ウマ娘 ポロニアダービー   作:O Polonia!

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第9話:ブリスカヴィカ、英愛二連戦

 

 

 

一般戦 ノッティンガム 芝2400m 4番人気:ブリスカヴィカ》

 

 

 さて、ブリスカヴィカのデビュー戦であるメイドンも無事に終わった。しかし彼女が目指す目標のためには出走条件の一つである賞金を稼ぐことも必要であり。

 そのため、今日はイギリスのノッティンガム競バ場で開かれる一般戦にブリスカヴィカを出走させていた。

 そして次はイギリス………ではなく、アイルランドで走ることになる。賞金とレースのスケジュール的にも、国境を跨がねば4月から5月で戦績や賞金は稼げないのだ。

 なのでビャウィノチカはポーランド、スロバキア、チェコの順で西スラヴ国家のレースを走り、その後ブリスカヴィカとビャウィノチカは6月第三週のロイヤルアスコットミーティングのそれぞれ別のジュニア級レースを走ることになっている。

 

 つまり2人はジュニア級のうちから他国へ遠征することにはなるのだが、そもそも俺がチーフとして率いる〈ソビエスキ〉はその手の経験は豊富なのだ。(ただしヨーロッパのみに限るものとする)

 さらにはそもそもヨーロッパ自体、イギリスとアイルランドを除けば陸続きな上に距離だって近い。

 少なくとも南北アメリカやオセアニア、アフリカやアジアに遠征するのと、ヨーロッパ圏内で遠征するのとでは言語や文化の違いを差っ引いてもなお、前者と後者とで遠征の難易度は段違いに変わってくるのだ。

 

 ………おっと、時間潰しの小話もここまでにしよう。ゲートインが始まり、レースが近づいている。

 ブリスカヴィカは落ち着き払って自分の枠である7が記されたゲートに入り、ただ静かに発走を待つ。

 

 ゲートインが終わり、わずかな静寂の後………ゲートが一斉に開き、レースは始まった。

 好スタートを切ったブリスカヴィカはバ群の若干後方に控え、スタミナを温存しながら良い位置を陣取る。なかなかうまくやったな!

 それから今の所の展開も中々悪くない。レースはミドルペースで進んでいるし、今回のレースは8人と出走者が少ないのもあって、バ群に埋もれにくいのもブリスカヴィカにとっては有利になるだろう。

 ………これなら末脚勝負にさえ持ち込めれば、ブリスカヴィカが勝利する確率は高くなる。だからと言って油断できるわけでもないのがレースというものだ。

 

 そしてブリスカヴィカは油断もせず、周囲を警戒しながら落ち着いた走りをしている。

 実に素晴らしい。それにちゃんと俺らから教わった走りをしているようで、何より。

 レースの方も順調に進んでいる。まあそもそもその理由の多くは、終盤になってから仕掛けるウマ娘が多いってだけなんだが。

 

 で、最初のストレートを走り切ってから最初で最後のコーナーに入るまではさして見所もなく、そのままバ群はコーナーを曲がり始める。

 そしてここから少しだけ、ほんの少しだけレースの展開が変わった。

 というのも、掛かってしまったのか下位人気で先行のウマ娘2人が突如として前に出始め、先頭争いをしながらコーナーを曲がり切って真っ先に最終直線入りを果たしてしまったのだ。

 ただし肝心の先行した2人のスタミナはコーナーを曲がるので精一杯なようで、直線を少し走った後、急激に失速してしまったのだが。

 まあ、そんなことがありながらもバ群はコーナーを抜けて最終直線に入り、ブリスカヴィカはロングスパートをかけ始める。

 

 まず最初に、コーナーを曲がるべく使っていたピッチ走法を継続してスピードを稼ぎつつ途中で2、3人ほど抜き去る。次に速度を稼ぎ切ったらスイッチングでストライド走法に切り替え、ノッティンガムの800mもあるクソ長い最終直線を走り切るためにスタミナを温存しつつスピードを維持する。

 他のウマ娘はブリスカヴィカがロングスパートをかけ、数バ身先を悠々と進む姿に釣られて少しずつ速度を上げ始める。それが命取りになるとも知らずに!

 

 とまあ、そんな感じに他のウマ娘を罠に引っ掛けたブリスカヴィカは、悠々と2馬身差で余裕を持って真っ先にゴール板を潜り抜けたわけだ。

 何はともあれ、まずはブリスカヴィカが無事に帰ってきてくれたこと。それから勝ってきたことを祝おう。

 後はウイニングライブを見るのも忘れないでおかないと!

 少なくともジュニア級のウイニングライブ曲の歌詞と振り付けは教えられたし!

 

 

 


 

 

 

フィネガンステークス ナヴァン 芝直線1200m 7番人気:ブリスカヴィカ

 

 

 今日、俺と姉さん──レフスカクルロヴァ──とブリスカヴィカの3人でイギリスと海峡一つ挟んだ先にあるアイルランドはその首都のダブリン近郊にあるナヴァン競バ場を訪れていた。

 もちろん、俺らはただレースを見に来たわけでなく、ブリスカヴィカがここで今日行われるレースであるフィネガンステークスに出るから来たわけなんだが!

