魔入りました!入間くん if Episode of ポケットモンスター   作:MTHR

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 今回から新章が始まります。章タイトルの元ネタは『ウルトラマンタイガ』から、工藤ヒロユキがウルトラマンタイガの強化形態フォトンアースに変身する際の掛け声を、サブタイトルは『機界戦隊ゼンカイジャー』をイメージしております。

 最初はそのつもりが全くなかったのですが、読者の皆様方からの感想やpixivのコメントでオリオ、モリー、ドットのヒロイン入りの希望が何度か送られてきた為、三人のヒロイン入りの回を書くことを決めました。ドットは兎も角、オリオとモリーは年齢的に問題ありそうで悩んでいるのが現状です。
 もしかしたら、無自覚にハーレム作りかけたイルマくんがヤンデレ化したリコに刺されるかもだけど……きっと大丈夫!

イルマ「良くないよ!リコが本気で怒ったら……」

リコ「イィィィルゥゥゥゥマァァァァ………」

イルマ「ヒィッ!?」

リコ「聞いたよ……ハーレムってどう言うこと……?まさか、また私が知らないところで女の人……挙げ句の果てにはドットやモリーやオリオまで手籠にする気ぃ……?」

イルマ「ちょっ、誤解!今回は本当に誤解!僕はハーレムとか興味ないし!これはあくまでも作者(MTHR)が読者の要望に応えてるだけで、この作品のメインヒロインはリコだし、ハーレムENDは存在しないから!最初からリコENDだから!」

リコ「問答無用だよ……ちょっと、頭冷やそうか?」

イルマ「あぁあああああああああああああああああああああああああっ!!!!!」

フクスロー『あぁ~……イル坊がリコの嬢ちゃんに連行されて“ピー”されてるので、最後は俺ちん達が終らせるぜ』

ニャローテ「ニャロニャンニャン(新章開幕の第64話)……ニャニャニャーニャンニャ(大きくなってもリコへの愛情は同じ)ニャンニャーンニャニャニャン(ミラクルキュートな草猫ポケモン)……ニャン(真実は)ニャーロ(いつも一つ)!!」

フクスロー『って、お前も中の人ネタやんのかい!!』


輝きの力を手に
64話 キラッと学校ごやっかい!


 天に昇る月の光が地上を薄く照らす。

 南五番エリアと呼ばれる草原で、イルマは自身の身に起きている状況に混乱していた。

 テラスタルの修行が明日から始まる為、パルデア地方出身のリコとイルマは一度自分達の実家に帰って夜を過ごすことになり、リコと共に帰路を歩くなかで、リコの発案で寄り道をして、少し前のアメリの人工呼吸を目撃してイルマとアメリが付き合っていると勘違いしたリコの誤解を解いて、その後に他愛もない世間話をしていたはずだ。

 しかし、何故か今、イルマはリコの柔らかな手を頬に触れられており、リコの顔が近い。今までも何度か間近に顔と顔が接近したことはあるが、今は、下手すれば睫毛と睫毛がくっついてしまいそうな程に近い。そして、唇には水気を帯びた、バカみたいに柔らかい感触が口を塞いでいる。

 

「……ッ!?」

 

 そこで、イルマはようやく自分が陥っている状況を理解して、目を見開く。すなわち、イルマは今、リコにキスされているのだと。

 やがて唇が離され、今だに至近距離にあるリコの唇から感じる燃えるような暑い吐息がイルマの唇と心を擽った。

 リコの顔がゆっくりと離れ、イルマの目にリコの顔全体が見えるようになると、リコは今にも泣き出してしまいそうな、切なさと愛しさが混じった熱い視線をイルマに向けており、その表情を目にしたイルマは、心臓が耳に移動したかのように鼓動が高鳴る。

 

「…なっ……!リ……リッ、コ…!?」

「?」

「いっ、今……キ……」

 

 震える唇を動かして、辿々しく口を開くイルマに、リコは「何か?」と言わんばかりにキョトンとした表情で首をかしげており、イルマは再び口を開こうとするが、恥ずかしさのあまりうまく口を動かせない。

 そして、リコはイルマの言葉と態度に首をかしげていると、自分の行った行動を振り替えるように考え込むと……

 

「……………あっ」

「『…あっ』ってどういう事!?無意識!!?」

「いや…!違っ、これは……」

 

 唇に手を当てて顔を真っ赤にしたリコに思わずイルマがツッコミを飛ばすと、リコは軽く目に涙を溜めて、真っ赤な顔で必死にそれを否定しようとする。今にも顔が爆発しそうである。

 リコとっては、ついさっきまで自分が恥ずかしすぎる誤解をして暴走していたことが判明し、数秒前に幼馴染みであるイルマへの恋心を自覚したばかりだったのに……その勢いでキスをしてしまったのだ。以前ハッコウシティでイルマと事故キスをしてしまっていたが、あれは不幸(?)な事故でありまだギリギリ許容範囲だったが、今のは完全に自分からイルマにキスしてしまったのだ。自覚と同時に無意識で唇にキスをしてしまった彼女の羞恥心は既に天元突破だ。

 

「ごっ……ごめんなさいッ!!!」

「ニャーーッ!?」

 

 その羞恥心に堪えきれず、リコは顔を手で隠して何処かへと走り出した。ニャローテは慌ててリコを追い掛ける。

 

「……」

『おーい。イル坊、生きてっか?』

ぶーい(あんなことがあったら)ぶぶぶいっ(驚くのも無理ないですけど)……」

 

 そして、草原に取り残されたイルマのもとへ、フクスローとイーブイが歩み寄る。

 しかしイルマの耳には、ポケモン達の声は届いておらず、未だに柔らかな感触が残る唇に手を当て、呆然とリコが走り去っていった方向を眺めていた。

 

『…ダーメだこりゃ。完全に気絶してやがる……ブイ嬢、ぽにっ子とキル嬢と一緒にコイツを運ぶぞ』

ぶぶい(言われなくとも)

 

 そして、そのままフリーズしたように動かなくなったイルマを見て、フクスローは彼の懐のモンスターボールを起動し、オーガポンとキルリアと共に、彼を家まで運んでいった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして、羞恥心のあまり逃げ去ったリコは、ニャローテと共に自身の家へと辿り着き、アレックスとルッカに温かく迎えられながら夕食を済ませて自室に戻ると、ボスンとベッドに身を投げ出した。

 しばらくうつ伏せになって倒れていたリコは、先程の光景を思い出し、瞬時に顔を真っ赤に染め上げた。

 

(あぁああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああッ!!!!!!)

