推しの子 Reboot~三原色の子達~ 作:フロストランタン
深い暗闇の中に、今の私は私は意識だけ揺蕩うように存在している。何も見えず、聴こえない暗闇の中、幾度も覚醒と睡眠を繰り返している。これで何度目の覚醒か、正確には覚えていない。
痛みも苦しみもない。五感を失った私の肉体は、このままでは息絶える。医療施設内で倒れたとはいえ、誰も私を知らない。倒れた場所にそのまま雑に捨て置かれる事はないにせよ、何時までも快復の見込みがない者を保護するとは思えない。それこそ臓器を切り取って売買などされても不思議ではないと思う。ルビーが肝臓を売ってどうとか言っていた事があるので、この世界の医療技術であればそうしたことも実際にあるのだろう。それが売られた先でどうなるかまでは知らないけれど。
あり得る話だと思う。如何にこの世界が情報伝達技術に優れているとはいっても、誰も知らない子供一人の存在くらい、情報を隠蔽する事はそう難しくないはず。よしんば奇特な人物が援助をしてくれたとして、食事も採れない状態ではいずれ餓死する。それまでに、何か現状を脱却する事が出来ればいいのだけど。
魔法の効果と引き替えにするものは大別すると二種類に分けられる。
〝代償法〟の場合は、魔法の成否に関わらず、必ず代償を支払う上に、成功しても〝対価法〟に比べて効率が悪い。その代わり、魔力の運用技術を会得せずとも代償は容易な手続きで差し出すことが出来るため、大昔はこぞって代償法を使用し、数多くの廃人を生みした時代もあった。その反省から禁忌指定されたという歴史がある。
あのとき、残り少ない魔力だけでは軽い擦り傷を癒す程度の効果しか発揮できなかった。それを〝代償法〟によって、重体を重傷にまで回復させる事が出来た。また、原則的に不可逆だからこそ、記憶を代償に指定し、魔法解除のトリガーとする事で容易に魔法が解けないようにした。
(全てを捨てるつもりでいたはずだったのだけれど、生命を代償としなかったのは何故かしら?
『ソれハ■■■ダよ』
(────っ!?)
誰かの声が聴こえた。いや、正確には何者かの思念が直接意識の中に割り込んできた。まるで耳にナマコの内臓でも入ってくるような強烈な不快感に襲われる。それでも指一本動かせない私は、せめて何者か知ろうと知覚を拡げた。
(
魔力知覚の場合は、魔力のある相手ならその位置や姿形まで知覚が可能だ。相手が体内に魔力を宿していない場合や、かなり高度な魔力隠蔽を使われない限り、私の知覚はすり抜けられない。魔力を帯びない無機物等の知覚方法もあるけれど、魔力を消耗する。今魔力を裂く事は愚策に帰すリスクがあるため、そちらの方法は採れない。
そこで私は最近会得しようとしてしたもう1つの知覚を試す。前世では使い手がかなり稀少であったけれど、魔力に替わる
(出来た……! けれど、この輪郭……人間ではない?)
『そンな状態でまさカ感付かレるとハね』
(気付かれている……)
こちらの探査に気付けるということは、どうやら相手は
(あなたは一体何者でしょうか?)
『そうダな……私を神ト称する者も居ル。ヒトまずその程度ノ認識で構わないよ』
(……)
声を聞いているうちに、最初はかなり耳障りだったナマコの内臓が、今は小さなナメクジ程度になってきた。多少の不快感があることには変わりはないけれど、馴れとは恐ろしい。
『ナマコの内臓とは中々面白い表現だね。そんなに不快だったかな?』
(……失礼しました。この度はどの様なご用向きでしょうか?)
このような方法で私に接触してきたからには、何か目的があるに違いない。出来れば悪意でないものであって欲しいけれど。
『そう警戒しないで欲しいな。これでも「肉の上に皮膚の代わりに慈悲が張り付いているような」優しい心の持ち主だよ?』
心の内を見透かすような言葉。下手に逆らうことは得策ではないと判断し、続く言葉を待つ。
『私の……上司、と言えばいいのかな?上位の存在が、この世界の理に背く力を行使した君に興味を持ってね。最初は排除も考えたそうなんだけど……君に手を貸す代わりに、頼み事をすることになったんだ』
(……)
私は直感した。これはきっと一度承けてしまったら逃れられない呪縛となる。そうしてでも私は現状から抜け出したいだろうか?
