魔入りました!入間くん if Episode of ポケットモンスター   作:MTHR

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 今回は、豹変したイルマ君によるオリジナル回です。

 作者の夏休みの過ごし方は、バイトやレポートで寝不足になったり、pixivでリクエスト作品の執筆を頑張ったり、アニポケの映画の数々を視聴する中で、「このポケモン、イルマくんの6体目に良いなぁ」と言う考えが過るような日々を思っています。
 ポケモンSVでは、今はコレクレーレイドでコレクレーをワンパンしまくってます。


54話 正反対のイルマ

 ライジングボルテッカーズがいつも集まって食事を食べるミーティングルーム内で、普段から食卓に並ばないドットを除いた面々は、ある席に視線を向けていた。

 

「あ~~……ロクなニュースねぇな」

 

 いつもなら、ニコニコとご機嫌で食事を取り、一口毎に「美味しい」「マードックさんありがとう」とお礼を言う様に食事の雰囲気を和ませてくれるのが、普段のイルマだった。 

 しかし、今日は違った。

 イルマはドカッと椅子に座り込み、スマホロトムを弄りながら食事をしていた。

 するとイルマは、自身の皿が空になった事に気付くと、その皿を無造作にマードックにつき出した。

 

「マードック、お代わりくれ」

「よ、呼び捨て……!?わ、わかった……」

 

 普段はリコ以外にたいして全員にさんか君づけをするイルマが、呼び捨てで呼んだことに戸惑うが、マードックは皿を受けとる。お代わりを乗せる次いでで、マードック達は仲間達に顔を寄せ、ヒソヒソと話し始めた。

 

(……おい、何があったんだアイツ?)

(昨日まで何時も通りだったよね…?)

(この前もフクフローの言葉が分かるとか言ってたし……なにか悪いもんでも食ったのか?)

(そんなもんは出してねぇし仕入れてねぇよ!)

(この前診察してみても何処にも異常は無かったし……)

(兎に角、何かおかしいのは間違いないよ……リコはどう思う……リコ?)

「………」

 

 ロイがリコに視線を向けてみると、リコは頬を赤くして、ジ~ッとイルマの顔を見つめており、それを見たロイはリコの肩をポンポンと叩くと、リコはハッと正気を取り戻す。

 

「リコ?どうしたの?」

「ふぇっ?な、なんでもない!驚いてただけだから……」

 

 訝しげに此方を見てくるロイやライジングボルテッカーズの面々に、リコは慌ててそう答えると、再びマードックから受け取ったおかわりを口に運び始めるイルマに目を向ける。

 その内心では……

 

(い、イルマが何だか悪そうに……何時ものイルマの方が優しそうで、普段のイルマの方が好きだけと、目付き悪くて近寄りがたいオーラがあるけど、こんなイルマもこれはこれで素敵……っじゃなくて!)

 

 そんな風に、イルマの豹変に唯一、ときめいていた。

 

(……なーんてこと考えてんだろうな)

(いやぁ~、確かになんかイケメンになったけどさー……普段はお花が飛んでるけど、今は黒い羽が待ってる感じ?)

(リコをここまで惚れ込ませるなんて、罪な男だね)

 

 一方で、バチコ、オリオ、モリーの女性陣は、リコの乙女全快な思考を読み、呆れたように話し合っていた。

 すると、一通りの食事を終え、ピカピカになった皿を重ねたイルマがリコに声をかけた。

 

「おーい、リコ」

「ふぇっ!?」

 

 リコはビクッと肩を震わせ、イルマは自分の膝の上をポンポンと叩きながら口を開いた。

 

「寒い」

「えっ!?」

 

 リコは顔を真っ赤に沸騰させ、ライジングボルテッカーズはぎょっとしてリコに視線を集める。リコはギクシャクとした動きでイルマのもとまで近寄ると、視線をすいすいと泳がせる。

 

「えっと、その……」

「座れ」

「座っ…!?」

 

 イルマの言葉に、リコは氷状態か金縛りにでもあったように動きを止める。マホイップのクリームを乗せないでブラックコーヒーを飲んでいたイルマはチラリと視線を横に向けると、リコが何故か固まっているのを見て、ハァと軽くため息を吐き、リコの腕を取って、自分の方に引き寄せた。

 リコは引き寄せられるままに、リコはイルマの膝の上にお尻を乗せ、ちょこん、とイルマの膝に腰掛ける事となった。

 

「よし、あったかくなった……」

「イ、イイイイルマ……この体制、ちょっと恥ずかしい……」

「あ?気にする程のもんじゃねーだろ。いいからここにいろ」

 