 というのもナヴァンの滅多に使われない芝6ハロン(1200m)のコースを走って、6月第三週のロイヤルアスコットミーティングでブリスカヴィカが走るレースに備えるためだ。

 

 それで、まあなぜ短距離レースを走らせることになったかだが………距離適性と賞金、開催時期等諸々を鑑みての選択だ。それとは別で俺や姉さんがブリスカヴィカは短距離もいけると判断したのもあるが!

 しかしそれ以上に、レースの経験を積ませる必要があったのも大きい。やはり実戦から得られるデータというのは何よりも重要なのだから。

 そしてそのデータをより高品質なものにするためには、あらゆる手段でウマ娘のモチベーションを維持し、引き上げることも重要なわけで。

 それ故に俺らはブリスカヴィカが勝つと信じ、その上でモチベーションを引き出すために約束をする。

 

「それでは、わたくしはレースを走りに参りますわ!ですからお二方はどうかわたくしの勇姿を目に焼き付けてくださいまし!」

「ふふっ、楽しみにしているよ。勝ってきたら君に我々からご褒美をあげよう」

「そう、姉さんが言ったようにね。我々にできることなら、俺と姉さんでそれぞれ1つだけ君のお願いを聞いて、叶えて見せよう」

「………でしたら、甘いものを沢山食べたいですわ!」

 

 とまあ、約束をしたのは良いのだが………どうにも控えめな要求が気になったのか、姉さんがブリスカヴィカをひょいと片手で持ち上げて頭を撫で回しつつ、遠慮するなとブリスカヴィカの耳元で囁く。

 俺も姉さんと一緒にブリスカヴィカの頭を撫で回しつつ、空いてる方の耳から囁いてブリスカヴィカを説得しにかかる。

 

「おや、君は随分と控えめな要求をするんだね?我々は大人で経済的余裕もある。だから遠慮せずにもっと大きな要求をしたっていいのに」

「例えば高級レストランで豪華な食事をしてみたい!とかそんなことをねだったって良いんだ。

 それに我々からしてみればね。必要な分を除けば、色々と担当がレースで活躍してくれるのもあって金は溜まる一方なんだ。そしてそんな溜まった金を社会に回すことも必要だとは思わないかね?」

「そう、兄さんが言ったように、我々の懐は非常に余裕があるんだ。それこそ紙幣で泳げるくらいにはね!

 だから、君は君のやってみたいことや、我々にやってほしいことを口に出してみると良い。我々はそれを現実に移せるだけの余裕をたっぷりと持っているからね!」

 

 少なくとも顔が良くて長身な上、色の薄い金髪碧眼の大柄なポーランド人の男とポーランドウマ娘の双子に挟まれて頭を撫で回されつつ両耳から囁かれているブリスカヴィカはといえば、目を回しながら赤面して呆けている。

 ………流石にブリスカヴィカをこのままにしておくと却ってレースに悪影響が出かねないので、撫で回しながら囁くのをやめ、ブリスカヴィカを姉さんから取り上げて控室の椅子に下ろす。

 それでも今のところブリスカヴィカは気を取り直していないので、ピュピュイと口笛を吹きながら目の前で手を振る。

 

「………はっ!?れ、レースはどうなりましたの!?」

「落ち着け、まだレースは始まっていない。それよりも、だ。まずはレースを走る準備をしようじゃないか」

「兄さんの言うとおり、レースはあと少しで始まる。だがね、ブリスカヴィカ。我々から言っておくことが一つあるんだ」

「頭は冷たく、心は熱く」

「心が熱くなったレースに挑むのは良いことだが、思考まで熱くなるのは良くない。その逆に、思考が冷たいのは良いことだが、心まで冷たくなるのも良くないんだ。このことを覚えておくように」

「さっき姉さんが言ったことはわかったか?ブリスカヴィカ!」

「わたくし完璧に理解しましたわ!頭は冷たく、心は熱く、ですわね!」

 

 そうしてブリスカヴィカが気を取り直したので、レースが始まってしまってないかと焦るブリスカヴィカを落ち着かせつつ、以前から代々俺の担当ウマ娘や〈ソビエスキ〉のメンバーに言い聞かせてきた言葉を姉さんと一緒にブリスカヴィカにも言い聞かせる。

 「頭は冷たく、心は熱く」。これは、少なくとも俺や姉さんにとっては大事な──それこそ聖句と同じくらいには──レースで重要な言葉だと考えている。

 まあそれ自体は良いとして、ブリスカヴィカの緊張がほぐれてモチベーションが高まったことの方が重要だ。これならこのレースも勝って帰ってくるだろうな。それにレースの時間も近づいているから、俺らはそろそろ控え室から退散しよう。

 

「そう、その通りだとも!理解してくれたなら結構。我々は君が無事に帰ってくることを祈っているよ」

「頑張ってね、ブリスカヴィカ!」

「わたくし、頑張りますわ!見ててくださいまし!」

「ああ、しっかりと君の勇姿を見届けようとも!」

 

 

 

 現在の我々はブリスカヴィカと別れ、今はナヴァン競バ場のスタンドにある関係者席から中継で液晶に映されるゲート入りの様子を眺めつつ、レースの展開予想を姉さんとポーランド語でおっ始める。

 ここはアイルランドで、使用するのは基本的にケルト系のアイルランド語かゲルマン系の英語で、我々が使っているのは西スラヴ系、レヒト諸語のポーランド語。そもそも他の話者がいない環境で自分たちの言語を使ったところで、これを誰が理解できよう?

