魔入りました!入間くん if Episode of ポケットモンスター 作:MTHR
友達がプレイしているのをみてポケポケを始めてみたり、入社試験のための勉強に忙しい日々が多かった為、新年に投稿となりました。
今年から私も社会人で忙しい日々を送ることになると思われますが、これからも頑張ります!
今回はリコのカエデ戦のお話。原作と少しかわっている部分も多いです。
サブタイトルの元ネタは仮面ライダーガッチャードの最終回『キミと僕のCHEMY×STORY』からです。
イルマ「いつもこの小説を読んでくれている皆さん。新年、明けましておめでとうございます。これからも僕達ライジングボルテッカーズはアブノーマルに頑張りますので……」
リコ「2025年も、魔入りました!入間くん if Episode of ポケットモンスターをどうかよろしくお願いします!!」
ニャローテ・フクスロー「『なんだかとっても良いカンジ~!!』」
イルマ「……って、今、ニャローテとフクスロー喋らなかった!?」
リコ「……ニャローテ、フクスロー。その台詞、洒落にならないから止めよう」
テラスタルの力を手にするためにパルデア地方のオレンジアカデミーでテラスタル研修を受けることになったリコ達。
まず最初に向かうのは、リコの研修を担当することとなる【セルクルタウン】でジムリーダーを勤める【カエデ】であり、リコ達はセルクルタウンへと足を進めていた。
そして、オレンジアカデミーを後にしてから数時間後。
夕方にテーブルシティを後にした為に、セルクルタウンに向かう内に夜となってしまい、イルマ達はセルクルタウンへと続く道で夜営することとなった。
『そう、スグにあったのね』
「うん。と言っても、劇的再開とは、言いがたいけど……」
アチゲータの炎で灯した焚き火の近くに腰掛けながら、イルマはスマホロトムで通話をしていた。そのすぐ側では、フクスロー、オーガポン、キルリアがイルマの背中を支えにし、イーブイはイルマの膝の上で丸まって眠っている。サザンドラはボールの中だ。
彼の服装はセキエイ学園の茶色を基調とした制服ではなく、彼の普段着である白いシャツとズボンに黒いネクタイとサスペンダー、そして肩掛したジャケットに白い帽子を被った姿であった。リコやロイも普段着に着替えており、ドットもモリーが選んだ服を着ている。
そして、イルマが通話をしている相手は、つい数時間前に再開したスグリの姉、ゼイユであった。
「やっぱり、ゼイユさんはパルデアに来てないんですね」
『えぇ。アタシはブライア先生……ブルーベリー学園でアタシのクラスの担任の付き添いであちこちの地方を飛び回っててね……スグがパルデアに行くって言った時には、もうブルーベリー学園にはいなかったのよ』
実は、スグリと再開しアッサリとした言葉だけで分かれてから、イルマはもしやと思ってゼイユがオレンジアカデミーに来ていないかと探し回ってみたのだが、何処にもゼイユの姿を見ることは出来ず、以前キタカミの里で交換したゼイユの電話番号を使い、テレビ通話を行ったのだ。
「それにしても……スグリ君、変わりましたよね。何と言うか、堂々としてるって言うか……」
『えぇ、スグの変化には、アタシも心底ビックリしたわよ……』
以前、キタカミの里で共にともっこやモモワロウの事件を解決した時とは明らかに違いすぎる雰囲気や言動に驚いていたイルマだが、どうやら実の姉であるゼイユもスグリのあの変化にはとてつもなく驚いていたようで、画面越しのゼイユは思い悩んだような表情で口を開いた。
『何と言うか、あの子、ちょっと怖いのよ……アンタがオーガポンをゲットして、ライジングボルテッカーズがキタカミの里を旅立ってから、私とスグもブルベリに戻ったんだけど、そしたらスグ、人が変わったみたいに毎日練る間も惜しんでポケモンを鍛えて……アタシともあんまり話さなくなっちゃった』
「それでパルデアに……やっぱり、オーガポンの事が原因で……」
『ちょっ、アンタが気にすることないわよ!』
スグリが憧れていたオーガポンをゲットした自分が原因なのかと表情を暗くするイルマを見て、ゼイユは画面越しに気にすることではないと答える。
ゼイユの言う通り、イルマに着いていきたいと決めたのは他ならぬオーガポン自身であり、その後もオーガポンを諦めきれなかったスグリがオーガポンを賭けた決闘で、イルマは真正面からスグリを打ち倒し、オーガポンをゲットする正統な理由を手に入れたのだ。なので、イルマがオーガポンの事で悩む必要はないと言う。
そう言われれば、確かに話の筋は通っているので幾分か気が楽になるイルマだが、表情はまだ優れない。
(でも、あの時のスグリくんって言わば……長年の夢を横からかっさらわれたみたいなものなんだよね。ロイくんとかを見てるとよりその必死さが分かるし)
理屈で言えばイルマに非など無いが、感情はまた話が違う。
オーガポンと出会うまでのイルマは、これと言って伝説のポケモンへの捕獲欲もなければ、新しいポケモンをゲットする事への欲もなく、そのうちゲットするかもしれないなとぼんやり考えている程だった。旅仲間にして一緒にテラスタル研修を受けているロイが、常日頃からレックウザに勝利してゲットする事を夢見て研鑽しているのを見ていた今のイルマからすれば、スグリの状況を口にすれば、ずっと追いかけていたポケモンを、大して真面目に捕まえようとする意思の無い他人に横からかっさらわれたようなものだ。
しかし、あの時はあれしか選択肢がなかったのだから、もうイルマは溜め息しか出せない。
『その……スグリは色々変わっちゃったけど、あんたは今までみたいに、アイツの友達でいてあげてね!』
何処か縋る様にも聞こえるゼイユの言葉に、イルマは僅かに目を丸くした後、優しげな笑みを浮かべて答えた。
「当然です。だって僕、あの時からスグリ君の事はずっと友達だと思ってますから」
そう答えると、ゼイユは画面越しに『ありがとう』と口にしてから、後は簡単な話し合いをして通話を終わらせた。
イルマはスマホロトムをしまうと、空を見上げた。満天の星々が宝石のように輝いている。それを見ていると、少し落ち込んでいた気分も何だか軽くなる気がして、フゥと小さく息を吐いた。
「…イルマ、大丈夫?溜め息なんかついて」
「リコ……」
その時、不意に後ろから声が掛けられたことで入間が後ろを振り替えると、そこにはいつの間にかリコとニャローテが立っていた。