 リコはオクタンよりも真っ赤になった顔で恥ずかしいと訴えるが、イルマはリコの頭をポンポンと撫でながら答えていたイルマだが、フリード達が自分に注目していることに気付き、不機嫌そうな表情をする。

 

「なんだよ、見せもんじゃねーぞ」

「いやいや、どう見ても見せもんだろ」

 

 イルマの言葉に、フリードが反論する。他の面々もウンウンと頷いている。

 その反応に大きくため息を吐いたイルマは、リコを膝の上から下ろして席を立つと、フリードに視線を向けて声を掛けた。

 

「それで、今日は何をする予定なんだ?」

「あ、あぁ。これから向かう町にあるポケモンセンターで、傷薬や元気の欠片といった薬を調達する予定だが……」

「薬の調達か……やってみるのもありかもな。モリー、その仕事、俺に任せて貰ってもいいか?」

「別に、構わないけど……」

 

 モリーの了承の言葉を聞くと、イルマはポケモンフーズを食べ終えていたフクフロー達に顔を向けた。

 

「お前ら、行くぞ」

「く、くふぅ……」

「ぽに……」

「ラルルゥ……」

「ぶい……」

 

 豹変したイルマの様子に戸惑いながらも、フクフロー、オーガポン、ラルトス、イーブイは彼の後ろに続いていく。そしてミーティングルームを出ようとすると、イルマはあることに気付いて振り替える。

 

「……サザンドラ、どうした?」

「……」

 

 そのポケモン──サザンドラは、空になったポケモンフーズの皿を前に丸まっており、起き上がる気配がなかった。それをみたイルマは、サザンドラのモンスターボールを取り出した。

 

「ほら、行くぞ」

「サザ……」

 

 イルマがそのボールを前に出すと、サザンドラは紅い光となってモンスターボールに吸い込まれていき、イルマはサザンドラが中にはいったボールをしまって、フクフロー達と共に歩き出す。

 

「……」

 

 リコはそんなイルマの後ろ姿をジッと見つめた後、小走りにイルマ達を追いかけた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 その後、性格が変わったイルマはポケモン達を連れて、展望室の前の階段に腰掛けていた。

 イルマは展開されたウイングデッキの上で寝ているサザンドラや、鬼ごっこをして遊んでいるオーガポン、ラルトス、イーブイの姿を眺めていたイルマは、船の上に吹く風に髪を靡かせ、目を閉じる。

 

「……いいな、こうやって風を感じるのも」

『……まるで始めて感じてるって言いぐさだな。よくここには来てるだろ?』

「……」

 

 展望室の前の欄干に乗っていたフクフローが声を上げる。

 イルマが静かにフクフローに視線を向けて、ジッと自分を見つめてくるフクフローの顔を見つめ返していると、展望室の方から足音が聞こえてきて、イルマはそちらにも視線を向けた。

 

「……リコか」

 

 足音の主は、イルマの幼馴染みのリコであった。

 リコは何時ものようにニャオハを抱え、フードにミブリムを入れながらこちらに歩み寄ってくると、展望室の階段の上に座るイルマの隣に腰を掛け、ジッとイルマの顔を見つめる。

 流石にその視線が気になったのか、イルマはチラリと視線だけを向けて問い掛けた。

 

「……なにか用か?」

「……ねぇ…貴方、本当にイルマなの?」

「……何言ってんだ。俺は俺だよ。まぁ、今までの俺は少し無欲すぎたから、これからはもっと欲を出していこうと思ったがな……」

 

 ウンウンと頷く様に呟くイルマだが、リコは表情を変えずに先程から感じていた違和感を口にする。

 

「見た目は殆どイルマだけど、性格とかもだけど、さっきサザンドラを無理矢理ボールに戻した時といい……何か、イルマだけどイルマじゃないみたい」

「……………」

 

 リコの質問に、イルマは口を閉じてリコを見つめる。視線をリコから別の方に向けてみれば、フクフローやオーガポン、イーブイ、ラルトス、サザンドラもこちらを見ていた。

 やがて、イルマは面倒臭そうな表情でため息を吐き、後頭部をガリガリと掻きながら、観念したように口を開いた。

 

「……幼馴染みってのはこういうもんか?アッサリ気付かれるなんてな」

「いや、結構分かりやすかったよ」

「マジか。普段通りにしようとしたんだがな……」

「全然普段通りじゃない気がするよ……」

 

