Is インフィニットストラトス ーBreak the worldー 作:柊一
人によっては気に入らないような内容が含まれていますので、ご注意ください。
―四月 IS学園1-1教室―
「……」
『…ヒソ…ヒソヒソ』
『ヒソヒソ?ヒソヒソ』
女子は俺のことを遠巻きに見ては、何か話し込んでいるようだった。あいにく俺には聞こえなかったが、あまりいい内容ではないとおもう。
周りを見ても、俺がおさまることができるような男子のグループは無い。だってここには女子しかいないからな。自分が異物だって言う自覚はあるけど、こうも露骨にされると、こう、クるものがある。
「はぁー」
一応見知った顔の我が幼馴染、頼みの綱の箒さんもいるけれど、俺からわざと目をそらしているようだった。あ、なんか意味ありげに窓の外を見始めたぞ。
箒は小四の終わりくらいに引っ越して、それから会ってなかった。最後に会ってから四、五年は経っているのか。積もる話もあるだろうけど、今はそういう気分じゃないようだった。
「なぁにじいさんみてぇな顔してんだよ。あんた」
「ふぁっ!?」
あんまりにも砕けた調子で話しかけらたから、思わず変な声がでてしまう。振り返るとそこには、妙な制服を着た奴がいた。軍隊の戦闘服みたいな上着に、カーゴパンツみたいなズボン。簡単に言えば、上も下もポケットまみれだった。
「君、すごい格好してるね」
「許容範囲に収まれば改造したっていいんだろ?このポケットいっぱいな感じがすきなんだよなー。……ほら」
そういって彼女は右の内ポケットからチュッパチャップスを取り出して、俺に差し出した。とりあえず受け取っておいたけど、舐めはしないぞ。
「内側にまであるのかよ」
「収納が多いってのは、何かと便利なもんだよ?お菓子隠し持ってたりできるしな。あぁ、そういや……」
彼女は何かを思い出したように咳払いして、俺に右手を差し出してきた。
「アタシ、綿貫音羽ってんだ。よろしくな」
ああ、そういえばまだ自己紹介がすんでなかったっけ。あんまり砕けた調子だったから、すっかり忘れていた。差し出された手を握って、俺も自分の名前を名乗った。
「おう、俺は織斑一夏だ。よろしく」
「知ってるぜ。アレだけテレビに名前が出てりゃ、日本で知らんのはよっぽどのご隠居だろ」
「だろうなー。でも、俺が知らん奴が俺を知ってるって、なんか気に入らないんだよなー」
俺がIS学園に入学が決まったその日から、日本どころか、世界中で男性IS乗りの話題で持ちきりだった。パパラッチとかテレビ記者とかがすごすぎて、春休み期間中はうちから一歩も出ることができなかったし。しょうがないからとお茶を濁すような感じで、周りの人のインタビューとかもやってたけど、いろいろな俺が語られてたし……
「人気者の宿命だよなー。まぁ、誰にも相手されずに生きてるよりはマシじゃね?」
「なんにでも限度ってもんはあるぞ。芸能人って、よく生きてられるとおもうよ」
「それが仕事な人らだからねー。まぁ、そういう状態だって長くは続かないよ。四月の終わりごろには熱だって冷めて、普通の高校生だろうよ」
「そうだといいけどなぁ」
それからしばらくは、綿貫さんと一緒に他愛も無い雑談を続けていた。警戒心がなさ過ぎるというか、周りの目を気にしていないというか。箒もいるし、こういう人もいてくれれば、これから先何とかなるような気もした。
「―そういや、何で俺に話しかけてきたの?」
「あぁそりゃアレだ、ジャンケンに負けたからだ」
「は?」
「よく知らん奴だったけど、流れで勝負にのって、流れで負けて、そのまま……」
……だめだ、この人よくわからん。なぜ知らない奴のそういう話に乗れたんだろう。
「まぁ、様子見できれば誰だって良かったんだろ?思いのほか話し込んじまったけど――」
『…………』
遠くで誰かが何か言ったのが聞こえたけれど、俺には何を言っているのかよく分からなかった。ただ、綿貫さんは聞き取れたらしく、喋っていたヒトのほうを向いて、こういった。
「ちょっとまて、もっぺん言ってみろこのコノヤロー」
―四月 廊下―
「なるほど。仕事とはいえ、奇妙な巡り会わせがあったものですね」
「ほんとですよー。まさか、織斑先生の副担任になれるなんてー」
私、日下春菜は――いや、今は任務中だから、そちらにあわせるとしよう――「山田麻耶」は、自衛隊特殊急襲隊、通称『SDSAT』の作戦指揮官および潜水艦「こうりゅう」の船長をやっている。
