「我々に君と戦う意思はない」
未だにドライバーを外さない俺に、三人の長であろう男が穏やかな声色で語りかけるが、どうにも油断ならない。エボルトと同格、いや下手すればそれ以上の力を持つ彼ら相手に警戒を解くなど、簡単には出来ない事だった。
(どう思う?)
『嘘……ではないだろうが、奴らの気が変わった場合のリスクが大きい』
(でも簡単に逃げ切れるか?一人でもなかなかなのにそれが三人、しかも今はトリガーが使えない)
『……ここは奴らの話に応じよう』
(お、意外に冷静だな)
『茶化すな。考えたくはないが、万が一の時は私の力を使う』
(それしかない……か)
仕方なくではあるが、構えていたパンツァーキャノンの銃口を下ろし、形だけではあるが話に応じる態度を示す。
「話を聞く。だがこちらの安全を100%確認出来ない以上、ベルトを外す事はできない」
「………今はそれで構わない。ではまずは我々の正体から話そうか」
そういうと男、伊能賢剛は自分たちの正体、そして目的を語り出した。
いくつか不明な点もあったが、ベルナージュの解説なども交えて俺なりに要約するとこのようなかんじになった。
・彼らはエボルトと故郷を同じとするブラッド族という地球外生命体である。
・ブラッド族とはあらゆる惑星を自身のエネルギーへと変える星狩りの者である。
・彼らは故郷であるブラッド星が滅亡した際に逃げ切った唯一の生き残りである。
・かつてエボルトと共に火星を滅ぼした。
・今はそのエボルトと方針が合わず目障りになった、だから俺に力を貸して欲しいと。
火星の話が出てきた辺りでベルナージュがいきなり暴れ出した。しかも伊能たちもその話をサラッと流すもんだから、一瞬耳を疑った。
やっぱコイツらヒトデナシだな。
それに妙に話に自信があるというか、根拠のない説得力がある喋り方というか……エボルトのように人の信用につけ込むのが上手い話し方をしていた。オレオレ詐欺に騙されるお年寄りの気持ちが分かった気がするよ。詐欺師とか政治家とか向いてるんじゃねえかな?
「二つほど質問があるんだが?」
「我々に隠すことなどなにもない。何でも好きなだけ聞いてくれ」
「じゃあまず一つ目。今パンドラボックスはエボルトの手に中にある。その状態でこの星を破壊する手段はあるのか?」
かつて火星を滅ぼしたパンドラボックスの力は、惑星破壊の要ともなる存在のはずだ。現にエボルトはパンドラボックスの真の能力を引き出すために、エボルドライバーを欲していた。ならばブラット族としてエボルトと同じ力を持つ彼らにとっても必要なもののはずだが………
「まず大前提として、我々はパンドラボックスの力をこの星の破壊に使うつもりはない」
おっと意外、というか方法によってはさらなる厄ネタになるぞこれ。
「既に協力者が準備を進めている。順調にいけばあと数日で完成するだろう」
「協力者?」
「ああ、君もよく知っている人物だ。あと少しで彼も合流する手筈になっている」
(俺のよく知っている人物……)
『心当たりはないか?』
(……全くないな)
『お前は知り合いが少ないからな』
(うっせー)
人の心とかないんか?
