ウマ娘 ポロニアダービー   作:O Polonia!

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Q.急に遠いところからやってきた見知らぬウマ娘から逆スカウトされた場合、どのようにしたら良いでしょうか?

A.近くにいるカトリックの神父様に相談しましょう。





第3話:ワルシャワトレセン学園にようこそ!そしてやったねカジミェシュ、担当が増えるよ!

 

 

 

 あの日曜日からいくらかの時が過ぎて、黄金の秋が始まった9月。

 今、俺とビャウィノチカはポーランド共和国の首都であるワルシャワの、スウジェヴィエツに歴史と伝統を感じるバロック調の本校を構える"ワルシャワトレセン学園"の門を潜り抜けた。

 俺はPKWU(ポーランド競バクラブ)に所属するチーム〈ソビエスキ〉のチーフトレーナーにして、隣のビャウィノチカの付き添い人として。

 ビャウィノチカの方は、新品の白い化学繊維の羽根飾りとカラフルなリボンで飾られた赤いマギェルキ(四角帽)を被り、白いゆったりとした襟と袖に金糸の刺繍が入った袖の長いシャツと、赤や白の刺繍と飾りがついた、赤い縁取りの紺色の袖がないジャケットに、赤と白の細かい縦縞で袖の長いズボンからなる"クラクフ様式"の制服に身を包んだ新入生としてだ。

 

 周囲には同じような、もしくは別の様式仕立てで、同じ金糸の刺繍が襟と袖に入った制服に身を包んだ他の生徒もいる。少なくともこの全くもって足並みの揃っていないような制服は"ポーランド的"にして、他の国の──ただしチェコやスロヴァキア、ハンガリーやルーマニアは除く──トレセン学園にはない特徴と言えよう。人材のための苦肉の策的な面があるのは否めないが。そもそも運営に必要な予算は国からもらっている、だってここはポーランドに存在する学校だもの!

 まあそれは置いておくとして、俺らは目当ての事務室に到着した。必要な書類を出したら、ビャウィノチカを割り当てられた教室に放り込んで一つ目の仕事は完了。

 

 ビャウィノチカは現状デビューは本格化の到来時期も鑑みると中等部2年生からで、今は1年生。つまりは地盤固めのために基礎工事をする段階だ。とは言ってもそもそもそれ以前に、まずビャウィノチカには集団に慣れてもらわねばなるまい。

 実際これまでのビャウィノチカと他人との関わりは多くて数えるのに両手もあれば十分だったが、今後はより多くの他人と関わらねばならないだろう。そうなった時、俺にばっかり頼っているというのは非常によろしくない。なので今後は少しばかりビャウィノチカと距離を取ることを心がけて、ある程度の自立を促そう。

 

 まあビャウィノチカのことは終わったし、次はワルシャワトレセン学園のモコトゥフキャンパスに向かって、〈ソビエスキ〉の面々のトレーニングプランの作成とトレーニングに必要な機材や設備の確保だったりをしなければな。

 そんなわけで仕事もあるし、急いでお気に入りの今は亡き古いPZInż製CWS T-8のエンジンを始動させ、ギアを操作して駐車場から愛車を出す。助手席にするりと誰かが乗ってきたことにも気づかずにね!

 

「もし、貴方はカジミェシュ・ソコウォフスキ様でしょうか?」

「もちろん、俺がそうだとも………いや待て君は何者なんだ!?」

「わたくしイングランドはワイト島生まれワイト島育ちの"ブリスカヴィカ(Blyskawica)"と申しますわ!わたくしは貴方の担当ウマ娘になることを望んではるばるポーランドまでやってきましたの!是非わたくしをスカウトしていただけると幸いですわ!」

「………丁寧な自己紹介どうも、だがなぜ俺をトレーナーに選んだ?イギリスやフランスにアイルランドみたいな国にも、優れたトレーナーはいるだろう?それなのに、わざわざこんなところまで来るだなんて、君は随分と奇妙なことをするものだな」

「それでしたら、まず最初にわたくしの目標を語ってもよろしくて?」

「どうぞ、運転の邪魔だけはしないでくれよ」

 

 実のところを言えば、助手席に乗り込んできたブリスカヴィカに気付かなかったのは俺が難聴を患っているとかではなく、ただ単にラジオを流していただけだ。ワルシャワ発の、色々な音楽を流しているラジオをね!