 一人称が『僕』から『俺』になっていたり、普段と態度が違いすぎるので、幼馴染みのリコだけでなくライジングボルテッカーズの面々もイルマがおかしいと言う事には気付いていただろうが、このイルマは自然体でいたらしいので気付いていなかったらしい。

 

「……確かに、俺はお前達が知るイルマじゃない。だが、お前の回答の点数は50点……半分正解、半分間違いってところだな」

「半分正解ってどう言うこと?」

 

 イルマは階段から立ち上がり、展望室前の欄干に背中を預け、自分の胸をトントンと指でつつきながら、驚くべきカミングアウトをした。

 

「俺はイルマであってイルマじゃない……俺はイルマの心の中に潜む、悪魔だ」

「あ、悪魔……!?」

 

 ポケモンが溢れている世界で、悪魔と言う言葉はあまり浸透していないが、一般的には『悪魔は悪いもの』というイメージを持っているリコは突然のイルマの台詞に目を丸くする。

 

「そう、俺はイルマの中にある悪意といった感情が人格化した存在……お前も知ってるだろう?二重人格っていうのは」

「二重人格……でも、今までイルマが二重人格だなんて聞いたこと無いよ?」

 

 リコも聞いたことはある。一人の人間の中に二つの人格が存在し、同一人物でもまるで別人のように振る舞っていることのはずだ。

 だが、ライジングボルテッカーズにはいる前の、イルマと幼い頃からの付き合いであるリコだが、イルマがそんな精神疾患を持っていたなんてしらなかった為、イルマの言葉に困惑する。

 

「まっ、今までで来ることもなかったしな。それに俺が自我を持ったのは最近の事だ」

「最近って……どのくらいの時?」

「んー?そうだな………大体、オーガポンをゲットした翌日くらいだな。オーガポンが昔受けた迫害とか、村人達がオーガポンの真実を知ったら掌返して来たこととか、よく今までで迫害してきたのにそんな態度とれるなーって考えてたよ」

『そんな風に考えてたのか……まぁ、言わんとしてることは分からなくはねーけど』

 

 確かにオーガポンの身に起きたことでスイリョクタウンの人々が行った迫害は不愉快だったし、スグリの話を聞いたとは言えアッサリと話を信じた人々には「この町の人間って、ともっこへの信仰心って薄いのか?」と考えたものである。スグリの説得とドットの協力も一役買っていたのかもしれないが。

 

「じゃ、じゃあ、私達の知ってるイルマはどうなってるの!?」

「今は俺の中で眠ってるだけだ。直ぐに目を覚ます。だが、この際分かりづらいからこの人格の俺にも名前を着けた方がいいか……」

 

 イルマの別人格は、顎に手を当てながら考え込むように頭を捻ると、何となく頭の上に思い浮かんだ名前を口にした。

 

「──イル魔、とかだな」

「そのまんまじゃん!」

「イルマはイルマでも、俺の『マ』の字は悪魔の『魔』だ」

「この世界では日本語使ってないでしょ!漢字にされても分かりにくいから!」

「おい、メタ発言は止めろ。じゃあ……悪イルマでいいか」

 

 リコのちょっと危ない台詞を諌めつつ、イルマの別人格は自分を【悪イルマ】と名付けることにする。

 悪い人格だから悪イルマとは、イル魔と同じくらい安直なネーミングな気がするが、それでもイル魔よりは分かりやすいので、取り敢えずその名前を採用してみることにしたリコは、不安げな表情で口を開いた。

 

「私達の知ってるイルマが無事なら……元に戻ってくれないかな?その性格や姿のままだと……色々危ないから」

 

 悪イルマがこのままだと混乱が起きる気がする。

 普段のイルマは童顔で可愛らしい印象の強い顔だったが、悪イルマはどちらかと言えばクール系のイケメンになっており、こう話しているだけでも心揺さぶられそうな謎の色気を放っている。

 

(私は何時もの方が好きなんだけど……こっちのイルマ(悪イルマ)も魅力が半端ない……。放っておいたら、冗談抜きでハーレムとか引き連れて帰ってくるかも……)

(多分、悪い方のイル坊が混乱起こすことにじゃなくて、誰彼構わずタラしこもうとする事に焦ってんだろうな……)

 

 このままではライジングボルテッカーズ内だけでなくセキエイ学園等でも混乱が起きるのもそうだが、リコの中ではもう一つの懸念があったりする。

 朝食の時にリコを膝に乗せて暖房代わりにしたのもそうだが、イルマは無自覚で人をたらしこむような行動が多く、その結果女の知り合いもかなり多くなっている。イルマ本人は生来の人のよさ故の行動なのだが、リコはイルマの人たらしに何時もお説教していた。

