ウマ娘 ポロニアダービー 作:O Polonia!
「おーい、クルトーチカやーい。早く起きないと食いっぱぐれちまうぞーっと………」
朝食の盛り付けが終わって暇ができたのもあるし、少し気になったのもあってクルトーチカの部屋まで来たは良いものの………まさか義妹が呑気に眠っている同居人の胸に頭を埋められているなんてことが起こっていようとは想像もできまい?
いやまあせっかく作った料理が冷めるなんてことは避けたいので、寝坊助クルトーチカは起こすんだが。
そういう訳で肩を揺らしながらフランス語で起きろと注意した。そう、これで起きてくれるなら気性難ポイントはそこまで高くないのだ。
「おい、クルトーチカ、ルーロワクルトー。朝食が冷めるぞ、早く起きたらどうなんだ?それと早いとこビャウィノチカを解放しなさいな、お前の胸でビャウィノチカは窒息死寸前まで追い込まれてるんだぞ?」
「んぅ………あと10分寝かせろぉ………」
「ほら、早く起きろ。休みだからって自堕落になるんじゃない!」
「やだぁ………もっと寝かせてくれよぉ………」
「むぐーー!ふぬーー!」
「せめてビャウィノチカだけは解放しろー?ってこら!毛布に包まるんじゃない!早く起きろ!」
ご冗談でしょう、クルトーさん?
いくらなんでも強情すぎやしないか、このフランス娘。ナーバスになってたあの頃が懐かしくなるよ本当にもう!今じゃこーんなに図太くなっちまった!実に面倒!
せめてビャウィノチカを回収できないかとあれこれやってみても、全部無駄足に終わってしまうとはなんたることか。しかもビャウィノチカを胸に埋めたまま毛布に包まり、俺に対する防御を固めてしまったとさ。なんたることだ!
こうなればもう穏当に起こすことは諦めるしかないだろうな。てなわけで強制執行と洒落込もう。
慈悲も容赦も与えぬ雷鳴のような一撃でもって、我
「うおらっしゃーい!!」
むんずと毛布の端を強く引っ掴んで思い切り引っ張り、テーブルクロス引きの要領でクルトーチカとビャウィノチカを毛布から引きずり出すことには成功した。
………ただまあなんと言おう。ビャウィノチカが弱くであるが自分の事をその豊満で柔らかい胸に埋めてくる、現役競走バのフィジカルエリートでヌーディストにして気性難のクルトーチカを相手に、なんとか拘束から抜け出そうともがいていた。
そして肝心のクルトーチカは状況からも分かるように服なんぞ身につけていなかった。なんとかビャウィノチカの長くて白い髪や、クルトーチカ本人の濃淡入り混じった灰色の長い芦毛の、そこそこ強めの癖がたっぷりとついた髪でギリギリ裸が隠されているような状況ではある。
とりあえずビャウィノチカをひっぺがして小脇に抱え、2人を引き摺り出した後にリリースした毛布を引っ掴む。そして寝ぼけ眼で頭がしっかりと回っておらず、状況を把握できていないクルトーチカの顔に勢い良く毛布を叩きつけて、さっさと部屋から退出する。
「………は?え?はあぁぁぁぁあ!?」
「やっと助かったぁ………………」
やっと状況を把握したであろうクルトーチカが驚いているのを尻目に、俺らはさっさとリビングへ撤退した。どうせあのままあそこに残った所でろくでもないことしか起きないだろうからな!