 今は大体70年代ごろのポップ曲を流しているらしく、軽快な電子楽器のメロディーと、ボーカルの絶妙でちょっと気の抜けた歌い声で、時代も鑑みれば当たり障りのない歌詞を歌っている。

 そしてそんな中、俺は愛車を運転しながらちっちゃくて大きなイングランド娘と質問を投げて投げられてを繰り返した後に、イングランド娘の目標を聞いてやることにした。もちろん、ちゃんとハンドルをしっかりと握って運転に専念しながらね!

 

「わたくし、ティアラ路線を目指しておりますの!それから可能であるならば、ティアラ三冠の制覇も狙ってますの」

「そうか、ところで君はいつデビューするつもりなんだ?」

「デビューは来年を予定しておりますわ、何か気になることでもありまして?」

「あぁいや………うちの妹も君と同じ頃にデビューするんだが………まず確実に、君がイギリスでティアラ三冠を目指すならセントレジャーで妹と鉢合わせることになるんだ。そしてその妹は君よりも確実に強いし、君は負けるだろう」

「あら、そんなことでしたのね。ですがわたくしが三冠を獲るのはイギリスのティアラ路線とは言ってなくてよ?」

「………ならアイルランドかフランスでティアラ三冠の制覇を目指しているのか?」

「ええ、わたくし1000ギニーとオークス、それからアイルランドのティアラ三冠を制覇したいと思ってますの!」

「なるほどね、ならアイリッシュセントレジャーでシニア級を相手にするだけだから、うちの妹を相手するよりは楽だろうな」

「………わたくしの目標を無謀だと否定しないのですね?」

 

 オーケイ、ブリスカヴィカはティアラ路線とそこでの三冠を目指し、デビューは来年っと………イギリスに行くんなら確実にビャウィノチカと鉢合わせし、そして確実にビャウィノチカの勝ちに終わる。とは言っても当の本人はイギリスでのティアラ三冠達成にそこまでこだわりがないようで。俺としても、もしブリスカヴィカを担当するならばではあるが、仕事がやりやすくなるのが助かる。

 とは言ってもフランスを除いたイギリスやアイルランドを始めとする欧州のクラシック級では基本的にティアラ三冠を狙う場合、確実にクラシック路線のウマ娘とセントレジャーもしくはセントレジャー相当のレースでぶち当たるし、なんならアイルランドやドイツの場合はシニア級ともぶち当たることになる。それでも俺的にはビャウィノチカを相手にするよりはシニア級の方がマシだと思うが!

 後はブリスカヴィカ自体、少し見ただけではあるが、少なくとも適切なトレーニングを施せばかなりの能力を発揮すると見ている。それこそシニア級を跳ね除けてアイリッシュセントレジャーを勝てそうなくらいには!

 だがまあ、わざわざこんなところに来たって時点で頼れるトレーナーは俺以外にいなかったんだろうか?

 

「俺は担当にやりたいことがあるなら好きにやらせるし、最大限サポートもする。故障のリスクがない限り、担当の自由意思を最大限に尊重するってのが俺のスタンスなのさ。ところで君は俺のような優良トレーナーを見つけ出せなかった口か?」

「………えぇ、その通りですの。お恥ずかしいことに、わたくしの実家はそこまで大きくない上、血筋もコネも存在しなかったのですわ。ですから、もはやわたくしには貴方様を頼る以外の選択肢はありませんの」

「そうか、なら今向かっているモコトゥフキャンパスのトレーニングコースで走りを見せてくれないか?結果次第では君を担当に迎えることもやぶさかではない」

「わかりましたわ!わたくしの走りを、貴方様に見せつけて差し上げましょう!」

 

 なんてこった、イギリスのトレーナー教育はどうなっているんだ!?と言いたいところだが、実際のところ競バというのは血筋が良ければ良いほど結果も見込める………というのが一般論とされている。俺としてはそうでもないと思うんだが!

 そうでもなけりゃ寒門出身のウマ娘が、レースで成り上がったりする現実をどう表現するつもりなんだろうな?

 それに、例えどんな結果だろうと降着になるようなやらかしもなく1着に入線したのならば、それが結果というものなのだ。その結果たる現実を受け入れられないのなら、馬鹿なことをせず妄想の世界と家に閉じこもっていて欲しいものだ。

 まあそれはいいんだ、何はともあれまずモコトゥフキャンパスに向かおう。

 

 

 

Kilka minut później(数分後)………

 

 

 

 それで、ブリスカヴィカと他愛もないおしゃべりをしながら、ワルシャワの街をあっちこっちに曲がっては直進して目的地であるモコトゥフキャンパスに到着したわけだ。

 駐車場に愛車を停め、荷物を小脇に抱えて守衛に身分証を見せて同行者の説明をし、無事にキャンパス内へ足を踏み入れることに成功した。

 そっから空いているトレーニングコースに行ってみれば、〈ソビエスキ〉でメンタルケアとサポート要員として協力してもらっているポリフィリウシュ・イェンジェイチク神父と偶然にも出会した。

 どうやら神父様は散歩ついでに見回りをしていたらしいが、まあそれは良い。相談がしやすくなるし、探し回る必要性がなくなったのはありがたい。これは神様の思し召しなのかもな?