 だが、今はイルマの体を使っている悪イルマは、本来の人のよさに加えて少し強引な部分が加わったことで、とんでもない人たらしになっているようにリコは感じていた。悪イルマ本人が意図してそれを行っているかは不明だが、朝の行動を鑑みれば、放っておいたら不味いことになるかもしれない。リコとにって。

 そんな懸念から、悪イルマにもとに戻れないかと言うリコに、リコの真意を察して呆れたように溜め息を吐くフクフローだったが、実際にこのままにしておくと混乱を招くのは予想で問い掛けるきるので、視線だけで「元に戻ってくれねーか?」と。

 

 リコの真意を見抜くことは出来なかったが、フクフロー(相棒)の意図を察することは出来た悪イルマは、五秒程リコとフクフローの顔を見てから、口を開いた。

 

「……断る、まだ俺は何も知らないからな」

「知らないって?」

 

 リコに問い掛けられると、悪イルマは展望室の欄干に背中を預けながら空を見上げ、何処か哀愁を感じさせる表情で口を開いた。

 

「今までずっと、俺はイルマの中にいた。だから、ずっと知りたかったんだ。イルマの冒険や、宝物を。楽しそうだな、素敵だなって眺めてたんだからな……」

「……」

「混乱させたのは悪いと思ってるよ。だが、俺はまだこうしていたい」

 

 そう言って、悪イルマは展望室の方に歩きだした。

 リコはニャオハを抱えたまま、その後ろ姿を眺めていたが、悪イルマの言葉を思い返しながら、フクフロー達と共にイルマの後を追いかけて行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 数十分後。

 森の中に停められたブレイブアサギ号から降りた悪イルマは、自ら引き受けたモリーの治療室に不足している分の薬品等を受け取りにポケモンセンターに向かっていた。

 スマホロトムでポケモンセンターの位置を調べ、フクフロー達と共に町中を進んでいく悪イルマは、足を停めずに視線を後ろに向け、訝しげに口を開いた。

 

「……リコ、何でお前までついて来てんだよ?」

「ふぇっ!?えっと…なんというか、心配で……」

「俺は幼児か。いくら出てくるのが初めてでも買い物くらい一人で行けるっての……」

 

 そこにいたのは、リコであった。

 元々、悪イルマ一人で薬の調達に行くつもりだったのだが、船から降りる時に、いつの間にかリコについて来ていたのだ。

 

 リコとしては、悪イルマがイルマの中で色んなことがやってみたかったのにそれが出来なくて、出てこれた今色々なことを知りたいという思いを聞き、何となく悪イルマの事が気になって、買い物について来たという事なのだ。

 

(それに……案の定……)

 

 リコはチラリと周りに視線を向ける。

 そこでは、道行く人皆が悪イルマに視線を向けており、顔を赤くしていた。耳を澄ませてみると……

 

「ねぇねぇ、あの青い髪の人、すっごいイケメンじゃない!?」

「本当だ!声掛けてみる!?」

「無理無理!何か近付き難いオーラあるもん!」

 

 …と言った、悪イルマに見惚れている者で溢れていた。

 先ほどリコが危惧していた通り、イルマが悪イルマになってとてつもない色気を放つようになった事で、心揺さぶられる者が続出しだしてしまったのだ。

 

「と、とにかく!早くポケモンセンターにいこう!」

「おっ、おい!?ポケモンセンターが逃げる訳じゃねぇんだから引っ張るなよ!」

 

 悪イルマの『色んな経験をしてみたい』という気持ちは理解できるが、このまま通行人の注目を集め続けるのもなんだが嫌なため、リコは悪イルマの手を取って、ポケモンセンターに向かって走り出し、悪イルマも慌ててリコと速度を合わせ、転ばないようにしながらポケモンセンターに向かって行った。

 余談だが、その様子を見ていた町の人達から、「あの二人付き合ってるのかな!?」という話し声がチラホラと上がっているのだが、ポケモンセンターに向かうのに夢中なリコと悪イルマの耳には届いていなかった。

 

 

 

 

 

 

 30分後。

 たどり着いたポケモンセンターで、さほど時間を掛けずに注文されていた品を手に入れた悪イルマとリコは、ブレイブアサギ号への帰路へついていた。

 

「特に問題なく買えたな。急ぐ必要なかったんじゃねーのか?」

「そ、そうかもしれないけど……」

 

