IS 少女の怨嗟と憎悪による復讐 作:来亜
「・・・・。」
わたしは今日学校を休んだ。特に具合は悪くないが、昨日の『彼女』の話を聞き、考える時間が欲しかったからだ。
あの世界、ミラーワールドにはミラーモンスターという生物が存在しており、本来ただの人間は入るどころか、見ることすらできない場所だと言う。ミラーワールド側だとこちらの世界は見えると言う。見えるなら、ミラーモンスターもこちらに来れるのではないかと聞いたが、なぜか来ようとしないらしい。
そして、あのとき使ったカードは、アドベントというカードだった。
元々はコントラクトというカードで、モンスターと契約をすることができるカードだと言う。でも、わたしはコントラクトを持っていない。そもそもなぜわたしのISと同じ能力を持ち、わたしの知らないカードを持っている。『彼女』は一体何なんだ。
でも、あのカードがあれば、今よりはるかに強くなれる。『彼女』が持っていて、それを譲らないというのなら、奪ってでも・・・。
コンコン
・・・ん?いったい誰?わたしのところに来る人間なんていたの?それとも今日休んだから何か届けに?
コンコン コンコン
とにかく出なくては。わたしは立ち上がり、扉を開けた。
「あら、休んだのに寝てなくていいの?」
思わぬ客人は生徒会長だった。それにわたしが休んだことを知っているとは。
「・・・どうして。」
「休んだって聞いたから、何かあったんじゃないかって。その様子なら、だいじょぶそうね。」
「・・・何もありませんよ。それにたかが一日休んでも問題ありません。そもそもここには学生としては来てないので。」
「でもここにいる限りは、学生よ。今の私もここでは学生だし。でもだめよ。仮病みたいなことしちゃ。担任の織斑先生にばれたらまずいわよ?」
「・・・長い事情聴取の後気分が悪くなりそれが今日まで続いたと言っておけば納得しますよ。」
「そこまで計算して休んだの?悪い子ね。」
「・・・あなたほどじゃありませんよ。」
「ひど~い。おねえさんのことそんな風に見てたなんて。」
こんな他愛のない話をしに来たのかと疑問に思ってしまった。この人はロシア代表のIS操縦者で対暗部の一族の現当主。あのとき以来わたしのことを探っているはず。こんな話をしながらほんとはこちらの何かを探しているのかもしれない。だとしたら・・・。
「ねえ!」
「!?・・な、なんですか?」
「さっきから全然返事しなかったから。それにちょっと怖い顔してたわよ。こんなにかわいいのにそんな顔してたらもったいないぞ~。」
しまった。考えすぎて顔にまで出ていた。とにかく細心の注意を払わないと。
「・・・すみません。」
「わかればよろしい。でも、怖い顔しながら考えるぐらいなら私に相談しなさい。生徒の悩みを聞くのも生徒会長の役目だからね。」
「・・はぁ・・・・。」
「来週の学年別トーナメント、がんばってね。」
そう言って会長は部屋から出て行った。
「・・・学年別トーナメントか。機体のテストになればいいんだけど。」
『あの女、しきりにこっちを見ていたぞ。』
『彼女』の声が頭に聞こえてきた。正直いきなり出てくるのはやめてほしい。
「・・こっちって鏡を?」
『そうだ。おまえと話している間にな。おまえが難しい顔をしているときはじっと見つめていた。あの女ここに『わたし』がいることに気付いたか?』
「・・そんなの、だけど・・・・。」
『この部屋、すでにあいつに筒抜けなんじゃないか?』
「・・まさか、盗聴器?」
わたしは部屋の隅から隅まで探しだした。
「・・・・。」
『あたりだな。少なくとも昨日の会話は全部筒抜けだ。』
探してみた結果、二つの盗聴器が見つかった。
『あんなこと言ったあげく相談しろなど無理な話だ。奴も信用できないな。』
「・・更識楯無。」
『どうする?なんだったら『わたし』が直接・・・。」
「邪魔をするなら私が殺す。」
バキッ!