 

「信徒カジミェシュ、ごきげんよう」

「ごきげんよう、イェンジェイチク神父」

「そちらのご令嬢は君の関係者ですか?」

「ええ、その通りです。彼女はブリスカヴィカ。彼女の目標を果たすべく、それを達成させてくれるトレーナーを探してここまで来た。と、本人はそう語っています」

「そうでしたか。ところでカジミェシュ、君は私に相談したいことがあるように見えますが………」

「まあ………簡単に言えば、彼女と契約をするべきか、で悩んでいます」

 

 直近では英語を多く使っていたのもあってか、少しばかり久しぶりにも感じるポーランド語を使って神父と他愛もない挨拶を交わし、ブリスカヴィカのことを聞かれたので極めて簡潔に答える。

 だがまあ、カトリックの神父様はさすがだというべきだろうか。神父は俺が相談したいことがあることを即座に見抜いて見せた。当然ながらそもそも俺は神父に相談する予定だったので、そのまま悩みを打ち明ける。

 少なくとも、担当として契約するにしろしないにしろ、まずは一度神父様に相談した方が良い気がする。これは多分というか確実に、俺のポーランド人としての気質によるものだ。

 

「ふむ………私としては、君は彼女と契約しても良いでしょう。ですがその前に、まずは走りを見てあげなさい。結論はそれからでも良いでしょう」

「ありがとうございます、神父様」

「どういたしまして、悩みは消えましたか?」

「もちろんですとも!神父様に相談してよかったですよ」

「私の仕事は信徒の悩みを聞くことです、どうか遠慮せずなんでも相談して良いのですよ」

「また悩みができたらそうします。それじゃあまた、良い1日を!」

「ええ、良い1日を」

 

 神父様は「契約しても良いだろう」と言ってくれたし、ならば後は走りを見てから契約をしよう。

 困ったら神父様に相談すれば良いと両方の祖父母や両親が教えてくれたし、経験則からではあるが、神父様に相談すると物事は良い方向に進む………気がする。

 だがまあ、少なくとも俺の方針はこの短い相談でしっかりと固まった。

 再び散歩を兼ねての見回りに戻る神父と別れ、荷物を詰めた鞄からタブレット端末を取り出し、トレーナー・教官用のワルシャワトレセン学園公式アプリからコースを一つ予約する。それから簡易ゲートと、ゴール板の予約も忘れずに。

 そしてここまで若干置いてけぼりにしていたブリスカヴィカの方に向き直し、ウォーミングアップをさせておく。

 

「それじゃあブリスカヴィカ嬢、俺は簡易ゲートとゴール板を取ってくるから、君はここで少し体を温めておくように」

「わかりましたわ、とうとうわたくしの走りを見せる時が来ましたのね!」

 

 

 

 そんなこんなで機材倉庫から予約した簡易ゲートとゴール板を確保し、俺らが使うコースまで引っ張ってきた頃にはブリスカヴィカはウォーミングアップを終え、コース内に立ち入って芝の様子を確かめていた。とは言ってもここの芝は他の欧州で使われるものとさほど変わらんのだけど。

 まあそれは良いのだ、簡易ゲートを設置してスタート地点を設定し、そこから2000m地点でラチの外にゴール板を立てる。少なくとも、軽く走りの様子を見るくらいならこんなもんで大丈夫だろう。

 

「ブリスカヴィカ、準備はできたか?」

「完璧ですわ!後はゲートに入って、走るだけでしょう?」

「その通り、じゃあゲートに入ってくれ」

 

 こっちの準備は終わったし、ブリスカヴィカも同じようだ。デビュー前のウマ娘にしては珍しくすんなりとゲートに入り、発走手順もスムーズに終わったので後はゲートを開くと同時にストップウォッチでタイムを測るだけだ。

 ストップウォッチ、ヨシ!ゲートイン、ヨシ!ゲート開扉準備、ヨシ!それでは、ご安全に!

 発走用のボタンをストップウォッチのボタンと同時に押し込み、ゲートがガシャリと音を立てて勢いよく開く。そして、勢いよく好スタートを切って飛び出す影も一つ。

 

 

 

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