名前の由来となった警察のSATとは違い、私達SDSATは海賊狩りや平和維持活動―簡単にまとめると、『どこかの誰かが違憲と騒ぎそうな仕事』を行うために設置された部隊だ。
曰く、結成には某国からの圧力があったとかあるが、真意は防衛大臣や首相ぐらいかしか知らんことだ。
任務上、電撃戦や夜戦を仕掛けることも多い上に、第三世代ISを試験配備している辺りが特殊急襲隊たる所以である。まぁ、振られる任務がそういった海外任務ばかりではないのだが……
「後で私の部屋で乾杯でもしましょうか。とっておきの一本がありますよ」
「私の部屋って、織斑先生は一年生の寮長でしょう?さすがに未成年がひしめき合う場所での飲酒はどうかと……」
「それもそうか。よし、ならそのうちウチで飲みますか」
隣で黒のスーツをびしっと決めているのは織斑千冬。かつては肩を並べ、互いに腕を競いあった仲だ。……といっても、千冬には辛酸を舐めさせられてばかりだったがな。
「もう、これからお仕事なのに、お酒の話ばかりじゃダメですよ?」
ノンビリとした声で、千冬に注意を促す。普段あまりこういう役柄にならないためか、自分で言ってて何だか寒気がした。
「何を言いますか。後の一杯があるからこそ、仕事にも精が出せるというものでしょう?」
「織斑先生、おっしゃっていることには大賛成なのですが、なんと言うか…… オヤジ臭いですよ?」
「むう。相変わらずド直球ですね。山田先生」
彼女は、今回の任務における、学園教師陣で唯一の協力者となってくれている。私達が旧知の仲であることも手伝いはしたが、『護衛対象』の織斑一夏は彼女の弟であることが大きいだろう。
「まぁ、変に曲げた物言いをするのもアレですし。ところで織斑くん、どんな状態なのですか? こんなところに入ることになって」
「一度だけ家に帰ろうとしたのですが、パパラッチがわんさかいて、とてもじゃないが近寄れる状態じゃありませんでしたよ」
「織斑先生もIS乗りで有名ですからね。『ブリュンヒルデ』がそんなところに飛び込めば、収拾つかなくなっちゃいそうですもんね」
私達が使用しているISは、実も蓋も無く言えば『超兵器』と呼ばれる類のものだ。
本体が生身の人間に鎧のような何かを取り付けただけであるにもかかわらず、拡張領域には最大で海上コンテナほどの格納スペースがある。高い演算処理能力を持ち、その恩恵にあずかるハイパーセンサーは全周をくまなく見通し、周囲の状況をかなり詳細に掴み取る。慣性制御により空を飛び、戦闘ヘリと同等かそれ以上の機動力・滞空性能を持つ。特にIS同士の三次元機動戦になれば、他の兵器なども近づくこともできないほどに苛烈なものとなる。ダメージを受けても、ほっとけば治る自己修復機能までついているのだから、紛うことなき『超兵器』である。
そんなISにも、ひと目で分かる弱点がある。燃費と『女しか乗れない』ことだ。前者の燃費は高性能な分消費も早いと考えれば分かる。問題は後者のほう。一説にはリミッターであるとする声もあるが、真相は生みの親である篠ノ之博士にでも聞いてみなければ分からない。
とにかく、『女しか乗れない』という、この弱点が巧みに利用され、ご婦人方の発言力やら何やらがいろいろ強められている。同調意識の強い日本ではその傾向がかなり強く働いていて、女尊男卑の風潮ができあがりつつある。
そんな中に男が一人でも飛び込んだらどうなるか。広報的にも研究的にも、あらゆる意味で厄介なことになるのは目に見えている。
「まぁ、IS学園に入ってしまえば、奴らだってそうそう手出しはできんでしょう」
「個人の力なんて、たかが知れてますからねぇ」
とはいえ、彼が飛び込むことになった『IS学園』は、意図的に用意された無政府地帯でもある。学園にあるISには南極条約に定められた『IS開発における技術開示の義務』が発生しない代わりに、いかなる国家・企業も『表向き』は他の組織に干渉してはいけないことになっている。産業スパイや、判りやすく怪しい人間はすぐにつまみ出されてしまうだろう。
私達の任務は『裏側』の干渉から織斑一夏を守ることだ。わざわざソマリアから帰ってきたのも、任務の質的に、IS操縦経験のあるSDSATであることのほうが都合がいいと判断されたためだろう。
「そういうことではありますが……」
「やっぱり、弟さんのことは気になりますよね?一応綿貫さんもいますから、大丈夫です。安心してください」
「そうか、ならその言葉に――」
『ちょっとまて、もっぺん言ってみろコノヤロー』
「「……」」