 

 途端に、リコはベッドの上で体をゴロゴロと転がした。

 ミブリムは心配そうにリコを見つめ、テラパゴスは首をかしげ、ニャローテは呆れたように溜め息を吐く。リコの気持ちは分からなくもないが、自分からしたことでそんなになるなよ…と思っているのかもしれない。

 

(うぅ~~……!!わ、私は何て事を……!!)

 

 勢いに身を任せてとんでもないことをしてしまったことに、リコは布団を抱き締めて高鳴る鼓動を押さえる。尤も、なんの効果も出ておらず、心臓はバクバクと耳に聞こえるほどにうるさい。

 リコは恋愛に興味がないというわけではないが、自分が恋愛をするなど考えたこともなかった為、普段はあんななのに、いざそうなると非常に初心になってしまう。故に、あれは完全にキャパオーバーだ。もしもディアルガがいるのなら、土下座してタイムスリップをして、過去の自分をぶん殴りたい気分だった。

 

(あぁ~~!明日からどんな顔してイルマにあえばいいの私ぃ~~~~~~!!!!)

 

 その後も、ベッドの上で悶えながら心の中で絶叫するリコ。

 

(リコ……何か変だと思ってたけど、確実に何かあったわね。イルマくんとキスでもしちゃったのかしら?)

 

 リコの母であるルッカは扉の隙間から、そんな娘の奇怪な様子を静かに眺めながら、そんなことを考えていた。

 

 結局、リコのベッドの上でのブレイクダンスが終わって眠りについたのは、時計の短針が3を指している頃だったという。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 翌朝、テーブルシティ。

 パルデア地方の南部に位置する大きな街で、『パルデアで一番大きな町』とも言われている。

 大通りの長い階段を上った先に建てられているのはオレンジアカデミー。創立805年と世界基準でも有数の歴史がある学校とされている名門校だ。

 

「うっは~~!ワクワクするな、アチゲータ!」

「アッ!!」

「テンション高過ぎだろ……」

「クワッスー」

 

 オレンジアカデミ-に続く階段の下で、その広大な校舎を見上げて完成をあげるロイに、ドットが呆れたように呟く。

 ロイの服装は、オレンジのネクタイをつけた半袖のシャツにオレンジ色のズボンを履いており、帽子は何時ものキャップではなくボーラーハットのようなものになっている。ドットは袖の長いシャツにオレンジのネクタイをして、その上に青いノースリーブジャケットのようなものを羽織っている。二人の衣服には共通して、オレンジアカデミーのロゴマークが施されていた。これは、オレンジアカデミーの制服だ。

 

 すると、大通りの方から地面を踏み鳴らすような音が聞こえてきて、二人は訝しげに振り向く。すると、そこには炎を纏った一角獣と、メルヘンチックな一角獣が引く馬車が、物凄いスピードで大通りを走っていく光景だった。

 そして、その馬車はロイとドットの10メートルほど手前で緊急停車した。

 

「うわっ!?何々!?」

「原種のギャロップとガラル地方のギャロップ!?」

 

 当然目の前に現れたこの地方にはいないポケモンが引く馬車に、ロイとドットは目を丸くする。

 すると、停止していたその馬車の扉が開き、現れた男を目の当たりにして、ロイとドットは目を見開いた。

 

「い、イルマ!?」

 

 そう、そこから出てきたのは、ロイとドットと同じライジングボルテッカーズのメンバーであるイルマであった。そして、馬車の御者を勤めていた赤髪の人物──オペラが高らかに声を上げた。

 

「イルマ様の、おなーーーりーーっ!!」

 

 同時に、馬車に備え付けられていたラッパが一斉にプップップー!と賑やかなラッパ音がなり、シャンシャンシャンッ!と鈴の音が鳴り響く。

 オペラは地面に上質な赤絨毯をクルクルと広げ、イルマに一言。

 

 

「どうぞ」

「どうぞでなくっ!!」

『派手だねぇ』

ふぶいふぶいぃ(恥ずかしすぎますよぉ)……」

 

 セキエイ学園の茶色を基調とした制服を身に纏ったイルマが、オペラに大きくツッコミをいれた。その横では、フクスローはゲラゲラと笑い声をあげ、イーブイは耳をペタンを萎れさせながら歩いている。

 そして、イルマは慌てて赤絨毯を避けるようにギャロップが引く馬車を降りると、小走りにロイとドットの元へ掛けよった。当然と言うべきか、テーブルシティの人々が、イルマにチラチラと視線を向けている。

 

「お、おはよう二人とも……」

「おはよう……すっごい登校だったね……」

「アハハ…久し振りだったから、オペラさんも張り切ってたみたいで……懐かしいやら恥ずかしいやら……」

「お前、セキエイ学園に入学する前はどんな生活してたんだよ……」

 

 苦笑しながらも恥ずかしそうなイルマに、ロイも流石に苦笑いし、ドットはイルマの台詞から、前にも同じことが何度もあるのだと察して呆れている。

 その時、イルマ達の後ろから、聞き馴染んだ声が聞こえてきた。

 

「ロイ~ドット~」

「ッ!!!!」

「あっ、リ……コ……?」

「やっと来……」

 

 その声を聞き、イルマは顔を真っ赤に染め上げ、ロイとドットが振り返る。

 その瞬間、ロイとドット、そしてアチゲータとクワッスは、目の前の光景に絶句した。

 

「おはよう、二人とも」

 

 そこにいたのは、セキエイ学園の茶色い制服を着て、浅葱色の狐の獣人のような被り物を被って顔を隠したこの作品のメインヒロイン、リコであった。その隣にいる彼女の相棒であるニャローテは、呆れたように頭を抱えている。

