魔入りました!入間くん if Episode of ポケットモンスター   作:MTHR

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 そこそこ文字数が多かった筈なのに、アニポケを見てからモチベーションが驚く程上がって、予定より早く投稿できました。
 サブタイトルの元ネタはリコの声優の鈴木みのりの音楽アルバム『見る前に飛べ!』より『わたしはわたしになりたい』です。

 最近のアニポケは最高の一言。
 リコがルシアスの子孫であることが判明したことも(薄々予想していましたが)そうでしたが、作者としては以前ダイアナ戦でウインディに使わせた“フレアドライブ”をアニメでも使ったことに驚きました。ニャオハ&ホゲータ戦では三つしか技を使わなくて、ウインディが使いそうだなーと思って採用したのに、まさかドンピシャとは思いませんでした。

 今回は黒いレックウザ戦です。
 あの状況でどうやってイルマくんが生還したのかも判明します。そして、イルマとリコの恋路も進展する…かもしれない。
 『黒いレックウザ?100年早いな!』もいよいよクライマックスです。どうぞ広いの心でお楽しみ下さい。


イルマ「第63話、始まります……乳臭い口を今すぐ閉じろ」

リコ「中の人ネタなのは分かるけど、イルマらしくないからその台詞はダメッ!」

イルマ「あっ、やっぱり?うーん…じゃあここはフリードさんとスピネルを呼んで、か◯や様は◯らせたいの◯沼さんや白◯会長の真似でもさせてみるとかは?」

リコ「……考えただけで吐き気がしてきたよ」

イルマ「辛辣ゥ!?」


63話 わたしはわたしになりたい

 時は遡る。

 それは、フクスロー、イーブイ、オーガポンの連携によりスピネルのブラッキーを打ち倒したが、スピネルが概ね仕掛けていた爆弾によりイルマを閉じ込めていた建物が轟音を立てながら崩落していく時の事。

 

「どうにかしてここから出ないと…!」

『って、言ってる間にも部屋が崩れてきてんぞ!?』

 

ピシピシピシッ!ガシャアァアアンッ!

 

 イルマ達が慌てている間にも、爆弾の破壊によって生まれた亀裂は建物へと浸透していき、天井の一部が音を立てながら崩落していく。

 イルマ達は、兎に角この場から逃げ出さねばならないと、踵を返し、出入り口の扉に向かって走り出そうとする。

 

「ぶいっ!?」

 

 その時、イーブイは爆発の影響でコンクリートが隆起して歪んでいた足元に躓き、顔から地面に転んでしまう。

 イルマがそれに気付いて振り返った時、イーブイに向かって大きな岩が降ってくる光景が目に入った。

 

「イーブイ!」

『イル坊!!』

「ぽにぃっ!!(イルマァッ!!)」

 

 その光景に血相を変えて走り出し、それを見たフクスローとオーガポンも共に走り出し、イーブイとイルマの元へと向かう。

 そしてイルマはイーブイを抱き上げながら転がり込み、落石を避ける。落下と同時に粉々になった岩が四散し、イルマはイーブイを抱き締めてその余波の影響からイーブイを守る。

 

「イーブイ…大丈夫……?」

「ぽにっ!」

「ぶい……!」

『おいイル坊、頭から血が…!』

「ご、ごめん……ちょっと油断してて……イタッ」

 

 顔を上げると、帽子が岩に飛ばされて飛ばされた事で露になった頭から一筋の血を流しているイルマに、イルマのもとへ駆け寄ったオーガポンとイーブイは目に涙を溜めて心配し、フクスローも慌ててイルマに声をかける。

 

ズドォオオオオオンッ!!

 

 その時、遂に屋根全体が崩落し、瓦礫の山が、イルマ達のもとへ雨のように降り注いだ。

 モンスターボールを取り出す暇もないと察したイルマは、フクスロー、オーガポン、イーブイを覆うように抱き締め、身構える。

 

「ッ!!」

 

 あちこちから聞こえる落下音と共に、イルマは左腕に鋭い痛みを感じて顔を歪め、目線を左に向ける。そこには、鋭く尖っている瓦礫がある。しかし、辺りから聞こえてくる轟音に、イルマは目を瞑る。

 

 やがて落下音が鳴り止み、何故か先程の左腕以外に痛みを感じない事に疑問を持ったイルマがスマホロトムのライトを付け、ポケモン達と共に恐る恐る目を開けると……

 

「サザ……」

「サ、サザンドラ!?」

 

 なんと、そこにはイルマの手持ちの中でも一番の問題児、サザンドラが自分からボールの外に出て、イルマとポケモン達を墜落した瓦礫から守っていたのだ。

 イルマ達も、まさかサザンドラが守ってくれていたことに驚きを露にするが、イルマは直ぐにサザンドラの安否を確認する。

 

「そ、それより、サザンドラ!大丈夫なの!?」

「サザ」

 

 サザンドラは何でもないと言う様に答えると、身体を動かして背中で受け止めた瓦礫を退かす。イルマは抱き締めていたイーブイを優しく下ろし、痛む身体を抑えて立ち上がり、サザンドラ身体についた砂埃を払う。

 

「ありがとう、サザンドラ……」

「サザッ」

 

ガブッ!

 

「あれ?なんか目の前が暗くなって意識が……」

『おいサザ公、今イル坊に噛みつくのは洒落になんねぇから止めろ』

 

 イルマに礼を言われた瞬間、サザンドラは勢いよくイルマの頭に噛みつき、フクスローはサザンドラに声をかけてサザンドラの噛みつき攻撃からイルマを解放してやる。

 イルマは、頭からドクドクと血を流しながら、奇跡的な位置で瓦礫や廃材が支えになって出来た空間で、自身のポケモン達に声をかける。

 

「何とかペチャンコにはならなかったけど……どうすれば……」

『いつまた崩落するかわかんねーし、早くでなけりゃなんねぇな』

 

 フクスローの言葉を聞いて耳を澄ましてみると、微かに積み重なった瓦礫が擦れている音が聞こえる。フクスローの言う通り、いつ崩落するのか分からない。

 イルマは姿勢を低くして床に手をつこうとした時、イルマは手に鋭い何かが突き刺さったような痛みを感じた。

 

「イタッ!」

「ぽに、ぽにおー!?」

 

