魔入りました!入間くん if Episode of ポケットモンスター   作:MTHR

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改編する箇所がなかった為、ポットデスの回はまるごと飛ばして、ラプラス回となります。

テラスタルデビュー編で、既にテラスタルオーブを手にしている主人公の扱いに悩んでいます。ジムリーダーとの対決は書こうかと思っているんですがね……。


43話 白い霧のラプラス

「白い霧の歌声?」

 

 カーナのモンスターボール工場を後にし、いつの間にか船に乗り込んでいた【ポットデス】を探してリコ達が船を探し回って、ポットデスがブレイブアサギ号に住み着いているツボツボとバトルを繰り広げた末にブレイブアサギ号に住み着くようになり、ダイアナが古びたカップを【ヤバチャ】にする実験をしたことで、船に暮らすポケモン達が増えた翌日。

 ミーティングルームで手記を開いたダイアナが告げた内容に、ドットを除いたライジングボルテッカーズの面々は揃って首を傾げた。

 

「あぁ、船乗り達の間で流行ってる噂でね。霧で迷ってる船を、歌で導いてくれるポケモンがいるんだ」

「歌で?」

「なんだか素敵!」

「そしてそのポケモンは、光り輝くラプラスだと言われている」

「ラプラス……」

 

 そのポケモンの名前を聞き、リコ達は目を見開き、ロイは驚きと興奮で声を弾ませた。

 

「六英雄の!?」

「勿論そうとは限らない」

「が、特別なラプラスである可能性は高い」

 

 ダイアナの言葉をフリードが続け、確証は無いが調べてみる価値は十分にあると告げる。

 

「歌声は昔から、世界中のあちこちで聞かれているからね。私とサリバンも若い頃はその謎を追いかけたことがあった……」

「ってことは、会えたんですか!?」

「いいや、残念ながら」

「そっかあ……」

「ラプラスの噂を聞き付けて辿り着いても、その頃にはもういない。その繰り返し。それで諦めたのさ」

 

 苦笑気味にダイアナが自身の過去を話した後、ロイが席から立ち上がった。

 

「でも、霧の中にいるんでしょ!?デッキから見てみようよ!」

「待った待った!」

「そんな都合良く見つからないって」

「そもそも、今霧なんか何処にもないよ?」

「あぁ、ダメかぁ……」

 

 展望室を目指そうとしたロイをオリオ、モリー、イルマが引き止め、ロイは残念そうに肩を落とす。

 今からでもワクワクを抑えきれない様子のロイに笑みを浮かべながら、フリードはダイアナに質問する。

 

「ダイアナさん、他に情報は?」

「抜かりはないよ」

 

 ダイアナの視線を追ってライジングボルテッカーズの面々がミーティングルームに備えられたスクリーンに目を向けると、画面に幾つもの×印が入った地図が映し出された。

 

「えっ!?これお婆ちゃんが!?」

「まさか。ドットに頼んだのさ」

 

 リコが驚いてダイアナに尋ね、ダイアナは孫の様子に苦笑しながら答えると、スクリーンに自室にいるドットの影像が映し出される。

 

『最近、この海域に、相次いで霧が発生している』

「凄いな!全部調べたのか!」

「早すぎだろ!」

『大袈裟だな。ネットを使えば簡単だよ』

「科学の力ってのは凄いねぇ!ドット、あんた大したもんだよ!」

『ま…まぁね……』

『クワッス!』

(いつの間にかドットとも仲良く……流石です、お婆ちゃん!)

 

 リコ達でさえ中々打ち解けられなかったと言うのに、この船に乗ってからの数日で知らぬ間にドットと気軽に話せるようになっていたらしいダイアナに、リコは改めて祖母の偉大さを知る。

 

「昔はラプラスに辿り着けなかった。船もなかったし、今はカイリューに進化したらしいけど、サリバンのハクリューじゃあ、ラプラスに追い付けなかったからね」

「カイリューに進化したなら、進化した後で探せたんじゃないですか?」

「その時、アイツはもう教師としての道を歩み始めていたのさ。だけど、今は違う」

「ブレイブアサギ号がある」

 

 フリードの言葉に、ダイアナは頷き、ライジングボルテッカーズのメンバーを見渡しながら呟いた。

 

「私とサリバンだけじゃあ無理だったことでも、アンタ達とならチャレンジ出来る!ラプラスに追い付けるってもんさ!」

 

 その言葉にリコ達も自然と笑みを浮かべて頷く。

 すると、ドットがある情報を教えてくれた。

 

『ラプラスを見たって人が、近くにいるみたいだ!』

「先ずは話を聞いてみるか……よ~し、行ってみよう!」

「「「おーっ!」」」

 

 

 

 

 

 

 ラプラスを目撃したと言う人を尋ねて、ブレイブアサギ号は港湾に辿り着いた。

 フリード、リコ、ロイ、イルマの4人は、ラプラスを目撃したという貨物船の船長と、相棒の【フローゼル】から詳しい話を聞いていた。

 

「うむ、それはそれは美しい歌声だった」

「フロ~フロ~」

「じゃあ、本当にラプラスが!」

 

 感慨深げに語る船長と、その時のことを思い出しているのか嬉しそうに鳴き声を上げるフローゼル。

 

「沖の方で、霧が発生して、進路が分からなくなってね。ラプラスのお陰で助かったよ」

「そのラプラスは、どこに?」

「さて……霧を抜ける前に姿を消してしまってね」

 

 どうやら、目撃した船長もラプラスの行方を知らないらしい。

 手掛かりがない以上、目撃情報が多い場所をしらみ潰しに探すしかなくなるのかとフリード達が考えていると、フローゼルの進化前である【ブイゼル】と協力してトロピウスと木の実のイラストが描かれた木箱を運んでいた貨物船の船員が、木箱を運びながら船長に声をかけた。

 

「船長!貨物の積み直し、始めま~す!」

「あぁ!よろしく頼む!」

「積み直し?」

「いや、それが、霧の中で船が酷く揺れてね。積んでいた荷物を全部落としてしまったんだ」

「えぇっ!?」

「大変だ!」

「しかも全部って……大損害じゃないですか」

「あぁ、君の言う通りだよ。お陰でもう一度仕入れる羽目になったが……ラプラスに会えて、船も無事。良しとしようか!」

「フロ~フロ~!フロ~フロ~!フロ!」

 

 笑顔でそう言う船長と、自分も嬉しそうにはしゃぐフローゼル。

 

「ありがとうございます。リコ、ロイ、イルマ、船に戻ろう」

「「うん!」」

「はい」

「霧が出ても案ずるな。きっと、ラプラスが導いてくれる!」

「えぇ」

「「「ありがとうございました!」」」

 

