魔入りました!入間くん if Episode of ポケットモンスター 作:MTHR
サブタイトルの元ネタは、アニメ『魔入りました! 入間くん』の第一期よオープニング「Magical Babyrinth(マジカル・バビリンス)」からです。
今回のフクスローは若干『仮面ライダーリバイス』のバイスをイメージして書いておりますので、ご注意下さい。
※追記
前回のお話で頂いた感想から、イルマ君のヒロインとして加えて欲しいキャラクターの募集を始めます。名前を挙げられたキャラクター全員が採用されるとは限りませんが、余興程度のつもりでどうか宜しくお願い致します。
https://syosetu.org/?mode=kappo_view&kid=314881&uid=427681
──ワァアアアアアアアッ!!
ドーム内に響き渡る波のような大歓声。
何万もの客席にいる観客がペンライトの光を灯し、一条のスポットライトが、舞台の上にいる3人組とポケモン達を照らしている。
スポットライトに照らし出された三人組の真ん中に立っているのは、青い髪をロングヘアに3本の触覚を持ち、青を基調としたヒラヒラでフワフワな衣装を身に纏った人物──女装をしたイルマは、隣に立つピンク髪の人物と黄緑色の髪の少女、そしておめかしをしているフクスロー、オーガポン、イーブイ、ラルトス、リザードン、アブソル、ワニノコ、ピチューと共に、羞恥心で顔を真っ赤にしながらも、可愛くポーズを決めながらウィンク。
「いっ、いいいい……行くよっ♡」
沸き上がる歓声。
ドーム内に音楽が流れ、女装したイルマとポケモン達は音楽に合わせて踊り、イルマの歌声が響き渡る。
響き渡るのは、まるで女性のものようにも聞こえる声。イルマは元々高い声故に、その声は女性の声にも聞こえなくはない。
その時、場面がステージから一瞬で真っ黒な空間に切り替わり、ツインテールのカツラとリボンを頭に乗せ、ヒラヒラの衣装に身を包むフクスローが振り返ると、
『……突然こんな感じで話が始まって、ビックリしたよな?何でイル坊や俺ちん達がこんな格好して、ステージの上でこんなことしているのか。それは今から数時間前の事だ……』
──数時間前。
『よっす!ポケモントレーナーのみんな!ぐる~びんしてる?ぐるみんの動画なのだ!』
『クワッス!』
『今日はライブ配信!皆からのコメントに答えていくぜ!どんどん送ってくれ!』
ライジングボルテッカーズの船ブレイブアサギ号はパルデア地方を目指して空の旅を続けている中、ぐるみんの動画配信を視聴していたリコとロイ。
『ちゃんと歯磨いて寝ような!では最後。ユノりんさんからのコメントだ!「ぐるみんよっす!」よ~っす!』
『クワッス!』
『「いつも楽しく動画見てます。最近、私はパフュートンのトレーナーになりました。今度、私の住むピグトンタウンで、ポケモンのタッグバトル大会が行われるのですが…」へ~っ、面白そうだな!「パフュートンは、誰ともタッグを組みたがらず元気がありません。ぐるみんどうしたらいいでしょうか?」そうだな……あっ!うってつけの奴がいるから、相談に乗って貰おう!楽しみに待っててくれ!つ~わけで、今回はこれにて終了りではまた、ぐる~びんしようぜ~!』
『クワッス!』
動画の配信が終わると、リコとロイのスマホロトムに連絡が入り、2人はドットの部屋に行くと、ぐるみん姿のドットが、ユノりんという人が住む豚ポケモンが多く住んでいる『ピグトンタウン』に向かっていき、お悩みを解決してほしいと頼んできたのだ。
当然、リコとロイの答えはイエス。しかし、リコは途中であることに気付いた。
「そういえば、イルマは?」
「一応声は掛けてみたんだけど、今日はもう別の予定があるから行けないってよ」
どうやら、イルマには別の用件があるらしい。ドットとイルマにはあまり接点がなく、無理に頼むのも気が引けたドットは彼に頼むことは止めたのだ。
イルマが来てくれないことに肩を落とすリコだが、取りあえず気を取り直してロイと共に甲板に出てくると、そこにいたのはイルマと彼の手持ちポケモン達だった。普段肩掛しているジャケットに袖を通し、背中にリュックを背負っているイルマは、リコとロイに気付いたように振り返る。
