魔入りました!入間くん if Episode of ポケットモンスター   作:MTHR

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 今回は『咆哮の黒いレックウザ』をベースとしたオリジナル回です。ご都合主義やらキャラアンチに思える描写など色々あると思いますが、広い心で楽しんでいただけると幸いです。


44話 龍を蝕む悪意

 宝石のように煌めく漆黒の体に黄色い模様を持つ龍の姿をしたポケモン──レックウザ。

 六英雄のラプラスが着いてきてくれることになった直後にまた六英雄が現れるという超展開にリコ達は呆然とレックウザを見上げていたが、ロイは誰よりも早く正気を取り戻すと、リコ達の前に出て、上空のレックウザに呼び掛けた。

 

「おーい!レックウザ!あれからずっと、探してたんだ!僕とバトルしてくれ!」

「ホーゲー!」

「何でレックウザがいきなり……」

「六英雄が呼び合ったのか……!?」

「そうかい……アンタがルシアスの最強の相棒だね……」

「パーゴ!パーゴ!」

「ここだってば!レックウザ!」

(皆の思い、伝わって……)

 

 レックウザにバトルを挑むロイに、レックウザの登場に驚きを露にするイルマとフリード、そしてレックウザの姿に笑顔を浮かべるダイアナ、呆然とレックウザを見上げていたリコは、テラパゴスとロイのレックウザの名前を呼ぶ声にハッとなると、再びレックウザに視線を向ける。

 すると、リコが着けていたベルトに納められた3つのモンスターボールが薄く光を放った。

 

 一方、まるで何かを探しているかのように視線を右往左往させていたレックウザは、ある気配を感じて顔を下げると、リコの腰に取り付けられているボールからその気配が出ているのだと気付き、咆哮を上げた。

 

『……きゅりゅりりりりぃ!!』

 

 全身を震わせるような咆哮、しかし敵意のようなものは一切込めていない咆哮を上げたレックウザはそのままリコ達の前に降りようとする。

 その時、レックウザはまた別の気配を感じて横を向いてみると、そこには猛スピードでこちらに迫ってくるアーマーガアとアメジオの姿があった。

 

「探したぞ……今度こそ捕まえて見せる!」

 

 アメジオの手に握られているのは、通常の品のよりも遥かに高性能なハイパーボール。

 レックウザは、アメジオを敵だと判断したのか、アーマーガアに乗るアメジオに向けて“りゅうのはどう”を放つ。伝説のポケモンが放つその光線は並のドラゴンポケモンの放つものの数十倍に近い威力を秘めた恐ろしいものだが、アーマーガアは高い機動力を活かしてその光線を回避する。

 

 そして、アーマーガアの背中から飛び降りて近くの岩場に着地したアメジオは、懐からモンスターボールを取り出した。

 

「出てこい!」

「ソウッ!」

「ソウブレイズ、“サイコカッター”!アーマーガア、“エアスラッシュ”!」

 

 ボールから出てきたのは、彼の相棒のソウブレイズ。

 ソウブレイズが出てきたのと同時にアメジオは指示を出し、ソウブレイズとアーマーガアの2体は同時に×字の飛ぶ斬撃を放った。

 

『……きりゅりりゅりしぃぃっ!!』

 

 それに対してレックウザは、口を大きく開けて咆哮を上げる。

 レックウザにとっては技でも何でもないその雄叫びの衝撃だけで、“サイコカッター”と“エアスラッシュ”は蝋燭の火のようにかき消されてしまった。

 その衝撃波に押し流された海水の水飛沫と風圧にやや怯みながらも、アメジオは次の指示を出した。

 

「遠距離攻撃は無駄か……アーマーガア、ソウブレイズと共に昇れ!」

「アーマー!」

 

 岩場から飛び出したソウブレイズを背に乗せ、レックウザに突撃し、ソウブレイズは“サイコカッター”を放つ。

 だが、レックウザは再び“りゅうのはどう”を放ち、サイコカッターを呑み込んでソウブレイズとアーマーガアを撃ち落とそうとするが、アーマーガアは鍛え上げたスピードを駆使してその波動を避け続ける。

 空振りになった“りゅうのはどう”が海面に直撃し、小規模な津波を起こし、それがアメジオの登場に驚いていたライジングボルテッカーズの面々に降り注ぐ。

 

「不味い!リザードン!」

「ギャオッ!」

 

 岸辺にいたロイに津波が襲いかかろうとしているのを見たフリードとリザードンが飛び出し、ロイを抱き締めたフリードの後ろにリザードンが立ち、ロイを津波から守る。

 海水に服や髪が濡れた事を気にもせず、フリードは腕の中のロイに声をかけた。

 

「大丈夫か、ロイ!?」

「僕達が先に会ったんだ……!」

「ピカチュー!」

 

 しかし、ロイはフリードの腕から飛び出し、アーマーガアとソウブレイズを撃ち落とそうとしているレックウザに向かっていこうとし、フリードはロイの腕を掴んでそれを止めた。

 

「おい!今は駄目だ!」

「でも、レックウザが!」

「無理をするな!」

「放してフリード!レックウザが!!」

 

 アメジオのポケモン達と激しい戦いを繰り広げるレックウザに向かっていこうとするロイを羽交い締めにして止めるフリード。

 

「フリード!三人を連れて早く逃げろ!」

「行くぞ!」

「レックウザ!放してレックウザと……」

 

 ロイを無理矢理引きずって船のもとに戻るフリード。

 ダイアナとウインディもレックウザの戦いの余波を受けないようにとリコとイルマの前に立つ。

 

「リコ、僕達も船に戻ろう!」

「でもイルマ!レックウザと話をしなきゃ!テラパゴスだってここにいるんだよ!」

「分かってるさ!でも、相手は気が立っている。今は駄目だ!」

 

 そうしている間にも、“りゅうのはどう”が止まった隙を狙ったアーマーガアが距離を積め、レックウザの体を駆け上がるように高度を上げ、遂にレックウザの顔の前まで辿り着いた。

 

「叩き込め!“むねんのつるぎ”!!」

「ソウッ!!!」

 

 アーマーガアの背から飛び出したソウブレイズが、両腕の剣に呪いの炎を纏わせ、それを全力で振り下ろす。

 レックウザの額とぶつかり合った剣に力を込めるソウブレイズだったが、大技を受けたレックウザが微動だにしていないことに気付くと同時に、レックウザは首を上げてソウブレイズを引き離すと、三本の鋭い爪を携えた右上を、勢いよく振り下ろした。

 

ドォオオオオンッ!!!

