魔入りました!入間くん if Episode of ポケットモンスター   作:MTHR

7 / 72
アニポケの新OP、最高でした。その影響か10日は掛かると思っていた執筆が想像以上に早く進みました。
作者はアニポケではバトルシーンならばXY編と新無印編が隙ですが、キャラとストーリーと作画ではリコロイ編が好きです。

今回は今までで最長文で、所々原作とは違っております。また、話の都合上主人公たるイルマ君は空気となっています。


6話 月夜の戦い

 時は少し遡る。

 大型連休を利用して実家に帰省するアンの見送りに来て、同じく親友の見送りに来ていたイルマと距離が近いアリスにモヤモヤしながら眺めていると、その光景を見ていたアンにからかわれ、その後イルマと共に寮に戻る途中、勇気を振り絞ってイルマと休日に二人で(ニャオハとモクローも一緒に)遊びに行くことを提案し、笑顔でそれをOKされた嬉しさと恥ずかしさの余り気絶してしまったリコ。

 10分程して目を覚まし、保健室に行くかと心配するイルマの提案をやんわりと断り、明日イルマの部屋で打ち合わせをしようと約束してイルマと別れ、リコはニャオハを抱えて女子寮に向かって歩みを進める。

 

「や、やったよニャオハ!イルマと一緒に遊びに行けるよ!」

「ニャオハ」

 

 嬉しさの余り、リコは腕の中のニャオハに笑顔で話し掛ける。ニャオハも「良かったね」という様に笑顔で鳴いた。

 気持ちと共に足取りも軽くなり、リコは足早に女子寮に戻っていく。

 

「あ、リコさん。お客さんですよ」

 

 リコが女子寮に戻り扉を開くと、誰かと話していた寮母さんに話しかけられた。すると、白と黒のツートンカラーの髪をしたリコより少し年上に見えるスーツを着た少年が、リコの前に歩み出た。

 

「はじめまして、リコさんですね?」

「は、はい。…えっと、どちら様ですか?」

「お婆様の()()()です。手紙を預かって来ました」

「手紙…?」

 

 少年が手渡した手紙を受け取る。

 

(え?お婆ちゃんの手紙って…何?っていうか、この人…)

 

 祖母【ダイアナ】の代理人と名乗る男に、祖母からと言われて渡された手紙。それらに違和感を覚え、リコはおずおずと少年に訪ねる。

 

「あの、これは一体…?」

「事情は後程。()()()()()()()()を、くれぐれも忘れずに持ってきてほしいとの事です」

 

 少年の言葉に、リコは眉をひそめる。

 『祖母』に『大切なペンダント』と言われれば、思い浮かぶのは、リコがパルデアにいた頃にダイアナから貰ったペンダントだ。リコがお守りとしてカントーまで持ってきているのだが、自分が付けるにはまだ早いと自室にしまってある物だ。

 

 その時、リコの腕の中にいたニャオハが突然唸り声を上げた。

 

「ニャ~~…!!」

「ニャオハ、失礼よ!…準備してきます。待っててください」

 

 唸り声を上げて少年を睨むニャオハを注意して宥めたリコは、直ぐに少年にそう言って、自分の部屋に戻っていく。

 

 少年は、自室に戻るリコの後ろ姿を静かに眺めていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(いや…いやいやいや!なにあの人!お婆ちゃんが手紙だなんてなにか変だよ!それに…)

 

 自室に戻ったリコは、ウロウロと部屋を歩き回ながら必死に頭を回転させる。

 お婆ちゃん代理人と言われた時から感じていた違和感が、ニャオハの明確な敵意によって確信に変わった。

 

「──ペンダントを持ってこいだなんて絶対に怪しい!」

 

 お婆ちゃんの代理人と言う話はまず間違いなく嘘だ。あの少年が何者なのかは全く分からないが、信用出来る相手とは思えない。リコはベットの下にあった箱からペンダントを取り出し、首にかける。

 

(……えっと、これからどうすれば……そうだ!イルマに電話を…)

 

 怪しいというのなら教師の方が適切なのだが、教師達の電話番号など持っていない。それに不法侵入ならまだしも、相手はちゃんと申請書を書いて許可証を貰っているし、今のところ何もしていない。どう考えても怪しいとはいえ、それはリコの直感だし、彼が不審者だという確固たる証拠はない。

