「どこ行くつもりだ。親父さんだってまだ目を覚ましてねぇんだぞ」
「俺にあの男と話す資格はない」
「けどよ…」
「………俺は自分の正義を信じて戦ってきた…それがこの国の未来に繋がると信じて。だが…その結果がこのザマだ……!」
エボルトとの取引失敗から一晩が経った。あれから一日足らずで西都軍は東都政府官邸へと進軍、無傷でそこを陥落させた。戦兎たちが戦闘の影響により疲弊していたタイミングを狙っていたのだろう。ろくな反撃も出来ぬまま、この国の名も領土も旗も権利も、全てが敵国によって塗り替えられていっていた。
そしてこれに伴い、西都は東都政府の事実上の総司令官だった氷室泰山を指名手配、発見次第身柄を拘束するようにという指示が出ていた。
「奴は、エボルトはまだ復活には至っていない。この隙に奴を………!」
一海に背を向けた幻徳。だが一歩目を踏み出した瞬間、低いうめき声を上げながら、その体が崩れ落ちた。
「くっ………!」
「おい!そんな状態で戦っても、結果は見えてるだろうが!」
「……だとしても、俺は………!」
静止を振り切り、なおも男は進み続ける。まだ充分に傷口も塞がってないだろうに、それでも彼を突き動かしているものは、責任かプライドか或いは意地か。一海には、それが何かまでを察することは出来なかった。
だがしかし、このわずかな時間で一つわかったことがある。この男は自分が考えていたほど、冷徹な人間ではないということが。
しかし、それとこれとでは話が別。彼の抱く心意気は好ましいものだが、だからと言って彼を今行かせるわけにはいかない。目の前のボロボロの体を引きずる男に、どう対処しようか逡巡していたとき、鶴の一声が耳に届いた。
「待て、幻徳」
「………親父……」
冷蔵庫に偽装された地下に繋がる秘密通路。そこから美空に左肩を支えられ、男の父である氷室泰山が姿を現した。しかし喝の入った声とは裏腹に、その足取りは頼りなく、時折り踏ん張りが効かずに転倒しかけそうになるなど、危なげない様子を見せていた。
「頭を冷やせ。確かに今は、奴を倒すチャンスかもしれない。だが、その為にお前が命を賭ける必要がどこにある?」
「だが……これは俺の弱さが招いた事だ。この国を元に戻す為なら俺は………!」
「………いい加減にしろ!」
パァン!と、勢いよく泰山の平手が幻徳の頬を弾いた。
音こそ激しいものだったが、幸いか意図的か。その手は比較的怪我の少ない左側に命中しており、幻徳本人には見た目ほどのダメージは無かった。そう、
「うっ……!」
「首相⁉︎」
バランスを崩した泰山は、呻き声を上げながら、そのまま床に膝をついた。いきなり体の重量が増えたかのように、動かない。
「親父………⁉︎」
いや、動けないのだ。
「……無様だな、私も……あの程度の戦闘で、この有様……とは………」
倉庫の戦闘での激しい衝撃や、飛び交うエネルギー。その一部に当てられた泰山の肉体は、以前に比べても激しい負荷が掛かっていたのだ。老体でタダでさえ気を遣わなければならない体であるのに、そこに人智を越えかけた兵器の最大出力に近い圧に当てられたのだ。戦闘に参加したこともない人間がこうなってしまうのも、無理はないだろう。
「幻徳……お前は何の為に勝利を求めた?」
「………!」
ふと、父親の声が鮮明になった。
「私利私欲の為か?いや……違うはずだ。お前は昔、私に言ってくれた。この国の……市民の未来を……守りたいと」
無意識のうちに涙が溢れてきた。
そんな事を話して何になる?なぜそんな昔話を?あらゆる感情が津波のように押し寄せてきて、何が何なのか分からなくなる。善悪も正否も。
「違う……もう、俺には……!」
頬を流れ落ちる雫を、大きな皺だらけの手が拭う。
「……まだだ。まだ終わっていない……この国は……お前が……守り…続ける……んだ」
顔から離れる父の温もり。
泰山はその言葉を最後に、意識を手放した。
「首相……首相!」
「……気を失ってるだけだ。早くベッドに……」
一海や紗羽、戦兎達も騒ぎを聞きつけ駆けつけてくる。だがその中で一人、幻徳はその場を動けずにいた。
「俺は………」
「……幻徳」
「すまない………一人にさせてくれ」
父親から目を離し、逃げるように外に出た幻徳。その背中を追いかけるものは、誰一人としていなかった。
「そろそろ太陽が恋しくなってきたな………」
ガーディアンはあらかた蹴散らし、出口を探して数分が経った。しかし当初のベルナージュの予想とは異なり、いくら進もうとも光が見えてこない。当に一時間ほどはとっくに過ぎているだろう。
「……妙、だな」
伊能たちが追ってくる気配を全く感じない。なぜだ?