そして俺に抱えられている窒息死寸前だったビャウィノチカは深呼吸を繰り返し、久方ぶりの酸素を深く堪能していた。
ビャウィノチカを椅子にぺっと置き、完璧に焼き上がったザピェカンカをオーブンから取り出し、切り分けたのを大きめの皿に乗せていたところで、クルトーチカもリビングに姿を現した。
ちゃんと着替えたのかと思ってクルトーチカの方を見やれば、まさかの裸のままでやってきやがったのだ。少なくとも、他人がいるような状況下において裸でうろつけるような人間について、俺はこいつ以外に知らん。
なんなんだよこの気性難、全くもって何がしたいのか俺には一切意味がわからん。いやまあもうこいつが裸でうろつくことに慣れたと言えば慣れてしまったんだけど。
「なぁトレーナー、さっきは一体何があったんだ?」
「お前さぁ………お前さぁ………何で覚えてねえんだよ………」
「だってトレーナーが教えてくれる前にさっさと逃げちまったじゃねえか。だからオレはオレが寝ている間に何があったのか、なーんにもわからねェってワケ」
さて、そんなクルトーチカだが、どうにもさっき何があったのかを全く知らないようで。俺に対し馬鹿馬鹿しくも、クルトーチカの側からしてみれば当然の疑問ではある質問を投げてくる。
………そういや説明とかせず、速攻で俺ら逃げたんだものなぁ………そらそうなるかぁ………
まあとりあえず噛み砕いて、適当に説明しながら大皿と、3人分のプレートに食器をリビングのテーブルに置き、食事の席に着く。クルトーチカも俺に追随して、裸のままいつもの定位置に座る。
「まあなんだ………簡単に説明すれば、ビャウィノチカがお前を起こそうとした。そしたらお前がビャウィノチカをベッドに引き摺り込んで胸に埋め、窒息死まで追い込みかけた。それを俺が防いだってところだ」
「おぉ………そんなことが起こってたのか………」
なんでこいつ他人事みてえな反応してんだ………
だがまあいい。どうせこれ以上深く踏み込んだところで、塹壕戦みたいなことになるだけだろうからさっさと朝飯を食っちまおう。
食前のお祈りをスラスラと暗唱し、最後に一言アーメンと付け足したら後はじっくりと食事を味わおう。
まずは切り分けたザピェカンカを数切れとトルティージャを二切れプレートに乗せ、その中からザピェカンカを一切れ摘んで齧る。
自分で調理したものではあるが、やはり完璧な出来栄えに惚れ惚れしてしまいそうだ。琥珀色にソテーした玉ねぎの甘みとマッシュルームの弾力にあっさりとした味。これがハムやソーセージにサラミとチーズの油っぽさを和らげてくれる。
たっぷりと乗っけた肉類も噛む度にそれぞれ旨味の詰まった肉汁をたっぷりと弾けさせ、それが濃厚で深い味わいのするとろけたチーズと絡むとなれば。当然ではあるが、最高に美味いわけだ。
そうして咀嚼し切ったザピェカンカを飲み込んで堪能し終えたら、スプーンでロスウをすくって飲む。
こちらもまた完璧な出来栄えで、昨日の自分にヴィルトゥティ・ミリタリ勲章*1を贈りたくなるレベルだ。
ほのかな鶏肉と、セロリやにんじんに玉ねぎなんかの香味野菜から出た優しくまろやかな味わいに、具として浮かぶにんじんや玉ねぎにしんなりとしたキャベツの甘味。さっぱりとした後味であっさりとしたスープは、胃に深く染み渡る。
お次にトルティージャをナイフで一口分に切り分け、フォークで口に運ぶ。
肝心の味だが、中の方はプルプルとした食感で、外側はしっかりとした歯応え。濃厚な卵の味に詰め込んだ野菜やベーコンとチーズが噛み合って実に素晴らしいものだ。今後も機会があればこれを作ることにしよう。
とまあ、そんな具合に朝食を味わっていたが、それ以上に重要なことがあったな。
そう、我が義妹の「世界最強になる!」発言の真意と、詳細についてだ。後はデビュー戦を迎えるにあたり、どこの所属でやるかもだな。
やることは増えるだろうが、まあ良い。結局いつものように適切なトレーニング計画とサポートを用意して、無事に帰ってくるのを待つだけだから。まあレースに勝ってきたならなお良いが、結局俺からすれば担当が無事に帰ってきてくれるだけで十分だ。
「あー………それで、だ。ビャウィノチカ、さっき世界最強になるといったが、具体的にはどの路線でそれを達成するつもりなんだ?」
「え?あー………芝でやる!」
知ってた。というかダートは適性的に多分無理だろうし、こいつの主戦場が芝になるのはある種当然ではある。
まあ、ビャウィノチカなら少なくとも欧州に限って言えば大活躍をかましてくれるだろう。俺は詳しいんだ、なんせ義理とはいえどこいつの兄だからな!
だから案外芝における世界最強の座はビャウィノチカが抑えるかもしれんな。それこそ短距離から超長距離まで、あらゆる芝のG1レースで1着を獲ってくれるかも。それももしかしたら無敗の可能性だってあるし!
そうとくれば詳細を詰めていこう。なにせ、鉄は熱いうちに打つべきだからな!
