ウマ娘 ポロニアダービー   作:O Polonia!

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第10話:ロイヤルアスコットミーティング、芝直線6fにて

 

 

 

 イギリスはロンドン近郊、ウィンザー城の近くにあるアスコット競バ場にて。

 6月の第三週から5日かけて開かれるロイヤルアスコットミーティングにて、ビャウィノチカのブリスカヴィカの2人がこの一連の開催の中で開かれるレースに出走する。

 

 ………とはいってもだ、ビャウィノチカの出番はまだだし、ブリスカヴィカに至っては今日じゃなく4日目のレースに出る。

 それが開催初日である今日の第二競走として行われるコヴェントリーステークスだ。格付けはG2、距離は芝の直線1200m。

これまで中欧の中距離レースで活躍していたのに、いきなりイギリスの短距離に殴り込んだビャウィノチカの人気は高くないが、俺としてはこのレースで勝つのはビャウィノチカ以外にいないと強く確信している。

 だってあいつ芝だけは全距離でクソ強いんだもん、ダートに引き摺り出さなきゃビャウィノチカは飽きるまで絶対王者として君臨し続けるよ。

 そんなビャウィノチカだが、致命的な欠点が一つだけ存在している。

 

 ………それは、ダートでの走りが下手な走りの手本として教科書の挿絵にしたいくらいとにかくヘッタクソなのだ。やかましやで前髪のクソデカ十字架状の流星が特徴な、暗い栗毛をした我が妹の1人であるクシシュソルヌィ、あいつみたいにね!

 まあそれは良い。それから第一競走のG1レース、クイーンアンステークス*1をスロバキアウマ娘がぶんどったのもまあ良い。

 俺やビャウィノチカ、ブリスカヴィカにとっての本番はまだ始まっていないのだから。

 

 


 

 

コヴェントリーステークス アスコット 芝直線1200m 7番人気:ビャウィオジェウ

 

 

 第一競走のG1、クイーンアンステークスは無事に終わり。

 第二競走にしてビャウィノチカの出走レースでもあるG2レース、コヴェントリーステークスの始まりが近づく。

 打ち合わせはとっくの昔に終わらせ、あとはゲート入りを待つだけ。

 

 そして、そのゲート入りもジュニア級ながらG2とそこそこ格が高いのもあってかすんなりと進む。

 できればいつでもそうであって欲しいものだが、そう上手く進むわけがないのが世の中大半を占めるわけで。

 スムーズにゲート入りが進んだ事を神に感謝しつつ、レースの始まりを待つ。

 

 少しの静寂、それからがしゃりとゲートが一斉に開き、まとまったスタート………とはいかなかった。

 ………何があったかといえば、ただ一つだけ。盛大な出遅れだ、それもビャウィノチカやほんのわずかなウマ娘を除いた全員のね。

 

 勢いよく飛び出たビャウィノチカと、そこそこ上手いスタートダッシュを決めた逃げや先行のウマ娘達。

 そこからほんのわずかだが、レースにおいては非常に大きなタイムロスの後に他のウマ娘もゲートを出る。

 

「な、なんてことだ!!ここまで出遅れが多いレースは他にあったでしょうか!?」

「もしかしたらゲートで何かあったのでしょう。それにしても、まさかこれほどまでに多くの娘達が出遅れてしまうとは。これは競バ史上稀に見る事件になるかもしれませんね」

 

 そら実況も驚くだろうて、トレーナー陣ですら状況を理解しきれず慌てるか、もしくは頭を抱えるか。またまた俺のように首を傾げてこんな事件が起こった理由を推測するか。これぐらいしかできていないし、落ち着き払っている者は誰1人としていない。そう、今アスコットでこのレースを見ている全員が落ち着きを失っているのだ!

 そもそも俺今回ビャウィノチカには大逃げで走れとしか指示していないので、この事件の原因なんぞなーんも分からん!

