魔入りました!入間くん if Episode of ポケットモンスター   作:MTHR

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今回は最後の方で原作とは違う展開になっています。


7話 ライジングボルテッカーズ

 夜の空を飛ぶリザードンとチルタリス。

 チルタリスの背中に乗り、大空から見える景色を楽しんでいたイルマとリコは、そろそろ。その時、二人は雲の向こうに巨大な影を発見した。

 

「何あれ!?」

「飛行船…?」

「あれがあッチ等が乗る船、『ブレイブアサギ号』だ」

 

 そこにあったのは、とてつもなく巨大な飛行船だ。稲妻のようなマークが刺繍された気嚢に、翼状の巨大な部品がある、アバンギャルドなフォルムをした飛行船だ。

 

「戻ったぞ。ウィングデッキ展開してくれ」

 

 すると、リザードンの背中に乗っていたフリードが、スマホロトムで誰かと通話をする。

 その瞬間、飛行船──ブレイブアサギ号にリザードンとチルタリス近付いていくと、船の翼状の部分が音を立てて折り畳まれていき、バトルフィールドのようなウィングデッキに変形し、緑色のバリアが張られた。

 

 そしてリザードンとチルタリスがバリアを通り抜けてバトルフィールドに降り立つと、フリードとバチコはリザードンの背中から降り、イルマとリコは自身のパートナーを抱え、おずおずとチルタリスの背中から降りる。

 キョロキョロと辺りを見渡す2人と2体の元に、二つの人影が近付いてきた。

 

「おかえり」

「随分手こずったな」

 

 一人は、頭髪は坊主でフォークとナイフの形をした非対称な剃り込みを入れている褐色肌の壮年男性。

 もう一人は、髪色はピンクのボブカットで、一部の束を後頭部で1周させた特徴的な髪型に、看護服に黒タイツ、赤いジャケットを羽織っている女性だった。

 二人の足元からは首元に黒い岩石を着けた子犬型のポケモン──【イワンコ】が走ってきて、イルマとリコから離れたモクローとニャオハの前に歩み寄る。最初は警戒を露にするモクローとニャオハだが、無邪気に笑うイワンコに直ぐ心を開いたのか、イワンコとニャオハは直ぐにモクローの周りでグルグルと追いかけっこを始め、それを目で追っていたモクローはやがて目を回し、ドテンと仰向けに倒れた。

 

 フリードと男性が拳を付き合わせ、互いの手を上に、そして下に、最後に掌を上にしてまた上げると言う謎のハンドサインを行う中、ピンクのボブカットの女性がリコとイルマの前に歩み寄った。

 

「貴方がリコで、そっちがイルマね」

 

 名前を確認してくる女性に、リコは警戒心を露にし、そそくさとイルマの背中の影に退避する。リコが人付き合いが苦手だからという理由からではない。相手の素性が全く分からないからだ。古い知り合いであるバチコの知り合いらしいが、それとこれとは話が別だ。何せ自分が知っているのは『バチコは(ルッカ)に依頼されて来た』と言う事と、白髪の青年の名前がフリードという事だけであり、祖母の代理人を名乗っていたあの少年達の事も、彼等やこの船の事もなにも説明されずに連れてこられたのだ。警戒するのは無理もない。

 リコは退避したイルマの背中から少しだけ顔を覗かせ、訝しげな表情をするボブカットの女性におずおずと尋ねた。

 

「あの…貴方達は、どうして私達の事を…?」

「…あ!もしかして、貴方達が……えっと…ライジングボルテッカーズ?という人達ですか?」

「イ、イルマは知ってるの…?」

「名前だけならリコの所に向かう前に…」

 

 二人の態度と会話に、ボブカットの女性は頭痛を抑えるように頭に手を置き、直ぐに壮年男性と話をしている白髪にゴーグルの男──フリードをキッと睨み付ける。

 

「…あんた、まさかこの子達になにも説明してないの!?」

「あれ?言ってなかったか?」

 

 フリードの質問に肯定するように首を縦に振るイルマとリコ。

 その様子を見たボブカットの女性は、ジト目をフリードからその隣に佇むバチコに向ける。

 

「バチコ、あんたも説明しなかったの?その為にフリードと一緒に行ったんじゃなかったの?」

「…今回ばかりは返す言葉がねーな……。まぁ安心しろ。これから説明するし、断片的にではあるけど重要な(依頼人の)事は伝えといてるからよ」

「おいおい、どうやって連れてきたんだ?」

 

