闇堕ちタンクくんの光堕ち   作:傘葉

1 / 23
タンクくんを救いたい……!


北都編
目覚めしウォーリアー


 最初に目に入ってきたのは、灰色のコンクリートだった。

 

 どこまでも薄暗く、一メートル先もまともに見えない。首を傾げ、周りの様子を確認しようとするが、体が上手く動かない。目に見える範囲にあるものは、手枷をつけられた自分の右手と、何やら怪しい色の液体が入った水槽のみだ。

 

「やあ、お目覚めかな。眠れる戦士くん」

 

 突如、視界に一人の男が入って来た。

 

 いや、正確には男かどうかはわからない。血のように濃い赤色の宇宙服のようなスーツを身につけ、コブラの意匠のプレートを胸部に付けているその人物。コツコツコツと、こちらへと徐々にその足音が近づいて来た。

 

「あ…あん、たは……」

 

 声を出そうとするも、上手く言葉を発せない。掠れた声が虚しく室内に放たれる。しかし、ここはよほど狭い場所なのか俺の声は壁に反射し、想像以上の大きさとなる。

 

「俺の名はブラッドスターク。気軽にスターク、とでも呼んでくれ。島田千華くん」

「せん……か……せん…か」

「何だ?自分の名前だぞ。まさか忘れてたなんてことはないだろうなぁ?」

 

 スタークと名乗った人物は、飄々とした声で俺に話しかけてきた。

 

 千華という名前、その響きがすんなりと頭の中に入ってくる。……思い出した、間違いなく俺の名前だろう。

 しかし、俺は今までその名を忘れていた。それだけじゃない、何か俺の……

 

「年齢は?誕生日は?好きな食べ物に嫌いな人間のタイプは?」

 

「俺は………」

 

 駄目だ。何も思い浮かばないし、思い出せない。頭に白い靄がかかり、まるで一人暗い森の中に取り残されたような孤独感と恐怖に襲われる。

 

「やはり記憶が無いようだな………おおっと、そう心配するな。お前のことは俺たちがちゃーんと面倒見てやるよ。だから今は………眠れ」

 

 スタークはまるで幼い子供を寝かしつける親のように、落ち着いた声で語りかけると、俺の頭に手を置いた。その瞬間、俺の意識がゆっくりと少しずつ消えていく。だが、そこに不快感はなく。むしろ、まるでゆりかごで揺らされているような心地よさを感じた。

 

「さぁて、お前にはこれからたっっぷりと働いてもらうことにしよう。軍事兵器仮面ライダーの部品(パーツ)としてなぁ」

 

 

 

 

─────

 

 

 

 

「それであのガキは一体何者なんだ?」

「最上魁星の行っていた平行世界の観測実験、その時の副産物だ。偶然にもあちら側の世界で発見したらしい。彼の持つネビュラガスへの異常なまでの耐性、それが並行世界の因果と何か関係あるのかは不明だったそうだが、その場で拘束、半年間ネビュラガス入りの水槽で保存していたらしい」

「その結果手に入れたのがハザードレベル3.0、

仮面ライダーへの変身能力。しかしその代償として記憶を失ったか………」

 

 

 スタークは仮面の下から、目の前の老人の真意を探ろうとする。難波重工の会社の頂点に男難波重三郎、巨大な野望を抱き、ただ己の野心の為に突き進む狂人。体は年老いているとはいえ、その腹の中は未だに黒き野望が、滾っていた。

 

 彼はスタークのスポンサーとして、秘密結社ファウストの暗躍をサポートしてきた。しかしそれさえも難波にとっては、大いなる野望の為の一つの通過点に過ぎない。彼の描く終着点は、ライダーシステムを軍事兵器として利用し、パンドラボックスの力を独占、難波重工が世界の覇権を握る世界であった。

 

「最上が奴をどう利用しようとしていたのかは、検討が付かんが使えるものは使わせてもらう。

 確か、葛城が隠していた予備のビルドドライバーと設計図があるだろう」

「おいおい、忘れちまったのか?スクラッシュドライバーの設計図も、あと僅かで完成する予定だ。なのにわざわざ、旧式のアレを使う必要はねぇと思うがなぁ?」

 

 大袈裟に手を広げ、おどけた口調で難波に問いかけるスターク。その姿は、難波を挑発しているかのようにも見える。しかし、それを気にする様子もなく難波は、話を続けた。

 

「商品には、バリエーションというものが必要なんだよ。それにビルドは、あのドライバーを使って想定外の力を手に入れたようじゃないか。新たな可能性のためにも損は無いと思うがね?」

「ふはは、コイツは痛いところを突かれたな。いいだろう」

 

 まるで傑作だと言わんばかりに、手を叩いたスタークは、ソファーから立ち上がると、くるりと軽やかに難波の方へと体を向けた。

 

「ご要望通り、もう一つベルトを用意しよう。それでボトルの方は………」

「ビルドのパンドラボックスの力と適合したボトル、確かラビットとタンクだったか?両方とは言わん、どちらか一方を次の戦争の混乱に乗じ、奪取させよう」

 

 

──くくくっ、こいつは──

 

 

 スタークは難波の心情を察し、そして嗤った。

 

 ワラウという動作それは、感情のない■■■■にとっては理解不能なものだ。だがこの十数年間、この惑星の人間たちを見てきた■■■■は、難波の考えが手に取るように理解った。

 

 文字通りのパンドラの箱であるアレの力を誰よりも理解し、独占しようと考える難波にとって、その力を自身以外の人間が持っているのは我慢ならないのであろう。

 要するに、彼は恐れているのだ。道具として一方的に利用していたはずの仮面ライダービルドを。

 