 ………まあ、とりあえずはビャウィノチカが勝つことでも祈っておこう。そうでもしないとこの事件が頭をちらついちまうし………

 

 と、そんな事件のことを吹き飛ばすかのように、我々をレースに引き戻す一報が実況より伝えられる。

 バ群から何バ身も差をつけながら先頭を走り続けるビャウィノチカの動向は、実況は掛かったように見えたらしい。しかし、解説の方は細かい情報までしっかりと目を通しているようで。

 俺が指示したプランを素早く見抜いたようだ………とは言っても、俺の事を少しでも知っていればこう言う事をするだろうと予想はできる………はずだ。

 

「後ろで複数のウマ娘による大きな出遅れが発生したというのに、ビャウィオジェウはどんどんと先頭を突き進んで行きます!彼女は掛かってしまったのでしょうか?」

「彼女のトレーナーは以前より頭角を現している、あのカシミール・ソコロフスキ(Casimir Sokolowski)です。これは彼女が掛かってしまったというよりも、一種の作戦であると見た方が良いでしょう。

 何せ、彼があの程度のことで掛かるようなウマ娘を担当に据えるはずがないでしょうからね。少なくとも彼の相マ眼は大したものですよ、或いは彼自身の運によるものかもしれませんが」

 

 ただまあ、俺として気に入らない点が一つある。

 それはだが………かつて箔を付けるべく英国でのトレーナー資格を取る際、俺のポーランド語名であるカジミェシュ・ソコウォフスキ(Kazimierz Sokołowski)が聞き取れない上に読めないし機械も通らないなんて事態が発生したために渋々使わざるを得なかった英訳名で俺の名前を読み上げたことだ。だが俺もそんなちっぽけなことで文句を言うのはシュラフタ(ポーランド貴族)としてふさわしくないことだし、そもそも余計でやる価値も意味もない愚かな行動に過ぎない。だから解説と対面する機会があったらポーランド語名に訂正する程度にしておこう。そもそも俺すでに英国のトレーナー資格放棄したし。

 

 ………なんて実にふざけたくだらない考えをしている間に、レースは600m地点を超えていた。

 もちろん先頭はビャウィノチカ1人だけ。他のウマ娘達は皆10バ身後方に置き去りにされ、巻き返しも難しくなりつつある。

 それでもなんとか差し切らんと、後続のウマ娘達も折れずに走り続けているし、実際に少しずつ距離を詰めようとするウマ娘もちらほらと出てくる。

 で、当の先頭を走り続けるビャウィノチカは距離を詰められたらその分だけ新たに差を付けてやる。負けじと再び距離を詰められたら、ビャウィノチカもまた再び差をつける。

 こんな泥沼がしばらく続けば、当然ながら本来の短距離レースならば切れることのないスタミナが切れて失速するウマ娘も出てくるわけで。

 

 泥沼の展開が少し続き、とうとう失速したウマ娘が片手どころか両手の指が必要になり、レースが残り200mを切った頃。

 先頭を走り続けるビャウィノチカは、すでに後続との距離が10バ身あるにも関わらず、新たに差をつけるべく末脚を切り始める。

 

 ………少なくとも、これならビャウィノチカが確実に勝つことは明らかだ。心配することもないから、軽食でも買っておくか?

 ステーキ・パイとステーキ・チップス*2、競バ場の外に構えている店で売っていたのはなかなかに美味そうなやつだったし、少しここを抜け出そう。

 ビャウィノチカの分も買ってやれば、レースを終わりの方は見ていなかったとしても許してくれるだろうさ………多分。

 

 


 

 

アルバニーステークス アスコット 芝直線1200m 2番人気:ブリスカヴィカ

 

 

 ロイヤルアスコットミーティングも、ビャウィノチカがコヴェントリーステークスを走った日である初日から2日が経過し、開催4日目となった今日。

 今日の第一競走であるG3のアルバニーステークス、このレースにブリスカヴィカが出走することとなっている。

 