「あっ、リコにロイくん」
「イルマ……どうしたの、その荷物?」
「あぁ、これに行ってくるんだよ」
リコの質問を聞いて、イルマはジャケットの内側からあるものを取り出し、リコとロイはそれを覗き込む。
「それ……チケット?」
「【くろむ】さんのライブチケットだよ。試しに応募したら当たってさ。これから行くところだよ」
「そもそも、【くろむ】って?」
「今注目を集めてるアイドルで、若手のエースだよ。今日はそのライブがあるんだって」
イルマがスマホロトムを操作して写し出された画面には、下に向かう度に黄色くなっていくという珍しい毛色をした紫の髪を持つ、フリフリな衣装を着た可愛らしい顔立ちの少女。その隣には、彼女のパートナの氷の結晶を連想させる濃青の菱形模様が見られる水色のポケモン【グレイシア】が映っていた。
「へぇ、可愛いね。でも、僕とリコはこれからピグトンタウンに行くのに、イルマは開催場所にはどうやって行くの?」
「問題ないよ。ラルトスの“テレポート”なら、行きも帰りも自由自在だからね」
「ラルッ」
名を呼ばれたラルトスは、「任せてください」と言うようにポンッと胸に手を当てる。
「………」
「って、イタッ!?リコ!?何でつねるの…痛い痛い痛いッ!!」
「………別に。イルマ、ライブから帰ってきたら私の部屋に来てね。オハナシがあるから」
「何でぇっ!?」
スマホロトムに映されたくろむの姿を見てからずっと不機嫌顔をしていたリコは、いつかの離島の時のようにイルマの二の腕をつねる。しかも今回は半回転させるメチャクチャ痛い奴だ。
「リ、リコ、何かイルマ悪いことしたの……?」
「ホゲ~?(リコってイルマに対して時々あぁなるけど、何か悪いことしてるのかな?)」
『……イル坊のタラシは元々だけど、嬢ちゃんも大概ヤンデレじみてるよな』
「ニャア~?(無自覚でリコを口説きまくってるイルマの方がタチ悪いからね?)」
「ぶぶぶい……(二人とも、早いところ素直になってほしいですね……)」
「ラル?(素直って何にですか?)」
「ぽにおっ(人間の事情よくわかんねぇべ)」
リコが不機嫌になっている理由が分からないロイ、ホゲータ、ラルトス、オーガポンはリコよ迫力に気圧されながらも首を傾げ、フクスロー、ニャオハ、イーブイは呆れたような表情をする。
「と、兎に角!終わったら連絡して直ぐに戻るから!ラルトス、“テレポート”」
「ラルッ」
リコのつねり攻撃から逃れたイルマは、バッとラルトスを抱き上げ、それに続くようにフクスローとオーガポンとイーブイがイルマに飛び付くと、ラルトスは“テレポート”を発動し、シュンッという音を立てながらその場から消えていった。
“テレポート”によりイルマ達が瞬間移動してきたのは、華やかで大きな建物が並ぶ大都市の入り口だった。
大きな扉には『WALTERCITY』という文字がデカデカと記載され、その奥にはピカチュウやニャースのようにポケモンを模した物や、ハサミやティーカップといった様々なものをオブジェが建てられ、バルーンな、紙吹雪やらが空を飛び交う街を見て、イルマ達はキラッキラと目を輝かせる。
「おぉ~!ここが『ウォルターシティ』!」
『思った以上の賑わいだねぇ』
「ぽにお~~!」
「ぶいっ、ぶーい!」
「ラルルゥッ!」
ここは幻遊都市『ウォルターシティ』。様々な大企業や店が立ち並ぶこの地方でも有数の発展都市であり、この街に住まう住人や観光客の数も多く、まるで遊園地のような賑わいを見せている。
「会場はこの先にあるドームで開催される。くろむさんのライブまで後2時間……よし、その間にこの辺りの飲食店を網羅しよう!」
『何時間掛かると思ってんだ食いしん坊』
ウォルターシティのパンフレットを手に、目をキラキラと瞬かせるイルマをフクスローが肩に翼を置いて宥める。祖父が祖父故にお金には問題ないが、このままだとライブを放棄しそつな上にイルマの体重がとんでもない事になりそうなので、相棒としてきっちり止めておくべきだろう。
「ちょ、ちょっと……近づかないで下さい!」
「逃げんなよぉ。俺と楽しいことしようぜぇ~?」
その時、路地裏から聞こえてくる女性の声と男性の声を聞いて、イルマ達は路地裏の方を覗き込む。