リコは、イルマの隣に腰掛けると、神妙な顔つきでイルマに話し掛けた。
「その…ゼイユと通話してたんだよね?」
「うん。スグリ君がパルデアにいたから、もしかしてと思ってたんだけど……パルデアにはいないみたい」
「そっか……」
何故かリコは面白くないというような声色で答えたあと、焚き火の炎をじっと見つめる。
イルマはリコの顔を見る。ブレイブアサギ号に乗ってから明るい笑顔がデフォルトになっていた表情は、少し曇っている。ライジングボルテッカーズのメンバーの中で、誰よりもリコと同じ時間を過ごしてきたイルマは、彼女の表情が暗くなっている理由を簡単に察することが出来た為、イルマはリコに話し掛けた。
「…リコ、何だかモヤモヤしてる?」
「えっ?そ、そうかな……」
「もしかして……テラスタル研修で上手く行けるかって不安なの?」
「……うん。多分、そうなんだと思う」
イルマの指摘に、リコは気落ちした様子で答える。
「……ねぇ、イルマってイイネイヌを相手に初めてテラスタルして勝てたんだよね?」
「?そうだけど……」
「どうすれば……そんな風に出来るのかな?」
イルマの指摘通り、リコは明日には辿り着くと思われるセルクルタウンで、テラスタルを使ったバトルを上手く出来るのかと言う不安があった。残りの六英雄と出会いラクアを目指すには、どうしても力が必要で、その為にはテラスタルの力を使いこなす必要がある。だからこそ、この研修に絶対に合格するために、以前からテラスタルを使い、数々の勝利を納めているイルマに助言を求めた。
水を向けられたイルマは顎に手を当て、数ヵ月前にテラスタルオーブを手に入れてからの事を振り返り……
「……いや、特に何もしてないよ」
「……へっ?」
予想外すぎる答えに、リコの目が一瞬だけ点になる。
そんなリコの反応に可愛いと思いつつ、今まで自分がテラスタルを使った際のエピソードを語り始める。
「僕はさ、初めてテラスタルを使った時なんて殆んど勢いだけだったよ。モクローのテラスタイプも知らなかったから殆んど賭けだったし、その他の場面でも行き当たりばったりでテラスタル使ってたよ」
「それなのにあれだけ戦えるんだから…本当に凄いよ……」
そう言って、リコは再び焚き火に目を向ける。
それを見たイルマは、何とか言葉を選ぶように頭を掻いた後、コテンと首を傾げながらリコに話し掛ける。
「悩んでるみたいだけど……リコはもう少しリラックスしてみると良いんじゃない?」
「リラックス……?」
水色の目を向けられたイルマは、蒼い瞳を泳がせて考え込みながら言葉を選んで言葉で伝える。
「ほら、リコもレックウザとバトルする時、僕が貸したテラスタルオーブでニャローテをテラスタルさせたでしょ?」
「そうだけど、レックウザには敵わなかったよ……」
「それは…ほら、いくらテラスタルしたからって無敵になる訳じゃないし」
イルマの言う通り、テラスタルは使ったから無敵になるような万能な能力ではない。実際、テラスタルを熟知しているフリードとアメジオがテラスタルさせたリザードンとソウブレイズもレックウザに負けているのだから。
「コホン……兎に角、あれこれ考えて立ち止まるより、前を見た方が良いよ」
話を変えるために咳払いをしてから、イルマはリコに柔らかい眼差しを向けながら語り掛ける。
「ガラルファイヤーの時だって、ニャオハのアロマで鎮静する作戦ぶっつけ本番だったじゃん。皆もうダメだって思ってたのに、リコだけは諦めずにニャオハと一緒に頑張ったから、ガラルファイヤーが着いてきてくれたんだよ」
「それは……」
「リコも言ってたでしょ。『ポケモンと一緒なら大丈夫』って」
「……」
かつて祖母から送られた言葉であり、自分の心に強く残っている言葉を聞かされ、リコはその言葉を心の中で思い返している。
(そうだ……私は今までニャローテと一緒にいたから、ここまで頑張ってこれたんだ……イルマの言う通り、考えすぎてたのかも……)
不思議と、先程まで胸の中に渦巻いていた不安が消えていったことを自覚し、リコは胸に手を当てる。
イルマはそんなリコの変化を見たイルマは、優しげな表情でリコを見つめる。
「……やっぱり、リコはそうでないと」
「え?」
「さっきみたいに風に悩む顔よりさ……いつもみたいに真っ直ぐなリコの笑顔の方が好きだよ」
「…ふぇっ!?」
その時、突如として優しい笑顔で出されたイルマの台詞に、リコは顔を真っ赤にする。
想いを寄せる相手に、そう言う意味ではないが「好き」と言われたのだ。リコの頭の中は一瞬にしてピンク一色に染まっている。ニャローテはイルマの無自覚な口説き文句に頭が痛いと言うように額に目を置いている。
「明日のテラスタル研修……リコはいつもみたいに構えてれば良いんだよ。リコなら合格できるって確信してる」
「…そう思えるだけの何かが、私にあるんだ……」
「当然だよ。ずっとリコの事を見てきたんだから」
「…ッ///」
再び顔を赤くするリコ。恥ずかしさのあまり、耳の近くに心臓の位置が移動したように錯覚するほど心臓の音がうるさい。
「も、もう寝るね!」
「そっか……おやすみ」
「う、うん!ありがとう!!」
リコは真っ赤になった顔を隠すように、自身のテントに向かって走り、そのままヒュバッ!ドタンッ!と音をたてながら飛び込んだ。飛び込んだ勢いでテントが激しく揺れる。
イルマはその慌てぶりに僅かに驚きを露にするが、緊張で落ち着かないのかなと自己完結すると、自身のテントに入っていった。
「うぅ~~っ!!……イ…イルマが……私の事…好きって……あぅぅ……!」
自身のテントへ逃げ込んだリコは、つい先程イルマに「好き」と言われたことによる羞恥心で、両手で顔を隠して、テントの中をゴロゴロと転がり回っていた。
(やっぱり……私ってイルマの事が好きなんだなぁ……)
仰向けになったリコは、なに考えてるのか分からないと言われていた自分の気持ちを察して親身になって相談に乗ってくれるイルマを想い、潤んだ目でテントの天井を見つめる。
リコの脳裏に浮かぶのは、5歳の頃に母の恩師であったサリバンの紹介でイルマと出会ってから今日までの想い出。
(私……イルマの事が好きだって気づけたけど、どうしたら良いんだろう……?)
ふとそんなことを考える。
リコも恋愛には興味津々な年頃だ。だが、あくまでもドラマや小説と言ったメディアでしか恋愛に触れたことがないリコには、自分が恋愛する時にどうすれば良いのかなんて分かる筈もない。
(やっぱり…告白した方がいいのかな……ッ!!!)