 手を抑えると、オーガポンが慌ててイルマに駆け寄ってくる。そんなオーガポンに「大丈夫」と答えつつ、手をおいた床に目を向けると……

 

「亀裂が出来てる……さっきので床にも影響が出たんだ」

 

 大量の岩石が墜落した衝撃で、コンクリート性の床に大きなヒビが入っており、その側には一部隆起しているコンクリートの破片も転がっており、どうやらイルマはこの破片に手が刺さってしまったようだ。

 その時、イルマの頭の中の電球がピカッと光った。

 

「そうだ!フクスロー、“シャドークロー”!」

『…おぉっ!上がダメなら下ってことか!』

 

 イルマの意図を察したフクスローは、両腕の翼に暗黒の爪を作り出し、その爪を床の亀裂の隙間に突き刺し、フクスローはスコップのようにコンクリートに穴を空け、その下の地面に暗黒の爪を突き刺して、少しずつ穴を掘っていく。

 イルマが考えたのは、地面に穴を掘って脱出すると言う方法であり、その間に、イルマ、オーガポン、サザンドラはこの空間が崩落してしまわないように廃材を支える。

 

『あぁ……かってぇ地面だなぁ』

「ぶい……」

 

 フクスローが愚痴るように呟きながらも、再び地面に暗黒の爪を突き刺していくのを眺めていたイーブイは、落ち込むように耳を垂れさせる。

 元々、この状況に陥ったのは、自分が石に躓いて転んでしまったせいだ。そうしなければ、イルマは自分を助けるために出口からこっちに来なかっただろうし、逃げ遅れることもなかった筈だ。そう思うと、イーブイは自己責任の念に襲われて落ち込む。

 

「……ぶいっ!」

「あっ、イーブイ!?」

 

 やがて、意を決したような表情となったイーブイはピンッと耳を立てて駆け出し、“シャドークロー”で穴を掘り続けるフクスローのもとへ駆け寄った。

 

「ぶいっ、ぶいぶい!(あのっ、私も手伝います!)」

『おっ!?ブイ嬢もやんのか!?』

「ぶいっ!(はいっ!)」

 

 イーブイはフクスローが掘った50センチ程の深さの穴に入り、肉球のある前肢を使った穴を掘ろうとする。

 しかし、地面は予想以上に固く、イーブイの前肢では中々穴を掘ることができない。

 

『無理すんな。お前はイル坊達と一緒に瓦礫を支えてろ!』

「ぶいっ!ぶぶぶぶい!(でもやります!私のせいでこんなことになったんですから!)」

 

 そう言いながら、イーブイは前肢が汚れようと気にせず、穴を掘ろうと前肢を動かす。

 その時、不思議なことが起こった。

 

「ぶぃいいいいいっ!!!」

 

ズドドドドドドドドッ!!

 

 突然、イーブイの手の動きが格段によくなり、凄まじい勢いで穴を掘り始めたのだ。

 

「これは……?」

 

『あなをほる。地面に潜り、突然相手の目の前に現れて攻撃する地面タイプの物理技』

 

「イーブイ……新しい技を覚えたんだ!」

 

 スマホロトムが飛び出して、イーブイが披露した技を読み上げる。どうやら、イーブイらこの状況を打開するために、土壇場で“あなをほる”を習得したようだ。

 そうしてイルマ達が驚きを露にしている間にも、イーブイは凄まじい勢いで固い地面を掘り進んでいくと、その穴は人間一人が入れる程の深さ3mの穴が出来上がる。

 

「ぶいっ!」

「イーブイ、ありがとう!」

「くふぅ!」

「ぽにっ!」

 

 イルマはサザンドラを一度モンスターボールに戻し、フクスローとオーガポンを抱き上げ、穴を掘り続けるイーブイを追うようにその穴に飛び込んでいく。

 スマホロトムのライトで視界を照らし、イーブイの後ろを続くように前へと進んでいく。

 

「イーブイ、そろそろ地上に出ても問題ないともうよ」

「ぶいっ!」

 

 十五分以上歩いた所で、イルマは上に行くように指示を出し、イーブイは進路を上に変えて穴を掘っていくと、イーブイの空けた穴に、日の光が射し込んだ。

 

「……ぶいっ!!」

「はーっ!出られたぁ……空気が美味しい……」

 

 イーブイが穴から飛び出し、イルマ達も続いて穴から顔を出し、地上の空気を思いっきり吸い込んだ。

 空いた穴の先は、あの建物に向かっていく際に通った森の中であり、前に視線を向ければ、数十メートル先に砂浜が見えた。

 

「そうだ……リコ達はどうしてるかな…!」

 

 イルマは慌てて穴から飛び出し、スマホロトムに連絡を入れようとするが、応答がない。仕方なく電話をやめて砂浜へと向かうと、その先に広がる光景に目を見開いた。

 

「きりゅりりりりしぃっ!」

 

「黒いレックウザ…!!」

『もう作戦は始まってるみたいだなぁ~』

 

 どんよりとした曇り空に不自然に開いた大穴に、青空の光を浴びながら咆哮を上げる黒い龍──レックウザの姿を見て、エクスプローラーズの作戦が始まってしまったことを察したイルマ達が顔を強張らせる。

 

「リコ達も向かってる筈出し、僕達も早く行こう!」

『言われなくとも!』

「ぽにっ!」

「ぶいっ!」

 

 仲間達の返事を聞きながら、イルマはモンスターボールを投げ、中からサザンドラを呼び出すと、彼のもとに駆け寄った。

 

「サザンドラ!あの黒いレックウザのところに向かって!」

「……サザ」

「って、やる気無し!?」

 

 先程の雄姿は何処へ行ったのか、サザンドラは欠伸をしながら砂浜に寝そべり、寝息を立て始めた。連れていってくれる気ゼロなその様子に、イルマは頭を抱える。

 

『おい!こんな時までツンデレしてる場合かサザ吉!』

「ぽにぽにっ!」

「ぶい、ぶいぶい!」

「……」

 

 フクスロー、オーガポン、イーブイの説得を受け、サザンドラは鬱陶しそうに顔を上げてフクスロー達をジッと見つめる。その後、今度はイルマに視線を向けて、血を流しながらも真剣にこちらを見つめてくる顔を見ると、溜め息を吐きながら翼を広げ、フワリと浮かび上がった。