そこには、水色の髪をショートヘアーにした少女が、ガラの悪そうな男に二の腕を捕まれている姿があった。直ぐそばには、彼女のポケモンと思われるグレイシアが、男のポケモンと思われるハッサムに動きを止められている。
それを見て、イルマは直ぐ様口を開いた。
「ラルトス、“こごえるかぜ”、イーブイは“スピードスター”」
「ラルゥッ!」
「ぶいぃっ!」
「うわっ、寒っ!?」
「ハッサ!?」
ラルトスが冷たい息を吹き掛けて男を震え上がらせ、イーブイが必中の星の弾幕をハッサムにヒットさせて怯ませると、イルマは素早く動いて女性の手を掴んだ。
「こっちです!」
「えっ、わぁっ!?」
「いぶいっ!」
「グレイッ」
イルマが女性の手を引いて走りだして路地裏を抜け、イーブイがグレイシアを促して走りだす。
そのまま路地裏から少し離れた場所までやって来ると、イルマは少女から手を離した。
「この辺りなら大丈夫かな……」
「あっ、ありがとうございます……って、貴方は…」
「?何か……?」
「い、いえっ、何でもありません!」
水色の髪をした少女の態度に疑問をいだくイルマだが、すると少女はあることに気付いたように慌て始める。
「あっ!私の眼鏡が……」
『眼鏡って、これの事か?』
「あっ、それ!」
逃げ出す時にフクスローが拾った丸眼鏡を手に取った少女はその眼鏡を掛けた。
「それじゃあ……助けてくれて、本当にありがとうございました!」
「あっ、はい!」
そう言って、その少女は踵を返して走り出し、イルマはその背中を見送っていると、フクスローが首をかしげながら呟く。
『……アイツ、どっかで見たことあるような……』
「え?初対面だと思うけど……」
すると、何処からか声が、今度は沢山の歓声が聞こえてきて、イルマ達はパンフレットを手にしたままその歓声が聞こえてきた方に顔を向ける。
視線の先には、少し離れた場所にある公園に人が集まっており、イルマ達は人混みを掻き分けながらその公園の中心の元に辿り着くと、そこには首飾りを着けたリザードンと、四足歩行の巨大なカギムシのような姿をした【ペンドラー】が、激しいバトルを繰り広げていた。
「ペンドラー、“ポイズンテール”!」
「ならばこちらは“ドラゴンテール”だ」
ペンドラーのトレーナーが指示を出して、ペンドラーが尾に毒を纏わせてリザードンに突撃すると、ピンクの髪をしたリザードンのトレーナーが指示を出し、リザードンは竜の力を纏わせた尾でペンドラーの毒の尾を迎え撃ち、押し負けたペンドラーは溜まらず吹っ飛ばされる。
「!あの人は……」
「くふぅ」
「ぶいっ?」
「ぽに?」
「ラル?」
その時、イルマとフクスローはリザードンのトレーナーの姿を見て目を見開き、イーブイとオーガポンとラルトスは首を傾げる。
「トドメだ!“かえんほうしゃ”!」
「リザァアアアッ!!」
「ペンドラー!?」
「ペ……ペド……」
そんな中、リザードンの吐き出した強力な炎がペンドラーを呑み込み、ペンドラーは全身に火傷を負った状態で目を回して気絶してしまった。
「あの人、スゴい!」
「これで15連勝だ!」
周りから歓声が轟いてくる。
イルマは、人混みを掻き分けて、そのピンクの髪をした人物に声をかけた。
「アズくーーん!」
「ん?……おぉっ、君か」
その人物は、イルマの所属しているセキエイ学園でイルマのルームメイトであるアリスだったのだ。
「久し振りだね~。もしかして、そのリザードンって……」
「あぁ、ヒトカゲが進化したんだ」
「リザァ!」
「くふぅ」
「……君のモクローも進化したみたいだな。新しいポケモンもいるようだが……珍しいポケモンばかりだな」
アリスのリザードンと挨拶を交わすフクスローや、見たことのないオーガポンや色違いのラルトスやイーブイを見て興味深そうに呟くアリス。
その時、緑色と水色と黄色の何かが、イルマとフクスローに向けて、タイヤのように転がりながら突撃してきた。
「ドーーンッ!!」
「ワニャーー!!」
「ピーーッ!」
「うわぁああっ!?」
「くふぅ!!?」
「ぬぉおっ!?」
「リザァアアッ!!?」
