新たなるステージ
東都政府からパンドラボックスを奪った氷室幻徳を追って、戦兎はナイトローグを追撃。スパークリングを使用することで、無事パンドラボックスを取り返すことに成功した。
「これがライダーシステムの力か…」
「これで……終わりだ」
地べたを這いつくばる幻徳。その足元を突如、銃撃が襲った。
「誰だ⁉︎」
戦兎が周囲に向かって叫ぶ。するとそれに応じるように、一人の人物が階段から降りて来た。
「お前は……カイザー!」
「なぜお前がここに……」
「ビルド、あなたに用はない。…俺の目的はアンタだ……氷室幻徳」
階段を降り切ったカイザーは、幻徳に接近。ネビュラスチームガンの銃底で彼の後頭部を殴打し、一撃で意識を刈り取った。そして戦兎へと視線を向けたカイザーは、右手に持った何かを投げ渡す。
「これは……タンクフルボトル?どういうつもりだ!?」
「スタークからの預かり物です。これからのためにも、あなたが持っていた方がいいとね」
「なんだと?」
「さあ、僕も詳しくは知りませんし、知りたいとも思いません。でも今のあなたには必要なんじゃないんですか?──クローズのためにも、ね」
───万丈のため……ハザードのことか!
幻徳の体を肩に背負ったカイザーは、戦兎を一瞥すると背を向けた。それを追いかけようとする戦兎だったが、カイザーの言葉で踏みとどまった。
「急いだ方がいいですよ。早くしないと東都軍が、北都に攻め込むことになる」
最後にこちらを向いてスチームを噴出し、撤退するカイザー。一人パンドラボックスと共に取り残された戦兎は、ボトルをタカとガトリングにチェンジ、空高く舞い上がった。
風に煽られながら東都政府に向かう戦兎は、先ほどのカイザーの言動に疑問を感じていた。
彼はグリスや三羽ガラスと同じ北都の兵士のはず、しかし先ほどの口振りから見るに、彼は東都軍の動きを察知していながら、それを静観。わざわざそのタイミングで東都にいたにも関わらず、攻撃活動を行わなかった。
それに彼について不可解な部分はまだ多数ある。その一つが、彼の正体についてだ。以前紗羽の調査で、グリスたちの素性を聞かされた際、何故か彼のデータだけはどこにもなかったらしいのだ。
それはまるで、
北都の最高戦力であるグリスたちの情報を集めた紗羽の手腕を持ってしても、一切の素性を掴めない男、いや少年。それだけで彼への警戒度は、戦兎の中で必然的に上がっていた。
だがそんな事を考えている間に、戦兎は東都政府上空に到達。パンドラボックスを受け渡すと再び離陸、震える右手で禁断のトリガーを握りしめながら、スカイウォールへと急いだ。
「青羽が死んだ。殺ったのは……ビルドだ」
「そう……ですか」
氷室幻徳を施設に収容した後、難波の施設へと向かった僕にスタークが言った。あまりに唐突で一瞬何を言っているのか、理解が追いつかなかった。
否定したかった、嘘だと言って欲しかった。だが、それは真実だった。ハザードトリガーを使用したビルドは、暴走状態に突入。錯乱しクローズに攻撃した後、近くにいた青羽さんを撃破したらしい。
「どうした?やっぱり寂しいか?仲間が死んだのは」
辛いし悲しいし、寂しい。しかし不思議と怒りは湧いてこなかった。僕も多分、ハッキリとではないが、頭のどこかで、こうなることもあると理解していたからだろう。
それに本当に辛いのは僕じゃない。一海さんたちのはずだ。何年も一緒に過ごしてきた仲間だろうに、その一人を目の前で殺されたんだ。外野の人間がとやかく言う権利はないだろう。
そして………
「……仲間じゃありません。あくまで同じ陣営に居たというだけです」
僕たちはあくまで仕事仲間、それ以上でも以下でもない。
「くくっ、薄情だな〜。もしかしたら、あの世で青羽が、泣いてるかもだぞ?」
「あっちもそうは思ってなかったでしょう」
「……まあ、いいさ。どう考えるも個人の自由だ。それと、これは薄情なお前へのプレゼントだ」
スタークは僕に、右手に握ったミリタリーグリーン色の何かを差し出した。それを受け取り、改めて見つめた。それは戦車の形をした模型のようなものと、同じくミリタリーグリーン色の『T』の文字が刻まれた一本のフルボトルであった。
「これは……」
「シュトルムパンツァー、そしてパンツァータンクフルボトル、葛城巧の遺したデータを元に作ったものだ。こいつを使えば、お前も仮面ライダーになれる」
「僕の新しい力……」
「そうだ。だが、今はまだその時じゃない。役者が揃ったとき、舞台の幕ってのは上がるもんだ」
役者、おそらく僕や一海さん、ビルドたちライダーシステム使用者のことだろう。しかし、まだ揃っていないとはどういうことだろうか?