 

「ドラ」

「ッ!ありがとう!!」

 

 こちらに視線を向けて「早く乗れ」というように鳴くサザンドラに、イルマはパァッと笑顔を浮かべながらサザンドラの背中に飛び乗る。

 

「フクスローとオーガポンは、一旦戻ってて!」

「ぶいっ!」

「イーブイはしっかり掴まっててね!」

 

 モンスターボールにフクスローとオーガポンを戻し、右肩に自身の手持ちでないイーブイを乗せると、イルマはサザンドラに呼び掛けた。

 

「サザンドラ、お願い!」

「サザッ!」

 

 イルマの呼び掛けに、サザンドラは翼を大きく羽ばたかせて、レックウザのもとへ飛び出して行くと、突如レックウザが吹雪や塩に襲われ始めたのを見て、イルマは焦燥感を募らせながら、「早く行かないと!」とレックウザの元へと向かっていく。

 

「…?」

 

 その時、イルマは下方から、雲に空いた大穴から差し込んでくる光に何かが反射しているのを見て、視線をしたに向けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして、場面は現在に戻る。

 辿り着いた頃には、いつの間にか進化していたニャローテとアチゲータとその他のポケモン達と激闘を繰り広げていたレックウザが“りゅうせいぐん”を放ち、その内の一つがテラパゴスを庇ったリコに降り注ごうとしたのを目撃したイルマはサザンドラに全速力を出させてリコのもとへ駆けつけ、リコを抱き締めて隕石の直撃から守ったイルマは、頭から垂れている血が目に入りそうになったことで右目を閉じながら、腕の中にいるリコとテラパゴスに怪我が無いことを確認し、安堵したように大きく息を吐いた。

 

「よかった……リコが無事で……」

「ぶいっ」

「い、イルマ……血が……!」

 

 安堵するイルマとは対照的に、瓦礫やらサザンドラの噛みつきやらで血まみれなイルマの姿を見たリコは、エクスプローラーズの罠に嵌まってしまっていた幼馴染みが無事であった安堵と、酷い怪我をしているイルマの心配がぐちゃぐちゃに混じりあったような、今にも泣き出してしまいそうな表情を浮かべる。

 

「大丈夫。これくらいなんともないよ……それより、フリードさん達の所へ」

 

 自身のジャケットを破いて擬似的な包帯にして腕と頭に巻き付けたイルマそう言いながら下に視線を向け、サザンドラはゆっくりと高度を下げていく。

 

「リコ!イルマ!」

 

 サザンドラの背から降りた二人のもとへロイ達が駆け寄ってくる。フリード達は包帯を巻いたイルマの体を心配するが、イルマは気丈に「大丈夫です」と答えると、一同は天空に鎮座するレックウザを見上げた。

 レックウザは新たに加わったイルマの登場も大したことではないと思っているのかジッとリコ達を見つめ、イルマはモンスターボールからフクスローとオーガポンを出し、その隣に並んだニャローテ達は臨戦態勢を取る。

 

「──待て」

 

 再戦開始と思われた瞬間、横から聞き覚えのある声が割り込んでくる。

 何事かとライジングボルテッカーズ一同がその声が聞こえてくる方向に目を向けると、“りゅうせいぐん”の着弾によって発生した煙の向こうから、意外すぎる人物が現れた。

 

「ア、アメジオ!?」

 

 そう、そこにいたのは、先程のレックウザ捕獲作戦では唯一姿をみせなかったエクスプローラーズの幹部…アメジオと、その相棒のソウブレイズだったのだ。

 アメジオは、リコ達をチラリと一瞥した後、背を向けて遥か上空のレックウザと向かい合い、ソウブレイズもまた、剣となった両腕を構える。

 

「黒いレックウザは俺がいただく。お前達は引っ込んでいろ」

「きりゅりりり……」

 

 ライジングボルテッカーズを見ずにそう告げるアメジオを見て、レックウザが僅かに反応を示したかと思うと、アメジオは懐からあるものを取り出した。

 それを見て、ライジングボルテッカーズの面々は驚きを露にする。

 

「我が道を貫け!ソウブレイズ!」

 

 アメジオが手にしたそれ……テラスタルオーブが虹色の光を集めると、アメジオはソウブレイズ(相棒)に向けてそれを投げる。

 テラスタルオーブの光を浴びたソウブレイズの体が鉱石に包まれ、弾けとぶと、そこには宝石のような紫の煌めきを放つ体に、頭の上に不気味な笑顔を上げる幽霊の形をした宝石で出来た冠を乗せたソウブレイズの姿があった。

 

「ソウブレイズが……」

「テラスタルした!?」

「しかも、フクスローと同じゴーストテラスタル…!?」

『おいっ!主役と被るのはダメだろ!!』

 

 リコ達がその姿に驚いて(約一体、意味不明な事を言って憤慨していたが)いると、アメジオはパワーアップしたソウブレイズに指示を出す。

 

「“ゴーストダイブ”!」

「ブレイッ!」

 

 走り出したソウブレイズは、前方に出現した闇のゲートに飛び込み、レックウザのすぐそばで出現した出口から飛び出し、剣で切り裂いた。

 

「きゅりりゅりりりりりりりりしぃっ!!!」

 

 テラスタルによって強化された攻撃は、レックウザにも痛みを感じさせる程の物であり、更に何度も斬撃をくらったレックウザは爆発を起こしながら咆哮を上げる。

 それを見て、フリードとバチコは懐を探りながら、リザードンとチルタリスと共に前に進み出る。

 

「勝機があるとすれば……行くぞ、リザードン!」

「リザァッ!」

「やるしかないか……頼めるか、チルタリス?」

「チル…!」

 

 そう言って、二人は同時にテラスタルオーブを取り出し、そこに虹色の光を集束させる。

 

「可能性を越えろ!リザードン!!」

「チルタリス!超絶キュートに行くぜ!!」

 

 同時にテラスタルオーブが投げられ、鉱石に包まれた2体が姿を露にすると、リザードンはパンクなフキダシ型の赤黒い宝石の冠を、チルタリスは雄々しいドラゴンの頭と首と翼を模した宝石の冠を被るチルタリスの姿があった。

 