 故にリコはスマホロトムを取り出し、今この学園にいる中で誰よりも信頼できる相手──イルマに電話を掛けた。

 

「イルマ、助けて!」

『リコ!何かあったの!?』

 

 通話が繋がった瞬間、リコはイルマに助けを求める。応答したイルマは直ぐに異変を感じ取ったのか、困惑した様子もなくリコに状況を訪ねた。

 

「り、寮に戻ったら、お婆ちゃんの代理人だって人が手紙を預かってきたって言って来たんだけど、お婆ちゃんが手紙を送ってくるなんておかしいし、お婆ちゃんのペンダントを持ってきくれてって言ってて、すごく怪しいの!」

『ペンダント?』

 

 リコから事情を聞き、考え込むように沈黙するイルマ。

 その時、リコの部屋のドアがコンコンと音を立ててノックされた。

 明らかにさっきの少年だと気付いたリコは、息を潜めながらベッドの上にあったリュックを手にとって背負うと、音を立てないようにそーっと窓から外に出た。そしていつの間にか校舎の屋根の上に上っていたニャオハを追い、リコも校舎の屋根の上へ向かう。

 その時、通話をしていたスマホロトムから声が聞こえた。

 

『リコ、その怪しい奴の見た目、口で説明できるか?』

「え?だ、誰ですか!?」

 

 聞こえてきたのはイルマの声ではなく、ややハスキーな女性の声だった。何処かで聞いたことがある気がするが、それが思い出せず、リコは思わず質問を質問で返してしまう。

 

『良いから早く教えろ!髪は?服装は?どんなポケモンをつれていた!?』

「は、はい!!えっと…白黒の髪をしてて、スーツを着た男の人です!ポケモンは見ませんでした!」

 

 有無を言わさぬと言わんばかりの迫力の女性に、根負けしたリコはやや怯えながらも答える。すると、今の状況と女性の喋り方に懐かしさを覚えたリコは頭の中で女性の声の正体に辺りをつけ、驚きで目を見開いた。

 

『リコ、お前今何処にいる!?』

「…!そ、その喋り方って……もしかして貴方は…!」

『あッチがここにいる理由は後で話してやる!取り敢えず今は場所を教えろ、イルマと一緒にそっちに行く!』

「じょ、女子寮の屋根の上です…」

『分かった!』

 

 そう言われ、通話が切られた。

 

(あの声にこの感じ…間違いない。でも、何であの人がここに…!?)

 

 何故、何年間も合うことがなかったあの人がこの学園でイルマと一緒にいたのかは全く分からないが、今はそれどころではないので、リコは一旦考えるのを止める。今は兎に角2人が来てくれるまで逃げ延びなければならないと、リコとニャオハはコソコソと屋根の上を進んでいく。

 するとリコとニャオハは建物の下で誰かがいるのに気付き、屋根から身を乗り出してその人物を姿を確認する。そこには、黒いスーツを着た女性が、スマホロトムを使って誰かと通話をしていた。

 

『見つかったか?』

「いいえ。どこかに隠れているのかと」

『やっかいだな…』

 

 スマホロトムから聞こえてきたのは、先程の少年の声だ。その声を聞いたリコは、直ぐに彼女があの男の仲間だと気付いたリコは顔を強張らせる。

 その時、通話中に此方を振り向いた女性と、目が合ってしまった。

 

「ッ!いました!」

「や、やばっ!」

 

 女性の声を聞きながら、リコとニャオハは直ぐに屋根から降りるが、ニャオハはともかく特に身体能力が優れている訳でもないリコは上手く着地出来ず、尻餅をついてしまう。

 

「いたた……」

「そこか!」

「ッ!?」

 

 リコがお尻を打ち付けた痛みに顔をしかめていると、あの女性と同じく黒スーツを着た、金髪が鶏のトサカのような髪をした男性がやって来た。

 男性はリコの姿を捉えると、好戦的な笑みを浮かべ、取り出したボールを投げる。

 

「いけ!サイドン!」

 

ポンッ!

