ブルアカ×ACⅥ(青春風味)   作:あんぱん。

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「ほ、ホシノ先輩……?」

 

 いつも飄々とし、余裕を崩さないホシノのあまり見ない表情に驚きながら声をかけるアヤネ。それに反応することなく、ショットガンを構えることを止めないホシノの尋常ではない雰囲気に緊張が走る。

 

『武装、神秘量ともにこの程度ならコーラルシールドで問題なく対処できます。私ならば撃たれる直前に展開できるでしょう。安心してください、レイヴン』

「ここ、だと、よごれちゃう、から。そと、で」

「へえ。余裕だね。おじさん、そういうのちょっとムカついちゃうな~」

 

 片づけるという行為が非常に面倒であることを理解しているレイヴンは銃口を向けられているのにも関わらず、鎖が繋がったような形状の光輪(ヘイロー)を揺らしながら間の抜けた声で提案をする。そうして椅子から立ち上がるレイヴンを睨むホシノは、口調は砕けているものの嫌悪を隠そうとしない。

 

「ん、よくわかんないけど外で戦うんだね。任せて」

「とりあえずホシノ先輩に付いていきましょうか~」

 

 好戦的なシロコとホシノと付き合いの長いノノミは状況を呑み込めないままでも、ホシノに合わせて行動を起こす。

 

「え、どういうこと? その子はお客さんじゃないの?!」

「すいません、セリカさん。校舎に入れずに対応すべきでした。これは私の落ち度です……。各員戦闘準備をお願いします!」

「もーわけわかんない! けど戦えばいいのね、わかったわ!」

 

 困惑するセリカに、声をかけつつオペレートの体勢に入るアヤネ。切り替えの早さはやはりこの極限の環境で鍛え上げられた賜物だろう。

 

 ゆったりと外へ向かうレイヴンに無言で付いていくホシノを追いかける3人。それを確認したアヤネはドローンを追従させ、自らの頬を叩き気合を入れる。

 

「アビドス廃校対策委員、戦闘配備。オペレーション開始します!」

 

◆◆

 

 アビドス高等学校のグラウンド。長い間使用された形跡のないこの場所は、陸上のトラックに雑草が生い茂っている。

 

『レイヴン、目標の無力化にはスタンガンでの制圧が有効でしょう。VP-66EG-Palmの使用を推奨します。ACの武装をここまで対人特化に落とし込んでくれた<ruby><rb>RaD</rb><rp>(</rp><rt>Reuse and Development</rt><rp>)</rp></ruby>には感謝しましょう、レイヴン』

 

 非力なレイヴンと言えど、本来片手で扱うスタンガン(VP-66EG-Palm)を両手で扱うことくらいなら可能だ。対象を殺さずに無力化することを目的に持ち込んだスタンガンをエアが操作するアームから受け取り、両手で握る。この銃は少し大きめのハンドガンにも似た銃身から、帯電した短針を射出し対象の体の自由を奪う。盾や防具に突き刺さり一般人なら即失神、神秘を帯びたキヴォトスの住人ですら数発撃ちこめば簡単に意識を奪えるだろう。

 

「さあ行くよ、みんな。前は私に任せて」

 

 レイヴンが銃を構えるのを皮切りに、アビドス対策委員が戦闘態勢に入る。ホシノが盾を構え、ショットガンを撃つ。この単純かつ強力な組み合わせの戦法は、今のレイヴンであれば回避する手段を持たない。

 

コーラルシールド(IB-C03W4:NGI 028-Palm)を展開します。守りは任せてください、レイヴン。あなたは小鳥遊ホシノの無力化に集中を!』

 

 ホシノが放った銃弾が届くより先に、赤く色づいた透明なフィールドがレイヴンを囲うようにして展開される。それに触れた銃弾は表面で波紋のような跡を残すが、それだけだ。内側に弾を通すことなくひとつ残らず阻まれる。それを確認したホシノは驚く素振りすら見せず、後輩たちの射線を意識しつつ距離を詰める。

 

 レイヴンが淀みない手つきで照準を合わせ、スタンガンを撃つ。軽快な音ともに放たれた針はホシノの持つ盾に阻まれるが、しっかりと刺さって役目を果たす。盾越しに流れる電流は上手くいけば失神させられるほどの電気ショックを与えているはずだが、ホシノは全く意に介さない。スタンガンの出力ではホシノの神秘による守りを貫くことは叶わなかった。

 

 ホシノがレイヴンの注意を引いたのを確認して、アビドス廃校対策委員は行動を開始する。

 

「ドローン、作動開始」

 

 シロコが自前のミサイルドローンを起動し、手榴弾を転がし、愛銃のアサルトライフル(WHITE FANG 465)をレイヴンへ放つ。ホシノの攻撃を無効化した謎の盾は生半可な攻撃では通らないと判断し、手持ちのすべてをぶつける。10連装のミサイルがシロコ専用ドローンから景気よく射出される。節約など考えていないシロコの全力は、手榴弾の爆発も相まってレイヴンの小さな体を弾幕で簡単に覆いつくしてしまうほどだ。しかし、手ごたえが全くない。それは、ほかの仲間にも伝わっていた。