 

 レックウザの一撃により、岩場に向かって一直線に墜落したソウブレイズは、小さなクレーターを作り、土煙を巻き上げて倒れる。

 

「ソ、ソウ……」

 

 フラフラとおぼつかない足取りになりながらも立ち上がるソウブレイズ。技ではないただの腕の力だけでの攻撃だったお陰なのか、戦闘不能には陥らなかったが、それでも無視できない程のダメージを負ってしまった。

 動くことができないソウブレイズに、レックウザは容赦なく“りゅうのはどう”を放とうとした瞬間。

 

「“サンダーダイブ”」

「ブゥルッ!!」

 

ズドォオオオオオンッ!!

 

『きりゅりりぃっ!!?』

 

 上空から、一筋の稲妻が落ちてきた。

 巨大な質量を持ったその稲妻が頭に炸裂したレックウザは、大したものでないとはいえ確かな痛みを受け、“りゅうのはどう”を中断してしまう。

 

 その場にいた誰もがその光景に驚いていると、レックウザの頭にぶち当たった稲妻が、まるで意思を持っているようにレックウザから離れてリコ達とアメジオの中間に位置する岩場の上に降りると、電気が弾け、稲妻を纏っていたそのポケモンの姿が霧になった。

 

 猿のような顔に赤く丸い目、狸のような寸胴な体、虎柄模様に背中にはコンセント型の模様、蛇やケーブルを模した黒い尻尾の先には赤い突起。

 らいでんポケモン【エレキブル】。圧倒的な威圧感を放つ佇まいをしたその姿を見て、アメジオが目を見開いた。

 

「エレキブルだと……まさかッ!?」

 

 アメジオが咄嗟に声が聞こえてきた夕焼け空を見上げると、そこには一体のポケモンの背に乗る人物の影があった。

 ライオンの鬣のように逆立った金髪に鋭い目付きをした大柄の青年は、少しずつ高度を下げるUFOのような形状に金属質の体を持つ【ジバコイル】の背中に乗ったままエレキブルの隣に立ち並び、黒いレックウザを見上げた。

 

「あの人は……?」

 

 リコは見知らぬ人物の乱入に困惑し、ライジングボルテッカーズの面々もその男に警戒をしていると、アーマーガアに乗って負傷したソウブレイズを回収したアメジオが金髪の男とエレキブルが立つ岩場に降り立ち、ジバコイルの上に立つ金髪の男を睨むように声を投げ掛けた。

 

「バール!なぜお前がここにいる!?」

「ハッ。俺が何処にいたって文句を言われる筋合いはねぇだろうがよ」

 

 互いに面識があるように話しをしていることから、仲が良さそうに見えないが、バールと呼ばれたあの男もアメジオの仲間──エクスプローラーズの一員であることを察したリコ達。

 

『きゅりゅりりゅりしぃっ!!』

 

 その時、不意打ちをしてきた下手人がバールとエレキブルであると理解したレックウザが、怒りに染まった表情で咆哮を上げると、口内に発生させた紫のエネルギーを上空に向けて発射し、そのエネルギーが四散することで“りゅうせいぐん”が辺り一面に降り注ぐ。

 

「きゃあっ!?」

「うわぁっ!!」

 

 隕石が海や岩場に降り注いだ隕石が爆発を起こし、その余波を浴びたリコ達は転倒しそうになるのを堪えるだけで精一杯だ。

 

「リザードン、“かえんほうしゃ”!」

「ウインディ、こっちも“かえんほうしゃ”だよ!」

 

 流れ弾の隕石が此方にも落ちてくるのを見たフリードとダイアナの指示により、リザードンとウインディが強力な炎を吐き出して隕石を迎撃する。

 そして、レックウザの狙いであったバール達の上に、複数の隕石が降り掛かる。元々彼を狙っていた為なのか、リコ達に落ちてきた隕石の数の倍近くはある。

 

「オルッ!」

 

 その時、隕石とバール達の間に割り込んできた影が自分やバール達を包み込むようにドーム状のバリアを展開し、その攻撃を防いだ。

 やがて隕石の雨が止み、“りゅうせいぐん”を防いでいたそのポケモンがバリアを消したことで、その姿が露になり、イルマがそのポケモンの名前を呼んだ。

 

「あのポケモンって、イオルブ!」

 

 UFOとテントウムシが合体したような姿をしたポケモン──イオルブの姿を目にして、一度そのポケモンの姿を見たことがあるイルマが驚くが、次の瞬間にイオルブの隣に降り立ったポケモンの姿を見て、ライジングボルテッカーズの面々の表情が驚愕に染まった。

 

「モモワーイッ!」

「あのポケモンって、もしかして……!?」

「モモワロウだと!?」

「がおっ!ぽにぃっ!!」

 

 毒々しい色の桃を模した殻に人魂のような体をしたポケモン。それは間違いなく、以前キタカミの里で大騒動を起こしながら、正体が分からない誰かにゲットされたしはいポケモン、モモワロウだった。

 予想外すぎるポケモンの登場にリコ達が驚愕し、モモワロウと深い因縁のあるオーガポンが棍棒を握り、憤怒の表情を浮かべる。嘗てのオーガポンの相棒の悲劇は既に過去のものとして受け入れ、乗り越えたとはいえ、そもそも身勝手な理由でオーガポンの相棒を殺したモモワロウやともっこを許してはいないのだ。