 苦笑いで頬を掻き、言い訳するように目を剃らすバチコ。

 イルマとリコの記憶の中では見たことがないバチコの姿に二人は顔を見合わせて一緒に少しだけ驚いていると、「ホゲー!」という声が聞こえてきて、二人はその声がした方に目を向ける。

 

 そこには、二足歩行の赤いワニの様なポケモン【ホゲータ】と、オレンジのずんぐりした身体をしたポケモン【パモ】が、笑顔で此方に向かって走ってきている。

 ホゲータはリザードンの前で立ち止まり、リザードンの帰還を喜ぶ様にはしゃぎ、パモはイルマとリコの前で立ち止まる。

 

「ホゲータ!それにパモまで…!」

「2体ともパルデア地方のポケモン…どうしてここに?」

「ソイツ等は、旅をしてる間にここに住み着いちまったんだ。他にもいるぜ」

 

 イルマの質問に答えた壮年男性に促された方を見てみると、ジョウト地方のポケモン【ヨルノズク】と【ツボツボ】、ホウエン地方のポケモン【ユキワラシ】がいる。三体は、イルマとリコに挨拶をするように笑顔で鳴き声を上げた。

 

(ポケモン達がこんなにリラックスしているなら…この人達、悪い人じゃ無いのかも…)

 

 状況は全く分からないし、相手の素性も分からない。だが、リコは何となくだが信用してもいい気がしてきた。ふとイルマに視線を向けてみると、イルマも同じ考えなのか警戒心は無さそうだ。

 

「自己紹介が遅くなった。私はモリーだ」

「俺はマードック。で、アイツが相棒のイワンコだ」

 

 壮年男性【マードック】が指した方向に顔を向けてみると、そこにはモクローを中心にしてじゃれているニャオハとイワンコの姿がある。すると肉球でモクローの頭をふみふみしていたニャオハから甘い香りが放たれ、その匂いを嗅いだモクローとイワンコは顔を緩ませる。その様子を見たホゲータとパモが小走りでニャオハ達の元に集まり、ニャオハの香りに笑顔を浮かべる。

 そんな微笑ましい光景に、リコは思わず口元を両手で抑える。

 

(皆可愛い~~…!!)

「あの~…結局皆さんはどういう方達で、何で僕達を連れてきたんでしょうか…?」

「…あぁ、その事か。1から説明するとだな……」

 

 キューンとトキめいているリコを余所に、イルマはバチコに彼等──ライジングボルテッカーズの事やあの少年達、そして何故自分達をここに連れてきたのか等、色々な事の説明を求める。その声が耳に入り、ハッと我に返るリコ。

 そして質問をされたバチコは、そろそろ質問に答えても良いだろうと、ライジングボルテッカーズを代表してイルマの質問に答えようとした、その時だった。

 

ビー! ビー!

 

「ん?レーダーに接近反応が3つ…?」

「…まさか、さっきの連中か?思ったよりしつけー奴らだな」

 

 フリードのスマホロトムが飛び出し、警報のような音を出した。

 スマホロトムの画面を覗き込んで呟いたフリードの言葉を聞き、バチコが面倒そうな声色で舌打ちする。

 

「何?」

「操舵室に行く。ヨルノズク、周囲の警戒を頼む!奴等はまだ諦めちゃいない!」

 

 フリードの指示を聞き、ヨルノズクはブレイブアサギ号の展望室の屋根まで飛ぶ。

 展望室に向かうフリードに、事情を知らないマードックとモリーは頭に疑問符を浮かべる。そして、マードックが口を開いた。

 

「フリード、奴らってなんだ?学校で何があった?」

「詳しい話は後だ。マードックは下を見てくれ。バチコとモリーは、ポケモン達とその二人を頼む」

「わかった」

「任せときな」

 

 マードックが頷くと、スマホロトムで誰かと通話をしていたモリーが、通話を切ってフリードに声をかける。

 

「フリード!進路に嵐が発生してるってオリオがテンパってる」

「何とかする。行くぞ、リザードン」

「戻れ、イワンコ」

「イルマ、リコ。ウィングデッキ(ココ)は色んな意味で危険だ。ポケモン達を連れてこっちに来い」

「えっ、あの」

「あの、結局皆さんの事は…」

「い・い・か・ら来い!聞きたい事は中で説明してやっからよ!」

「バチコ、もう少し相手に配慮しなさいよ……」

 