 サムズアップを送る船長に礼を言って、リコ達はブレイブアサギ号に戻っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その後、ブレイブアサギ号は貨物船の船長が最後にラプラスを見たと言う北に進路をとって空を進んでいき、甲板にやって来たリコ、ロイ、イルマは空の景色を楽しみつつ、スマホロトムで件のポケモンの情報を検索する。

 

『ラプラス。のりものポケモン。みず・こおりタイプ。人間の言葉を理解する程優しく、心優しいポケモン。綺麗な歌声を響かせながら、海を泳いでいく』

 

「人の言葉を……凄い!」

「も~ふぅ、もふふふぅ(別にラプラスに限らず、俺ちん達も人間の言葉は分かるんだけどなぁ)」

「ニャ~?(そこツッコまない方がいいんじゃない?)」

「?」

 

 スマホロトムが読み上げた説明文にリコが感心する中、ホゲータやオーガポン達と共に木の実を食べていたモクローがその説明文にやや疑問を持つ。実際、人間の言葉を理解していなければ、ポケモンはバトルでトレーナーの指示通りに動かないのだから。そんな疑問を持つモクローに、ナナシの実を齧っていたニャオハが呆れたように声をかけ、イルマは首をかしげる。

 

「それに、すっごく優しいんだよ!」

「ロイ君、ラプラスに会ったことあるの?」

「うん!島にいた時、海辺によくラプラスが遊びにきてね。人懐っこくて、皆を背中に乗せてくれたんだ」

「へぇ~、いいなぁ。私達も仲良くなったら、乗せてもらえるかな?」

「絶対行けるよ!」

「楽しみだね」

「クワッスッ!」

 

 そうして三人が談笑していると、背後から聞き覚えのある鳴き声がして振り返ると、そこにはスマホロトムがセットされたロトりぼうを持つクワッスと、釣竿を持つランドウの姿があった。

 クワッスがニャオハ達が食べていた木の実を共に食し始めるなか、浮遊したスマホロトムからドットの声が聞こえてきた。

 

『バッチリ撮影させてもらうよ』

「クワッス!」

「ぐるみんでの配信は、流石に……」

『分かってる。これは、個人的な興味。六英雄のラプラスは、僕にとっても刺激的だからね。クワッス、おやつ食べてて、ラプラスを見逃すなよ!』

「クワッス!」

「と言うかドットさん、気になるなら部屋から出てきて自分で撮影した方がいいのでは?」

『う、うるさいなぁ。別に外に出なくても、クワッスに任せれば撮影できるし……』

「「アハハ……」」

 

 入間とドットの会話にリコとロイが苦笑していると、突如船の高度が下がり始め、船底と海水面の距離が近くなる。リコ達がそれに驚き、気球の空気が抜けているのではないかとロイが言ったところで、スマホロトムが飛び出してフリードの声が聞こえてきた。

 

『皆!今から船を着水させる!ラプラスを探すにはこの方がいいのさ』

 

 フリードがスマホロトムを通して船にいる面々に現状を伝えている間にも、ブレイブアサギ号は雲の中を抜けて海面と船底が近付いていく。

 

『ブレイブアサギ号、空の旅から海の旅へとご案内!』

 

 直後、船底と海面が接触しあい、水飛沫の音と共に、ブレイブアサギ号は海の上をまっすぐに進んでいき、甲板から見える青一色の景色と、風にのって鼻腔を擽る潮の香りに、リコ達は目を輝かせる。

 

「すっげぇ!海の上を走ってる!」

「ホッホ、元は釣り船じゃからのぅ」

 

 ロイが弾んだ声を出すと、元々飛行船になる前の持ち主であったランドウが何処か得意気に笑う。

 その時、海を眺めていたイルマは、水面をユラユラと漂う何かを発見した。

 

「……?オーガポン、“つるのムチ”でアレを取ってくれる?」

「ぽに?………ぽにおっ!」

 

 リコ達と同じ様に目を輝かせながら海を眺めていたオーガポンは、イルマが指差した方をみて同じ様に海の上を漂っている何かを発見し、伸ばした蔓をそれに巻き付け、一気に引き寄せた。

 引き上げられたそれは、ドンッと音を立てながら甲板に置かれ、リコ達もそれに視線を向ける。

 

「何それ、もしかしてお宝!?」

「……いや、木箱だね。それも空っぽの」

 

 イルマの言う通り、オーガポンが引き上げたのは、トロピウスと木の実のロゴが貼られた木箱であり、その木箱は蓋がなく、中身も空っぽだった。

 海の方に視線を戻してみると、同じような箱が幾つもの浮かんでいる。

 

「パゴッ!」

「テラパゴス?」

「もしかして、ラプラス?」

「やっぱり、六英雄なのかな?」

「テラパゴスが反応してるなら、そうかもしれないね」

 

 海に漂う木箱が増えてきて嬉しそうに鳴き始めるテラパゴスに、リコ達が目的のラプラスが六英雄の可能性が高いと推理したところで、再びフリードから連絡が入った。

 

『皆!目標の海域に入ったぞ。これより、船は速度を落として海の上をゆっくりと回る。リコ、ロイ、イルマ、それにダイアナさん。ラプラスを見つけてくれよ!』

『終わったらパーティだ!今、特性ドーナツを作ってるからな!』

「「「わーい!ドーナツッ!!」」」

『おいおい、ピクニックに行くんじゃないぞ』

 

 キッチンでマホイップとイワンコと共におやつ作りに励んでいるマードックの言葉にはしゃぐリコ達にフリードが苦笑しなが、注意をいれる。因みに、ダイアナは展望室からラプラスを探す役目を担っている。

 

「ラプラスの歌声……どんななのかな?ホゲータも一緒に歌いたいね!」

「ホ、ホ、ゲー!」

 

 歌が好きなホゲータが、ロイの言葉に嬉しそうに返す。

 ホゲータの様子に微笑みながら、イルマは柵に背中を預けて、海を見ながら呟いた。

 

「目的のラプラスが六英雄なら、ガラルファイヤーみたいに戦う事になったりしないかなぁ……?」

「大丈夫!きっと直ぐに分かってくれるよ!」

「船を助けてくれるポケモンだもん。きっと力になってくれる!」

「思い込みは禁物じゃぞ」

 

 そこで、釣りをしていたランドウが声をかけてきて、3人は彼に目を向ける。

 

「よく知るものほど、初めてのように見なければのぅ。真実は見通せぬ……」

(……オーガポンみたいな感じかな?)