 悪イルマは傷を積めたバッグを抱えながら、なぜ走る必要があったのかとリコに訪ね、リコは気まずそうに視線をそらす。

 

『……人格が変わっても、イル坊の鈍さは変わらねーのかよ』

「ニャーン……(イルマも悪イルマも、たいして変わんない気がする……)」

「ぶい、ぶいぶい……(ニャオハさん、あんまり不機嫌にならないで……)」

「サザ……(あー、そういうことか……)」

 

 そんな彼女達の様子を見て、フクフローと不機嫌そうなニャオハが呆れたように溜め息を吐き、イーブイがそんなニャオハを宥め、サザンドラはリコがイルマに対して抱いている思いを察する。

 

 そんな中、薬を運ぶ悪イルマ達に接近するポケモンの影があった。

 

「──キュッ!」

「おっ?」

「何ッ!?」

 

 飛び出した影が、イルマの手から薬品類の入った箱を奪い去った。

 悪イルマとリコがその影に視線を向けてみると、そこには子供がクレヨンで描いたようなピカチュウの顔をした黄色っぽいボロ布を被ったポケモンらしき存在が、頭の上に薬品類の入った箱を乗せていた。

 

「何あれ、ピカチュウ……?」

「こういう時は……スマホロトムのポケモン図鑑で調べるだったな」

 

 奇妙な容姿にリコが眉を潜め、悪イルマは楽しむようにスマホロトムを取りだし、目の前のポケモンのデータを検索する。

 

『ミミッキュ。ばけのかわポケモン。ゴースト・フェアリータイプ。陽の当たらない暗がりに 棲み、人前に出るときはピカチュウに似せた布で全身を隠す。風が舞って偶然中身を見てしまったトレーナーはその日の晩に苦しみもがいて死んだ』

 

「せ、説明文が怖い……」

「……へぇ、中身を見たら死ぬ、かぁ。スリルのあるポケモンだな」

(悪イルマ……ワイルドというか、怖いもの知らずです)

 

 スマホロトムが読み上げる説明文に恐怖を感じるリコと対照的に、悪イルマは面白そうな物を見るような目をしており、リコは少し唖然とする。

 そうしている間にも、ミミッキュは頭の上に箱を乗せたまま、悪イルマ達に背中を向けて何処かへと走り出してしまった。

 

「おい、待て!」

「あっ、ちょっとイルマ!?」

 

 悪イルマはフクフロー達を連れて、ミミッキュを追って走り出し、リコも慌ててその背中を追う。

 

 しばらくミミッキュの背中を追いかけていると、やがてミミッキュは人気のない路地裏にたどり着き、路地裏の入り口に悪イルマ達が立ち並んだ。

 

「……さて、その箱を返してもらおうか?」

「その薬、私たちのなの。返してくれないかな?」

 

 悪イルマが脅すように言い、リコは薬品を返してもらうように頼む。

 それに対し、ミミッキュの返答は……

 

「ミキュ!」

「くふぅ!」

 

 ミミッキュは“シャドーボール”を放ち、それを察知したフクフローが“エアカッター”を放ち、相殺した。

 

「……問答無用って訳か。なら丁度良い」

「イルマ、私も……」

「いいや、俺がやるよ。ポケモンバトルは一度やってみたかったし、試したいこともあるしな」

 

 それを見た悪イルマは、ミミッキュが薬品を返すつもりがないと悟り、参戦しようとするリコを宥め、悪イルマはあるモンスターボールを取り出し、それを勢いよく上に投げた。

 

「ラルトス、お前が先鋒だ!」

「ラ!?」

「ラルトスでやるの!?」

 

 悪イルマが出したのはラルトスであった。

 ゴースト・フェアリータイプのミミッキュに対し、相性が不利なエスパー・フェアリータイプのラルトスを繰り出したことにリコは驚くが、悪イルマは気にした様子もなく、愉しそうに笑う。

 

「さぁ、行くぜ!ラルトス、“ゆびをふる”!」

「ラル!」

「ミッキュ!」

 

 ラルトスは相性が不利な相手に戸惑いながらも指示を聞き、脳を刺激することで引き当てた“でんきショック”を放つが、ミミッキュは“シャドーボール”を放つことで迎え撃つ。

 

「それなら、“ねんりき”で周りの物を飛ばせ!」

「ラル~!」

 

 ラルトスはサイコパワーを集中させ、辺りに散らばっていた石などを浮かせてミミッキュに飛ばす。それに対し、ミミッキュは全身から光を放つ“マジカルシャイン”で迎え撃ち、その石を破壊すると、ラルトスに接近して“シャドークロー”を炸裂させた。

