ブルアカ×ACⅥ(青春風味)   作:あんぱん。

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『621、仕事だ。カイザーの系列企業から依頼が来ている。依頼主からのボイスメッセージを確認しろ』

 

 首輪のようなデバイスから淡々とした男の声がする。ハンドラー・ウォルターからの連絡だ。"621、仕事だ"の定型文から始まる連絡は決まって独立傭兵レイヴン(621)への依頼だ。

 

「ウォルターは相変わらずですね。……レイヴン、ボイスメッセージの欄をタップすると確認できるはずです」

 

 ()()()()じみた女性の声が自らの首輪から語り掛ける。頭の中に響くような、落ち着いた語り口とは違う少しぎこちない口調ではあるが、こちらへの気遣いがしっかり感じられる。

 

「えあ……。わかっ、た」

 

 うまく回らない口で首輪の合成音声、エアへ返事をしながら、たどたどしくスマホを操作する。この体(キヴォトス人)になってから、自分の体を動かすという体験に慣れていないのだ。

 

『ぎこちないあなたもかわいいですよ、レイヴン』

「んい……」

 

 褒めるときだけ脳内に直接声を届けるのはやめてほしいと思うが、この幻聴(エア)は無視をするのだ。せっかくキヴォトスの技術との組み合わせにより幻聴扱いを脱却したというのに、時々こうして本来の声を聞かせてくる。曰く私の声を忘れてほしくない、らしい。

 

『カイザーPMCの幹部だ。小汚い傭兵崩れがこの私の依頼を受けられることに感謝するといい。今回の目標は"タカナシホシノ"の生け捕りだ。胡散臭い同業者へ売り飛ばすため、こちらの利益のため貴様には安い報酬で働いてもらうことになるが……、野良犬には多すぎるくらいだ。ガキ一人攫うだけだ、やり方は貴様に任せよう。こちらとしては生きてさえいれば問題ないのでね。詳細は別途連絡しておこう。期待はしていないが、精々頑張ってくれたまえ』

 

 高圧的な音声がスマホから流れる。タカナシホシノとやらを捕獲すればいいらしい。

 

「あまり印象の良い依頼主ではないですね。……ウォルター」

『今回の依頼はアビドス高等学校所属の小鳥遊ホシノ、通称暁のホルスの捕獲だ。アビドスはそのほとんどが砂漠、非常に厳しい環境での任務になる。そして、この依頼は各傭兵にばら撒いているようだ。競合する同業者にも注意しろ。この任務には少し気になるところがある……、お前には是非受けてもらいたいが、未知の危険が多すぎる。どうするかはお前が決めろ、621』

「どうしますか、レイヴン。この依頼を断ったとしても傭兵稼業に支障はでないでしょう。報酬も少ないので、私としては草むしりのアルバイトを推奨します。……レイヴン、あなたには無理をしてほしくないのです」

 

 ウォルターもエアも随分と気を使ってくれている。まだAC(アーマード・コア)をキヴォトスへ持ち込めていないため、AC乗りとして以外の価値を示さなければならない。この依頼は我が半身がなくとも荒事をこなせる証拠になるだろう。

 

「だい、じょぶ。やる、よ」

『無理はするな、621。レイヴンの友人よ、お前がサポートしてやれ』

「わかりました。私が腕となり、武器になります。レイヴン、私があなたをサポートします」

 

 スマホに送られた位置情報を確認し、備品の確認をする。この体は栄養剤の注射ではなく、経口摂取で栄養を取る。水や食料も準備しなければたちまち干からびてしまうだろう。食事の習慣がないため、時々忘れてしまうが今回は気合を入れて準備するのだ。

 腰のベルトには多機能アームが取り付けられており、エアの操作により私生活から荒事、姿勢の制御まであらゆることをサポートしてくれる。これが無いとまともに歩くことすらままならない自分にとっては必需品である。

 

「いって、きます」

『ああ。無事に帰ってこい、621』

 

◆◆

 

 学園都市キヴォトス。数多の学園からなる巨大な都市は、その身に神秘を宿し、頭上に光輪(ヘイロー)を持つ少女たちが学校へ通い青春を謳歌している。獣の耳や悪魔の角、天使の羽など特異的な特徴を持つ子供は多いが、その中でも共通しているのは銃火器の所持であろう。