 

「サーイ!」

「サイドン!?」

「ニャ~~!!」

(って、ニャオハやる気だし!…やるしかない!)

 

 鼻先にドリル状の角を持ち、鎧のような皮膚を持つポケモン、【サイドン】がボールから飛び出した。

 雄叫びを上げるサイドンにリコは思わず後退るが、パートナーであるニャオハは逆に姿勢を低くして臨戦態勢をとり、サイドンに唸り声を上げている。しかし、どの道目の前の男とサイドンをどうにかしなければ逃げ切ることは出来ないと、リコは覚悟を決める。

 

「ニャオハ、“このは”!」

「ニャァー…ハッ!!」

 

 リコの指示を聞き入れたニャオハは首元を光らせ、緑色に光る葉をサイドンに向けて放つ。

 …しかし、放たれた『このは』は数も少なく威力も低く、サイドンは交差させた両腕を大きく振るっただけで“このは”を弾いてしまった。

 

「ハハハッ!そんな出来損ないの“このは”で倒せるものか!」

 

 得意気に笑う男。

 リコはそれを聞き、この状況を打開するための策を練ろうと頭をフル回転させようとした、その時だった。

 

「──モクロー、“このは”!!」

「もっふぅーっ!!」

 

「サイィッ!?」

「ッ!?サイドン!!」

 

 リコの後ろで、中性的な少年の声が響く。同時に、リコの背後から光の葉っぱが飛び、不意打ち気味にサイドンに直撃した。

 ニャオハが放った“このは”の倍はある威力と量を持った技を無防備に受けたサイドンは思わず後退り、トレーナーである男性と、ニャオハとリコも目を見開いた。

 

「ジュナイパー!“リーフブレード”!」

 

 すると再び、リコの背後から、今度はハスキーな女性の声が響いた。

 次の瞬間、黒いポケモンの影がリコとニャオハを通り抜けてサイドンに猛スピードで突撃して行き、両腕に備えた緑色に光る刃でサイドンを斬り付けた。

 

「ジュナーーッ!」

 

ズバァアアッ!!

 

「サイドォオオッ!!?」

「サイドンッ!?」

 

 ×字に胸を切り裂かれ、サイドンは悲鳴を上げながら壁際まで吹き飛ばされる。そして轟音を立てながら壁に激突し、そのまま地面に崩れ落ちた。男は慌ててサイドンに駆け寄り、悔しげな表情でモンスターボールにサイドンを戻した。

 

 驚愕するリコの前に、サイドンを倒したポケモンが、リコを守るように翼を羽ばたかせながら前に降り立ち、そのポケモンの隣にもう一体のポケモンが降り立った。

 

「もっふぅ!」

「ジュナ」

「モクロー…それに、色違いのジュナイパーまで…!ってことは…」

 

 リコがそう呟いた直後、リコの脳裏に思い浮かんだ人物の声が背後から響いた。

 

「リコ、大丈夫!?」

「どうやら間に合ったみたいだな」

 

 一人は自分の幼馴染みである青い髪をした少年、イルマ。もう一人は、全体的にピンクの髪をしたゴスロリ服の女性──バチコであった。

 

「イルマ…それに、バチコさん…!どうして此所に…!?」

「あー、話すと長ぇんだけどよ…。まぁ、平たく言えばお前の()()を頼まれているんだよ。だから来た」

「ご、護衛?頼まれてるって……誰から?」

「えーと…リコ、バチコさん。僕も色々と聞きたい事だらけなんですけど……あの人達……」

 

 イルマが遠慮がちに割り込んできて、リコとバチコは指差した先に視線を向ける。

 そこには、サイドンをボールに戻した男の元に駆け寄る、ツートンカラーの髪をした少年と、先程の女性の姿がある。少年は男性を一瞥した後にイルマとバチコに鋭い視線を向けた。

 

「──何者だ、お前達は?」

 

 少年の問いに、ジュナイパーの隣に立ったバチコは悠然とした態度で答えた。

 

「あッチはリコ(コイツ)の護衛だ。リコを保護してパルデアまで送り届けて欲しいって、()()()()()から依頼されてるんでな」

「えっ!?お、お母さんが!?」

 

 サラッと明かされた衝撃の事実に、リコはそんな場合ではないと頭の中で分かっていながらも声を上げてしまう。そんな彼女に内心苦笑しながらも、バチコは猛禽類のように鋭い目で少年を見据えた。

 

「そう言うわけだ。あッチ等にはパルデアに送り届けるまでリコを守る義務があるんだ。痛い目に合いたくなかったらさっさと帰った方がいいぜ?」

「…そうはいかない。我々も彼女に用があるんだ」

 

 そう言った少年は、懐からモンスターボールを取り出し、それを投げた。

 

「ソウブレイズ!」

 

ポンッ!