 

「ミッキュ!」

「ラルゥッ!?」

 

 ラルトスは暗黒の爪で切りつけられ、吹き飛ばされて地面に倒れる。効果抜群のゴースト技を受けたラルトスは何とか起き上がるが、既にかなりのダメージを追っていた。

 

「やっぱり、ゴーストタイプの技は効くか……。それなら、ぶっつけ本番でやるか」

「悪イルマ、何をするつもりなの!?」

 

 それを見た悪イルマはニヤリと笑い、リコがどうするつもりなのかと訪ねるが、悪イルマはリコの言葉に答えず、ラルトスの足元に転がっている尖った細長い石を見ながら指示を出した。

 

「ラルトス、“れいとうパンチ”で足元の石を使え!」

「ラル!?……ラッ!」

 

 ラルトスは戸惑いつつも、その尖った石を拾いながら“れいとうパンチ”を発動すると、手から発生した冷気が氷を作られると、ラルトスの手に、結晶のような一本の剣が握れていた。

 

「石が凍って……剣になった!?」

「“れいとうパンチ”を応用した技だ。“アイスブレイド”、そう名付けるとするか」

 

 これぞ、悪イルマが即興で考えたラルトスのオリジナル技。

 殴った相手を一定の確率で凍らせる力を持つラルトスの“れいとうパンチ”だが、物理技より特殊技に特化しているラルトスにはこの技を使いこなせていなかったのだが、イルマの中で彼の戦いを見てきた悪イルマは、その技を攻撃ではなく武器の生成に応用する技を考え付いたのだ。

 練習も何もない、ぶっつけ本番の技であったが、ラルトスは尖った石から剣の形をイメージ出来たことにより、この技を一発で成功させられたのだ。

 

「ミッキュ!!」

「ラ、ラルッ!」

 

 それを見て、ミミッキュは“シャドークロー”を発動してラルトスに切りかかり、ラルトスは氷の剣でそれを弾く。

 

「“ねんりき”!」

「ラッ!」

 

 ラルトスは空へ投げた氷剣を投げ、それを操ってミミッキュに向けてそれを飛ばす。薬品のはいった箱の前に立つミミッキュはその場から動かずに、“シャドークロー”でそれに応戦し、数回の打ち合いの後に氷の剣を破壊した。

 

「……連続で剣を生成して飛ばせ!」

「ラッ!」

 

 その様子に少し違和感を感じながらも、悪イルマは手数を増やす指示を出し、ラルトスは連続で生成した剣を“ねんりき”で飛ばす。

 “シャドークロー”では不利だと感じたのか、ミミッキュは“ウッドハンマー”を発動し、飛んでくる剣を一斉に凪払う。

 

 粉々になった氷の剣の残骸がバラバラと落ちるのを見て、悪イルマは追撃の指示を出した。

 

「ラルトス、氷の破片を使って一斉攻撃だ!」

「ラルゥ~ッ!」

「ミキュキュキュッ!!?」

 

 ミミッキュが破壊したことで、辺りに散らばっていた氷が浮かび上がり、一斉にミミッキュに突撃した。

 

「悪イルマ……健を投げるんじゃなくてこっちを狙ってたんだ……!」

 

 それを見たリコが、悪イルマの狙いが氷の剣を投擲する事ではなく、それを破壊したことで辺りに散らばった破片を使って攻撃する事だった事を察する。

 そして、その氷の蹂躙を食らい続けていたミミッキュは、やがて音を立ててバタリと倒れた。ミミッキュの特性は攻撃を一度だけ無効化する“ばけのかわ”だが、何度も氷の剣で貫かれた事で、ついに限界を迎えたのだ。

 

「凄い……けど、容赦ない」

「これが俺のやり方だよ」

 

 徹底的な蹂躙攻撃にリコは少し引くが、悪イルマは何でもないように答える。不発に終わった技の残骸だろうと、使えるものは全部使うのが、もう一人のイルマのやり方なのだ。

 

「さて、お次は……コイツから話を聞かねぇとな」

「話を…?」

 

 そう言いながら悪イルマはミミッキュに歩み寄り、リコは悪イルマの言葉に疑問を持ちながら共にミミッキュのもとに歩み寄ると、路地裏の影から飛び出したポケモンが、ヨロヨロとミミッキュに歩み寄った。

 

「ボレ……」

「ミキュ!?ミッキュキュッ!」

 

 それは、頭が木になった幽霊のような姿をしたポケモンであり、全身に傷を負っているそのポケモンはミミッキュに寄り添い、ミミッキュは「危ないから来るな」と言うように声を飛ばす。