自分で頭の中に思い浮かべたワードで再び顔を沸騰させたリコは、オレンジアカデミーからテントと共に支給された寝袋に顔を埋める。
(私に……物語のヒロインみたいな恋愛ができるのかな……)
イルマは優しい。しかも童顔だが世間一般的に言えば美形の部類に入る容姿をしており、セキエイ学園の理事長の孫で玉の輿で優しい性格も合わさってセキエイ学園にいた頃もアリスと共に女生徒からもかなりの人気を博しており、リコはその度にモヤモヤ(時には殺意を抱いたり…)した気持ちに悩んでいた。
今でこそ、それが恋心から来る嫉妬であると言うことが分かったが、自覚してからどうすれば良いのか…自分なんかがイルマに釣り合うのかと自問自答する。
「どうしたらいいんだろう……私……」
その問いの答えを出せぬままリコは睡魔にしたがって夢の世界へと旅立っていった。
翌日。
リコ達はテーブルシティの隣町にあたるセルクルタウンに辿り着いた。
乾燥した荒野の中心にあるが、その環境を活かしたオリーブ畑に囲まれている活気のある町だ。町の中にはオリーブ畑の近くにいるミニーブや、ヘラクロスやタマンチュラにビビヨン等のむしタイプのポケモンも多く生息している。
「この町のジムリーダーはむしタイプのエキスパートだから、住み心地がいいのかも」
「へぇ~」
「そのジムリーダーさんがいる場所はあっちだよ」
ドットがスマホロトムで空を飛ぶビビヨン達を撮影し、リコとロイが虫ポケモンが溢れる町並みを眺めているなか、イルマはとある方角を指差しながら、目的地がある方角を指し示した。
「イルマ、知ってるの?」
「いや…そのジムリーダーさん、パティシエを兼任しててね。その人が店長として働いてるパティスリー『ムクロジ』にはよく行ってたから」
「鳴る程ね」
ライジングボルテッカーズ1の大食漢の過去に、三人とも大量のスイーツを注文して幸せそうにケーキを食べまくっているイルマの姿を簡単に思い浮かべられる事に苦笑いしつつ、リコ達はパティスリー『ムクロジ』に向かう。
歩いて十分もしないうちに、甘い匂いと共に行列の並ぶ店が目に入り、スイーツ好きのアチゲータやニャローテが、ショーケースに並ぶ色とりどりのケーキに目を輝かせるのを見て、リコ達はジムバトルより先におやつを食べることとなった。
一同はムクロジの2階の席に座り、店員が運んできたスイーツに目を輝かせる。
「これが……」
「ムクロジ名物……」
「タマンチュ・ラ・トルテ…」
リコ達が座るテーブルには、クモの巣とタマンチュラの飾りがあるザッハトルテに似たチョコレート菓子だ。
その後、リコはチラリと別のテーブル席に目を向ける。
「久し振りにここ来たな~♪やっぱり全種類いかないと!」
「……あっちは予想通りすぎて言葉もないよ」
その人物──イルマが座る席には、多種多様なケーキがいくつも並んでいた。
この男、タマンチュ・ラ・トルテだけでなく、ちゃっかりショーケースに並ぶ全種類のケーキを注文しており、リコ達とは別席になっている。イルマと付き合いの長いリコは、こうなることは概ね予想しており、溜め息を吐いたが、イルマはちゃんと全ての品の分の代金を払っている為、仕方なくそのまま好きに食べてさせてやる事にする。
「「「「いただきま~す!」」」」
ポケモン用のケーキをニャローテ達の前に並べ、ムクロジのケーキを頬張る。
タマンチュ・ラ・トルテはしっかりとした甘味の奥に僅かにビターの味がして、知らない味にドットは僅かに頬を綻ばせ、テラパゴス達はあっという間に食べてしまう。
「んー……やっぱりここのスイーツは絶品だよ」
「もう食べ終わったの!?」
「十皿以上はあっただろ!?」
「ロイ、ドット。イルマの食欲はこんなものじゃないから、驚いてたらキリがないよ?」
おやつを食べはじめて一分もしないうちに空になった皿を十皿以上重ねてコーヒーを飲んでいるイルマにロイとドットが驚きを露にするが、幼馴染みであるリコは驚かない。未だにしたに残るスイーツの味に頬を緩ませるイルマの姿を可愛いと思ってしまっているのは乙女の秘密だ。
すると、リコ達の元に、ムクロジのコックコートを着た男がやって来た。
「お客様方、当店のスイーツをお楽しみいただけましたでしょうか?なんて!」
「マードック!」
その店員は、ライジングボルテッカーズのメンバーマードックであった。肩の上には、マホイップがいる。
「なんで!?」
「元気そうだなぁ、皆。ドット、その服似合ってるな!」
「うっさいな。選んでくれたモリーのセンスが良いんだよ。って、そんなことより!」
「マードック、船にいるはずじゃあ?」
「船の修理はオリオに任せて、俺は資金調達。このムクロジでアルバイト中ってわけだ」
「アルバイト……」
(飛行船を修理するだけの金額って、幾らなんだろう…?)
自信満々に語るマードックに、イルマはふとそんな風に考える。船の修理費の他にも、彼等の生活費もあるので、船が直るまでの臨時アルバイトの収益でそれらを賄えるかどうか……そこまで考えたところで、イルマは自分にどうこうできる問題とは思えないので考えるのを止めた。
しかし、資金調達とは関係無しに、マードックもマホイップも心底楽しそうだ。船旅でも毎日絶品の食事やおやつを作ってくれるし、ライジングボルテッカーズに加入する前はミッチェルと共にパティスリーを経営していたと言う話を聞いていた為、パルデアで一番有名なパティスリーで働くことが苦になるはずがないのだろう。
「ちょっと、どうなってんのさ!!」
その時、下の方から、キャップと似たような声質の怒声が聞こえてきた。
イルマ達とマードックは何事かと階段を駆け降りてその場所へ向かっていくと、そこには黒いジャケットに黒の短パンを履いたピンク色の髪のオニゴーリを連れた少女が、ショーケースをバシバシ叩きながらクマのぬいぐるみのような姿をしたポケモン【ヒメグマ】を連れたパティシエに大声で抗議をしている光景が広がっていた。
「オニだるぅ。限定ケーキが食べたくて、わざわざ来たんですけど!?売り切れなんて知らねぇよ!こっちは客なんだから、今すぐ作りればいいだろ!?」
「あらあら、困ったわ~」
エクスプローラーズの幹部サンゴ……もとい、テラスタル研修生のサンドウィッチは、ムクロジのショーケースをバシバシと叩きながら店員に訴える。
「早く作れ!作れ!作れ!作れ!作れ~~!!」
「オニ」