低くてドスの効いた声が、マイクロフォンから聞こえてきた。
それとなく千冬に伝えて、私たちは急ぎ足で教室に向かうことにした。
☆―四月朝 IS学園1‐1教室―☆
『……』
アタシの一声に、クラスの注目が集まっているのが分かった。中には完全にビビッている奴もいるようだった。勢いのままに言ってしまった後で失敗したことに気がついて、アタシは慌てて訂正した。
「あー、わりぃ。『このアマ』」
「きっとそこじゃないからな」
うなだれるようにそういうのは、織斑一夏だ。『世界ではじめてISを操縦した男』としてこのIS学園にやってきた奴。男でIS乗れるのは今のところコイツしかいないから、他国の連中にいいように使われないように守るのがアタシたちSDSATの任務だった。
「あら、なんと言う粗暴な言葉。極東の果てには大和撫子なる淑女(レディー)がいらっしゃると伺っていたのですが、どうやらここにはいらっしゃらないようで」
「あぁ!?」
「まぁいいでしょう。あなたがかわいそうなので、今一度申し上げましょう。」
で、いちいち癇に障るこの女は…… そういや名前聞いてなかったな。レディーとかほざいているあたり、きっと高慢な、あるいは金持ちのバカだな。髪の毛金色だし、肌白いし。
「『男は一人と聞いていたのですが、なぜ二人もいるのでしょう?』と、こちらのリリアナさんに」
「がぁぁっ!誰が男だ!だれが!この胸がみえねぇのか!?」
言葉の勢いに任せて、思い切り胸を張る。金髪はまじまじと見たかとおもうと、ゆっくりと横に動いく。
「……胸ポケットが邪魔で分かりにくいですが……無くは無いといったところ、ですわねっ」
「ぐぎぎぎ……」
これ見よがしに金髪は『ですわねっ』のタイミングで大きく胸をそらす。それにあわせて、奴の持つご立派なものがたゆんと揺れた。隣で織斑一夏が生唾を飲むのを、黙ってみているしかなかった。
「それに貴方のその服装。女子を名乗りたいのでしたら、スカートのひとつでもはいたほうがよろしいのではなくて?」
「スカートにポケット付けられないだろ」
「その発想がそもそも、一般の女子から逸脱しているとおもうのですが」
金髪にたっぷりといやみがこもった調子でそう指摘され
「まぁ、発想そのものは男子に近いよな」
一夏にもそう指摘された。
「ぐぬぬ」
一夏まで敵とは、アタシが返せる言葉はあんまり無いということなのか。
論破したのがそんなに良かったのか、『ふふん、無様ね』とでも言わんばかりの勝ち誇った表情、わざと寄せてあげているような腕組み。金髪の一挙一動その全てがアタシを挑発していた。
「……全く、代表候補生たる私がクラスメートにいるというだけでもありがたいことだというのに」
「え、アンタ代表候補生なの?」
代表候補生っていうのは文字通り、国を代表するIS乗り、その候補のことだ。ここで言う代表って言うのは、アタシ達SDSATのような『超兵器としてのIS』を操る特殊部隊連中とは違って、『スポーツとしてのIS』の国際大会である『モンド・グロッソ』を戦うためのエリートってことだ。
絶対に存在を悟られてはいけない、時には泥にまみれるアタシたちと違って、IS代表は優雅に空を飛び、少なくとも三年に一度はお茶の間の人気者になれる存在だ。
「そうですわ。栄えあるイギリスの第一候補生ですわ」
「……高慢な物言いをするとおもったら。自分が特別だとおもってらっしゃるクチか」
「そうではございませんか?専用機を持っているのも、私とリリアナさんだけだと伺っておりますが?」
「あぁ?お前みたいなの情弱っていうんだよ。専用機ならアタシだって――」
スパコーン!
「新学期早々、因縁つけるバカがどこにいる」
「いやでも、コイツアタシのことを―」
「いいから席に着け」
有無を言わせぬ教師の威圧に、しぶしぶあいていた席に着くことになった。
「いいか覚えてろ!放課後第三アリーナで勝負だ!」
「望むところですわ。私を情弱といったこと、後悔させてやりますわ」
「ぜってぇ逃げ―」
スパパーン
「「うぅ……」」
「二人とも、いいから座れ」
教師のあんまりな迫力に金髪も声を出せず、そのまま別々の席に着いた。
というわけで第二話でした。
主人公の音羽さん、のっけからやらかしています。気に入らないことには首を突っ込む性質ということなのですが、果たしでどう転がっていくのやら。。。
あと、山田先生が大変なことになっています。キャラクタとしての基本的な性格は変えない方針ですが、一部とんでもないことになるかもです。