「ぽ?」

 

 ランドウの言葉に、イルマはオーガポンに目を向けた。

 キタカミの里で悪者と語り継がれて、それが常識とさえされていたが、実際にはその真逆だった。イルマ自身、ともっこプラザの看板から少しだけ鬼の伝承に疑問を持っていたとは言え、鬼は悪者なんだと思っていたのは事実だったりする。オーガポン本人に言ったら泣いちゃいそうなので言わないが。

 つまりランドウは、ラプラスがそう簡単に力を貸してくれるという甘い考えを持たないようにしろと言うことなのかとイルマが尋ねようとした時──辺りが霧に包まれた。

 

「さっきまであんなに晴れてたのに……」

「何も見えないよ……」

「ってことは、このまま待っていればラプラスにあえるんじゃ……」

 

 霧に包まれた海を見渡していると、突如として霧の向こうから歌声が響いてきた。

 

「歌だ!」

「パーゴ!」

 

 ロイ達が耳を澄ましてその声が聞こえてくる方向を探っていると、イルマは船の全方、濃い霧に包まれた海の上に、青い光を放つ何かがいることに気付く。

 

「……ラルッ!?」

「ラルトス?どうかし……ッ!?」

 

 その時、イルマの肩の上に乗っていたラルトスが、突然青い光を放つ影とは全く関係のない方向に顔を向け、驚いたような声を上げた。その様子に間近にいたイルマが何があったのかと尋ねようとした瞬間、突然船が大きく揺れた。

 

「わぁッ!何!?」

「座礁でもしたの!?」

「見て、あれ!」

 

 リコ達は咄嗟に手摺に掴まりその場に踏みとどまり、船の揺れが収まってから手を離すと、前方に目を向けたロイが指を差した。

 

 リコとイルマ、そしてランドウもそこに視線を向けてみると、そこには甲羅を背負った首長竜のようなシルエットがいることに気付いた。そのシルエットは、先程ポケモン図鑑で見たラプラスのものと完全に一致していた。

 ラプラスと思われるその影は、まるで「ついて来い」と言うように首を動かすと、そのまま背を向けて真っ直ぐに前を進み始める。ラプラスを追いかけるように、ブレイブアサギ号は海の上を進む。

 

 白い霧のせいで空も海も見えない中、ラプラスと思わしき青い光を纏う影は、思わず聞き惚れてしまうような美しい歌声を響かせながら海を進んでいき、ジッとその背中を見ていたテラパゴスが歩きだそうとした、その時だった。

 

「ッ!ラル、ラルルッ!(ッ!モクローさん、侵入者が後ろに!)」

「もふぅ!!(分かった!)」

「えっ?モクロー!?」

 

 ラルトスのオレンジ色の角が、見知らぬ生き物の感情をキャッチし、ラルトスは直ぐ様パーティのリーダー的存在のモクローに呼び掛けると、イルマと共にラプラスの背中を眺めていたモクローは即座に反応して、振り向きながら“エアカッター”を飛ばした。

 ラプラスの背中を眺めていたイルマ達は、突然のラルトスの鳴き声とモクローの行動に驚いて振り返り、真っ直ぐに飛んでいく風の刃を目で追おうとする。

 

「エボッ!」

 

 しかし、風の刃は、“エアカッター”が向かう先から飛んできた星の弾幕とぶつかり合うことで小爆発を起こした。

 

「リクッ!!」

「もっ!」

 

 次の瞬間、爆煙の中から小さな種がマシンガンから放たれるように超高速で何発も発射され、モクローは軽く飛んでその種を避けて甲板に着地すると、ニャオハとクワッス、そしてマトマの実を手にしていたホゲータが並び立つ。

 

「何!?」

「アイツら……ポケモン!?」

「海の上で客人とは……」

「あれって確か、エテボースとリククラゲ!?どうしてここに!?」

 

 イルマ達が視線を向けた先にいたのは、紫の体色に2本に分かれた尾が手のようになった猿のようなポケモン【エテボース】と、ドククラゲが黄色い火星人になったような姿をしたポケモン【クリククラゲ】であった。

 しかし、2体とも海の上で生活するポケモンではない上に、ブレイブアサギ号に住み着いているポケモンの中にエテボースもリククラゲもいない。ならばこの2体は何処から出てきたのかとイルマが困惑していると、突如リククラゲが、先程までニャオハ達が食べていた木の実を集め始めたのだ。

 

「ちょっと、それモクロー達の木の実!」

「エボッ!」

「ホゲゲゲゲゲッ!?」

「ホゲータ!?」

 

 更にエテボースが手のような2本の尻尾を伸ばし、ホゲータのお腹を擽ると、堪えきれずに大笑いしたホゲータの手からマトマの実がこぼれ落ち、エテボースはマトマの実を拾い上げる。

 

「ニャオハ、“でんこうせっか”!」

「オーガポン、“しねんのずつき”!」

 

 そこでリコとイルマが指示を出し、ニャオハは高速の突進をエテボースに、オーガポンはサイコパワーを纏わせた頭突きをリククラゲに炸裂させ、2体は木の実をぶちまけながら吹き飛ばされる。

 立ち上がった2体は自分達が不利だと感じ取ったのか、直ぐ様船から飛び出した。

 

「あっ、逃げた!?」

「いない…!?」

「クワ?」

 

 リコ達は船の下を欄干から船の下を見下ろすが、エテボースとリククラゲの姿は何処にもなく、スマホロトムを持っていたクワッスと映像越しにその光景を見ていたドットは、霧の向こうに消えていく巨大な影を見つけ、首を傾げた。

 

 その影が消えると同時に、辺り一面を包み込んでいた霧が薄れていき、10秒もしないうちに霧は晴れ、リコ達の目の前の景色は青空と青い海が広がる大海原に戻った。

 しかし、霧が消えるのと同時に、先程までブレイブアサギ号を誘導するように前を泳いでいたラプラスらしきシルエットも、煙のように消えてしまっていた。

 

「ラプラスは……」

「いない……振り出しか……」

「……それにしても、あんなに濃かった霧が何でいきなり晴れたんだろう?」

 

 リコが海を見つめ、ロイが溜め息を吐く中、イルマは霧が消えるタイミングに疑問を持った。

 霧の中に迷い込んだ経験等ない為、あまり確信を持つことなど出来ないが、あんなにいきなり出てきて消えるものなのか?と。タイミングからしても、エテボースとリククラゲが船から飛び出した直後だったし、何か関係あるのかなとポケモン図鑑を用いてエテボースとリククラゲの情報を調べていると、リコのスマホロトムから、フリードの集合の声がかかった。

 

 

 

 

 

 

 ミーティングルームに集まったドットを除いた面々は、先程起きた出来事を話し合っていた。

 

「ラプラスは、海中に潜ったみたいだね」

「あぁ、見失っちまった」

「でも、船が無事でよかったなァ。霧の中で、嵐でも起きようものなら……」

「木っ端微塵」

「ラプラスありがとう!」

「……でも、なんかあの霧、違和感あるんだよね……」

 

 バチコ、モリー、オリオがそういった直後、イルマが顎に手を当てながら呟いた。喉に引っ掛かった魚の骨が取れないような、そんな表情だ。

 

「違和感?」

 

 その言葉に、フリードとダイアナがいち早く反応する。それに続くように、バチコ達もイルマに目を向けた。

 その視線で説明を求められていると察したイルマは後頭部を擦りながら先程から感じていた違和感を口にする。

 