サン…ドウィッチの作れコールに便乗するようにオニゴーリも体を左右に揺らす。当然ながら、店の前で大声で騒ぐサンドウィッチとオニゴーリは、店内にいる店員や、スイーツを食べに来た客達、更には関係のない通行人までもが何事かと周囲の視線を集めている。スイーツを食べに来た客達は引き気味だ。
騒ぎを聞いてそんな光景を目にしたリコ達。ドットは絵に描いたようなクレーマーっぷりを発揮するサンドウィッチに呆れ、イルマは少し前に海のディグダ饅をタダで貰った時にサンゴに変な因縁つけられた記憶を思い出してげんなりしている中、リコとロイは互いに顔を見合わせて、サンドウィッチに声をかけた。
「ねぇ、止めなよ」
「店員さん、困ってますよ」
「あぁ、何だぁっ!?あっ、お前ら……」
今度はリコ達にギロリと視線を向けようとしたサンドウィッチは、リコ達の姿をとらえると、目を丸くする。
「サン…ドウィッチさん……」
「なんでここに?」
「決まってんじゃん。パルデアに来たんだから、タマンチュ・ラ・トルテ食べに来たんだよ」
口振りからして、嘘ではなさそうだ。というか、リコ達の監視が目的なら、わざわざ店の前でクレーム起こして目立つ必要がない。相変わらず、この女は組織に身をおく者としては些か自由すぎる。
「あぁっ、美味しk」
「それはNG!絶対面倒なことになる!!」
サンドウィッチのお目当ての味を思い出して感想を言おうとしたロイの口を、一度彼女から食べ物の恨み(というなの理不尽な八つ当たり)の被害を受けた経験から、目の前の女の、色んな意味での厄介さを知るイルマが塞ぐ。
そんな中、マードックはテラスタル研修開始日に、イルマからサンゴとオニキスがテラスタル研修を受ける為に来ていると言うことを聞いていたので、ドットと小声で話し合ったあと、サンゴの前に歩みでた。
「カエデさん、自分が代わりますよ。さっ、悪いが今日のところは……」
「あっ!カエデさんって……」
マードックが声に出したサンドウィッチに怒鳴られていた店員の名前にリコが反応すると、その店員が振り替える。
虫の繭のように編み込まれた後ろ髪に、ややふっくらした体形と左頬のほくろに、エプロンに飾られた蜘蛛の巣が特徴的で、帽子や袖にもアリの触角のような模様がついている。コックコート姿の女性に、マードックは何故か得意気に紹介した。
「あぁ、この人がムクロジ店長にしてジムリーダーの……」
「どうも、カエデです~。セルクルタウンへようこそ~」
お淑やかで間延びした口調で名乗りを上げる女性【カエデ】と共に手を振るヒメグマ。
「は、はじめまして。リコって言います」
「ロイです」
「イルマです」
「ドット……」
「はいは~い。お話は伺っていますよ、リコさん。早速始めましょうか」
「っ、はい!頑張ろう、ニャローテ」
「ニャー!」
一瞬、テラスタルのバトルをしなければならないことに躊躇するリコだが、昨晩イルマから言われた事を思い出し、脳内で握り拳を作りながら相棒と目を合わせて声をかけると、ニャローテはヤル気満々の表情で「勿論!」と言うように頷いた。
しかし、いざ始まろうとしたバトルに横槍をいれるものが現れた。言うまでもなく、サンg…サンドウィッチだ。
「おい、待てよ!バトルだったら、このサンドウィッチちゃんにやらせろ!」
「えっ?」
「折角ここまで来たんだ。派手に暴れなきゃ腹の虫が治まんねぇの!!」
タマンチュ・ラ・トルテを諦めた代わりに、今度はストレス発散を要求してくるサンドウィッチに、カエデは眉を下げた。
「あら…今日はお店の事もあるし、お相手できるのは一人かしら」
「ならまずコイツとバトルだ!そんで勝った方とバトルしやがれ!!」
「おいおお、あんまり無茶を言うもんじゃ……」
「うっせぇ。おっさんは黙ってな」
口を挟もうとしたマードックを鬼の形相で睨んで黙らせるサンドウィッチ。
「……ダメだ。あの人、常識の概念が僕達の理解のそとにある」
『社会に出たら真っ先に痛い目に遭いそうなタイプだな』
「えーっと……この場合、どうすれば……」
その様子に、イルマは珍しく毒を吐きながらフクスローと共に呆れ、食べ物の恨み(八つ当たり)が発動した時の面倒さを知らないリコはどうすれば良いのかとている中、カエデが声を上げた。
「まぁまぁ、落ち着いて。では、こうしましょうか。お二人にはバトルの代わりにケーキを作ってもらいま~す」
「「えっ、ケーキ!?」」
カエデの提案に、リコとサンドウィッチだけでなく、イルマ達も目を丸くした。
そうして、イルマ達はムクロジの一室に招かれ、カエデやイルマ達が見守るなか、リコとサンドウィッチは様々な調理器具や材料が並べられた調理台の前に立っていた。
「まさかケーキ作りで対決とはな」
「まぁ、バトルにならなくて良かったけど……」
「リコ、頑張れ!」
誰も予想しない展開になったが、これならばバトルより勝機はあるとイルマが頷き、ロイはアチゲータと共にリコを応援。
「リコってケーキ作れんの?」
「ん~……人並みに料理は出来るし、パルデアにいた頃も何度かクッキーとか簡単なお菓子は作って食べさせてもらってたけど……ケーキはなかったよ……」
「大丈夫。前にリコに頼まれて教えたことがあったからな」
「へぇ~。そんな事が」
(な、なんか私の恥ずかしい記憶が暴露されちゃったような)
以前、ワイルドエリアで自作のカレーをイルマに誉められたことで料理の腕を上げてみようと教わった時の話をされ、リコは顔を赤くするが、意識を切り替える。
「ニャローテ、一緒に頑張ろう!」
「ニャロ!!」
調理器具を手にする二人を目にし、カエデはヒメグマと共に手を上げながら、調理対決の開始を宣言した。
「それじゃあ、始め!」
「ヒメ!」
そうして、2人のケーキ作りが始まった。
リコはボウルに卵を割りほぐし、グラニュー糖と水あめを加えてハンドミキサー(又は泡立て器)で泡立てたり、出来上がった生地を型に流し入れてオーブンで焼き上げると、ケーキにクリームを塗っていくと、仕上げにニャローテが小さく“マジカルリーフ”を使うことで何時かのマードックのケーキ対決の時のようにデコレーションしていく。
「出来た!」
「ニャーロ!」
「リコさんは仕上がりましたね。サンドウィッチさんはどうでしょう?」
両手を上げて喜びを露にするリコとニャローテに、イルマ達は「おぉ~」と喝采。
カエデの言葉を聞いたリコ達は、抹茶ケーキに夢中で相手の動きを見ていなかった為、ライジングボルテッカーズ一同は相手がどんなケーキを作っているのかと顔を強張らせながらサンドウィッチの方を振り向くと……
「…………あぁ、もう無理!分っかんな~~い!!!」
(((要らない心配だったーーー!!!)))