 

 レックウザやイルマ達の視線がモモワロウに集中していると、何処からか青年の声が聞こえてきた。

 

「モモワロウ、“くろいまなざし”や」

「モゲゲッ!」

『きりゅりゅ!?』

 

 その指示が響いた瞬間、モモワロウが目を怪しく光らせてレックウザを睨み据えると、途端にレックウザは頑丈な鎖で体を何重にも巻き付けられたような感覚に陥り、体が思うように動かず、その場から動けなくなってしまう。

 キタカミの里でイルマ達と戦った時には覚えていなかった技だ。すると、リコ達の前に、せいれいポケモン【フライゴン】が降りてきて、その背中に乗っていた人物が声をかけてきた。

 

「……久し振りやな、イルマくん」

「オルッ」

「モモ~」

 

 青緑色の髪を右側だけオールバックにし、左目のしたの泣きぼくろがある美少年は、優し気な笑みを浮かべながらイルマに声をかけてきた。彼の側に、イオルブとモモワロウが並び立つ。

 髪型がやや違っており、メガネをかけていないが、その顔立ちに見覚えのあるイルマ達は目を見開いた。

 

「……キリヲさん…どうしてあなたが!?」

「誰だい、あの子は?」

「キタカミの里で会ったブルーベリー学園の生徒です。でも、どうしてモモワロウを連れて……」

 

 何故彼がこんな場違いな場所にいるのか理解できないイルマ、そもそもキリヲと面識がないダイアナの疑問に答えているリコも事態が呑み込めていないらしい。

 そんな中、フリードはキリヲの正体に当たりをつけて、それを口にした。

 

「成る程な……お前はエクスプローラーズだったってことか」

「なっ!?」

「大正解。まぁ、こんな状況じゃあ誰にでも分かるわなぁ」

 

 フリードの言葉に驚くイルマ達だが、キリヲから返ってきたのは肯定の言葉。

 

「でも、エクスプローラーズなら何であの時ペンダントを……テラパゴスを狙わなかったの!?」

「それについては、『エクスプローラーズの狙いがテラパゴス』っていう誤認があるな。そもそも、僕がキタカミにいたのは完全に別の用件やったんよ。君達ライジングボルテッカーズがキタカミに来るのは完全に予想外だったんや」

 

 テラパゴスを見ながら尋ねるリコの質問に、フライゴンの背中から降りたキリヲは苦笑しながら答える。

 キリヲは確かにエクスプローラーズの一員ではあるが、バールの部下であるキリヲは当時、バールから直々に課せられた任務を達成する為にキタカミに来たのであり、ガチグマの調査を依頼されてキタカミの里にやって来たのは完全に想定外だったのだ。

 

「でも、君達とキタカミの里で出会えた事は幸運だったと思っとるんや。一応君達とは“敵”やけど、感謝しとるんよ」

「感謝だと?」

 

 キリヲの言葉にフリード達は眉をひそめる。彼とか変わった時間は本当に少なく、その間に彼の利益になるようなことをした覚えなどないのだ。

 キリヲは、モモワロウをよしよしと撫でながら笑顔で、しかし何処か嘲笑するような笑みを浮かべながら、衝撃的な事実を口にする。

 

「せや。イルマ君、君が()()()()()()モモワロウを倒してくれたお陰で、簡単にゲットができたんや。僕一人じゃともっこ含めた四体をゲットするなんて無理やからなァ、感謝してもしきれんわ」

「蘇らせた……モモワロウ達が復活したのは、貴方がやったことだったんですか!?」

 

 あのキタカミの里で起きた大事件の黒幕が、数百年前に死んだともっこ達やモモワロウを復活させたのがキリヲの仕業だという真実に、イルマ達はキリヲを凝視する。

 

「それについては俺もずっと疑問に思っていた。数百年前に死んだポケモン達が、何故何の前触れもなく蘇ったのかってな」

「流石、天才ポケモン博士やな。勿論彼等が復活したのには理由がある。礼も予て、教えて上げるわ」

 

 そういったキリヲは、懐から小型化したモンスターボールを2つ取り出し、それを通常のサイズに戻して中にいるポケモンをボールの外に出した。

 

「ベラ」

「シャーン……」

「何、あのポケモン!?」

「ベラカス……そうか、“さいきのいのり”か!」

 

 不思議な形状の玉にぶら下がるようにしている青銅色の虫ポケモンと、紫の炎が灯るシャンデリアのような姿をしたポケモンを目にし、ポケモン博士のフリードは即座にそのポケモン──【ベラカス】と【シャンデラ】を見て、ともっこが蘇ったカラクリを見抜いた。

 

 キリヲがモンスターボールから出したのは、ころがしポケモンのベラカスと、いざないポケモンのシャンデラ。

 ベラカスには、“さいきのいのり”という技を使うことが可能であり、瀕死になって戦えなくなったポケモンを、体力を半分だけの状態で復活させるというとんでもない技だ。技を覚えるポケモンも非常に少なく、現時点で“さいきのいのり”を覚えられるはベラカスとパーモットしか発見されていないといえばその技の稀少性が分かる。

 

「けど、流石に大昔に死んだポケモンの蘇生は難しくてな。そこで、シャンデラに霊界でともっこの魂を探して道案内させてもらってな。復活に時間が掛かってな。それで君達がキタカミに来た2日目に復活したんよ」

 

 “さいきのいのり”の復活能力、そしてシャンデラに霊界でともっこの魂を探して現世の体に宿らせる事で、もっこの復活を目論んだキリヲだったが、やはり死者を蘇らせるというのは簡単なことではなく、墓に埋葬されたしたいに効いているのかは分からず、シャンデラも数百年前に死んだともっこの魂を見つけ出すのに時間が掛かり、キリヲは毎日、ともっこプラザの近くでシンクロマシンの実験と称してともっこ達の様子を観察していた。まぁ、真面目にシンクロマシンを作っていたのは事実だが。