それに先ほどから手当たり次第に周りの壁を破壊しまくっているのに、一向に先が見えてくる気配がない……本当に何なんだ?
「ベルナージュ………どう思う?」
『少し待て───何だ──これ────は───』
「……ベルナージュ?」
瞬間、頭にノイズが走った。
『──せん───こえが────とおく────』
激しい頭痛と共に、彼女の声が徐々に徐々に、遠く弱々しくなっていく。そして体全体を襲う、違和感。
「ッ……何なんだコレは……!」
思わず、体のバランスが崩れた。
まずい!
転倒の危険を感じ、反射的に咄嗟に手を出した瞬間、体が軽くなったように感じた。
「本当に何なんだよ………⁉︎」
目に映るのは体を支えている片腕と両足、こいつらはいつも見ている自分の身体だ。別にそれ自体には疑問は抱いていない。問題は、俺が先ほどまで変身状態だった事だ。
「変身が解除された───ハザードの時間もまだ余裕は───!」
慌ててビルドドライバーやトリガーを弄るが、特に何かが起きる訳でもなく、変身状態に戻るわけでもない。俺は丸腰状態になった訳だ。
今奴らに攻め込まれるのは、非常にまずい。まずはともかく、ここからの出口を探すのが優先だろう。だが、どうやって探せば……
「どうやら効き目は確かのようだな」
「⁉︎」
背中に受けた言葉の方へ顔を向ける。つい先程までは、壊した壁の残骸以外に何も無かったはずのそこに、人の気配がした。
目に入ってきたのは、体に無数の赤と青の歯車を貼り付けたような人物……いや、兵器と呼ぶべきだろうか。
「………バイカイザー」
「はっはっ!憶えててくれて嬉しいぜ!最っ高にファンキーだなぁ!」
先ほどの落ち着いた第一声とは反対に、ハイテンションで騒ぐバイカイザー。どうにも違和感がすごい。本当に同じ人間なのか?
「それにしても、立派になったなお前も」
「……何を言っている?」
急に親近感みたいなの出してきた……おまけに声のトーンの落差で、正直気持ち悪くなってきている。
「おいおいおいおい!まさか忘れちまったのか兄弟⁉︎あの日の事をよー!」
「だから何の話だ!俺に妹はいても、兄も弟もいた記憶はないぞ⁉︎」
「こちらの言い方が悪かったな。どうにもワタシ達は、いまだに意思の統一が出来てなくてね」
本当になんなんだよコイツ!コッチの情緒がおかしくなりそうだ!
「そうだな………君はこちら側の世界に来た日の事を憶えているか?」
「こちら側……アンタ、なんで並行世界の事を……」
「無論知っているさ。なんせ君をこちら側に連れてきたのは、この私なのだから」
急に情報ぶち込んでくるな!
いや待て、俺がこちらにきたのは、エニグマの起動実験の時のはず……そしてその発案者にして被験者は、最上魁聖。だが既に奴は、ビルドたちによってエニグマごと倒されたはずでは………?
「信じられない、と言った顔だな。だが残念、コレは現実だ」
「死んだ人間が生き返るなんてあり得ない。一体どんなトリックを使った?それに、どうやって俺の変身を解除したんだ?」
「トリックゥ〜?そんな安っぽいモンじゃねぇーよ!この大っ天っ才のオレたちにかかれば〜こんなの朝飯前よぉ!」
癪に触るが、確かに奴はライダーシステム開発者の葛城巧に匹敵するレベルの頭脳の持ち主。その大天才という部分には反論出来ない。その『部分は』だが、口に出る寸前で言葉を飲み込む。
今俺は奴への対抗手段を持っていない。下手に刺激するのは、得策ではないだろう。
「………なぜ俺に接触を?」
「協力を頼みたいからだ。ワタシたち、いや彼らとワタシたちの計画に」
「彼ら………まさか、伊能たちの協力者は」
「エクセレントォ!その通りだ!奴らブラッド族と共にこの世界をひっくり返すのは、このぉ最上魁聖サマだぁー!」
笑い声を上げたバイカイザーは、手に持ったネビュラスチームガンを足元に向けて発射した。
着弾点を中心にして、灰色のコンクリートの床に、少しずつ歪みが生まれ始める。そして徐々に、その穴とも言うべき歪なうねりはこの空間全体に浸透。その真なる姿を表し始めた。
「これは………⁉︎」
まるでそれは、昔テレビで見たブラックホールのような底の見えない暗黒だった。外装とも言えるコンクリートが無くなり、真っ黒な宇宙空間のような部屋が広がっていく。そしてこの部屋の真の姿が明らかになった時、俺たちの目の前に、赤と青の一対の拳がその全貌を表した。
「かつてビルドに倒されたエニグマの強化改修型。見た目はほとんど変わらんが、中身は全くの別物だ。ただの移動装置だけでなく、異空間発生装置も搭載してある……この空間であれば、エボルトであろうと自由は出来まい」
