推しの子 Reboot~三原色の子達~   作:フロストランタン

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一気に時間が進んでいきます。


18 変わる未来

 アイが引退を発表したのは23歳の生誕祭の時だった。不動のエース引退というニュースはあっという間に世間を駆け巡り、『B小町』は全国ライブツアーを敢行。会場はいずれも満員御礼で、まさに時代の最強アイドルの名を欲しいままにした。

 

 最後の凱旋の場となったのは、初のドーム公園と同じ東京ドーム。まだまだ現役でいけるという声も数多く上がる中、アイから最後の挨拶がなされ、メンバーから花束贈呈が行われた。実に多くのファンに惜しまれながら、ここにアイのアイドル活動は幕を閉じた。また、この時のアイを含むメンバー7人は、歴代最強世代として、後世にまでファン達の間で語られる事になった。

 

 アイはアイドルを引退したとはいっても、芸能界を引退したわけではない。その後はマルチタレントとして芸能活動を続けており、バラエティにドラマにと活躍している。それでも絶頂期の多忙さと比べると余裕もあり、時々お茶の間に衝撃を与えながらも楽しそうにやっている。

 

 因みに俺達は未だに世間ではアイの義弟と義妹ということになっている。メンバーからリークされるような事はなく、むしろあの秘密を共有した事でチームの結束は高まっていた。アイの卒業後『B小町』はそれなりには人気が落ちたものの、トップアイドルグループの座を数年間維持し続けられたのは、紛れもなく彼女らの実力である。

 

 苺プロも大きくなり、今では中堅どころとして業界で一目置かれている。アイと一緒に活動していたメンバーも現在では卒業し、『B小町』は最大手にトップの座こそ譲ったものの、人気上位に食い込んでいる。

 

 卒業メンバーのその後は様々だ。完全に芸能界を離れて企業に就職した人も居れば、レッスンプロを始めたり、相手を捕まえて家庭に入った人もいた。スタッフとして苺プロに残った人もいる。芽依さんは苺プロに残った一人で、高峰さんと共にアイドル部門のマネージャー兼トレーナーを務めている。

 

 ルビーも将来苺プロに所属し、『B小町』のメンバーとして活躍する事だろう。俺やアイの目から見ても、ダンスは相当な実力で、今すぐセンターとして通用しそうな完成したパフォーマンスを見せる。歌の方はまだまだだが、いずれにしても回帰前の時間軸よりも明らかに成長している。それ自体は喜ばしい事だが、一つ気掛かりな事がある。

 

 ルビーがアイに似てきている。もちろん実の親子なのだから、似ているのは当然と言えば当然だ。時間回帰前の世界線では、映画『15年の嘘』収録の時に本人の生き写しレベルにまでなった。しかし、それはあくまでも役作りの成果で、演技していない時はアイとは違うルビーらしさがあったはずだ。

 

(時折アイと同じ、あの吸い込まれるような瞳と雰囲気を感じるようになったのはどうしてだ? 意図的に真似ようとしてるのか? いや、確かに回帰前も真似ているような素振りはあったが……)

 

 天才役者黒川あかねならともかく、ルビーにはあそこまでの演技の才能はない。

 

(それだけ、アイが実際に側に居る影響が大きいということか? ……このままで問題ないのか?)

 

 ネットで調べられる程度の情報だが、神木ヒカルはプロダクションを立ち上げていた。これは回帰前と同じだ。数年前に所属タレントの一人が劇団ララライ主宰の舞台に出演したくらいで、それ以外は特に活躍といえるほど目立った実績もないようだ。今のところ、向こうからこちら側に接触して来るような動きも見えず、アイ本人も会いたくはないと以前言っていたので、それを信じるならこれまで本当に全く接触はないのだろう。

 

 だがルビーが売れて有名になっていけば、いずれ確実に奴の目にも留まる。そうなったとき、奴に狙われないという保証はあるだろうか。以前ストーカーが押し掛けて来たあの時と比べれば、警備も防犯意識も高まり、簡単に接触など出来るはずはないが、考えすぎだと言われても、警戒を怠るわけにはいかない。多くの場合、天災とは忘れた頃にやって来るものなのだから。

 

(業界に入ってからもアイとルビーを守っていくには、やっぱり同じ業界に足を踏み入れるべきなんだろうけど……)

 

