魔入りました!入間くん if Episode of ポケットモンスター   作:MTHR

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ほぼほぼ原作通りです。


42話 職人と機関士は語り合う。

 ダイアナの昔馴染みテペンに古のモンスターボールを盗まれてしまった騒動の翌日。

 テペンに珍しいモンスターボールを依頼したと言うモンスターボール職人の暮らす工場を目指しているブレイブアサギ号の展開されたウイングデッキの上で、4体のポケモン達がぶつかり合っていた。

 

「モクロー、“このは”!ラルトス、“こごえるかぜ”!」

「ジュナイパー、木の葉をかき消せ。チルタリスは“チャームボイス”」

 

 モクローが放った輝く葉をジュナイパーが翼を振るってかき消し、ラルトスが吹いた冷風をチルタリスが美しい音波で打ち消した。

 

「ラルトス、モクローの上に乗って“テレポート”!」

「ラルゥ!」

 

 その瞬間、モクローの背中に飛び乗ったラルトスが瞬間移動を発動し、モクローと共に一瞬にしてジュナイパーの背中に現れた。

 

「今だよモクロー、“シャドークロー”!」

「もふぅ!」

 

 一気に加速したモクローが翼に影の爪を纏わせて切りかかると……

 

「チルタリス、“ダブルウイング”。ジュナイパー、“かげぬい”」

「チルゥ!」

「もふぅ!?」

「ジュナッ」

「ラル!?」

 

 ジュナイパーの前に立ちはだかったチルタリスが羽でモクローを吹き飛ばし、その隙に矢羽をセットしたジュナイパーがラルトス目掛けて矢を放ち、効果抜群の技を食らったモクローとラルトスはその一撃だけで戦闘不能に陥り、仰向けに倒れて気絶した。 

 

「……ぽにっ!」

「はぁ、今日も敗けですか……」

「そう簡単には勝てるようにならねーだろ」

 

 審判の代わりを勤めていたオーガポンが棍棒をバチコの方に向けて鳴く。バチコの勝ちだと言っているのを正確に理解したイルマはガックリと肩を落とす。

 

 これは、イルマの日々の日課と化している師匠バチコとのトレーニングだ。

 キタカミで新たにオーガポンをゲットしてから、イルマの相棒であるモクローの活躍は最近減りつつある。それは単純に、オーガポンが強すぎるからだ。何百年も前から生きているポケモンと言うこともあるが、元々のスペックが並外れたポケモンなのだ。

 だが、モクローにはガラルファイヤー戦で会得した“かげぶんしん”や隠密に優れた飛行能力など、モクローにしかない強みがある。だからこそ、今後も起きるであろうエクスプローラーズとの戦いのために、新たにメンバーに加わったラルトスとモクローが相手に対抗できるように日々特訓に励んでいるのだが、成果はあまりよろしくない。まぁ、それなりに経験を重ねてるとは言え新米トレーナーの自分がいきなり凄腕のトレーナーであるバチコ(師匠)に勝てる要素なんて一つもないので、こんなものだろう。

 

「見ていて思ったけどよ、ラルトスが“テレポート”をする時、一々モクローに触れてないと出来ないって言うのは改善した方がいいな。元々ポケモンの立ち位置を入れ換える技だからな」

「そうなんですけど、ラルトスはポケモンの立ち位置の入れ換えが苦手みたいなんですよね……」

「ラルゥ……」

 

 イルマの腕の中で介抱されていたラルトスがショボンと肩を落とし、イルマはそんな彼女を慰めるように頭を撫でてやる。

 ラルトスの持つ“テレポート”はバトルにおいては、手持ちのポケモンと入れ替わったり、使い方を工夫すれば先程のように一瞬で相手の背後に回れる汎用性の高い技だが、ラルトスの場合、他の者も一緒に瞬間移動するためにはその対象に触れていなければならず、その瞬間的が一つに絞られてしまうという欠点がある。

 これは、過去にラルトスが色違いという理由で自分をゲットしたがる人間から逃げる為だけに“テレポート”を使い続けていた為、誰かと一緒に転移したり、他の人間を瞬間移動させるなんて事をしたことがなかった為、自分以外の者を転移させるやり方が分からないからである。

 

(それにしても……やっぱりこれから先エクスプローラーズとも戦う必要があるなら、モクローもラルトスもレベルアップしないと。あの夢に出てきたトレーナーとイーブイがやってたみたいに、オリジナルの技とか考えてみようかな?)