 

 普段のリコをよく知るロイとドットは、リコの登場に硬直していたが、一番最初に復活したロイがおずおずとリコに話しかける。

 

「リ、リコ?どうしたの?その被り物……」

「気にしないで」

「いや、気になるだろ……」

「折角だから着けてみたんだ。これからオレンジアカデミーでの修行が始まるわけだから、気合いをいれて……」

「気合いの入れ方、完全に間違えてるだろ……イルマ、お前も何か……」

 

 若干引き気味のロイとドット。

 だがリコは真面目にしているつもりなのか、自信満々に握り拳を作っており、意味がわからないリコの奇行にドットが頭をガシガシとかきやがら

 

「……」

「って、イルマも!?」

「何処から取り出したんだよ!?」

 

 そこには、“大きなサングラスをかけたような紫色の鮫を模した忍者戦士”のフルフェイスマスクを被ったイルマがいた。

 

「いや、これはその……そう!僕達、普段の服から久し振りにセキエイ学園の制服を着たから、久し振りにこれを被ってみたんだよ!」

「いやいや、イルマそんな仮面を被ってた時期あったの!?」

「か、被ってたよ!イルマはマザーの指示に従って赤い桃太郎のヒーローと戦ってたし、私は狐の顔をして雨の中で自警団に襲われそうなところをヒーローに助けられて……」

「絶対になかっただろそんなこと!一体お前らはなんの話してるんだよ!?」

 

 だんだん訳の分からないことを叫び始めるイルマとリコに全力でツッコミをいれるロイとドット。

 

(よし!これならイルマの顔を見なくても過ごせる!前が見えづらいけど、これで何とかやり過ごそう!!)

(少なくとも、今リコの顔を見たら絶対に平常心でいられない……気持ちが整理つくまで、これで過ごそう)

 

 しかし、イルマとリコは大真面目だった。

 もしもお互いの顔を見ようものなら、羞恥心のあまり顔が爆発するかもしれない。折角これからテラスタル修行が始まると言うのに、それは流石に恥ずかしすぎる。

 尤も、今小の状況の方が何倍も恥ずかしいのだが。

 

『いい加減にせい』

ニャー(その格好でいる方が何倍も恥ずかしいから)

「「ッ!?」」

 

 当然、相棒たるニャローテとフクスローがそんな醜態をさらさせるわけがなく、フクスローは翼でイルマの仮面に向かって刃羽根を飛ばし、ニャローテは蕾を伸ばしてリコの被り物に引っ掻け、二体はほぼ同時に相棒の顔を隠していたものを外させた。

 

「「あっ……」」

 

 その時、イルマもリコの目がバッチリと合ってしまった。

 同時に、昨晩の記憶が鮮明に蘇り、まるで金縛りでも受けたかのように硬直し、ジッと互いの顔を見つめ合うイルマとリコの顔が、下からみるみると赤くなって行き、やがて頭の天辺まで赤くなると、二人は最初から示し合わせたように、ボンッと音を立てながら頭を沸騰させた。

 

「「…あふぅ~」」

「リコ!?イルマ!?」

「おい!なんで気絶するんだよ!?」

 

 その瞬間、イルマとリコの精神は一瞬で許容量をオーバーし、防衛本能に従ってその意識を手放した。

 

『や~~れやれ。前進したのか後退してんのか……』

ニャニャニャニャー(昨日のキスが理由で)ニャニャニャニャニャン(自覚しはしたいだけど)……」

『先は長いってことか……』

 

 その様子に、フクスローとニャローテは深い…それは深いため息を吐いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 数十分後。

 なんとか意識を取り戻したイルマとリコは、ロイとドットと共にオレンジアカデミーの校門の前で集合写真を撮った(イルマとリコは画面の端と端になるくらいに距離を取っていた)後、オレンジアカデミーのある部屋に足を運んでいた。

 

「私が、オレンジアカデミー校長のクラベルです。こちらは理事長の……」

「オモダカです。よろしくお願いします」

 

 オレンジアカデミーの校長室で、ポケットの部分に左右三つずつプレミアボールを着けたオレンジ色のスーツを着込んている白髪に眼鏡をかけた壮年の男性──【クラベル】と、威風堂々とした佇まいとかなりボリュームのある特徴的な髪型をした褐色肌の女性──【オモダカ】が頭を下げて挨拶をすると、リコ達も連れて頭を下げる。

 

「では早速、テラスタル研修の説明を……」

 

 オモダカが室内に設置されたテレビにある映像を写しながら、クラベルとオモダカは説明を始める。

 

 テラスタルとは、現時点ではパルデア地方もキタカミの里のみで発見されているもので、ポケモンが宝石のように光輝き、個々によって別々に、特別な力を手に入れることが出きる不思議な現象。その原因は、リコやイルマも家の周辺で見たことがある光輝く鉱石…パルデア地方の地中から滲み出ているテラスタルエネルギーが関係していると言われているが、あまり詳しいことは分かっておらず、現在も研究が行われているという。そして、そのテラスタルをトレーナーが自分の意思で引き起こすことが出来る為のアイテムがテラスタルオーブ。

 そしてテラスタル研修とは、オレンジアカデミーのバトル学の一つであり、テラスタル修得のために、リコ達以外にも様々なトレーナーが各地方から研修を受けに来るという。

 

「ただこのオーブ、パルデアで認められたポケモントレーナーのみが持つことが出来ます」

「……あれ?じゃあ僕は……」

 

 オモダカがテラスタルオーブを三つ乗せたトレーを持ってリコ達の前に立ってそう説明すると、テラスタル研修を受けていないにも関わらずコネでテラスタルオーブを入手したイルマが首をかしげると、オモダカは苦笑気味に答えた。

 

「確かにそうですね。実際、イルマさんのケースは前例がなかったので、我々もかなり難儀したのですが……サリバンさんと、我が校の生徒会副会長のアメリさんの推薦があったからというのが大きいですね」

「あの、おじいちゃ……サリバンさんって何者なんですか?」

 

 オレンジアカデミー理事長にしてポケモンリーグ委員長としても名高い彼女達にそこまでの影響力を持つ自身の祖父に畏敬の念を抱きつつ尋ねると、クラベルが答えた。

 