『君には未練があるんだろう? だから今の生に執着している。だから命を代償として捧げることを無意識に回避したんだよ』
そうなのかも知れない。私が知る人は誰も私の事を覚えてなんかいないのに。私が帰る場所など、この世界にはもう無いのに。それでも、生きたいと思ってしまっている。
『まだ迷っているようだから、一つ教えてあげよう。君の術は完全ではなく、君の事をちゃんと覚えていて術に干渉しようとしている人が居る』
(な……っ! 一体誰が、そんな……)
それはまずい。肉体が本来の自己治癒能力で完治に必要とする位の、恐らく2、3年程度の月日が経過していれば問題はないと思う。私が使った魔法はそういった一時凌ぎ的な類いの魔法であり、本来の治癒魔法とは異なるものだ。治癒の魔法は聖人や聖女のような最高位の
『知ってはいるのだけど、直接私がそこへ干渉するのは理に背く。それに、何が起きているのか自分で知りたいと思わない? その為に神通力────君の世界じゃエーテルと呼ぶのかな? その扱いを教えてあげようというわけさ』
(代わりに私に何をさせようというのですか?)
『私の目的はある者達を正しい運命に導く事。私は優しいからね。君にはその手伝いをしてもらいたいんだ。かつて
(……お承けしましょう。ただ、いずれの呼び方も好きではありませんので、エメラルド、もしくは前世のエメロードの名でお呼びいただければ幸いです)
私の前世まで掌握している相手にこの場で歯向かうのは危険すぎる。こちらが断れない事を理解した上で、交渉とも言えない交渉を持ち掛けてきたのだから。
『うん、素直でいいね。どこぞのクソガキとは大違い……おっと、何でもないよ。では早速指導を始めようか、エメロード』
魔法関連の設定
エメの前世の世界では、一般的手段として、対価にマナ或いはエーテルを運用・消費する。
代替方法として代償を捧げるやり方もあり、難しく複雑なマナの扱いが出来なくとも魔法を行使可能だが、その危険性から禁忌となっている。
単に魔法の使い手と言っても、マナを運用する魔法を得意とする〝マナキャスター〟と、エーテルの運用を得意とする〝エーテルキャスター〟が存在し、前者は汎用的な魔法を扱う職業に、後者は神官や聖女と言った神聖視される職業になる。よって一般に魔法使いとは〝マナキャスター〟を指す言葉である。
それぞれ実力によって称号が別れており、最上位からグランドマスター、マスター、エキスパート、コントリビューター、ノービスの順になっている。
両方を使える者は〝ダブルキャスター〟と呼ばれ、両方で最上位の称号持ちは〝賢者〟と呼ばれ、人類の歴史に永久にその名を刻まれる。
エメの話を書いたらファンタジー要素がゴリゴリ入ってきて「推しの子何処行った!?」感が出てしまいました。
遭遇したのは例の幼女ではなく、その前の器となる肉体の持ち主が操る使い魔的な存在ということにしています。ナマコの内臓になってしまったのはその使い的な存在を挟んで意思疏通していたからです。
恵愛羅瑠橙の前世の名前は「エメロード」。単純にエメラルドの仏語読みです。前世の世界は英語と仏語が混ざったような言語が人類の共通言語として広く扱われていたようです。
事故のニュースでも耳にする『重体』と『重傷』の違いは、前者が「即死を免れたものの、生命維持装置でどうにか命を繋いでいるような瀕死の状態」、後者は「命に別状はなく、それなりの期間の入院を必要とする状態」らしいです。
魔法についても色々と説明が多くてすみません。考え付いた設定をここで載せないと機会が無さそうなので、載せました。
魔法に干渉しようとする存在を知り、エメはエメで行動していくことになります。
アクア達の記憶から消えてしまったエメ。再会する日は来るでしょうか?
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こない
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くる(一年以内)
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くる(小学生になってから)
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くる(中学生になってから)
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くる(高校生になってから)
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くる(大人になってから)