 銃社会と言えば生易しく、アクセサリー感覚で手榴弾を携帯するキヴォトスでは毎日そこら中で発砲音が鳴り響く。コンビニで銃弾の補給や手榴弾の購入が可能な程度には、この喧噪は生活に密接である。自らの身を守るためにも、銃火器の携帯はキヴォトスにおける常識であり、日常なのだ。

 

 多少銃に撃たれた程度では傷が付かず、殺傷力が高すぎる火器でなければ気絶程度で済むキヴォトス人はその辺のチンピラですら銃を所持している。つまり、治安の維持が大変難しいものになっている。各学園はそれぞれに運営する自治区を持っており、キヴォトス全体の行政を行う連邦生徒会はあれど、治安の維持に関しては学園ごとに一任されている。学園により、風紀委員や正義実現委員など治安維持のための組織は名前は違えど、存在しているものである。

 しかし、それは生徒数が多く力のある学園の話だ。生徒数が少なく、治安維持のためだけに人員を割けない学園は総力をもって解決に当たる必要がある。自治区で悪さをするのは学園の生徒だけではなく、組織的なチンピラや武装したホームレスも含まれるのだから、その対応は非常に困難である。治安維持組織を持たない学園はその対応に追われ、学園としての機能を停止させてしまうだろう。少ない生徒で学園として維持ができているものがあるとするならば、それは突出した個人か、それぞれの能力が非常に高く片手間でチンピラの掃除ができる実力者のみだろう。

 

 キヴォトスの砂漠地帯、そこに隣接した地域にあるアビドス高等学校は総生徒数5人の"力がない"側の学園である。学区のほとんどが砂に飲まれ、一般の住人ですらほとんど存在しないアビドスの自治区は、治安を維持する者がアビドス高等学校の生徒だけである。滅びゆく学園ではあるが定期的に襲い来る輩が出没しており、今日もその対応に追われていた。

 

「うへ~、ようやく終わったよ。まったく懲りないね~」

 

 余裕な表情であくびを噛み殺しながら嘆くのはアビドス高等学校3年、小鳥遊ホシノである。キヴォトスでも有数の実力者であるがアビドスの土地柄、他校と交流する余地があまりないのでそれを知る人は多くない。折り畳み式のバリスティック・シールドによる堅牢な守りと愛銃であるショットガンのEye of Horusによる苛烈な攻めは、1体1ならば突破することは不可能だろう。そして、本人の神秘の保有量の高さも相まって、雑多のチンピラ程度では傷一つ付けることは叶わない。数による絶対的な不利など感じさせないほどの実力。それがアビドス高等学校が少人数でも存続している理由……、の一端ではあるが、それだけでは収まらない。

 

『敵勢力の壊滅を確認しました。お疲れ様です。アビドス廃校対策委員会、帰投してください』

「ん、余裕だった」

「もう最悪、汚れたじゃない!」

「まあまあ、帰ったらみんなでお風呂に入りましょうか☆」

 

 奥空アヤネが通信越しに労い、砂狼シロコが得意げな顔で誇り、黒見セリカが憤り、十六夜ノノミが宥める。一見普通のキヴォトス人の少女たちが、アビドスを守り続けてきたアビドス廃校対策委員会の精鋭である。ひとりひとりが間違いなく木っ端の雑魚では手の届かない実力者であることは、これまでアビドスが存続してきたという実績からも明らかだ。

 

「おじさんもう疲れちゃったよ~。早く帰ってお昼寝しよっか」

 

 ―――小鳥遊ホシノは先頭を往く。

 

 これは誰が口に出さずとも習慣化された、アビドス廃校対策委員の日常である。いつも気だるげで誰かが引っ張ってこないといつまでもだらだらと横になっているホシノだが、有事の際は誰よりも前を進み、誰よりも弾を防ぐ。最も危険な射線に単身飛び出し、敵の目を奪う。そうして培ってきた信頼が、実績が、誰が語ることなく自然とホシノを中心とした陣形となっていく。

 

 シロコが火力で突破し、セリカが自由な形で遊撃し、ノノミが前衛を援護し、アヤネが的確にオペレートする。誰が欠けたとしてもお互いをカバーできるような形を作り続けるのがアビドス対策委員の基本的な戦い方だ。おそらく、シロコが打ち漏らした敵をホシノが叩くでも良いのだろう。セリカが狙う敵をホシノが挟撃し、手早く処理するためのサポートでも良いのだろう。