「“テラバースト”!!」

「“りゅうのはどう”!!」

「グォオオオオオオオッ!!」

「チルーーーーーーッ!!!」

 

 あくテラスタイプに変わったリザードンの赤黒い極太の光線と、ドラゴンテラスタイプに変化したチルタリスの竜の光線がレックウザに襲い掛かり、レックウザは爆発を起こす。

 

「邪魔をするな!」

「こっちの台詞だバカヤロー。先に戦ってたのはこっちだぞ」

「落ち着けよ、言い合ってる暇はないぜ!」

 

 フリードの言葉にアメジオとバチコが上を見上げると、遥か上空にいるレックウザは口内に紫色のエネルギーを溜め込んでおり、もう何度も見たその技…“りゅうせいぐん”の恐ろしさを知るフリード達は指示を出す。

 

「ソウブレイズをリザードンに乗せろ!」

「ッ!?………ソウブレイズ!!」

「チルタリス、お前は距離をとれ!」

 

 翼を羽ばたかせるリザードンとその背中に飛び乗るソウブレイズは同時に爪と剣を構え、チルタリスは大きく息を吸い込む。

 

「“ドラゴンクロー”!」

「“むねんのつるぎ”!」

「“チャームボイス”!」

 

 リザードンの竜の爪と、ソウブレイズの炎の剣、そしてチルタリスの美しい歌声が炸裂し、レックウザは小規模の爆発を起こして“りゅうせいぐん”の発動を中断させられる。

 

 しかし、大したダメージにはなっていないのか、レックウザは尾を動かして背後のリザードンとソウブレイズを叩き落とそうとすると、二体は俊敏な動きでそれを回避しようとするが、空中に飛び出したソウブレイズは弾き飛ばされるのを、リザードンがキャッチし、そのままレックウザの周りを旋回すると、レックウザは“りゅうのはどう”を放とうとするのを、チルタリスが同じく“りゅうのはどう”を顔に当てて中断させると、ソウブレイズはリザードンの背中から飛び出してレックウザの体を駆け上がる。

 

「“シャドークロー”!」

「“テラバースト”!」

「“りゅうのはどう”!」

 

 ソウブレイズは暗黒の刃を、リザードンは極太のレーザーを、チルタリスは紫の光線を放ち、それらを浴びたレックウザは爆発を起こす。

 

「次で決めるぞ!」

「指図をするな」

「なら引っ込め」

 

 軽口を叩き合いながら、三人は技を指示し、ソウブレイズを乗せたリザードンとチルタリスはレックウザに向けて突撃する。

 その時、

 

「…きりゅりりゅりりりりりしぃっ!!!!」

 

「「「ッ!!?」」」

 

 レックウザが、あらゆるものを吹き飛ばさんばかりの咆哮を上げ、その風圧に押されたリザードンやチルタリス、そしてソウブレイズは怯んで動きを止めてしまう。

 リコ達も動揺にその咆哮に気圧されていると、レックウザはその体に青いオーラを纏い、曇り空にあいた穴に向かって飛翔していく。

 

 そして、その姿が見えなくなったかと思うと、天空が一瞬だけ煌めいた後、青い光を纏うレックウザが、遥か上空から一気に突撃してきたのだ。

 

「リザァッ!?」

「チルゥゥッ!!?」

「ソッ!?」

 

 まるで本物の流れ星となったようなレックウザの超高速の突撃に、三体のテラスタルしたポケモン達は反応する暇もなく直撃を受け、テラスタルが解除されて力無く海に墜落していく。

 咄嗟に、フリード達がモンスターボールにリザードン達を戻した。

 

「くっ!なんだあの技は!?」

「“ガリョウテンセイ”だ…!」

「とっておきの技を使ったまでは良いけど……ここまでかよ…!」

 

 険しい表情で、フリード、アメジオ、バチコの三人はレックウザを見上げる。レックウザは三体の猛攻を食らい続けたにも関わらず、殆んどダメージを追った様子がない。

 あまりにも圧倒的な強さを目の当たりにしたリコ達が冷や汗を流していると、ロイのすぐ側から、ズシンズシンと地面を踏み鳴らす音が聞こえてきた。

 

「アチゲータ…!」

「アゲッ!アゲゲゲ…!」

「いいぞ、アチゲータ!お前の力をみせてやるんだ!」

 

 全身に炎を纏い“ニトロチャージ”の構えをとるアチゲータの姿に勇気を与えられ、ロイが相棒を鼓舞する。

 その姿を見たイルマはフゥと息を吐き、スペアの髪紐を取り出して後ろ髪を一つに束ねると、レックウザを見据えながら仲間達に呼び掛けた。

 

「ここでやらなくちゃ、今までの冒険の意味がない……そうだよね?皆!」

『おうっ!!』

「ぽっ!」

「ぶぶい!」

「……ドラァ」

 

 イルマの声掛けに、フクスロー、オーガポン、イーブイは同意するように頷き、サザンドラはイルマを見ずに、レックウザを見据えて低く唸った。

 それを見て、リコも決意を固めてレックウザを見上げる。

 

(ロイもイルマも凄い……ううん、テラパゴスをラクアに連れていくって決めた。私だって、前に出るんだ!もっと前に!)

 

 レックウザの強さを目の当たりにして気圧されていたニャローテは振り返り、リコの瞳に宿る強い光を目にし、笑みを浮かべてレックウザと対峙する。

 

「私はテラパゴスの……皆の力になりたい!」

「ニャッ!」

 

 リコは自身の言葉にニャローテが頷くと同時に、リコ達は自分達のポケモンに指示を出す。

 

「ニャローテ、“マジカルリーフ”!」

「アチゲータ、“ニトロチャージ”!」

「フクスローは“シャドーシュート”!イーブイは“スピードスター”!オーガポンは“スピードスター”を足場にして“ツタこんぼう”!」

「クワッス!お前の“スピードスター”で空を飛んで“みずでっぽう”!」

 

 ニャローテとアチゲータが走りだし、フクスローは暗黒の爪を打ち出し、オーガポンとクワッスはイーブイの放った星の弾幕を足場にして空を走る。

 

「サザンドラは…」

「ドラァッ!!」

「って、聞くわけないよねぇ!!」

 

