ウマ娘 ポロニアダービー 作:O Polonia!
Q.チームの方でウイニングライブ曲と振り付けを教えられなかった場合、どのようにすれば良いでしょうか?
A.学校の方で教えられていることを祈りましょう。
ワルシャワはスウジェヴィエツでのメイドン、そしてビャウィノチカのデビュー戦が無事に終わった。
そして今度はイギリスのニューマーケットまで移動し、ブリスカヴィカの初デビューであるメイドンの発走が近づいてきた頃。
肝心のブリスカヴィカは11人いる出走者の中で9番人気と、他の出走者に比べればあまり注目されていない。でもこっちの方が好都合かもしれないな、だって言い換えれば特に警戒されているわけでもないのだから!
実際、コースの様子を見るに他の出走者はブリスカヴィカを警戒していないようだ。どうかそのまま慢心していてくれよ?
ニューマーケットトレセン学院の体操服と、その上に枠番である1が記入されたゼッケンを身につけたコース上のブリスカヴィカがスタンドの方を見ると、ぴょんぴょん飛び跳ねながら大きく両手を振ってくる。ゲルラホフスカ*1が揺れておるわ………
そんなブリスカヴィカの姿に、俺は非常に呆れ果て、乾いた笑いがで始める。
で、順当に返しだのなんだもの終わり、全員すんなりとゲートイン。メイドンが始まるのももう少し。
がしゃりとゲートが開き、バラついたスタートからブリスカヴィカのメイドンは始まる。
レースはバラついたスタートから始まり、悪くないスタートを切ったブリスカヴィカはバ群の中間、内ラチほどに陣取っている。
少なくとも、ブリスカヴィカの脚質的には合っている位置取りだ。
そして今のところは特筆することもなく、バ群は若干縦長の状態ではあるが順調に、ほんの少しだけ早めのペースで進行している。
しかしそのままレースが進んだりはせず、終盤が近づくにつれて先行ウマ娘はバ群から少し距離を空ける。そして追い込みウマ娘もロングスパートに取り掛かる。
今回のメイドンに関しては2000ギニーや1000ギニーと同じローリーマイルコース*2で行われる芝直線の1マイルであり、予行演習にはかなり早いが、それでも良い経験にはなるだろう。
まあそんなことはどうでも良いのだ、今は目の前のレースに集中せねば。
とは言っても、終盤が近づいてきて、差しウマ娘もそろそろ末脚を切るタイミングを見計らっている頃だが。
そんな中で、一気に地面を強く踏み付け、スイッチを入れて勢いよくこれまでのストライドから高回転のピッチ走法に切り替え、直線でやっているがゆえに枠の有利不利のない好条件も合わさって内からどんどん先頭との距離を縮め、ゴールを目指す小さな影が一つ。
そしてその小さな影とは、ブリスカヴィカである。
今回は直線で、コーナーがないためにバ群は横に広がっているが、これがコーナーのあるレースだったとしても、ブリスカヴィカはその体の小ささを利点として、バ群をスラスラと的確に避けてくれるだろう。
それから末脚や勝負根性だってなかなかのものだ。気迫がこっちにまで伝わってくる。全く、こんな逸材をスカウトしない間抜け共め!そんな情けない体たらくだから、ぽっと出のポーランド人に蹂躙されるんだぞ?
とまあ、イギリスのトレーナー陣を軽く貶しつつも、レースの動きは見逃さない。
これまで先頭に立っていた5番や8番を内から一気に抜き去り、鋭い末脚でブリスカヴィカは一番最初にゴール板を超えたのだ。
うむうむ、競走バとしてのキャリアとしても、今年デビューの2人がなかなかに良いスタートを切ってくれたので、俺としても嬉しくなるものだ。
近いうちに、何か祝いの場でも用意するべきだろうか?
まあそれを考える前に、ひとまずはウイニングライブに備えよう。
………ブリスカヴィカがちゃんと振り付けと歌詞を覚えていることを祈ってね………
まあその確認のためにも、それから場合においてはうまいこと誤魔化してウイニングライブを回避するかどうか、これを確認するためにもブリスカヴィカの控え室へ移動しよう。
わたくしは昂っておりました。何せ初めての公式レースに出るのですから!
わたくしは静かに備えておりました。勝利を、そして夢をその手に掴むために!
わたくしはひたすらに鍛え続けておりました。栄冠を手繰り寄せ、わたくしのものとするために!
だから見ててくださいまし、わたくしのトレーナー様!!
そう意気込んでスタンドの方に飛び跳ね、両手を大きく振ってみましたけれど、多分スタンドからだとここはまともに見えないですわね………それと周囲の子から主にわたくしの胸目掛けてですが、刺すような視線も感じますわね………
まあ今ので体もほぐせて機関も温まりましたし、あとは走るだけですわ!
ゲートにするりと入り、どんと来いと構える。そしてゲートががしゃりと開き、一気に前へ飛び出す。
とは言っても、もともとわたくしの脚質は差しなので好スタートを切って先頭に立っても意味がないので、するりと足を緩めて後ろに下がり、周囲をよく見渡せるポジションを陣取る。
視界は良好………とは言いにくくとも、状況把握にはちょうど良いポジション。とは言っても周囲にウマ娘がいて、しかも自分の身長は138cmと低いのであれば、当然ながら視界面ではわたくしは圧倒的に不利なのですけど。まあそれは聴覚やその他の感覚でカバーすれば良いだけですわ!