 

 それでも、小鳥遊ホシノは先頭を往くのだ。

 

「それじゃあ、帰ろっか~」

 

 ()()()()()()()()情けない自分について来てくれる、大切な仲間たちを守るためなら何でもする。それがホシノが自分に課した罪への精算の方法なのだから。

 

◆◆

 

「もうすぐ目的地ですよ、レイヴン」

 

 D.U.地区にあるセーフハウスを出て何度か太陽が登った後、エアが首輪を赤く発光させながら声を出す。比較的、道に積もる砂が少なくなってきた頃だ。吹き荒ぶ砂がここまで届いてしまっているということは、目の前にある校舎もいつか砂に埋もれてしまうのだろうか。

 

「スキャンを開始します。……建物内に神秘反応は1つです。ターゲットの小鳥遊ホシノかどうかは不明です」

「あいがと……。いく、よ」

「わかりました。今のあなたでは奇襲は不可能ですから、正面から行くのが得策でしょう。何があっても私があなたを守ります。安心してください、レイヴン」

「んい」

 

 アビドス高等学校の校門前まで歩を進めると、ドローンがこちらの様子を窺っているのがわかる。目線を合わせず気配、音や空気の振動でドローンの位置を特定していると、エアが頭に直接声を届けてくる。

 

『撃ち落としますか?』

「いや、おはなし、する」

『わかりました。気をつけてください、レイヴン』

 

 隠れるように頭上を飛ぶドローンに目線を合わせる。そうするとすぐにドローンが目の前に降りて来て、通信越しの少しくぐもった少女の声がする。

 

『あなたは……? ヘルメット団ではないようですが』

「こん、にちは」

『こ、こんにちは』

「たかなし、ほしのは、いる?」

『えーっと……』

 

 困惑したような様子を見せる。マイクをミュートにしたのか声が聞こえなくなるが、すぐにエアが盗聴を開始する。

 

『このタイミングで校舎に来るのは非常に怪しいですが……。狙いが校舎で取り立てが目的なら、問答無用で乗り込んでくるはず。それに、あんな小さな子を警戒しすぎても仕方ないですよね……』

 

 この体になってから幻聴(エア)が余計に騒がしくなるデメリットしかなかったが、警戒が薄れるというメリットもあったようだ。

 

『どうぞ、校舎へお入りください。外では砂が吹きつけてきて厄介でしょうから。何もないところですが、多少のおもてなしはできますよ』

「うん……。ども、です」

 

 前を飛ぶドローンの後ろを歩く。何が起きても良いように、歩行用のアシストを他にまわしているので少しフラつきながら歩くが、ドローンはそれに合わせて速度を落とす。よく周りが見えていて、こちらへの観察、警戒を止めていない証拠だ。

 そのまま進み、たどり着いた玄関には制服に身を包んだ黒髪に赤ふちの眼鏡が特徴的な少女が立っていた。

 

「ようこそ、アビドス高等学校へ。何もないところですが、案内いたしますね」

 

◆◆

 

 校舎の中を歩く。レイヴンと名乗った少女は簡単な自己紹介の後、何も言わずに案内に付いてくる。ここらでは見ない顔であり、レイヴンを完全に信用していないアヤネは通信を開始し、会話はすべてアビドス対策委員にリアルタイムで共有中である。幸い好戦的な性格ではないようで、大人しくこちらの言うことに従ってくれている。万が一があってもホシノ先輩方はアビドス校舎へ向けてすでに向かっているので、このまま会話や外見から情報を引き出すことに専念する。

 

 大きめの白いフライトジャケットとひざ丈のスカートに身を包む小柄な少女、レイヴンを横目で観察する。ミディアムに整えられた艶のある黒髪は、よく見ればうっすらと青や緑、紫の光沢を帯びて見える。確かこのような色は……そう、濡れ羽色と言ったはずだ。美しい濡れ羽色の髪や時折赤く発光するチョーカーも特徴的だがそれ以上に目立つのは、四肢に巻き付けられ歩くたびにはためく用途不明の布だろう。一見包帯のようにも見えるそれは、隙間から除く地肌に傷はなく血がにじむ様子もないことから、怪我をしているわけではなさそうだが……。

