ブルアカ×ACⅥ(青春風味)   作:あんぱん。

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『621、仕事だ。連邦生徒会の行政委員会から景観維持の依頼が来ている。子ウサギ駅前にある子ウサギ公園の清掃だ。先日の一件でお前もわかっていることだろうが、その体はまだ慣らす時間が必要だ。この依頼を有効に使え』

 

 学園都市キヴォトスにおける首都のような役割を担うエリアが、D.U.と呼ばれている地区だ。キヴォトスの全行政を担う連邦生徒会や、その本部であるサンクトゥムタワーはこの地区に存在する。キヴォトスの中心に位置するD.U.をレイヴンが拠点に選んだのはウォルターの勧めもあったが、首都特有の恩恵に魅力を感じてのことだ。

 

 そして、今回の依頼はD.U.地区にある子ウサギ公園の清掃だ。子ウサギ公園は駅から近く、そのアクセスの良さも相まって浮浪者が場所を占領していることが多々ある。そんな場所での依頼はもちろん一筋縄ではいかず、ただの清掃であっても多少の荒事が発生してしまう。D.U.地区の治安維持はヴァルキューレ警察学校が担っているものの、揉め事が起きるたびに通報してその解決を待ってから清掃を進める……、だと日が暮れても終わらないだろう。だから、こうして連邦生徒会から直接、レイヴンへ依頼が来ているのである。

 

 もちろん連邦生徒会もただの傭兵に依頼をだすわけがない。どのような伝手かはわからないが、レイヴンがこの依頼を受けられるのもウォルターの手腕あってのものだろう。さすがは自分の飼い主(ハンドラー)だ、と内心で誇らしいのは内緒である。

 

「お堅い正義を掲げる連邦生徒会が傭兵に依頼を出すとは、中々柔軟な思考を持っているみたいですね。まったく、ウォルターはどのようにして連邦生徒会から依頼を持ってきているのでしょうね」

『奴らも一枚岩ではない……。ならばいくらでもやりようはある、とだけ言っておこう』

 

 ぺちぺちと情けない音の拍手をする。レイヴンの感情表現が豊かであれば、満面の笑みでガッツポーズをしながら踊り狂っていただろう。―――やっぱカッケーよウォルターは! そんな昂揚を検知したのか、エアも張り合うような声を出す。

 

「レイヴン、私なら連邦生徒会の秘密金庫の鍵だって開けて見せましょう! 望みの情報があればすぐに抜きとってきますよ」

『余計なことはするな、621の友人。……621、どうやら急激に治安が悪化しているらしい。連邦生徒会の会長が失踪した時期から事件の発生件数は右肩上がりだそうだ。お前も巻き込まれないように気を付けろ』

「んい」

 

 D.U.地区の外郭のあるセーフハウスから子ウサギ公園はそこまで遠くない。しばらくゆったりできるので、ウォルターの言葉を頭の中で反芻する。初めて自分に意味(名前)を与えてくれたウォルターの言葉はなによりも大切なもので、それを思い返す時間はなによりも幸せなひと時なのだ。

 

◆◆

 

 D.U.地区子ウサギタウン、子ウサギ駅前の子ウサギ公園。広めの自然公園は生い茂る緑による景観もよく、申請すればキャンプ等も可能であり近所の住人に人気のある公園だ。ただ、最近の治安悪化の影響を受け不審者の溜まり場になってしまっている。

 

『それにしても、()()とはよく言ったものですね。いくらキヴォトスと言えど、ホームレスですら銃を携帯しているとは……。これも治安悪化の影響ですかね』

 

 子ウサギ公園を不法に占拠する武装した浮浪者の掃討。清掃の依頼はこの工程から始まる。見慣れた顔の者どもは、レイヴンの姿を確認するや否や蜘蛛の子を散らすように逃げ去っていく。しかし、逃げていく浮浪者の中に唯一レイヴンに近づいてくる少女が一人。姿勢を前かがみに、ヘルメットで見えない顎を上げながらがに股で歩く。