 

「このポケモンって……」

 

『ボクレー。きりかぶポケモン。くさ・ゴーストタイプ。子どもの声を真似て人を森の奥深くへ迷いこませ、自分の仲間にする。頭の葉っぱは万病に効くと言い伝えられている』

 

 そのポケモン──【ボクレー】は、ミミッキュと何かを話し合うように鳴き声を交わしており、それを見た悪イルマが薬品の入った箱をあさりながらフクフローに視線を向けて口を開く。

 

「百聞は一見に如かず。フクフロー、事情の説明を頼む」

『あいよ~』

 

 悪イルマの言葉を聞いたフクフローが棘のミミッキュとボクレーの元に歩み寄り、2体から事情を聞き出した。

 

 曰く、このミミッキュとボクレーは森の中で親友として暮らしており、共に人懐っこい性格のポケモンで、人間と仲良くしたいと思い住みかを飛び出して町に出てきたらしい。

 しかし、ミミッキュはうっかり中身を見たら死ぬと言われており、ボクレーも人を誘い込ませてボクレーにしてしまうポケモンとして一部の人間から怖がられており、人々から煙たがられ続けていたらしい。そして、そんな中でボクレーは、万病に効くと言われている頭の葉を狙った人間に追われるなかで大きなダメージを受け、ミミッキュは何とかボクレーを治す術を探しているなか、ポケモントレーナーがよく使っている傷薬を大量に持っていた悪イルマ達を見つけ、いても立っても入られずにそれを取ってしまったのだと言う。

 

「ボクレーを治そうとしてたんだね……」

「通りで食料でもなんでもない傷薬なんか狙ってたわけだ。だが、ボクレーの治療ならその手の専門家に頼るに限る。ラルトス、皆をテレポートさせてくれ」

 

 ミミッキュとボクレーを持ち上げた悪イルマがラルトスにそう言うと、ラルトスはスッと右手を上げ、傷薬が入った箱を抱えたリコや2体のゴーストタイプのポケモンを抱えた悪イルマや、彼らのポケモン達がその手に指を当てると、ラルトスは“テレポート”を発動させ、その場から姿を消した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ミキュ!」

「ボーク!」

「これで心配ない。ボクレーの方も、しばらく安静にしてればすぐに良くなるよ」

「良かった……」

 

 一時間後。

 ラルトスの“テレポート”でモリーの治療室に瞬間移動した悪イルマは、抱えていたミミッキュとボクレーをモリーに預け、モリーとラッキーの適切な処置のお陰で直ぐに元気を取り戻していた。ボクレーはダメージが深いのか包帯を頭に巻いているが、元気に飛び回っている様子を見てリコが安堵する中、壁にもかれかかっていた悪イルマが、ミミッキュとボクレーの前でしゃがみこみながら声をかけた。

 

「なぁ、ミミッキュとボクレー。お前ら、この船に乗ったらどうだ?」

「ミキュ?」

「ボク?」

 

 首をかしげるミミッキュとボクレーの頭にポンッと手を置きながら、フッと笑みを浮かべた。

 

「お前ら、人間と仲良くしたくて森を出たんだろう?ここにいる奴等の中に、お前らを怖がるような人間は一人もいない。モリーも、ボクレーの頭の葉っぱを奪おうなんて考えねぇよ。だろ?」

「当たり前でしょ」

 

 悪イルマから目を向けられ、モリーが当然だと言うように答える。

 

「まっ、お前らがどうするのかは自由だがな。どうする?」

 

 悪イルマは腕を組みながら訪ね、ミミッキュとボクレーは互いの顔を見合わせた後、悪イルマを見上げながら答えた。

 

「ミッキュ!」

「ボレー!」

「決まりだな。お前ら、コイツらに船の案内を頼むぜ」

 

 ミミッキュとボクレーは、笑顔で頷いた。

 それを見た悪イルマはフクフロー達にブレイブアサギ号の案内を頼み、フクフロー達がそれを快諾して治療室を後にすると、悪イルマは体を伸ばしながら部屋を後しようとすると、モリーが声をかけた。

 

「アンタはどうすんのさ?」

「俺は部屋に戻る。今日は十分楽しんだし、ここら辺にしておくさ」

「……?」

 

 悪イルマの言葉にモリーは違和感を感じて首をかしげるが、悪イルマはそれを気にする事なく治療室を後にすると、リコもニャオハと共に悪イルマの後を追いかける。

 