そんなんだからヒトデナシだなんて思われんだよ。つうか俺はこの世界の人間だから知り合い少なくて当然です〜
『醜い負け惜しみだな』
………こっちの思考をナチュラルに読むなよ。
「それで二つ目は?」
ほら急に黙り出すから怪しまれた。ここら辺はしっかりしとかないと後々面倒になるな。
「………この星の破壊に成功したとして、アンタらはエボルトをどうするつもりだ?」
「無論殺すさ。だが我々をを裏切った者をただ始末するだけというのは惜しい。奴にはこの星の最後を見届けてもらった上で、宇宙の塵へと還ってもらう」
やっぱ同族なだけに、エボルト同様性格悪いな。しかもあと少しで地球を破壊する準備が出来るとなると、ぐだぐだしていたらあっという間にこの星終わるぞ。協力者とやらがどんな人物かは知らないが、下手に俺が動いたら、仮面ライダーvsエボルトvsブラッド族とかいう地獄絵図になるだろう。
そうなればこの国もタダでは済まない。最悪世界地図からこの国が消えるのも覚悟した方がいいかもしれないな。
(………ベルナージュ、少し頼みがある)
『なんだ?私を軽く使うと高く付くぞ?』
(ああ、実は──────)
「なるほど………よく分かったよ伊能さん」
少し考えるような素振りを披露した俺は、ドライバーを着脱し変身を解除した。ドライバーは床に置き、シュトルムパンツァーは壁際に投げつけ、こちらの警戒が緩い事を示す。もちろん顔には悪そうな笑みを浮かべて。
それに対してブラッド族の三人もニヤリと笑顔を見せると、代表して伊能が俺の前に出てきた。
「嬉しいよ。君のような者に力を貸してもらえるとは」
差し出された伊能の右手をガッチリと握る。なかなかに強い握力で握り返された。
「今この瞬間から我々は同志だ。共にこの星を、最高で最悪の終焉へと導こうじゃないか」
「ええ、お願いしますよ伊能さん。でも一つだけ──────」
握られた手を解き、払い除ける。そして顔面目掛けて上段蹴りを放った。だが伊能は表情一つ動かすことなく、片手でそれを受け切った。
「どういうつもりだ?」
「俺が着くのは………あんた達じゃないって事だ!」
もう一方の片足で伊能の腹部に蹴りを入れる。その反動で空中に跳躍し、後方へと退く。着地と同時に彼らに目を向けると、伊能の後ろに立つ女、才賀涼香がフルボトルを片手で振りながら前に出てきた。
「容赦はするな。トリガーさえ奪えれば、奴をどうしようと勝手だ」
「分かってるわよ」
「………結局それが目的か」
まあだろうな。
コイツも元々エボルトを倒すように貰ったモンだし、アイツらが目をつけるのも無理もない。それに奴らはエボルト同様、俺たち地球人に比べてネビュラガスの耐性が高いはずだ。暴走するリスクは少ないだろうし。
おまけに俺はさっきの戦闘の反動でトリガーが使えない。タイミングとしては最悪だな。
だが………
「こっちもそう簡単には終わらないよ」
『パンツァー!』
「なんだ⁉︎」
俺が先ほど放り投げたシュトルムパンツァーが、自律モードに変形。才賀の腕目掛けて光弾を発射した。不意を突かれた彼女は腕にダメージを受け、手に持っていたボトルが地面に転がった。
「貴様……!」
「お互い様でしょ?」
そっちもどうせトリガー狙いだったんだろうが。俺がこんくらいやってもバチは当たんないだろ。これでボトル二本は俺の手元にきた。そうなれば………
「やれ」
ほらほら、山ほどガーディアンが出てきた。ただハードガーディアンもパンツァーガーディアンもいない。………さてはエボルト、コイツら信用してなかったな。お下がりのガーディアンばっかあげてるよ。
『建物の解析が完了した。このまま地下に潜れ』
さっすがベルナージュ。よっ火星一!
(それは良いんだけど、結局ここどこ?)
『旧日本海側の東都の施設だ』
(随分飛ばされたな)
『それともう一つ』
(なんだ?)
『私たちの体感時間と現在の時間の間で、ズレが起きている』
(ズレ?)
『ああ。廃墟での戦闘から、すでに八時間が経過している』
マジか。
てっきりまだ二時間くらいだと思ってたんだが……
『おそらくあのワームホールに仕掛けがある。注意しておけ』
(オッケー!)