わたしは盗聴器に向かって言い放ち、それを思い切り踏みつけた。
そうだ。わたしに味方など最初からいない。ここにきてわたしはそれを忘れていた。いや、忘れていたんじゃない。はき違えていたんだ。ここには信じられるものがいると、無意識にそう思っていた。思い出せ。ここでわたしがやろうとすることは、誰にも許されないことだ。一切の容赦をするな。迷いを振りほどけ。ふ抜けた自分など切り捨てろ。
そして思い出せ。わたしが真にやるべきことを・・・!
「かならず地獄を見せてやる。それを邪魔する者は、あいつらもろとも殺す・・!」
『その感情が、また大きくさせてると言うのを理解してないのか?』
『邪魔をするならわたしが殺す。』ブツッ
音声はここで途切れた。
「気づかれちゃったか。まあ、あんな調子いいこと言って、こんなことしてたのばれたら怒っちゃうわよね。」
私は神崎幽の部屋に仕掛けた盗聴器の音声を聞いていた。
「ミラーワールド・・・か。見たことも聞いたことも無いけど、そんな世界が・・・。」
彼女の部屋に仕掛けた盗聴器に入った音声は今日の生徒会業務の途中に聞いた。
一見聞くと誰かと話している様子だったのだが聞いている時おかしいことに気付いた。誰かと話している様子なのに話し相手の声が盗聴器に入っていないのだ。彼女が誰と話していたのかはわからないが、問題は彼女が話していた内容だ。
「ミラーワールド」「ミラーモンスター」 そんな単語が出てきた。
ミラーワールドのことは知らないが、ミラーモンスターは見当がつく。先日彼女が呼びだした巨大な蛇のことを指していたのだろう。私はそう考えた。
「彼女のこともあるけど、織斑先生の頼まれごともまとめなくちゃ。」
高見征士郎という男のことだった。織斑先生にこの男のことを徹底的に調べ上げろと言われて調べたのだが、トルコのIS研究所の研究員名簿に高見征士郎という名前が載ってたことしかわからなかった。
もう一度彼のことを洗いざらい調べ上げた。親族や昔住んでたところ、最後に住んでた場所。ありとあらゆることを調べた。だが、親族はいなく、住んでたと言うところにそんな男は住んでいないなどという結果が出てきた。
それで私は一つの考えに至った。
高見征士郎は存在しなかった。いや、正確には高見征士郎とは偽名か何かで本当は別の人間ではないのか、と。
「こうなると手詰まりね。高見征士郎を名乗った人物の写真か何かあればいいのだけれど。報告ついでに織斑先生に聞いてみようかしら。」
私は織斑先生に打診しようと決めた。
一週間後
今日は学年別トーナメントの開催日。外からの来賓も来るので学校全体はあわただしくなっていた。わたしは更衣室で待機していた。他の女子生徒も同じく待機している。まわりには緊張した表情の生徒や不安が顔に出てる生徒などが目立つ。来賓が来ると言うことは将来に関わってくる。上記の生徒はそう思っているのが大半だろう。
自分には関係ないが。
言い忘れたが今回の学年別トーナメントは二人組になって参加すると言うことだった。決まらなかった人は今日の抽選で決まるらしい。わたしは誰にも申し込まなかったし、申し込まれもされなかった。
「あっ!組み合わせが出てきた!」
一人の生徒がそう言ってモニターを見てみると・・・。
織斑一夏 シャルル・デュノア 神崎幽 ラウラ・ボーデヴィッヒ
最初の相手は織斑一夏とシャルロット・デュノアだった。わたしには問題ない相手だが、わたしのペアはあのボーデヴィッヒだった。まさか彼女と組むとは。
「私は貴様など信用せん。それを忘れるな。」
「・・・わたしの邪魔をしたり足を引っ張らなければ危害は加えない。」