突撃してきた何かはイルマとフクスローだけでなく、二人の目の前にいたアリスとリザードンを巻き込み、彼らは一斉にズデーンとその場れ倒れてしまう。
すると、イルマとアリス、フクスローとリザードンに馬乗りになっていたその人物とポケモン2体が、ガバッと起き上がりながら喜声を上げた。
「アッハハハハハッ!イルマち、久し振りーー!」
「ワニャワニャーー!」
「ピチュピュー!」
「ク、クララ…?」
「くふぅ……(ワニノコも一緒かよ……)」
それは、黄緑色の髪をした少女と水色のワニのようなポケモンも、黄色い体にピンクの頬を持つポケモンだった。かつてカントーの離島で出会った少女クララと、そのパートナーのワニノコであった。更には、ピカチュウの進化前である【ピチュー】もいる。
「な、何でここに……?」
「い、イルマ君……この女は一体……」
「あたしクララ!そんでこの子はワニノコ!そんでこっちが新しくお友達になったピチュー!あんね、マミー達と旅行に来てたの!そんで遊びに来たんだけど道が分かんなくなっちゃった!あっ、飴ちゃん持ってる?Give me!」
「あ、アズ君、この子はクララ。少し前に知り合ったんだ。あとクララ、飴はあるよ」
イルマはアリスにクララの事を説明しつつ、クララに常備しているお菓子の中から飴玉を取り出して差し出す。
「ねぇねぇアズアズ!さっきのバトル凄かったね!ドバーンってなって、ボォーって!私もワニノコとピチューも見ててドキドキしちゃった!」
「アズアズ…?」
妙なアダ名を付けられアリスが困惑するが、次のクララの一言で表情が変わった。
「ねぇアズアズ!イルマちとアズアズって、どっちの方が強いの?」
「……!」
「いやぁ~、それはアズくんの方が……アズくん?」
アリスが顎に手を当てて考え込んでいる様子を見て首をかしげるイルマ。
すると、アリスは突然口を開いた。
「──イルマ君、今から私とバトルをしてくれないか?」
「え?」
イルマは目をパチクリと瞬かせる。
「えっと……どうして?」
「知りたいんだ。今の君がどれだけ強くなったのか。そして、かつて君に敗北した事へのリベンジ、というところか」
「……うん、分かった。やろう」
「感謝する」
話がまとまると、イルマとアリスは公園の開けた場所に行き、向かい合うようにして距離を取る。
「こうしてバトルをするのは本当に久し振りだね。バトルの形式はどうする?」
「それなら、お互い2体ずつのシングルバトルにしよう。あの時は君に完敗したが、今回はそうはいかないさ」
「それなら、トップバッターは君だよ、ラルトス!」
「なら私はコイツからだ、アブソル!」
「ラールゥ!」
「ソル!」
そう言って、イルマはラルトスを繰り出し、対するアリスが繰り出したのは白い毛並みに顔の右側面に鎌のようなに湾曲しているポケモン【アブソル】だった。
「あのポケモンは……」
『アブソル。わざわいポケモン。あくタイプ。災害の危険を感じとる。危険を知らせる時だけ人前に現れるという』
イルマはスマホロトムでそのポケモンの情報を確認する。
イルマは、このバトルにオーガポンを使うつもりはない。オーガポンはまだかつての勘を取り戻せていないため積極的にバトルに取り組ませているが、オーガポンばかり活躍させてしまっていてはフクスローやラルトスの成長に繋がらない。だからこそのラルトスだ。
しかし、エスパータイプを無効にする悪タイプのアブソルだが、フェアリータイプを持つラルトスに悪タイプの技は効果抜群にならない。しかし、“ゆびをふる”を習得するとと同時に“チャームボイス”を忘れてしまった今のラルトスがアブソルに有効だを打てるかどうかは完全に運任せになるだろう。
「イルマちー!アズアズー!頑張って~~!」
「ワニャワニャーー!」
「ピチューッ!」
クララとワニノコとピチューの歓声が上がる中、イルマとアリスのバトルが開始された。
「アブソル、“アイアンテール”!」
「ラルトス、“テレポート”から“こごえるかぜ”!」
硬質化させた尾をラルトスに叩き付けようとするが、ラルトスは瞬間移動でアブソルの背後に周り、冷たい吐息を吹き掛ける。
その冷たさにアブソルが身震いした瞬間、イルマは即座に指示を出す。
「ラルトス、追撃で“ゆびをふる”!」