 

 エクスプローラーズの幹部クラスに対抗できるポケモンがオーガポンのみという現状を打開するために、これからはモクローとラルトス、そしてオーガポンも(イーブイはゲットしてないので戦う必要はない)更に強くなる必要があると判断したイルマは、古城でダイアナと合う前に電車内で見たやけにリアルな夢の内容を、鮮明に思い出す。

 白銀のイーブイを連れたトレーナーは、イーブイの持つ“まもる”という技を派生しオリジナル技を駆使していた事を参考に、イルマはモクロー達が今持っている技をアレンジすればエクスプローラーズとも対抗する事が出来るかもしれないと、イルマはモクローとラルトスをジーッと見つめる。

 

 兎に角、今日の特訓はこれまでにしてイルマ達が船内に戻ってくると、突然誰かの怒声が響き渡った。

 

「全く何やってんの~~!?」

 

 その声を聞いたイルマとバチコが声がした方に向かってみると、そこには正座したロイとホゲータに説教をしているオリオと、それを見ているリコの姿があった。

 

「ごめんなさい……モンスターボールを投げる練習をしてて……」

「そういうのは外でやりな!」

 

 謝罪を述べるロイの傍らには、確かにモンスターボールが転がっていた。だが、投球で壁を破壊とはどれだけ豪速球なのだろう?

 イルマが暢気にそう考えていると、オリオのスマホロトムが通話状態になる。

 

『ピーカッ!ピカチュウッ!』

「オリオ、計器が不調だ。すぐに来てくれ!」

『ピーカ!』

「大変だ!冷蔵庫が壊れた!」

「オリオ!エレベーターが止まった!ラッキーが閉じ込められてる!」

『ねぇ!電圧不足で充電出来ないんだけど……』

 

「「『『何とかしてくれ~~!!』』」」

「あぁもう!分かった分かった!行けばいいんでしょ!!」

 

 一同揃った助けを求める声に、オリオは投げやり気味に返事をし、ズンズンと修理に向かっていくと、何処からか工具を手にしたイルマがオリオに声をかけた。

 

「あの、オリオさん。壁の補修だけやっておきますね」

「助かるよ。お願いね」

 

 そう言われてロイが壊した壁の補修を任されたイルマは、壁の穴の回りをマスキングテープで囲うイルマに、リコとロイが興味深そうに目を向ける。

 

「へぇ~、イルマって物を直すの上手いんだね」

「計器の不調とかエレベーターの故障とか、そういう難しいのは流石に無理だけど、家電や壁の修理くらいなら出来るよ。前にオーガポンが壊した壁を修理してから、オリオさんの助手任されてるし」

「ぽにぃ……」

 

 オーガポンが気まずそうに視線をそらす。

 実はオーガポンがイルマにゲットされてキタカミの里からガラル地方に向かう途中、船の中を案内されていたオーガポンがはしゃぎ過ぎたせいで誤って壁をの壊してしまいオリオに説教される事があったのだが、その際にイルマは自身の手で壁の穴を治し、その手際を見ていたオリオにその腕を買われて、オリオから忙しい時は手伝って欲しいと言われていた。

 因みに、何故イルマがそんなに手先が器用なのかと言うと、5歳までサバイバルして生活していた為、捨てられた生活必需品などを直さないと死ぬ生活をしていたことが影響していたりする。

 

「……にしても、オリオっていつも忙しそうだよね」

「まぁ、フリード達もオリオに頼りっぱなしのところがあるからなぁ……」

「確かに、機械に強いのはオリオさんだけですしねェ……あれ?そういえば、師匠はこの船ではなんの役職なんですか?」

「あん?あッチは主に甲板部員(セーラー)だよ。見張りや舵取りなんかやってるな」

 

 リコ達がそんな風に話している間にも、ブレイブアサギ号は目的地の森の中に建てられたモンスターボール工場の目前までやって来ていた。

 

 

 

 

 

 モンスターボール工場にやって来たのは、イルマ、リコ、ロイ、フリード、そしてオリオだ。

 モンスターボールの色合いと形状をした建築物に煙筒から黒い煙をモクモクと噴き上げている工場を見上げながら、ロイが感嘆の声を上げた。

 

「おぉ~、モンスターボールだ!すっげ~~!」

「ホゲ~」

「迫力あるね……」

「ニャオハ~」

「モンスターボール工場って一目で分かるデザインだね……」

「もっふぅ」

「ぽにお~」

「ぶい……」

「ラル~」

「んで、オリオは何してるんだ?」

 