 

「ンだテメー! ッチ見てンじゃネーゾ! ッゾコラー!」

 

 フルフェイスのヘルメットから威勢のいい声が響く。狼のステッカーが目立つヘルメットはピカピカに磨かれており、所有者が丁寧に扱っていることがわかる。そして、キヴォトスにおけるヘルメット姿のチンピラといえば、ヘルメット団である。様々な分派があるヘルメット団は、お世辞にも統率が取れているとは言えないが恐ろしいところはその構成員の数だ。どこからともなく補充されていく人員は、途切れることなく増えていき、各自治区の治安維持組織がどうにかしようにも全く追いつかないのが現状だ。それ故、ヘルメット姿のチンピラが一人で活動しているところは非常に珍しいと言える。

 

 また、D.U.地区にヘルメット団のようなただのチンピラがいる光景はかなり珍しいものだ。ヴァルキューレ警察学校と連邦生徒会のお膝元で悪さをしようものなら矯正局送りになってもおかしくない、そう考えるものが大多数だからだ。だが、実は悪質な行いを働いた生徒を閉じ込めておくための施設である矯正局は一介のチンピラをわざわざ相手にする余裕などなく、捕らえられたチンピラは罰金などの比較的簡単な折檻で終わることがほとんどだ。それを理解している頭の良い馬鹿たちの度胸試しの場としてD.U.地区が使われることが多々あるのだ。

 

「ンのかテメー?! ガキだからって容赦(てかげん)しねーゾ?!」

『……レイヴン、ここまでコテコテのチンピラも珍しいですね。スタンガンで制圧してしまいましょう』

「うん」

 

 レイヴンにヘルメット越しにメンチを切る少女は自前の白い羽を揺らしながら威嚇してくる。妙に小奇麗な格好をしたチンピラを冷静に観察するレイヴンは、全然戦闘経験のない佇まいだということを見抜く。レイヴンも生身での戦闘経験が多いわけではないが、それでもわかる程度にはお粗末な構えをしているのが目の前のヘルメット団の少女だ。

 

 レイヴンがスタンガン(VP-66EG-Palm)を構えると、より一層騒ぎ立てる少女。

 

「オイオイオイ! あーしとやろォーってンのかァ?! "ワンワンヘルメット団"に喧嘩売ったコト、後悔させてやんゼ!」

 

 その言葉と同時に、銃声が鳴り響いた。

 

◆◆

 

「へへ、流石レイヴンのアネゴっスね、あーしなんかじゃ足元にも及ばネーッス!」

 

 手をもみ合わせながらひび割れたシールド―――目を覆う透明なパーツから遜った声を出す少女は、先ほどの威勢の良さなど微塵もない顔でレイヴンに擦り寄る。

 

「あーしは三下(みした)コマヅっス! アネゴの縄張り(シマ)にはもう手ェださネーんで、何でもするンで許してくだしァーッス!」

 

 チンピラとは思えないほど綺麗なお辞儀をして、声を張る三下コマヅ。そのよく通る無駄に大きい声を聞きつけてか、複数人の足音が近づいてくる。

 Kivotos Student Police Departmentと印字された丸いライオットシールドを持った集団が、目つきの鋭い強面の少女を伴って現れる。

 

「ヴァルキューレだ! 手を挙げて大人しくしろ!」

「ゲェーッ?! 公安局長、ヴァルキューレの狂犬?! さーせんアネゴ、あーしはここで逃走(にげ)させていただきャーッス!」

「逃がすな、必ず捕縛しろ!」

 

 腕にヴァルキューレ警察学校の校章が描かれた腕章を付けた少女が警告し、指示を飛ばす。コマヅはヴァルキューレの姿を見た瞬間に誰もいない方向へ踏み出す。やたら綺麗なフォームで駆け出すコマヅは、パルクールを駆使してヴァルキューレの生徒を撒くつもりのようだ。小回りの利かない盾を持っている相手に対して有効だし、妙にタフだったコマヅなら多少撃たれても逃げ切れるだろう。