「おや、ご存じなかったのですか?サリバンさんは元オレンジアカデミー理事長…オモダカさんの前任者なのです」

「そうなんですか!?」

「えぇ、私やアオキさんも、よく昔はお世話になっていましたよ。まぁ、かなりフットワークの軽い方でもありましたが……」

 

 明かされたサリバンの過去に仰天するイルマ。

 今でもセキエイ学園の理事長を勤めているが、前は自分の出身地の名門校の理事長もやっていたとは…イルマは改めて、自分を拾ってくれた血の繋がりのない祖父のスゴさを実感した。

 

「それではリコさん、ロイさん、ドットさん、これを貴方達に預けましょう。大切に扱ってくださいね」

「「「はい!」」」

 

 リコ、ロイ、ドットの三人はテラスタルオーブを手に取り、まじまじと眺めていると、クラベルが口を開いた。

 

「そうだ……一つ、聞かせてください。貴方達は、テラスタルの力を、何故求めているのでしょう?」

 

 その問いに、一番最初にロイが答える。

 

「僕、必ず、もう一度バトルしたい強いポケモンがいるんです!」

「私…ニャローテ達と一緒に見つけたいところ…見たい景色があります!」

「僕は…知りたいんです。この世界のポケモンの謎、全てを」

 

 続くようにリコ、ドットも答え、クラベルとオモダカの視線が続いてイルマに向けられる。どうやら自分も答えるべきらしいと悟ると、イルマは一度咳払いをしてから答えた。

 

「僕は……自分を見つけたいからです。ポケモン達と強くなって、自分でも知らない僕を見つけるためです」

 

 その言葉を聞いてクラベルとオモダカは頷いた後、クラベルがテラスタル研修の内容の説明を始めた。

 

「研修の内容はシンプルです。まず、これからテラスタルの知識を学んでもらい、その後、パルデアを巡り、ジムリーダーとバトルをして貰います」

「それ、僕もですか?」

「えぇ、イルマさんは既にテラスタルオーブを所持していますが、しっかりと使いこなせるようにして欲しいと、フリード博士とサリバンさんから頼まれましたので」

 

 どうやら、イルマもリコ達と同じ研修を受けるらしい。

 もしかしたら研修を受けさせて貰えないかもと言う不安があったイルマは密かに息を吐いて安堵する。

 

「それでは、教室に向かってください。案内をするのは生徒会長の……」

「失礼します!」

 

 その時、校長室の扉がノックされ、ドアを開けて入ってきたのは、見覚えのある褐色ポニーテールの女性と、パモットが若干大きくなって二足歩行し、額部分が大きくハネているポケモン【パーモット】が入ってきた。

 

「あっ…リコ、ロイ、イルマ!」

「ネモ!」

「「お久し振りです!」」

「久し振り!」

 

 その女性──ネモは表情を明るくしながら駆け寄り、リコ達も彼女の前に歩み寄る。

 ネモは、リコとロイとイルマ…そして、三人の側にいるニャローテ、アチゲータ、フクスローの姿を見て、うんうんと強く頷いた。

 

「うん……実ってるみたいだね」

「パモット!?大きくなってる!!」

「パモ!」

「そう!進化してパーモットになったんだ!」

 

『パーモット。てあてポケモン。でんき・かくとうタイプ。普段はおっとりしているが、いざ戦いになると電光石火の動きで敵を叩きのめす。フワフワの体毛がバッテリーで、電気自動車と同じ量の電気を蓄えることができる』

 

「おや、お知り合いでしたか?」

「はい。以前、ボウルタウンでお世話になったんです」

 

 以前見たパモットから進化していたパーモットがリコ達に挨拶をし、イルマはスマホロトムでパーモットの情報を検索する中、面識がある様子のリコ達にクラベルが尋ねると、リコが黒いレックウザの事だけを隠して簡潔に説明する。

 

「ネモ……本物……チャンピオンランクの……うわっ!?」

「君とは初めましてだね!よろしく!」

「はい……」

 

 一方で、ネモと初対面になるドットに、ネモは顔を寄せながら挨拶をし、ドットは遠慮がちにそれに応じる。

 

「それじゃあ……三人の実りと再開を祝して、バトルしよう!」

「うん!僕も楽しみにしてた!」

「よし!それじゃ早速……」

「校内案内だろう?」

 

 モンスターボールを手に「バトルしよう」と言い出そうとしたネモの腕を掴んで制止の声が掛かる。そして、一同の視線がいつの間にかネモの後ろに立っていた長身の女性に集まり、その姿を見た何人かが笑顔を浮かべ、リコはその姿を見て、複雑そうに表情を曇らせた。

 

「アメリ!」

「あれ?どうしてここに?」

「どうしたもなにも……別の研修生の校内案内が終わったから、書類を持ってくのとついででお前の様子を見に来たんだ」

 

 そう、そこにいたのはイルマのもう一人の幼馴染み…アメリであった。その側には、相棒のグレンアルマの姿もある。

 先程、クラベルとオモダカの説明で、テラスタル研修には各地方からトレーナーがやって来ると聞いていたので、当然ながら自分達以外にも研修を受けにくる生徒達はいる。つまり、生徒会副会長を務める彼女がネモと同じように案内を任されたとしても、不思議はない。

 クラベルに書類を渡した後、アメリはイルマの前に立ち、誰もが見惚れるような綺麗な笑みを浮かべた。

 

「…まさか、お前がテラスタル研修生としてやって来るとはな……イルマ」

「うん、テラスタルの事をマスターするためにって」

「そうか。と、ともかく、お前が来てくれて嬉しいよ。何なら、ネモと私が一緒に案内をしてやろうか?」

「あっ!それいいかも!」

 

 イルマは心底嬉しそうに、アメリは顔を赤らめながら、お互い親しげに話し合う。アメリとも知り合いなのかと尋ねるクラベルとオモダカにロイが二人の関係性を説明し、ドットがネモに並ぶ有名なチャンピオンランクの登場に戸惑い、アメリの提案にネモが賛成の意を示していると、イルマとアメリの話に割り込むものが現れた。