 

「あらあら、これは~」

「くっ、この!」

 

 ノノミがシロコに合わせてマシンガン(リトルマシンガンⅤ)を、セリカがレイヴンの死角からアサルトライフル(シンシアリティ)をすべて命中させる。動く気配のない攻撃対象に弾を当てるのは、アビドスの精鋭にとって非常に容易なことだ。ただし、その弾幕の雨ですらコーラルシールドの赤い膜の前では無意味だった。

 

『対象、未だ健在! ダメージはありません!』

 

 アヤネのドローンが確認し、共有した情報にアビドス対策委員は小さくない驚愕を受けた。4人分の火力を正面から受けてすべて無効化されるような、それに回避されたわけでもなくすべて受け止めているような状況は今までの経験にはなかったのだ。

 

「なるほどね~。……おじさん、少し本気出しちゃおうかな」

「っ! シロコちゃん、セリカちゃん、少し離れましょうか」

 

 盾を地面に置き、前傾姿勢になったホシノの気配が大きくなる。ノノミがシロコとセリカに声をかけるのと同時にホシノからにじみ出る青く光る粒子の流れのようなものが、とてつもなく大きくなるのをレイヴンは感じ取った。銃を持つキヴォトスの住民は、無意識のうちに自らの神秘を銃弾に乗せている。だが、神秘を知覚する手段を持たないキヴォトスの住民は、その力を自由に調節する術を持たない。しかし、天賦の才を持つホシノが無意識のうちに練り上げた神秘は規格外に大きく、洗練されていた。今のホシノの神秘を乗せた銃弾はいつかコーラルシールドでさえ貫通してしまうだろう。

 

『対象のコーラル、いえ、神秘反応が急激に高まっています! ……これは?!』

「わりに、あわないにんむ」

『ウォルターの懸念はこういうことでしたか。簡易アサルトアーマーを起動し、辺りを吹き飛ばします。その間に撤退を、レイヴン!』

「まって。たぶん、だい、じょぶ。みるめは、あるから」

『……わかりました。気をつけてください、レイヴン』

 

 見る目はあるというレイヴンは、構えていたスタンガンを下す。近距離まで近づいてきていたホシノはその様子を見て、怪訝そうな顔で構えは解かずに口を開く。

 

「どういうつもり? おじさん、舐められてるのかな~?」

「ごまんくれじっとでは、わりにあわない、から」

「5万クレジット? 何の話かな」

「たかなしほしのの、ほかく。その、せいこうほうしゅう」

「……うへ~。おじさん、そんな安い女に見える~?」

 

 ホシノがいつもの気怠げな表情に戻る。それと同時に、膨大な神秘も鳴りを潜める。神秘を持つが知覚できないにも関わらず、無意識に自らに潜む(才能)を使いこなしているようだ。

 

『見事なものですね。神秘反応低下、安定しています』

「んで、結局何なの? 説明してくれるんでしょうね」

 

 交戦を止めたレイヴンに対し、セリカが詰め寄る。銃口は下げているが、トリガーをいつでも引けるように指を添えているのは完全に警戒を解いてない証だろう。

 完全に攻撃が止まったことを確認したレイヴンは静かにエアに語り掛ける。自分が話すより、誤解を招くことがないと判断してのことだ。今までレイヴンの脳内にだけ語り掛けていたエアの存在は、別に隠しているわけではなく、戦闘中は声を聞き逃さないために耳に頼らず聞こえる幻聴モードに頼っているだけだ。

 

「えあ、おねがい」

「わかりました、レイヴン」

『今の声は……?』

 

 首輪を光らせながら合成音声を流すエアに驚いた声を上げるアヤネ。その声には特に返答することなく、エアが話を続ける。

 

「私はエア。独立傭兵レイヴンの専属オペレーターのようなものです」

「独立傭兵、ね。いっつもこんなことやってるわけ?」

「いえ、普段は清掃などの雑務が多いですね。先日は子ウサギ公園の草むしりが任務でした」

『傭兵が草むしり……ですか』

 

 今までの剣吞な雰囲気が吹き飛んでしまったような―――ホシノが一方的にその雰囲気を出していただけだが、そんな緩い空気が流れる。セリカの質問に素直に答えるエアだが、その答えに少し困惑したような声を出すアヤネ。

 

「……おじさんとしても、やり合わないことには賛成だよ。弾薬もタダじゃないし~」

「ん、残念。ホシノ先輩ならあのシールド破れそうだったのに」

「おじさんはもう若くないからね~。そんなに動いたら筋肉痛で動けなくなっちゃうよ」

 

 そう言ってしな垂れかかるホシノを優しく受け止めるシロコ。それを見たレイヴンは、ホシノの戦闘の意思は消えたがこちらに対する悪感情は消えていないことを察する。ホシノの胸中を知らないレイヴンは人攫いの対象にされたら悪感情を持たれるのは当然、停戦を受け入れてくれただけ感謝しよう、と思った。