「ぜんぜん出来てないじゃん」
「そうなの?」
サンドウィッチの手元には、クリームやら生地やらがグチャグチャになった物体に木の実が無理矢理つけられたケーキ?があり、クリームや生地を体につけたサンドウィッチが激昂した様に叫ぶと、リコとロイとマードックが心の中でシャウトする。その隣ではドットが率直な感想を述べ、サンドウィッチを越えるダークマターを創造する能力を有するダークネスシェフ・イルマは本気でドットの言葉が分からないという様な顔でキョトンと首をかしげる。
「うっせぇな!オニゴーリが手伝わないからだぞ!!」
「オニ……」
「おぉ…遂にパートナーにまで八つ当たりしたよ」
「オニゴーリにどうしろって言うんだよ……」
ドットの言葉に激昂したサンドウィッチの怒りの矛先を向けられたオニゴーリは困り顔。氷タイプの、しかも顔面しかないオニゴーリにケーキの生地やクリーム作りで手伝えることなんてあるのかと呟くイルマとドットだけでなく、リコ達も、オニゴーリに同情するような視線を向けた。
「こうなりゃやけだ!“ふぶき”で、かき氷にしちゃえ!!」
「オニーーーー!!!」
すると、突如としてオニゴーリが口から猛烈な氷の息吹を放ち、室内は一瞬にして凍り付く。
室内の温度は一気に氷点下にまで下げられ、サンドウィッチのケーキは瞬く間に氷の塊となり、イルマ達はガチガチと一塊に集まって身を震わせ、リコとニャローテは雪を頭に乗せて身を震わせ、その光景を見たサンドウィッチは笑い声を上げる。
「アハハハハ!どうだ!?」
「サンドウィッチさん……」
その時、背後から声を掛けられたサンドウィッチは、穏やかな笑顔を浮かべながら目は全く笑っておらず、とてつもない威圧感を放つカエデの姿を見て、顔を青くする。
「お菓子は、むしポケモンと同じです。小さくても大きな力を持っています。小さくても大きな幸せを込めるため、丁寧に膨らませるんです。出直してきなさ~い」
「あっ……か、帰る!!」
カエデの迫力に完全敗北したサンドウィッチは、ツカツカと靴音を鳴らしながら退室し、オニゴーリは巨体故に部屋を出られなかったのをサンドウィッチがモンスターボールに戻すことで退室させる。
「と言うわけで、勝負あり。リコさんに基礎テストを受けてもらいます」
部屋の温度が戻り、ホッと息を吐くリコ達に、カエデはもとの穏やかな笑みを浮かべながらリコに声をかけた。
ムクロジの屋上に設置された緑色のバトルコートの上に、リコとニャローテ、そしてヒメグマを抱えたカエデが立つ。
「それではリコさん。私のあま~いバトルで、おもてなしいたします」
「よろしくお願いします!」
ニコニコと穏やかな笑みを絶やさないカエデの言葉に、バトルを見守るイルマ達は首をかしげる。
「あま~いバトル?」
「手加減してくれるってこと?」
「えっと…わざわざそんなことする必要あるの?」
「カエデさんを甘く見るなよ。彼女のバトルには、ビターが香る」
「確かに、むしタイプのジムリーダーなら、ニャローテは不利か……」
外野がそう話していると、カエデは抱えていたヒメグマをバトルコートに降り立たせた。
「クマちゃん、いってらっしゃい」
「ヒメ!」
かわいい笑顔を浮かべながらバトルコートを歩くヒメグマを見たリコは、前に出るニャローテを視界のはしに入れながらスマホロトムでヒメグマを検索する。
『ヒメグマ。こぐまポケモン。ノーマルタイプ。手のひらに甘い蜜が染み込んでいる。不安な時は手のひらを舐めると元気になる』
「ノーマルタイプ?」
「あんなかわいいポケモンなら、リコいけるよ!」
「見た目で判断すべきじゃないと思うけど……」
リコのスマホロトムの図鑑説明を聞いたドット達が口々に話すなか、カエデはテラスタルオーブを手に、リコに話し掛ける。
「テラスタルとは、すなわち羽化。ポケモンの持つ大きな力を引き出してくれるんです。あなたは、そのパワーを上手く使えることが出きるかしら?」
その言葉と共に、カエデは手を振り上げる。
「テラスタル研修、バトルスタート!!」
その腕を振り下ろすと同時に、先ずはリコが声を上げる。
「いくよニャローテ、“でんこうせっか”!」
「ニャ!」
先手を取ったニャローテは目にも止まらぬ速さで走り出す。
右へ左へとヒメグマを翻弄しながら迫るニャローテに、カエデはヒメグマに指示を出す。
「クマちゃん、“あまえる”!」
「ヒメメメメ……♡」
「ニャッ!?ニャ……」
ヒメグマが、満々の目をウルウルさせてニャローテを見据えると、ニャローテは慌てて足を止め、コツンと優しくヒメグマの頭を小突いた。以前イーブイがブラッキーにたいしても行っていた戦法と同じ、相手に手加減をさせる技だ。
「私のヒメグマちゃんは、とっても甘え上手なんです。だけど……“きりさく”!」
「ヒメ…!ヒメッ!!」
「ニャロ!?」
悪どい笑みを浮かべたヒメグマは、展開した鋭い爪を振るい、ニャローテの体を切り裂いた。堪らず、フィールドに倒れるニャローテ。
「ビターなところもあったり?」
「ッ!ニャローテ、下がって!」
接近せんは不利だと判断したリコは、ニャローテにヒメグマから距離を取らせる。
「だったら、距離を取って攻撃すれば……」
「クマちゃん、羽ばたいて!」
「ヒメ!」
リコがそう呟いたところで、ヒメグマはその丸っこい手を翼のように広げてパタパタと上下させる。周囲に甘い香りが漂い、リコから指示を受けて“マジカルリーフ”を発動させようとしたニャローテは、その香りを嗅いだ途端、フニャフニャと姿勢を崩した。
「いい匂い……」
「ホントだ。甘い香りがする」
「これって…!」
「あま~い香り。とっても幸せな気持ちになりますね」
ドットがこの現象のカラクリを見抜く。
図鑑にもあった、ヒメグマの手に染み込んだ蜜を使った“あまいかおり”でニャローテを和ませ、集中を乱したのだ。現に、リコが注意を飛ばしても、ニャローテはほんわかしていて反応がない。
「クマちゃん、“きりさく”!」
「ヒメッ!!」
「ニャーーッ!?」
再び爪による斬撃に襲われ、ニャローテは尻餅をつく。
「……強いね、あのヒメグマ。接近戦なら“あまえる”で近付いてきた相手を手加減させた隙を狙って、遠距離戦なら“あまいかおり”で集中が乱されて動けない。そしてあの“きりさく”の攻撃力……これを攻略しないと、リコとニャローテは勝てないよ」
「これが……」
(カエデさんの甘いバトル…どうしたら……)
イルマの解説を聞きつつ、何度もヒメグマの“きりさく”を食らったニャローテを見ながらリコは頭をフル回転させる。
「そろそろ仕上げかしら?クマちゃん、“あまいかおり”で満たして!」
「ヒメメメメメ……」
「ニャローテ、“マジカルリーフ”!」
「ニャッ!」