「なんだと!?この私が足手まといだと言うのか?」
「・・・軍人なのにそうやって感情的になるのはいけないことだと貴方の教官は教えてくれなかったの?。」
「おのれ・・・!わたしだけを愚弄するのも飽き足らず教官までも侮辱するとは・・・!あの男をたたきつぶした後は、次は貴様だ!」
「・・・・。」
更衣室内の空気がとても悪くなった。周囲の生徒は嫌そうな目でこちらを見ていた。
ボーデヴィッヒはこの様子じゃ、連携などとれるわけがない。元々取る気はないが。
「・・・出番ね。行きましょう。」
「フン!」
わたし達はアリーナへと向かっていった。
「一戦目で貴様と当たるとは好都合だ。手間が省ける。」
「それは、お互いさまだろ。」
「一年生最強のペアと当たるなんて運が無いというかなんというか。」
「・・・機体のテストになればわたしは問題無い。」
各員、思うところを言ったところで、試合が始まった。
「おおおおお!!!!!」
一夏は瞬時加速(イグニッションブースト)でラウラとの距離を詰める。それに対しラウラは右腕を突き出す。AICで一夏を止めるつもりだ。だがまっすぐ来る予想に反して一夏はジャンプする要領で飛び上がり、そのまま高い位置から雪片を振り下ろした。
「くっ!」
飛び上がって来るのは想定外だったが反応できないわけでは無かった。ラウラは斬撃をかわして一夏をAICで捕らえる。
「開幕直後の先制攻撃。愚直な奴の考えそうなことだ。」
「へっ、そりゃ以心伝心で何よりだ。」
「なら、次にわたしがすることを考えてみろ。」
ラウラはレール砲の弾を装填し、狙いを定める。一夏の白式は警告音が鳴るが、一夏はあわててはいなかった。
「やらせないよ。」
シャルルが一夏の頭上から現れ六一口径アサルトカノンを撃つ・・・。
『シュートベント』
「・・ならばわたしはそれを阻止する。」
前に幽がギガキャノンを放ち、ラウラごと一夏とシャルルを攻撃する。
「ッ!貴様!何をする!!」
「・・・わたしの射線上に貴方がいたのが悪い。」
「言い争ってる場合か?」
「何?」
体勢を立て直した一夏がラウラに斬りかかった。ラウラもそれに対応しプラズマ手刀で応戦する。右で一夏の攻撃を防ぎ、左で攻撃をしてくる。一夏は段々押され始めた。
「この連撃、耐えられるか?」
「数撃てば当たるわけじゃねえだろう?」
とは言ったものの、ワイヤーブレードまで出し始めたラウラにどんどん苦戦する一夏。さすがにこのままでは時間の問題だ。当初の予定だった二対一の状況を作るという予定が難しくなってくる。
「シャルル。だいじょぶか?」
「厳しいかも。その様子じゃ一夏も?」
「そうか。これじゃ作戦がいつまでたってもできない。」
「待って。僕に考えが・・、」
『ストライクベント』
ギィン!
「くっ!」
「・・呑気にチャンネル使ってこそこそやってる場合?」
「ごめん一夏。あとすこしだけ耐えてて。」
「わかった。」
シャルルのほうも劣勢だった。近接系武器が多い幽なら距離を取りながら射撃をして応戦すればいいと考えていたが、銃撃を防ぎながら徐々に距離を詰められていく。
「・・そんな射撃じゃ傷一つつかない。」
「防具にもなるんだ。それ。」
幽はデストクローを盾にしながらシャルルに近づく。下がりながらシャルルはそれでも撃ち続けた。
ある場所に誘導するため。
「一夏!」
「よし、来たか!」
一夏はラウラの攻撃を払い幽に向かっていた。
「貴様の相手はこの私だ。」
しかしそこにラウラが立ちはだかる。ラウラを出し抜いて二対一で幽を叩く戦法に見えてたが実は違う。
「・・・邪魔。」
ギィン!!!