 そして、時間は掛かったがイイネイヌ達ともっこは復活し、イルマ達は偶然その場に居合わせていたということだ。

 

「それで、少し予定を変更してな。君達がイイネイヌ達の相手をして、スイリョクタウンの人々が『ともっこ様復活』とはしゃいどる間に、桃沢商店の店頭に置物として眠っていたモモワロウを起こすことにしたんや。けど、1つ予想外の事が起きてな。モモワロウは“さいきのいのり”を使った瞬間に復活してきてな。そのまま暴れてしまったんや」

 

 キリヲもエクスプローラーズの一員であり、スピネルからの報告でフリードやライジングボルテッカーズのメンバーの大まかな情報だけならスマロホトムを通して知っていた。そして、フリード達の実力と、彼等がともっこと対立していることを察し、ともっこをゲットするなら厳しい戦いになるであろうも予測していたキリヲは、彼等の実力を利用させてもらったのだ。

 そして、イルマ達がともっこと戦っている隙に、キリヲは桃沢商店に置かれていた不腐の桃(モモワロウ)を、ベラカスの“さいきのいのり”で復活させたのだ。復活させるならばともっこ達と時期を少しズラさなければ『ともっこ+モモワロウ』という圧倒的に不利な状況で戦うことになってしまうため、モモワロウが復活するまでの間にフリード達が倒したともっこを手中に収めてモモワロウに対抗しようとしていたのだが、モモワロウはイイネイヌ達と違い永い眠りについていたのであって死んでいた訳ではないため、キリヲの予想よりも遥かに早く復活してしまい、例の事件を引き起こしてしまったのだ。

 

「正直、町の人達を洗脳したモモワロウを捕まえるんなら町の人達まで相手せなならなくなったから、君達がモモワロウを相手してくれたんは本当に助かったんよ。ついでで捕まえるよう言われてたイイネイヌ達は町の法に拘束されて手出し出来なくなったけど、戦わずして本命のモモワロウを手に入れられたんや。改めて、ありがとうな」

「そんな……」

 

 オーガポンやキタカミの里の人々を助けるために繰り広げられたあの戦いが、キリヲの掌の上で踊らされていただけに過ぎなかったといえ真実に、イルマ達は驚愕を禁じえない。

 

「モモワロウの能力を見つけた兄さんは、その能力を利用するために僕をキタカミに寄越したんや。せやから、今から存分にその力を発揮させてもらうで」

「ッ!させるか、リザードン……!?」

「ギャオッ!!?」

 

 “くろいまなざし”で動きが鈍らされ、バールのエレキブルの猛攻に苦戦させられているレックウザを見上げたキリヲに、彼等の狙いを察したフリードがリザードンを突撃させようと指示をしようとしたが、突如足に違和感を感じて足元に視線を落とす。

 そこには、真っ白で太い糸が足に何十にも絡み付いていた。リザードンも同様である。

 

「何だこれ!?」

「足が、動かせない……!」

「やられた……カミングアウトは時間稼ぎか!」

 

 しかも、フリードとリザードンだけでなく、リコ達にも巻き付いてきた。しかもご丁寧に、全ての糸が繋がっており、リザードンの炎で焼こうものなら燃え広がって全員真っ黒焦げだ。

 キリヲが長々とキタカミの出来事を話していた理由はこのためだったのかとフリードが厳しい表情を浮かべた瞬間、ラプラス海賊団のアジトに続く洞窟から、ある人影とポケモンが姿を現した。

 

「貴方は……あの時の!?」

「ん久し振りィ~……でもねェか」

 

 そこにいたのは、ダイアナと再開した古城でイルマが対峙していた黒髪の男と蜘蛛の姿をしたポケモン、アトリとワナイダーだった。

 キリヲが裏で行っていた恐ろしい策略のカミングアウトに聞き入っていた隙をつかれたのだろう。またもしてやられてしまった。

 

「おいキリヲ!邪魔者達の足止めが終わったんなら、さっさと始めるぞ!」

「分かっとるよ、兄さん」

 

 レックウザの相手をしていたバールが声をかけてきたことで、キリヲは“りゅうのはどう”を放とうとしているレックウザを見て、モモワロウに視線を変えて口を開いた。

 

「モモワロウ。くさりもち乱れ撃ちや」

「モモモモモモーーーッ!!」

『きりゅりゅりりしっ!!?』

「ッ、しまった!」

「レックウザ!それ食べちゃダメ!!」

 

 モモワロウが殻からマシンガンのように高速乱射した毒が練り込まれた餅が、光線を放とうと口を開けたレックウザの口内に大量に詰め込まれる。

 思わずレックウザが餅を含んだまま口を閉じた瞬間、レックウザに異変が起きた。

 

『っ!?きりゅ、きりゅり……きゅりゅりゅりりりぃ……っ!!』

「レックウザが苦しんでる……!?」

「……流石は伝説のポケモン。モモワロウの鎖餅にも抵抗するか。だが、動けないなら後は簡単だな」

 

 苦痛に表情を歪め、苦しそうに唸るレックウザをリコが心配するなか、レックウザが鎖餅の洗脳に抵抗していることを察したバールはポケットの中からから普通のモンスターボールを取り出した。

 ハイパーボールのような高性能なものではないが、洗脳に抗って動きが鈍っている今ならボールを当てるのは簡単であり、わざわざ高性能なのものを使う必要がないと判断したのだろう。

 ワナイダーの強靭な糸で身動きがとれないフリード達が焦りを見せると、イルマの頭にある考えが思い浮かんだ。

 

「……あっ、そうだ!ラルトス、この糸を“テレポート”させて!」

「ラル……ルッ!」

 