 戸惑うリコとイルマの背中を物理的に押し、フリードとマードック達に続いて展望室に押し込むバチコ。その様子を見てモリーが呆れたように呟くが、この状況では仕方ないと溜め息を吐いてバチコに続く。

 

 ツボツボをモリーが抱き抱え、バチコがユキワラシを抱き、イルマはモクローとパモを両肩に乗せ、リコはニャオハを抱えて展望室に入る。エレベーターの前まで足を進めると、その途端にガタンッと言う音が響き、展望室の明かりが消えた。

 モリーが展望室にエレベーターのボタンを押すが、反応がない。

 

「停電か…」

「こんな時に限って……」

「あの、すみません。何が何やら……」

「ぼ、僕達はなんで連れてこられたんですか…?」

 

 険しい顔のモリーとバチコに、もう流されるのはよくないとリコとイルマは意を決して二人に尋ねる。それを聞き、バチコはそろそろ事情を説明しなければ此方の信用を失ってしまうと、面倒な事はモリーに一旦任せ、バチコはイルマとリコの目を見て説明を始めた。

 

「あッチ等は『ライジングボルテッカーズ』。平たく言えば世界中を巡る冒険家集団だ。あッチは数年前からメンバーの一員として活動してる。リーダー(フリード)はあッチの幼馴染みでな。カントーでリコの母親(ルッカさん)イルマの祖父(サリバンさん)には世話になってたよ」

「お、お母さんと……」

「お爺ちゃんが!?」

 

 バチコの情報にイルマは軽く目を見開く。イルマの祖父とリコの母親は教師をしている。バチコもその二人の教え子であり、今でも交流があるからこそ、幼い頃のイルマとリコはバチコと縁があった。他にも教え子がいる事は何ら不思議ではないが、まさかフリードがそうだったとは、と。

 

「数日前、ルッカさんから依頼があってな。『セキエイ学園に通う自分の娘(リコ)を保護して自分の元に送り届けて欲しい』ってな」

「ど、どうして…」

「詳しい事は聞いてねぇが、理由はどう考えても()()()()だろうな」

 

 『アイツ等』というのは間違いなく先程の三人の事だ。フリードとバチコの発言から、彼等はまだペンダントを狙って追ってきているのだと、リコは首にかけているペンダントをギュッと握り締める。

 

「あの…それじゃあ何でバチコさんは僕の所に?」

 

 そこで、今度はイルマが質問する。

 保護対象がリコならば、バチコがフリードと別れて自分と接触した理由が分からない。昔馴染みに顔を見せに来た可能性もあるのだが、それだとバチコの『サリバン(祖父)の依頼でバチコ達の旅に同行させる』という言葉の意味が分からない。

 

「カントーに来た直後、あッチはサリバンさんに連絡したんだ。フリードは優秀なんだが、少しそそっかしい奴だからな。一人で行かせると事情の説明もなしにリコを連れてくかもしれなかったし……」

 

 バチコは呆れたような表情で愚痴るように言う。

 実際、もしもリコを迎えに行くのがフリード一人だったから、事情を説明せずにリコをブレイブアサギ号連れて行き、もしかしたら通報されていたかもしれないので、前もってサリバンに連絡をしていたのだ。

 

「その時、サリバンさんからも依頼されたんだ。『リコをパルデアに送る旅にイルマを同行させてくれ』ってな。サリバンさんの考えはよく分からねぇが、断る理由もねぇからその依頼を受けたんだよ。それに、イルマが傍にいた方がリコも安心すんだろ?」

「うぇ!?そ、傍にって…そ、それは…その……」

「?」

(……あー、そういう事)

(そーいう意味で言ったんじゃねぇんだけどなぁ…)

 

 バチコの言葉に、途端にリコは顔を真っ赤にして慌て、チラチラとイルマの顔を見ては下に向けるを繰り返す。その様子を見て、訳が分からずに首をかしげるイルマに、何となくリコの内心を察したモリーとバチコ。

 

 その時、展望室の屋上で見張りをしていたヨルノズクが大声で鳴き始めた。その声を聞き、バチコとモリーは表情を変える。モリーが直ぐに展望室の望遠鏡を覗き、後方から迫ってくる鳥ポケモンに乗る三人組を見た。

 

「アイツ等…エクスプローラーズじゃん!」

 

 モリーの言葉は、同じ部屋にいたバチコ達は勿論、彼女のスマホロトムで通話をしたいた仲間達にも届き、ライジングボルテッカーズのメンバーを驚かせる。

 