 そこで、フリード達はモンスターボール工場を見上げているオリオと【エレキッド】に視線を向ける。オリオは腕を組んだまま、エレキッドと共にふむふむと頷いた。

 

「成る程成る程……ふ~ん、成る程。そう言うことね……全然ダメ!」

「ダメなのかよ!」

「だって、見た目は綺麗だけど、歯車もズレてるし、無駄な配管も多い。全然ダメ!機械のこと分かってない!」

「そこを見てたんだ……」

「機械のこととなると……」

「拘り強めだからな……」

「と言うか、外から見ただけでそこまで分かるんですか?」

「まぁね。それにしても惜しいなぁ……少しいじらせてくれれば良い設備になるのに……」

 

 その時、シャッターが閉じられた工場内から、何かが爆発したような音がして、イルマ達は驚いた表情でシャッターの方に視線を集める。

 同時に、シャッターが開いて、中から大量の煙が吹き出し、何者かが飛び出してきた。

 

「うわ~~!!」

「「わぁ~!」」

「んっ?って……お客さん?」

(発明家とかそういうキャラクターのお決まりの登場の仕方だ……)

 

 煙に咳き込みながら、この工場の職人と思われる眼鏡をかけた女性は不思議そうな表情でこちらを見ている中、イルマは漫画等で発明家等のキャラクターが初登場する際によくある爆発と共に登場というベタな展開に苦笑していた。

 

 その後、イルマ達はモンスターボール職人の【カーナ】に招かれ、モンスターボール工場内に入った。

 リコ達が工場内大掛かりな設備を観察するようにキョロキョロと見渡すなか、カーナは山のように積み重ねられた機材類の中を漁り、その中からヤカンを取り出すと、崩れた機材の山にカーナが埋もれたり、その中から転がり落ちたヒスイ地方で使われていたモンスターボールにリコが目を輝かせたりしながらも、一同は腰を降ろして話を始める事となった。

 カーナのポケモンである【ブビィ】が沸かしたお湯をティーポットに入れてカップに淹れて貰ったお茶を飲みながら、リコ達はこの工場に来ることになった経緯を話した。

 

「テペンさんがそんなインチキ男だったなんて、ごめんね……私が珍しいモンスターボールがあれば、金に糸目はつけないって言っちゃったから……」

「いやいや、カーナさんが謝ることじゃありませんよ」

「カーナさんは、モンスターボールを集めてるんですか?」

 

 申し訳なさそうな表情のカーナにイルマが気にするなとフォローを入れ、続いてリコが質問をすると、途端にカーナの目がキラリと光った。

 

「あぁ。モンスターボールはロマンさ!作った職人の色褪せない想い、情熱!何より、拘りが詰まってる!私も、そんな拘りの詰まったボールを作ってんだ!」

「ふ~ん……」

(何処と無くコルサさんと似てるなぁ……)

 

 モンスターボールについて熱く語るカーナに、オリオは共感するように呟き、イルマは彼女の様子が以前会った芸術家に似ていると感じて、芸術家や職人というのは皆こんな感じなのかとぼんやり考える。

 

「ロイ、聞きたいことあるんだろ?」

「うん!これ、僕の宝物、古のモンスターボール。何か知ってることありま……」

「うわ~~!なにこれ!?見たことない!」

 

 フリードに促されてロイがリュックから古のモンスターボールをカーナに見せた瞬間、カーナは目をキラキラと輝かせながら古のモンスターボールを手に取り、スマホロトムで写真を撮る。

 

「この形と模様、趣ある色合いに古びた装飾!なにこれなにこれ!最高じゃん!……んん!?」

「えっ?何か分かりました!?」

「全然わかんない!」

 

 ロイに古のモンスターボールを返しながら、カーナは胸を張って続ける。

 

「でも、ボールは多少分かんなくたって良いのさ。そこに存在するだけで!」

 

 カーナが指差した方向を目で追うと、そこには段ボールに詰め込まれたモンスターボールの数々。モンスターボールにも様々な種類があるが、箱に詰められているボールは市販のボールのどれとも形や色が一致しない未知のボールだった。

 

「わぁ~、ボールだらけ!」

「あれって、全部カーナさんが作ったんですか?」

「そう、試作品。まだ上手く開かなかったり、逆に直ぐ開いちゃったり、大きさ間違えたり。でも、その失敗の先には必ず成功があるから、即ち未来の成功作!」

「ハハハ、前向きだな」

(見習いたいです)

 

 すると、面白そうにカーナ作のボールを見ていたロイが声を上げた。

 