「霧が出てきて歌声が聞こえてきた時、ラルトスが騒ぎ出したんです。その後にラプラスが出てきたら、いつの間にかポケモンが船の上に来てたんですよ。そのポケモン達の気持ちをキャッチしたと思うんですけど……」

「そうそう!そのポケモンが、木の実を取ろうとしたんだ!」

「キャモメでも飛んできたか?」

「野生ポケモンのする事だ。大目に……」

「でも、本当に野生のポケモンなら、船に入ってくるなんてありえないんですよね……」

「ありえない?」

「リククラゲとエテボースじゃったな」

 

 イルマの言葉にフリードが片眉を上げた直後、ランドウから明かされたポケモンの名前に、フリードは「なんだって!?」と驚くが、直ぐにスマホロトムを操作し、スクリーンに2体のポケモンの画像を映し出す。

 それは紛れもなく、リククラゲとエテボースの姿だった。

 

「そう、コイツら!」

「私も見た!」

「…リククラゲもエテボースも、森の中で暮らすポケモンだ。海の上では生活できない」

「おまけに、この辺りには生息していないね。イルマの言う通り、船に入ってくるなんてありえない」

「……どうやって船に入ってきたんだ?」

「本当に野生のポケモン?」

 

 ポケモン博士のフリードと、様々な地方を冒険していたダイアナの言葉に、マードックやオリオ達も首を傾げるなか、スクリーンにドットとクワッスの顔が映し出された。

 

『見てほしいものがある』

「ドット」

 

 そう言ってドットが画面に映し出したのは、先程クワッスと共に目撃した、霧に包まれた海の上を走る巨大な影。

 

「何、これ?」

『さっき、船のそばで撮影したんだけど、霧が濃くてよく分からない』

「船かな?」

「トレーナーがいたってこと?」

「仮にそうだとしたら、何で木の実なんか盗むんだ?」

 

 リコとロイの言葉を聞いた後、イルマは余計疑問を増やすだけだと理解しつつ、もう一つの違和感を話した。

 

「……それから、僕とリコが戦って、この2体が船から飛び降りたんですけど、海面にはリククラゲもエテボースもいませんでしたし、そのあと直ぐに霧が晴れたんです。多分、この影が去っていった後だと思うんですけど。偶然なのかもしれないけど、それにしてはタイムリーすぎる気がして……」

「……霧が出るタイミングと、晴れるタイミングを完璧に把握してたの?」

「だとしたら、相当この辺りの海に詳しくなきゃならねぇぞ。海で生活できないリククラゲがエテボースがどうやってそれを把握したんだ?」

「やっぱり、誰かのポケモンだったの?」

 

 イルマからの情報に、やはりあの2体は誰かのポケモンだったのではないかと言う可能性に信憑性が高まっていくなか、リコの隣に座るダイアナが声を上げた。

 

「いや、そもそも、あの霧は自然現象じゃないのかもしれないね」

「やはり、ダイアナさんも?」

 

 フリードの言葉に無言で頷くダイアナ。

 「どういう事?」と首をかしげるリコ達に、フリードが説明をいれる。

 

「普通、霧が出る時は、何らかの予兆があるものなんだが……」

「それが急に出て消えたってことは……」

「もしかして、ポケモンの技!?」

「ラプラスは、“しろいきり”という技が使えるね」

「そうすれば辻褄が合うが、自分で船を迷わせて、道案内する理由はなんだ?」

「……あっ、そう言えば!」

 

 そこで、イルマがもう一つの事を思い出し、オーガポンにあるものを持ってこさせた。それは、先程一つだけ拾った、トロピウスと木の実のロゴマークが貼られた木箱だった。

 

「ラプラスが出てくる前、こんなの拾いましたよ」

「うん、確かにあった!」

「それに何個も」

「貨物船の積み荷じゃないか。しかも空っぽ………そうか、繋がった!」

 

 その空箱を見たフリードは笑みを浮かべてダイアナと視線を交わした後、席から立ち上がり、仲間達に声をかけた。

 

「よし、直ぐに戻るぞ。もう一度ラプラスに会いに行く!オリオは機関室に、じっちゃんには、船の操舵を頼みたい」

「オッケー!」

「造作もない」

「マードックとモリー、それとバチコには、別の任務がある。キャップも、俺と一緒に来てくれ」

 

 キャップを肩に乗せてミーティングルームを出ようとするフリードにマードックが何をする気だと尋ねると、フリードは「ちょっと風向きを変えたい」と答えるだけだった。

 そんなフリードに、ライジングボルテッカーズの面々は訝しげに彼の背中を見送り、ダイアナだけは笑みを浮かべていた。

 

 

 

 

 

 

「すっかり霧は晴れたけど……」

「どうやって探したらいいんだろう……」

「フリードさんは、誘き出す方法を見つけたみたいな感じたったけど……」

 

 その後、船の上に戻ってリコ、ロイ、イルマの三人は、手摺の前で海を眺めながら話し合っていると、後ろから物音が聞こえてきて、3人は首を傾げながらその物音がした方に向かってみると、そこには大量の木箱を積み上げているバチコとモリーとマードックの姿があった。

 

「皆さ~ん、どうしたんですか~?」

「フリードがな、倉庫のポケモンフーズをありったけ甲板に運んでくれって」

「ポケモンフーズ?」

「どういう事?」

「理由は言ってなかった」

「いつもの事だな」

 

 どうやら指示をしたフリードは理由を説明していないようだ。フリードの説明不足はライジングボルテッカーズの中では周知の事実だが、何か考えがあるということは分かるので、リコ達は疑問を持ちながらも、甲板の上に積み上げられた木箱の山を見つめていた。

 

 そして、ウインディデッキが展開されてバトルフィールドの上にキャップを肩に乗せたフリードがやって来たところで、ブレイブアサギ号の周りが霧に包まれた。

 

「また霧が!」

 

 その直後、再び船が何かにぶつかったように大きく揺れ、リコとイルマはバランスを崩して咄嗟に手摺にしがみつき、ロイやポケモン達は甲板の上を滑る。

 そんな中、ウイングデッキの上にたつフリードは不適な笑みを浮かべた。

 

「殆どなにも見えない……が…」

「ピカ!」

「フッ、キャプテンピカチュウの名は伊達じゃないな。行くぜ、キャップ!」

「ピカッ!」

 

 キャップはフリードの肩から飛び出し、“ボルテッカー”を使って体に電気を纏い、バトルフィールドの上で円を描くように走り回ると、“ボルテッカー”のエネルギーが渦を作り、竜巻を作る。

 それは、フリードとキャップが切っ掛け切っ掛けにして、彼らのチームの名前の由来にもなったキャプテンピカチュウの必殺技!

 

「太陽よりも高く、“ライジングボルテッカー”!!