 やがて嵐が間近に迫っていることもあり、ヨルノズクも部屋に避難する。船は来たに進路を取って空を進むが、アーマーガアとエアームドに乗ったアメジオ達はどんどん距離を縮めてきており、モリーとバチコが焦りを見せた時、スマホロトムからフリードの声が聞こえてきた。

 

『──よし、雷雲に向かって進路を取るぞ』

『ピーカァ』

『はぁっ!?何言ってんだ!?』

 

 続いて、頼もし気なポケモンの声と、マードックの驚愕した声が聞こえてくる。

 マードックが驚愕するのも無理はない。船の前にある雷雲は積乱雲と呼び、地上に落雷や集中豪雨、時には竜巻ももたらす非常に危険な雲だ。また、雲の中では激しい対流が起こっていている事で幾つもの上昇気流があり、航空機でも近づけば墜落の危険があるのだ。だというのに自ら雷雲に飛び込むなど、死にに行くつもりかと言われても無理はない。

 

『そうでもしなきゃ、アイツ等帰ってくれないだろ。…全く、今日にピッタリの良い天気だぜ…!』

「また無茶を……ま、それしかないか…。オリオ、あんた次第だ」

『好き勝手言ってくれるね……了解!やったろーじゃん…』

 

 スマホロトムから、また知らない女性の声が聞こえる。

 すると直ぐにブレイブアサギ号が速度を上げ、船は大きく進路を変えて雷雲に突っ込んでいく。窓ガラスにバチバチと雨が降り注ぎ、風の影響で船が大きく揺れる。

 

(この人達、豪快です……)

 

 その時、イルマとリコはガラス扉の向こうで、ウィングデッキのバリアを破ろうと技を放つエアームド二体とアーマーガア、そしてその背中に乗る、『エクスプローラーズ』と呼ばれた連中がいる事に気付き、慌ててモリーとバチコに声を掛ける。

 

「あ、あの!あの人達が…!」

「ッ!フリード、エクスプローラーズがウィングデッキに!」

『なんだと!?…モリー、ウィングデッキ畳めるか?』

「電源が死んでる…仕方ない」

 

 すると、モリーは踵を返してガラス扉を開き、隙間から振り掛かる雨と風に顔をしかめながらも扉の向こうに足を進めた。

 

「あ、あの!何処に!?」

「手動でやるしかない…。バチコ、その子達を頼むよ」

「おう!」

 

 同時に、モリーは扉を閉める。

 バチコは扉の近くの壁に背を預け、今にもバリアを破ろうとしているエクスプローラーズを警戒する。イルマとリコは、バチコに頼まれて、敵の襲撃に怯えるポケモン達の擁護をする。

 

 その時、ついにバリアが破られ、ウィングデッキに少年達が降りてくる。雨に濡れた髪をかき上げながら、展望室に向かって歩いていく少年と男女。

 展望室への階段へ上がろうとした瞬間、展望室の扉が大きく開かれ、ピンク色の小柄な人影が現れた。

 

「──無断乗船とは随分躾がなってない奴等だなァ」

 

 小柄な女性──バチコは、ハスキーな声で話し掛けながらアメジオ達を見下ろす。アメジオの後ろでモンスターボールを取り出すコニアとジルに「手を出すな」と制止するのを一瞥すると、手動でウィングデッキを畳もうとしていたモリーに大声で話し掛けた。

 

「モリー!オメーは展望室を頼む!コイツ等の相手はあッチがする!」

「すまない!」

 

 モリーが此方に向かっているのを見ると、バチコは展望室でリコの隣にいるイルマに視線を向ける。

 

「イルマ、オメーはモリーと一緒にリコを守ってろ。オメーとモクローは中々筋が良いからな。多少の事なら大丈夫だろう」

「あ…は、はい!」

「あの!私は…」

「安心しろ。オメー等もポケモン達も、あッチが守ってやるからよ」

 

 笑顔でそう言うと、バチコはモリーと入れ替わるように展望室の階段を下って行き、アメジオ達の前に立つ。小柄な体躯ゆえに自分よりも高い位置にあるアメジオの顔を見据えると、バチコは不適な笑みで口を開いた。

 

「まさか、オメー等があの悪名高いエクスプローラーズのメンバーだったとはな…」

「──アメジオだ」

「ライジングボルテッカーズのバチコだ」

 