 

「ソウッ!」

 

 空中でボールが開き、中から青紫色の甲冑に身を包んだ黒騎士の姿に、両腕が炎を纏った剣の形状となっている人型のポケモン──【ソウブレイズ】が現れた。

 

 ギンッと鋭い眼光で此方を睨んでくるソウブレイズに、イルマとリコ、モクローとニャオハは僅かに怯む。先程のサイドンとは別格の威圧感を感じることから、あのソウブレイズの強さを嫌でも実感してしまったのだ。

 そんな二人と二匹の前に立ったのは、やはりのこのコンビであった。

 

「……ま、素直に聞くわけないよな。…ならいっちょ、教えてやろうぜ、ジュナイパー!」

「ジュナッ!!」

 

 バチコの言葉に頷いて、前に出るジュナイパー。

 

 お互いに効果抜群のゴーストタイプ。しかしジュナイパーは草の複合タイプに対して、ソウブレイズは炎の複合タイプである。ジュナイパーには不利な相手だ。

 しかし、バチコもジュナイパーも臆した様子は見せず、鋭い視線を少年とソウブレイズに向けたままだ。

 

「ジュナイパー、“リーフブレード”!」

「“むねんのつるぎ”!」

 

「ジュナ!」

「ソウッ!」

 

 次の瞬間、バチコと少年の指示が同時に響く。

 そして、ジュナイパーは翼から緑色に光る刃を出現させ、ソウブレイズは両腕の剣に紫色の炎を纏わせる。そして二体は同時に走り出し、互いの中間地点で自身の刃を衝突させる。

 二体を中心に凄まじい衝撃波が発生し、イルマとリコは思わず顔を腕で覆う。

 

「ジュナ…!」

 

 その時、ソウブレイズと鍔迫り合いをしていたジュナイパーが弾かれ、土煙を起こしながらバチコの目前まで後退る。どうやらパワーはソウブレイズの方が上だったらしく、技の相性も重なって押されてしまった様だ。

 

「“つじぎり”!」

「躱して“かげぬい”だ!」

 

 その隙を見逃さずに少年が指示を出すが、バチコも負けじと直ぐに指示を出す。

 

 ソウブレイズは猛スピードでジュナイパーに向かって走り出し、両腕の剣でジュナイパーを切り裂こうとする。だがジュナイパーはその直前で翼を羽ばたかせて空を飛び、校舎の屋根に着地する。そしてジュナイパーは片方の翼を広げて弓のような形状にすると、フードの紐部分に弦の様にして矢羽をセットすると、ソウブレイズに目掛けて矢羽を放った。

 

「“ゴーストダイブ”!」

 

 高速で迫り来る矢を前に、少年の指示を聞いたソウブレイズは何と水中に沈むかのように地面の中へと消えてしまった。標的を失い空振りになった矢が、地面に深々と突き刺さる。

 次の瞬間、ジュナイパーの背後に紫色の渦のような物が現れ、そこから青紫色の足が出現したのを見たバチコは、直ぐ様ジュナイパーに向けて声を張り上げた。

 

「ジュナイパー後ろだ!“リーフブレード”!」

「ジュナイッ!!」

 

 バチコの言葉を聞き、ジュナイパーは振り向き様に刃を出現させ、振り下ろされたソウブレイズの剣を迎え撃つ。金属がぶつかり合う音が響き渡り、ジュナイパーとソウブレイズは反発した磁石のように弾かれ、自身のトレーナーの前に着地した。

 

「す、凄い…!」

「う、うん…!」

 