「ピカピカピカピカピカピカピカピカ!ピカピッカッ!!」

 

 力を最大限まで高めたキャップが空高く跳躍すると、辺りを包んでいた霧が一気に吹き飛ばされ、青い空と海が露になる。同時に、滞空していたキャップは船の側を指差した。

 

「ピカ!」

 

 フリードが即座にバトルフィールドの下を覗き込むと、ブレイブアサギ号の隣の海面に浮かんでいたのは、あちこちに古傷を持った青い巨大なクジラの姿をしたポケモン【ホエルオー】。

 更にホエルオーの巨大な背中の上には、イルマ達の話に出てきたエテボースとリククラゲだけでなく、【ヤドラン(ガラルの姿)】【ヤルキモノ】【ビーダル】【オクタン】【ブロスター】【ガメノデス】【ブロスター】【バルジーナ】の姿。その上ホエルオーのすぐ側には、【ダダリン】【テッポウオ】【ドラミドロ】【マンタイン】、更にオススメ両方の【ブルンゲル】の姿もあった。

 

 そして、エテボースとリククラゲが尻尾と触手を使ってブレイブアサギ号に乗り込んだのを見て、フリードは自分の推理があっていたのだと確信した。

 

「やっぱり、お仲間がいたってことか。迷った船を導くだなんて、とんだ食わせ者だったな……ラプラス!」

 

 続いて、フリードは船の前にいるラプラスに目を向けた。

 先程と違い、霧が晴れても背中を向けたままだったラプラスはゆっくりとブレイブアサギ号の方を振り返ると同時に、テラパゴスを抱えたリコとイルマは船の前までやって来て、振り向いたラプラスの姿を目にした。

 

 優しさを感じられない鋭い目付きに、左目に大きな切り傷の痕、更に首や背中の甲羅にも古傷を持ったそのラプラスは、図鑑説明とはかけ離れた険しい表情で、こちらを睨んでいた。

 

「パーゴ!」

「……!」

 

 その時、リコの腕の中にいたテラパゴスが、ラプラスを呼ぶように鳴き声を上げると、険しい表情でこちらを睨んでいたラプラスの目が見開かれた。

 同時に、ラプラスの体が青く光り、それに共鳴するようにテラパゴスの体が光だす。

 

「やっぱり貴方、六英雄の……」

「……ッ」

「……?」

 

 テラパゴスとラプラスに面識があるような様子から、リコ達は目の前のラプラスが六英雄の一人、『海を渡るポケモン』であると言う確信を抱く。

 そして、当のラプラスはしばらくの間テラパゴスの姿を見つめた後、何かに葛藤しているように眉間に皺を寄せながら、テラパゴスから視線をそらして俯き、その様子にイルマは首を傾げた。

 

「ホエー……」

「……ホー!ホー!」

 

 その時、エテボース達を背に乗せていた古傷だらけのホエルオーがラプラスに向けて声を上げ、その声にラプラスはホエルオー達のもとへ近寄ると、エテボースとリククラゲに続くように、ヤルキモノとガラルヤドランが船に飛び込んできた。

 モリーとマードックが各々ラッキーとイワンコを繰り出すが、ガラルヤドランとヤルキモノの威圧感に、バトルに向いていない2体が怯んでいると……

 

「ジュナイパー、全員に“リーフブレード”だ」

「ジュナッ!!」

「エボッ!?」

「リク!!」

「ヤド!?」

「ヤルキッ!?」

 

 ジュナイパーが高速で駆け出し、瞬く間に四体の体を緑の刃で切り裂いた。

 

「バチコ!」

「悪ぃが、無断乗船はエクスプローラーズで懲り懲りなんでな」

「ジュナ!」

 

 リコ達がモリー達のもとに駆けつけ、バチコの言葉に呼応するようにジュナイパーが威嚇するように翼を広げてエテボース達を睨み付けると、更にオクタン、ビーダル、バルジーナも船に乗り込んでくる。どうやら引く気はないらしい。

 すると、ウインディを連れたダイアナと、リザードンに乗ったキャップとフリードがやって来る。

 

「皆、大丈夫かい?」

「お婆ちゃん!」

「加勢するよ!」

「皆、よくやってくれたな」

「フリードも!」

「さて……許可のない乗船はご遠慮願おうか!」

 

 フリードがエテボース達を睨み付けながらそう言うと、ホエルオーの背中の上にいたポケモンや近くにいたポケモン達が一斉に飛び掛かり、戦闘が開始された。

 

「バジィッ!」

「ガメェ!」

「モクロー、2体の目に“このは”!ラルトス、“こごえるかぜ”!」

「もふ!」

「ラッ!」

 

 飛び掛かってきたバルジーナとガメノデスに対し、モクローは数枚の葉っぱを放って2体の目に葉を張り付かせ、視界が不明瞭になったところで、ラルトスが冷たい吐息を吐き、堪らず2体は体を震わせる。

 

「オーガポン、“ツタこんぼう”!」

「ぽにぃっ!!」

 

 そこへオーガポンがエネルギーを纏わせた棍棒を振るい、吹き飛ばされたバルジーナとガメノデスは欄干に背中をぶつける。

 他の面々も、ライジングボルテッカーズに押され始め、エテボース達は一ヶ所に追い詰められた。

 

「……ホーーッ!」

 

 それを見ていたラプラスが大きく声を上げると、エテボース達はホエルオーの背中に飛び乗り、ラプラスと共に船を離れていく。

 

「待って、ラプラス!」

「パーゴ!」

「このまま奴らを追う!」

 

 フリードの号令で、一同は直ぐ様操舵室に向かい、ランドウが舵を取りラプラスとホエルオー達の背中を追いかける中、望遠鏡を手にしていたフリードが口を開いた。

 

「まんまとしてやられたよ」

「どういう事?」

「霧の中で迷った船を導いてくれる心優しきラプラス。俺達はそう思い込んでいた」

「え?」

「だが、霧は突然出現して消えた。まるで狙いすましたかのように」

「ラプラスの技でね」

「ええ」

 

 フリードと同じく真実に辿り着いていたダイアナの言葉に同意しながら、フリードは自信の推理を口にする。

 

「アイツは、通り掛かる船に“しろいきり”を浴びせて、わざと迷わせていたんだ」

「そんな……」

「けど、歌を歌って助けてくれたじゃん」

「……成る程、歌もラプラスの作戦だったんですね」

「ぶい?」

 

 ラプラスの霧に違和感を持っていたイルマが、頭の上にイーブイを乗せながら腕を組んで納得したように呟くと、フリードはiPadサイズに拡大させたスマホロトムにある映像を表示させた。

 

「あぁ、そしてこのシルエット」

『仲間がいたってこと。それがこのホエルオーだったんだ』

「あぁ。キャップが霧を晴らしたお陰で、はっきりと分かった。霧の中、ラプラスが歌で俺達の注意を引き付けているうちに、仲間のホエルオー達が船に近付き、積み荷の食料をごっそり頂いてくって寸法だ」