「カーナさん!あのボール、試しても良いですか?」

「えっ?」

「僕、あのボールを投げる練習をしたい。色んなボールを投げてみたいんだ」

「へぇ~、分かってるね少年!そこに作ったボールのメモもあるから、好きなだけ持っていきな!」

「やった~!ボゲータ、早速練習だ!」

「ホゲ、ボゲー!」

「この辺は強い野生のポケモンが彷徨いてるから、気を付けて~」

 

 カーナの注意に「はーい!」と答えながら、モンスターボールを詰めた箱を持ったロイとボゲータは森の奥へと進んでいった。

 

 リコ達がそんなロイとボゲータの姿を見送っていると、工場内に設置されていた機械から妙な音が聞こえてきた。

 

「あ~、まただ……」

「あれって、モンスターボールを造る機械でしょ?」

「そう。オリジナルボールの注文が大量には入ったから、一度に沢山作れる機械を買ったんだ。けど、やっぱり機械ってのはダメだね~」

 

 カーナの言葉に、オリオの目がピクリと動く。

 

「ちゃんとメンテしてる?」

「メンテ?」

「ここ、歯が摩耗してるし……あっ、オイルも切れてる。あと、こっち…冷却水切れてるじゃん。これじゃ爆発するのも当然だよ……これ、借りるね」

 

 スパナを手にしたオリオが、工場内の整備を始め、そんなオリオの背中を見つめていたカーナにフリードが「勝手にすみません」と謝っていると、オリオがカーナに声をかけた。

 

「よし、スイッチいれて!」

「あっ…うん!」

 

 カーナが言われた通りに機械のスイッチを入れると、機械から作動音が聞こえてきて、白銀の装飾をしたモンスターボールが一つ生成された。

 

「おぉ~!」

「わぁ、綺麗!」

「本当だね……」

「ねぇ、カーナ。こうやって、ちゃんと手入れして上げれば動くんだから、使えないなんて言わないで」

「ああ、そうだね。ごめん」

「機械が悪いんじゃない。機械にも、思いや情熱、拘りが詰まってるんだから!」

 

 モンスターボール製造機を見上げながらそう呟いたオリオは、次いで

 

「折角だから、貴方のポケモンにも手伝って貰おうか?」

「ビビッ」

「ブビ?」

 

 オリオの言葉に、ブビィは首をかしげた。

 

 

 

 

 

「……んで、オリオの奴すっかりカーナと仲良くなって、機械いじりを始めたから置いてきた。ありゃしばらくかかるぞ」

 

 その後、一足先にブレイブアサギ号にもどってきたフリードは、ミーティングルームに集まっているマードック、モリー、バチコ、そしてダイアナに説明していた。

 長い付き合いゆえに、オリオが機械が絡むとどうなるかをよく知るフリードとバチコは、ロイが試作品のボールを投げる練習をしていることを差し引いても出航するには時間がかかるだろうなと苦笑する。

 

「メカ弄りには目がないからな」

「いいじゃない。オリオにもたまには息抜きが必要だよ」

「オリオの奴、いつも忙しそうだからなァ……」

「フリードがしょっちゅう無茶言ってるからね」

 

 モリーがジロリとフリードに目を向けると、フリードは冷や汗をかきながらマードックに矛先を向けた。

 

「なっ、違うぞ!マードックが直ぐ用事を頼むからだろ!」

「い、いや、俺じゃねぇ!モリーだって、オリオに頼りすぎなところあるぞ!」

「私は別に……!」

「あッチに言わせりゃ、オメー等全員オリオに頼りすぎだ」

「おい、そう言うバチコだって……」

「いいや。あッチは余程のことがない限りオリオに頼ってねーよ」

 

 バチコがキッパリ言いきった。

 同時に、フリード達は「フリードだよ!」「マードックだ!」「モリーだろ!」と責任の押し付け合いを始め、キャップとバチコは呆れたような目を向け、マードックが淹れた紅茶を飲んでいたダイアナが口を開いた。

 

「誰か一人のせいじゃないみたいだね……」

「ピカピカ……」

「返す言葉もありません……」

 

 

 

 

 

 

 

「見てなさい!そこのポケモン、私が捕まえて見せる!……なんちゃって」

「ニャ?」

「ノリノリだね」

 