「ラルー!」
指を振って脳を刺激したラルトスは、全身から稲妻を放つ“10まんボルト”を放つ。
迫り来る電撃に、“こごえるかぜ”により反応が遅れたアブソルは避けることが出来ず直撃するが、アブソルはブルブルと頭を振るわせて立ち上がる。
「今度はこちらの番だ!“エアスラッシュ”!」
「“テレポート”から“こごえるかぜ”!」
「ラルッ!」
風の刃を連続で放ってくるアブソルを見て、ラルトスは“テレポート”による瞬間移動で迫り来る風を回避すると、空中のアブソルに向けて再び氷の息を吐く。技を放った直後だったアブソルはこれを避ける術がなく、氷の息が直撃して地面に墜落する。
「……ラルトスの“テレポート”による神出鬼没の攻撃、中々侮れないな。しかし、ここまで来て出さないということは、そのラルトスはフェアリータイプの技を覚えていない、違うか?」
「「ッ!!」」
真実を見破られ、イルマとラルトスはギクリと肩を震わせる。
「ならば、その技構成でアブソルは倒せない!“かえんほうしゃ”!」
「“テレポート”で避けて!」
「“エアスラッシュ”!」
「ソルッ!」
「ラルッ!?」
アブソルが吐いた強力な炎を瞬間移動で避けた直後、ラルトスが現れた場所に風の刃を飛ばすアブソル。まさかの追撃に、避ける暇がなかったラルトスは吹き飛ばされて倒れる。
「ラルトス、“こごえるかぜ”!」
「ラールゥ!」
立ち上がったラルトスは口から雪の結晶のようなものが混じった冷たい吐息を吐くが、アブソルは大きくジャンプしてその吐息を回避する。
「“エアスラッシュ”!」
「“ねんりき”で打ち消して!」
空中からラルトスに向けて風の刃を放つアブソル。ラルトスはサイコパワーを使って風の刃を打ち消していると、彼女の前に白い影が素早く接近してくる。
「“アイアンテール”!」
「アブゥッ!」
「ラッ!?」
ラルトスが“エアスラッシュ”を対処している間に距離を積めたアブソルの硬質化した尾を叩き付けられたラルトスは地面を滑りながら倒れる。
「大丈夫、ラルトス!?」
「ラル……」
ラルトスは何とか立ち上がり、戦闘態勢を取るが、効果抜群の鋼タイプの技を受けたことで既にフラフラになっていた。
「決めるぞ、“つじぎり”!」
「ソルゥッ!」
猛スピードで突撃するアブソルを見て、イルマは即座に指示を出した。
「ラルトス、アブソルの足元に“こごえるかぜ”!」
「ラーーッ!」
「ソルッ!?」
吐息に混じった雪の結晶が溶けて水になり、猛スピードで走っていたアブソルは足を滑らせて転ぶ。
「何っ!?」
「今だラルトス!“ゆびをふる”!」
「ラルルル……ラァッ!」
その隙を見逃さず、ラルトスは指を振って脳を刺激し、引き当てた“トライアタック”を発動。炎・雷・氷のエネルギーを連続発射。立ち上がろうとしたアブソルはそれが全て命中してしまい、アブソルは再び倒れる。
「アブ……ソッ!?」
「!火傷か……」
その時、アブソルは体を蝕む炎に顔を歪める。
“トライアタック”の3つある追加効果の一つ、火傷状態になってしまったのだ。
物理技に特化しているアブソルにとって、火傷状態の熱によって溜まっていくストリップダメージや攻撃力低下のデメリットは厄介なことこの上ない。
「よし、何とか押しきるよ、ラルトス!」
「ラル……」
イルマの呼び掛けに答えるラルトスは、次で確実にアブソルを倒すために、操られたレックウザと戦っていた時に匹敵する程の集中力で力を体に込める。
「アブソル、“つじぎり”!」
「ソル……ソルゥッ!!」
体力が尽きる前に倒すと判断したアリスの指示で、アブソルは物凄いスピードで走り出し、顔の右側の鎌でラルトスを切り裂こうとする。
「ラルトス、“こごえるかぜ”!」
「ラル……ラァルッ!」
イルマの指示を聞き、ラルトスは技を発動しようと溜めていた力を発動させようとする。
しかし、アブソルのスピードはイルマとラルトスの予想よりも速く、ラルトスの目前まで迫ったアブソルが鎌を振り下ろそうとしたその時、
「───ラルッ!!」
「ソルッ!!?」
ラルトスは、息も凍る程の冷気を纏わせた右腕を振り上げ、アブソルの顎をぶん殴った。