 そのバトルを間近で見ていたイルマとリコは、目の前で繰り広げられる学園の授業で行っているバトルとは明らかにレベルが違うバトルに、思わずといった風に呟いた。

 

「…成程な。お前、中々やるじゃねぇか」

「……」

 

 お互いに相手の様子を伺っている中、突然バチコが口を開いた。相手を油断させる為ではない、単純に思ったことを口に出しているだけだ。

 そして、口には出さなかったがそれは少年の方も同じであった。タイプの相性で此方が有利だからと侮ってはいなかったし、手を抜いたつもりもなかったが、それでもバチコとジュナイパーの実力は自分の予想を超えていた。負けるつもりは無いが、少なくとも余裕を持って倒せる相手ではないと。

 その時、

 

 

「見ィーーつけたァッ!!」

 

 

 上空から、聞き覚えのない男の声が聞こえた。

 その場にいた誰もが上に目を向ける。そこには物凄い勢いで急降下してくる竜の姿をした橙色のポケモンと、その背中に乗る人間の影があった。

 

 橙色の体に大きな翼を持ったドラゴン型のポケモン──【リザードン】は大きく翼を羽ばたかせて急降下の速度を殺し、ゆっくりと着地する。その際に起きた風の勢いに、その場にいた人間もポケモンも思わず顔を腕で覆った。

 

「誰!?」

(はぁっ!?何?また増えた!?)

 

 突然の乱入者に、イルマは思わず叫ぶように声を出し、リコは混乱しっぱなしだ。ただでさえここに来るまでに訳の分からない事ばっかり起きたのだから、無理もない。

 

 するとリザードンの背中から、フライトジャケットを着込み、ゴーグルを付けた白髪の男性が降り立った。その男性はゴーグルを額にずらすと、背後に立っていたバチコとジュナイパーに視線を向け、笑みを浮かべて口を開いた。

 

「よぅ、バチコ。サリバンさんのお孫さんを連れて合流する予定じゃなかったのか?」

「アホ、オメーが遅ェんだろうが。女子寮に行って聞いた方が早いって言っただろーが。リザードンで空から探してたのか?」

「アッハハハ、悪い悪い……。んで、アイツ等は何者だ?」

「見ての通り敵だ。……まぁ、あッチも詳しく知らねぇんだけどよ」

 

 随分バチコと親しげに話し掛けており、バチコも悪態を付きながらも親しげに接している。その様子から、突然リザードンに乗って現れた男性はバチコの知り合いではないのかと、イルマとリコは推測する。

 それは少年も同じであり、突然の乱入者に少しだけ驚いたものの、それを表情に出さずにバチコとフリードに視線を向けた。

 

「…ソイツはお前の仲間か?」

「まー、そうだな。少し不完全燃焼気味だが、選手交代だ。フリード、あッチはソイツと相性が悪いんでな。船に送るのはアッチがやるから、相手頼むぞ」

「人任せかよ…。ま、任せときな!」

「リザァッ!」

 

 リザードンが【フリード】と呼ばれた男の前に立ち、ソウブレイズをギラリと睨み付ける。

 それを見て、少年は何時どんな攻撃がきても対処出来るように気を引き締める。バチコ程のトレーナーが勝負を任せると言う事は、彼女がそれだけこの男とリザードンの実力を買っているという事だ。つまり、フリードの実力は軽く見積もってもバチコと同等かそれ以上と言う事になる。警戒する理由としては十分だ。

 

 一方、少年の相手をフリードに任せたバチコはポケットから新たにモンスターボールを取り出すと、それを投げて中にいるポケモンを外に出した。

 

ポンッ!

