ウマ娘 ポロニアダービー   作:O Polonia!

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第4話:秋は短し疾走せよウマ娘。〈ソビエスキ〉にようこそ!

 

 

 

 好スタートを切って飛び出した影──つまりはブリスカヴィカ──は好スタートの影響もあってぐんぐんと速度を伸ばし、デビュー前にしては驚異的な速度を叩き出している。

 もちろんジュニア級のウマ娘を相手にするには少し力不足なところも見られるが、たとえそうだとしても今後のトレーニング次第ではかなり強くなるだろう。それこそビャウィノチカを負かすことができるかもしれないくらいには!

 ゲートから急いで離れ、ラチの外からゴール板前まで移動しつつブリスカヴィカが走る様子を眺める。

 走法はストライドで、フォームは悪くない………んだが、どうにも荒削りだ。だけども幸いなことに我が〈ソビエスキ〉にはストライド走法で走るウマ娘が多いし、ピッチ走法への切り替え技術──便宜上スイッチングと呼称する──も双子の姉やクシシュソルヌィ、ザヴィシャチャルニの協力で実用化の域にまで持ち込めた。

 ただスイッチングの実用化は主に姉とクシシュソルヌィによるものが大きく、俺はザヴィシャチャルニと終始データ集めに取り組んでいたんだが。

 

 まあスイッチングのことはどうでも良くて、それよりもブリスカヴィカの走法についてだ。

 コーナーを曲がる際は少し外側にふらつきがちだし、踏み込みも余計な力が入っているし、足を動かすペースも少しばらつきがある。

 ただそれらを鑑みた上で、動きやすいものとは言えど私服を着た状態で、さらには身長も138cm程とかなり低い。しかしそれでもなおここまでやれるのならば、ブリスカヴィカの今後の活躍も十分見込めるだろう。

 本当に、なぜイギリスのトレーナーはブリスカヴィカと契約をしなかったのか不思議になるくらいだ。血筋とは別に、早熟型ですぐに成長が頭打ちになるとでも評価されたのか?俺はそうだと思わないのだけど。

 とは言ってもブリスカヴィカの所属とデビューはイギリスになるだろうから、今のうちにイギリスに代理人を送る………弟のマリアンか双子の姉のレフスカクルロヴァ(Lewska Królowa)に担当させるか!あの2人は最近暇そうにしていたし、チーフとしてチーム内の手の空いてるトレーナーには仕事を投げてやらないとな!

 

 俺がバカなことをやっていた間もブリスカヴィカはコースの大部分を走り、残るは最終コーナーと最終直線だけになった。

 疲れはそこまで見えず、余裕を見せながら直線入りすると一気にラストスパートをかける。

 ゴール板まではコーナーから残り400mと少々あるが、あそこからスパートをかけて大丈夫なのだろうか?

 そう思っていた時期が、俺にもありました。ロングスパートを掛けてじわじわと加速し続け、最終的には目測でおおよそ時速71km程でゴール板を駆け抜けた。

 そのまま少しずつ速度を緩め、俺が立つゴール板前に速歩でやってくる。ぱっと見だと疲労はそこまで溜まっていないようで、息もすぐに整いつつある。

 ………これなら順調に適切なトレーニングさえすればイギリスティアラ二冠とアイルランドティアラ三冠も容易………とまではいかないだろうが、それでもブリスカヴィカが前述のそれを達成する可能性は高いだろう。

 ビャウィノチカとブリスカヴィカ。こんな素晴らしい才能と可能性の原石二つを俺の担当に加えることができるなんて、俺はどれだけ恵まれていることやら!

 これまでもクルトーチカのような素晴らしいウマ娘を担当に迎えることができたが、これまでの経験則から見るに、どうにも俺はウマ娘との縁に恵まれているらしい。それもとびっきり良いものにね!

 

「わたくしの走りはいかがでした?」

「そうだな………君の走りは未熟ではあるが、将来性はある。君の目標を果たすには、十分とまでは言わないが、適切なトレーニングとフォームの修正さえできれば目標を達成する確率を高めることができる」

「それで、あなた様はわたくしにとって適切なトレーニングやフォームの修正をできますの?」

「我々ならできるに決まっているし、できないわけがない。君は我々〈ソビエスキ〉の一員となることを望むか?」

 

 俺の近くまでやってきたブリスカヴィカに走りの感想を求められたので、思ったままを伝えていく。

 少なくとも、気性難相手にするのと違って、フォーム修正くらいで済むようなのは少しばかりぬるくも感じる。ただやっぱり仕事は楽な方が俺的には嬉しいから、ブリスカヴィカとの担当契約は受けてもよかったな。

 まあそもそも当分は俺が担当するわけじゃないんだが!俺は俺でビャウィノチカ見ないといけないし。

 

「もちろんですわ!これからよろしくお願いいたしますね、トレーナー様!」

「ああ、こちらこそよろしく頼む。だが当分は俺の双子の姉か弟が君を担当することになるだろうけれどね」

「あら、そうでしたの?」

「まあ恐らくは姉さん………レフスカクルロヴァが君を担当し、補助に弟のマリアンがつく感じになるだろうな。少なくとも、俺はポーランドで君の同期になるであろう担当の様子を見なくちゃならない。だから、当分はそうなる。まあ、ジュニア級くらいには西側に来るから安心してくれ!」