 

 怒涛の展開に付いていけないレイヴンは口を開くことを諦めて静観する。そこにヴァルキューレのまとめ役であろう、コマヅに狂犬と呼ばれていた少女が近づいてくる。

 

「どうも。私はヴァルキューレ警察学校公安局長の尾刃カンナです」

 

 レイヴンに丁寧な口調で語り掛ける強面の少女。努めて柔らかい表情をするようにしているものの、第三者から見れば相手の少女を恐喝している場面にも映ってしまうだろう。尤も、レイヴンはそのようなことは気にも留めず、ぼうっと目の前の警官風の少女の話を黙って聞いていた。

 

「公園で銃声が聞こえたとの通報を受け、出勤致しました。是非捜査へのご協力と、今回の件の事情聴取を―――」

 

 カンナがレイヴンへ詰め寄ろうとした瞬間、ポケットからスマホの着信音が鳴る。

 

「……はい。尾刃カンナです。―――防衛室長? ……―――は? ……いえ、はい。わかりました。失礼します」

『盗聴しましたが、どうやら連邦生徒会の防衛室長がレイヴンを見逃すように命令したようです。……もしかすると、ウォルターに依頼を流したのは防衛室長なのかもしれませんね』

 

 時折レイヴンを見ながら通話していたカンナが、表情を軽く変えながらスマホをしまう。困惑、諦め、そして自分の意見を押し殺すように息を吐く。ふう、と熱くなった心を冷やすように小さく深呼吸した後、レイヴンに向き直る。

 

「話の途中で申し訳ありません。私は急用ができたのでこれで失礼します。……では」

 

 軽く会釈し、カンナがその場を後にする。納得がいかないような表情をしていたがこちらに対して誠実であるところを見るに、相当理性的な者なのだろう。

 

『尾刃カンナ―――ヴァルキューレ警察学校の公安局長がわざわざ現場まで出向いているということは、よほどの現場主義か人手が足りていないかのどちらかでしょう。治安の悪化が著しいと聞きますし、後者だろうと予測します。実際、D.U.地区ではあの手のチンピラは珍しいようですから』

「たいへん、だね」

『そうですね、レイヴン。あなたも補導されないように気を付けてください。……まあ、私たちは防衛室長とやらの息がかかってるみたいですので、多少は動きやすいでしょう。D.U.地区での依頼はそこまで多くはないでしょうが、有効活用していきましょうね、レイヴン』

 

 カンナが早歩きで去っていくのを見送りながらエアがレイヴンに話しかける。治安悪化の影響は徐々に様々なところに影響を及ぼしているらしい。ただ、連邦生徒会長が失踪した時からだとウォルターが言っていたが、そんな情報はどこにも流れていないはずだ。スマホの操作に慣れるためにネットニュースやSNSを確認するようにしているが、そのような大きなニュースは見たことがない。つまり、連邦生徒会内部で秘匿されている情報をウォルターは掴んでいるということだ。レイヴンがのんびりキヴォトスで依頼をこなしている間にウォルターは独自の情報網を築いていたらしい。脳内の自分(レイヴン)が腕を組んで静かに頷く。―――やっぱウォルターなんだよなぁ!

 

『……ところでレイヴン、三下コマヅの端末に侵入して連絡先を入手しておきました。なんでもするとのことだったので、存分に使ってあげましょう。現地の協力者(体のいい小間使い)が手に入ってよかったですね』

「おお」

『SNSの練習台にしてみてはいかがでしょう。現地の人々と仲良くなることはあなたにとってもプラスに働くはずです』

 

 レイヴンの昂揚を検知したエアは、話題を変えるために実行した結果を報告する。実体を持たないエアは、神秘やコーラルを使用した技術ならば侵入して好き放題にできる。とはいえ、やっていることはただのハッキングなので、堅牢なファイアウォール等があれば容易に対策できるだろう。一般人が持つ端末程度のものでエアを止められるのであれば、の話であるが。

 

