ウマ娘 ポロニアダービー   作:O Polonia!

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第6話:メイドン スウジェヴィエツ 芝2200m 1番人気:ビャウィオジェウ

 

 

 

 4月中旬。クソ寒い冬もとっくに過ぎて、春の訪れとともに欧州競バは平地も障害も大々的に開かれるようになった頃。

 

 我が義妹たるビャウィノチカ、あるいはビャウィオジェウ。彼女は今、ポーランド共和国はマゾフシェ県、ポーランドの首都であるワルシャワの南方に位置するスウジェヴィエツ地区にあるスウジェヴィエツ(Służewiec)競バ場。

 その芝コースで、ぐずっている他の出走者と違ってビャウィノチカ他数人はすんなりとゲートインした。

 ビャウィノチカはワルシャワトレセン学園に所属していることを示す金糸の刺繍が、白く袖の長いシャツの袖と腕にされたクラクフ様式の制服に身を包み、更にその上から青色の生地に白で9と刺繍された腕章とゼッケンを着用し、静かにゲート内で佇んで出走を待つ。

 1番人気に押されるだけあって、流石の貫禄だなどと評価されているが、多分俺の見立てではもうすでに走り終わった後のことを考えているんじゃないか?

 そんな様子をスタンドから眺める観客は微笑ましげに、俺らトレーナーはゲート入りだのなんだので課題を見つけたりして、出走を待っていた。

 とは言っても最終的には無事全員ゲートに入り切って、レースが始まった。

 

 スタートは全員で遅れることもなく、スムーズにゲートを出ていった。

 そしてある程度まとまった形のまま中盤のコーナーまではレースが進んで行った。そう、このまま何も起こらなければね!

 

「おい、大外から1人だけ一気に集団から離れていくぞ!」

「なんてことだ、ビャウィオジェウは初めてのレースで掛かったのか!?」

『おっと、9番のビャウィオジェウは掛かってしまったのか、大外から一気に先頭へ立ちました』

『彼女はどこかで一息入れられるでしょうか?』

 

 そう、ビャウィノチカが掛かってしまったように。とは言ってもこれは実際には演技なんだけども。

 だがビャウィノチカが今回が初出走だからか、周囲からしてみれば演技なんかじゃなく、本当に掛かっているようにしか見えていないようだ。

 本当に掛かっているんだったら息切れの兆候が見えてくるはずなのに、一向にスタミナ切れを起こして垂れるどころか、どんどん後続と距離を離している。それに伴って、ペースもこれまでは早くもなく遅くもないペースだったのが、急にハイペースに持ち込まれたのだ。

 こうなれば差を縮めなければと焦り、知らず知らずの間に掛かってしまうウマ娘も出てくるわけで。

 ただ肝心のビャウィノチカは後ろが掛かりだのなんだのでわちゃわちゃしているのもなんのこっちゃと、涼しい顔で先頭をただひたすらに、飛ぶようなストライドで突っ走る。

 後続は追いつけず、ビャウィノチカが作り上げた5バ身の壁を越えることも叶わず、スタミナが切れてしまって沈むウマ娘もちらほら。その度に悔しそうな呻き声を上げるトレーナーもちらほら。

 

 で、そのままビャウィノチカの一人芝居が続き、最終コーナーを抜けて最終直線に真っ先に入ったビャウィノチカは、末脚を切ってビャウィノチカを抜き去らんとする後続のウマ娘に絶望を見せたわけだ。

 Q.後続に絶望を見せるとは、何が起こったのですか?

 A.ロングスパートをかけて、更に加速し、後続を更に突き放しました。

 とまあ、こんな感じに走ればまあ当然だが、ビャウィノチカと終始自分のペースで、落ち着き払った走りをして最後に末脚を切った2着の娘との着差は10バ身ほどになったわけだ。

 

 こうしてスウジェヴィエツ競バ場の芝2200mで開かれたメイドンを、途中で先行から大逃げに切り替え、後続に影も踏ませず走り切ったビャウィノチカのタイムは2分31秒で、ジュニア級にしてみればなかなかのタイムだと言えるだろう。

 まあ事前に立てた作戦なんて精々が中盤までは一般的な先行ウマ娘を装い、中盤からは掛かった演技をして大逃げに移行する、それだけ。そんなフィジカルだけを頼りに、その肝心のフィジカルも抑え気味にやっただけでこんな結果になった。少なくとも、プレオープンやオープン戦クラスのレースにおいては、状況に応じて抑え気味で走らせても問題はないだろうな。

 それからレース後のウイニングライブも無事に終わらせ、反省点や課題も今のところは見つからなかったので、俺の運転で家に直帰する。

 

 

 


 

 

 

 4月のど真ん中、ワルシャワのスウゼヴィエツ競バ場。その芝コースに設置されたゲートの中に、わたしは立っていた。

 ゲート入りを拒む娘と職員が格闘しているのも、周囲から警戒の視線を向けられているのも。

 何もかもが大したことなんてない。私どころかクラシック級ですら、互角に戦えるかどうかも怪しい、遙かな高みの上に立つ格上のシニア級やドリーム入りした先輩たちに比べれば、このメイドンに出走する同期の娘達はみーんな可愛らしい仔猫ちゃんのようにしか思えないのだから!