まあその前にもう一つだけ質問をしておこう。
「そうか、じゃあ次の質問に移るぞ。何故世界最強を目指そうと思った?まあこれは後で答えるのでも良い」
「今答えるけれどね。まず一つ目はわたしの産みのお母さんに感謝を伝えるため。二つ目は、わたしがいっぱいG1レースを勝ったらお兄ちゃんは嬉しいでしょ?」
「俺は担当が無事に帰ってきてくれるだけで十分だよ、それこそどんな着順だとしてもね」
「でも勝ってきたら嬉しいでしょ?」
「そりゃあ………俺がウマ娘のトレーナーをやってる時点で、とうの昔に分かり切った質問じゃあないか?」
「そうだよね!それから三つ目だけど、歴史上の偉大なウマ娘ができなかったことをやってみせて、誰も超えられないような記録を残してわたしの足跡にしたいの!」
あぁ、やっぱりそうなるか。一つ目の理由に関してはまあ予想もできていたし、理解もできる。二つ目も………まあ、子供の言うことだから問題外。
んで三つ目だが………まさかそうくるとは思わなんだ、でもやっちまえるんだよな。だってビャウィノチカは才能とポテンシャルがウマ娘の形しているようなもんだし!
とりあえず聞きたいことは聞けたし、出走レースをある程度まとめておこう。とっ散らかってんのは気に食わんし。
「そうか、なら凱旋門賞*2とキングジョージ6世&クイーンエリザベスステークス*3は勝たないとな。後はダービーステークス*4もだ。とりあえずこの三つを勝っておけばまあ欧州最強は名乗れるだろうし、そこにフランスかイギリスのクラシック三冠を獲っておけば………まあ、文句を言う奴がいても黙るだろうな。
後はフランスのジュニア三冠*5も獲って、イギリスの長距離三冠*6も獲ったら皆黙りこくって、名実ともにビャウィノチカは世界最強のウマ娘ってことになる。ポーランドの誇りになれるな!」
「うーん………クラシック三冠って、イギリスとフランスだとどっちに出たほうが良いかな?」
「正直俺はどっちでも良いと思ってる。なんなら変則三冠みたいにするのもアリじゃないか?」
「ふんふん、ならどっちも全部出る!!」
「話聞いてた?」
えっ、俺の話聞いてた?全部出るのはやめにしない?それが無理ならせめて変則三冠か四冠にしよう?
いやでもこいつ一度決めたことは絶対に変えたがらない頑固なとこあるし、それになんだかんだで頑丈だからいけるかもな………
ならもう好きにさせるか、俺はもう知らん。ケアとトレーニングやサポートをやれるだけやって、後は負けても良いから無事に帰ってきてくれることだけを祈ろう。
俺としてはピュロスの勝利*7を掴んだところで、得るものは少ない。それなら、潔く敗北を受け入れて保全主義に回った方が良いと考えている。実際リスクを無くして得られないものは多いが、それでも無用な上に避けられるリスクは避けてしまった方が良い。
それはそれとして、こいつの場合は実際に先ほど挙げた奴全てに出たとしよう。その場合、恐らくピュロスの勝利なんぞじゃなく完全な勝利を掴んだ挙句に生涯無敗の達成をやらかしそうな気がする。
「聞いてたけど、その上でどっちも走りたい!」
「そうかそうか………ならもうどうせだし、ロワイヤルオーク賞*8も出てフランスクラシック四冠*9とイギリスクラシック三冠の両方をやっちまうかぁ?」
「やっちまおー!」
つまるところ、ビャウィノチカならなんだかんだでまあうまくいくだろうから、好きにやらせることにしよう。もう俺は知らん!
詳細を詰め………られたのかは知らんが、目標について話すことは終わったはずだ。多分。
なのでこのお話はここまでにして、さっさと朝飯を片付けることに専念しよう。もうどうにでもなーれ!
………あ、そうだ。デビュー戦どこでやるか聞いておかないと。
「そうそう、デビュー戦だがどこで「ワルシャワのスウジェヴィエツ!」せめて全部言わせてくれよ………」
「おやおや、お兄ちゃんは大変そうだなぁ?」
義妹が俺の発言を遮るだなんて、誰が予想できた?しかもポーランド語ができないのでこれまでただ聞いていただけのクルトーチカからは揶揄われるしさぁ………!
まあいいさ。どこからビャウィノチカがデビューするかは決まったし、あとはワルシャワトレセン学園に入学するための書類を書いて出して、必要なことをやっておけば後はなんとかなるさ。