【第1章完】異世界スカウトマン~お望みのパーティーメンバー見つけます~   作:阿弥陀乃トンマージ

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第3話(4)四人目

「都会の酒場で小耳に挟んだときは驚いたよ、あの若くして行方をくらました大賢者さまがこんな辺境の地にいるだなんてね……もっともそれを話している連中も噂話に過ぎないと思っていたようだけれど」

 

「……」

 

 少女はリュートの話には反応せず、黙って森の道を歩く。

 

「ど、どうして、そんな噂が流れたのでしょう?」

 

 イオナが尋ねる。

 

「さあね」

 

 リュートが首をすくめる。

 

「さあねって……」

 

「……人の口に戸は立てられないものだ。恐らくは薬の原材料を調達する過程でバレたんじゃないか?」

 

「はあ……」

 

「知らんけどね」

 

「推測ですか」

 

「まあ、当たらずも遠からずってところだろうよ」

 

「ふむ……」

 

 イオナが腕を組んで頷く。

 

「なあ?」

 

 リュートが前を行く少女に声をかける。

 

「………」

 

「君に質問があるんだが……」

 

「…………」

 

「無視か、まあいいさ」

 

「……………」

 

「君が表向きの薬師として、あの村では知られているが、実際に薬を調合しているのは、師匠の大賢者さまだ。その点は合っているよね?」

 

「………………」

 

「沈黙は肯定と受け取る。本当はどういう間柄なのかは知らないが、大賢者の代わりとして、薬をあの村に届け、ギルド職員や村の連中と交流している。いわば窓口役ってところだ」

 

「…………………」

 

「君の人当たりの良さは大変な評判だ。都会でもそれなりに話題になっていたよ」

 

「!」

 

 少女が立ち止まって振り向く。

 

「くくっ……」

 

 その反応を見てリュートが笑う。

 

「~~!」

 

 少女がまた前を向いて歩き出す。イオナが小声で話す。

 

「リュートさん、失礼ですよ……」

 

「何がだ?」

 

「何がだって……女の子の顔を見て笑うことですよ」

 

「実際面白かったんだから仕方がない」

 

「仕方なくないですよ……!」

 

「顔を見て笑ったんじゃない、リアクションで笑ったんだ」

 

「リアクションで?」

 

「ああ、思った通りだったからね……ん?」

 

「……どこまで着いてくる気ですか?」 

 

 少女が振り向いてリュートに尋ねる。

 

「先ほど遅めのランチを取ってね、食後のお茶でもどうかなと思っているんだ……君たちのお家にお邪魔して」

 

「それは困ります。お帰り願えますか?」

 

「それは困るから断る」

 

「ふう……仕方がありませんね……」

 

 少女が右手を掲げる。

 

「む……」

 

 リュートが身構える。

 

「ギャアア!」

 

 そこに巨大なドラゴンが森の上に現れる。イオナが驚く。

 

「ド、ドラゴン⁉」

 

「山の頂上付近にいると聞いていたが……」

 

「な、なんでこんなところに⁉」

 

「俺に聞かれても知らん」

 

 リュートが首を傾げる。イオナがパニックになる。

 

「ど、どうすれば⁉」

 

「……静かに!」

 

 少女が抑えた声で告げる。

 

「……!」

 

「草むらにうつ伏せになって……早く!」

 

「‼」

 

 リュートとイオナは少女の言った通りにする。

 

「ギャアア……」

 

 ドラゴンはしばらく旋回した後、山の方へ帰っていく。

 

「……もう起き上がっても良いですよ」

 

 少女はリュートたちに告げ、自らも起き上がる。

 

「なんだったのかね?」

 

「ほんの気まぐれでしょう」

 

 リュートの問いに少女は答える。

 

「草むらにうつ伏せになれとは?」

 

「あの種のドラゴンはそこまで鼻が利かないので、草木に紛れてしまえば、やり過ごせます。下手に動いた方が気づかれる……」

 

「なるほどね……」

 

「ファイン!」

 

「! お師匠さま……」

 

 修道服を着た、さらさらとした髪で痩身の男性が少女に声をかける。

 

「良かった。無事だったようだね……」

 

「何故ここに?」

 

「いや、薬草を採取していたらドラゴンを見かけてね、心配になったんだよ」

 

「だからと言って、なにもここまで来ることは……」

 

「何を言っているんだ、実の娘も同然の君に何かあっては大変だ」

 

「お師匠さま……」

 

「ファイン……」

 

 少女と男性が見つめ合う。

 

「おほん、お取込み中すみませんが……」

 

 リュートが声をかける。イオナが慌てる。

 

「リュ、リュートさん⁉」

 

「リュート? スカウトマンか?」

 

 男性がリュートに視線を向ける。

 

「へえ、ご存知でしたか?」

 

「色々と噂は耳にしたことがある……」

 

「それは光栄の極みです。単刀直入に申し上げますが……」

 

「断る……」

 

「あらら?」

 

「冒険や戦闘の類はもう懲り懲りだ。私は疲れ果てた……思えば若年の頃から、戦いの場に身を置いてきた……傷つき、傷つけ合うのはもう沢山なんだ……この辺境の地でようやく安寧というものを手に入れた――さっきのような例外はあるがね――薬などを作ってのんびり穏やかに暮らしていたいんだ」

 

「ああ、そうですか……」

 

「ここまで来て申し訳ないが、他を当たってくれないか……」

 

「はあっ?」

 

「え?」

 

「別にアンタなんかに用はないですよ」

 

「ア、アンタなんか⁉」

 

「ちょ、ちょっと、リュートさん! この方、大賢者さまなんでしょう⁉」

 

 イオナが声を上げる。

 

「ああ、そうだよ」

 

 リュートが頷く。

 

「こ、この方を探しに来たんじゃないですか⁉」

 

「まだ若いのに、隠居気取りの奴に興味はねえよ。モチベーションが低い奴をパーティーメンバーに入れても役に立たないのは目に見えている」

 

「で、では……」

 

「都会で噂を聞いて興味を持ったのは君だ、ファインさん」

 

「えっ⁉」

 

「大賢者が弟子に取るということはかなりの才覚があると見た……」

 

「か、買いかぶりです。アタシは単なる薬師で……」

 

「モンスターテイマーだろう?」

 

「⁉」

 

「ギルドで冒険者の傷を見ただけでなんのモンスターと戦ったのか分かった。さっきのドラゴンに関してもそうだ。まだ若いのに、モンスターに関する知識は相当なものだ……」

 

「む……」

 

「未知数な部分もあるが、君をパーティーメンバーにスカウトしたい」

 

「そ、そう言われても……」

 

「そうだ、ファインはこの地に残る!」

 

 大賢者が声を上げる。リュートはそれを無視して、話を続ける。

 

「給金は相場よりはるかに上だぜ?」

 

「お金の問題では……」

 

「都会にだって行けるぜ? 刺激的だぞ?」

 

「‼ わ、分かりました……」

 

「ファイン⁉」

 

「良い出会いもあるかもな。親愛の情を否定するわけじゃないが、年齢もそんなに離れているわけでもないのに、娘扱いしてくる大賢者さまと一緒にいるよりは健全じゃないか?」

 

「全くもってその通りです。お世話になります~」

 

「ファ、ファイン⁉」

 

「決まりだな、大賢者さま、お弟子さんの旅立ちをどうぞ祝福してやって下さい……」

 

 愕然とする大賢者にリュートは意地の悪い笑みを見せる。

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