 糸に拘束されたラルトスが糸に触れ、ベタベタの感触に不快感を覚えながらも“テレポート”を発動すると、イルマ達を拘束していた糸がシュンッ!と音を立てながら消え去った。

 

「よくやったイルマ!ジュナイパー、“かげぬい”!」

「ジュナッ!」

 

 拘束から解放されたジュナイパーが矢羽を撃ち放ち、真っ直ぐにバール目掛けてせまるが、その間にキリヲのポケモンであるイオルブが飛び出した。

 

「オルッ!」

 

 “リフレクター”を発動させ、高速で迫る矢羽を防いだイオルブ。

 その隙に、バールは勢いよくボールを投げ、それがレックウザの額にぶつかった。最悪の事態を予想してライジングボルテッカーズの面々の顔が青くなるが……

 

「……何?」

「ボールが反応しない!?」

 

 レックウザの頭にぶつかった筈のモンスターボールは、レックウザを吸い込む処か開くこともなく、重力に従って落下し、海の底へと沈んでいった。

 予想外の事に、ライジングボルテッカーズもエクスプローラーズも驚くが、イルマは直ぐにレックウザがゲットできなかった理由を看破する。

 

「……あっ、そっか!今は古のモンスターボールから出てきてるだけで、レックウザは元々ルシアスのポケモン。野生のポケモンじゃない!」

「古のモンスターボール以外で、レックウザはゲット出来ないってことか……!」

「……チッ。俺とした事が、そんな簡単なことに気付けねぇとは」

 

 イルマの推測を聞いたフリードが成る程と頷き、そんな当たり前の事に気付けなかったバールが舌打ちする。

 一度誰かにゲットされたポケモンは、そのトレーナーが逃がすか、そのポケモンのモンスターボールが破壊されない限り、他人が人のポケモンをゲットするなんて事は、アメジオが使おうとしていたハイパーボールの上位互換のマスターボールであっても不可能なのだ。そして、レックウザは100年前に存在した冒険者ルシアスのポケモンであり、古のモンスターボールはロイの手の中で健在である。

 つまり、どんなに高性能なボールだろうと、レックウザのボールを持たないエクスプローラーズに、黒いレックウザをゲットする術はないということだ。

 

「だが、それなら話が早い。そこの坊主、レックウザのモンスターボールを寄越せ。そうすれば、テラパゴスの方は今回だけ見逃してやるぜ?」

 

 だが、それなら都合よく目の前にあるレックウザのモンスターボールを使えば良いと、ブレイブアサギ号が止めてある岩場に近寄ったジバコイルの頭の上から降りたバールはリコとロイに脅迫紛いの言葉を告げる。

 

「そんなこと出来ません!」

「そうだ!レックウザも僕の宝物も、お前達なんかに渡してたまるか!」

「……まぁ、そう答えるよなァ。なら、力ずくでテラパゴスも古のモンスターボールも奪えば良いだけだ」

「エレ……」

 

 当然ながら、リコ達はその要求を拒否し、半ばその答えを予想していたバールは微塵も気にした様子はなく、チラリとアメジオに視線をやり、軽い態度で話し掛けた。

 

「というわけだ。アメジオ、お前も協力しろ。この手勢を俺達で相手にするのは骨なんでな」

「何だと!?俺がお前に協力するとでも思っているのか!!」

「ホゥ、レックウザに惨敗しそうな所を善意で助けてやったのに酷い言い様だな。第一、あのボールを奪わなきゃレックウザをゲット以前の問題なのは、お前も見たんじゃねぇのか?」

「……クッ!協力するのは今回だけだ!」

「結構」

 

 非常に不本意といった様子でバールに並び立つアメジオと、傷を負いながらも彼の前にエレキブルと共に立つソウブレイズ。

 強者の風格を纏う二人組の前に、フリードとバチコ、リザードンとジュナイパーが対峙する。

 

「エレキブル、“れいとうパンチ”」

「ソウブレイズ、“むねんのつるぎ”!」

「リザードン、“ドラゴンクロー”!」

「“リーフブレード”!」

「エレキッ!」

「ブレイッ!」

「ガウゥッ!」

「ジュナッ!」

 

 冷気を纏わせた拳と呪いの炎を纏わせた剣を振りかぶるエレキブルとソウブレイズに、リザードンは龍の爪で冷気の拳を、ジュナイパーは緑の光剣で炎の剣を迎え撃つ。

 ジュナイパーとソウブレイズはそのまま剣戦を繰り広げるなか、リザードンとエレキブルは互いの腕に力を込めて相手を押しきろうとし、やがてその競り合いに勝ったのは……

 

「ブルッ!!」

「ガウッ!?」

 

 …エレキブルだった。

 息も凍るほどの冷気を纏った拳が龍の爪を押しきり、リザードンは地面から土煙を巻き上げながら地面を滑るように後退する。

 

「大丈夫か、リザードン?」

「ギャオッ!」

「そうか。だが、コイツを相手にするのは、全力を出さなきゃならないようだな……」

 

 「まだまだやれる」と答えるようにサムズアップをするリザードンに笑みを浮かべたフリードは、直ぐに笑みを消してバールとエレキブルを見据える。

 エレキブルは物理攻撃に特化しており、習得できる技の範囲も豊富であり、どんな技を使ってくるか、まだ分からない。しかもバトルを始める前から何となく察していたが、バールとエレキブルは相当鍛えられている確かな実力者だ。とても片手間で倒せる相手ではない。

 

「キャップ、任せたぞ」

「ピカッ」

 

 キャップを肩の上から飛び出させたフリードは直ぐにバールとエレキブルを見て、リザードンとエレキブルがぶつかり合った。

 

 

 

 

 

「ウインディ、“かえんほうしゃ”!」

「ガウゥッ!」

「ジバババッ!」

 

 ウインディが吐き出した強力な炎を、バールの飛行要員であるジバコイルの“10まんボルト”が迎え撃つ。

 ジバコイルはバールの飛行手段としての活躍が多く、エレキブル程のスペックは持ち合わせていないが、それでも一般的なジバコイルよりも高い実力をもつポケモンであるため、トレーナー無しでも何とかダイアナとウインディを足止めする事に成功していた。

 

 視界の端で、ブレイブアサギ号にいるマードック達を圧倒するフライゴンの姿を見て、ウインディの“しんそく”によるダメージに後退しながらも、ジバコイルは主人の邪魔をさせないためにウインディに突撃した。

 

 

 

 

 

 

「それじゃあ、その亀とボールを渡してもらおっか~?」

「ワナ」

(イルマとオーガポンでも倒しきれなかった相手……でも、やるしかない!)