 

「あのっ!案内はネモだけでいいですから!!」

「ん?」

 

 その人物…リコは、イルマの右腕を掴み、自身の元に引き寄せようとすると、そこへイルマの左腕がガシッと掴まれて中断される。

 

「気遣ってもらって悪いな、リコ……だが遠慮はするな。授業開始まで私も暇だからな…!」

「えっ?あの……」

 

 アメリがイルマを引き寄せようとすると、リコは腕を強く掴んで阻止する。いつかのオリーヴァの森のような雰囲気に、イルマは目をパチクリさせる。

 二人のイルマの腕を掴む力が強まる。イルマからすれば、痛い。

 

「「……」」

「あのっ、二人とも……」

「「イルマは黙ってて(ろ)」」

「はい」

 

 尋常じゃない雰囲気に口を挟もうとするが、逆に二人から制止をさせられてしまったイルマは一瞬で折れる。黒いレックウザの威圧感マシマシの咆哮にも屈しない精神をもつ彼でも、この二人の威圧感には勝てなかった。

 校長室に異様な空気が漂い、リコとアメリの間で火花が散る。間に挟まれているイルマや、ロイ、ドットが二人の威圧感に気圧されていると、わざとらしく響き渡るような咳払いが聞こえてきた。

 

「コホンッ、それではアメリさん、貴女にはネモさんと一緒に、我が校の副会長としてこの方々に校舎を案内してもらいましょう」

「「っ!す、すみません!」」

「いえいえ、気にすることはありませんよ」

 

 咳払いで制止を促したクラベルは、アメリの希望通り彼女もネモと共に校舎の案内を任せ、それを聞いて我に返った二人は咄嗟に謝罪をするが、オモダカが気にしてないというような笑顔で答えた。

 リコとアメリの二人の修羅場による威圧感に、クラベルとオモダカ、そしてネモは全く動じた様子がないのは、流石はオレンジアカデミー校長と、パルデア地方が誇るチャンピオンランクとトップチャンピオンということなのだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 そうして、ネモとアメリによる学校案内が始まった。

 

「オレンジアカデミーはね、世界でも有数の歴史のある学校で、ポケモントレーナーに必要な事が学べるところなんだ」

 

 教室では生徒達がポケモンと戯れていたり、図書館では無数の本にドットが興味を示したり、美術室ではイシツブテのデッサンが行われていたり、食堂ではアチゲータが豊富なメニューに涎を垂らしたりと様々な事がありながらも、校内案内は順調に進んでいく。

 すると、ネモとアメリは、目の前に後ろ髪を結んだ金色のワンレングスヘアが特徴的な緑色のジャケットを羽織った人物が誰かと話しているのを見つけた。

 

「ハッサク先生」 

「おぉ、ネモさんとアメリさん。そちらはテラスタル研修の受講生ですね」

 

 金髪の男──【ハッサク】はアメリの声掛けに気づいて振り替えると、すぐ近くにいるリコ達に気が付いて自己紹介をする。

 

「当校で美術を担当しております。ハッサクと言います」

 

 ハッサクが簡潔かつ丁寧な自己紹介をしたかと思うと、先程までハッサクと話をしていた人物が顔を出しながら声をあげた。

 

「まいど!チリちゃんやで!」

 

 ヒョッコリと顔を出して挨拶をしたのは、ツリ眉タレ目の端正な顔立ちをして右側の髪の一部が大きく曲がった特殊なツーブロックの緑髪が特徴的な長身かつ細身の人物だった。

 

「チリさん……ん?」

「すごい人?」

「ポケモンリーグ四天王のハッサクさんとチリさんだよ!」

 

 緑髪の声を聞いたイルマは首をかしげ、ロイはハッサクに注意を受けている【チリ】と名乗った人物をドットに小声で尋ねると、ドットは何で知らないんだと言うように答えた。

 すると、チリはイルマとリコに目を向けた。

 

「その制服、セキエイ学園のやんな?」

「えっ?あっ、はい!リコです!」

「イ、イルマです……」

 

 リコはアワアワしながら名乗り、イルマは未だにチリを凝視しながら名乗ると、チリは面白いものを見るような目を向ける。

 

「ポケモンリーグで活躍しそうな優秀なトレーナーが集まっとるって……」

「そ、そんな!私なんてまだ全然!」

「はい…僕はまだ弱いですし……」

「謙虚やなぁ。特にそっちはあのサリバンさんの孫でチャンピオンランクのアメリがテラスタルオーブの所持を推薦するほど溺愛されとるって言うのに」

「いや、それは……」

「チ、チリさん!!変なことを言わないでください!!」

 

 アメリが顔を真っ赤にしながら声を上げてリコがイルマにジト目を向ける。それを柳に風と受け流しながら、チリはポンッとリコのかたを叩きながら横を通り抜ける。

 

「なんにしても自分等…いわばそこの代表ってことやで。きばりや!」

 

 そう言って歩き去っていったチリを見送る一同。

 リコがチリの言葉を反芻して「私頑張ります」と伝えチリがヒラヒラと手を振るなか、イルマはジーッとチリの後ろ姿を眺めており、それに気づいたロイがイルマに問い掛ける。

 

「イルマ?どうしたの?」

「いや……チリさんってなんというか……オペラさんと声が似てる気がして」

「……あっ!ホントだ!性格全然違うけど似てる!」

 

 イルマの言葉を聞いて、面識のあるリコも喉につっかえていた魚の骨がとれたような感覚を覚える。

 先程言葉を交わしたチリに、イルマは最初から何か既視感のようなものを感じていたのだが、それがチリから聞こえてくる声が、イルマ宅の使用人のオペラとよく似ていると言うことなのなのだ。

 普段はポーカーフェイスなオペラと、表情豊かなチリでは印象があまりにも違うが、二人の口から聞こえてくるその声は、まるで同じ人物が発しているように声質が似通っているのだ。

 

 すると、校舎内に授業開始を告げるチャイムが鳴り響いたことで、イルマ達はバトル学の教師が待機する教室へ向かっていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「では、具体的な研修内容の説明だ!エクササイズ、スタート!!」

