IS 少女の怨嗟と憎悪による復讐 作:来亜
幽が去った後も、冷たい空気は流れていた。紅椿の稼働テスト中も、束はどこかおびえた様子だった。箒もこんな姉の様子を見ていたたまれない気持ちになる。
「姉さん。大丈夫ですか?」
「箒ちゃん・・・。ありがと。束さんは平気だよ。」
強がって笑顔作る束だが、それは無理をしているということがわかる笑顔だった。姉のこの変わりように箒は数年間疎ましく思っていた感情は心配と不安に変わっていた。
「束。無理をするな。もう戻れ。」
千冬も友人の身を案じて戻るよう言い聞かす。
「ちーちゃん・・・。うん・・・。でもその前に教えて。なんであの子がIS学園にいるの?もしかして、ちーちゃんが呼んだの?」
「いや、神崎は祖国のISの試験運用を研究所に命じられて来た。それがどうかしたか?」
「ううん・・・。なんでもない。じゃあね・・・。」
束はおぼつかない足取りで去っていった。
「あの子がゴーレムを倒した・・・。やっぱりあの子は・・・・・。だけど、どうすればいいんだろう・・・。」
束もまた、感じていた。神崎幽が神崎士郎の妹であることを。そして、自分を殺そうとしていることも。自分が彼女の家族を殺した。認めたくはなかった。あの時放った一発で、親友を殺してしまった。それだけでは無く、その妹の心までも殺してしまった。この数年間、罪悪感と恐怖で自分が押しつぶされそうになっていた。もはや自分が何をしているのかもわからない。何のつもりで妹に専用機を与えたのか。何のつもりであの子の前に現れたのか。あのまま殺してくれるのなら、それでよかったのかもしれない・・・。死んで償えるのなら、この重荷もなくなって彼女の望みも叶う。だけど・・・・・・・・。
「束さんは、どうしたらいいのかな・・・。」
「織斑先生ーーー!!!」
真耶が血相を変えて千冬のもとに向かってきた。顔も少し険しく、いつものような雰囲気ではない。
「どうした?」
「日本政府から、レベルAの特命任務が来ました。現時刻より対策を始めるよう、ということなんです。後で大広間の方へお願いします。」
「そうか。山田先生は他の先生方の連絡を。」
「はい!」
真耶が走り去ったあと、千冬が生徒たちに声をかける。一部の生徒は皆、先ほどのやり取りを見てただごとじゃないと思っていた。
「今日のテスト稼働は中止して、1日自室待機だ。各員、指示があるまで部屋から出るな。以上だ。」
生徒たちは急な指示に困惑するも、状況を察した生徒が部屋に戻ると、まわりの生徒たちも続いて戻っていく。
「ここにいる専用機持ちは、私と大広間へ来い。詳細はそこで話す。」
大広間では教員たちが投影されたモニターの前で状況の確認などの作業に追われている。その後ろで専用機持ち達は緊迫した顔つきで見ている。代表候補生の面々は一夏や箒よりも雰囲気が違った。自国の問題ではないにしろ、このような事態の対応は代表候補生になったときから学んでいるのだろう。
「一つ言っておく。これから話す内容は重要かつ機密に触れるものだ。今から言う任務に、おまえたちに受ける意思がないのなら、ほかの生徒と同様で自室待機だ。受けない奴はいないか?」
千冬の問いに、誰もが無言で聞いていた。
「その沈黙は、肯定としてとるぞ。それでもいいんだな?」
「「「「「「はい!!!」」」」」」
「いいだろう。状況の説明をする。現時刻から二時間前に、アメリカとイスラエルの共同開発された軍用ISの銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)が制御下を離れて暴走した。すでに監視空域からは離脱していて航行している。針路予測はこのまま行くと日本本土に到着する。その前に銀の福音を我々で捕獲、撃墜することが任務だ。ここまでで質問は?」
「先生。目標ISのスペックや武装などの情報開示を求めます。」
「わかった。あまり時間がないから一度で把握しろ。」
データが開示され、全員目を通し各々の所感を述べる。
「広域殲滅型・・・。全距離対応の武装という点では、ブルーティアーズと同じですわね。」
「だけど、威力はおそらくけた違いよ。軍用っていうくらいだから、武装だけじゃなく総合的な能力も上のはずだわ。」
「一応、リヴァイヴ専用の防御パッケージがあるけどこれじゃあ完全には防げないと思うね。」
「それにこのデータじゃ近接戦闘の性能が未知数だ。偵察か斥候はできないのですか?」
「無理だな。目標は現在も音速で飛行中だ。仕掛けるのはせいぜい1回が限度だ。」
「チャンスが1度きりなら、一撃で撃墜させる必要がありますね。」
真耶の言葉に全員が一夏を見つめる。
「おれが行くのか・・・。」
「この案で行くなら、そうなるわね。だけど問題は足が必要になるわ。それをどうにか・・・。」
「でも、大丈夫かな?一夏の機体は、さっき神崎さんに・・・。」
「そうでしたわ、一夏さん。機体はどれくらい損傷しているんですの?」
「ああ、いま確認する。・・・・ダメージレベルC、これって・・・。」
ダメージレベルC。通常では運用などできないくらいの損傷。これでは先ほどの案は通らない。皆、他の作戦を考えるしかなかった。
ガラッ
「誰だ!ここは立ち入り禁止だぞ!!」
急にふすまが開き、何者かが入ってくる。千冬は入ってきた者を叱責するが、入ってきたのは先ほど立ち去っていった束だった。
「邪魔するよ、ちーちゃん。」
「何しに来た。今はおまえと話す時間などない。去れ。」
「まって。束さんはさっきまでの話は聞いてたつもりだよ。いっくんの白式が損傷したのは束さんのせいだし、それに移動用の足も用意できるかもなんだよ?」
「ちっ、なら聞かせてみろ。おまえの考えを。」
「箒ちゃんの紅椿は、第三世代のようにパッケージ換装を行わずに高速戦闘ができるんだよ。」
「何?」
「これで移動手段は解決して、あとは白式の修理だよね。あれぐらいなら、紅椿の調整と合わして30分程度で済ませられる。」
「・・・・・。」
背に腹は代えられないと割り切るべきか千冬は悩んだ。今この状況では時間が押している。作戦が今すぐにでも可能なら出撃する。だが、作戦を遂行するのは代表候補生のような実戦経験が多い生徒ではない。そんな人員に、この重要な作戦が務まるのか・・・。そんな気持ちで板挟みになる千冬だった。
「先生、行かせてください!」
「篠ノ之・・・。」
箒が力強い目で千冬を見つめながら言った。こう言われてもまだ自分では納得できない千冬だが、箒は続ける。
「一刻も早く銀の福音を止めなければなりません。私と一夏で作戦を遂行させてみます!どうかお願いします!」
「・・・、織斑。おまえはどうしたい?」
「おれ・・・。やります。箒と一緒に、銀の福音を止めます。」
当の本人たちにこう言われては千冬も納得せざるを得なかった。
「いいだろう、わかった。束、紅椿の調整と白式の修理を開始しろ。」
「うん、じゃあ外に出ようか。行くよ、二人とも。」