 

「チルー!」

 

 白鳥のように大柄で長い首に、大きく伸びた鶏冠と尾羽。綿雲のような羽毛が特徴的な青い鳥型のポケモン【チルタリス】が現れた。

 チルタリスは翼を広げて大きく鳴いた後、直ぐにバチコとイルマとリコの前に降り立ち、イルマとリコに背中を向けた。

 

「イルマ、リコ。チルタリス(ソイツ)に乗れ。オメー等を安全な場所まで送ってくれる。事情は後で話す」

「あ、後で話すって言われても状況がまるで呑み込めないんですけど…」

「いいから乗れ!今そんな状況じゃねぇんだよ!」

「わぁッ!?」

「ひゃっ!」

 

 イルマの言葉に取り合わず、バチコはやや強引にイルマとモクロー、リコとニャオハの順にチルタリスの背中に2人と2体を乗せた。

 何故こんな状況になったのかはまるで分からないが、確かにこの状況で呑気に話している事は出来ないのは理解しているので、イルマとリコは自身のパートナーを肩に乗せ、バチコの言う通りにチルタリスの背中に跨がった。

 

「チルタリス、飛べ!」

「チルチルー!」

「うわわっ!」

「ひゃあ!?」

 

 バチコの言葉を聞いて、チルタリスは翼をはばたかせて空へ飛び上がる。突然に揺れに、イルマは咄嗟にチルタリスの背中の羽毛を掴み、リコはイルマの背中にしがみつく。

 その光景を見て、男性と女性が焦ったような表情でチルタリスを追おうとするが、その前にバチコとジュナイパーが立ちはだかった。

 

「悪いが、アイツ等は追わせねーぜ」

「ジュナッ!」

「…なら、あなたを倒すまでよ!ゴルダック!」

「いけ、エアームド!」

 

 バチコの言葉に同意するようにジュナイパーが声を上げる。それに対して、二人はモンスターボールを取り出し、女性は青いカッパのような見た目をしたポケモン【ゴルダック】を、男性は全身が鎧で覆われた鳥形ポケモン【エアームド】を出した。

 

 2対1の戦いが始まったのをチラリと横目で確認した少年は、早急にこのバトルを終わらせてペンダントを持っているリコを追わなければならないと、ソウブレイズに指示を出した。

 

「“むねんのつるぎ”!」

「“かえんほうしゃ”!」

 

 両腕の剣に炎を纏わせて走り出すソウブレイズを、リザードンが吐き出した炎が呑み込み、爆発を起こす。

 

「ソウブレイズ、“つじぎり”!」

「リザードン、“ドラゴンクロー”!」

 

 爆煙から飛び出し、発光した両腕の剣で斬りかかってくるソウブレイズを、リザードンはオレンジ色のエネルギーを纏わせた爪で迎え撃つ。

 衝突の際に起きた衝撃で後ろに飛んだソウブレイズは、再びリザードンに接近して剣で切り裂こうとするが、その直前にリザードンは空を飛んでそれを避け、上空から“かえんほうしゃ”を放った。ソウブレイズは両腕の剣をクロスさせてそれを防ぎ、爆発が起きる。地面を降り立ったリザードンを狙って爆煙の中から飛び出したソウブレイズの剣を、リザードンは後ろに飛んで避け、フリードの前に立った。

 

「あの人も凄い…!」

「もっふぅ」

 

 チルタリスの背中に乗りながらリコの頭越しにそのバトルを見ていたイルマとモクローは、思わず感嘆の声を漏らした。

 

(何これ…何が起こってるの?意味分かんないんですけど…!)

 

 一方で、イルマの後ろにいるリコは混乱しっぱなしだった。バチコから断片的に重要な事を聞いていても、一度に色んな事が起こりすぎて頭の中で整理が出来ないでいた。

 やがて、一度バチコから軽い感じで聞いた情報を整理しようと息を吐くと、リコは自分の腕がイルマの腰に回されている事をようやく自覚すると、先程の混乱から一転して顔を真っ赤にする。混乱から少しだけ落ち着いた事で、自分がイルマの背中にしがみついた事をようやく自覚したらしい。案外余裕そうである。

 

 そんな中、フリードのリザードンと少年のソウブレイズの戦いは激しさを増していく。

 

「“かえんほうしゃ”!」

「“サイコカッター”!」

 

 リザードンが吐いた炎をソウブレイズは右腕の剣で切り裂き、左腕の剣からマゼンタ色の斬撃を飛ばす。

 空を飛んでその斬撃を避けたリザードンを追うように、ソウブレイズは剣を振り上げて再びマゼンタ色に光る斬撃を飛ばす。空中にいたリザードンは空中で一回転し、炎が灯っている尾でその斬撃を真っ二つに切り裂いた。