「それが白い霧の歌声の正体……」

「狙いは食べ物だったのか!」

「ランドウさんの言う通り、思い込みは禁物だね……」

 

 船乗りを助けると言う噂の真実が、全くの逆だったことに、イルマはランドウの言葉が的を得ていた事を知り、ラプラスを言いやつだと思い込んだ事で危うく食料を奪われるところだったと反省する。

 

「貨物船の船長も、まんまとラプラスに騙された訳だ。貨物を奪った張本人だとも気付かずにな」

「よく気付いたな……」

「海に生息できない筈のエテボースとリククラゲ、そしてイルマが拾った積み荷の空箱で確信した。海の上を運んでいる仲間がいて、奴らの狙いは食べ物なんだってな」

「それでホエルオーか」

「ラプラスが現れる前に船が揺れたのも、ホエルオーが近付いた影響だろう」

「ラプラスは、色んな地方を巡って仲間を集めたのかもしれないね。さしずめ、ラプラス海賊団ってとこかな」

「か、海賊……」

「チームを組むなんて……」

「あぁ。高い知能を持つとは聞くが、ここまでとは……」

 

 ダイアナの言葉に、イルマ達はゴクリと唾を飲み込み、違うポケモン達を統率を成したラプラスに畏怖の念を覚える。

 

「バチコ達には、最後の確認としてラプラス達の目的が食料だと確かめてもら痛ェッ!?」

「そう言う大事な事のは先に言えっていつも言ってんだろーがよ」

 

 それを聞いたバチコが、言葉を言い終えるより早くフリードの足を踏んだ。モリー達もフリードに非があったのは事実のため苦笑しながらバチコを宥める。

 

「ラプラス達、どうしてそんなことを……」

「そうだよ。人の木の実やポケモンフーズを盗もうとするなんて」

「……悪いことだと思うかい?」

 

 ダイアナの言葉に、リコ達はダイアナに視線を向け、ダイアナは遠さがるラプラス達の背中を見つめながら呟く。

 

「私達からすればそうかもしれない。だけど、ラプラス達からしたらどうだろうね」

「ラプラスから?う~ん……」

「「……」」

 

 ダイアナの言葉にロイは首をかしげ、リコとイルマは先ほど見たラプラスの様子に何か思うところがあるのか難しい表情で考え込んでいると、キャップの言葉で、ホエルオーの背中が目前まで迫っていることに気付いた。

 

「追い付いた!」

「じっちゃん、すげえ!」

「元はじっちゃんの船、海の上では敵わないな」

「ほっほ。水を得たギャラドスのようじゃろう」

「オリオ、一気に追い付くぞ!」

 

 機関室のオリオにスマホロトムで声をかけると、機関室に向かったリザードンとオーガポンの協力により、船は一気に加速し、ホエルオーとの距離を縮めていく。

 

「よし、尻尾は捕まえた!」

「……いや、とうやら捕まったのは私らのようだね」

 

 ダイアナの言葉に、フリードは目を凝らしてホエルオー達を見てみると、ホエルオーの背中の上に乗っていたポケモン達がこちらを睨み付けている事に気付いた。

 

「へッ、やる気満々かよ」

「た、大変!」

「海の上じゃ、向こうが有利なんじゃ……」

「ぬかりはない!ワシのヌオーを信じるのじゃ!」

 

 慌てるリコ達に声を掛けると、リコ達は船の上にランドウのポケモンであるヌオーが立っていることに気付いた。

 

「ヌオー!?」

「いつの間に!?」

「しっかり捕まっておれ!ヌオーの“なみのり”は少々、荒っぽいぞい!」

 

 ランドウの言葉と同時に、ホエルオーの上に乗るポケモン達が一斉に“みずでっぽう”を放ち、猛烈な勢いの水流がブレイブアサギ号に襲い掛かる。

 

「ヌオ!ヌッオー!!」

 

 その光景を前にしたヌオーは大波を起こし、津波をポケモン達の水流の盾にして、船への直撃を防いだ。

 操舵室にいるランドウが波の動きに合わせるように舵を切ると、船は大きく揺れ、リコ達は一斉にバランスを崩し、椅子に捕まったり、床を滑ったり。

 しかし、ラプラス海賊団の攻撃は止まず、その度にヌオーが波を起こし、ランドウが舵を切る度に、リコ達は床を滑り落ちていく。

 

「じっちゃんすげェ!」

「ほっほ、造作もない」

「……ホー!」

 

 その時、ラプラスの声が響き渡り、ラプラス海賊団の攻撃が止まった。

 フリードが、このままラプラスのもとまで進もうと言おうとした瞬間、ホエルオーが右に向かい、ホエルオーの前にいたラプラスの姿が露になる。

 

「ラプラス!」

「先に仲間を逃がそってか」

「仲間想いなんですね。でも、何か嫌な予感が……」

「もふぅ」

「ぶっぶいぃ……」

 

 ライジングボルテッカーズの目的が自分だと分かっているため、自分が相手をすることで仲間を逃がそうとするラプラスの気概に感心しつつも、イルマが嫌な予感がして口橋をひきつらせていると、その一秒後にその予感が的中した。

 

「ホーーッ!!」

 

 ラプラスは海から飛び出し、真っ直ぐにブレイブアサギ号に突進する。フリードが全員に「伏せろ!!」と叫んでリコ達がその場でしゃがみこんだ瞬間、ラプラスの体と船が激突した。

 

ドォオオオオンッ!!

 

 轟音と共に、凄まじい衝撃がブレイブアサギ号を襲う。

 

(ご、豪快です……)

「何てやつだい」

「良い根性してんじゃねぇか……!」

 

 ガラス越しにギロリとこちらを睨んでくるラプラスに、フリードとダイアナが不適な笑みを浮かべる。

 すると、突如としてラプラスが船から距離を取る。どうするつもりなのかとリコ達がラプラスに注目していると、ラプラスが開いた口の中に、息も凍る程の冷気が発生する。

 その光景にフリードがひきつった笑みを浮かべたと同時に、ラプラスの口から水色の光線が発射された。

 

ピキピキピキピキ……

 

 ラプラスの“れいとうビーム”が炸裂し、ブレイブアサギ号だけでなく、海までもが凍りついた。

 ランドウが舵輪を動かそうとしてもピクリとも動かず、強制的にその場から動けなくなってしまったことにリコ達が焦りを見せていると、ラプラスは船に背中を向けて泳ぎ始める。

 

「パーゴ!」

「ラプラス、待って!」

「……行っちゃった」

 

 海の向こうに消えていったラプラスの背中を眺めていると、ダイアナが口を開いた。

 

「……まるで霧みたいなヤツだ。追っても追っても掴めない」

「もうあっちからは現れそうにないね」

「おい、どうすんだ!」

「このまま諦めるっていうの!?」

「まさか。ラプラスは海の上にいるんだ。必ず見付けられるさ」

「手掛かりも無しに探してたら何十年後になるんだよ……」

 