間違いない。
以前資料で見たものと同じ、エニグマそのものだ。実物は見たことは無かったが、何やら薄気味悪い感じがする。しかもただ気味が悪いだけならまだ良い。
どこかで感じたことのあるこの違和感。はっきりとは思い出せないが、確かな確信が俺の中に存在していた。
「君には我々に協力してもらいたい。その唯一無二の力を使ってね」
「唯一無二?」
「そう!お前がこのエニグマの影響で手に入れた、あらゆる超常への耐性!それがオレたちには必要なんだよ!」
耐性……おそらく以前、ベルナージュの言っていたこちら側に来たときの副作用だろう。確か彼女は珍しいものだと言っていたはずだ。
なるほど、火星の王妃すら手に入れたがる特異性……奴らも喉から手が出るほど、欲するのも無理はないだろう。
「もし協力したとして、俺にメリットはあるのか?」
「あの男から話は聞いている。君はこの世界の終焉を見たいのでは無いのかね?我々と手を結べば、エボルトと協力するよりも早く、そして無惨な最期を見ることが出来る」
勧誘か。
奴らも俺をタダで処分するのは惜しいらしい。要するに、命は助けるし、お前の野望も叶えてやると言っているのだろう。
「……どういうつもりだ?」
腰に隠していたトランスチームガンをバイカイザーに向ける。その銃口は一寸の狂いなく、奴のマスク部分を捉えている。
「伊能たちにも言ったはずだ。俺はあんた達の下に着くつもりはない」
「おいおいおい、状況分かってんのか⁉︎変身も出来ねぇお前にぃ、何が出来るっていうんだよぉ⁉︎」
確かにそうだ。だが、俺がここまで来たのはこの星を終わらせるためでも、命乞いをするためでもない。エボルト達を倒して、この星の明日を守り、争いで傷付く人々を一人でも少なくするためだ。
「何をされようが変わらない。俺が付いていくのは、あの人一人だ」
「そうか………残念だ」
奴が予備動作を見せたと同時、引き金を引く。狂いなく放たれたはずの弾丸、しかしそれは虚空の彼方へと吸い込まれた。
「───遅い」
脇腹に衝撃が走る。
後方へと高速移動した奴が、蹴りを入れたらしい。奴の足の動きに沿って吹き飛ばされた俺の服の中から二本の黒いフルボトルが、そして手の中にあったトランスチームガンが、床に転がり落ちた。
「うっ!」
「悪いがコブラ野郎からの頼みだ、このボトルは頂いてくぜぇ!」
ロストボトルを回収したバイカイザーの足音が、近づいてくる。目に付いスチームガンへと手を伸ばすが、指が触れる寸前、奴の足によって遠方へと蹴り飛ばされた。
「残念だよ、君は優秀なモルモットだったというのに」
「モルモット扱いってのは、ちょっと傷付くな………」
「事実を言ったまでだ。君がモルモットということも、私の心が痛むということも」
ネビュラスチームガンの銃口が、俺の眉間に向けられる。この距離ならば、よほどの素人でもない限り、外す事はしないだろう。
引き金を握る力が、強くなる音が聞こえてきた。銃口に溜まるエネルギーの光が大きくなっていく。目を離す事なく銃口を見つめるが、状況は変わりはしない。
「─────諦めるのは早いんじゃねぇか?」
ふと、声が聞こえた。
そして次の瞬間、赤い光を纏った人影が、俺たちの間に割って入ってきた。
「なっ⁉︎」
「ほいさっ!」
人影はバイカイザーの銃を振り払うと、腹部目掛けて掌底を叩き込んだ。膨大なエネルギーと共に吹き飛んだバイカイザーを見送った人影は、やれやれと言った様子で手首を振りながら、俺の方へと向かってきた。
「よっ!って気分でもねぇか」
「………何しに来たんですか?」
「お前が心配だったから、それだけだ」
「心にも無い事を………いや、でもありがとうございます。おかげで助かりました、エボルト」
主人公のピンチに颯爽と現れる、頼れる年長者キャラ!
かっこいいなー(棒)
・氷室幻徳
原作よりだいぶマイルドになっている
ただし加入はもうちょい先に
・氷室泰山
東都が壊滅し、首相の肩書きが無くなった
だいぶ危なそうな雰囲気だが、今のところ死ぬ予定はない
・エボルト
一番現状を楽しんでいる黒幕にして、全ての元凶
エンジョイ勢その1
ドライバーの修復も完了し、そろそろ自分もライダーごっこをしようかと考えている
・最上魁聖
バグスターとなって復活!
エンジョイ勢その2
現在は二つの人格が入り混じっている
・ベルナージュ
描写されてないが、オリ主の中から追い出されたので美空の中に避難、戦兎たちにこの事を伝えた
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