 イルマはサザンドラにも指示を出そうとしたが、それよりも早くレックウザに突撃していくサザンドラ。

 それらを見たレックウザは“りゅうのはどう”を放ち、ニャローテ達を打ち落とそうとするが、“シャドーシュート”と“みずでっぽう”、そしてサザンドラが放った“あくのはどう”が迎撃する。

 爆発が起きて、爆煙がレックウザの視界を隠したかと思うと、“スピードスター”を足場にしたニャローテとアチゲータとオーガポンがレックウザに攻撃を仕掛けた。

 

「アゲッ!!」

「ぽにおぅっ!!」

「ニャーー!!」

「きりゅ……っ!!」

 

 アチゲータの炎の突進とオーガポンの棍棒の一振りが炸裂したと同時に、ニャローテの葉の嵐が直撃し、流石のレックウザも痛みを覚えるが、オーガポン達が離れた瞬間、レックウザはギンッと目を鋭くし、口内に紫のエネルギーを溜め込むと、それを打ち上げて“りゅうせいぐん”を放った。

 

「クワッ!?」

「サザッ!!」

「クワッス!?」

「サザンドラッ!!」

 

 雨のように振り掛かる隕石に撃たれたクワッスとサザンドラは爆発を起こしながらドットとイルマの前に墜落する。アチゲータやニャローテに比べるとまだレベルが低いクワッスは今の一撃で戦闘不能となり、効果抜群の技を受けた事で相当なダメージを負っており、イルマとドットは彼らをモンスターボールに戻した。

 

 一方で、棍棒で隕石を迎撃したオーガポンは“つるのムチ”でアチゲータを巻き付け、フクスローはニャローテを背に乗せてニャローテと共にリコ達の前に降り立った。

 

「何とか一撃食らわせたけど……」

「決定打にはならない……!」

「やっぱり、テラスタルじゃなきゃダメなの…!?」

 

 リコが悔しげに手を握り締めると、その呟きを聞いたイルマはハッ!と何かを思い出したように目を見開くと、ポケットの中に手を突っ込み、そこから取り出した。

 

「リコッ!!」

「ッ!わぁっ!?」

 

 自分の名を呼ぶイルマの声を聞いたリコが振り替えると同時に、何か丸い物が飛んできて、リコは慌ててそれをキャッチした。

 手の中にあるそれを見てみると、それは、モンスターボールのような形状をした宝石だった。

 

「ッ!これって……!?」

 

 イルマの持つテラスタルオーブ…それを渡されたリコは驚いた表情でイルマに視線を向けると、イルマは腕の傷口を抑えながら、力強い目でリコを見据えた。

 

「テラパゴスの望みを、叶えるんでしょ?」

「!………うん!!」

 

 リコはその言葉に目を見開くが、直ぐに決然とした表情を浮かべて頷くと、イルマから受け取ったテラスタルオーブを握りしめ、レックウザと対峙するように立つニャローテに力強い視線を向ける。

 その視線に気付いたのか、ニャローテはリコの方を振り替える。

 

「行くよ…ニャローテ!!」

「ニャロッ!!」

 

 リコの言葉に、ニャローテは力強く頷きながら再びレックウザの方を向き、リコはイルマから託されたテラスタルオーブを前に突きだした。

 

「ニャローテ、満開に輝いて!!」

 

 その瞬間、手に持っていたテラスタルオーブに目映い虹色の光が集束し、リコは腕を抑えてその光の奔流に耐えると、虹色の光を纏うテラスタルオーブをニャローテに向けて投げ放った。

 テラスタルオーブから虹色の光が降り注ぎ、ニャローテは輝きを帯びた鉱石に包まれる。

 

「ニャーーーッ!!!」

 

 鉱石は弾けると、そこには宝石のようなスター効果(アステリズム)を放つ体に、色とりどりの花が咲き誇る宝石の冠を被った姿をしたニャローテが立っていた。

 

「ニャローテがテラスタルした!」

「くさタイプのテラスタルだ…!」

「スッゲェ!!」

「やった……上手く行ったよニャローテ!!」

「ニャ!」

 

 目映い輝きを放つニャローテに誰もが目を奪われ喜びを露にしているが、何時までもそうしてはいられない。

 リコはニャローテと共に気合いを入れ直して天空のレックウザを見据えると、イルマはロイとキャップに目を向けた。

 

「ロイ君!キャップ!僕たちがリコに繋げるよ!」

「うん、分かった!」

「ピカッ!」

 

 イルマの言葉に頷き、フクスロー、アチゲータ、オーガポン、イーブイ、キャップがニャローテの側に並び立つ。

 

「…きりゅりゅりりりりりしぃっ!!」

 

 それを見たレックウザは咆哮を上げると、ニャローテ達に向けて“りゅうのはどう”を放つが、ニャローテ達は瞬時に前に飛び出して回避すると、“りゅうのはどう”の爆発による熱風を背に受けながら、レックウザに攻撃を仕掛ける。

 

「アチゲータ、“ニトロチャージ”!」

「アゲゲゲゲ…!」

「ピッカピカピカピカピカ…!」

 

 アチゲータが全身に灼熱の炎を、船長帽を脱ぎ捨てたキャップが雷電を纏い、2体は同時に飛び出し、共にレックウザへと突撃した。

 

「アチッ!!」

「ピッカァッ!!」

「…ッ!」

 

 炎と雷の突進が同時に炸裂する。

 それを額で受け止めたレックウザは、二体の突進の威力に仰け反りそうになるのを気合いで耐えようとするが、僅かに押されて後ろに下がる。

 レックウザは口内に波動の力を込め、“りゅうのはどう”を空中にいるアチゲータとキャップに直撃させようとすると、イルマが指示を出す。

 

「フクスロー、“シャドークロー”!」

「くふぅっ!!」

「ッ!」

 

 翼を広げて急接近したフクスローが翼に暗黒の爪を生成し、すれ違い様にレックウザの体を切りつける。レックウザがその痛みに“りゅうのはどう”を止めると、フクスローはそのままレックウザの周囲を飛び回り、叩き落とそうとするレックウザの腕をギリギリで回避しながら何度も爪の斬撃を浴びせる。

 

「注意がそれた……オーガポン!ぶっつけ本番だけど、()()()をやってみるよ!」

「ぽっ!」

 