予想外の反撃に、イルマもアリスも目を見開いて驚くが、アブソルは目を回して気絶しており、起き上がる気配がなかった。
「今のは……」
『“れいとうパンチ”。冷気を纏わせた拳で相手を殴る氷タイプの物理技』
イルマはスマホロトムでラルトスの技を調べると、その技が“ゆびをふる”で引き当てた技でなく、新しく習得した技だと気付く。
何度も“こごえるかぜ”を使い続け、溜め込んだ氷の力が新たな技となったのだ。
「まさかこの土壇場で新しい技を会得するとは……だが次はそうは行かない。行くぞ、リザードン!」
「リザァアアッ!!」
次にアリスがモンスターボールから出したのは、彼の相棒であるリザードン。
イルマがよく知るフリードのリザードン程ではないとは分かるが、セキエイ学園にいた頃のヒトカゲより遥かにレベルアップしていることを見ぬいたイルマは、鬼を引き締める。
「ラルトス、まだやれる?」
「ラルッ!」
イルマの問いかけに、ラルトスはコクりと頷き、リザードンに向かい合った。
「リザードン、“かえんほうしゃ”だ!」
「ラルトス、“テレポート”からの“れいとうパンチ”!」
リザードンが強力な炎を吐き出すが、ラルトスはリザードンの真後ろに瞬間移動して、習得したばかりの冷気を纏わせたストレートを御見舞いする。炎タイプであるが、飛行タイプをもつ故に等倍になった攻撃で、リザードンは僅かにふらつくが、直ぐにギロリとラルトスを睨み付けた。
「“ほのおのパンチ”!」
「リザッ!!」
「ラルトス、もう一度“テレポート”!」
「ラッ!」
リザードンは炎を纏わせた拳を突きだし、ラルトスは瞬間移動でそれを回避する。
「“エアスラッシュ”!」
「“ねんりき”!」
ラルトスが現れた瞬間、リザードンは追撃で風の刃を放ち、ラルトスはその風の刃をサイコパワーで操ってそれを打ち消した。
しかし、それがアリスの狙いだった。
「“かえんほうしゃ”!」
「ラルトス!?」
“エアスラッシュ”の対処によって動きが止まっていたラルトスは、リザードンの強力な炎に飲み込まれ、爆発を起こす。
「ラ、ラル……」
煙が晴れた先には、丸焦げになって気絶しているラルトスの姿があった。
「ラルトス、戻って。頑張ってくれてありがとう……フクスロー、お願い」
「くふぅ!」
「来たか……」
イルマはラルトスをモンスターボールに戻すと、イルマは自身の隣に立っている相棒に視線を向ける。それに頷いたフクスローは走り出し、リザードンの前に立った。
セキエイ学園にいた時は、有利なタイプで既に“かえんほうしゃ”を習得していたにも関わらず技を一撃も当てることが出来ずに敗北したアリスとリザードン。この2人はその時からイルマのバトルセンスの高さは知っているつもりなので、例え最終進化しているとは言え油断はしない。
「リザードン、“エアスラッシュ”!」
「フクスロー、“エアカッター”!」
リザードンとフクスローが同時に放った風の刃がぶつかり合い、爆発を起こす。
爆煙により視界が不明瞭になる中、煙を突き抜けて、リザードンがフクスローに迫ってきた。
「“ドラゴンテール”だ!」
「避けて!」
ドラゴンの力を纏わせた尾を叩き付けようとするリザードンだが、フクスローは翼を羽ばたかせて空を飛び、その一撃を回避する。
「追い掛けろ!」
それを見てリザードンも背中の翼を羽ばたかせ、上空のフクスローを追い掛ける。
フクスローも飛行して空を飛び回り、リザードンが追い掛ける。しかし、高速飛行は得意としていないフクスローの飛行スピードに、リザードンは少しずつフクスローとの距離を縮めていく。
「“かえんほうしゃ”!」
リザードンは空を飛びながら炎を吐き、フクスローは左右に飛び回りながらその炎を避け続ける。
「それならば、“エアスラッシュ”だ!」
「リザァッ!!」
「くふっ!?」
続けてリザードンは連続で風の刃を連続して放ち、被弾したフクスローは地面に倒れる。
「それなら、“シャドーシュート”!」
「ふぅ!」
「リザッ!?」
「リザードン!?」
仰向けになったフクスローは、追撃を仕掛けようとするリザードンに暗黒の爪を飛ばす。まさか物理技の“シャドークロー”を飛ばすオリジナル技で返してくるとは思わなかったアリスは驚く。