 五反田監督には演技の指導も受けさせてもらったし、時間回帰前の世界線のように、トラウマで倒れるようなこともない。あの日のトラウマは、今生において最早克服出来たと言って良いだろう。

 

 だが、俺はこれまで余り多くの作品に出ようとはせず、あくまで学業を優先するというスタンスで活動してきた。それでも子役時代のギャラは非常に良く、将来の学費に充てられるだけの貯蓄が出来た程だ。それを思うと、有馬の稼ぎは本当に引くほどあるんだろう。

 

(今の俺なら、あの頃よりも純粋に演技に打ち込める、演技をを楽しむ事だって出来る。それでも、医者になる道を完全に切り捨てたくはない。……いつの間にか俺はこんなに欲張りになってたんだな)

 

 アイの生存以外にも時間回帰する以前とは変わってきている点は幾つかあるが、いずれも概ね都合の良い方向に進んでいると思う。俺自身も前を向いて、将来を考えられるようになった気がする。このままずっと平和な日々が続いてくれればいいんだが。

 

 変わった事と言えば、有馬かなとの関係も以前とは違ったものになっている。以前なら映画『それが始まり』での共演以来、高校受験まで再会しなかったが、今回は違う。

 

「はあ~、全くやれやれよ。子役時代に名前が売れ過ぎたせいか、このところ中々仕事が取れないのよね。以前のイメージを払拭するってホント大変だわ」

 

「大変だね。でもかなちゃん、過去の栄光引きずるのは良くないよ?」

 

「べ、別にそういうんじゃ無いわよ。そりゃ子役として引くほど売れたのは事実だけど、過去よりむしろこれからが大事だと思ってるわ」

 

 カラオケ店の一室で曲も歌わず駄弁る有馬とルビー。有馬とはあの映画以降も何度か共演し、連絡を取り合うくらいには親交を持つようになっていた。

 

 ルビーは最初こそ「ロリ先輩」だの「重曹を舐める天才子役」だのと失礼な呼び方をしていたが、今では「かなちゃん」と呼ぶようになっている。最初の頃は互いに因縁のようなものを感じていたらしいが、会う度に距離は縮まり、現在の関係に落ち着いた。

 

 今回は俺もこの場に参加しているが、以前俺が居ないときにルビーが歌ったら、有間に容赦なく扱き下ろされたらしい。それ以来ルビーは歌の特訓を始め、有馬曰く、今では多少聴けるようになったとのことだ。

 

 子役の旬が完全に過ぎてしまってから、有馬は仕事が中々取れず苦労している。それは以前と変わりないが、以前のように暗く沈んだ表情を見せることはない。むしろ苦難を乗り越えたその先の未来を見据える前向きさがある。

 

 何がどうしてそうなったのか、6つ年下の妹も産まれ、現在母親は妹の方にご執心だそうだ。因みに今でも夫婦仲は悪くないようで、有馬も妹の話題をよく口にするくらい可愛がっている。

 

「図太くて生意気なあんたと違って、うちの妹はホントいい子に育ってくれたわ。小さいころなんか、ヒヨコみたいに一生懸命後ろについてきちゃって、そりゃあもう可愛いかったのよねー」

 

「あぁ2号……チビ有馬か。暫く会ってないけど、テレビではちょくちょく見かけるな。最近はどうなんだ? 小学校上がって思春期迎えたりすると生意気になるっていうけど」

 

「うーん……」

 

 有馬は視線を斜め上に向けて考える。因みに姉と同じ道を選んだ妹は、パッと見は小さい頃の有馬かなそのものであり、思わず2号と名付けてしまった。中身は姉と違って素直で礼儀正しいらしいが。その妹も、子役としての旬は終わりに近付いていて、まだテレビで時折見かけるが、その人気に翳りが見え始めている。一時期は天才子役再来と騒がれたのだが、そううまくはいかないようだ。

 

「今が一応は反抗期みたいよ? お母さんのやり方に文句言うようになったし。この間は私と同じ帽子欲しいってお母さんにしつこくねだってて、未だに私の真似しなきゃ気が済まないみたい。私のこと好きすぎじゃない?」

 

「ふーん。まぁ、良かったな」

 

「でも私の真似してるだけじゃ、すぐに行き詰まる。だからもうそろそろ私を追いかけるのはやめなさいって言ってるんだけどね……」

 