 そもそもその俺らが使うポーランド語自体マウォポルスカ*1方言な上に古めなのもあるから、そう簡単に解読はされんだろうよ!

 

「それで、だ。兄御としてはこのレースの展開はどないなると思うてるん?」

「ふーむ………正直に言うんやったら、個人的にはあの逃げウマ娘がこのレースで1番警戒するべき対象になりうるやろうな。姉御の予想はどないな感じになってるんや?」

「我としては、あの1番人気に推されたアイルランドウマ娘のベルティナ(Bealtaine)が気になっとるな。これまで彼女は短距離やマイルのレースで活躍しとる分、ブリスカヴィカにとっては重大な脅威になるやろうな」

「そうか、そやけどまあ確かにその通りやろうな。そやけどもやっぱし………」

「ブリスカヴィカが勝つ、そうじゃろう?兄御」

「その通りやとも、姉御!」

 

 俺らの使う古い上に方言混じりのポーランド語が理解できないアイルランド人やイギリス人は、当然ながら俺らの話に耳を傾けたところで何か情報が得られるわけもなく。早々に解読を諦めて、液晶の方に集中している。

 そんな中、少し手間取っていたゲート入りも終わり、発走が刻一刻と近づく。

 

 そして、がしゃりと音を立てて、一斉にゲートが開く。

 ウマ娘達は一気に前へ前へと飛び出し、ターフを勢いよく踏みつける。

 このレースにおいては直線を走るだけで、内枠や外枠といった枠番から来る有利不利の影響を受けず、コーナーを曲がりもせずにただひたすらにまっすぐ走って1番先にゴール板を通り抜けた者が勝者となるのもあって。フィジカル頼りの力押しが通用しやすいと個人的には考えている。

 まあそんな俺の考え自体はどうでもよくて。それ以上に重要なのが、レース展開になる。

 

 ブリスカヴィカにはこれまで通りの走りではなく、ほんの少しだけだがいつもよりバ群の前目につけるように指示した。

 まあ結局差しで走るのには変わりないので、概ねいつも通りの走りではある。せいぜい距離と走る時間が短いくらいなものだ。

 

 で、そんな短距離レースは真っ先に逃げウマ娘が先頭に立ち、ハイペースを作り出して後続を引き離しにかかる。

 後続のウマ娘も追走しているが、ある程度の差を保ったまま700mを走り抜ける。

 そのまま800mも走り抜け、真っ先にゴール板を駆け抜けられる………わけもなく、ピッチ走法からストライド走法に切り替えてロングスパートをかけてきたブリスカヴィカにじわじわと距離を詰められる。

900m地点、そこでブリスカヴィカは逃げウマ娘に追いつき、950m地点でアイルランドウマ娘のベルティナも先頭の2人に追い付かんと速度を上げてくる。

 

 1000m地点、あと200mでゴール板が待ち構え、観客やトレーナーらは各々の推しや担当への応援に熱が入ってくる。

 熱狂者の上げる応援が、ナヴァンのスタンドを、観客席を包む。

 ターフの方で走るウマ娘達も、これを聴きながら1100m地点を越える。この時点で、真っ先に飛び出した逃げウマ娘は半ば暴走に近いペースで走っていたのもあってかスタミナ切れで垂れ始め、ついにはブリスカヴィカがリードを手にする。

 

 1150m地点、ベルティナがブリスカヴィカを差し切らんと末脚を切るが、ブリスカヴィカの方も差をつけるべくスイッチングで走法を切り替えて二の足を切る。

 1175m地点、ブリスカヴィカにギリギリまで迫ったベルティナだが、ブリスカヴィカの二の足には追いつけず、せっかく詰めた距離も再び離される。

 1200m地点、ゴール板を1番に潜り抜けたのはブリスカヴィカ。ベルティナは1バ身の差をつけられてブリスカヴィカの2着となった。

 

 熱戦に沸き立つ観客席、それを尻目に俺らは熱戦を戦い抜いた勝者であるブリスカヴィカを讃えるために控え室へ向かう。

 

 ………全く、来年のクラシックは実に面白くなりそうなものだ!

 ベルティナがクラシックかティアラか、どっちの路線に出るかはわからんが、どっちにしろビャウィノチカやブリスカヴィカにとっては良きライバルになるかもな!

 本当に、来年が楽しみになってくるものだ!

 

 

 

*1
Małopolska:小ポーランド地方と訳される場合もある。ポーランド南部に位置し、かつてのポーランドの首都でもあった古都クラクフを中心とする。第一共和国/ポーランド=リトアニア共和国時代において小ポーランド地方はヴィエルコポルスカ/Wielkopolska:大ポーランド地方よりも大きく、ウクライナ全土を含めていた。

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