 相棒のお陰でレックウザが一時的に此方から目をそらしたのをみて、イルマはオーガポンに指示を出し、オーガポンは竈の面を被って赤い姿にチェンジすると、灼熱の炎を纏わせた棍棒を振りかぶる。

 

「オーガポン、“トイフェルフリーゲン”!!」

「ぽにおぉっ!!!」

「きりゅりゅ!!?」

 

 その瞬間、振り抜かれた炎の棍棒から、炎を纏った衝撃波が飛び出し、フクスローに気をとられていたレックウザの顎を撃ち抜いた。

 

「よし!一回オーガポンに提案しただけだったけど、見事に一発成功だ!」

「ぽにおーんっ!」

 

 イルマとオーガポンは互いに喜びを露にする。

 オーガポンは物理に特化したポケモンであり、接近戦では無類の強さを発揮するが、その反面で遠距離に対応できる技が“つるのムチ”しかなく、距離をとられると対応しにくいという弱点があった為、それを克服するために考案したのが“トイフェルフリーゲン”である。

 

「…きりゅりりゅりりりりりりしぃっ!!」

 

 その時、怯んだレックウザは咆哮を上げて紫のエネルギーを打ち上げ、“りゅうせいぐん”を放った。

 

「その技はもう攻略してるよ!イーブイ、“みきり”からの“スピードスター”!」

「ぶいっ!いぶ……ぶいっ!」

 

 それを見て、イーブイは前に出て目を光らせると、周囲に星の弾幕を生成して一斉に撃ち放つ。放たれた星々は隕石に直撃することなく、隕石と隕石の間を縫うように飛び回る。

 

「決めて!リコ!ニャローテ!」

「うん!ニャローテ!“アクロバット”で“スピードスター”を昇って!」

「ニャロ!」

 

 イルマの意図を察したリコはニャローテに指示を出し、ニャローテは軽やかな動きで飛び出し、隕石の合間を飛び回る星の弾幕を足場にして飛び、迫る隕石を避けながら、はるか上空のレックウザに向かっていく。

 

「“マジカルリーフ”!」

「ニャーーーッ!!」

 

ビュオォオオオオオオッ!!

 

「きりゅりゅりゅりりりりりりっ!!!?」

 

 その瞬間、テラスタルジュエルから目映い緑の光を放つニャローテの蕾から輝く葉の暴風雨が吹き荒れ、それを受けたレックウザは、被弾する葉一枚一枚に込められた威力とその勢いに押され、バランスを崩して墜落する。

 

バシャアァアアアアアアアンッ!!

 

 レックウザの巨体が海に墜落し、打ち上げられた海水が雨のように辺りに降り注ぐ。

 

「ニャ…!」

「ニャローテ!」

 

 リコ達の目の前に着地したニャローテは、テラスタルが解除されると同時に膝をつき、リコはフラリとバランスを崩したニャローテに駆け寄りその体を支えて上げたかと思うと、リコ達の前に黒く巨大な何かが現れた。

 

「レックウザ……!」

 

 それは、先程海に墜落したレックウザであった。

 海に落ちたせいで全身がずぶ濡れでポタポタと水滴を落としながらリコ達を見下ろしていたレックウザは、しばしの間ニャローテを支えるリコをジッと見つめる。

 

「…きりゅりりりりりしぃっ!!」

 

 突如、レックウザは大きく咆哮を上げ、空に空いた雲の大穴に向かって飛翔していく。

 空の暗雲が晴れ、テラパゴスが空を見上げるなか、リコ達は安堵の息を吐く。

 

「ニャローテ、ありがとう」

「ニャロ!」

 

 リコがニャローテに礼を言ってニャローテが答えていると、アメジオの元へエアームドに乗ったコニアとジルがやって来る。

 部下二人の心配の言葉を何でもないように答えつつ、アメジオはモンスターボールからアーマーガアを出してから、テラパゴスに視線を向けた。

 

「次はソイツを奪う。そして、黒いレックウザも俺が手に入れて見せる……!」

 

 宣戦布告するようにそう告げたアメジオは、アーマーガアの背中に飛び乗り、アーマーガアはエアームド達と共に空へ飛び去って行き、ライジングボルテッカーズはその背中を見つめていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その後、イルマ達はレックウザと衝突して墜落したブレイブアサギ号が止めてある海辺に向かうと、そこにはボートに乗って避難していたモリー達や船のポケモン達がいた。

 血まみれのイルマはモリーに怪我の治療をしてもらいながら、リコとロイはレックウザをゲット出来なかった事に落ち込んでいたが、フリードの言葉を聞いて再び強くなる決意を固めたリコとロイとイルマ、そしてドットは、フリードから「テラスタルの修行をしてもらう」と言う言葉を聞いて、目を丸くした。

 

「そういえば、師匠」

「ん?なんだよイルマ?」

「さっきからジュナイパーの姿が見えないんですけど……一体何処へ行ったんですか?」

「あっ……そういえば……」

 

 そして、彼らが噂している当のバチコの相棒、ジュナイパーはというと……

 

ジュナァアアアアアアアアアアアアアア(イルマァアアアアアアアアアアアアアア)ッ!!|ジュジュウウウウウウウウウウウウウウ《何処に行ったのよぉおおおおおおおおおおおおおお》ッ!!!」

 

 主人達が死闘を繰り広げていたなど露知らず、瓦礫の山となった建物のなかから、すでにその場から離れたイルマを探していた……

 

 

 

 

 

 そして、イルマとリコは、自分達の家へと続く道を歩いていた。

 明日からテラスタルの修行が始まる為、二人は今日は自宅で過ごすと言うことになり、既に家には連絡をいれているので、帰ってきたら家族が喜んで迎えてくれるだろう。

 

「…イルマ、本当に大丈夫?」

「うん、モリーさんが適切な治療をしてくれたから……まぁ、帰ったらオペラさんが怒るかもなぁ……」

 

 イルマはモリーの治療を受け、頭や腕に包帯を巻いているイルマを心配するリコだが、イルマの答えを聞いて渋々とそれに頷いて俯いた後、意を決して口を開いた。

 

「……ねぇ、イルマ」

「?」

「その……折角だし、少し寄り道しない?ちょっと、話したいことがあるから……」

「……そうだね」

 