「ハリ!」

 

 そうして、教室に向かったイルマ達は、バトル学担当の【キハダ】とそのパートナーの【ハリテヤマ】と共にグラウンドに連れてこられた。

 

「1、2、3!続けて!」

「「「1、2、3!」」」

「なんでこんなことに……」

 

 なぜか相撲の張り手のように手を前に突き出す運動を繰り返しながら、キハダは説明を続ける。

 

「研修はそれぞれジムリーダーのもと、基礎と応用…二つのテストを受けてもらう。さぁ筋肉で覚えよう!」

「やった!二回もジムリーダーとバトル出来るんだ!」

「トレーナーとポケモンがテラスタルの力を正しく使えているかどうか、テラスタルオーブをもつに相応しいトレーナーかをテストする!」

(……アメジオはどうやってテラスタルオーブを手に入れたんだろう?研修を受けてるところなんて想像できないけど……)

 

 張り手を繰り返しながらそんなことを考えるイルマ。

 

「押忍!続いて研修を受ける上で大切なルールだ!1、2!続けて!」

「「はい!」」

「は、はい!」

「はい……」

「研修中は生徒同士でのテラスタルバトルは禁止。ジムリーダーとのバトルで経験を積もう!」

「はい!」

「それぞれ担当するジムリーダーは生徒の適正を見て学校から指示する。まずは基礎テストで担当ジムリーダーとバトルして、合格をもらうこと!覚えたかな?」

「「「はい!」」」

「よし!エクササイズもここまで!押忍!」

「ハリ!」

 

 張り手を続けていたことですっかりバテたリコとドットはヘナヘナと座り込み、イルマは「結局、これはなんの意味が…?」と考える中、新たな声が聞こえた来た。

 

「やっぱりここでしたね。教室にいないから探しましたよ」

「すまん…ジッとしていられなくてな」

 

 やって来たのは、ポケットいっぱいに本を詰めた白衣とよれよれの服を着て足元はサンダルを履いて六角形の眼鏡が特徴的な癖のついた紫色の髪をした青年であった。

 

「どうもどうも、生物学のジニアです。カリキュラムに必要な情報をアプリを配りますね」

 

 その男性、【ジニア】は笑顔で自己紹介をしたあと、スマホロトムを操作して、イルマ達のスマホロトムから着信音が鳴り、オレンジアカデミーのロゴマークがあるアプリ開いてみる。

 

「道中、野生のポケモンと積極的に交流してください。レポートを提出してもらいますから、写真や動画での記録を忘れずに。ファイトですよ~」

 

 そう言って、ジニアは校舎へと戻っていった。

 そして、キハダに促されて、一同は自身が担当するジムリーダーを調べる。

 

「私は、セルクルタウン。カエデさんのジム……どんな人だろう……」

「僕はボウルタウン…ってことは、コルサさんだ!」

「ドットとイルマは?」

「えーっと……僕はカラフシティのハイダイさんだね」

「僕は…ハッコウシティ」

「えっ?じゃあナンジャモさん!?」

「マジかよ…」

 

 どうやら、リコとイルマ以外は以前関わりがあるジムリーダーとバトルするようだ。

 

 そうして、キハダの号令で教室に戻ろうと歩き出すと、後ろから聞き覚えのある声が聞こえてきた。

 

「リコ!?イルマ!?嘘でしょ!?」

「アン!?」

 

 振り返った先にいたのは、セキエイ学園のリコのルームメイトだった少女アンと、そのパートナーのミジュマルが進化したポケモン【フタチマル】であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そうして、一同はグラウンドのベンチに腰掛け、リコはアンと一緒のベンチに座っていた。ニャローテ、フクスロー、アチゲータ、フタチマル、クワッス、イーブイはそれぞれ鬼ごっこをしてグラウンドを走り回っている。

 どうやら、アンもリコ達と同様にテラスタル研修を受けに来たようで、先程アメリが校内を案内していた生徒はアンであったらしい。互いに初対面となるロイとドットに明るく挨拶し、リコを交えて何度か会話した経験のあるイルマは「久し振り」と言いながらアンと挨拶をする。

 

 すると、あることを思い出したアンは面白がるような笑みを浮かべ、リコに小声で話し掛けた。

 

「それで、リコはあれからどうなったの?」

「え?どうなったって……何が?」

「何って…イルマとどこまで進展したのかに決まってるじゃん♪」

「ブフゥッ!!?」

 

 アンの言葉に、リコは盛大に行きを吹き出した。

 小声だった為にアンの言葉が聞こえなかったロイ達は首をかしげるなか、リコは耳まで真っ赤しなった顔で、イルマに聞かれてないよね!?とプチパニックに陥りながらアンに小声で話し掛ける。

 

「な、な、な、ななな何を言ってるの!?」

「え~?だって、二人で旅してたんでしょ?それなら、セキエイ学園にいた頃より一緒にいる時間が長くなってるってことだよね?」

「そ、そんなことは……」

 

 確かにセキエイ学園にいた頃より一緒にいる時間は長かったし、何かと距離が近かったエピソードも多い旅だったが、今の今まで自分が恋愛するなんて考えたこともなく、更にはつい先日イルマへの想いを自覚して勢いのままにキスをしてしまって未だにそれを気にしているリコに、この話は心臓に悪すぎる。

 しかしアンは、リコに更なる爆弾を落とす。

 

「で?何処までいったの?もしかして、キスまでいったとか!?」

「ッ!?」

「ッ!」

 

 アンとしては、度々行っているテレビ通話からリコが入学当初に比べればかなり自分の意見を口に出すようになってきたとは思ってはいたが、流石にそれはないだろうと言う冗談のつもりだった。

 なので、アンの言葉を聞いて頬どころか耳まで真っ赤にし、目尻に涙を浮かべながら「あ……うぅ……」と小さく声を上げているリコと、キスと言う単語だけ耳に入っていたことで顔を真っ赤にして口元を手で抑えているリコを見て、アンの活発な笑顔が始めて唖然とした表情となった。

 