 嬉しそうなどや顔から一転、少し心配げな表情になる有馬。慕われるのは嬉しいものの、姉として妹の将来を本気で心配しているらしい。いつの間にか協調性を身に付けた上で、立派な姉になっていた。

 

「ふふー、かなちゃんもすっかりシスコンになっちゃって。もうお兄ちゃんのこと言えないねぇ」

 

「いや、そこはあんたのお兄ちゃんに譲っとくわ……。それに、どうせ張り合うなら芝居がいい。あんたと一緒に()るの、結構楽しいのよ」

 

「そうなのか? 俺なんて、お前から見れば大したことないだろ」

 

「何言ってんの、私の本気についてこれる役者なんて、高校生でもそうそう居ないのよ? あんたの歳だと他に……あの子はもう居ないし……うーん……不知火フリルくらいね」

 

「ん、そうなのか?」

 

「し、不知火フリル!お兄ちゃん意外と凄いんじゃん!」

 

 意外な名前が出てきた事に俺もルビーも驚いた。不知火フリル。歌って踊れるマルチタレントで、国民的な美少女といえば誰もが真っ先に思い浮かべる有名人だ。月9にも出演している。

 

「それに、カリスマ的なオーラとは違うけど、一つ一つの動きが丁寧だし、どんな役のイメージにピタッとハマる。あんたみたいな役者って、現場じゃめちゃくちゃ重宝されるわよ?」

 

「有馬と違って俺には華がないっていうか、視線を釘付けに出来るようなオーラはないからな。だから構成だの照明だのカメラ割りだのと周りの色んなものを利用して小賢しく立ち回るしかないんだよ……」

 

 自身の演技のレベルは上がっているが、その分有馬の実力もハッキリと肌身に感じて分かる。だから余計有馬との差を大きく感じてしまうようになっていた。

 

「あのねえ、それが出来る役者がどれだけいると思ってんの?そんな器用なことあたしだってよっぽど慣れた現場じゃなきゃそうそう出来ないのよ?それがいつもいつもできるって……あんただけの強力な武器じゃない」

 

「そ……そう、か?」

 

 機会が少ないながら、足りないものを補おうと必死でやって来たが、そんな風に思った事はなかった。存外嬉しいもんだな。

 

(俺だけの武器、か……) 

 

「有馬」

 

「何よ?まだグチグチ言う気?」

 

「いや……ありがとな」

 

「う?うん……急に素直じゃないのよ……ま、まあこれでも先輩だからね。頼りにしなさい、ふふん♪」

 

「そういや先輩だったな。気を遣わなすぎて忘れてたわ」

 

「気ぃ使えやコラァ、先輩ぞ! ったく二人して……まあいいわ。今更あんた達に敬語使われても逆にキモいし」

 

「なんだとぉ?そんなこと言うと、ピーマン体操入れちゃうよ!」

 

「やめてっ!? 人の黒歴史ほじくるんじゃないわよ!」

 

 結局強引に曲を入れたルビーが「ピーマン体操」を歌い始める。フリまで付けて、歌の腕前以外は中々の再現度だ。

 

「種まきをして♪ すくすく育って♪」

 

「ちいさな白い♪ お花さかせたら♪」

 

 ていうか有馬も一緒に歌って踊ってんじゃねぇか。なんだかんだノリがいいな。

 

(カラオケの一室でこんな風に軽口を叩きあったり近況を報告し合ったり、まさか「ピーマン体操」を歌ったりまでする関係になるとは、あの頃は思ってもみなかったな)

 

「あんた完コピしてんじゃない」

 

「だって小学校の時踊らされたから」

 

 二人が歌い終わったところで、気になっていたことを聞くことにした。そろそろ今の事務所を退所する頃のはずだ。

 

「ところで、もうすぐ事務所やめてフリーになるって聞いたけど?」

 

「あー、そうね。今の事務所は子役専門だし、私ももう子役って歳じゃなくなったし……まぁアレよ。晴れて自由の身ってやつ?」

 

 有馬が腕を拡げて空を仰ぐ。自由を待望していたかのような晴れやかな表情で。

 

「ヤセ我慢しないで素直にお払い箱にされたって言えばいいのに……」

 

「うっさいわねー! 折角人が前向きな言葉で気分が落ちないようにしてんのにっ。後輩の癖に一言も二言も多いんだから!」

 