再び“あまいかおり”を周囲に撒き散らすヒメグマに、ニャローテは葉の嵐で迎え撃ち、何とか香りを相殺させるまでだった。
「“きりさく”!」
「ヒメ!」
「ニャーーッ!?」
「ニャローテ!!」
フィールドに倒れるニャローテにリコは悲鳴を上げ、ロイ達は不安を露にする。
リコも、このままてまは不味いとグルグルと思考を巡らせているなかで、とある記憶が呼び起こされた。
『あれこれ考えて立ち止まるより、前を見た方が良いよ』
昨晩、想いを寄せる幼馴染みから掛けられた言葉。リコは大きく深呼吸して気持ちを落ち着かせると、ニャローテに声をかけた。
「ニャローテ!」
「ニャ?」
「私を見て、私と一緒にバトルして!ニャローテ…2人で思いっきり、バトルを楽しもう!!」
「ニャ……ニャッ!」
互いに力強く頷き合い、ヒメグマと向き合うニャローテを見たイルマは、自然と口角を吊り上げた。
「二人の目が…変わった」
「え?」
「どう言うこと?」
その呟きにロイ達が首をかしげる間にも、カエデとリコのバトルは佳境に入っていく。
「クマちゃん、もう一度“あまいかおり”」
「ヒメメメメ…」
再び“あまいかおり”を発動させ、蜜が染み込んだ手をパタパタさせるヒメグマを見て、リコは鋭く指示を飛ばした。
「ニャローテ、自分に向けて“マジカルリーフ”!!」
「ニャッ!」
「「「「「ッ!?」」」」」
リコが出した指示に目を見開くイルマ達。
ニャローテは蕾を伸ばして回転させると、そこから発生した葉の嵐が空に飛び、そのまま技を放ったニャローテ自身に振りかかったかと思うと、ニャローテの身の周りが、葉の嵐で包まれた。
「“マジカルリーフ”がニャローテの周りを囲って、“あまいかおり”を防いでる!」
「でも、あれじゃあ“マジカルリーフ”を維持するために動けなくなるよ」
「そんなもの、クマちゃんの“きりさく”で……」
「ヒメ!」
爪を展開したヒメグマが飛びかかる瞬間、リコは鋭く指示を飛ばした。
「ニャローテ、蕾でヒメグマの腕を捕まえて!」
「ニャッ!!」
「ヒメッ!?」
「あら!?」
突如、葉の防壁に包まれていたニャローテが、蕾をヨーヨーのように飛ばした。それを察知できなかったヒメグマは、壁を突き抜けて向かってきた蕾の蔓に爪を展開した右腕を巻き付けられ、強制的に技を中断させられた。
「今だよ!“アクロバット”!!」
「ニャロッ!!」
「ヒメェッ!!?」
そこへ、ニャローテが軽やかな動きで、ヒメグマに強烈なキックを炸裂させ、右腕を取られて思うように動けなかったヒメグマは蹴り飛ばされた。
「これは……」
「…そっか!最初に“マジカルリーフ”で防壁を作ったのは、ただ“あまいかおり”を防ぐだけじゃなくて、ヒメグマの視界を遮るためだったんだ!防壁を壊そうとヒメグマが近付く瞬間、ニャローテと同じ緑色の葉っぱで手元が見えないヒメグマは、ニャローテの拘束を見切れなかったんだ!」
「凄いよ、リコ!」
「いいぞ!リコ!!」
ギャラリーが沸き上がるのも耳に入ってこない程に集中したリコは、次いでテラスタルオーブを取りだし、それを構える。
「ニャローテ!満開に輝いて!!」
「ニャーーーッ!!!」
掛け声と共に、リコが光を放つテラスタルオーブを投げると、頭上に降り注いだ光がニャローテを鉱石で包み、それが弾けると、内側から緑の光沢を放つ体に、花束を模した宝石の冠を乗せたニャローテが現れた。
リコは、再びテラスタルを成功させられたことに笑みを浮かべながら、ニャローテに指示を出す。
「“マジカルリーフ”、いっぱい!!」
「ニャロッ!!」
その瞬間、ニャローテが操る蕾から、通常のリーフストームをも越える程の、莫大な葉の嵐が吹き荒れる。
「ヒメーーッ!!?」
「あら、あらあら」
その葉の嵐の直撃を受けたヒメグマは、カエデの前まで吹き飛ばされて倒れる。確かなダメージを受けていたが、ゆっくりと起き上がるのを見て、カエデは穏やかな笑みを浮かべたまま、あるものを取り出した。
「どうやら、お砂糖が多すぎたようですね」
「ッ!」
カエデが取り出したのは、リコが使用していたものと同じテラスタルオーブであった。
そのテラスタルオーブに、虹色の光が収束する。
「サナギを破り、強く大きく育ちましょう!」
光輝くオーブを投げると、テラスタルオーブの光を浴びたヒメグマは鉱石に包まれて弾け、中から気緑色の光沢を放ち、虫の触覚と翅を模した冠を被ったヒメグマが現れた。
「むしタイプのテラスタルだ…!!」
「ッ!ニャローテ、気を付けて!」
テラスタルの真髄。それは、テラスタイプ次第で本来のタイプを変えることが出来ること。くさ・ひこうタイプでありながらゴーストタイプになるフクスローや、お面でテラスタイプを変更できるチート性能のオーガポンを見てきたリコは、くさテラスタイプのニャローテが苦手なむしテラスタイプとなったヒメグマを見て、警戒を露にする。
「クマちゃん、“れんぞくぎり”!!」
「“マジカルリーフ”で牽制して!」
黄緑色に光る爪で切りかかるヒメグマに、ニャローテは莫大な葉の嵐を放つ。攻撃ではなく相手を翻弄するために放ったそれにたいし、ヒメグマは微塵も動じない。
「ヒメッ!!」
「ニャッ!?」
「なっ!?“マジカルリーフ”を切り捨てた!?」
なんと、ヒメグマは笑顔のまま、展開した黄緑色の爪を何度も振るい、ニャローテの“マジカルリーフ”を切り裂きながら突き進んでいるのだ。
「ヒメッ!」
「ニャーーー!!?」
「ニャローテ!!」
そして、爪による一撃がとうとうニャローテに炸裂。既に何度も“きりさく”を食らった後に効果抜群のむしタイプ技を受けたニャローテは堪らず吹き飛ばされ、意識を失い……
「……ニャッ!」
「ニャローテ…!」
「あら……」
…そうになったところで、目を見開いて、しっかりと足で立って踏みとどまった。しかし、ニャローテも限界となるギリギリの所で耐えたようであり、呼吸は荒い。
それを察したリコは、一か八かの賭けに出た。
「(次で決めないと、負ける…!)ニャローテ、地面に“マジカルリーフ”いっぱい!!」
「ニャーーー!!」
「ヒメッ!?」
ニャローテは、フィールドに向けて三度目の莫大な葉の嵐を放つ。フィールドに反射されて空へ立ち上った葉の勢いに、むしテラスタイプとなったことでくさタイプの技が利きにくくなっているヒメグマも、ダメージにならずとも怯んでしまう。
「(怯んだ!)ニャローテ、“アクロバット”!!」
「ニャロッ!」
「クマちゃん、“れんぞくぎり”!」
「ヒメ…クマッ!!」
リコはその隙を狙い、テラスタルで強化した技ではなく効果抜群となる飛行技を指示。ニャローテは軽やかな動きで飛び出し、“マジカルリーフ”の勢いに押されたヒメグマは一瞬で体勢を整え黄緑色の爪を出して切りかかる。