「グウウ!!」
幽にラウラを攻撃させるためだった。最初のやり取りで幽はラウラごとこちらに攻撃してきた。味方を味方だと考えていないのだろう。自分一人で戦っている。そういうことだ。シャルルから聞いた時、一夏も最初は疑問に思ったがこれで確信に変わった。
「幽・・。おまえ、味方ごとやるのかよ。」
「・・・こんな足手まといを味方と思っていない。はあ!!」
「くっ!」
ギィン!!
幽は一夏に言った。
「・・・それにわたしは、彼女にタッグパートナーになれと申し込んでいない。彼女もそう。」
「そうだとしても、今の立場は味方同士だろ!」
「言ったはず。わたしは彼女を味方などとは思っていない。」
「幽っ!」
一夏はデストクローをはじき返した。
「おまえ・・・。どうしたんだよ!少なくとも、おまえはこんなことするような・・・。」
「おおおおおお!!!!!」
ギィン!!
ラウラがプラズマ刃で幽を攻撃してきた。しかしそれは幽に届くこと無く防がれた。
「なんのつもり?」
「予定は変更だ。貴様を先につぶす!!貴様のような奴と組まされてること自体、屈辱だがもう我慢の限界だ!!!」
とうとうラウラの堪忍袋の緒が切れたようだ。数々の幽の攻撃と先ほどの発言に怒りが頂点に達してしまった。
「えっ!?なんで同じチームの神崎さんとボーデヴィッヒさんが戦ってるんですか!?」
教師のみが入れる観察室でモニターで観戦してた摩耶が声をあげた。それに対して千冬は冷静に感想を述べる
「仲たがいをしたのだろう。先ほどからの神崎の攻撃が、ボーデヴィッヒまで巻き込んでる。それがボーデヴィッヒの怒りに触れて、我慢の限界が来たんだろう。」
「そんな。二人とも誰とも関わろうとしないからこれを機に二人で仲良くなってくれたら良かったと思っていたのに。」
そんなことなるわけがない。千冬は口に出さず心の中でつぶやいた。ラウラと幽がわかり合うことなどまず無い。両方とも人と関わろうとしない。その時点でそんなことにならないとわかっていた。正直そんなことより神崎の戦闘が気になっていた。
自分以外が敵。そういった戦い方に見えた。どれほどの執念が彼女をあそこまでの強さに・・・。
『おまえたちが殺したのは、俺だけではない。』
神崎士郎の言葉が頭に浮かんだ。
「ちがう・・・。私は、ただ・・・。」
「先生?織斑先生?」
「っ!?なんだ?山田先生。」
「いえ。なんか、心ここにあらずって感じだったので。だいじょうぶですか?」
「ああ。問題無い。」
千冬はモニターに向き直り、幽をじっと見据えていた。
「ふん!!」
「うあっ!ぐっ!がああ!!」
ギィン!!ガッ!!ギィン!!
実力差が完全に出ていた。ラウラが攻撃するも全て弾かれ、幽はデストクローの攻撃に加え、蹴りまでいれてきた。
「はあ!!」
ガギィィン!!!!
「ぐあああああ!!!」
左右の爪による攻撃がラウラを吹き飛ばした。止めを刺そうと幽は近づいていき・・・。
ガッ!
「やめろ!!幽!!!これ以上は・・・。」
一夏が押さえつけるも・・・。
「うるさい。はなせ。」
ギィン!!ガッ!
「ぐあ!くっ・・!。」
それを振りほどき叩きつけた後、踏みつけて動けないようにした。
「弱いくせに立ちはだかるからこうなる。」
「ぐっ、くそっ・・!」
ドンッ!ドンッ!
「邪魔をするな、とは言わないけど続ける気?」
「これ以上はやらせないよ。一夏は僕が守る。」
シャルルがアサルトカノンを放ち、すぐさまショットガンとアサルトライフルに持ち替えて銃口を幽に向ける。
「あなたはそのまま立ちすくんでて。」
「悪いけどそうは・・・。」
『フリーズベント』
「なっ!?体が動かない!まさか、AIC?」
「そんな大層なものじゃない。一時的に動かなくなるだけ。そこで見ていなさい。」
「くっ・・!」
体が動かなくなったシャルル。押さえつけられ動けない一夏。これで邪魔する者はいなくなった。
「私が、貴様ごときに・・・!負けるはずなど・・!あってたまるか!!!!」
ラウラが瞬時加速(イグニッション・ブースト)で突撃してきた。もう普段の冷静さは欠片も見当たらず、やけになって特攻してきた。
「止め。」
ガギィン!!!