 フリードの言葉にバチコが呆れ、他の面々もどうすれば良いと頭を悩ませるなか、何かを考え込んでいる様子のリコに気付いたイルマが、リコに声をかけた。

 

「リコ、何か気になってるの?」

「うん。あのラプラス、テラパゴスを見て、何か迷っていたように見えた。きっと、ラプラスも何か想いを抱えてる。だから、私もラプラスの事を知りたい」

「だったら、ますますもう一回会わなきゃだな」

「うん。でも、どうやったら……」

「リコ、見て!」

 

 ロイに促されて一同が船の外を見てみると、そこには海面にプカプカと浮かぶ空箱があった。箱に記載されているロゴから、ラプラス達が盗んだ貨物船の積み荷だと気付くと、似たような箱が次々と流れてくる。

 その箱を見て、リコの頭の中にある考えが浮かんだ。

 

「追いかけてダメなら、私達がラプラスを待ってみようよ」

「おや」

「待ってみるって……」

 

 リコの言葉に、一同は目を瞬かせた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ブレイブアサギ号を“れいとうビーム”で動けなくさせて海の上を進んでいくラプラスは、流されていく貨物船の空箱を通り過ぎながら、いくつかの岩場が浮かんでいる場所に辿り着いた。

 その中で、空洞が出来ていることでラプラス達のアジトのようになっている洞窟に入り込むラプラスは、何やら中が賑わっている事に気付く。

 食料は手に入らなかったのに何を騒いでいるんだろうと疑問を持ちながら仲間達が集まっている場所まで進んだラプラスは、その先にある光景を見て目を見開いた。

 

「あっ」

「よう、ラプラス。待ってたぜ」

「アハハ……案の定驚かれてる……」

「お、お邪魔してます」

 

 ラプラスの目の前には、木箱の中に詰め込まれた食料を嬉しそうに食べる仲間達。そして、わずかにはなれた場所で、こちらに気付いて話し掛けるロイ、フリード、リコ、イルマの姿であった。

 丁寧に頭を下げているリコの腰には、二つのモンスターボールが納められているベルトが巻かれており、それが自分のトレーナー(ルシアス)のものだと気付いたラプラスは、ここまで来た敬意を話すリコ達の声を何処か他人事の様に聞きながら見つめていたが、その直後に古株の仲間であるホエルオーが海面に浮かび上がってきたことで、敵意を浮かべてリコ達を睨み付ける。

 

「待って!テラパゴスに会ってほしかったの!」

 

 その敵意に気付いたリコの言葉を聞き、ラプラスは仲間達と楽しそうに話し合っているテラパゴスに視線を向ける。

 

「しかし、すごいな。すぐに仲良くなっちまった」

「うん」

 

 フリードの言葉に同意するように、リコ達は頷く。

 実際、ここに来た時、当然ながらエテボース達は全員警戒しており、一触即発の雰囲気だったのだが、その時にテラパゴスが前に出てきて、少しの間話しているうちに、テラパゴスはラプラス海賊団の面々とすっかり打ち解け合い、次いでイルマ達が船から持ってきた食料を差し出したことで、こうしてリコ達がこの場にいることを受け入れてくれたのだ。テラパゴスがいなければ、最悪ラプラス達と全面戦争になってもおかしくなかっただろう。

 そう考えていると、ニャオハがリコの方を向いて鳴き声を上げ、リコはそれに頷いて、ラプラスに話し掛けた。

 

「ラプラス、聞いてほしいの。テラパゴスは、ラクアに行きたがってる。ルシアスと一緒に、辿り着いた楽園。それがどんなところで、何処にあるのかもまだ分からないけど、私は、テラパゴスの願いを叶えてあげたい。だからラプラス、貴方に会いに来た。かつて、ルシアスの仲間だった貴方に」

「……ホー」

「パーゴ!」

「お願い、ラプラス。この子の力になってあげて」

 

 テラパゴスとリコを、ラプラスはジッと見つめている。

 

「パー!」

 

 その時、テラパゴスの体が光を放ち、それに共鳴するように、リコのベルトに納められたモンスターボールから黄金の光が放たれる。

 リコがそのモンスターボールを取り出すと、黄金の光と共に、2体の巨大なポケモンが姿を現した。

 

『キーヴァ……』

『ギャオオ……』

 

「……」

 

 オリーヴァとガラルファイヤー。

 ルシアスのポケモンであり、ラプラスの仲間でもあった2体は優し気な鳴き声でラプラスに語り掛け、ラプラスは100年近く合うことがなかったかつての仲間が現れたことに少し驚きつつも、その言葉をしっかりと耳にする。

 

 リコ達は黙ってその光景を見守っいると、テラパゴスが目前まで歩み寄ってきて何かを訴える。すると、ラプラスは目映い光を放つ光球を発生させ、その光が大きくなっていくと、ラプラスやテラパゴス、リコ達やオリーヴァ達を呑み込んだ。

 

 すると、リコ達の耳に、轟音が聞こえてきた。

 

「これは……」

「ガラルファイヤーの時と同じ……」

 

 リコ達の視界の先には、いつの間にか見知らぬ光景が広がっており、すぐそばにマントを着た青い髪をした男が立っていた。

 リコ達はその男が、六英雄と出会う度に見る幻影に登場したルシアスだと気付くと同時に、ルシアスはこちらを振り向いた。

 

 ……皆、ありがとう。ここは俺に任せてくれ。

 

 優しげな声でそう言ったルシアスは、再び背を向ける。

 

 俺は死なない。約束だ。

 

 ラクアと共に生きて、必ずもう一度、お前達と……

 

 やがてその姿が霧に包まれていき、その幻覚を作り出していた光がテラパゴスに吸い込まれていく。

 

「パー!パゴ!パーゴ!」

「何だか嬉しそう……」

「パワーをもらったのかな……」

「よかった」

 

 嬉しそうにはしゃぐテラパゴスを見てリコ達がそう呟いた瞬間、ラプラスから声が聞こえてきた。

 イルマ達がラプラスに視線を向けてみると、ラプラスは瞳からポロポロと涙を流していた。

 

「……ホーー!」

『キーヴァ!』

『ギャオォ……!』

 

 ラプラスに続いて、オリーヴァとガラルファイヤーも声を上げる。その声はまるでラプラスと共に泣いているように聞こえるのは、気のせいではないかもしれない。

 

「……ルシアスと約束したんだな」

「それで、テラパゴスはラクアに」

「…でも、『死なない』って、何があったんだろう……」

(約束……だからオリーヴァもガラルファイヤーも、テラパゴスに…私達について来てくれたんだ)

 