 二つに割かれ、右側に飛んだ斬撃はセキエイ学園の時計台にぶち当たり、時計台に切り傷を入れた。

 そして左側に飛んだ斬撃が向かった先には……イルマとリコを乗せたチルタリスがいた。

 

「「ッ!?」」

「ッ、ヤベェ!チルタリス!コットンガー…」

 

 チルタリスの背中に乗っていた2人が顔を強張らせ、女性と男性のポケモンバトルをジュナイパーで圧倒しながらそれに気付いたバチコが直ぐに上空のチルタリスに“コットンガード”を発動させようと声を張り上げる。

 

 その時、不思議な事が起こった。

 

 

カッ!!!

 

 

 リコのペンダントが光り輝き、緑色に輝く光の壁が球状となってサイコカッターを弾き、リコ達を包み込んだ。

 

 バチコや男女、フリードも少年も、そしてポケモン達もその光の球体に目を向けた。

 

 

 

 

 

 

 サイコカッターが此方に迫ってきた光景を目にし、思わず目を瞑ったリコは、何時までたっても覚悟していた衝撃が来ないことを疑問に思い、恐る恐る目を開け、驚愕した。

 リコの周りは、緑色に輝くドームのような物に包まれていた辺りを見渡すと、同じ様に心底驚いた様にドームを眺めるニャオハ、イルマ、モクロー、チルタリスの姿があった。

 

 するとリコは、自分の目の前に何かがいる事に気付いた。

 それは、リコの持っていたペンダントの様な見た目の六角形の宝石のような甲羅から、宝石のような装飾を持った藍色の亀の様な体を出した──ポケモン。

 

「な、何これ…。ポケ…モン?」

 

 リコが呟くと同時に、そのポケモンは目を閉じる。

 同時に、緑色のドームが光となってそのポケモンに集まって行くとあら不思議、ポケモンの姿がみるみると縮んで行き──リコの持つペンダントとなった。

 すると、ペンダントは重力に従って地面に墜落しそうになり、リコは慌ててチルタリスの背中から身をのり出してペンダントをキャッチした。

 

「な、何だったの…?」

「今のって……」

 

 両手で持ったペンダントを呆然と眺めるリコと、その掌の中を覗き込むイルマ。

 すると、直ぐ真横で聞き覚えのある声が聞こえた。

 

「…コイツは驚いたな」

「あぁ。ルッカさんがリコの保護を頼んだ理由は、多分これだろうな」

 

 その二つの声に、イルマとリコはハッとなって声がした方に視線を向けると、そこには翼をはばたかせて滞空するリザードンと、その背に乗るゴーグルを着けたフリードと、その後ろに座るバチコの姿があった。ジュナイパーの姿が見えないが、恐らくボールに戻したのだろう。

 フリードはゴーグルを着けたまま、下にいる少年達に声をかけた。

 

「悪いな!勝負は次の機会だ!リザードン!」

「リザァーッ!」

「オメー等、しっかり掴まっておけよ。チルタリス!」

「チルーッ!」

「うわぁっ!?」

「ひゃあ!?」

 

 フリードとバチコの指示を聞き、リザードンとチルタリスはセキエイ学園に背を向けて空へ飛ぶ。いきなりチルタリスが動き出した事で、イルマは再びチルタリスの羽毛を掴み、リコもイルマにしがみつく。

 

 リザードンとチルタリスはそれぞれ背に2人の人間を乗せ、空に輝く月を目指すように羽ばたいていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 空へ向かって飛び、どんどん小さくなっていくリザードンとチルタリスの後ろ姿を眺めていた少年は、顎に手を当てて思案する。

 

「あの輝き……ペンダント……」

「アメジオ様、如何しますか?」

 

 【アメジオ】と呼ばれた少年は、バチコのジュナイパーとバトルをしていたゴルダックをモンスターボールに戻した女性の問いを聞き、一度思案するのを止め、モンスターボールを取り出した。

 

「戻れ、ソウブレイズ。……追うぞ」

「「ハッ!」」

 

 ソウブレイズをボールに戻したアメジオは、女性──【コニア】と、男性──【ジル】にそう言うと、三人は左手首に巻かれたスマートウォッチの様なものに触れる。するとあら不思議、三人の体が紫色の光に包まれたかと思うと、光が消えた瞬間に三人の服装が変化していたのだ。

 アメジオとコニアはモンスターボールを取り出し、それを上空に投げる。

 

「エアームド!」

「アーマーガア!」

 

ポポンッ!