襲い掛かってくるガーディアン達に対処しながら、ベルトにシュトルムをセットする。やはり何か特別な改造をされているわけではないらしく、ガーディアン自体の戦闘力は高くない。………相変わらず数は多いが。
「変身」
パンツァービルドに変身し、足のキャタピラレッグを起動。立ち塞がるガーディアンの群れに突っ込み、体当たりをしながら強引に道を切り開いていく。次々に鉄屑を量産していき、破壊した数が三十を越えた辺りで、壁際に到達した。
「派手に行くか!」
『面倒くさいだけだろうに』
「否定はしない!」
パンツァーキャノンを足元に向け、地面に脱出用の穴を開ける。余波で数体のガーディアンを巻き込みながらも、無事に地下道へと着地。すると上から銃弾が降ってきた。
本当に数だけは多いな。
銃撃を避けながら射線を切ると、明かりが設置されておらず暗闇だらけの道を駆け出す。こちらには、まだ追っ手を放ってはいないらしい。
(それにしても、暗いな)
『道案内は任せろ』
(頼りにしてるよ)
ベルナージュに軽く相槌を打つと、彼女の言葉に体を預けた。
「良いのか、助けに行かなくて?」
ぐったりと空中のホログラムを見つめるエボルトに、葛城忍は声を掛ける。二人は現在パンドラタワーの内部にて、千華とブラッド族とのやり取りを観戦していた。元々伊能たちの裏切りに勘付いていたエボルトは、偵察用のドローンを彼らに付けており、それがたまたま今回の出来事に繋がったのだ。
状況としては、多数のガーディアンに囲まれた千華が何とか包囲から抜け出そうとパンツァービルドで応戦しているところだ。前回からの経過時間から考えてトリガーを使ったとしても問題はないのだが、何か考えがあるのか、少しもそれを使う素振りを見せずに応戦していた。
それを見ながら、エボルトはつまらなそうで様子で忍の問いに答える。
「先生は近頃、千華の様子がおかしいとは思わないか?」
「おかしいとは?」
「記憶が戻ってからのあいつは、戦い方から普段の様子まで少し違和感がある」
「元の人格を取り戻したんだ。多少の変化があったとしても違和感はないだろう」
「確かにそれもそうだ。だが俺の正体を知ってからのあいつの動きは、どうにも素直だ。つまり……俺の思う通りに動き過ぎてるんだよ。まるで何かに導かれるように、俺のシナリオを進めてる」
違和感、それがエボルトの抱いている感情だった。人間は思う通りに物事が進み過ぎると不安を感じる生き物だ。本人は否定するだろうが、長年地球で過ごしていた彼にも、無意識にそれが染み付いていた。
しかし所詮、感情を持たないバケモノ。たとえその違和感が自分の娯楽の為だとしても、彼にはそれを見逃すほどの迷いは無かった。
「それにあいつは俺が見込んだ人間だぞ?この程度で死なれたら先が思いやられる」
「それもそうだな。しかし、伊能たちの協力者というのは一体誰なんだ?」
「思い当たる奴は一人いるが…………まあ、直に分かるさ。それはそれとして」
起き上がったエボルトは、初めて忍と目をあわせた。その顔には、先ほどまでのつまらなそうな苦痛の顔ではなく、玩具を貰う子供のような一見すると純粋な、しかし腹の中ではドス黒く濁った邪悪な感情を抱いている笑顔が浮かんでいた。
「終わったんだろ?アイツの修理は」
「ああ、完璧にだ」
「流石先生。ものの数時間でコイツを完成させるとは」
エボルトは忍からあるモノを受ける。血よりも濃く、水よりも透き通るクリアーな液晶、そしてその偉大なる力を誇示するような金と青の装飾。
「久しぶりだな〜」
天高くそれを掲げたエボルトは顔を近づけると、愛しい存在を目の前にしたかのように、優しく口付けをした。それは自身からこぼれ落ちた半身であり、厄災を引き起こす禁断のトリガー、彼の喜びを満たすし或いはその喜びごと全てを消し去るジョーカー。
その名は……………
「会いたかったぜぇエボルドライバー」
あの凄腕エボルトPが裏切りに気付かないわけないよねって話
感想・評価お待ちしております