 その提案に頷いたイルマはリコと共に帰り道をそれて歩きだし、南5番エリアと呼ばれる場所の草原に腰を下ろした。

 

『…俺ちん達は、あっちにいるか』

「ニャー(そうだね)」

「いぶ(空気は読むものですからね)」

 

 フクスロー、ニャローテ、イーブイは、パートナーと保護者達が二人きりになれるようにその場から離れて行き、何かあればすぐに駆けつけられる程度の距離をとる。勿論、近くの木の影に隠れて覗き見する気満々である。

 

 イルマとリコはそれに気付かず、青々とした草木が生い茂る草原に腰掛け、パルデアの景色を眺める。美しい自然と、野生のポケモン達が自由に遊ぶ姿は、見るものの心を癒してくれる。

 

「……ねぇ、イルマ」

「何?」

 

 やがて、リコは俯きながらイルマに話しかけ、イルマは静かにリコに視線を向ける。

 

「アメリと…いつ付き合ったの?」

「…………えっ?」

 

 その質問に、イルマは間抜けな声を漏らしながら目を丸くしていると、リコは目尻に涙を溜め、膝に乗せた手を握りしめながら言葉を続ける。

 

「……私、この前見たんだ。イルマがアメリにキスしてるのを……」

「なっ!?」

 

 イルマはその事を聞いて、驚愕と同時に顔を赤くするが、兎に角リコが大きな誤解をしていることを察して咄嗟に否定する。

 

「リ、リコ。ひとつ言っておくけど、僕とアメリは別に付き合ってるって訳じゃ…」

「…ッ!嘘言わないで本当の事を言ってよ!!恋人じゃないって言うなら、何でアメリにキスするの!?そんな風に誤魔化しても納得できるわけないよ!!」

 

 しかしそれが火に油を注いだのかリコは声を大きくしながらイルマの方に顔を向ける。リコの水色の目からは涙が溢れ落ちそうになっており、イルマはそれに動揺しながらも、肩で息をする彼女の両肩を掴んで自分に向かい合わせた。

 

「リコ!!」

「ッ!」

 

 イルマの呼び掛けに、リコは肩をビクッと振るわせてイルマの蒼い目を見つめる。少しはリコが落ち着いたのかと思ったイルマは、内心安堵しながら口を開く。

 

「先ずは話を聞いて……リコ、大きな勘違いをしてるから」

「勘違い……?」

 

 そうして、イルマは先日のビーチで起きた一件……海に落ちて呼吸をしていなかったアメリを助けるために人工呼吸をしていたと言うことを話す。

 そして10分後、全て話を聞き終えたリコは……

 

「………////」

 

 羞恥心で顔をグラードンのように真っ赤にし、目に溜めた涙を決壊寸前までにしながら、小刻みに震えていた。

 無理もない。イルマとアメリがキスをしていたのは事実だったが、その真相は立派な人命救助であったのに、自分は事実確認もしないでそれを二人が付き合っているからだと思い込んで暴走し、挙げ句の果てには心中まで考えていたのだ。下手しなくても一生ものの恥である。

 

「………ごめんなしゃい……」

「いやぁ……勘違いは誰にでもあるし、あれは誤解しても仕方ないと言うか……」

「……もう、私はナマコブシになりたい……」

「うん、リコは人間だからね」

 

 イルマは苦笑しながらリコの背中を擦って落ち着かせようとする。背中に伝わる優しく温かい感触が心地よくて、次第に精神が落ち着いていくのを感じたリコは、再び口を開いた。

 

「……その、もう一つ……謝らなくちゃならないことがあるの……」

「?」

 

 リコは再び悲痛そうな表情をしながら、前髪に触れる。

 

「レックウザが現れて私たちがリザードンとチルタリスに乗っている時、いつの間にかヘアピンを失くしちゃったんだ……セキエイ学園の入学が決まった時に、イルマがプレゼントしてくれたヘアピン……ずっと大事にしようって決めたのに……っ!」

「……あ~~~~っ、良かった!」

「えっ?」

 

 再び泣き出しそうになっていたリコは、イルマから返ってきた明るい声に目を丸くしてイルマの方に顔を向けると、リコの前にイルマの手が差し出され、その手の中にあるものを見たリコは目を見開く。

 

「…っ!これ……」

「レックウザを前にしてたから気にする暇がないのは分かってたけど、その後も失くした事について何も言わなかったからどうしようと思ってたけど、拾っておいて良かったよ」

 

 そう、そこにあったのは、L字型の緑色のヘアピン……リコがイルマからプレゼントしてもらった大切な髪飾りだった。少し薄汚れて罅も入っているが、長いこと使ってきたそれをリコが見間違える筈がない。

 リコはそのヘアピンを手に取り、茫然と呟いた。

 

「どこでこれを……?」

「レックウザの方に向かってる時、サザンドラの背中から海岸の近くでこれが太陽の光で光ってるのを見つけて拾ってたんだ。拾った時にボロボロだったから、オペラさんに直してもらってから返そうとしてたんだけど……!?」

 

 そこまで言ったところで、イルマは自分の胸の中に暖かくて柔らかい感触が入り込んできて、目を丸くしたイルマが視線を下に向けてみると、リコが自身の胸に顔を埋め、背中に手を回してきていた。

 

「うぇっ!?リ、リコ!?」

「……イルマッ、ありがとう……」

 

 顔を咄嗟に赤くするイルマだったが、胸の中でリコが嗚咽を漏らしながら感謝の言葉を伝えてくることを聞いて、イルマは優しげな笑みを浮かべながら、赤子をあやすようにリコの頭をポンポンと軽く叩いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 5分後、ようやく落ち着きを取り戻したリコはイルマの胸元から離れると、羞恥心が蘇ってきたのか顔を赤くする。

 

「……落ち着いた?」

「う、うん……ゴメンね。服汚しちゃって……」

 

 胸に顔を押し付けたせいで、イルマのシャツには涙や鼻水のあとがバッチリと残っていた。乙女としては、これは恥ずかしすぎる。

 ふと視線を空に向けてみれば、既に太陽は西に沈みかかっており、東の空は闇色に染まっていっているのを見て、そろそろ帰らなければならないなと思った二人は立ち上がる。

 

「……不思議だよね」

「え?」

 