 

 コニアのモンスターボールからはもう一体のエアームドが、アメジオのモンスターボールからは黒鉄の外殻に身体が覆われた2mはある大型のカラス型ポケモン【アーマーガア】が現れる。ジルの前には、先程までジュナイパーとバトルをしていたエアームドが戻ってくる。まだ戦闘のダメージが残っているが、飛行するのに支障はなさそうだ。

 アーマーガアとエアームド2体はその背に自身のトレーナーを乗せ、リザードンとチルタリスを追うように飛び立っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「──やれやれ、派手にやったねェ」

 

 先程までの騒動が嘘のように静寂に支配された学園に、コツコツと靴音を鳴らしながら月を見上げる、長身の老人がいた。イルマの祖父にしてこのセキエイ学園の理事長、サリバンだ。

 サリバンは、先程まで生徒達が行う物とは比べ物にならない程のバトルを繰り広げた場所を見渡す。ジュナイパー対ソウブレイズ、リザードン対ソウブレイズのバトルの余波で割れた窓ガラスが一面に錯乱し、ソウブレイズの斬撃で校舎と時計台に切り傷が入れられ、リザードンの炎で一部が焼け焦げている。

 普通の教職員ならば涙を流しそうな光景だが、サリバンは平然とした様子で、イルマ柄のスマホケースをしたスマホロトムを取り出した。

 

「ま、そこら辺は直ぐに何とかするから……まさか、リコちゃんがダイアナちゃんのペンダントをねェ…」

 

 ふとサリバンは、自分の孫の幼馴染みが首に提げていた、()()()()()()が持っていたペンダントを思い出す。

 フフッと優しく笑ったサリバンは、スマホロトムを操作してある人物に電話をかける。

 

「…あ、もしもしカルエゴ君?僕これから少し実家に帰るから、その間君が理事長代理ね。それと校舎の窓ガラスが大破して校舎と時計台が傷付いちゃってさー、修理業者は手配しておくから、後の事はよろしくねー♪」

『…はぁっ!!?』

 

 一気にとんでもない内容を軽く告げられ、電話の向こうで苛立ちと困惑を込めた男性教師の怒声を無視し、サリバンは決定事項だけ伝えて即座に電話を切る。

 

 すると、通話を追えたサリバンの隣に、あるポケモンが降り立った。

 山吹色のずんぐりした身体に頭に二本の触覚、そして背中には小さな翼を持ったポケモンだ。

 

 サリバンはそのポケモンの顎を撫でると、そのポケモンは気持ち良さそうに目を細める。そして、サリバンはリザードン達が飛んでいった、満月が優しく輝く月を見上げると、優しげな声で小さく呟いた。

 

「パルデアに着いた時の君の姿を見るのが楽しみだよ……イルマくん」

 

 その呟きは、自分の隣に立つポケモン(パートナー)だけが聞いていた。

 そしてサリバンは相棒と共に踵を返し、再び靴音を鳴らしながらその場を後にした。

 

 

 

 

 




・ポケモン紹介

【チルタリス】
バチコの二体目の手持ちポケモン。性別は(メス)。主にライドポケモンとしての役割を担っており、バチコがバトルのために使うことは滅多に無い。アニポケSM(サンムーン)編のチルタリスや、アメジオのアーマーガア的立ち位置。使用できる技は『ダブルウイング』『チャームボイス』『りゅうのはどう』『コットンガード』。
連載当初はバチコに二体目のポケモンを持たせる予定はなかったが、ジュナイパーではライドポケモンに適さないと思ったのでバチコの手持ちとした。チルタリスにしたのは作者の好みで、持っている技は第9世代で作者が使っていたチルタリスの物。



感想、評価お待ちしております。

イルマくんの二体目の手持ちポケモンは誰がいいですか?

  • ラルトス
  • イーブイ
  • リオル
  • ヌメラ
  • オーガポン
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。