 モンスターボール工場の外で、カーナ作のモンスターボールを掲げて自信満々に宣言するリコに、側にいたニャオハと壁によりかかっているイルマが揃って首をかしげる。

 オリオの改造により、ブビィの“かえんほうしゃ”を利用した蒸気機関によりモンスターボール製造機の動作効率が30%上昇し、そのうちの一つを手にとって何となく言ってみただけなのだが、今になって恥ずかしくなってきたのかやや顔を赤くするリコ。モクロー達はさほど離れていない場所で昼寝をしたり遊んでいたりと自由に過ごしている。

 その時、モンスターボール工場内で機械やモンスターボールの話に花を咲かせていたカーナが、オリオにある提案をした。

 

「ねぇ、オリオ!よかったら、ここで私と一緒に働かない?」

「えっ?」

「貴方の技術と、私の装飾。これを組み合わせたら、きっと凄い物が作れると思うんだ!」

 

 カーナの予想外の提案に、オリオだけでなく声が聞こえていたリコとイルマも驚いた。

 カーナが共同で作り上げるモンスターボールの案として、空を飛ぶモンスターボールを挙げてみると、オリオも乗り気なようであり、作業を再開させたカーナとオリオを見ながら、イルマと共に工場の壁によりかかったリコは悶々と思い悩んだ表情で考え込んでいた。

 

(オリオ、ここでカーナさんと一緒に働くのかな……ってことは、船降りちゃうつもりなのかな?)

(僕としては、降りて欲しくないけど、強制は出来ないし……フリードさん達に相談すべきかなぁ?)

「ん?どうした?二人とも。元気のバッテリー、切れちゃった?」

 

 そこへ、作業を中断させたオリオがイルマとリコの元に歩み寄ってきた。壁に背中を預ける彼女に、リコはおずおずと問い掛けた。

 

「あの…オリオ、毎日楽しい?」

「へっ?楽しいよ。色々な事が起きて大変だったけどね」

「オリオさんって、どうしてフリードさんと旅に出たんですか?毎日忙しそうなのに……」

「あれ?言ってなかったっけ?」

(聞いてないです……)

「その台詞、フリードさんと全く同じですね」

「確かにね」

 

 リコと共に苦笑するイルマの言葉に、オリオはクスクスと笑いながら、遠い目で空を見上げ、旅に出ることを決めた経緯を話し始めた。

 

「昔、ホウエン地方の造船所に勤めてたんだ。楽しかったよ。仕事もやりがいあったし、同僚も優しくて、毎日充実してた。何不自由なく働いていたけど、ふとたまに思うこともあったんだよね……『このままでいいのかな?』って…今の仕事が私にとって一番大切なこと?私の本当にやりたいことってなんだっけ?って……」

「…それって、フリードさんみたいに息詰まってたって事ですか?」

「そうだね。そんな時、フリードから連絡があったんだ」

 

 その話には、イルマとリコも聞き覚えがあった。

 数年前、フリードはその優秀さゆえに就職した企業の仕事に満足することが出来ず、やりたい事を見付けられなかった中で、パルデアにやって来た際にリコの母であるルッカの紹介で『空飛ぶピカチュウ』と噂されていたキャップに興味を唆られたフリードは衝突しながらも研究を続けた後、見たことのない景色を探す決意を固めピカチュウをゲットし、ランドウの釣り船であったアサギ号に乗ってオリオの元を訪ね、こう言ったのだ。

 

『オリオ、お前の腕を見込んでのお願いだ。このアサギ号を、世界一の飛行船に改造してくれ!』

『バカなの?』

『出来るのか?』

『……やったろうじゃん!』

 

「その言葉が、私の心に火を着けた。やり遂げられるかなんて分からなかった。でも、やれるかどうかは、やってみなくちゃ分からないから。フリードの言葉がきっかけになったのは事実だよ。でも、私はずっと、自分の力を試したかったのかもしれない。だから、船の改造を終えた時、一つ分かったんだ。私が本当にやりたかったこと……」

「オリオがやりたかったこと?」

「それはね……」

「うわ~~っ!!」

「ホゲ~~っ!!」

 

 その時、森の奥からロイとボゲータの叫び声が聞こえてきて、リコ達は一斉にその声がした方向に目を向けてみる。

 そこには、全身が灰色で頭頂部がまるでシルクハットを連想させるような煙突状になっているポケモン【マタドガス(ガラル)】から全力疾走して逃げるロイとボゲータの姿があった。

 

「ロイ!ボゲータ!」

「あれって確か、ガラル地方のマタドガス!?」

「カーナが言ってた奴か!?」

「マタドガースッ!」

「ホゲーーッ!!」

 