「ももとーく、どこ、だっけ」

『ピンク色のアイコンだったはずです。……そうですね、文面での連絡は顔文字をつけると柔らかい印象を相手に与え、円滑なコミュニケーションを可能にするとの情報を見たことがあります。試してみてはどうでしょうか、レイヴン』

「んい……」

 

 両手でスマホを抱え、両方の親指で画面をタップする。モモトークと呼ばれたキヴォトスで最も普及している通話、メッセージアプリを起動する。連絡先一覧には今まで会ったことのある面子―――例えば自分のことを戦友と呼ぶ頼れる()()だったり、自分のことを野良犬と呼ぶぶっきらぼうな男性等が載っている。その中で、三下コマヅの名前を見つける。アイコンには三下コマヅ本人であろう少女の画像が載っている。どこにでもいそうな、親しみのある顔(モブ顔)で柔らかく微笑んでいる。とてもレイヴンに喧嘩を売ってきたチンピラには見えなかった。

 

〈こんにちは(*'▽') さっきぶり、レイヴンだよ(=゚ω゚)ノ〉

 

 ゆっくりと両手で打ち込まれた文章が軽快な音とともに送信される。そのあとすぐに送ったメッセージに既読と表示され、コマヅからの返信が届く。

 

〈あれ、アネゴですか? いつの間に連絡先を……流石っすね!〉

〈これからよろしくね(≧▽≦)〉

〈あーしもアネゴと仲良くなりたいっす! 喧嘩した相手とはマブダチになれるって文献に載ってたんで、今度トリニティに来たときは一緒に遊びましょ!〉

 

 謎の好感度の高さとコマヅの気質から、レイヴンのコミュニケーション能力の低さがカバーされる。エアとレイヴンが世間知らずなのも相まって、会話を進めてくれる相手とは相性が良い。その点コマヅは会話の練習相手として最適だと言えよう。

 

『素晴らしいですレイヴン。完璧なコミュニケーションです。やはり顔文字の効果は覿面でしたね……!』

「うん。こまづ、は、あねごって、よんでくれるから。なかよく、したい」

『……そうですね。あなたを呼ぶ名前が増えてよかったですね、レイヴン。この縁は大切にしていきましょう』

 

 レイヴンは自分を示す名前(意味)が増えることに喜びを表す。昔はウォルターの依頼を成功させ続けていれば自然と名前が増えていた。しかし、今はウォルターが関わらない人間関係が増えてきている。この関係はレイヴン自身が育んでいかなければならないというのは理解しているつもりだ。どのようなものであれ、自分に名前(意味)を与えてくれる人とは仲良くなりたい。そんな感情を胸に、モモトークの画面を眺める。

 

『レイヴン、そろそろ公園の清掃の続きをしましょう。幸い今回は浮浪者の掃討がメインで、汚れはあまりないようですからすぐ終わりそうですね』

 

 エアの声でスマホから目を離す。確かにあまり汚れていないようだが、それでも細かいものは見受けられる。ひらひらと舞う四肢に巻きつけた布と共に掃除用具を持って汚れへ向かう。お気に入りのフライトジャケットが汚れないように腕をまくり、鴉がモチーフの刺繍と腕に巻き付いたリードのような意匠の刺繍を輝かせて。

 

 そうして、雑草を持ち帰ろうとする少女と目が合うなど細やかなイベントはあれど特に大きな事件はなく依頼を遂行した。

 

◆◆

 

『621、キヴォトスの外から"先生"と呼ばれる人物が来訪するとの情報を掴んだ。この人物は我々の目的に密接に関わるだろう。D.U.地区の郊外を拠点として、連邦捜査部S.C.H.A.L.E(シャーレ)が"先生"を中心に設立されるそうだ。お前はシャーレに所属し、"先生"と関りを持ってもらいたい。完全な部外者である俺より、生徒の身分を偽装してあるお前の方が適任だろう。……無理はするなよ、621』

 

 




オリキャラになら何しても良いらしいので、コマヅちゃんには頑張ってもらいます
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