推しの子 Reboot~三原色の子達~   作:フロストランタン

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原作で映画収録が始まる前ですけど、この先こういった危険もあるかな、と。


01 奇跡

「あ………………」

 

 青年は眼前の光景に表情を失う。青年の名は、星野愛久愛海(あくあまりん)といった。

 

 都内の病院の一室で彼が目にしたのは、星野瑠美衣(るびい)。血を分けた双子の妹だった。

 

「ル、ビー……っ! ルビー! ルビー!」

 

 変わり果てた姿の遺体に駆け寄り泣きすがるのは、斉藤ミヤコ。

 

 ファンの手によって刺殺された伝説のアイドル『アイ』の所属していた『苺プロダクション』の社長婦人で、アイの死後失踪した社長の斉藤一護の後を引き継ぎ、プロダクションを切り盛りしてきた辣腕の持ち主だ。

 

 そして、幼くして母を失ったアイの子、双子のアクアとルビーを引き取り、我が子のように育ててきた。

 

 アイという事務所のエースを失った後も、彼女を守れなかった後悔に苛まれながら、「この子達だけは、今度こそは守ってみせる」との決意で日々過ごしてきた彼女にとって、余りに酷な現実だった。

 

 変わり果てた最愛の娘を前に泣きじゃくるミヤコ。一方、アクアは放心したようにただ立ち尽くしていた。

 

(俺は、また…………)

 

 アクアの計画は順調に進んでいた。そのはずだった。映画収録も終わり、宣伝も打ち、公開も目前。そんな矢先の出来事だった。

 

 

 不意に、背後に二つの強い気配を感じる。激しい怒りと憎悪、そして冷たい殺意。振り向かずとも、それが誰であるかアクアにはよく知っている。

 

『お前の所為だ。お前がまた気を抜いて油断したからこんな事になったんだ』

 

 前世、雨宮五郎の意識。そのどす黒い情念は、今までの比ではない。これは最早怨霊の類いと言っていい。

 

『つまらない事にこだわってっ! モタついてるからこんな事になるんだよっ! 何で、何でもっと早く……っ』

 

 少年アクアの思念。泣きじゃくりながら、当たり散らすように泣き叫ぶ。深い悔恨、罪悪感に苛まれる自分自身だ。

 

 あぁ、さりなちゃん。

 

 俺はまた君を────

 

『だから、悪手だって言ったんだよ?』

 

 ……疫病神め。 

 

 もう迷わない。何一つ、躊躇う必要なんかない。失うものは無い。アクアは無言で覚悟を決めた。

 

 

 

 

 

 

「アクア、貴方も────」

 

 ひとしきり泣いて冷静さを取り戻したミヤコが振り返ると、そこにはもうアクアの姿はなかった。

 

「アクア……?」

 

 その後アクアに電話をしても、電源を切っているのか連絡は付かず、院内を探しても、アクアの姿は見えなかった。ミヤコはとても嫌な予感がした。このままもう二度と、アクアには会えないのではないか。

 

 その予感は外れた。

 

 ただ、それは最悪の形でだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 寒い。

 

 痛みはもう感じないが、意識はぼんやりとしている。

 

 目の前で大粒の涙を溢しながら、自分の名を必死に呼ぶ声。だが、その声をやけに遠くに感じる。

 

 そうか、俺は……刺されたんだった。

 

 カミキヒカルの殺害には成功したのか、失敗したのか分からない。奴にとって、冷静さを失いた俺はさぞかし嵌め易かったのだろう。俺の情報をエサに、黒川あかねを誘きだす余裕があるくらいに。

 

 だが、奴の誤算に助けられた。俺に先んじてあかねに会い、殺そうという算段だったようだが、下準備をしようと俺が奴の予想より早めに呼び出した現場に到着した。そのお陰で、運良く割って入る事が出来た。

 

 結果、刺されたのはあかねではなく俺だった。痛みを感じるより先に、渾身の力を振り絞って奴に体当たりをぶちかましてやった。

 

 恐らく奴は後ろの崖、というか段差から受け身も取れず落ちたはずだ。確実に死ぬという程の高さじゃないが、最低でも骨折など、すぐに逃げ出せない程度の怪我はするだろう。それを目で確かめる事は出来なかったから、確証はないが。

 

 ナイフには奴の指紋は付いていないだろうが、刺されたまま体当たりを食らわせたから、反り血は付いているはずだ。予め呼んでおいた警察もじきに到着する。あとはあかねが処理してくれるだろう。

 

 これがアイと同じ痛み、か。刺されてすぐは焼かれるように熱く、それが徐々に痺れに変わり、やがて痛みを感じなくなる頃には寒気になっていった。太い血管をやられたようで、大量に失血している。今から手当てしても間に合わない。アイと同じだ。

 

 あぁ、今まで苦しくて辛かったけど────

 

 たくさん、失ってしまったけれど────

 

 酷く傷つけてしまったけど────

 

 最期に、あかねを守って逝けると思うと、ホンの少しだけ、心が軽くなる。

 

 最後の力を振り絞り、涙でぐしゃぐしゃになったあかねの頬に触れる。

 

「     」

 

 ちゃんと声になって伝わっただろうか。視野が狭窄していて、あかねの表情までは見えない。

 

 あぁ、出来ることなら、アイの事も、こんな風に────

 

 

 

 

 

 

『じゃあ特別だよ。今度は上手くやってね』

 

 生命の灯火と共に消えゆく意識の中で、あの疫病神の声が聴こえたような気がした。

 

 

 

 

 

「あぁ、私の子……良かった、みんな無事に産まれて来てくれたよ……」

 

(……えっ!?)

 

 急に明るい光に意識を引き戻され、まぶしさに目を眩ませていると。

 

 背後から、耳に懐かしい声が聞こえた。

 

(い、今の声は、まさか……アイ?)

 

 一緒に抱き抱えられている赤ん坊がいる。

 

瑠美衣(るびい)愛久愛海(あくあまりん)

 

(……瑠美衣だ! 間違いない!)

 

「うぅ~っ、おぎゃあ! おぎゃあ!」

 

(今度こそ、絶対守るから!)

 

 アイと、ルビーが生きている。想像を越えた超常の出来事に感動やら安堵やら、色々な感情がごちゃ混ぜになって号泣していると、看護師が冷静にテキパキと手際よく、小さな赤ん坊を抱き上げて保育器へと移す。

 

(……ん?)

 

「この子は未熟児なので暫くは保育器が必要ですね」

 

(……え? は?)

 

「わー、こうして見るとひときわ小っちゃいねー、恵愛羅瑠橙(えめらるど)ちゃん」

 

(はぁぁああ!?)

 

 




幸せな時間が帰ってきた今度こそはと思ってたら、なんと予想外の3人目が。
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