「ぐあああああああああ!!!!」
ラウラの特攻はやむなく失敗に終わった。幽にとっては隙だらけの者が突撃しに来てそれを迎え撃つというだけの簡単なことだった。
私が、負ける?私が、堕ちる?
ふざけるな。
私は戦うために生み出された。戦いに敗北するということは、私の全てを否定されるということだ。
一度は堕ちて地を這うような思いをしてきた。越界の瞳(ヴォ―ダン・オージェ)の適合に失敗し、部隊のトップにいた私は一気に地に落ちた。できそこないの烙印を押され、私は絶望していた。だがそこから救い出してくれたのが教官だった。あの人の教えを忠実にこなし、私はIS専門の部隊で再び最強の座に返り咲いた。
だが、この女は自分の積み上げてきた強さを、教官の教えを、私の全てを!たった一
度の戦いで踏みにじった。
認めない・・・!認められない!この強さこそが、私と教官の唯一の繋がりだと言えるもの。奴を倒さねば、この繋がりさえも壊されてしまうかもしれない。そんなこと絶対にさせるものか。
奴を、神崎幽を倒す力が欲しい。
『願うか・・・?汝、自らの革新を望むか・・・?より強き力を欲するか?」
問われるまでも無い。奴を倒し、殲滅する力を私によこせ。そのための代償などいくらでも払ってやる。
だから力を、奴をも超越する力を、わたしによこせ!!!!!
機体損傷:危険域到達
精神状態:異常確認
ヴァルキリー・トレース・システム受領承認
起動開始
「あああああああああ!!!!!!!」
「なんだ!?いったい何が?」
「これは・・・?」
ラウラが突然悲鳴を上げる。それと同時にシュヴァルツェア・レーゲンが変形しだした。装甲がどろりと溶けだし液状の物がラウラを飲み込んだ。すると液状の物がぐにゃぐにゃと歪みはじめて形を作り始めた。
そこに現れたモノは、ISのようなモノ。片手には剣一本が握られていた。一夏にはそれに見覚えがあった。
「あれは、雪片・・・!なんであいつが・・・。」
一夏はわからなかった。
なぜ、あいつが雪片を持っている?あれは、千冬姉の物だぞ。それを・・・。
「なんでおまえがあああああ!!!!!」
ドガッ!!!!!
一夏が斬りかかる前に、ソレは吹き飛んだ。
「えっ?」
見ると幽がいつのまに自分の前に行た。
アレは一夏だけじゃなく幽にも見覚えがあった。
あの姿・・・。どこかで見た。どこで・・・?そう、あれは空にいた。空で何をしてた・・・?たしか・・・ミサイルを撃ち落としていた・・・。それで・・・そのミサイルは全部落とした・・・?