 

「すいません、その布について聞いても大丈夫ですか?」

「これ、は。まいてると、おちつく」

「な、なるほど」

 

 どうやら本当に用途不明の布らしい。その布を引っ張りながら少し自慢げに話すレイヴンは、何とも言えぬ愛らしさがあった。足が悪いのか少しふら付きながらもこちらに付いてくる仕草は、短い歩幅で一生懸命歩く小型犬を彷彿とさせ思わず頬が緩みそうになる。

 

「今日はどうしてアビドスに? ホシノ先輩に用事があるみたいですが」

 

 緩みかけた頬に気合を入れ、情報収集を続ける。仲間たちに実践を任せている手前、このような情報戦は頑張らねばと使命感のようなものが奥空アヤネを突き動かす。

 

「そ、う」

「ホシノ先輩とはお知り合いなんですか?」

「いや、しらないひと」

「ええと、何故会いたいかとかは」

「ようじ」

 

 思わず頭を抱えそうになるくらい弾まない会話をしつつ、対策委員の部室前までたどり着く。アヤネは知る由もないことだが、普段レイヴンがこのような会話をする際はエアが口を挟んで会話の補助をする。脳を焼かれ言語中枢が少し狂っているレイヴンは、上手くものを伝えることができない。それをレイヴンと神秘で繋がっているエアが言語化し、相手に伝える役割を担っているのだ。エアが黙っている以上、レイヴンとの会話はどうしてもぎこちないものになってしまう。

 

「っ! ……こちらの部室で少しお待ちください。今お茶を持ってきますね」

 

 そう言いながら離れるアヤネは少し足早に去っていく。反応を見るに、先ほどからこそこそと行っていた通信の相手が合流したのだろうとレイヴンは予測する。

 

『そうですね、スキャンに反応が増えました。奥空アヤネを含め5つの反応ですが、ひときわ強い反応があります。これが小鳥遊ホシノと見て間違いないでしょう』

「うん」

『油断しないでくださいね、レイヴン』

 

 直接頭の中に声を届けるエアの声は、周りの人間には一切聞こえていない。傍からみればレイヴンが虚空に向かって返事をしている奇妙な光景が映るだろう。

 近くの椅子に座り、ぼうっと待つ。鞄にある携帯食料で栄養補給をしようかと考えたが、その間に奥空アヤネ達が戻ってきてしまうと考え、結局大人しく待つことにする。用意した携帯食料はそれだけで完璧な栄養バランスを誇るものの、水分保有量が致命的に少ないので食べきるのに時間がかかるのだ。ただでさえ喉が細く、一度に多くを飲み込めないレイヴンはこの隙間時間を有効活用することを諦める。

 

『レイヴン、来ます』

 

 エアが注意を促すと同時に、扉が開く。

 

「あら、可愛いお客さんですね~!」

「ん、こんにちは」

「何もないけれど、ゆっくりしていって頂戴ね」

「……ふ~ん」

 

 部室に座る見知らぬ少女に対し、概ね好意的な反応を示す面々とは違い、ホシノだけは違うものを読み取っていた。

 

 座る姿は完全に素人。撃たれても反撃できる体勢じゃないし、なんならいきなり突き飛ばしても転んでしまうだろう。ただ決定的に違うのはこちらを見つめる、赤みを帯びた双眸に映るモノ。そう、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、暁のホルスにはつかめなかったモノを手に入れた者の輝き。目に奥に灯る、力強い火を。

 

「うへ。アヤネちゃんはちょっと油断しすぎかな~」

「ちょっとホシノ先輩?!」

 

 驚くセリカを一瞥もせず、レイヴンを睨むホシノはいつでも撃てる状態にしたショットガンを突き付ける。仲間に対して八つ当たりにも似た言葉が出てしまい、その自己嫌悪に陥る間も無く言葉が紡がれる。

 

「堅気じゃないよね、君。何者?」

 

 そう言って青と黄のオッドアイを細めるホシノの心のうちには、目の前の少女に対する強い嫌悪と()()が渦巻いていた。

 

 




神秘≒コーラル。詳しくはそのうち描写される、はず。
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