 

 私のこの言葉を、他の人は傲慢だのなんだのと文句をつけるかもしれない。

 だけどわたしからしてみれば、それはレフスカクルロヴァお姉ちゃんやクシシュソルヌィお姉ちゃんに、ザヴィシャチャルニお姉ちゃん。それからアルバアクア先輩に、シェンキェヴィチ先輩やミツキェヴィチ先輩、コレヨシュ先輩といった〈ソビエスキ〉の先輩達と走ったことのない、無知蒙昧で盲な外野からの戯言ですらなく。取るに足らない、ジビエにする価値もない小鳥の囀り以下の何か奇妙な音でしかない。

 

 ただそれは今のことに関係がないのでどこかに置いておいて。

 今、わたしは好スタートを切ってゲートを抜け出し、外からバ群に併せる形でコースを駆け抜ける。

 

 周りの娘達はわたしがある作戦を引っ提げて挑んでいるとも知らず、ただひたすらに一定のペースで直線を走り、コースを曲がっている。

 

 ………でもね、わたしは勝って勝って勝ち続けて、歴史にその足跡を深く刻むために、さらなる高みを目指さなきゃいけないの。

 だから、みんなを置いてけぼりにしちゃうけどごめんね。みんなにも夢があるかもしれない、目標があるかもしれない。それでも、わたしはわたしの夢と目標のため、みんなのことを踏み躙って、足蹴にしなければならない。

 レースの、競バにおける勝者の座──1着──というのはたった1人だけしか手に入れることができない。時には同着になって勝者は2人、もしくは3人になることもあるかもしれないけれど。

 それでもレースのほとんどは、1人だけが勝者に、それ以外はみんな敗者になる。

 そんな残酷で、だけど煌びやかなトロフィーのために、わたしやみんなはターフで、ダートで、オールウェザーで、あらゆる場所で走り抜けるのだ。

 

 だからね。

 だから、わたしはみんなを置き去りにしちゃうね。

 

 

 

 周囲から見ればわたしが掛かってしまったかのように。

 お姉ちゃんから学んだテクニックを、お兄ちゃんと打ち合わせした作戦を、この盤面でやる。

 一気に大外から先頭に立ち、後続の娘達と差を広げにかかる。

 バ群になって走る他の娘達はわたしのことを気にも留めていないけど、それで結構。むしろマークが外れたかもしれないね、「ビャウィオジェウはどうせスタミナ切れになる」みたいに慢心して。

 

 わたしが全然スタミナ切れになる様子も見せず、先頭でひたすらに走るわたしのことを特に警戒もしなかった。そんなみんなは、わたしが最終コーナーを曲がって最終直線に入ったあたりでやっと脅威なんだと認識したみたい。

 でも残念だね。わたしを差し切るために、行動を起こすのにはもう遅すぎたんだから。

 

 だから、みんなを10バ身後ろに置き去りにした。

 ただ2着の娘──ビブワ(Bibuła)──は、多分今後成長して、強くなってきたらわたしの脅威になるかもしれない。ボリス・"フィロ"・ボグスラフスキという不思議な人物をトレーナーに据えた、あの差しウマ娘。

 最後の直線、末脚を切って。わたしを鋭く、強い眼差しで睨みつけた、あの娘。

 

 ………もしかしたら、いつの日かわたしをレースの場で負かすかもしれない。そんな気迫すら見せた、左耳に白と赤の、ポーランド国旗と同じ配色のリボンだけをつけたあの娘。

 ワルシャワトレセン学園の所属であることを示す、袖と襟に金糸の刺繍が入って。それに袖口にレースのついたブラウスに、鮮やかな色使いが特徴的なスカートとオレンジの腰布を巻きつけた、マゾフシェ様式の制服に身を包んだあの娘。

 

 あの娘とまたレースの場で会えることを祈って、ウイニングライブに備えて待機と準備をするため。レース後にやることを急いで済ませ、地下バ道を通ってわたしに割り当てられた控え室に戻る。

 

 あのあとはウイニングライブを難なく終わらせ、お兄ちゃんが運転する80年か90年物の、博物館に収蔵されてもおかしくないようなレベルの古いポーランド製自動車に乗って、ワルシャワでの生活基盤として使うアパートに帰った。

 次走はポーランド国内のプレオープンに出て、その次はスロバキアの国内オープン、そのまた次はチェコの国内G3を走って。それからイギリスに渡ってアスコットの芝直線6ハロン………1200mのG2を走る。

 そうすれば、イギリスやフランスで開かれるジュニア級G1レースにだって出れるようになる。

 そしたら、わたしがとにかくひたすらに勝って、名前を轟かせることができるようになる!

 

 なんて楽しみなんだろう、どんなレースができるんだろう!今からでも、早くレースの日が来やしないかと、期待で胸が膨らみに膨らんでくる。

 

 

 

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