「レフスカクルロヴァ………英国クラシック覇者がわたくしを担当してくださるなんて、わたくしはなんと恵まれているのでしょう………!」

「それとマリアンのことも忘れないでやってくれ。あいつも贔屓目抜きに優秀なトレーナーだからな」

「ええ、マリアン様のことも存じておりますわ。クシシュソルヌィによるフランスクラシック四冠に凱旋門賞制覇、その立役者にして英国における上位リーディングトレーナーに入ったこともある方ですわね」

「そう、その通り。俺の家族のことまで調べてくれるなんて、君は随分と物好きだな」

 

 こうしてブリスカヴィカは我らが〈ソビエスキ〉の新たな一員となったわけだ。そして俺とトレーナー契約こそしているが、しばらくは俺以外の指導を受けることともなった。仕方あるまい。

 でも2人とも贔屓目抜きに能力はあるので任せるし、能力がなければそもそも俺だけでやってた。そして過労死の可能性も高くなっていた。

 それが自由にこき使える弟と、競走バとしてのキャリアを終え、ヤギェウォ大学*1で医学や薬学に健康科学やバイオテクノロジーなんかを学んでからPKWU(ポーランド競バクラブ)のトレーナー資格を取った人材としての魅力度がクソ高い双子の姉がいるのだ。なんて素晴らしい!

 やっぱり持つべきものは優秀で扱いやすい家族だよ、本当に。

 いや家族のことは今はどうでも良い、それよりも契約についてだ。今は口頭のみの仮契約だから、英国に飛んで英国のトレセン学院でしっかり契約書類を出す必要がある。なんて面倒なことなのやら!

 だけどそれさえやってしまえば俺は来年から芝で最強格のウマ娘2人を担当に据えることができるのだ。2人のおかげで今後はたっぷり稼げるだろうし、そうなれば実家の財産である城2つと修道院1つに、実家の地下と繋がる岩塩坑、それから不動産の維持費や管理費を稼ぐために、担当ウマ娘に頭を下げてグランドナショナルのような賞金額が高いレースに出てくれと頼み込む必要もなくなる………といいな!

 

「さて、ブリスカヴィカ。チーム〈ソビエスキ〉にようこそ!我々は君の活躍を祈り、そして君のためにあらゆる努力を払うことを、祖国に、神に、父祖の名の下に固く誓おう!」

 

 

 


 

 

 

 わたくしは焦っておりました、なぜなら担当契約を結んでくれるトレーナーがいないから。

 138cmと低い身長に、血筋も、ポーランド系イギリス人の、ワイト島で小さな造船業を営む、たいしたことない血筋。それでもニューマーケットのトレセン学院で、なんとか目標を果たすべくトレーナーを探しては契約してもらえないかと頼み込んでは断られる日々。

 

 そんなところに、かつてはBUA(英国競バ統括機構)のトレーナーとして活躍し、今はポーランド所属のトレーナーとして活動している、とあるポーランド人の存在を知りました。

 担当ウマ娘は世界屈指の名ウマ娘ばかり、勝ったレースは数知れずで、担当の勝ったG1レースのトロフィーだけでちょっとした博物館を開けるくらいには優れた手腕を持つトレーナー。

 外見は双子の姉で英国クラシックを蹂躙し、凱旋門賞三連覇を達成したレフスカクルロヴァと2人揃って北欧人のようなシャープで彫りの深い顔立ちに、色素の薄い金髪と碧眼。高い身長に、バランスの取れた体格。ウマ娘優先主義でスラヴ的な大らかさがあり、雪が降り積もる真冬の屋外で堂々と大きなアイスクリームを食べ、お酒を愛するスラヴ人らしさと信心深さ。

 そしてヨーロッパにおいて、燦然と輝く功績とともにトレーナー界の新たな強者として、ヨーロッパの中心にしてわたくしのルーツの地でもある中欧の国、ポーランドから頭角を表す"カジミェシュ・ヴィエルキ(大王)"。

 

 そんな彼の………カジミェシュ・ソコウォフスキという1人の人物と功績に惹かれ、彼ならわたくしの目標──1000ギニーとオークスからなる英国ティアラ二冠と、アイリッシュ1000ギニー、アイリッシュオークス、アイリッシュセントレジャーからなるアイルランドティアラ三冠──の達成。

 これを彼なら否定もせず受け入れてくれると信じ、ワルシャワまで格安便で飛んで走ってみれば、結果は大成功。ただわたくしの走り方に修正点を突きつけられましたが、それはわたくし自身も理解しています。

 所詮は独学で、なんとか手に入るトレーニング用の教本を参考に、なんとか身につけた走り方。

 それでも今後はトレーナーの指導の下に、より良い走り方を学べるとあれば、それがたとえグループ3国家の競バ機関所属のトレーナーであったとしても受けるでしょう。その良い例が今わたくしの目の前に立つ、カジミェシュ・ソコウォフスキなのですから!

 

 だから、わたくしはポーランドを本拠地に構えるチーム〈ソビエスキ〉の一員となることを望みましたの。

 そして今後は〈ソビエスキ〉のモットーである「意志有る者のみ来れ、遺志無くして勝利なし」を胸に、トレーニングに励み、レースで勝利し目標を果たす。

 そのために、意志を堅く持って勝利のため、目標のためひたすらに前進を続けたいと思ってますの!

 

 ですから、どうかわたくしを誰にも負けないくらいに強くしてくださいね?トレーナーさん。

 

 

 

*1
ポーランドのクラクフに存在する、ポーランド最古のスラヴ人による大学。首都のワルシャワに存在するワルシャワ大学とともに、トップクラスの名門校でもある。ショパンやモーツァルトの自筆楽譜を図書館に多数所蔵している。

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