 

『621、話はお前の友人から聞いている。停戦の判断は良かったが、敵地に策もなく乗り込むのは褒められたものではないな。……今回の依頼主は依頼した傭兵のことなど把握していないだろう。依頼不成功による不利益は気にしなくても問題ない。今日のところはそのまま帰宅しろ、621』

「んい……わか、った」

「褒めるだけで良いものをウォルターは一言余計ですね。今回も最高の働きでしたよ、レイヴン」

 

 レイヴンの首輪から聞こえてきた声に対して腕に巻いた布を引っ張りながら、褒められたところだけ脳内で反復する。ほんの少しだけ口角が上がるが、他人が観測するのは不可能なレベルのものだ。すかさずエアが好感度を稼ぎにかかるが、それに対しては特に返答のないレイヴン。

 

「今のは、どなたです~?」

「かいぬし」

「飼い主……。依頼主か、それとも上司……?」

 

 ノノミがレイヴンの方から聞こえてきた男の声に首をかしげる。何を言っていたかまでは聞き取れなかったが、レイヴンの様子から、関係者だろうと予想し声をかける。その返答に対してホシノを背負ったシロコが見当をつける。飼い主といういい方は少し気になったが、不思議な雰囲気を醸し出す寡黙な少女に対しそこを突っ込んでも満足な回答は帰ってこないと考え、押し黙る。

 

「ところで傭兵ちゃん。おじさんを狙ってた依頼主って誰かな~?」

「それは、いえない」

「ん~、そりゃそうか」

 

 シロコの背からレイヴンに声をかけるホシノは、探るような口調でレイヴンを観察しようとする。だが、なんとなく目を合わせるのが嫌で、すぐにシロコの背に突っ伏してしまう。以前から勧誘をしてきている怪しい大人の差し金かとも思ったが、そいつはそういうことはしないだろう。来るなら直接、逃げ場をすべて潰してくるはずだ。そうなると、普段から撃退しているチンピラたちの顔が浮かぶがそこまで考えると特定は不可能だと結論付け、思考を止める。いい匂いのする後輩の背で、寝ることはせずに目を閉じる。それ以降ホシノはレイヴンに対して口を開くことはなかった。

 

「それ、じゃあ、かえる」

「はい、気を付けてお帰りください~」

「またね。次は一緒に仕事しよう」

 

 既にアビドスに用はなくなったレイヴンは帰ろうとする。コミュニケーション能力が軽く欠如しているが、挨拶の文化くらいは把握しているレイヴンはその旨を伝える。やわらかい表情で返答をするノノミとシロコにあきれた表情をするセリカは軽く突っ込みを入れる。

 

「さっきまで戦っててホシノ先輩を狙ってた相手になんでそこまで……。まあ、別にいいけど。次来るときはちゃんとお客さんとして来なさいよね!」

『レイヴンさんのおかげで身が引き締まりました。このお礼は次にいらしたときにでもさせていただきますね!』

 

 敵と味方を判断し、危険がないと見るとすぐに友好的な態度を示すアビドスの生徒。優しい性根の表れとも言えるが、頼れるものが5人の仲間のみである状況で無駄に敵を作らないような対応とも言える。このような手のひら返しはアビドスにとって大切な生存戦略なのだ。

 

「ばいばい」

『帰りましょう、レイヴン。怪我もないようでなによりです。今日もお疲れ様でした』

 

 友好的に挨拶をしたレイヴンはエアの声に従ってアビドスのグラウンドを後にする。傭兵としての価値は示せなかったなと少し気落ちするが、ウォルターに褒められたので良しとする。思い通りに動かない体にACを恋しく思いつつ、キヴォトスの首都であるD.C.地区にあるセーフハウスに向けて歩を進める。

 

 帰る途中で一度振り返り腕の布を揺らしながらアビドスへ手を振ったレイヴンは、大好きな飼い主(ハンドラー)の声を思い返しつつ少し上機嫌な雰囲気を隠さずにいた。

 

◆◆

 

 去っていくレイヴンの背に、ホシノは燃え尽きかけていた火に無理やり燃料を投下されたような、眩しい光に心を焼かれるような気持ち悪さを感じていた。一度折れたホシノを支えてくれた仲間たちのためにも、膨大な借金を抱えるアビドスを、後輩たちの居場所を守るためにどうにかやりくりしてきた。膨れ上がった利子を返すことに手いっぱいで好転することのない財政。自らの、()()()との約束を胸に、()()を突っぱね、真っ当な稼ぎのみで返済を行う日々。決して表には出さないが、このまま好転しない日々を過ごして良いのかと答えのない自問自答に苦しむ日もあった。奇跡に縋ろうとして、そんなものはないと自らの盾を見て思い直す日もあった。自分の中の何か()が徐々に減っていくのを無視して、のらりくらりと過ごす日々に突然現れた強く眩しい火(レイヴン)

 

 あの双眸に灯る火は、今のホシノにはあまりにも眩しすぎるものだった。

 




特技は燃え残ったすべてに火をつけることです。
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