ?」

 

 動画が終わり、リコは興奮したように呟き、そんな幼馴染みに苦笑しながらイルマも感想を言う。まさか自分達が、近い未来でぐるみんの中の人と共に旅をするようになるなど知るよしもない。

 

「……そういえばさ、リコもセキエイ学園に入学するんだよね?」

「…えっ?うん、イルマもそこに入学するんでしょ?」

「まぁ、お爺ちゃんがそこに勤めてるしね(何の担当かは知らないけど)」

 

 そこで、イルマはリコが自分と同じようにカントー地方のセキエイ学園に進学を決めていたことを思い出して尋ねてみると、リコは少し言いにくそうにしながらも頷いた。入学が決まった時、冒険家のリコの祖母がお守りとして綺麗な宝石が付けられたペンダントを貰って、イルマがそれを見せて貰ったのは記憶に新しい。

 それを聞いたイルマは、上着の内ポケットにしまっておいたあるものを取り出し、リコに差し出した。

 

「それでさ。これ、渡したいなと思って今日は来たんだ」

「え?」

 

 イルマがリコに差し出したのは、お洒落なラッピングがされた小箱だった。

 

「まぁ…入学祝い?兎に角、はい」

「いやいや!そんなの受け取れないよ!私、今日誕生日でもないんだよ!?」

 

 笑顔で小箱を差し出してくるイルマに、リコは手をブンブンと横に振って受け取れないと主張する。

 イルマの家は誰の目から見てもお金持ちで、リコが誕生日を向かえる際にはイルマやサリバン達も祝いに来てプレゼントを送られたりしていたが、毎年毎年高級品ばかりであり、リコは何時も申し訳なさを感じているのに、誕生日でもないのにプレゼントなんて受け取れないとプレゼントを拒否しようとする。

 

「え~と……入学祝いって言っても、実はテーブルシティで偶然見つけて買った奴だから、そんなに高いものじゃないよ。要らなかったら捨てても良いから」

「わ、分かった……」

 

 イルマの言葉に、リコはそこまで言われて受け取らないのも悪いと思い、おずおずとその小箱を受け取る。

 

「開けても良い?」

「勿論」

 

 リコがその小箱を開けてみると、そこには緑色でアルファベットのLを連想させる髪飾りが入っていた。

 

「これって……ヘアピン?」

「うん。リコに似合うと思って買ったんだ」

 

 その髪飾りを手にとって眺めるリコにそう答えるイルマ。

 ……実は、イルマは数ヵ月前にオレンジアカデミーに入学してジムチャレンジに忙しいアメリに、以前初恋メモリーの最新刊を共に買いに行く際に、道中で「これ良いなぁ」と呟いていたアクセサリーを送ったことがあるのだが、関係のない話なので割愛する。

 

「……ありがとう、イルマ。これ大事にするね」

「…そ、そう?気に入ってくれたなら良かった……」

 

 ヘアピンを胸に抱いてギュッと握り締め、顔をカジッチュよりも真っ赤にしながらも、微笑んでイルマに礼を言う。

 その微笑みにイルマは僅かに頬を赤くし、ドキッと高鳴った心臓の鼓動に困惑しながら、リコから目を剃らしてそう答えた。

 

「……すぐ近くで人がいるのに、見せつけますね」

「良いじゃないですか。リコとイルマくんにも春が来たみたいで」

 

 そんな真っピンクな空間の外で、イルマの護衛として共にやって来ていたオペラと、休日だったルッカがそう呟いていた。

 

 

 

 

 




・スキ魔

サリバン「イルマく~ん!おやつ食べる?」

イルマ「ありがとう」

イルマ(ここに来てもう5年かぁ……色々あったけど、今となっては懐かしいなぁ……それにしても……)

『イルマくんとリコちゃん初の爆破記念♡』

イルマ(あれは直さないのかな……)


 完


~イルマとリコの出会い~
 最初から幼馴染みと言う設定だったので、いずれ過去編を書こうとは思っていましたが、次回から新章が始まる予定なので、二人の出会いを書いてみました。話の内容はif魔フィアをベースにしてます。


~リコのヘアピン~
 リコロイ編放送前のキービジュアルで、第1シリーズのサトが被っていたポケモンリーグの公認キャップのマークと似ていたことからサトシの娘ではないかと噂されるようになったヘアピン。この作品内ではイルマくんがリコに送ったものと言う設定。アニポケで髪飾りについて触れられることがなかったので、思いきってイチャイチャに利用させて貰った。

感想、評価お待ちしております。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。