 簡単な自己紹介を終えると、バチコは豪雨と落雷で荒れる外を一瞥すると、再びアメジオに視線を戻した。

 

「いいのか?ウィングデッキにいた(ここに居た)まんまじゃあ、あッチもテメー等も嵐に呑み込まれて御陀仏だぜ?」

「…どうやらペンダントの秘密にはあの少女と関係がある様だ。彼女を連れていけば直ぐに出ていく」

「おっと、それは無理な相談だな」

「では…先程の続きをやるか?」

 

 モンスターボールを取り出すアメジオに、バチコはジュナイパーが入ったモンスターボールを握る手に視線を落とすと、直ぐにアメジオに視線を戻す。

 

「……あッチとしても、色々不完全燃焼だったから望むところ……って言いたかったんだけどなァ…」

「?」

 

 落胆した表情のバチコに、意味が分からず頭に疑問符を浮かべるアメジオ。

 その直後、バチコの顔が上を向いたのにつられ、エクスプローラーズは全員、バチコの視線を追って空を見上げた。そこには……

 

「アイツが来たんじゃあ仕方ねぇな」

 

 大きな翼をはばたかせて嵐の中を飛ぶリザードンと、その背中に乗る船長帽を被るピカチュウを肩に乗せたフリードが、物凄いスピードで此方に向かってくる光景が目に入り、コニアとジルは目を見開き、アメジオは静かにその光景を眺めていた。

 そして、フリードとピカチュウを乗せたリザードンはバチコの隣に降り立ち、リザードンの背中から降りたフリードはゴーグルを額にずらし、バチコに笑顔で話し掛けた。

 

「バチコ、待たせちまったか?」

「誰も待ってねーよ!来るなら来るって最初から言え!リコに『あッチが守ってやるからよ』ってカッコつけたあッチ超恥ずかしいじゃねーか!」

「イッテェ!?」

「ピカッ」

 

 バチコはフリードの背中をバシッと思いっきり叩き、船長帽を被ったピカチュウは咄嗟にフリードの頭に飛んで避難する。背中を擦るフリードに、バチコはやや不機嫌そうに腕を組んでフリードを見上げた。

 

「で?舵はどうした?リザードンも引っ張ってきて……それでこの雷雲を脱出できるのかよ?」

「……ったく、舵はマードックに任せたよ。リザードンがいなくてもオリオなら大丈夫だろう」

「相変わらず無茶ばっかしやがって…ま、不本意だけどアイツの相手は任せたぜ」

「あぁ」

 

 そう言うと、ピカチュウを乗せたフリードはバチコの一歩前に歩み出てアメジオを見据える。アメジオは目の前で空気を読まずにふざけている(またはじゃれている)様にも見える二人のやり取りに若干不機嫌そうな様子だ。

 

「…相手をするのはお前か?」

「フリード。ライジングボルテッカーズのリーダーだ。お前の相手は、俺がしてやるぜ…戻れ、リザードン」

 

 そう言うや否や、フリードは隣にいたリザードンをモンスターボールに戻す。その行動に、アメジオは訝しげにフリードを見て口を開く。

 

「…何のつもりだ?」

「決まってんだろ。行くぜ、キャップ!」

「ピカチューー!ピカピカ!」

 

 フリードの呼び掛けに、『キャップ』と呼ばれた船長帽を被るピカチュウ──【キャプテンピカチュウ】は帽子を脱ぎ捨ててフリードの肩から飛び出し、ウィングデッキ(バトルフィールド)に降り立って腕を組んだ。

 アメジオの顔が更に険しくなる。

 

「ピカチュウ?なめられた物だな」

「それはこっちの台詞だ」

 

 アメジオはモンスターボールからソウブレイズを出し、ソウブレイズは両腕の剣を構える。体躯と見た目の差でピカチュウ(キャップ)が不利なように見えるが、キャップもフリードも1ミリも臆した様子を見せない。

 

「では手加減なしだ」

「見せてやろうぜ…!キャップ!“かみなりパンチ”だ!」

 

「ピカッ!ピカチューー…ピッカァーッ!」

「…ッ、ブレイズッ!!」

 

 キャップが繰り出した雷を纏った右ストレートを、ソウブレイズは両腕の剣をクロスさせて防ぎ、キャップを弾き飛ばす。

 

「フッ、ソウブレイズには効かん」

「次だ!“かげぶんしん”!」

 

「ピッカ…ピカッ!」

 