「え?もしかして……したの?」

「あぅぅ……」

「嘘ッ!?ホントにしたの!?」

 

 今にもリコに掴みかからんばかりの勢いで問い詰めるアン。

 年頃の少女にとって、親友の恋バナを聞き逃すなどあり得ないことなのだろう。

 

 その時、リコ達が座るベンチから少し距離をおいた場所から、爆発音が聞こえてきた。

 

 何事かとアン達がその爆音の方向に目を向けると、そこには大きな屋根のついたバトルコートでポケモンバトルが行われており、複数人の生徒がそのバトルを観戦していた。興味が引かれたのか、もしくは無理矢理話を変えようとしたのか、リコ達はそのバトルコートに足を運んで、そのバトルの光景を目にした。

 

「リザードン、“だいもんじ”!」

「リザァッ!!」

 

 そこでは、桃色の髪をした美青年の指示を聞き、彼のポケモンと思われるリザードンが、口から大の字になった強力な炎を相手目掛けて吐き出している光景だった。

 

「嘘!?あれって、アリスじゃん!?」

「えっ?知り合い?」

「うん、イルマのルームメイトだよ。カロス地方にいるって聞いてたけど……」

「あっ、そういえば前にあった時にテラスタル研修受けに行くって……」

 

 バトルを行っていたのは、イルマのルームメイトであるアリスであり、彼と面識のあるセキエイ学園組は驚くが、以前再開したことがあるイルマはその時アリスがテラスタル研修受けにいくと言う話を聞いたことがあったので、ここにいても不思議はないと納得すると、彼とバトルを繰り広げているポケモンとそのトレーナーに目を向けた。

 

「カミツオロチ、“だいちのちから”!!」

 

 リザードンが放った大の字の炎を、地面から吹き出したエネルギーで打ち消したのは、密飴がかけられたリンゴから、鋭い二本角の左側に小さいリンゴが刺さった東洋龍のような細長い体を出しているポケモンだった。

 そして、そのポケモンに指示を出しているのは、ジャージを全開にし、その下は赤いタンクトップ1枚という服装で、前髪をヘアバンドで後ろに括り纏めたオールバックで、唯一右側に一房前髪が残っているという特徴的な、イルマ達と同年代くらいの少年だった。

 

「あのポケモンは……」

 

 バトルを繰り広げるポケモンが何かに似ているような気がしたリコは、スマホロトムを起動してそのポケモンの情報を調べる。

 

『カミツオロチ。りんごオロチポケモン。くさ・ドラゴンタイプ。カミッチュの進化系。7匹のオロチュが密飴で作ったリンゴの中で暮らしている。気紛れなオロチュ達の気持ちが合うと、本来の力を発揮する。真ん中のオロチュが司令塔』

 

 そのポケモン──【カミツオロチ】の情報を調べている中、イルマはそのカミツオロチのトレーナーをジッと見つめている。

 

「カミツオロチ、“きまぐレーザー”!!」

「「「「カミーーッ!!」」」」

「グォオオッ!!?」

「リザードン!!」

 

 カミツオロチは、リンゴの中にいるオロチュ達7匹が顔を出して黄金色のレーサーを放ち、“だいちのちから”によって“だいもんじ”が打ち消された時の爆煙に視界が効かなかったリザードンにレーザーが命中する。

 地面に墜落したリザードンは眼を回して気絶しており、アリスは相棒の元に駆け寄った。

 

「リザードン戦闘不能!カミツオロチの勝ち!」

「……良くやったな、リザードン」

「……フン」

 

 審判が判定を下し、アリスがリザードンを労りながらモンスターボールに戻すと、同じ様にカミツオロチをモンスターボールに戻したオールバックの少年は鼻を鳴らしてアリスを一瞥した後、踵を返して歩き出す。

 

「あっ、待って!」

「イ、イルマ!?」

 

 オールバックの少年が歩き去ろうとするのを見たイルマは慌ててその背中を追いかけ、リコはそれを追いかける。

 イルマとリコがグラウンドの芝生を踏む音が近付いてくるのが聞こえたのか、オールバックの少年は鬱陶しそうな表情で振り替えると、イルマとリコの姿を眼にして、眼を見開いた。

 

「えっ……イルマ!?な、なんで……」

「やっぱり……スグリくん!!」

「えっ!?スグリって……えぇっ!!?」

 

 イルマが呼んだ名前に、リコは驚いたようにその少年──スグリを凝視する。

 そして、確かに目元の隈や目付きも違うが、顔立ちは以前キタカミの里で共にモモワロウと戦った少年…スグリのものであることに気付いたが、リコの知る限りではスグリは大人しそうな少年であり、目の前に立っているスグリとは雰囲気があまりにも異なっており、後から続いてやって来たロイやドットも驚きを露にしている。

 その時、イルマの懐にあるモンスターボールがひとりでに開き、イルマとスグリの間に一体のポケモンが姿を現した。

 

「ぽにっ!」

「オーガポン!」

「ッ!おに様……!」

 

 飛び出したのは、キタカミの里でイルマがゲットしたポケモン、オーガポンだった。

 オーガポンも、キタカミの里でスイリョクタウンの人々を説得してくれた事や、モモワロウを共に倒してくれたことに恩義を感じていたので、再びスグリに会えて嬉しいというようにスグリに笑顔を見せた。

 

「えっと……久し振りに会えて嬉しいよ!どうしてここにいるの?」

 

 そう言いながら、イルマはスグリに手を差し出す。

 

「……交換留学で来ただけ。ジムリーダーと戦って強くなりたいから」

 

 短くそう答えると、スグリはイルマが差し出した手を取らず、再び踵を返して歩き出す。

 

(……やっぱり…オーガポンの事を気にして……)

 

 あまりにも素っ気ない対応に、イルマは差し出した手をそのままにしたまた、オーガポンやリコ達と共に去っていくスグリの背中を見つめながら、寂しそうな眼を向けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その後、夕方になった頃、イルマ達を含めたテラスタル研修生は皆、エントランスホールの受付で職員からキャンプ用の道具を貰っていた。

 