 こういうときの有馬はやっぱりあの有馬だ。随分丸くなったかと思えば、ふとした拍子に出てくる言葉が強い。

 

「アクア! あんたも何とか言ってやんなさいよ!」

 

「いいんじゃねーの? 少し図太いくらいに素直なのがルビーの長所だろ?」

 

「……っはぁー、そうだった。アンタ昔からそういうヤツだったわ。いくらなんでも、ちょっと甘やかし過ぎじゃない?」

 

 そう言って有馬は額に手を当て、これ見よがしに大きなため息を吐いた。

 

「それで? かなちゃんフリーでやってくつもりなの? それとも何処かアテがあるとか?」

 

「アテが全くないでも無いんだけど……。まぁひとまず一人でやれるだけやってみて、それでダメならまたその時考えるわよ」

 

 事務所に所属しないということは、それまでやってもらっていたスケジュール管理や交通手配、営業も全部自分でやっていく事になる。稽古にも時間をかけたいだろうに、そこで他の要素にリソースを割くのは勿体ない気もする。ノウハウがなければとてもではないが立ち行かなくなるのが普通なのだ。

 

「なぁ、もしよければなんだが……ウチに来ないか?」

 

「えっ……?」

 

 有馬が驚きと嬉しさが混じった表情で見つめてくる。苺プロは多く俳優を抱えているわけではないが、業界への影響力はそこそこ強い。有馬にとってこれ自体は悪くない申し出のはずだ。

 

「まぁ、事務所側にはこれから話すんだけど。少なくとも俺は〝女優有馬かな〟を高く評価してるし、事務所としても有馬なら歓迎してくれるはずだ」

 

「え……いいの? マジの話!?」

 

「マジだぞ」

 

「わ、分かった」

 

 こうして有馬は苺プロに籍を移すため、まずは事務所に話を通そうという事になったのだがーーーー

 

「ルビー! アクア!」

 

「わっ」

 

「ちょ……」

 

 事務所ドアを潜って早々にアイのハグに出迎えられた俺とルビー。俺達の背後で有馬が固まっている気配がする。そしてアイも有馬の存在に気付いたらしい。

 

「えっと? 君は……かなちゃん!いやぁ、久しぶりだね!」

 

「あ、その……はい。有馬かなです……」

 

 アイの相変わらずハイテンションに、有馬が明らかに気後れしているのがわかる。

 

「あー、そろそろ離してくれ。有馬がビックリしてるだろ?」

 

「あははー、ついつい……。ね、ねぇルビー?」

 

「どうしたの、()()()()()?」

 

 アイはルビーを離れた所へひっぱっていき、俺と有馬をチラリと見ながら、何やらコソコソと話している。

 

「な、なんだ……?」

 

「ふーん、そういうことかぁ。へぇー、子役の事務所からウチにねー。社長はいま出掛けてて居ないけど、奥にミヤコさんがいるよ」

 

「なら、まずはミ……()()()に話しておくか。有馬、行くぞ」

 

「あ、うん……」

 

 背中に刺さる妙な視線を感じつつ、俺は緊張した様子の有馬を連れて奥の部屋へと入っていく。ミヤコさんなら有馬の事務所と変に揉めることなく、円満に有馬の移籍に漕ぎ着けてくれるだろう。

 

 

 

 

 

「ビックリしたなぁ、もう。ルビー、アクアはホントにあの子と付き合ってるとかじゃないの?」

 

「うん、かなちゃんの方は気になってるっぽいけど、お兄ちゃんは今のところ、それに気付いてもない感じ。仲の良い友達くらいの認識じゃないかな?でもそのくせ無自覚に思わせ振りなことも結構言っちゃってるんだよね……」

 

「そ、そうなんだ……」

 

(うーん……遺伝かなぁ? アクアももう彼女とか出来てもおかしくはない歳だし、急に紹介とかされるのかな。……()()()()()()から紹介とかは、やめて欲しいかな……)

 

 突然息子に女の子を連れてこられた事で、アイはそう遠くない将来を想像して不安を感じつつも、アクアの良識に一縷の期待を込めるのだった。




アイの引退と、変化点(有馬)の回でした。
時間回帰前の世界とは少しずつ違っている所が出てきています。
アンケート票で恵愛羅瑠橙との再会は高校が最多でしたが、果たして……?
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