 次の瞬間、キャップの周囲に無数のキャップの分身が現れた。キャップと分身達は、一斉にソウブレイズに向かって走り出した。

 

「ソウブレイズ、“サイコカッター”!」

 

 アメジオの指示を聞き、ソウブレイズは腕の剣からマゼンタ色の斬撃を放ち、キャップの分身を次々に消して行く。前方の全ての分身が消えると同時に、ソウブレイズの背後にキャップが現れた。

 

「“かみなりパンチ”!」

「ピカッ!ピカチュウーー…ッ!」

 

 フリードの声がバトルフィールドに響き渡り、キャップはソウブレイズの背後で右手に稲妻を纏わせ、その拳を振りかぶる。

 

「“むねんのつるぎ”!!」

 

 その瞬間、アメジオの指示を聞いたソウブレイズが振り返り、炎を纏わせた剣でキャップを切り裂く。しかし、切り裂かれたキャップは跡形もなく消失してしまった。

 アメジオとソウブレイズが目を見開く中、大量の影分身にアメジオとソウブレイズが気を取られた隙に展望室の屋上に移動した本物のキャップは、天に向かって両腕を高く上げる。

 

ピシャアァァンッ!!

 

 次の瞬間、雷雲の中の雷がキャップに降り注ぎ、バトルフィールド全体を目映い光が照らす。

 

「ピカッチューウ……!」

 

 展望室の屋上で、落雷を吸収して雷電を纏うキャップが腕を組んで仁王立ちする。

 

「いいぞキャップ…!行けぇ!“ボルテッカー”!!」

 

「ピカァッ!ピッカピカピカピカピカァ…ピッカァ…!!」

「ブレイィ…!!」

 

 キャップは莫大な電撃を纏い、ソウブレイズに猛スピードで突撃する。落雷の力を得てパワーアップした“ボルテッカー”の威力は並大抵の物ではなく、両腕の剣で受け止めたソウブレイズは後退して行き、背中がバトルフィールドの壁に衝突する。

 

「まだだ!ソウブレイズ、“サイコカッター”!」

 

 負けじとソウブレイズは渾身の力でマゼンタに光る剣を振り抜き、キャップの攻撃を受け流す。

 衝撃で吹き飛ばされたサイコカッターの斬撃が飛び、リコやポケモン達がいる展望室に直撃し、小規模な爆発を起こした。

 

「くっ!」

「きゃぁっ!?」

「リコ、大丈夫?」

「「「「「ッ!?」」」」」

 

 爆発の衝撃で展望室は揺れ、爆煙が室内に入り込む。それに展望室にいたモリーは怯み、バランスを崩したリコをイルマが抱き止め、パモやユキワラシ達といったポケモンは怯えて身を縮こまらせる。

 その様子にフリード、キャップ、バチコ。更にはアメジオとソウブレイズも展望室に目を向ける。

 

「……ッ」

「ニャ?」

「あ、リコ!?」

 

 すると、展望室にいたリコは、ニャオハを抱き抱えながら悲痛そうな表情でイルマの腕の中から抜け出すと、小走りにガラス扉を開き、階段を駆け降りて、大声で叫んだ。

 

「やめてください!」

 

 悲鳴にも似た叫び声に、バトルフィールド内にいた全員の視線がリコに集まる。

 

「…これ以上、皆さんに迷惑掛けたくない…です」

「はぁ?何言ってんだ…?」

「……これ以上…皆が、傷付いて欲しくないです」

「……」

「聞いたか?余計な手出しは無用だそうだ」

 

 リコの言葉を聞いて、無言でリコを見つめるフリードにそう声掛けるアメジオ。

 リコは抱き寄せたニャオハの頭を片手で撫でながら、言葉を続ける。

 

「ニャオハだって、きっと……」

「~~ッ、ニャオハッ!!」

「ッ、あっ!?」

 

 その時、リコの腕の中にいたニャオハが暴れだし、リコの腕から飛び出した。

 思わず尻餅を付くリコに、ニャオハは真っ直ぐにリコを見て、声を張り上げた。

 

「ニャニャオ!ニャ!」

(何々?どうしたのニャオハ?何をそんなに…)

 

 人間であるリコに、ポケモン(ニャオハ)の言葉は分からない。眼を吊り上げながらもリコの眼を真っ直ぐに見て叱咤する様に鳴くニャオハを、リコは尻餅を付いたまま呆然と見ている。

 

「ニャオニャオ!ニャ!ニャオハッ!!」

(……そっか、ニャオハは気付いてたんだ……私が自分に嘘付いてるって…)