 コヴェントリーステークスが終わった後、俺がレースの終わりの方を見ていなかったことを知ったビャウィノチカは当然ながら怒って俺に1発ドギツイのをかましてやろうと息巻いていた………のだが、うまいこと甘いものやご褒美で意識を別の方向へ向かせることに成功し、怒りを別のエネルギーに変換することに成功した。ビャウィノチカが家族限定で釣られやすくて助かったが、多分他のウマ娘を相手にしたらうまく行かんだろうな。まあそんなことはしないさ、長生きしたいし。

 

 ああいやそれはまあどうでも良いことだ。何せ今は第一競走にして俺にとって今日1番の大目玉であるアルバニーステークスがゲート入りを済ませれば始まるのを待つ程度に時間が経過している。

 で、肝心のゲート入りは少しのもたつきがあったものの、比較的にスムーズと言える具合に進んで後はレースが始まるのを待つだけ。

 

 10と数秒の沈黙の後、ゲートが一斉にがしゃりと開き、ビャウィノチカが走ったコヴェントリーステークスと違い、ある程度まとまったスタートからレースが始まる。

 今回は出走者の1人がバチクソにでかいくしゃみをかまさなくてよかった、なんて思いながらブリスカヴィカを応援する。

 冗談抜きでコヴェントリーステークスの時は出走前にゲート内でイギリスウマ娘の1人が盛大にぶっ放したくしゃみ、それの影響でレースがぐっちゃぐちゃになったからなぁ………まあ、これあの時そこにいたトレーナーや観客共々後の調査で知ったんだけどね。

 ………いやはや、まさかあそこまでバカでかいくしゃみをぶちかますとは思わなんだ………

 

 ………話が逸れたな、レースに戻らねば………

 今の状況はまだまだ序盤も序盤、ウマ娘は一旦ある程度の速度を稼ぎつつペースを刻み、残り400メートルを切ったあたりから末脚を切るために足を溜める。

 ブリスカヴィカにとって1番得意で、彼女にとって1番実力を発揮しやすい走りである、差しの走りだ。 

 

 そんな差しの走りで足を溜めつつ、700m地点までバ群に追従していたブリスカヴィカだが、ここからブリスカヴィカの本領発揮が始まるってわけだ。

 具体的には中団後方からじわじわと速度を上げて先団に近づいて、900m地点までは先団に追従する。

 そこから1000m地点を超えるとこれまで溜めていた足を一気にベットして他のウマ娘を除けつつ先頭に立ち、後続のウマ娘を突き放すべくスピードを上げて差を付ける………といった具合にだ。

 

 1100m地点を超えて、アイルランドから参加してきた4番人気もスパートをかけてブリスカヴィカを差し切ろうとして競りかかり、1150m地点まではこのままゴール板を越えたとして、どっちが勝ってもおかしくない状態ではあった。

 ………ブリスカヴィカが二の足を切らなければね。

 

 競りかかるアイルランドウマ娘に対し、少しでも優位にたつべくブリスカヴィカは二の足を切って少しでも差をつけにかかる。

 アイルランドウマ娘の方はブリスカヴィカに競りかかるので精一杯になったのか、ほんの少し差を詰める程度しかできずにブリスカヴィカの2着という結果になった。

 

 

 

 何はともあれ、ビャウィノチカもブリスカヴィカも今の所は順調に戦績を積み重ねている。

 次のトレーニングからは少しすりつぶしてみるのも良いかもな!

 そもそも好戦績を叩き出す新入りをすり潰すのは新入りの慢心をへし折るためにやる〈ソビエスキ〉の伝統的な通過儀礼ではあるし。

 

 まあ今はそれのことはどうでも良いな、まず勝者になったブリスカヴィカを祝って、次に十分な休みを取らせる。

 トレーニングだの通過儀礼だのなんだのはその後からでも良いだろうさ。

 

 

*1
芝直線8ハロン、シニア級レース

*2
牛脂で揚げたフライドポテト。ステーキ・パイと共に提供される。

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