 その時、イルマが空を見上げながら呟いた。

 

「パルデアは僕達の故郷で、こうして二人で一緒に帰るなんて日常の事だったのに、見慣れた筈の景色が何だか違って見えてくる……」

「……それ、私も思ったよ。ニャオハと一歩踏み出したあの日から、色んな物を見て…世界が一気に広がって見えた」

 

 懐かしげに目を細める二人。

 あの日から全てが変わった。エクスプローラーズにともっこやモモワロウ…危険で大変なことも数えきれない程あったが、どうじにその全てが楽しくて充実した日々だったと言える。セキエイ学園にいたままでは、きっと今ほど楽しくなかったし、オーガポン達やミブリムとも出会わなかった筈だ。

 

「……イルマ、ありがとう」

「え?何が?」

 

 突然礼を言われた事に目を丸くするイルマに、リコはこれまでの冒険で感じてきた思いを吐露する。

 

「恥ずかしい話なんだけど……イルマには、たくさん助けられてきたなって思うんだ」

「そう?」

「そうだよ。セキエイ学園にいた頃はニャオハと上手く行かなかった私にアドバイスしてくれたし、フリード達と初めて出会った日には、船から落ちそうになったニャオハを助けてくれて、モモワロウにレックウザが操られてもうダメだと思った時も、イルマ達のお陰でレックウザを助けられて…さっきだって、隕石がぶつかりそうになったところを助けてくれたもん」

「…あぁ、言われてみれば確かに……でも、あれは僕だけの力で出来たことじゃないんだから、お礼とか言われる必要なんてないよ?」

「それでも…助けられたのは本当だから……本当にありがとう…///」

 

 その言葉を聞いて、確かにイルマはライジングボルテッカーズに加入してから割と危機を乗り越えたと思うが、イルマにとってはそれらの事は自分一人ではなく、フクスロー達やリコ達ライジングボルテッカーズの面々と協力してきたからこそだと思っているので、礼を言われる必要もないと思っていた。

 

「……でも、もっと自分の事も大切にして欲しいんだ。今日だってそんなにボロボロになって……私、イルマに無茶ばかりして、傷付いてほしくないよ……」

「い、いや……それは僕が自分から無茶してるとなじゃなくて……」

「イルマ…お願い」

「……ッ」

 

 真剣な表情で、しかし今にも泣き出してしまいそうな瞳を見て、イルマは息をのみ、無言で頷いた。そして、リコが一応は納得してくれた様子を見せると、こんなにも心配させてしまったのだと反省する。

 話を変える意味合いも込めて、イルマは夕日を見つめる。地平線の彼方に真っ赤に燃える太陽が半分だけ顔を覗かせ、空も海も赤と山吹に染まり、一種の芸術品のような美しさだ。

 

「……でも、お礼を言うなら僕の方だよ」

「?」

 

 冷たさを感じる風に飛ばされそうになった帽子を押さえながら、イルマはリコに視線を向ける。

 

「リコは僕の初めての友達になってくれて、旅に出る切っ掛けになってくれたんだ。そのお陰で、僕は自分の意思を貫くことの大切さを知ることが出来た。リコに出会ってなかったら、きっと僕は……だから僕、リコに出会えて良かったよ」

「…!」

 

 夕暮れの光を浴びながら微笑むイルマの姿に見惚れていたリコは、その言葉を聞いて目を見開くと、その言葉を頭の中で思い返し、自然と笑みを浮かべた。

 

「私も……ずっと同じこと考えてたよ」

 

 優しげな微笑みを浮かべて答える。そしてリコは、見る者を火傷させそうな熱い眼差しをイルマへと向ける。

 

(………知らなかったなぁ……こんな風に…自覚するものだったなんて……)

 

 その眼差しとは裏腹に、リコの心は凪のように穏やかだった。

 包帯を巻いた痛々しい姿のイルマが、今は何処かキラキラして見えて、視線を一瞬たりともそらせなくなる。

 

(イルマが誰かと仲良くしてるのも……キスしたり触れたりするのも……笑顔を向けてくれるのも………私が一番最初じゃないと嫌だなんて……)

 

 リコは自身と目を合わせているイルマの頬を包み込むように手を添える。

 イルマは自身の顔に当てられたリコの手の感触に戸惑っている中、リコはかかとをクッと上げて背伸びをしてイルマの顔に自分の顔を近付けると、目を閉じた。

 

 その瞬間、近くの木の影で様子を伺っていたフクスロー、ニャローテ、イーブイの三体は、目の前の光景に驚きを露にした表情をする。

 

(──私は…イルマの事が、好きなんだ)

 

 やがて太陽は完全に沈む。

 月明かりがパルデア地方の自然を照らして行くなかで、リコの僅かな水気を帯びた柔らかな唇が、イルマの唇と重ねられた。

 

 




・今回の見所

~イーブイ“あなをほる”習得~
 自分がゲームで手持ちのイーブイに使わせていた技。今回はイルマ達のピンチを切り抜けるために習得しました。


~ニャローテ初テラスタル~
 原作よりもちょっとだけ早いテラスタル。最初はイルマくんがオーガポンかフクスローをテラスタルさせる予定でしたが、やはりここは原作主人公のリコが決めるべきだと思ったので。

 
~オーガポンのオリジナル技“トイフェルフリーゲン”~
 “ツタこんぼう”を発動して緑のエネルギー、炎、水流、岩石などを纏わせた状態で振り抜き、纏わせたエネルギーを衝撃波として打ち出して敵にぶつける遠距離技。集中力がいるので発動に時間がかかるのが弱点。
 元ネタは『ONEPIECE』からヤマトの“鳴鏑”。
 名前の元ネタは『魔法少女リリカルなのは』からヴィータの“シュワベルフリーゲン”。シュワベルフリーゲンはドイツ語で「飛ぶツバメ」という意味がある。


~リコ、自覚からのキス~
 元ネタは『双星の陰陽師』第33話にて化野紅緒が焔魔堂ろくろへの好意を自覚して無意識にキスをしたシーン。テラスタルデビュー編からはヒロインが増える予定なので、ここらで自覚させる事にしましたが、さてリコはこれからどうしていくのか。
 因みに前書きでイルマくんがやった中の人ネタは双星の陰陽師に登場する石鏡悠斗の台詞です。



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