いや、ちがう。ミサイルは全部撃ち落とされなどしなかった。なぜなら一発だけ、お兄ちゃんがいたところに落ちたから。お兄ちゃんはそのまま帰ってこなかった。ミサイルが落ちたところを見てみると大量の血が付いていたんだ。
考えれば考えるほど、視界が赤黒く染まっていく。アレは、アレは・・・。
そうだ思い出した。アレは、白騎士事件ノ首謀者でアり・・・・。
オ兄チャンヲ殺シタヤツノヒトリダッタ。
「ア”ア”ア”ア”ア”ア”ア”ア”ア”ア”ア”ア”ア”ア”ア”ア”ア”ア”ア!!!!!!!!!!」
「幽!?」
「こ、今度は何!?」
幽は絶叫をあげた。さっきのラウラとは比べ物にもならないほどの叫びだった。
いや、それよりも人間が出すような声ではなかった。二人はそう感じた。そもそもこれは幽なのか?そう思ってしまうほどだった。
「織斑先生!!」
「わかっている!!試合は中止!一般の生徒や来賓は避難!教師たちはISを装備し、直ちに現場に向かえ!!」
教師たちのいる観察室の状況もあわただしくなっていた。ラウラは暴走してしまい、幽もこれから何かを起こそうとしている。
千冬にとって、ラウラよりも幽のほうがとても危険な感じがする。モニター越しから見てもおぞましい何かを感じる。
「最悪・・・私も出ることになるかもな・・・。」
「フウ”ウ”ウ”ウ”ウ”ウ”」
どすぐろい瘴気のようなものが幽を包んでいた。黒い瘴気が顔を覆っていて、目が赤く光ってる。姿勢も曲がっており、獣のような体勢になっている。
「ウ”ア”ア!!!」
幽が先に仕掛けた。黒いモノにそのまま向かっていった。黒いモノは迎え撃とうと剣を上段に構えて振り下ろした。
ブンッ!
しかし剣は空振りだった。幽は体をねじってそれをかわしたのだ。黒いモノはすかさず居合いの構えから幽を切り捨てようとするが・・・。
「フウ”ン”!」
バキィ!!
剣を足で弾き飛ばされた。何も無くなってしまったソレはなすすべがない。
「ウ”ア”ア”!!!!!」
幽は黒いモノの頭をつかみ、空高く跳び上がって・・・・。
「ア”ア”ア”ア”!!!!!!」
ドガァァァン!!!!!!!
瞬時加速(イグニッション・ブースト)並みの早さで降下していき、ソレの頭を地面に叩きつけた。
ヒュン!!!ザシュッ!!!
「ウ”!」
黒いモノがすかさず剣を拾い、反撃してきた。幽の腕からは血が流れた。
「!?幽!どうして、傷を?ISは絶対防御があるから怪我はしないんじゃ?」
一夏の疑問はもっともだった。だが、実際見てるものは違う。ISを装備した幽の腕からは血が流れている。
「早く止めないと!あれじゃあ幽が死ぬかもしれない!!」
「だめだよ一夏!!あの戦いには僕たちが入る余地なんてないよ。」
「じゃあどうすれば!!」
「じきに教師たちが来る。それを待てば状況は収拾されるはずだよ。」
「本当にそうなのか?」
「えっ?」
「本当に教師たちが来れば、あいつらを止められるのか?」
「それは・・・。」
一夏の言うことに対して、シャルルも疑問に思っていた。本当に教師たちでなんとかなるのかと。この二人の戦いを見てるとどうしてもそう思ってしまう。それほど凄まじい戦いなのだ。
ヒュン!!ヒュン!!
「ウ”ウ”!!ウア”ア”!」
黒いモノが雪片で攻撃をするも、幽はすべてそれをかわす。防いでも無駄だとわかってから攻撃をかわすようにした。
「ウ”ア”ア!!!!」
ドガッ!!
黒いモノは蹴りを浴びせられひるんだ。
「ウ”ア”ア”ア”ア”!!!!!」
その隙を見逃さず幽はソレの首を思い切りつかみ締め上げた。
ドスッ
「ウ”ウ”ウ”!」
それと同時に幽の腹に深々と雪片が突き刺さった。
「幽!!!」
「いやっ!!!!」
一夏とシャルルは目をそらした。幽の腹部からは血が止まらなくなっている。地面はすでに血だらけだった。それをよそに幽は手を放そうとせず、握る力を強めていた。
「ウ”ウ”ア”ア”ア”ア”ア!!!!!!」
バキン
黒いモノの首が折れてそのまま地面に転がった。首が幽の足元に転がってきて、それを・・・。
バキン!!