その隙を見逃さず、イルマは懐からテラスタルオーブを取り出した。
「それは……!」
「フクスロー、ジョーズに輝いて!」
その言葉と共にテラスタルオーブに光が集まり、その光を浴びたフクスローが鉱石に包まれると、その中から紫色の幽霊の形をした宝石の冠を被った宝石の体をしたフクスローが現れた。
「ゴーストタイプのテラスタル……!」
「リザ……!?」
「ずっごーーい!イルマちのフクスローキラキラのデッカデカーー!」
「ワニャニャーー!」
「ピッチュー!」
目映い煌めきを放つフクスローの姿に、アリスやリザードン、観客状態のクララも目を奪われる。
イルマは笑みを浮かべ、指を鳴らしながら指示を出した。
「フクスロー、ここからがハイライトだよ!“シャドークロー”!」
「くふうぅ!!」
煌めきを放つフクスローは影の爪を出現させて空へと羽ばたき、天空のリザードンに向けてその爪を振り下ろす。
「リザードン、“ドラゴンテール”!」
「リザアッ!」
対するリザードンは尾にドラゴンの力を纏わせて、それを振るう。
リザードンのスペック自体は、フクスローを凌駕するものだったが、ゴーストテラスタイプに変化したフクスローの“シャドークロー”は、リザードンの力と対等に渡り合うだけの力を持っており、空中を飛び交いながらフクスローとリザードンは影の爪と竜の尾を何度もぶつけ合う。
「リザードン、全力で“かえんほうしゃ”だ!」
フクスローの“シャドークロー”と“ドラゴンテール”をぶつけ合って距離を取ると、口から全力の炎を吐き出した。その炎は先程のペンドラーとのバトル時やこの瞬間になるまでのものとは比べ物にならない程の威力であり、ゴーストテラスタイプになったことで等倍になったとはいえフクスローを倒せるほどの威力を秘めていた。
「それなら……フクスロー、回転しながら“リーフストーム”!」
「くふぅ!」
「何ッ!?」
フクスローは駒のように体を回転させ、莫大な量の葉を放つことで自身の周りに木の葉の防壁を作りながらリザードンの炎に突撃する。
その様子にアリスもリザードンも驚き、思わずリザードンは炎を吐くことを止めると……
『くふぅ!』『くふぅ!』『くふぅ!』『くふぅ!』『くふぅ!』『くふぅ!』『くふぅ!』『くふぅ!』
「フクスローがいっぱいだ~~!」
「“かげぶんしん”を覚えていたのか……!」
そこにいたのは、無数のフクスローだった。
回転しながら“リーフストーム”を放って防壁代わりにすることで“かえんほうしゃ”の直撃を回避すると同時に、かつてダイアナとバトルをしている時に行った“リーフストーム”の影に隠れての“かげぶんしん”である。
「フクスロー、分身を取り込んで“シャドークロー”!」
本物のフクスローは影の爪を出現させると、周囲の分身達を爪に吸収し、その爪を自身の体以上の大きさを持つ物に巨大化させると、フクスローはその爪を振りかぶる。
「ッ、リザードン!“かえんほうしゃ”だ!!」
「ヤバ……ッ、フクスロー避けて!」
流石にこれは不味いと察したアリスが指示を出し、リザードンが強烈な炎を吐く。
それを見たイルマは回避を指示すると、フクスローは巨大化させた爪を維持したまま翼を畳んで突貫し、軌道を逸らすことでリザードンの炎をスレスレで避けたフクスローは、巨大な爪を維持した翼でリザードンの背中に組み付いた。
翼を強制的に閉じられたリザードンは、重力に従い逆さまになって墜落し、だんだんと落下速度を上げながら地面との距離を縮めていく。
そして、リザードンはフクスローに組み付かれたまま地面に墜落した。
まるで隕石が落ちてきたような凄まじい衝撃はと共に、盛大に砂煙が舞った。
イルマとアリスだけでなく、クララ達やバトルの騒ぎを聞き付けた野次馬達も、リザードンとフクスローが墜落して巻き上がった砂煙をジッと見つめていると、やがて煙が晴れてその姿が見えてくる。
後に、このバトルを見ていた者達は語る。
そう、砂煙が晴れた先にいたフクスローとリザードンの姿。それはそれは見事な……ジャーマン・スープレックスであったと──……
「やったぁ!フクスロー、スゴいよ!」
「いーぶいっ!」
「ぽにおーっ!」
『当然っさ!』