ほぼ同時のタイミングで走り出した2体。しかし、リコはニャローテの動きに違和感を感じた。
「ニャッ!」
「ニャローテ…!?」
「なんか、いつもより速くない!?」
「“つばめがえし”だ……」
「ってことは、新しい技を覚えたんだ!!」
ヒメグマに向けて疾走するニャローテの速度は、“でんこうせっか”にも匹敵する素早い動きであった。ニャローテの手が白く発光する。それを見たドットが、その技がひこうタイプの技“つばめがえし”であることを看破し、イルマ達はニャローテがこの土壇場で新しい技を覚えたことに驚きを露にする。
そして、ヒメグマと爪と、ニャローテの白く光る手刀が、相手の体にぶつかり合った。
「ニャ…ッ!」
「ヒメ……ッ!」
お互いに効果抜群の技をくらい、ニャローテとヒメグマは数歩ずつ後に下がったあと、ドサッと音を立てながら仰向けに倒れた。2体とも目をグルグルにして気絶している。
「ニャローテ!」
「ニャ……」
リコは慌ててニャローテに駆け寄ってその体を抱き起こす。結果は引き分けに終わったが、二人の顔は晴れやかだ。
だが同時に、引き分けに終わったこのバトルで、テラスタル研修の合格がもらえるのかと不安を抱いたところで、カエデの拍手が耳に入った。
「は~い。合格です」
「えっ?」
目を丸くするリコに、ヒメグマを抱き上げたカエデが説明をする。
「テラスタル研修に、バトルの勝ち負けは関係ありません。私が見たかったのは、『今、この瞬間に心を込められるか』です」
「心を……」
「パートナーと息ピッタリ。心を込めてバトルに挑めましたね。見事、最高のタイミングでテラスタルをして、最高のバトルができました。結構なお手前で」
「ヒメ」
目を覚ましたヒメグマと共にお辞儀をするカエデに、リコも頭を下げると、カエデはスマホロトムを取り出した。
すると、リコが取り出したスマホロトムの画面に、むしを模したマークがスタンプを押すように表示された。
「バトルもふっくら、膨らみましたね」
「ありがとうございました。カエデさん、私もっと頑張ります!」
「わぁ、フフフ。あなたとニャローテが、どんな風に育つのか、楽しみ~」
満足そうな笑顔を浮かべるカエデ。ロイ達もリコ達のもとに歩みより、称賛の声を掛ける。
「基礎テストはおしまい。ティータイムにしましょう」
「パルデア一のスイーツをたんまり食べていけ!」
「やったぁー!」
「リコ、その……」
「……食べ過ぎるようなら止めるからね」
「はい……」
そうして、リコは見事にテラスタル研修を合格し、ムクロジのスイーツを思う存分味わった。
尚、既にタマンチュ・ラ・トルテの他に何十個のケーキを食べていたイルマは一つしか食べられずに涙を流したのは完全に余談である。
夜。
セルクルタウンを後にしたリコ達は、町から数キロほど離れた場所で夜営を行っていた。ロイとドットはニャローテのテラスタルを使ったバトルの興奮が治まらないのかテンションが高いまま夕食のサンドイッチ(イルマが自作したサンドイッチはとても食べられるものではないので、リコが代わりに作った)を食べると、夜11時を回った辺りでようやくロイ達もテントの中で眠りにつくことになった。
リコもまた、ニャローテと共にテントの中で寝袋を広げて就寝につこうとしたが、猫ゆえかすぐに眠りについたニャローテと違い、リコは何故だかすぐに眠れなかった。
(……眠れないなぁ。ちょっと外の空気吸ってこよう)
知らず知らずのうちに、自分もロイ達と同じようにテラスタルを使ったバトルに興奮しているのかもしれないと考え、リコはニャローテとミブリムを起こさないように静かにテントから出ると、平たい大岩に腰かけて空を見上げた。
(星が綺麗だなぁ……)
パルデアで生まれた頃はあまり星を見上げたことがなかったが、空一面に広がる星々は芸術といっていい程の美しさを持っている。
空を見ているうちに、心音が緩やかになり、夜風が吹いてきたことでテントに戻ろうと立ち上がる。
「……」
その時、自身のテントの隣に立てられたテントが目に入り、リコは動きを止めた。
一分間ほど考えたあと、リコはフラリとイルマのテントの中に入り込んだ。
そこでは、既に寝袋に入って夢の世界の住人となっているイルマの姿。テントの端では、イルマの外出用のバッグを寝袋にしてスヤスヤと寝息を立てるイーブイと、綺麗に畳まれた服と4つのモンスターボールが丁寧に置かれている。
ブレイブアサギ号の旅では、イルマは噛み癖のあるサザンドラ以外はボールから出して一緒に眠っていたのだが、船の自室よりも狭いこのテントでは全員を出して寝るのは流石に窮屈だと、保護をしているイーブイ以外は全員をボールにしまっていたのだ。
「寝てる……」
イルマの隣に寝転がったリコはジッとイルマの寝顔を見つめる。試しに頬を突いてみるも反応がない。熟睡だった。
(可愛い寝顔……)
普段の童顔ながら優しさ頼もしさを感じる表情ではなく、穏やかで可愛らしさを感じる寝顔を浮かべ、食べ物の夢でも見ているのか「ケーキ……」と寝言を呟いている姿に、リコはドキドキと心臓の音を高鳴らせた。
(やっぱり、私ってイルマの事好きなんだなぁ……)
今回の結果は、自分と共に頑張ってくれたニャローテのお陰であったが、テラスタルを使った研修に抱いていた不安を拭ってくれた事も、少なからず影響していると思う。
リコは頬を赤くし、熟睡中のイルマに顔をよせると、彼が起きていれば恥ずかしくて言えないような決意を口にした。
「…いつもありがとう。いつもそばで励ましてくれて、大事なことを教えてくれて。私、こらからもっと強くなって、イルマの隣に堂々と立てる様に頑張るから、そうしたら……」
イルマの頬に手を当て、とびきりの熱を孕んだ視線を向ける。
「いつか、イルマを私だけのものにしてみせるから、覚悟しててね♡」
やがて、リコは眠気に襲われてきて、ここがイルマのテントと言うこともあって「5分だけ……」と言い訳をするように呟くと、瞼を閉じて夢の世界へと旅立っていった。
翌朝。
目を覚ましたイルマは、自身のテントに入り込んでスヤスヤと眠っている寝巻き姿のリコの姿に混乱していると、フクスローに思いっきりからかわれたり、イルマのテントに飛び込んできたニャローテにフルボッコにされたり、ドットからゴミを見るような目を向けられたりと、散々な目に合っていたという。
・オ魔ケのショートストーリー
~2024年クリスマスのスキ魔~
リコ「う~~……クリスマスのプレゼント、イルマは何を送れば喜んでくれるかな、ニャローテ」
ニャローテ「ニャ~(リコが渡せばなんだろうと喜ぶと思うけど)」
ベッドの上でイルマへのプレゼントに悩むリコは、ポンポンと肩を叩かれた。
リコ「フクスロー?」