 しかし難波の考えとは別にして、スターク自身もビルドの新たな力、スパークリングに注目していた。あのとき桐生戦兎が、自分を下す新たな発明をしてくるのは、予測できていた。しかし、パンドラボックスの成分を解析してくるのは予想外であった。

 

 想定内の想定外、そう評するのが正しいであろう今回の出来事ではあるが、彼らは結局■■■■の計画から抜け出すことはできないだろう。だが、それと同時に■■■■は興味があった。

 ─────人間の可能性に

 

 人間、長らく同じ場所に住んでいれば、多少の思い入れは自然とつく。それは感情のない■■■■も例外ではなかった。本人は気づいていない無意識的なものだが、彼は本質的な部分で人間を受け入れていた。俗な言い方をすると、人類という種を愛していたのだ。そして彼は期待したのだ、人類がどこまで自分の計画を上回れるかを………

 

 

 

─────

 

 

「行くぞ、千華」

「こっちもいくよ、雷」

 

 

 互いに攻撃の意思を示した僕たちは、ファインディングポーズを取る。目の前にいるのは、僕と同じ難波重工のメンバー鷲尾兄弟の片割れ、弟の雷だ。

 距離はおおよそ二メートル弱、一歩踏み込んで腕を振れば充分に命中する距離だ。雷もそれをわかっているのか無闇に攻めてこようとはしていない。お互いに様子を見ながら、ジリジリと足を動かし、少しずつだが距離を詰める。

 そして互いに構え始めて十秒ほどが経ったとき、雷が大きく踏み込んできた。

 

 それと同時に振るわれた右手は、真っ直ぐに僕の顔面目掛けて飛んでくる。雷の方が僕より身長が高い分、リーチは劣ってしまう。だが、こちらも左腕を構えて、それを受け流すことで対処、残った右腕を雷の鳩尾に振るう。その一撃を雷もただ見ていただけでなく、残った左拳で受け止めると、右足の蹴りですぐさま反撃してくる。僕は体を右に捻ってそれを回避、左手を雷の左手首に叩きつけ、すぐさま距離をとる。

 

 距離を取られた雷は、そのままこちらに突撃してくる。両手での猛攻を最小限の動作で躱したり、受け流したりしながら隙を伺う。そしてついに放った大ぶりの一撃、その隙を見逃さず無防備な両足へ、下段蹴りを打つと雷は体勢を崩した。そのままさらに追撃、胸部へと大きな一撃を喰らわせる。モロに受けた雷はそのまま数メートル後退、そしてそこに大振りのパンチを放とうとしたとき、

 

「うぉっっ⁉︎」

「俺の……勝ちだ」

 

 僕の右腕を掴んだ雷は、そのまま背負い投げで地面に俺を叩きつけると、顔面に寸止めで拳を放った。少し遅れてやってくる衝撃、それが僕に負けたという事実を文字通り叩きつけてきた。

 これでここに来てかから風も含めて、41回目の敗北だ。

 

「また負けた……」

「数週間でこのレベルまで上がって来てるんだ。大したもんだろう」

「雷の言う通りです。落ち込む必要はありません」

 

 立てますか?と近くで観戦していた風が、手を差し伸べてくる。

 

 鷲尾風と鷲尾雷、難波重工によって育てられた難波チルドレンの一員たちだ。二人は、数週間前にここに連れてこられた俺に訓練をつけてくれていた。最初は疎外感というか、妙な距離感を感じていたが、今では「お前も弟にならないか?」と冗談のようなことも言い合える間柄になっている。

 

「しかし、そろそろお前も初陣か」

 

 水の入ったペットボトルを投げてきた雷が、思い出したように俺に問う。

 

「初陣、と言っても北都の連中が東都に攻め込むのをサポートするだけだけどね」

「君ほどの力を持っているなら、例えあの仮面ライダーが相手であろうと、心配はいりませんよ」

 

 風が俺に激励を送ると、雷も頑張れよ、と肩を組んでくる。そう、僕は後少しで戦争に参加する。

 敵は、パンドラボックスの力を独占しようとする東都の連中。奴らは仮面ライダーという強力な軍事兵器を保有しているらしい。だが、問題はない、障害になるものは全て叩く。それが()()()()()()()()だからだ。

 

 

 

 

 そして数日後、僕に正式に命令が下った。

 

 

「これが私の改良した初期型のカイザーシステムです。次の任務はこれのデータ収集も兼ね、目標を確保してください」

 

 難波会長の秘書である内海さんから、アタッシュケースに入った紫色の特殊拳銃ネビュラスチームガンと二つのフルボトルを模して開発されたエンジンギアとリモコンギアを受け取る。使い方自体は以前レクチャーを受けており問題はない。

 

「さぁて出発しようか、楽しいピクニックの始まりだ」

 

 まるで遊びに行くかのような、軽快な足取りで俺の先を歩くスターク、それに続いて僕もスカイウォールを越え、北都の地に足を踏み入れた。





・オリ主くん
 最上魁星に興味本位で連れてこられた(誘拐された)子。元々の記憶喪失+スタークによる洗脳処置で、元の人格はほとんど鳴りを潜めている。スタークに対して、絶対の忠誠を誓っている。ネビュラガスに対する耐性が異常に高い

・スターク(■■■■)
地球LOVEな人。人間の可能性を楽しみたい一心で、色々と手を貸している。実はオリ主くんの洗脳を、幾分か弱く設定している。ついでに体術やら何やらを教え込んだ。

・難波会長
実はスパークリングに結構ビビってる人。実際スパークリングにはパンドラボックス由来の成分が入ってるので、かなりイレギュラーだったと思われる。

・鷲尾兄弟
オリ主くんに対して同族意識を持っている。実際は難波にではなく、スタークに仕えているのだが……

・最上魁星
名前だけ出てきた人
この先出る予定は今のところ無い。


  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。