 

 ニャオハの心理を感じ取ったリコの目に思わず涙が溜まる。

 …ふと、リコの視界の端に、モリーやポケモン達と共に展望室から出てきて此方を心配そうに見つめるイルマの姿が見えて、リコの脳裏に何時かの夜中の特訓の日の出来事がフラッシュバックする。

 

『──自分がどうしたいのかハッキリすれば良いんじゃないかな?』

 

(イルマの言う通りだった…。私、自分の気持ちをニャオハにハッキリ伝えられてなかった…)

 

 リコは涙を拭い、大きな足取りでキャップを肩に乗せたフリードの横を通り過ぎ、アメジオとソウブレイズの前に向かい合うように立つ。

 

「行くよ、ニャオハ!」

「ニャア!」

 

 リコは大きく息を吸い、これまでの人生で一番と言える程大きな声で、叫んだ。

 

 

「このはぁああーーっ!!!」

「ニャオハーーーーッ!!!」

 

 

 その瞬間、ニャオハの首元から膨大な、それこそ学園でモクローが放ったそれの何百倍もの量の“このは”が、アメジオに迫る。

 咄嗟にソウブレイズがアメジオの前に立ちはだかり、“このは”の嵐を防ぎ、バリアに覆われたバトルフィールドが木の葉に包まれる。イルマやモリー、バチコやフリードにキャップですらその光景に息を飲み、コニアとジルは懐から独りでに飛び出したエアームドの影に隠れる。

 その時、嵐から彼らを守っていたバトルフィールドのバリアの一部が破れ、それに続くようにウィングデッキ全体のバリアが消える。“このは”が雨と風に流されて消えて行き、同時にウィングデッキにいた全員に突風と豪雨が降り注ぐ。

 突然の強風に、リコとニャオハは体制を崩し、嵐によって傾いていたウィングデッキを滑る。

 

「きゃあ!」

「あぶね!」

 

 咄嗟にリコをフリードがスライディングで受け止め、ニャオハを足でキャッチしようとするが、僅かに届かせることが出来ず、ニャオハはウィングデッキを滑り落ちていく。リコがニャオハに向けて手を伸ばす。

 バチコが急いでジュナイパーのボールを取り出して投げようとするが、そのタイミングでバチコの後ろから強風が吹き、思わずバランスを崩してしまい、ボールを出すタイミングが遅れてしまう。バチコが本気で焦りを感じた、その時…

 

「──危ない!!」

「ニャア!?」

「ッ!イルマ!?」

 

 展望室の前に居たイルマが、傾いたウィングデッキを滑ってニャオハに追い付き、片手でニャオハを抱き抱えた。

 イルマは両足と、ニャオハを抱える腕と反対の腕でウィングデッキに手をついて必死にバランスを取ろうとするが、強すぎる風と雨に濡れて滑りやすくなってしまったウィングデッキによって、努力も空しくニャオハを抱えたままウィングデッキを滑り落ちて行き、遂にウィングデッキの端まで来てしまう。

 

「ニャオハッ!!イルマーッ!!」

 

 リコが必死に二人を助けようと手を伸ばし、フリードが危険だとそれを制止する。フリードも二人を助けたいが、今手を離せば今度はリコが吹き飛んでしまうし、リザードンを出そうにも両手が塞がってしまっているし、ピカチュウ(キャップ)ではいくらなんでもパワー不足だ。

 その時、展望室の方から女性の声が響き、モンスターボールがイルマとニャオハに向けて投げられた。

 

「行け、ジュナイパー!!」

 

ポンッ!

 

「ジュナァーッ!!」

「うわぁっ!?」

 

 展望室に続く階段の手すりを片手で掴んでバランスを取ったバチコが投げたモンスターボールから飛び出したジュナイパーが、背後から吹き荒れる風の勢いを利用して超高速でイルマとニャオハの元へ飛び、ジュナイパーはイルマの両肩を足で掴み、風の勢いに全力で逆らいながらバチコの元へと戻っていった。

 バチコの元へと戻ったジュナイパーはゆっくりと高度を下げ、イルマの肩から足を離す。ニャオハを両手で抱えながらも再び風によってバランスを崩しそうになるイルマを、バチコが制服を掴んで止める。

 

「もっふーー!」

「も、モクロー…!」

「…あの状況で飛び出すなんてな…。全く、フリード並みに無茶な奴だぜ……」

 