「……」

「……何だ?さっきから俺の顔見てニヤニヤして」

 

 部屋に戻ろうとする悪イルマの後ろを付いてくるリコが、自分を見ながら微笑んでる様子を見て、悪イルマは訝しげな表情で尋ねる。

 

「ううん、ちょっと安心したんだ……」

「安心?」

「うん。貴方の事、ちょっと怖いと思ってたんだけど……さっきのミミッキュとボクレーに優しくしているのを見て、少し安心したんだ。私の知るイルマも悪イルマ(あなた)も、根本的な所は変わってないんだって……とっても優しくて、ポケモンの事を思いやれる素敵な人だって」

「──ッ!!」

 

 リコの言葉を聞き、悪イルマは目を見開いたかと思うと、プイッとそっぽを向いて、早足で自室へと戻っていった。

 

「い、イルマ……?」

「ニャー……(リコも割と無自覚なんだ……)」

 

 リコは突然の事に首をかしげ、彼女の腕の中にいるニャオハは自室へと戻っていく悪イルマの耳が赤くなっている事に気付き、無自覚な行動をするのはイルマだけでないことに気付き、大きな溜め息を吐いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 パチッ。

 

「……ふぁ~、良く寝たぁ……」

 

 イルマは自室のベッドで目を覚まし、大きな欠伸をする。

 妙な夢を見た気がするのだが思い出せないため、気にする必要はないかと思い直すが、窓の外がオレンジ色に染まっている姿を見て目を見開いた。

 

「って、もう夕方!?どれだけ寝てたの僕!?」

 

 慌ててベッドから飛び起きるが、服装が寝る時に着たパジャマではなく普段外着として愛用している白スーツ姿であること気づく。

 イルマは何が何だか分からないと言うように困惑していると、イルマの自室の扉が開かれた。

 

『お~い、イル坊。ミミッキュとボクレーの案内終わったぜ~。ついでに、もうそろそろで晩飯だ』

「フクフロー?ミミッキュとボクレーって何の事……っていうか、もう夕食!?4食も食べ損ねてる!」

 

 オーガポン、ラルトス、イーブイと共に部屋に入ってきたフクフローから告げられた言葉に更に困惑するイルマだが、その様子を見て、フクフロー達はあることに気付いた。

 

『おい、イル坊……もしかして、戻ったのか?』

「戻ったって……何がぁっ!?」

 

 イルマがそこまで言ったところで、オーガポン、ラルトス、イーブイがイルマに飛び付いた。

 

「ぽにっ!ぽにぽに!」

「ラルルゥ~!」

「ぶーい!」

「えっ?えっ?何々、どうしたの?」

「……」

 

 思わず倒れたイルマにギュウギュウと抱き付いてくるポケモン達に、イルマは訳が分からずに困惑し、部屋の外からは、サザンドラが無言でその様子を眺めている。

 

『や~っと、元に戻ったんだなぁ!も~、みーんなイル坊の事怖がってたんだから~!』

「戻るって何?怖がるって何?あれもこれも全然分かんないよ!?」

 

 悪くなっていた時の記憶は、イルマの頭にはなかった。

 




~船の新しい居候・ミミッキュとボクレー~
 作者が好きなポケモンのうちの2体。ミミッキュを手持ちにいれることも考えましたが、最終的にイッカネズミポジションにした。


~アイスブレイド~
 ラルトスのオリジナル技。フィールド内の千切った草や落ちている小石といった芯になるものを“れいとうパンチ”の冷気で凍り付かせ、氷の武器を作り出す。生成した武器は“ねんりき”で飛ばす事も可能。
 元ネタは『ONEPIECE』に登場するクザンの“アイスサーベル”。





・キャラクター紹介

【悪イルマ】

 CV.村瀬歩
 イルマの心の中に潜んでいた『心の中の悪魔』と呼べる別人格。
 かなり毒舌でワイルドな性格。蹂躙に近い戦法を取ったりするなど容赦のないような性格に思えるが、お人好しな所など根本的な部分は共通している。
 ずっとイルマの中でイルマの冒険を見てきて、自分も外に出たいと思っていた。今回、イルマの中から出てきたことを切っ掛けに、気紛れに出てくるようになる。イルマは原作と違い、悪イルマである時の記憶を覚えていない。幼馴染みであるリコに対しては、それなりに特別な感情を抱いている…かもしれない。
 彼の設定の元ネタは『仮面ライダーリバイス』の五十嵐大二/カゲロウや『暴太郎戦隊ドンブラザーズ』の桃谷ジロウ/闇ジロウから。

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