………それにしても、予想より少しだけですが、ペースが早いですわね………
ですがそれも織り込み済み、それにわたくしの体格や〈ソビエスキ〉から流出………したように装われた欺瞞情報のおかげもあってわたくしへのマークは少ない上、人気も微妙。
おまけに芝の直線1マイルと、枠番からくる有利不利のない、ある意味では全てのウマ娘にとって平等な条件であるのも大きく。そして、わたくしには他のウマ娘にはない、とある素晴らしいポーリッシュ・ワンダーが一つ。
終盤に入り、残り2ハロンを過ぎた頃。わたくしはそのポーリッシュ・ワンダーを。〈ソビエスキ〉で教わった、そのポーランドの素晴らしい脅威を、わたくしが頑丈であるからこそできる"スイッチング"を見せつける時が来ましたの!!
これまではストライド走法で、歩幅を広くして飛ぶように走っていたのを。それを地面に脚が着いた時の衝撃で歩幅を小さく、地面を掻き込むように走るピッチ走法に切り替え、温存したスタミナも全て注ぎ込み、一気に後続との距離と速度を稼ぐ。
わたくしの急激な走法の切り替え、そして一気に差し切らんと高回転のピッチ走法でラストスパートをかけるわたくしに、近くのウマ娘は驚いたらしいですが、すぐに立ち直したのはさすがと言ったところでしょうか。
そうして一気に速度を稼ぎ、あとは距離を稼ぐだけ。
ありったけの
と、もはや無我夢中に近い状態でひたすらに前だけを見て走り、やっと足の回転数を落として速度を緩めたのは観客席から歓声と拍手を浴びたとき。足を止めたのは、掲示板を、そしてこのレースの結果を目にしたとき。
掲示板の一番上に出ていたのは1、わたくしの枠番は1。後続とは2バ身の差を開けて、タイムは1分41秒12と、ジュニア級にしては悪くない数値。
そしてわたくしがどうにも勝利した実感が湧かなかったのを、このレースで1番人気に推されていた"
その際に「次は私があなたを差し切って見せましょう。ですから、不甲斐ない走りはしないでくださいな?」と再戦を挑まれましたの!まあもちろん、その挑戦を受けない人やウマ娘がいるわけもないでしょう!
そうまで言われてしまっては、わたくしもさらに走りを磨こうと燃え上がるわけで。
スタミナを使い果たし、身体は疲労困憊で倒れそうになっても。それでもなんとか意地と根性で立ち続け、燃えている心を脳の代わりに動かして地下バ道を通って控え室に戻り、控え室のソファに飛び込んで寝転がり、少しばかりの仮眠を………
………やっちまったぁ!?まさか少しだけ仮眠するつもりが、ここまで深く寝入ってしまうとは………
しかも寝姿をトレーナーに見られてしまうなんて!
時間も分からないし、ウイニングライブが終わってしまったかと思い、急いで起きなくてはと。飛び上がるように体を起こし、聖書を読んでいたトレーナー様が驚いて座っていた椅子から少し飛び上がったのも気にせずに。ウイニングライブが終わってしまっていないかと時計を探し。トレーナー様に起きた時間を教えてもらうまで、わたくしは慌てふためいて実にみっともない姿だったのは間違いないでしょう。
「トレーナー!ウイニングライブはどうなった!?」
「おわぁ!?急に飛び上がるんじゃねえよ………全く、なんて心臓に悪いやつだ………」
「えー………そんなことはどうでも良いのです、ウイニングライブの時間は過ぎてしまっておりませんよね!?」
「ああ、時間は余裕があるんだが………曲や振り付けは教わったか?」
「ええ、ばっちり学院で教わってきましたわ!」
「そうか………ならよかった、ライブ頑張れよ!」
「頑張りますわ!わたくしの渾身の歌と踊りを見ててくださいまし!」
どうやらトレーナー様は様子見と打ち合わせのために控え室へ来ていたらしく、 すやすやと眠るわたくしの姿を見つけ、そっと寝かせていただいたらしく………
トレーナー様の優しさが、今は申し訳なくなりますけれど、それでもウイニングライブに備えねば。
歌詞も振り付けも学院で完璧に教わって、あとは着替えて舞台に立つだけ。
それを伝え、トレーナー様も一言声掛けしてから控え室を去り、わたくしだけが控え室に残りましたの。
ほんの少しばかりの小さな騒動も終わり、ブリスカヴィカの控え室を後にしてライブの時間を待ち………………
そうして、今回のメイドンで出走したウマ娘達による、ウイニングライブが始まったわけだ。
そしてその肝心のウイニングライブだが…………よし!よくやってくれた!
いやまあ正直に言えば多少ぎこちない歌と振り付けだったが、それでも一応ブリスカヴィカはウイニングライブを無事にこなしてくれたのだ。
これで俺の面目も立つし、ブリスカヴィカが盛大に恥を晒さなくて済む。
これで………少しは一息つけるかもな。英国ジュニア級のウイニングライブ曲なら、少なくとも〈ソビエスキ〉の方で教えられるし………