 

 アトリとワナイダーが不気味な笑みを浮かべながら近付いてきて、リコはイルマとオーガポンのコンビでも倒しきれなかった相手に警戒を露にするが、どのみちテラパゴスも古のモンスターボールも渡すつもりなどさらさら無いため、覚悟を決めて指示を出した。

 

「ニャオハ、“このは”!」

「ホゲータ、“ひのこ”!」

 

 ニャオハの木の葉の嵐と、ホゲータの炎の弾丸がワナイダーに迫るが、ワナイダーはアトリの指示を無く、必要最低限の動きだけでその二つの攻撃を避けると、素早く2体と距離を積める。

 

「“じごくづき”」

 

 アトリが技を指示し、ワナイダーが手にオーラを纏わせてその拳を突き刺そうとした瞬間、リコの指示が轟いた。

 

「ニャオハ、鋭く“このは”!」

「ホゲータ、“じだんだ”!」

「ワッ!?」

 

 ニャオハがワナイダーの顔に木の葉の塊を飛ばし、ホゲータが紙面を踏み鳴らすと、ワナイダーは思わず動きを止めてしまう。

 

「今だニャオハ、“アクロバット”!」

「ニャーーッ!!」

「ワッ!?」

 

 ニャオハの身軽な動きによる攻撃が連続でヒットする。

 効果抜群のひこうタイプの技を受けたことで、流石のワナイダーも痛みを覚え、一歩後退する。

 

「やるぞホゲータ!“かえんほうしゃ”!」

「ホゲーーッ!」

 

 続いて、ホゲータが強力な炎を吹く。“じごくづき”が失敗したことで至近距離のワナイダーに炎が炸裂するかと思った瞬間、

 

「ワナイダー、“みがわり”」

「ワナッ!」

「ニャッ!?」

 

 アトリの指示と共にワナイダーは突如、腕から糸を吹き出したかと思うと、その糸がワナイダーから距離を取っていたニャオハに巻き付いたのだ。

 

「……なんちゃって♡」

 

 驚くリコとニャオハだが、ワナイダーはそんな彼女達を気にも止めずに糸を引いて、ニャオハを釣りのように引き寄せると、そのまま自身に向かって襲い掛かるボゲータの炎に投げ飛ばした。

 

「ニャアァアアアアッ!!」

「ニャオハッ!!」

「ワナイダー、“じごくづき”」

「ワナッ!」

「ニャアァッ!!」

「ホゲェエエエッ!?」

「ホゲータ!!」

 

 強力な炎がニャオハを包み、効果抜群の炎技を食らったニャオハは焼き焦げた糸と共に地面に崩れ落ち、リコが悲鳴を上げた瞬間にアトリが素早く指示を出し、ワナイダーはニャオハと味方を攻撃してしまった事で硬直していたホゲータを糸で捕獲して自身の元に引き寄せると、そのまま鋭い突きを食らわせ、堪らずホゲータは吹き飛ばされる。

 全身に火傷を負いニャオハは、フラつきながらも何とか立ち上がるが、ワナイダーから受けたダメージも重なって満身創痍であり、ホゲータもかなりのダメージを負ってしまっていた。

 

「酷い……ニャオハを盾にするなんて……!!」

「卑怯だぞ!」

「知らねェな~。近くにいたソイツが悪い」

 

 リコとロイが怒声を上げるも、アトリは悪びれる様子もなく冷酷な言葉を吐き、直ぐ様その顔に不気味な笑みを浮かべる。

 

「止めだ。ワナイダー、2匹を“じごくづき”で終わらせてやれ」

「ワナッ!!」

 

 バトルすら困難な2体を見下ろしながら、ワナイダーは両腕を振り上げ、それを一気に突き出そうとした、その時だった。

 

「カーチュッ!」

「ワッ!?」

 

 真横から稲妻の拳が炸裂し、ワナイダーは吹き飛ばされる。

 何事かと視線をワナイダーからリコ達に移したアトリは、ニャオハとホゲータを守るように立つ船長帽を被ったピカチュウに気が付いた。

 

「キャップ!」

「ピーカァッ!」

 

 腕を組んで、「この二人に手を出すな」と言うようなキャップを目にして、アトリは笑みを消した。

 

「──退けよ、ネズミ」

「ワナァッ!!」

「ピカッ!」

 

 ワナイダーとキャップの拳が衝突し、激戦が開始された。

 

 

 

 

 

 一方で、キリヲと対峙していたイルマは、レックウザの洗脳を解くためにモモワロウを狙って指示を出しているが、一向にモモワロウに攻撃を届かせられないでいた。

 

「モクロー、“シャドークロー”!オーガポン、竈の面で“ツタこんぼう”!ラルトス、“ゆびをふる”!」

「イオルブ、“リフレクター”や」

 

 暗黒の爪で切りかかるモクローと、炎の棍棒を振りかぶるオーガポン、そして指を振って脳を刺激したことで引き当てたラルトスの“ニトロチャージ”がモモワロウに迫るが、イオルブが発動させた光の障壁がそれらを弾いた。

 