「皆でキャンプか……楽しみだね、アチゲータ」

「そうか……これからテント生活か。憂鬱になってきた……」

「キャンプもいいものだよ?」

「お待たせ!ねっ、最初はどこにする?」

 

 テントを受け取ったリコがやって来てそう言うと、ドットはスマホロトムでパルデア地方の地理を調べる。

 

「セルクルタウンが一番近いみたいだ……リコが一番最初になるけど、いい?」

「私が最初……うん、そうしよう!」

「それじゃあ……リコの次がロイくんのボウルタウン、その次がドットさんのハッコウシティ、最後が僕のカラフシティでいいかな?」

「決まりだ!」

 

 今後メンバーのジムの順番が決定したところで、突如エントランスホールのチャイムが鳴り響いた。研修生が出発の時間となり、エントランスホールにやって来たクラベルが号令を促そうとした時、オレンジアカデミーの入り口の扉が勢いよく開かれた。

 

「おっしゃーー!ギリセーーフ!!」

「いや、どう見てもアウトだ」

「チェッ、オニだる……」

 

 キャップに似たような声質の明るい声と、低い男の声が聞こえてきて、エントランスホールにいた面々は入り口に目を向ける。

 そこには、オレンジアカデミーの女子制服にナマコブシを模したリュックを背負ったピンクの三つ編みの髪をした少女と、オレンジアカデミーの刺繍が入れられた服を着た大柄な男がいた。

 

(あの人達って……)

『チンチクリンは兎も角、あっちのマッチョは無理ありすぎんだろ……』

 

 それを見たイルマは、一瞬でその2人の正体を看破し、フクスローは、年齢的に無理があるように見える変装をしている男に呆れたような目を向ける。見れば、リコ達三人やそのポケモン達もあの二人の正体に気付いたらしく、鋭い目を向けていた。

 

 そしてその二人…オレンジアカデミーの制服に身を包んだサンゴとオニキスは、クラベルの前にやって来て、遅刻したことを謝罪している。主にオニキスが。

 

「お名前は?」

「私はオニ……オニギリです」

「プッ!」

 

 オニキスが出した名前に思わずサンゴが吹き出す。

 

「こっちはサン……サンドイッチです」

「フフ…アハハハ……オニだっさ!……はじめまして!サンドウィッチちゃんで~す!」

(いや、名前適当すぎない?)

『明らかに即興だな……そこまで考えてなかったんじゃねーの?』

 

 まさかの食べ物の偽名を名乗るエクスプローラーズの幹部に、イルマとフクスローはそんな場合でないと分かっていても呆れずにはいられなかった。もう少し良い名前あったんじゃないかと。

 

「オニギリさんにサンドウィッチさんですね……リストにありませんね」

 

 クラベルがスマホロトムで研修生のリストを確認してみるが、即興で出した偽名故にリストに見つかる筈もない。

 

「んな訳ないっしょ。もっとちゃーんと見てみて」

「この制服を身に纏っている以上、修行あるのみの覚悟です」

「また真面目かよ…」

「なんだと?」

「んだと!?あっ!?」

「あっ!?」

「研修生同士仲良く。ルールを守らない人は、不合格ですよ」

「へーい。だってさ」

「仕方あるまい……」

 

 言い合いをはじめようとした二人を諌めたクラベルは、再びスマホロトムに目を向けて首をかしげる。

 

「変ですね。やはりリストには……」

「校長、いかがなされましたか?」

 

 そこへ、新たな声が割り込んできてクラベルがめを向けると、そこには褐色肌に白を基調としたスーツを着た個性的なヘアスタイルの女性がやって来た。

 クラベルはその女性の面識があるのか、スマホロトムのリストを確認しながら口を開く。

 

「リストにない生徒達が……」

「わかりました。……データの不具合ですね。こちらで受け付けます」

「そうですか、助かります」

「それでは二人とも、ついてきて下さい」

「へ~~い」

 

 サンゴが気の抜けた返事をして、二人は褐色肌の教師の後に続いてエントランスホールを後にする。

 

 その後ろ姿をジッと見つめていたリコ達は、三人の姿が見えなくなると、互いに顔を見合わせながら、出発するテラスタル研修生達と共にオレンジアカデミーを出る。

 

「あの二人って……」

「うん、エクスプローラーズの二人だ」

「どういうつもりなんだ?」

 

 エクスプローラーズの幹部に位置する二人が、研修生を名乗ってやって来るという事に、リコ達は真剣な表情で話し合う。

 

「もしかしたら……僕達を監視するつもりなのかも…あわよくば、どさくさに紛れてテラパゴスやロイ君の古のモンスターボールを奪ったり……」

「「…ッ!」」

 

 イルマの推測を聞き、リコはテラパゴスを隠しているバッグを、ロイはリュックにある古のモンスターボールを強く握り締める。

 エクスプローラーズの面々には何度も窮地に立たされ、一度はロイの古のモンスターボールを奪われているのだから、イルマがそう考えるのは自然なことだ。

 

「兎も角、アイツ等の狙いが分かるまで様子見だな」

「そうだね。一応、皆にはこの事を伝えておくよ」

 

 相手の狙いが分からないまま突撃していくのは非常に危険なので、今は二人を警戒しつつテラスタル研修を受けようというドットの提案に頷く三人。イルマは、万が一の時に備え、ライジングボルテッカーズにサンゴとオニキスの事を連絡しておく。

 

 こうして、僅かな不安を胸に引っ掻けながらも、テラスタル研修がスタートした。

 




・今回の見処

~イルマ、テラスタル研修~
 イルマくんだけブルーベリー学園に行く展開など、色々考えてみたのですが、結局良いのが思い浮かばなかったので、イルマくんもリコ立ちと同じスタイルで研修を受けてもらうことにしました。


~イルマとリコの被り物~
 リコ→一般女性
 イルマ→暴太郎戦隊
 どちらも中の人ネタです。


~スグリ~
 作者自身、忘れかけていたキャラ。ぶつけるならこの辺りが良いなとおもったので再登場させました。
 アニポケはゼロの秘宝の後の世界である可能性が高いので、かなり怖いのですが、既に碧の仮面やキビキビパニックをやっているので、思いきりました。


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