 リコ達が目を瞬かせていると、片方の頭にたん瘤が出来ているガラルマタドガスは頭の煙突から煙を噴出させる専用技“ワンダースチーム”を放ち、背中からそれを受けたボゲータは大きく吹き飛ばされ、技の追加効果で混乱状態になったボゲータを抱え、ロイはガラルマタドガスから逃げ続ける。

 

「ニャオハ、“このは”!」

「ニャオハーーッ!」

「ドドド……ドガース!!」

 

 リコの腕の中から飛び出したニャオハが膨大な量の“このは”を放ち、葉っぱの嵐がロイを避けてガラルマタドガスに直撃する。ガラルマタドガスはその量に僅かに怯むが、気合いでそれをかき消し、“ヘドロこうげき”を連続で放つ。

 

「イーブイ、“みきり”でニャオハを助けて!」

「ぶいっ!」

 

 効果抜群の毒技がニャオハに直撃しそうになった瞬間、イルマの指示が響き、イーブイは今時分が使える数少ない技を発動させる。

 イーブイはキラリと目を輝かせながら走り出し、ニャオハの首元を咥え、ニャオハを引っ張りながら、連射される毒液を紙一重で避け続け、イルマとリコの目前まで後退してニャオハを離した。

 

「メタグロス、行くよ!」

「メタッ!」

 

 そこへ、オリオが投げたボールからメタグロスが現れ、ガラルマタドガスは再び“ヘドロこうげき”を放ち、ビチャビチャという音を響かせながら、メタグロスは毒液をその身に浴び続ける。

 しかし、メタグロスはケロッとした表情で、一歩もその場から動くことはなかった。

 

「メタ!」

「はがねタイプにはどく攻撃は効かないのよ!」

「何の騒ぎ?わわっ!?」

 

 そこへ騒ぎを聞き付けたカーナが工場から顔を出して驚愕した瞬間、ガラルマタドガスはメタグロスにどく技は効かないと悟ったのか頭の煙突を向け、“ワンダースチーム”を放つ。

 

「メタグロス、吹き飛ばして!」

「メタッ!」

 

 メタグロスは巨大な四本足を挙げて浮かび上がると、その場で独楽のように高速回転を始め、“ワンダースチーム”の煙を弾いた。

 

「ナイス、メタグロス!そのまま“メタルクロー”!」

「メタァッ!!」

「ドガーーッ!?」

 

 メタグロスは高速回転しながらガラルマタドガスに突撃し、硬質化させた爪でガラルマタドガスを吹き飛ばす。

 

「よし!」

「凄い、オリオ!」

「ホゲ!?」

「「「「「ん?」」」」」

 

 そこで、ボゲータがガラルマタドガスが吹き飛ばされた方をみて硬直したのに気付き、その場にいた全員がそちらを目を向けると……

 

「「「「「「ドガーースッ!!」」」」」」

「増えたぁッ!?」

 

 数えきれない程のガラルマタドガスが、物凄いスピードでモンスターボール工場に進軍している光景だった。

 流石にあの数は相手しきれないとリコ達が慌てていると、突如ガラルマタドガス達の前に雷が落ちた。

 

ドッカーーンッ!!

 

 そして、その雷が爆発を起こしてガラルマタドガス達を吹き飛ばすと、爆煙から飛び出した小さな黄色い影がオリオ達の前に着地した。

 

「ピカピカ!」

「キャップ!」

 

 更に上から声が聞こえてきてオリオ達が空を見上げると、背中にフリードを乗せたリザードンが工場の回りを飛び回る姿があった。

 

「キャップ、頼んだぞ!」

「ピカ……ピッカッ!」

「ッ、僕達も手伝うよ!オーガポンは礎の面で“ツタこんぼう”、モクローは“シャドークロー”!」

「ぽに!」

「もふぅ!」

 

 フリードにガラルマタドガス軍の相手を任されたキャップは右拳に雷電を纏ったストレートを炸裂させ、弱点のどくタイプを消す灰色の姿に変身したオーガポンが岩石を纏わせた棍棒を、モクローが暗黒の爪を振り下ろし、次々とガラルマタドガスを地に沈める。

 しかし、ガラルマタドガスはまだ何十体もおり、倒されていないガラルマタドガス達が一斉に“ワンダースチーム”を放ち、キャップ達は大きくジャンプしてその煙を避ける。

 

「チッ、数が多すぎる……ん?」

 