「モモワロウ、“じゃどくのくさり”や」

「ラルトス、“ねんりき”!」

 

 続いて、モモワロウが殻から毒々しい色の鎖を発射し、ラルトスはサイコパワーを操り、飛ばされた鎖を弾く。

 

「シャンデラ、“だいもんじ”」

「シャーッ!」

「ラッ!?」

「ラルトス!」

 

 その隙を見て、背後に現れたシャンデラが『大』の字の形をした強力な炎を放ち、鎖を弾いたラルトスに襲い掛かる。

 

「…ラルッ!」

「効いてない……」

「あっ、“もらいび”をトレースしてたんだ」

 

 しかし、ラルトスは熱がる様子を見せず、寧ろその炎を体に吸収してしまうのを見て、イルマとキリヲはラルトスの相手の特性をコピーする特性“トレース”により、キリヲのシャンデラの相手の炎技を吸収して自分の炎技の威力を上げる特性“もらいび”をコピーしたことで炎を無効化したのだと悟る。

 

「それなら、“シャドーボール”や」

「オーガポン!」

「ぽにっ!」

 

 続けてシャンデラは禍々しいエネルギー弾を放つが、間に入り込んだ井戸の面を被るオーガポンが棍棒を振り抜いてそれを弾き飛ばす。

 

「モクロー、“シャドークロー”!」

「もふぅ!」

 

 その瞬間、シャンデラの上空に回り込んでいたモクローが急降下し、暗黒の爪を生成し、恐らくキリヲの主力であるシャンデラを狙って爪を振り下ろすが……

 

「ベラカス、“サイコキネシス”」

「ベラ~!」

「もふぅ!?」

 

 そこへ、ベラカスがサイコパワーを使ってモクローを遠くへ投げ飛ばす。

 地面に倒れたモクローが立ち上がり、彼のもとにオーガポンとラルトスが集まった。

 

 予想以上に相手に実力があった事にイルマはより一層気を引き締めた所で、突如キリヲの視線が上を向いた。

 

「……どうやら、時間が来たみたいやな」

「時間って……!?」

 

 キリヲの言葉に、イルマやイルマのポケモン達も、彼の視線の先を追って顔を上に向けると、そこには上空に滞空するレックウザが、先程のように苦しんでいる様子がなく、静かに滞空している姿だった。

 その瞳の色は、()()()()()()()()

 

きりゅりりゅりりゅりしいぃッ!!

 

 レックウザの方向が轟き、その際に発生した突風により吹き飛ばされるようになるのを堪え、イルマ達だけでなく、リコ達の視線もレックウザに集まった。

 

「どうやら、モモワロウの毒が全身に回ったらしいな」

「そんな……レックウザが……!!」

「……ッ!」

 

 レックウザの精神を侵食していた毒が全身に回りきり、レックウザの意識を奪ったことに笑みを浮かべるバールに対し、アメジオは洗脳と言うやり方が気に食わないのか、拳を握りしめる。

 そして、旅に出た日からゲットしたいと望んでいたレックウザが目の前で敵の手に堕ちてしまったという事実に、ロイは顔を青褪めさせる。

 それを見て、キリヲは嗤う。頬を紅潮させて、うっとりとした表情で。

 

「ええなぁ……長い間、狂おしい程追い求めていたレックウザ(あいて)を目の前で奪われ、奪おうとしている相手に何も出来ない、自分の無力さを思い知らさせるその絶望……えぇ表情(かお)するなぁ……」

「……何を、笑ってるんですか…?」

 

 その笑みを、言葉を、そして人の絶望に喜ぶ精神を、イルマは何一つ理解が出来ない。だが、1つだけ分かる──この男は、“危険”だと。

 すると、キリヲはスッと片手を振り上げる。それを見たモモワロウは、上空で咆哮を上げるレックウザに呼び掛けた。ポケモン語なので、イルマ達にはその意味が理解できない。

 その時、レックウザは口内に溜め込んだ紫のエネルギーを打ち上げると、それが四散し、隕石となって降り注いだ。最早お馴染みとなっている“りゅうせいぐん”は、明確にリコ達を狙って降り注いだ。

 

ドォオオオオオオンッ!!!

 

「うわぁあああっ!!」

「きゃあぁああっ!!」

 

 降り注いだ隕石が大爆発を起こし、その爆風にイルマ達は大きく吹っ飛ばされる。幸い、誰一人として隕石の直撃は受けていなかったが、ラプラス海賊団のアジトはすでに原型を留めていないほど破壊されていた。

 イオルブの“まもる”により爆風の影響を避けたキリヲは、レックウザを見上げながら呟いた。

 

「いやはや……ホンマに規格外やなぁ、レックウザは。イオルブの“まもる”を使っても、吹き飛ばされるかと思ったわ」

「どうやら、俺達を相手にしていた時も本気じゃなかったらしいな。だが、今やその力も俺のモンだ。なぁ?アメジオ」

「……黙れ。お前はまだレックウザをゲットしたわけではない」

 

 先程アメジオとバールに見せたものとは別格のその威力に、どうやらあの時はまだ手加減されていたことを知ったが、最早それも自分達の手中にあるのだとバールは笑い、アメジオは眉間に皺を寄せる。

 フリード達は立ち上がるが、表情は険しい。何せ、今の状況は最悪。レックウザは操られ、フリード達にも匹敵するであろうバール達は健在なのに対し、リザードン達はレックウザの“りゅうせいぐん”の余波で少ないダメージを負っている。まさに詰みだ。

 バールの言葉に同意しながら、キリヲは未だに倒れているイルマに視線を下ろした。

 

「けどまぁ……それだけの力が手に入ったのもモモワロウの……イルマくんのお陰やな」

 

 その言葉に反応したのは、ニャオハと共に彼の近くまで吹き飛ばされていたリコだ。

 