踏みつぶした。すると同時に黒いモノの胴体が割れて、中からラウラが出てきた。
「・・・・・。」
幽は腹部に刺さった雪片を掴みそれを・・・。
「なっ!?」
「きゃっ!?」
ズブブブブブブ
抜き取った。剣が抜かれた瞬間、腹部の傷がふさがった。血はついているものの、体の傷は完全に治っていた。
「・・・・・。」
幽は雪片を持って、気絶しているラウラに近づき雪片を大きく振り上げた。
「ウ”ウ”ウ”ウ”!!!!!」
ガキィン!!
幽の放った一撃は一夏によって止められた。
「やめろ幽!!!もう終わったんだ!ラウラは気を失っているのに、これ以上何をする気だ!!」
「ウ”ア”ア”!!!」
ギィン!!!
「ぐあ!!」
一夏は幽に弾き飛ばされてしまった。幽はこちらにゆっくり向かってくる。己の血で染まった雪片を持ちながら・・・。
「ウ”ア”ア”ア”ア”ア”!!!!!!!」
やられる!一夏は目をつぶって覚悟した。
「・・・・え?」
いつまで経っても剣が来ない。恐る恐る目をあけると・・・。
「ギ・・ガ・ガ・・・グ・ギギギ・・!!」
「・・・・・。」
雪片を振り下ろそうとしてるが振り下ろさない幽と、コートを着た見知らぬ男が立っていた。
神崎士郎だった。
「ここはおまえがいるべき世界ではない。」
「ギ・・ガガ・・!ギ・・!・グギ・・グ・コ・・!」
「え?」
「ギギギ・・・!!・コ・・ロス・・!イツ・・カ・・・キ・・・サ・・マヲ・・コ・ロス!!!」
「帰れ。」
「ギ・・ガガ・ガ・・・!ガア”ア”ア”ア”ア”ア”ア”!!!!!!!」
幽を包んでいた黒い瘴気が叫び声と共にそのまま消えていった。
「あ、あんたは、一体誰なんだ?」
「・・・・・・。」
「あっ・・・。おい!」
士郎は何も言わずそのまま去ろうとしたが・・・。
「士郎!!!」
「千冬姉?なんで・・?」
千冬がアリ-ナから出てきて士郎に駆け寄った。
「なぜまたここにいる?神崎の暴走も、おまえが糸を引いていたのか?」
「俺はあれを止めに来た。それだけだ。」
そう言って士郎が立ち去ろうとするが千冬はそれを許さなかった。
「まて!おまえには聞きたいことが山ほどある。このまま来てもらうぞ。」
「断ると言ったらおまえはどうする気だ?」
「実力で行使する。おまえを不法侵入の現行犯として正式に捕らえる。手加減はしない。」
千冬の後ろにはISを装備した教師たちが構えている。いつでも士郎を捕らえることは可能だと思っていた。
「無駄だ。」
士郎がそう言った瞬間、
「ギャアアアア!!!!!」 「グギャア!!!!」
二体の何かが士郎を守るように現れた。身長は二メートル以上あり、手には巨大な斧を持ち、ネイティブアメリカンの装飾を着けたようなミラーモンスター、ガルドストームだった。
「なんだこいつら!?」
「この男を、守っている?」
他の教師たちはガルドストームが現れたことにより動揺してた。
「これが、ミラーモンスター・・・。あの蛇と同じか・・・。」
千冬は動揺ではなく確信した。楯無の報告を聞いており、そして見たのだ。
こいつらが観客席を覆う強化ガラスから出てくるのを・・・。それで確信したのだ。
これもミラーモンスターだと・・・。
「どうする?これらと戦うなら3,4人は死ぬぞ。」
「なっ!?私がこの化け物に殺されると言いたいのか!」
「男のくせに・・・!生意気なのよ!」
二人の教師がガルドストームに攻撃をしようとしたが。
「待て!」
「お、織斑先生?」
「あれの力がわからない以上迂闊な行動を取るな。」
「で、でも・・・。」
「奴の言ったことが本当なら・・・。」
千冬が二人を諌める。こいつらもあの蛇のように強力な奴と考えたら、3,4人どころか全員殺されるかもしれないと思ったのだ。
「ここに用は無い。俺はもう行く。」