 一体一体を倒すのは問題ないが、あれだけの数は厄介だとフリードが険しい表情をした瞬間、ボール工場の煙突から吹き出す煙に気付き、フリードは笑みを浮かべ、オリオに声をかけた。

 

「オリオ!工場の機械の出力を上げろ!」

「はぁ?これ以上動かせってえの!?」

「そうだ。限界ギリギリまでだ!出来るのか?」

 

 フリードの無茶振りに意義とを唱えようとするオリオだったが、直ぐに試すような笑みを向けられたことで、オリオは「受けて立つ」というように、笑みを浮かべた。

 

「フン……やったろーじゃん!メタグロス、エレキッド、来て!」

「オリオ、何するの!?」

「カーナもお願い!」

「え…えっ!?」

 

 カーナは困惑しながらもオリオに続いて工場内に駆け込み、2人は直ぐ様ポケモン達に指示を出す。

 ブビィが全力で炎を吐き、エレキッドが大量の電気を送り込み、メタグロスが“サイコキネシス”で機械を操るなか、工場の外ではガラルマタドガス達はキャップとオーガポンとモクローに襲い掛かる。キャップ達は各々の技を駆使してガラルマタドガスを迎撃していくが、倒しても倒してもガラルマタドガスは次々と襲ってくる。

 

「「「ドガーーッ!!」」」

「ピカッ……ピッ!?」

「もふ!?」

「ぽにっ!!」

「キャップ!!」

「モクロー!オーガポン!」

 

 流石に厳しくなってきたキャップ達が一時的に距離をとった瞬間、数体のガラルマタドガスは口から毒々しい色の煙を吐き出した。

 キャップ達はバラけて回避しようとするが、直ぐ後ろにリコ達がいることを察して避けることを止め、その煙を自身の体で受け止めると、その煙が体に染み付き、直後に体を蝕む痛みにキャップ達は青い顔で膝をつく。浴びた相手をどく状態にするガラルマタドガスの“どくガス”攻撃だ。

 いかにキャップゆオーガポンとはいえ、時間が経つにつれて体力が削られるその状態異常のままこの数のガラルマタドガスを相手するのには少し無理がある。

 

「「「「「ドガー!」」」」

「チッ、足止めかよ……リザードン、“かえんほうしゃ”!」

 

 援護に入ろうとしたフリードとリザードンの前に、5体のガラルマタドガスが立ちはだかり、フリードはリザードンに指示を出してガラルマタドガス5体とバトルを開始する。

 そんな中、軽く見積もって20体近くはいるガラルマタドガス達はジリジリと迫ってくる。

 

「……ラルッ!」

「ラルトス!?」

 

 その時、イルマの足元に隠れていたラルトスが飛び出して、キャップ達の前に立ち、ガラルマタドガス立ちと対峙する。

 ガラルマタドガス達はギロリとラルトスを睨み、臆病な性格のラルトスはビクッと体を震わせて後ずさりそうになるが、何とかその場で踏み留まる。

 やがてガラルマタドガス達は、一斉に“ヘドロばくだん”を放った。

 

「ッ!ラルトス、“ねんりき”!」

「ラルッ!」

 

 イルマの指示を受け、ラルトスはサイコパワーを操り、ガラルマタドガス達のヘドロの起動を逸らして直撃を避ける。

 

「ドガッ!!」

「ラルッ!?」

「ラルトス!!」

 

 “ヘドロばくだん”の嵐が止んだ瞬間、ラルトスの上空に回り込んだガラルマタドガスが急降下し、ラルトスに“のしかかり”を御見舞いさせる。

 ガラルマタドガスが離れると、そこにはうつ伏せになって倒れるラルトスの姿があるが、ラルトスはフラフラになりながらも立ち上がる。

 

「ドガーースッ!!」

「ッ!ラルトス、逃げて!」

「ピッカ……」

 

 そこで一体のガラルマタドガスが止めを刺すため、高速回転しながら突撃する“ジャイロボール”を発動させる。効果抜群の鋼技を前にイルマ達が顔を青くし、止めようとしたキャップ達の前に別のガラルマタドガスが立ち塞がる。

 ラルトス、絶体絶命と思われたその時、不思議なことが起こった。

 

「ラルルル……ラッルゥッ!!

 

 無意識のうちに指を左右に振ったラルトスが地面に手を叩きつけると、ラルトスを中心とした地面から太く逞しい樹木の数々が、まるで生きているカのように飛び出した。

 

シュルルルルッ!!