フクスロー「くっふぅ、くふぅ!(安心しな、ここはこのフクスローさんが人肌脱いでやるっさ!)」
ニャローテ「ニャ……(なんか嫌な予感……)」
いつの間にかそこにいたフクスローが胸を張ってメモをリコに手渡し、ニャローテはなんだか嫌な予感がした。
そして、翌日の夜。
リコ「えっと、部屋の前でイルマが出てきたら、この格好のままこのメモに書いてある台詞を読む………よし!!」
コンコン
イルマ「はーい」
リコ「えっと、イルマ………クリスマスのプレゼントは、わた………し……?」
扉を開けたイルマに、ミニスカートのサンタ服で身体中に赤いリボンを巻いたリコがメモに書かれた台詞を読み上げた。
イルマ・リコ「「……」」
ニャローテ「ニャーーー!!(リコに何させてんのよアンタはぁああああああああ!!)」
フクスロー「くふふぅ!!(2人の仲が進展するように気を利かせたんじゃん!!)」
お互いに立ったまま気絶した二人の近くで、ニャローテがフクスローをしばいていた。
ー完ー
~大晦日のスキ魔~
フリード「えー。それでは……本年も魔入間 ifアニポケの連載が続き、新年を迎えられることを祝って……かんぱーい!!」
キャップ「ピッカーー!」
イルマ・リコ・ロイ・バチコ・マードック・モリー・オリオ「「「「「「「かんぱーーーい!!」」」」」」」
ランドウ「乾杯」
ドット「か、乾杯…」
ブレイブアサギ号のミーティングルームで、フリードとキャップの号令により、ジュースや酒のは入ったコップを掲げたライジングボルテッカーズの面々は宴会を始めた。
ドット「てか、なんだよさっきの音頭。それに、船は今オリオが修理してる筈だろ?何でここで宴会するんだよ?それにテラスタル研修はどうしたんだ?」
リコ「ドット、ここは最近私とイルマが前書きでやってるみたいな本編とは全く無関係の空間だから気にしなくていいんだよ」
ロイ「リコ?何かメタ発言多くない……?」
イルマ「それもまたこの空間ならではだよ♪」
オリオ「ねぇねぇ!折角だし、カラオケでもしない?」
モリー「おっ、いいね」
ロイ「僕やりたい!アチゲータもだよな!」
アチゲータ「アゲーーッ!」
オリオの提案でカラオケ大会が決まり、面々は曲を選曲する。
マードック「だが、何を歌うんだ?」
リコ「これはどう?RVR~ライジングボルテッカーズラップ~」
フリード「おっ!いいじゃないか!俺達ライジングボルテッカーズが新年を迎えるのにピッタリだ!」
ドット「何で僕がそんな面倒なこと……」
ロイ「いいじゃん!みんなで歌おうよ!」
リコが提案した曲をアニメポケットモンスター第一期ED曲を歌う面々がノリノリで集まっているなか……
イルマ・バチコ((どうしよう……))
魔入りました!入間くんのキャラクターであるために、RVRには参加できないイルマとバチコが冷や汗を流していた。
イルマ「師匠、どうするんですか!?この作品では僕達もライジングボルテッカーズなのに、このままじゃライジングボルテッカーズラップに参加できなくてハブられた感じなりますよ!!」
バチコ「それ気まずいよなぁ……しゃーねぇ。イルマ、最初はお前が歌え!」
イルマ「ええっ!?」
フリード「おっ、最初はイルマか!」
リコ「イルマの歌……聞きたいかも!」
イルマ「えぇええええっ!!?」
突如マイクとデンモクを渡された慌て始める。
イルマ(どっ、どうしよう!人気の歌とか全然わかんないし………いや、待てよ!!あるじゃないか、僕にも歌える唯一の歌!!)
そうして、イルマが選曲した曲が始まり、イルマはマイクを手に歌い始めた。
イルマ「♪悪魔たるもの 油断は禁物! ある日 突然 ハートを 奪われる(ズッキュン!)」
ロイ「あっ!これ、くろむちゃんの歌だ!」
ドット「女の子が歌う歌だけど……意外と上手いじゃん」
リコ「凄い……可愛い……!!」
バチコ(ステージで大衆を魅了した本人が歌えばそうなるよなぁ……)
以前女装してステージで歌った歌唱力を披露するイルマに、少年少女は目を輝かせるなか、その歌唱力の謎を知る面々は微妙な表情。
リコ「……んっ、少し喉乾いたな」
スマホロトムでイルマの撮影をしていたリコは、テーブルの上にのせられたコップを手に取り、ブドウジュースのような色をした液体の入ったそれを飲んだ。
同時に、イルマの『キミの小悪魔黙示録♡』が歌い終わる。
ロイ「すっげぇ!イルマ、歌上手いんだね!」
イルマ「あ、ありがt」
ガシッ
イルマ「ゑ?」
ロイの言葉に答えようとした時、イルマは襟首を掴まれた。
リコ「イ~~~~ル~~~~マ~~~~♡」
イルマ「リ、リコ……なんか、顔赤くない……口調もなんだか変だよ……?」
モリー「あの様子……まさか、酔っぱらってる!?」
オリオ「はぁ!?何で未成年のリコにお酒なんか……」
バチコ「……あっ、ヤベェ。あっチの飲んでたワインの入ったコップ、リコのブドウジュースの隣に置いてたんだった。それで間違えたのか」
フリード・マードック「「おいっ!!」」
ランドウ「ムゥ……若さゆえの過ちか」
面々がギャアギャア騒ぐなか、顔を真っ赤にしたリコはイルマを引き摺りながら扉に向かう。
リコ「イルマ~。わらしのこと、すき?」
イルマ「なっ、何をいきなり……!?」
リコ「すきらのぉ~?すきらないなぉ~?すきじゃらいなら……メチャクチャにする」
イルマ「ヒィッ!?ちょっ……アーーーーーーッ!!?」
フクスロー『あーぁ。まーたイチャついてるよ、あの二人……』
ニャローテ「ニャーロ。ニャロ、ニャニャー?ニャロ?(イチャついてないでしょ。イルマ、服を剥ぎ取られながら連行されてんだけど?止めないの?)」
フクスロー『ンな事すりゃ完全に飛び火すんだろ。お前さんはどうよ?』
ニャローテ「……ニャーロ(……今は食事中だから)」
酒のトラブルを起こすイルマとリコの姿をみながら、彼らのパートナーはリコの暴走が飛び火しては堪らないと、年越しそばならぬ年越しポケモンフーズを食しているのだった。
ー完ー
・今回の見所
~カエデとのバトル~
アニポケよりも多くの修羅場を潜ったり、レックウザ戦でテラスタルをしたことで着実に強くなっているリコ。勝ちとまでは行きませんでしたが、良い結果を出せたと思います。
~ニャローテ“つばめがえし”習得~
これくらいの強化はいいと思っています。ニャローテに限らず、アチゲータやクワッスにもこれからもアニポケで習得した技以外にも色々な技を覚えてもらいたいと思っています。
~リコ~
本格的にイルマと距離を縮める決意をしたリコさん。作者的にはもうヒロインは彼女だけでもいいんじゃないかと思い始めてきているが、読者からの要望があって今後の行く末をかなり悩んでいます。嫉妬心が爆発しないといいですね……。
感想、評価お待ちしております。