イルマとイーブイとオーガポンは快哉の声を上げてリザードンから離れたフクスローを抱き上げる。
気絶したリザードンをモンスターボールに戻し、フクスローを胴上げするイルマ達を見ながら、アリスは噛み締める。
(全力……だった。私も、リザードンもアブソルも……)
中間進化のフクスローに負けてしまったと言う事実に悔しいという気持ちを抱くと同時に、とても晴れ晴れとした気持ちが沸き上がる。
カロス地方の旅では、どんな相手にも負けなかった自分が、本気で挑んでも勝つことが出来なかった事に、アリスは思わず笑ってしまった。
「……完敗だ。やはり、君には敵わないな」
「アズ君も、スッゴく強かったよ!」
イルマ達の元に歩み寄ったアリスは笑いながら手を差し出すと、イルマはその手を掴んで握手を交わす。
「イルマちーー!アズアズーー!二人ともスゴかったー!リザードンが火をドバーってしてて、フクスローはブワーってなってバーンってなってて!二人ともカッコよかったー」!!」
「ワニャワニャーー!」
「ピチュピチュー!」
そこへ、バトルを観戦していたクララとワニノコとピチューがイルマとアリスに飛び付いて歓声を上げる。
やいのやいのと騒ぐイルマ・アリス・クララを見ながら、フクスローとイーブイとオーガポンは顔を見合わせ、笑みを浮かべた。
一時間後。
バトルによって気絶したラルトス、アブソル、リザードン、そして負傷したフクスローをポケモンセンターに連れて行き、フクスロー達をジョーイさんに治療してもらったイルマ達は、ポケモンセンターの近くのカフェでお茶をしていた。
ポケモン用のメニューを頬張るフクスロー達の横で注文したクッキーをお供にコーヒーを飲んでいたイルマは、右隣に座るアリスに尋ねる。
「それで……クララはさっき聞いたけど、アズくんはどうしてここに?」
「私は、テラスタル研修の為にパルデアに向かう最中なんだ。そこでこの町に立ち寄ったんだ」
「テラスタル研修?」
「オレンジアカデミーで実施されている、バトル学の授業だ。世界中からトレーナーがオレンジアカデミーに集まり、テラスタル研修を受講している」
「へぇ~、そんなのがあるんだ」
「……君はテラスタルオーブを持っているのに、研修を受けていないのか?」
「これは……貰い物だから」
イルマは苦笑しながらテラスタルオーブを眺める。
「そんでー?イルマちはどうしてここに来たの?」
「あぁ、僕は気紛れに応募したこのチケットが当たったから、それのライブにね」
「……ほぅ、くろむのライブにか」
「黒子?」
「くろむだ。どう聞き間違えたらそう聞こえるのだ」
クララのわざとっぽい聞き間違いにツッコミを入れるアリス。
それを見て、イルマはある提案をする。
「そうだ。チケット三枚あるし、アズ君とクララも一緒にライブ行かない?」
本当はリコとロイを誘うつもりだったが、タイミングか悪いことに2人はドットの依頼でピグトンタウンに向かっていってしまった為1人で行く予定だったのだが、折角チケットが3枚もあるのだから、このままにしておくのはもったいないと考えたイルマは、アリスとクララをライブに誘う。
「……ふむ。私も特に予定はないし、問題ないぞ」
「私も大丈夫だよ~」
「ありがとう。それじゃあ、これ食べたら会場に行こう」
返ってきたアリスとクララの答えはOK。
そうして、イルマはアリスとクララと共に喫茶店に出されたお菓子と飲み物を完食すると、代金を払って店を出て、くろむのライブが開かれるたいうドームに向かっていった。
その時、イルマの後ろを歩くフクスローは、突如後ろを振り返り、
『……ってな訳で、イル坊はオトモダチ2人を連れてアイドルのライブに行くことになった。それが何でああなったのかは……次回のお楽しみっさ!』
「……がおぽに?ぽにおー?(……フクスロー、誰に話してんだ?そこに誰かいんのか?)」
~アイドル『くろむ』~
アニポケにアイドルの概念があるか少し微妙ですが、私は魔入間の中で結構好きな話なのでアイドルの設定です。
~ウォルターシティ~
本作オリジナルの町。元ネタはif魔フィアに出てくるウォルターシティから。
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