 

「「「「ドガッ!!?」」」」

 

 その樹木はまるで意思を持つようにガラルマタドガス達を襲い掛かり、次の瞬間、大量のガラルマタドガス達を縛り付けたのだ。ガラルマタドガス達は抜け出そうにも、太く頑丈な木に体をぎゅうぎゅうに締め付けられてなかなか抜けだけない。

 

「これって確か……“ハードプラント”?」

「でも、ラルトスは“ハードプラント”なんて覚えられない筈じゃ……」

「“ゆびをふる”、だな」

 

 イルマ達が目を丸くしていると、ガラルマタドガス5体を倒して地面に降り立ったリザードンの背中に乗るフリードが解説をする。

 それを聞いたイルマは、スマホロトムでその技を検索する。

 

『“ゆびをふる”。指を振り脳を刺激して沢山の技の中からどれか一つを繰り出す』

 

「ラルトス、新しい技を覚えたんだね……」

「ラルッ!」

 

 ラルトスが笑顔で頷いた瞬間、モンスターボール工場の煙突から、凄まじい勢いで煙を吹き出した。

 リコ達がそれに驚く中、ラルトスの“ハードプラント”に拘束されたり、キャップ達やリザードンが気絶させていたガラルマタドガス達がその煙に反応して一斉に目を向ける。

 

「おっ、やっと来たか。……ラルトス、ガラルマタドガス達を縛り付けた“ハードプラント”を解いてやってくれ」

「ラル……」

 

 フリードから拘束を解くように言われたラルトスは大丈夫なのかと心配するように拘束を解く事を躊躇ったが、大人しく従って樹木を解いて地面に戻していくとあら不思議、さっきまであんなに怒っていたガラルマタドガス達は、まるで吸い寄せられるように煙突から吹き出る黒煙に集まっていくではないか。

 まるで食事をするように口を動かして煙を口の中に入れていくガラルマタドガス達に新米トレーナー達が困惑している中、イルマは手に持っていたスマホロトムでガラルマタドガスの情報を検索する。

 

『マタドガス・ガラルのすがた。どくガスポケモン。どく・フェアリータイプ。大気の汚い成分を吸収し、綺麗な空気をフンの代わりに吐き出している』

 

「そっか……煙突の煙が、あの子達にとってはご馳走なんだ」

「全く……毎回突拍子もないことして無茶振りするんだから……」

 

 頭の煙突から清浄な空気を吹き出して煙突の煙を薄くするガラルマタドガス達を見上げながら、オリオは苦笑気味に呟いた。

 

 

 

 

 

 その後、オリオによって工場の煙をガラルマタドガス達に与えることで空気が綺麗になるように改造し、オリオはカーナにモンスターボール工場で一緒に働くことは出来ないと言うと、そう言われることを分かっていたカーナはオリオにお手製のモンスターボールを友情の証として手渡し、ブレイブアサギ号は出航した。

 機関室で、リコとイルマは先程の質問の答えを聞く。

 

「私がやりたかったこと?」

「はい」

「それはね、やったことがないこと」

「え?」

「大変だけど、始めてだったり、自分がやってなかったりしたことを、この船に乗れば出来る気がしたの。二人もそうじゃない?」

 

 そう言われて、二人は顔を見合わせながら思い出す。

 そして、船に乗ってから今日までの事を振り返り、その通りだなと二人は笑い合う。

 その時、オリオのスマホロトムが飛び出し、フリードから連絡が入る。

 

『オリオ!プロペラの様子がおかしい!』

『ピカーッ!』

『何か空調調子悪いんだけど』

「オリオ、コンロの火が付かねぇ!」

「展望室のドアが開かなくなった」

「ごめん!また壁に穴開けちゃった!」

 

『『「「「なんとかしてくれ~~!!」」」』』

 

 今朝と全く同じ台詞が船に響き、機関室のそとからその様子を眺めていたダイアナは微笑ましそうにその様子を眺め、オリオは苦笑しながらそれに頷いた。

 

「あぁもう、分かった分かった。行けばいいんでしょ」

「僕も手伝いますよ」

「あっ、それなら私も……」

「ありがとね、2人とも」

 

 工具を手にして現場に向かうオリオに続き、イルマとリコも機関室を後にする。

 機関室に設置された机の上には、カーナが作ったモンスターボールが置かれていた。

 




~イーブイの技披露&ラルトス新技習得~
 話の方に改変する箇所がなく、原作丸パクリになってしまうのは不味いと思った為、現状イーブイが使える技の披露と、本当はもう少し後から習得させる予定だったラルトスの新技を習得させました。



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