 直ぐに相棒(パートナー)のモクローに頭の上に抱きつかれたイルマを、バチコは呆れと感心が混じった様な表情で呟いた。こんな嵐の中に命綱も無しに飛び出すなんて死ぬ気かとでも叱ろうと思ったが、実際彼がニャオハを少しの間だけでも止めてくれなければ、ニャオハがブレイブアサギ号から放り出されて地上に向かって真っ逆さまになっていたかも知れないので、バチコはその言葉を呑み込んだ。

 

「ニャオハ!イルマ!」

 

 すると、リコがフリードの腕から飛び出して、嵐の風にややふらつきながらもイルマとリコの元へ向かって走って来て、ニャオハとイルマの名前を呼びながら、ニャオハを抱えたイルマにギュッと抱き付いた。 

 

「…よかった…!二人とも無事で…!」

「ニャオハ!」

「……////」

 

 涙声で声を漏らしながら、イルマの背中に回した腕の力をギュ~ッと強めるリコ。イルマとリコに挟まれながらも嬉しそうに声を上げるニャオハと、咄嗟に赤くなった顔をプイッと反らすイルマ。

 嵐の中で何をイチャついてんだと言いたくなるバチコだが、リコの心情はよく理解できたので、後で二人を全力でからかってやる事にする。

 

 そんな風に考えているのと同時に、フリードも展望室の前に戻ってくる。バチコとフリードは、各々の持つ鳥ポケモンの背中に乗ってウィングデッキから離れたアメジオ達に目を向ける。

 

「アメジオ様!このままでは危険です!」

「……」

 

 コニアの言葉を聞き、アメジオは若干悔しそうに顔をしかめるが、視界の端でエアームドにソウブレイズを回収させたジルが、フリード達に見えない位置でブレイブアサギ号に発信器を投げて取り付けたのを見て、直ぐに判断を下した。

 

「撤退するぞ!」

「「は!」」

 

 嵐の中でこれ以上深追いするは自分達やリコとペンダントに危害が及ぶと、アメジオは一時撤退を選んだ。ジルが発信器を取り付けたのだから、その信号を追って後からペンダントとリコを手に入れれば良いのだと判断する。

 ブレイブアサギ号と雷雲から離れていくアーマーガアとエアームド2体の姿を見続けていたフリードとバチコ。やがてエクスプローラズが完全に見えなくなると同時に、ブレイブアサギ号の近くで雷鳴が轟き、船の揺れが更に激しくなる。

 フリード達はふらつきながらも何とかバランスを取り、同時にフリードのスマホロトムが懐から飛び出して、通信が入る。

 

『フリード!嵐がどんどん強くなっていくぞ!』

「直ぐに行く!バチコ、皆を頼んだ!」

「分かってるよ!イルマ、リコ!直ぐに展望室に来い!」

「「は、はい!」」

 

 フリードはモンスターボールから出したリザードンを再び機関室に向かわせ、自身は操舵室に向かう。フリードの指示を聞いたバチコは腕で顔を雨からガードしながら、イルマとリコとそのパートナー達、そしてモリーやポケモン達を連れて、爆煙が収まった展望室の中に入っていく。

 全員が展望室に避難してバチコが扉を閉めるのとほぼ同時にブレイブアサギ号の速度が上がる。

 

 一難去ってまた一難。エクスプローラズという驚異を退けたライジングボルテッカーズは、今度は嵐という大自然の驚異から逃れるべく、全速力でブレイブアサギ号を走らせた。

 




・原作との相違点

ニャオハ誘拐回避
『ニャオハとなら、きっと』の話は丸々潰れました。前回の話で主人公のイルマ君が空気だったので出番を作りたかったのですが、いくらなんでもモクローでアメジオのソウブレイズと戦える訳もありませんし、色々と頭を悩ませた結果、このような展開となりました。アニポケ3話が好きだった、気に入らなかったという方々は申し訳ございません。

次回、カントー離島編です。

現在実施しているアンケートは、次話投稿と同時に終了とさせていただきます。
終了した時に一番投票数が多いポケモンがイルマ君の二体目となりますが、もしもオーガポンが一位であった場合は、パルデア編とガラル編の間にオリジナルストーリーとしてキタカミの里編を執筆する事となります。

感想、評価お待ちしております。

イルマくんの二体目の手持ちポケモンは誰がいいですか?

  • ラルトス
  • イーブイ
  • リオル
  • ヌメラ
  • オーガポン
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