士郎がガルドストームを連れ、教師たちの間を通ってそのまま立ち去ろうとした。
「待て。士郎聞かせてくれ。おまえの目的はなんだ。そして、神崎の・・・。おまえの妹の機体は何なんだ?」
「二つ目の質問は答えてやる。あれは俺が設計したISだ。」
「なんだと?では、高見征士郎という男はやはり・・・。」
「これ以上ここで語る気はない。」
士郎はそう言い残して姿を消した。
夕方
保健室にはラウラが眠っており傍らには千冬がいた。
「私が士郎を殺し、神崎の心も殺したのか・・・。私はただ、束がかわいそうだったから協力したんだ。あの不器用な束が、他者に対して冷たくすることしかできない奴が、勇気を振り絞って学会に発表した。なのに認められなかった。私は、それが・・・。だから・・。」
千冬は重苦しい表情をしながら苦悩していた。自分の独善で親友を殺してしまいその妹の人生を変えてしまったことに・・・。そんなつもりじゃなかったとここで何度も思った。
「それがおまえが白騎士事件に加担した理由か。」
「士郎・・・。」
そこにかつての親友がいた。千冬は不思議と驚かなかった。士郎がそこいたような気がするからあんなことを言っていたのかもしれない。
「私は、今思えばなんということをしてしまったんだろうな。」
「その結果、俺は一度死に、優衣は心が壊れて復讐願望しか残らなくなった。」
「・・・士郎。おまえは生きているのか?それとも亡霊となって、私の前に現れたのか・・・?」
「俺には俺の役目がある。たとえ、亡霊になったとしてもその役目を果たす。」
「士郎・・・。」
「ん・・んん・・。うぁ・・。」
寝ていたラウラが目を覚ました。気がつくと士郎はいなくなっていた。
いつも気付いたらどこかに行くのは変わってないな、とつい思ってしまった。
「気がついたか。」
「教官・・・。私は・・。」
「そのままでいい。体に負荷がかかっている。おとなしくしてろ。」
「なにが・・・あったんですか?」
「はぐらかせないか・・・。重要案件で機密事項なのだが、おまえは被害者といってもいいから特別に話す。VTシステムは知っているな?」
「VT・・・システム。」
ヴァルキリー・トレース・システム。過去のモンド・グロッソの優勝者、ヴァルキリーの動きをトレースするシステム。だが現在は条約により開発、研究、運用がすべて禁止されている。それがシュヴァルツェア・レーゲンに搭載されていたのだ。
「どうして・・私の機体に?」
「わからん。ただあのシステムは各種の条件を満たしたことにより、引き金を引いて発動されたようだ。」
「・・・・・。」
心当たりはあった。神崎幽を倒し、私は教官と同等の存在になることを・・・。
「私が・・・望んだから・・。」
「そうか・・・。」
ラウラは言わなかったが千冬には伝わった。
「ラウラ・ボーデヴィッヒ。」
「は、はい!」
「おまえは何だ?」
「わ、私は・・・。私は・・一体・・・。」
ラウラは自分をラウラ・ボーデヴィッヒとは言えなかった。自分にとって名前など、識別するための番号にすぎないと思っていたのだ。
「何でも無いのなら、おまえはこれからラウラ・ボーデヴィッヒだ。己のしたいことや、やりたいことをこれから見つけてみろ。時間がある限りな。」
「あっ・・・。」
開いた口がふさがらなかった。あの教官が自分を励ますなど・・・。少なくともあの一年間そんなことを言われたことは無かった。
「ま、待ってください!」
「なんだ?」
「最後に教えてください。教官の思う強さとは・・・なんなのですか?」
「・・・・。」
「教官?」
「私は強くなどない。ゆえに強さについて何かを言う資格はない。」
千冬はそう言い残して部屋をあとにした。
この小説の後書きと前書きをほとんど消しました。残したものはあります。
これ以降の前書き後書きは書きません。