「それ……どういう意味…!?」

「そのまんまや。さっきも言ったけど、キタカミの里でイルマくん…それど、スグリくんがモモワロウを相手してくれたから、こうして僕はモモワロウを手に入れられたんや。兄さんに鍛えてもらってるとは言え、僕もまだまだやからなぁ」

 

 まるでイルマを責めるように、優し気な表情の裏にどす黒い悪意を秘めたキリヲは、手をついて俯いているイルマの顔を覗き込もうとするように歩み寄る。

 

「大丈夫な。僕を恨んでくれて構わへん。殴ってくれても良い。せやから、見せてくれ。君のとびきりの、絶望の表情(かお)を──

 

 その時、イルマは顔を上げた。

 そこにあったのは、絶望にうちひしがれた表情ではなく、澄んだ青い瞳で、決意を固めている表情だった。

 

「よし!決めた!」

「えっ?えっ?」

 

 イルマはバッと立ち上がり、爆風で吹き飛んだジャケットと帽子を拾い上げる。

 あまりにも自然な動きにキョトンとしていたキリヲは、一瞬遅れて慌て出した。

 

「ちょちょっ、ちょお待って!話し聞いてなかったん!?」

「聞いてました!」

「レックウザはもう兄さんのもんになった!君達がレックウザを手に入れられる事は出来ないんよ!?」

「はい、わかりました!」

 

 上着を羽織り、帽子を深く被り、イーブイが持ってきてくれたバックから取り出した薬品でモクロー達を回復させるイルマに、キリヲだけでなくリコも目を丸くする。

 

「君達の目的は完全に潰されたんや!君がモモワロウを倒したせいで!これだけの事突きつけられて!何で絶望せぇへんの!?」

 

 喚くように尋ねるキリヲに、イルマはニッコリ笑った。

 

「だって、絶望してもいいことないじゃないですか」

 

 その言葉に、キリヲもリコも唖然とする。

 

「それに、貴方がモモワロウを倒してくれたことを感謝してるみたいに、僕もキリヲさんに感謝してるんです」

「……はぁ?」

「イルマ?」

 

 イルマの口から出た予想外の言葉に、リコもキリヲも呆然とイルマを見つめることしか出来ない。

 しかしイルマは気にした様子もなく、オーガポンを見ながら口を開いた。

 

「確かに、イイネイヌ達がやった事は許されない事ですし、モモワロウの力を利用してレックウザを操るのは良くないと思います。……でも、貴方がともっこを蘇らせてくれたお陰で、オーガポンの誤解が解ける切っ掛けにもなって、こうやって一緒に旅が出来る今がある」

「ぽに……」

 

 オーガポンはハッとイルマを見上げる。

 オーガポンのかつての相棒を殺し、村の人達から迫害されるようになった原因はモモワロウ達であり、未だにモモワロウの事は憎んでいるし、これからも許すことはない。だが、イルマと共に旅をする切っ掛けもともっこにあると言うことは、否定できない。ともっこ達とモモワロウが引き起こしたあの事件を切っ掛けでイルマと触れ合い、人柄を知ったから、オーガポンはイルマについていくことを選んだのだから。

 勿論、良いことばかりでなはなかった。今この時のようにモモワロウを奪われたせいで自分達は絶体絶命だ、オーガポンをゲットした時に、イルマはキタカミの里で出来たスグリ(友達)との間に溝が出来てしまい、未だにそれを直すことも出来ていないのだから。

 だが、それでも今は、あの事件が起きなくて良かったと思うことはない。

 

「僕はあの時、“自分の気持ちを貫く”事の大切さを学びました。だから、貴方が“悪”でも逃げない……絶望もしない」

 

 イルマの前に、モクローが立つ。

 相棒と頷き合ったイルマは、決然とした表情で、言った。

 

「貴方達の野望を……ぶち破ります!!

「───もふぅ!!!」

 

 イルマの宣言に、モクロー(相棒)は決然とした表情で頷いた。

 

 その瞬間──モクローの体が、青く輝き出した。




・キャラクター紹介

【バール】
 CV.諏訪部順一
 エクスプローラーズの幹部の一人。常に不遜な態度をとり、組織の上司であるギベオンやハンベルにも物怖じせずに意見する胆力の持ち主。目的のためには手段を選ばす、他人やポケモンを犠牲にすることも厭わない。バトルの実力はエクスプローラーズの中でも飛び抜けて高い。
 手持ちポケモンは、戦闘要員のエレキブル(パートナー)と飛行手段として利用しているジバコイルだが、他にも有しているらしい。


【キリヲ】
 CV.逢坂良太
 エクスプローラーズの一員であり、バールの側近を勤めている。元ネタ勿論アミィ・キリヲ。他人の絶望する顔を見ることに焦がれ、陶酔する危険人物であり、作者がこの作品内で一番使いにくいキャラだと思っている。
 手持ちポケモンはイオルブ(パートナー)の他に、ベラカス、シャンデラ、モモワロウを連れている。
 

【アトリ】
 CV.橘龍丸
 エクスプローラーズの一員であり、バールの直属の部下。立ち位置としてはコニアやジルと同じだが、実力は高い。
 相棒はワナイダー。糸を使って相手を拘束したり、自信の体を糸で包んで攻撃を防ぐなど多彩な技術を持っている。リコ達とのバトルでニャオハを盾にしたシーンとアトリの台詞は、『仮面ライダー龍騎』18話で仮面ライダーゾルダの“エンドオブワールド”の喰らいそうになった仮面ライダー王蛇が仮面ライダーガイを盾にして防いだシーンのオマージュ。
 飛行担当としてフライゴンも所持している。




~ともっこ復活の真実~
 モモワロウをゲットするなら、復活理由が必要だと思ったオリジナル設定。ほぼこじつけみたいですが、そうでもしないと話が進まないので。アニポケ原作でキタカミ編がやる事になってともっこも出てくることになったら滅茶苦茶怖いです。




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