まだ他にライダーシステムの適合者がいた記憶は…………いや、一人いる。
先ほどの言葉の意図を汲み取るならば、正確にはまだ仮面ライダーになっていない、これからなる人物。それならば一人だけ、
「氷室幻徳、ですか?」
「ビンゴ!」
スタークは指を鳴らして、僕に指を差した。
「しかしそれにはもう、少し準備がいる。お前もしっかり、ウォーミングアップはしておけよ」
そう言って姿を消すスターク。一人残された僕は、改めて渡されたシュトルムパンツァーを見つめる。履帯の中には、二つの転輪が入れられていた。そしてボディーの部分には、フルボトルをセットするための空間があった。そこの部分に触れると突如、シュトルムが動き出した。
『パンツァーー!』
高い機械音のような声が聞こえる。どうやら自律稼働式のようで、今も元気に床を走り回っている。
「よろしく」
僕も彼?彼女?いや、そもそも機械に性別があるのだろうか?、とりあえず一旦置いとくとして、シュトルムに手を差し伸べる。
『パンツァーー!』
「痛っ!」
なんと、戦車砲から小型の砲弾を発射。手に着弾し、僅かながら硝煙が発生した。必死に手を振り、痛みを紛らわそうとする僕の目の前で、嬉しそうに回転しているシュトルム。
思わず頭に来たので、掴みかかった。
が、しかし流石難波重工製のアイテムといったところだろうか。その小さな躯体をなかなか捕らえることができず、僕が一方的に疲れ果てる結果となった。
………今度、風と雷にペットの扱いについて相談してみよう。
『ライダーシステムの解除により勝者東都!』
それから一週間後、東都と北都の仮面ライダー同士による一対一の代表戦が行われた。結果は、ハザードトリガーを使用したビルドの勝利に終わった。終盤で暴走しかけたビルドであったが、スクラッシュドライバーを制御したクローズのお陰で、何とか一人の死者も出すことなく、代表戦は東都の勝利で、終了を迎えた。
スマホの画面で中継映像を見ていた僕は、目の前の風景に目を移す。そこでは、西都のガーディアンが、北都のガーディアンを次々と撃破していた。そう、僕はスタークの指示により、難波重工の所属となっており、今は西都の兵器として北都に攻撃を仕掛ていた。
北都の戦力の殆どは、東都への侵攻に割かれており、防衛線を突破するのは容易であった。まあ、その原因となったのは、北都側だけの問題でもないのだが。
仮面ライダーローグ、氷室幻徳が変身したライダーの力が大きいだろう。数週間振りに彼に会ったのだが、本当に同一人物かと疑うほど、人が変わっていた。本人曰く、地獄を見てきた……そうだ。
以前は野心の塊のような危険な人物であったが、今はそんな片鱗を見せることなく、黙々と指示に従い戦闘を行なっている。
自分を捨てた東都への復讐、なのだろうか?彼の今の原動力が何かは知らないが、尋常ではない覚悟を持っているのは、側にいた僕から見ても明らかだった。
「代表戦は東都の勝利、か」
「しかし、その戦いの勝敗は最早関係ないでしょう」
「そうだ。北都は既に西都の手の中だ」
「そっか、それならあとは……グリスか」
僕の横に立つ風と雷、僕たちの次の任務は、グリスをこちら側に引き入れることだ。元々彼のスクラッシュドライバーは、難波重工が開発したもの………確かに手元に置いておきたい会長の意思も理解できる。
そしてそのためには、交渉材料が必要だ。目の前に立てられている『猿渡ファーム』の看板を地面から引っこ抜く。彼らには申し訳ないが、少しの間だけ協力してもらおう。
「みんな!」
猿渡ファームの人質を助けるため、北都に戻ってきた黄羽さん。その前に、僕は風と雷を伴って姿を現す。すると案の定、黄羽さんの顔に困惑の色が浮かんだ。
「千ちゃん、どういうこと……?」
「ごめんね黄羽さん。でも、これが僕の任務だから」
ビルドドライバーを腰に装着し、懐からパンツァータンクフルボトルを取り出す。そしてそれを数回振り、ボトル内部のトランジェルソリッドを活性化、ボトルの能力を上昇させ、キャップ部分を正面に合わせる。
そしてそれをシュトルムのボディーにセットし、砲塔部分を折り畳み、ロックする。
ビルドドライバーにセットしたシュトルムからシステム音声が流れ、待機状態に入る。ドライバーの右側のボルテックレバーを握り、高速回転させると同時にドライバーから透明のパイプ、ファクトリアパイプラインが生成、高速ファクトリー、スナップライドビルダーを展開する。
そしてその透明のパイプの内部を、パンツァータンクのトランジェルソリッドが流れ始めた。
「変身」
───────ある者は恐怖する
「千ちゃん、どうして……!」
変わり果てた彼の姿に───────
───────またある者たちは戦慄する
「戦兎、あれは……」
「ビルド……なのか?」
その未知の可能性に───────
───────そしてある者は嗤う
「上出来だ。やはりいい脚本は、いい役者に演じてもらわなけりゃ意味がない」
幕の上がる舞台に思いを馳せて───────
「さあ存分に暴れろ、そして俺に見せてみろ!
仮面ライダーパンツァービルド!」
まずは第一段階……
タンクくん「いい感じの男に会えたと思ったら、すぐに元の持ち主のところに、返されたんですが………」
不憫なタンクくんかわいいね