 やがて、お互いの顔を見合わせて頷き合ったオリーヴァとガラルファイヤーは赤い光と共に自分の古のモンスターボールの中に戻っていき、ラプラスは大きく息を吐いたあと、真っ直ぐにリコを見た。その目は、何処か晴れやかだった。

 

「ホー!」

 

 ラプラスが声を出すと、ラプラスの仲間達が木箱を手にしながらやって来た。その箱を開けてみると、中には多種多様の木の実が大量に入っていた。

 

「これは……」

「食べても良いってこと?」

「歓迎されてるみたいだな」

「それじゃあ遠慮なく…いただきま~す」

 

 イルマが手に取ったオボンの実を齧ると同時に、リコ達も木の実を手に取って食べ始め、ラプラス達の仲間も一緒になって木の実を食べる。

 

(それにしても……ルシアスって、なーんかリコやダイアナさんにに似てるような気がするんだよね……)

 

 モクロー達に各々の好きな味の木の実を渡して上げながら、イルマはあることを考えてリコを見る。

 先程の幻で始めて見る事となったルシアスの容姿は、あまりにもリコに似ていた。更にいえば、彼女の祖母であるダイアナにも……

 

(……まさかね)

 

 一瞬頭の中にある仮説が思い浮かんだが、今追求したとしても意味はないと考えることを止め、イルマはマトマの実を喉につまらせたオーガポンの背中を擦ってやる。

 そうしていると、ブレイブアサギ号がこちらに向かってくるのが目に映った。

 

 

 

 

 

 

 それから、ウインディの炎で氷を溶かしたブレイブアサギ号の積み荷やマードック特製ドーナツによる宴会が行われ、終わる頃には既に夕方に差し掛かっていた。

 リコは腰かけていた岩から立ち上がり、ラプラスに歩み寄る。

 

「ラプラス、お願いがあるの。私達と一緒に、ルシアスとの約束を果たしに、ラクアに行こう」

「……」

 

 ラプラスは首を盾に振ることを躊躇う。

 行きたくないという訳ではない。ルシアスとの約束は、ラプラスにとってとても大切なものだからだ。

 だが、海を旅するなかで出会ってきた仲間達を放っておけない。ルシアスや、オリーヴァ達は大切な仲間だと思っているが、彼等もまた大切な仲間だからだ。

 すると、ラプラスの仲間達から声が上がった。

 ラプラスがリコ達の後ろにいるリククラゲ達に目を向け、アジトから出てきたエテボースが差し出してきたものを見て、ラプラスは目を見開いた。

 

「エボ!」

「……!」

「古のモンスターボール!」

「大切に取ってあったんだ……」

「……ホー」

「ホエー」

 

 後ろからホエルオーが笑顔で声をかけてきて、ラプラスは仲間達を愛おしそうに見つめたあと、エテボースの持つ古のモンスターボールを咥え、それを上へ放り投げた。

 

「ホー!」

 

 ラプラスが空中のボールに吸い込まれていくと、リコは足元に転がった古のモンスターボールを拾い上げる。

 

「ホー!」

 

 同時に、エテボース達がホエルオーの背中に飛び乗り、ホエルオーは大きな声を上げながら海の上を進み始める。

 リコ達から見送られながら海の上を進んでいくと、ホエルオーは潮を吹くように、頭の天辺から白い霧を噴き出し、その姿が霧に包み込まれていった。

 

「“しろいきり”」

「アイツも使えたのか」

「……続いていくんだ、こうやって」

「大丈夫ですよね、ラプラスがいなくても」

「あぁ。何処かで逞しく生きていくさ」

 

 霧が晴れていくと、ホエルオー達の姿は何処にもなかった。

 リコは新たに手にした古のモンスターボールを見つめながら呟く。

 

「これで、六英雄の半分」

「黒いレックウザに近付けたって事だよね」

「……いや、今目の前にいるみたいだよ」

「パーゴ!」

 

 空を見上げているイルマの言葉とテラパゴスの弾んだ声に、リコ達は空を見上げ、目を見開いた。

 

 オレンジ色に染まる空の上には、煌めきを放つ黒い体をした龍の姿をしたポケモン──レックウザが、ラプラス達のアジトを旋回するように飛び回っていたのだから。

 

「レックウザ!」

「ウソ!?」

「向こうからお出ましとはな……」

「パー、パーゴ!!」

 

 圧倒的な存在感を放ち空を飛ぶレックウザの姿に、リコ達は驚き、テラパゴスは喜びに満ちた声を上げていた。

 

 

 

 

 

 

 

 潜水艇の中。

 海の中を突き進む潜水艦の中にいるのは、エクスプローラーズの幹部アメジオと、その部下であるコニアとジル。

 テーブルに写された地図と睨み合っていたアメジオに、レーダーの1つがある反応を捉えたことに気付いたジルが声をかける。

 

「アメジオ様!」

「現れたか」

「こちらでも確認しました。レックウザです!」

「浮上しろ。お前達はここで待機だ」

「「ハッ!」」

 

 部下達にそう呼び掛けると、アメジオは海の上に浮上した潜水艦から出てきて、取り出したモンスターボールを投げる。

 

「アーマーガア!」

「アーマァッ!」

「行くぞ!」

 

 現れたのは、彼の飛行要員であるアーマーガア。

 アメジオは彼の背中に飛び乗り、主人を背に乗せたアーマーガアは、潜水艦から飛び出していった。

 

 

 

 

 

 

 

 場所は変わり、上空の雲の上に潜む航空機の中。

 緑の髪をした青年に撫でられていたテントウムシとUFOが合体したようなポケモンは、突如誰もいない航空機の床に視線を向けた。

 

「……オル」

「兄さん。どうやらアメジオさんが動き出したみたいや。多分、レックウザを見付けたんやろな」

「そうか。なら、ぼちぼち行くとするか」

 

 その様子からなにかを察した様子の緑の髪の青年の掛けた声で、逆立った金髪の男は椅子から立ち上がった。

 航空機の広報に歩き出す金髪の男と緑の青年の後ろから、黒髪の男が声をかける。

 

「んにしても~、アンタが自分から出てくるなんてね~」

「不本意ではあるけどな。テメェ等がアメジオと潰し合ってレックウザに負けて帰ってこられる訳にもいかねぇし、俺が出てきていた方が都合がいい」

 

 やがて、航空機のハッチが開くと、金髪の男と黒髪の男は同時にモンスターボールを投げた。

 

「ジバババババッ」

「フラッ!」

 

 出てきたのは、UFOを連想させる金属製の体をしたポケモンと、黄緑色のドラゴンのような姿をしたポケモン。

 金髪の男はUFOのようなポケモン──【ジバコイル】の上に飛び乗り、黒髪の男と緑髪の青年は【フライゴン】の背中に飛び乗る。

 そして、ジバコイルとフライゴンは、航空機から距離を取りながら、ゆっくりと高度を下げていった。




次回、『咆哮の黒いレックウザ』をベースにしたオリジナル回となります。

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